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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09B
管理番号 1212512
審判番号 不服2008-30671  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-04 
確定日 2010-02-22 
事件の表示 特願2005-155141「歩行環境シミュレータ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月 7日出願公開、特開2006-330438〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成17年5月27日の出願であって、平成20年6月6日付け拒絶理由通知に対して、同年8月11日付けで手続補正がされたが、同年10月31日付けで拒絶査定され、これに対し、同年12月4日付けで拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正がなされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成21年9月30日付けで平成20年12月4日付け手続補正を却下するとともに、同日付けで新たな拒絶理由を通知したところ、審判請求人は平成21年11月27日付けで特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がなされた。


2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年11月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載により特定される以下のとおりのものと認める。
「正面、左側及び右側の3方向にコ字状に配置された100型広視野角スクリーンと、該スクリーンに3方向の映像を投影するように対向配置されたプロジェクタと、前記コ字状のスクリーンの中央部に配置され、被験者の歩行距離を測定するトレッドミルと、前記プロジェクタ及びトレッドミルに接続されたパソコンとから成ることを特徴とする歩行環境シミュレータ。」


3 引用文献
当審の拒絶理由にて引用した、本願出願前に頒布された刊行物である、大荒田直樹(外3名),「高齢歩行者の車道横断時における危険回避能力検査システムの開発」,交通科学研究資料集,社団法人日本交通科学協議会,2004年6月9日,第45集,p.24-27(以下「引用文献」という。)には、図示とともに以下(1)から(4)に示す記載がある。(審決にて下線を付した。)
(1)「1 はじめに
高齢化社会の到来とともに,交通事故の被害に遭遇する高齢者が年々増加している.統計分析をもとに高齢者交通事故を状態別に調査したところ,歩行中に事故に遭うケースが最も多く,高齢者交通事故全体の57%を占めていた.その中でも,車道横断中に事故に遭う割合が53.8%と最も高くなっている^(1?4)).身体能力及び治癒力の衰えた高齢者の場合には,寝たきりに至るなど事故後の経過に多くの問題があり,未然に防ぐことが重要となる^(3)).しかしながら,高齢者交通事故に対する従来の研究は運転手側からの交通事故防止策が多く,歩行者側からの交通事故を捉えた研究はあまり報告されていないのが現状である.交通事故を未然に防ぐためには,あらかじめ衰えた機能を自覚した上でリハビリテーションによる機能回復を行い,時には工学的措置による補助が必要となる.事故に遭う全ての可能性を評価することは不可能であるが,主要な要因である「バランス保持能力」,「接近速度認知能力」,安全意識に係わる「危険認知距離」の評価は可能である^(2),5?6)).そこで本研究では,車道横断時に接近する自動車に対する被験者の回避能力を評価する検査システムを開発し,回避行動を通して身体各部の動きを測定した.」(24ページ左欄1行?28行)

(3)「2 計測システム
暗室内に図1に示すような計測システムを構築した.計測用PCには3次元的にセンサ位置を計測してXYZ座標位置を検出する3 SPACE FASTRAK(Polhemus社製),床反力から荷重中心位置を計測する重心動揺計を接続し,被験者の身体動揺(右膝,左膝,腰,首)を計測した.サンプリング周波数は3 SPACE,重心動揺計ともに10Hzとした.動画提示用PCにはプロジェクタ(PLUS V-1080)を接続し,夜間と日中に撮影された時速30km/h,45km/h,60km/hで接近する自動車の映像を被験者右斜めのスクリーン(150cm×190cm)に投影した.被験者の立ち位置を歩道から車道に一歩踏み出した位置とみなし,被験者の立ち位置から見て右側奥から被験者の立ち位置へと自動車が接近してくる映像を用い,実際の交通を模擬した.
3 計測方法
脳や視覚に障害を持たない20歳代の若年者9名と,60歳から70歳代までの高齢者8名の計17名を被験者とした.被験者は身体(右膝,左膝,腰,首)にセンサコイルを取り付けた状態で重心動揺計の一歩前に自然体で立ち,被験者から見て右斜めに配置してあるスクリーンを見るように教示した.計測では,接近してくる自動車の映像に対してこれ以上近づいたら危険だと感じる限界の所で,左足から後方に一歩下がり重心動揺計の上に両足をそろえて乗ってもらうように教示した.1回の回避が終了したら「元の位置にお戻り下さい」とスクリーンに表示されるまで回避行動終了時の姿勢を維持するように教示し,一連の動作を続けて6種類の映像で試行した.」(24ページ右欄1行?25ページ左欄16行)

(4)「5 おわりに
本研究では自動車接近映像を用いて実際の交通を模擬し,危険回避行動を通して身体各部の動きを計測することにより,危険回避能力の一部を評価するスクリーニングシステムを構築した.その結果,若年者と高齢者の間には,回避後のふらつき速度と危険認知距離に関して有意差があることを明らかにした.」(27ページ左欄3行?11行)

(5)図1から、引用文献の計測用PCと動画提示用PCとが相互に接続されていることが看取できる。

(6)上記(1)ないし(5)の記載からみて、引用文献には以下の発明が記載されていると認められる。
「歩行者側からの交通事項を捉えた研究のための,車道横断時に接近する自動車に対する被験者の回避能力を評価する検査システムであって,
計測用PCには3次元的にセンサ位置を計測してXYZ座標位置を検出する3 SPACE FASTRAK,床反力から荷重中心位置を計測する重心動揺計を接続し,
動画提示用PCにはプロジェクタを接続し,夜間と日中に撮影された時速30km/h,45km/h,60km/hで接近する自動車の映像を被験者右斜めのスクリーン(150cm×190cm)に投影し,
計測用PCと動画提示用PCとが相互に接続され,
自動車接近映像を用いて実際の交通を模擬し,危険回避行動を通して身体各部の動きを計測することにより,危険回避能力の一部を評価する検査システム。」


4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「被験者右斜めのスクリーン(150cm×190cm)」と、本願発明の「100型広視野角スクリーン」とは、「スクリーン」である点で一致する。

(2)引用発明の「3次元的にセンサ位置を計測してXYZ座標位置を検出する3 SPACE FASTRAK,床反力から荷重中心位置を計測する重心動揺計」と、本願発明の「コ字状のスクリーンの中央部に配置され、被験者の歩行距離を測定するトレッドミル」とは、「被験者の動きを測定する手段」である点で一致する。

(3)引用発明の「計測用PC」及び「動画提示用PC」は、それぞれ相互に接続されるとともに、「計測用PCには3次元的にセンサ位置を計測してXYZ座標位置を検出する3 SPACE FASTRAK,床反力から荷重中心位置を計測する重心動揺計を接続し,動画提示用PCにはプロジェクタを接続」するものであるから、本願発明の「プロジェクタ及びトレッドミルに接続されたパソコン」とは、「プロジェクタ及び被験者の動きを測定する手段に接続された情報処理手段」である点で一致する。

(4)引用発明の「検査システム」は、「歩行者側からの交通事項を捉えた研究のため」のシステムであって、「車道横断時に接近する自動車に対する被験者の回避能力を評価する」ために「自動車接近映像を用いて実際の交通を模擬し,危険回避行動を通して身体各部の動きを計測することにより,危険回避能力の一部を評価する」ものである。したがって、引用発明の「検査システム」は、歩行者の車道横断時の交通に関する環境を模擬すなわちシミュレートするものであるから、本願発明の「歩行環境シミュレータ」とは、「歩行者の車道横断時の交通に関する環境をシミュレートするシステム」である点で一致する。

(5)してみると、本願発明と引用発明とは以下の点で一致する。
<一致点>
「スクリーンと、該スクリーンに映像を投影するように対向配置されたプロジェクタと、被験者の動きを測定する手段と、前記プロジェクタ及び前記被験者の動きを測定する手段に接続された情報処理手段とから成る、歩行者の車道横断時の交通に関する環境をシミュレートするシステム。」

(6)一方で、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
ア 相違点1
本願発明は、「正面、左側及び右側の3方向にコ字状に配置された100型広視野角スクリーンと、該スクリーンに3方向の映像を投影するように対向配置されたプロジェクタと、前記コ字状のスクリーンの中央部に配置され、被験者の歩行距離を測定するトレッドミル」を有する「歩行環境シミュレータ」であるとの特定を有するのに対し、引用発明は、スクリーン、プロジェクタ、被験者の動きを測定する手段を有する「歩行者の車道横断時の交通に関する環境をシミュレートするシステム」ではあるものの、スクリーン及びプロジェクタの構成が異なるとともに、被験者の歩行距離を測定するトレッドミルを有しておらず、上記特定を有していない点。
イ 相違点2
本願発明の「情報処理手段」は、「プロジェクタ及び被験者の動きを測定する手段(トレッドミル)に接続されたパソコン」、つまり1台のパソコンより成る、との特定を有するのに対し、引用発明の「情報処理手段」は、プロジェクタに接続された「計測用PC」と被験者の動きを測定する手段に接続された「動画提示用PC」という2台の「PC」すなわちパソコンより成るものであって、上記特定を有していない点。


5 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア 引用発明は、歩行者の車道横断時の交通に関する環境をシミュレートするシステムに関するものであり、それによって「危険回避能力の一部を評価する」ものであるところ、このようなシステムにおいて、より現実に近い状況をシミュレートすることにより、より正確に「危険回避能力の一部を評価する」ことができるものとなることは、当業者ならば当然把握していたものである。
イ ここで、より現実に近い状況をシミュレートする技術として、バーチャル・リアリティ・システムによるシミュレータを用いる技術は、本願出願前に広く知られていたものであり、歩行者の車道横断時の交通に関する環境をシミュレートするシステムも、例えば米国特許第6457975号明細書、原審の拒絶査定に引用されたGordon Simpson 外2名,"An investigation of road crossing in a virtual environment",Accident Analysis and
Prevention,(英国),Elsevier Science Ltd.,2003年9月,Vol.35(5),p.787-796等に記載されているように本願出願前において周知のものであったことを考慮すれば、当該技術分野における当業者が、引用文献1に記載された発明に対し、バーチャル・リアリティ・システムを採用しようとする動機付けが十分にあったものである。
ウ そして、「トレッドミル」を用いて「歩行距離(移動距離)」を測定してそれに対応する映像を表示するバーチャル・リアリティ・システムは、特開平8-280843号公報(特に段落【0015】,【0020】?【0021】,【0031】?【0032】及び図1,15参照。),特開平11-258973号公報(特に段落【0001】,【0031】?【0035】及び図1参照。),特開2002-251128号公報(特に段落【0016】,【0026】,【0042】及び図1参照。)等に記載されているように周知のものである。(以下「周知技術1」という。)
エ また、歩行する被験者に対し、少なくとも前方及び側方を含む面に「スクリーン」を配置し、該スクリーンに対応する「プロジェクタ」によって被験者の歩行に対応した映像を投影するとともに、被験者を支持するトレッドミル等の装置を前記スクリーンの中央部に配置するバーチャル・リアリティ・システムは、特開平8-280843号公報(特に段落【0015】?【0016】及び図1参照。),特開2001-75171号公報(特に段落【0002】,【0060】?【0064】及び図17参照。),特開2004-157329号公報(特に特許請求の範囲,段落【0157】?【0158】及び図18参照。)等に記載されているように、周知のものである。(以下「周知技術2」という。)
オ したがって、引用発明において、より現実に近い状況をシミュレートする際に、引用発明が「歩行」に関する環境をシミュレートしようとするシステムであることを考慮して、上記周知技術1である、「トレッドミル」を用いて「歩行距離(移動距離)」を測定してそれに対応する映像を表示する構成を採用するとともに、引用発明でシミュレートしている歩行者の車道横断時の交通に関する環境が側方から自動車が接近するものであることを踏まえて、映像を表示するための構成として、周知技術2である、歩行する被験者に対し、少なくとも前方及び側方を含む面に「スクリーン」を配置し、該スクリーンに対応する「プロジェクタ」によって被験者の歩行に対応した映像を投影するとともに、被験者を支持するトレッドミル等の装置を前記スクリーンの中央部に配置する構成を採用することは、当業者ならば容易に想到することができたものである。
なお、「スクリーン」を配置する際において、該「スクリーン」を3方向以上の幾つの方向に配置するか、及び、スクリーンを配置する際の具体的な形状を円柱状とするか、それとも箱状とするか等は、それにより格別の効果の差異を生じるものではなく、当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎない。
カ 上記のとおりであるから、相違点1の構成は、引用発明、周知技術1及び周知技術2から、当業者が容易に想到することができたものである。

(2)相違点2について
計測手段等からの入力を解析し、映像提示等の出力を行う情報処理システムという技術分野において、入力を解析する情報処理と出力を行う情報処理とを、それぞれ別個のパソコンにより分散化して処理する技術も、1つのパソコンにより集中処理する技術も、ともに例を挙げるまでもなく周知のものである。
したがって、引用発明の「情報処理手段」を、計測手段の解析と映像提示の為の処理とを1つのパソコンで処理する構成とするか、それとも、それぞれ別個のパソコンにより処理を行い相互にデータを通信する構成とするかは、それにより格別の効果の差異を生じるものではなく、当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎない。
よって、相違点2の構成は、引用発明から当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎない。

(3)小括
上記のとおりであるから、上記相違点1及び相違点2にて示した本願発明を特定する事項は、引用文献に記載された発明,周知技術1及び周知技術2から当業者が容易に想到することができたものであり、本願発明の奏する効果も、当業者が引用文献に記載された発明,周知技術1及び周知技術2がそれぞれ奏する効果から、予測することができた程度のものに過ぎない。
よって、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明,周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。


6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明,周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-25 
結審通知日 2009-12-28 
審決日 2010-01-12 
出願番号 特願2005-155141(P2005-155141)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古川 直樹  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 星野 浩一
上田 正樹
発明の名称 歩行環境シミュレータ  
代理人 熊谷 繁  
代理人 熊谷 繁  

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