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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1212718
審判番号 不服2007-5823  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-23 
確定日 2010-03-01 
事件の表示 特願2003-164411「流体射出システムおよびスキャンシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日出願公開、特開2004- 25870〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成15年6月9日(パリ条約による優先権主張平成14年6月7日、米国)の特許出願であって、拒絶理由通知に応答して平成18年10月23日付けで手続補正がされたが、平成18年11月24日付けで拒絶査定がされ、これを不服として平成19年2月23日付けで審判請求がされたものである。

2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明は、平成18年10月23日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。 )
「【請求項1】
第1の複数の光センサと、
駆動すると流体が射出されるようにそれぞれが構成されている第1の複数の射出素子であって、前記第1の複数の光センサのそれぞれが前記射出素子のそれぞれに結合して該射出素子を駆動させる射出素子と、
画像データを取り込んで媒体のデジタル画像を生成する第2の複数の光センサと
を含む流体射出装置と、
光線を発する光源と、
前記流体射出装置を横切って前記光線をスキャンし、前記第1の複数の光センサに選択的に光を当て、それによって、光を当てた前記光センサに結合した前記射出素子を駆動させる制御システムであって、前記射出素子についての特性データに基づいて前記光線の強度またはパルス幅を変調するコントローラを含むものである制御システムと
を含んでなる、流体射出システム。」

3 引用発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平2-225049号公報(以下「引用例」という。)には図示と共に次の記載事項がある。

記載事項1:第1頁左下欄第5?7行に、特許請求の範囲として
「(1)少なくとも、走査光学系及び光歪み素子とを具備して成ることを特徴とする液体噴射ヘッド。」

記載事項2:第1頁左下欄第13?15行に、産業上の利用分野として
「本発明はインクジェットプリンタに関し、更に具体的に言えば、インクジェットプリンタの液体噴射ヘッドに関する。」

記載事項3:第2頁右上欄第1?13行に、本発明の実施例として
「第1図に示す液体噴射ヘッドの動作の一例を示す。走査光学系112によりまず光歪み素子102に光を照射すると、該素子は歪み、該素子直下の圧力室に圧力を加える。これにより、インクは導通路105を介してノズルから噴射される。次に102への光照射を止め、光歪み素子103へ光を照射するようにすれば102の歪みは元に戻り、103は歪むため、導通路105を介したインク噴射は止み、導通路106を介してインクは噴射される。かくの如く走査光学系112を用い、光歪み素子に照射する光を順次走査することにより、第1図に示す如きライン液体噴射ヘッドが動作する。」

記載事項4:第2頁右上欄第17?左下欄第7行に、本発明の実施例として
「第1図に示す本発明の実施例においては光歪み素子側から光を入射する構成となっているが、もちろん、基板101に透明なもの(例えばガラス等)を用い、基板側から光を入射する構成にしてもよい。また、光歪み素子102乃至104をPLZT等の圧電体膜により形成し、フォトリソグラフィー技術を用いてパターニングすることにより、該光歪み素子の平面的な微細化が可能となり、液体噴射ヘッドのマルチノズル化や、ノズルの高密度化が容易となる。」

記載事項5:第2頁左下欄第13?18行に、本発明の実施例として
「光歪み素子102に光が照射されると102は歪み、振動板201も歪み、圧力室205に圧力が加わる。これにより、液体(インク)は導通路105、ノズル202を介して噴射孔204より噴射される。」

記載事項6:第2頁右下欄第9行?第3頁左上欄第1行に、本発明の実施例として
「第3図に、本発明の実施例の液体噴射ヘッドにおける、半導体レーザとポリゴンミラーを用いた走査光学系の斜視図を示す。301は半導体レーザ、302はコリメート光学系、303及び306はシリンダーレンズ、304はポリゴンミラー305はfθレンズである。半導体レーザ301を出たレーザービーム(画像、印字信号より変調されている)は、コリメート光学系302により平行光に直された後シリンダーレンズ303を経てポリゴンミラー304に導かれる。回転しているポリゴンミラー304により偏向されたレーザービームは、fθレンズ305及びシリンダーレンズ306により光歪み素子上に絞り込まれる。

記載事項7:第1図からは、上記記載事項3にいう「光歪み素子に照射する光を順次走査する」ように用いる「走査光学系112」が、基板101上に直線状に配置された光歪み素子102?104の列とほぼ同じ幅に配置されていることが看取できる。

記載事項3に「かくの如く走査光学系112を用い、光歪み素子に照射する光を順次走査することにより、」とあること、記載事項7、及び記載事項6に「半導体レーザとポリゴンミラーを用いた走査光学系」、「回転しているポリゴンミラー304により偏向されたレーザービームは、fθレンズ305及びシリンダーレンズ306により光歪み素子上に絞り込まれる。」とあることから、走査光学系112は、液体噴射ヘッドの基板101上の光歪み素子102?104の列を横切って光線であるところのレーザービームをスキャンし、半導体レーザ103は該光線の光源である。

記載事項5によれば、振動板201、圧力室205、導通路105、ノズル202、噴射孔204を含む部分(該部分の構成については第2図参照)は、光歪み素子102の歪みで駆動されて液体(インク)を噴射するから、以下「射出手段」と呼ぶことにする。
光歪み素子102の歪みで射出手段の振動板201が歪むのであるから、射出手段と光歪み素子102は、機械的に結合している。

記載事項6に「レーザービーム(画像、印字信号より変調されている)」とあるから、光線であるところのレーザービームは画像、印字信号によって変調されている。
変調された光線を光歪み素子に当てることは、選択的に光を当てることといえる。
光源である半導体レーザ103は液体噴射ヘッドに備わり、記載事項2によれば、液体噴射ヘッドはインクジェットプリンタに用いられるのであるから、インクジェットプリンタには、複数の光歪み素子に選択的に光を当て、光線を変調する制御手段が備わっていることになる。

してみるに、引用例には、以下の発明が記載されていると認められる。
「複数の光歪み素子と、
駆動するとインクが射出されるようにそれぞれが構成されている複数の射出手段であって、前記複数の光歪み素子のそれぞれが前記射出手段のそれぞれに結合して該射出手段を駆動させる射出手段と、
光線を発する光源と、
を含む液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドの前記射出手段を横切って前記光線をスキャンし、前記複数の光歪み素子に選択的に光を当て、それによって、光を当てた前記光歪み素子に結合した前記射出手段を駆動させる制御手段であって、前記光線を変調する制御手段と
を含んでなる、インクジェットプリンタ。」(以下「引用発明」という。)

4 対比
本願発明と引用発明とを比較する。

引用発明の「複数の光歪み素子」は、光が照射されると歪むのであるから、本願発明の「第1の複数の光センサ」に相当する。

引用発明の「インク」、「射出手段」は、本願発明の「流体」、「射出素子」に相当する。
引用発明の「液体噴射ヘッド」を「光源」と「液体噴射ヘッドの光源以外の部分」に分けて考えれば、該「液体噴射ヘッドの光源以外の部分」は、本願発明の「画像データを取り込んで媒体のデジタル画像を生成する第2の複数の光センサ」を含んではいないものの、「複数の光センサ」(複数の光歪み素子)と「複数の射出素子」(複数の射出手段)を含む点で、本願発明の「流体出射装置」と共通している。

引用発明の「制御手段」は、「前記複数の複数の光センサ(光歪み素子)に選択的に光を当て、それによって、光を当てた前記光センサ(光歪み素子)に結合した前記射出素子(射出手段)を駆動させる点、及び「前記光線を変調する」点で、本願発明の「制御システム」と共通している。
引用発明の「インクジェットプリンタ」は、流体(インク)を射出するシステムであるから、本願発明の「流体射出システム」に相当する。

すると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「第1の複数の光センサと、
駆動すると流体が射出されるようにそれぞれが構成されている第1の複数の射出素子であって、前記第1の複数の光センサのそれぞれが前記射出素子のそれぞれに結合して該射出素子を駆動させる射出素子と
を含む流体射出装置と、
光線を発する光源と、
前記流体射出装置を横切って前記光線をスキャンし、前記第1の複数の光センサに選択的に光を当て、それによって、光を当てた前記光センサに結合した前記射出素子を駆動させる制御システムであって、前記光線を変調する制御システムと
を含んでなる、流体射出システム。」

<相違点>
(相違点1)本願発明は「画像データを取り込んで媒体のデジタル画像を生成する第2の複数の光センサとを含む流体射出装置」と特定されているのに対して、引用発明は当該特定を有しない点。

(相違点2)本願発明は「前記射出素子についての特性データに基づいて前記光線の強度またはパルス幅を変調するコントローラを含むものである制御システム」と特定されているのに対して、引用発明は当該特定を有しない点。

5 判断
相違点1について
インクジェットプリンタ等の画像形成装置の分野において、画像形成装置に複写機やファックスの機能を持たせるために、記録ヘッドに「画像データを取り込んで媒体のデジタル画像を生成する複数の光センサ」を備えることは周知技術である。
例えば、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である実願昭63-114144号(実開平2-36258号)のマイクロフィルムには
「2.実用新案登録請求の範囲
サーマルヘツドと、イメージセンサー部とを設けて成る画像読取り・記録ヘツド装置において、
上記サーマルヘツドの配線と、上記イメージセンサー部を構成するセンサーモジユールの配線とを同一の基板上に形成したことを特徴とする画像読取り・記録ヘツド装置。」
が記載されている。
また、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平8-80609号公報には
「【請求項1】 吐出口から被記録材へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録手段において、イメージセンサが一体に設けられていることを特徴とするインクジェット記録手段。」
が記載され、
本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2000-343698号公報には
「【請求項1】 液体を吐出する複数の吐出口と、
互いに接合されることでそれぞれ前記吐出口と連通する複数の液流路を構成する第1の基板および第2の基板と、電気エネルギーを前記液流路内の液体の吐出エネルギーに変換するために前記各液流路内に配された複数のエネルギー変換素子と、前記エネルギー変換素子の駆動条件を制御するための制御回路とを有する液体吐出ヘッドにおいて、
光学像を電気信号に変換するイメージセンサを具備し、
前記エネルギー変換素子および該エネルギー変換素子を制御する第1の制御回路が前記第1の基板上に形成され、
前記イメージセンサおよび該イメージセンサを制御する第2の制御回路が前記第2の基板上に形成されることを特徴とする液体吐出ヘッド。」
が記載されている。
よって、記録ヘッドである液体噴射ヘッドを備える引用発明において、本願発明の相違点1に係る構成を備えることは、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

相違点2について
複数のインク射出手段を備えたインクジェットヘッドを駆動する際に、各インク射出手段についての特性データに基づいて駆動を制御することは周知技術である。
例えば、原査定で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2000-135780号公報には
「【請求項1】 マルチノズルタイプまたはマルチヘッドタイプの記録ヘッドの各ノズルまたは各ヘッドに於けるパルス印加時間-濃度特性に予め定められた基準最低濃度レベル、基準最高濃度レベルに相当する印加時間t、τをそれぞれ求め、
階調数をKとするときの任意の階調Nにおける印加時間Tを、下記(数1)に基づいて算出し、
各ノズル又はヘッド毎に階調と印加時間のテーブルを作成し、
要求される階調に応じた時間を、各ノズルまたは各ヘッドの前記テーブルから求め、各ノズルまたは各ヘッドの電極にその時間、パルス電圧を印加することを特徴とする画像記録方法。」
が記載され、
原査定で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2001-54948号公報には
「【請求項1】 複数の吐出口を具えた記録ヘッドを用い、前記各吐出口からインク滴を吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、
前記吐出口からインク滴を吐出させる吐出手段と、
前記各吐出口の吐出特性に応じて、各吐出口ごとに設定された設定値を格納する記憶部を具え、
前記吐出手段は、吐出口ごとに前記記憶部から該当する設定値を読み出し、駆動パルスのパルス幅を該設定値とすることを特徴とするインクジェット記録装置。」
が記載されている。
ただし、上記公報記載のものは、インク射出手段が電気信号で駆動されるから、電気信号の時間、パルス電圧及び駆動パルスのパルス幅を変えることで制御している。

一方、光歪み素子の歪み量を変えるには、当てる光の光エネルギーや強度、パルス幅を変えればよいことは技術常識である。
例えば、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平4-16793号公報には以下の記載がある。
「光量制御部54は、流量センサー83で検出している流量値が設定値から外れると、光ファイバー86を通じてマイクロバルブ82の光歪みアクチュエータへ伝送している光エネルギーの強度を変調させ、設定値の流量が得られるようにマイクロバルブ82をフィードバック制御する。」(第5頁左上欄第19行?右上欄第5行)
「光ファイバー86を通じて伝送される光エネルギーが増加すると、第11図(b)(C)に示すように、光歪みアクチュエータ88が湾曲して大きく曲がり(例えば、第11図(b)は光強度10%、第11図(c)は光強度5o%〕、筒体87の内周と光歪みアクチュエータ88の自由端の間の隙間が大きくなり、流量が増加する。」(第5頁左下欄第3?9行)
「第12図(a)の状態と第12図(b)の状態との中間においては、適当な流量を得ることができる。」(第5頁右下欄第9?11行)
本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平9-285161号公報には以下の記載がある。
「【0040】また、光歪素子1に光を照射する光源2をパルス状の光を照射するものとして制御手段5は該パルス状の光の周波数、パルス幅デューティ、または強度を変えることにより、前記光歪素子1に投影される光の光量を変化させるようにしてもよい。例えば、当初光源2が光歪素子1に、供給光パルスの周波数、供給光パルスののパルス幅や光パルスのパルス強度デューティを変化させ、若しくはこれらを組み合わせて光歪素子に照射する光量を調節することができる。」
「【0042】
【発明の効果】以上説明したように、本願発明によれば、光歪素子を駆動するに際して、光歪素子の伸び量の制御を精密に行なうことができる。」

よって、光歪み素子を用いたインク射出手段の駆動を、各インク射出手段についての特性データに基づいて制御するには、光歪み素子に当てる光線の強度またはパルス幅をコントロールすればよいのであるから、引用発明において本願発明の相違点2に係る構成を備えることは、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

まとめ
以上のことから、引用発明において本願発明の相違点1及び相違点2に係る構成を備えることは、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
また、該構成を備えることによる効果も、引用発明、周知技術及び技術常識の奏する効果から、当業者が予測し得る程度のことである。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-02 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2003-164411(P2003-164411)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 藏田 敦之
菅野 芳男
発明の名称 流体射出システムおよびスキャンシステム  
代理人 松島 鉄男  
代理人 有原 幸一  
代理人 奥山 尚一  

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