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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服20073203 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1212722
審判番号 不服2007-12927  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2010-03-02 
事件の表示 平成8年特許願第179834号「2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年1月21日出願公開、特開平9-20716〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1996年6月21日(パリ条約による優先権主張1995年6月28日、ドイツ)の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成18年5月1日付け 拒絶理由通知書
平成19年1月24日付け 拒絶査定
平成19年5月7日 審判請求書
平成19年6月5日 手続補正書
平成19年6月8日 手続補正書(審判請求書)
平成19年7月13日付け 前置報告書
平成20年11月28日付け 審尋
平成21年6月5日 回答書

第2 平成19年6月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成19年6月5日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正
平成19年6月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲(本願出願時のもの)の
「【請求項1】 式
【化1】

[式中、
Aは、任意に置換されていてもよい-(CH_(2))x-を表し、ここで、x=1、2または3であり、R^(1)およびR^(2)は、同一もしくは異なり、任意に置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキルまたはC_(3)-C_(7)-シクロアルキル基を表し、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、同一もしくは異なり、水素、任意に置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキルまたはC_(3)-C_(7)-シクロアルキルを表し、Xは、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C_(1)-C_(4-)アルキル、C_(1)-C_(4)-ハロゲノアルキル、C_(1)-C_(4)-アルコキシまたはC_(1)-C_(4)-ハロゲノアルコキシを表し、そしてX基が2つ以上存在している場合、これらは同じか或は異なっていてもよく、そしてnは、ゼロまたは1から5の整数を表す]で表される2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法であって、式
【化2】

[この式中で用いる記号は式(I)で与えた意味を有する]で表される2-アルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類とハロゲン化アルキルを金属水酸化物および第三級アルコール類の存在下で反応させることを特徴とする方法。」

「【請求項1】 式
【化1】

[式中、
Aは、任意に置換されていてもよい-(CH_(2))x-を表し、ここで、x=1、2または3であり、
R^(1)およびR^(2)は、同一もしくは異なり、任意に置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキルまたはC_(3)-C_(7)-シクロアルキル基を表し、
R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、同一もしくは異なり、水素、任意に置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキルまたはC_(3)-C_(7)-シクロアルキルを表し、
Xは、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C_(1)-C_(4)-アルキル、C_(1)-C_(4)-ハロゲノアルキル、C_(1)-C_(4)-アルコキシまたはC_(1)-C_(4)-ハロゲノアルコキシを表し、そしてX基が2つ以上存在している場合、これらは同じか或は異なっていてもよく、そしてnは、ゼロまたは1から5の整数を表す]
で表される2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法であって、式
【化2】

[この式中で用いる記号は式(I)で与えた意味を有する]
で表される2-アルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類とハロゲン化アルキルを金属水酸化物および第三級アルコール類の存在下で反応させることから成り、該ハロゲン化アルキルが式
R^(1)-Y (III)
[式中、R^(1)は式(I)で与えた意味を有し、Yは塩素または臭素で表す]
で表されるものである
ことを特徴とする方法。」
とするものである。

2 補正の適否
(1)補正の目的の適否
この補正は、補正前の【請求項1】に記載した発明を特定するために必要な事項(発明特定事項)である「ハロゲン化アルキル」を、「式
R^(1)-Y (III)
[式中、R^(1)は式(I)で与えた意味を有し、Yは塩素または臭素で表す]
で表されるもの」に限定するものであり、補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。

よって、上記補正は、平成18年法律第55号改正第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
次に、以下、平成18年改正前特許法第126条第5項に規定する、いわゆる独立特許要件について検討すると、本件補正後における前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)は、次の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ア 本願補正発明について
本願補正発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】 式
【化1】

[式中、
Aは、任意に置換されていてもよい-(CH_(2))x-を表し、ここで、x=1、2または3であり、
R^(1)およびR^(2)は、同一もしくは異なり、任意に置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキルまたはC_(3)-C_(7)-シクロアルキル基を表し、
R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、同一もしくは異なり、水素、任意に置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキルまたはC_(3)-C_(7)-シクロアルキルを表し、
Xは、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C_(1)-C_(4)-アルキル、C_(1)-C_(4)-ハロゲノアルキル、C_(1)-C_(4)-アルコキシまたはC_(1)-C_(4)-ハロゲノアルコキシを表し、そしてX基が2つ以上存在している場合、これらは同じか或は異なっていてもよく、そしてnは、ゼロまたは1から5の整数を表す]
で表される2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法であって、式
【化2】

[この式中で用いる記号は式(I)で与えた意味を有する]
で表される2-アルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類とハロゲン化アルキルを金属水酸化物および第三級アルコール類の存在下で反応させることから成り、該ハロゲン化
アルキルが式
R^(1)-Y (III)
[式中、R^(1)は式(I)で与えた意味を有し、Yは塩素または臭素で表す]
で表されるものである
ことを特徴とする方法。」

イ 刊行物について
(ア)特開平2-237979号公報(原査定における刊行物A。以下、「刊行物1」という。)

ウ 刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1について
1-a「(1) 式(IA)および(IB):

(式中、Aは-CR_(6)R_(7)-、-CR_(6)R_(7)CR_(8)R_(9)もしくは-CR_(6)R_(7)CR_(8)R_(9)CR_(10)R_(11)-;

Xはハロゲン原子、シアノもしくはニトロ基、または任意的にハロゲン化されていてもよいC_(1)?C_(4)アルキルもしくはC_(1)?C_(4)アルコキシ基;
nは0もしくは1?5の整数であり、nが2以上の場合X基は同一もしくは異なっていてもよい;

R_(1)とR_(2)は、同一もしくは異なっていてもよく、水素原子、例えばハロゲン原子、C_(1)?C_(4)アルコキシ、モノもしくはポリハロ(C_(1)?C_(4)アルコキシ)、C_(2)?C_(4)アルケニル、C_(2)?C_(4)アルキニル、モノもしくはポリハロ(C_(2)?C_(4)アルケニル)およびモノもしくはポリハロ(C_(2)?C_(4)アルキニル)ラジカルのような1つ以上の原子もしくはラジカルで任意的に置換されていてもよいC_(1)?C_(4)アルキルラジカル、…であり;

R_(3)とR_(6)?R_(11)は、同一もしくは異なってもよく、水素原子、例えばハロゲン原子、C_(1)?C_(4)アルコキシおよびモノもしくはポリハロ(C_(1)?C_(4)アルコキシ)ラジカルのような1つ以上の原子もしくはラジカルで任意的に置換されていてもよいC_(1)?C_(4)アルキル基、または例えばハロゲン原子、C_(1)?C_(4)アルキルラジカル、モノもしくはポリハロ(C_(1)?C_(4)アルキル)ラジカル、C_(1)?C_(4)アルコキシラジカルおよびモノもしくはポリハロ(C_(1)?C_(4)アルコキシ)ラジカルのような1つ以上の原子もしくはラジカルで任意的に置換されていてもよいC_(3)?C_(7)シクロアルキル、C_(6)?C_(10)アリール(特にフェニル)もしくはC_(7)?C_(11)アラルキル(特にベンジル)ラジカルであり…;
R_(4)は、水素原子、ハロゲン原子特に塩素原子もしくは臭素原子、例えばハロゲン原子、C_(1)?C_(4)アルコキシ、モノもしくはポリハロ(C_(1)?C_(4)アルコキシ)、C_(2)?C_(4)アルケニル、C_(2)?C_(4)アルキニル、モノもしくはポリハロ(C_(2)?C_(4)アルケニル)およびモノもしくはポリハロ(C_(2)?C_(4)アルキニル)ラジカルのような1つ以上の原子もしくはラジカルで任意的に置換されていてもよいC_(1)?C_(4)アルキルラジカル、または例えばハロゲン原子、C_(1)?C_(4)アルキルラジカル、モノもしくはポリハロ(C_(1)?C_(4)アルキル)ラジカル、C_(1)?C_(4)アルコキシラジカルおよびモノもしくはポリハロ(C_(1)?C_(4)アルコキシ)ラジカルのような1つ以上の原子もしくはラジカルで任意的に置換されていてもよいC_(3)?C_(7)シクロアルキル、C_(6)?C_(10)アリール(特にフェニル)もしくはC_(7)?C_(11)アラルキル(特にベンジル)ラジカルである}で表される(ベンジリデン)-アゾリルメチルシクロアルカンもしくはアルケンおよびこれらの化合物の農業上許容しうる塩。

(23) 下記式(VI)、(VII)、(IX)および(X):


(式中、n、置換基R_(1)、R_(2)、A_(1)、A、R_(3)、R_(4)、R_(5)およびR_(12)は請求項1と同義である)で表される、請求項1?17のいずれか1つに記載の化合物を製造する際の中間体として特に有用な化合物。」(特許請求の範囲)

1-b「


R_(1)とR_(2)が同一の一般の構造式で定義されたようにアルキルあるいはアラルキル基である構造式VIIの化合物を得るためには、他の構造工程はR_(1)とR_(2)が水素原子である構造式III、VあるいはVIIのケトンを、R_(1)が一般の構造式で定義したごとくアルキルあるいはアラルキル基で、Yが、例えば、ハロゲン、スルホネートあるいはサルフェートのごとき脱離基であるアルキル化剤R_(1)-Yと、有機あるいは無機塩、好ましくはアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属水酸化物、アルコレート及び水素化物の存在下、プロトン性あるいは非プロトン性溶媒あるいは溶媒混合物、例えば飽和、不飽和あるいは芳香族炭化水素(任意的にハロゲン化される)、アルコール、アミド、ニトリルあるいはDMSOあるいはスルホランのごときスルフィド由来の酸化溶媒中で反応させる。R_(1)とR_(2)のうちの1つのみが上で定義したようにアルキルあるいはアラルキル基である中間体を単離することは時として可能である。これら化合物VIIは、記述した製造工程によれば、化合物Iを得るためにも有用である。」(10頁右下欄5行?11頁右下欄7行)

1-c「実施例IX:2-(4-クロロベンジリデン)-6,6-ジメチル-1-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル)-1-シクロヘキサノールの調製
前記のように調製された、2-(4-クロベンジリデン)-6-メチルシクロヘキサノン(7.0g)、ついでヨウ化メチル(5.1g)を、トルエン(25cc)、第三アミルアルコール(3.8cc)および水素化ナトリウム(油中の60%濃度の分散液1.35g)から調製された反応媒質へ順次添加し、45℃まで加熱する。混合物を還流させ(1時間)、水中に注ぎ入れ、酢酸エチルで抽出する。乾燥および濃縮後、残渣をメタノールで再結晶すると、融点92℃の2-(4-クロロベンジリデン)-6,6-ジメチルシクロヘキサノン(4.7g)が得られる。」(26頁右上欄12行?左下欄10行)

エ 刊行物に記載された発明
刊行物1には、式(IA)または(IB)で表される化合物を製造する際の中間体である式(VII)で表される化合物が記載されている(摘記1-a)。具体的には、実施例IXにおいて、「2-(4-クロロベンジリデン)-6,6-ジメチルシクロヘキサノン」の調製方法が記載されており、「2-(4-クロベンジリデン(当審注:4-クロロベンジリデンの誤記と考えられる))-6-メチルシクロヘキサノン…、ついでヨウ化メチル…を、トルエン…、第三アミルアルコール…および水素化ナトリウム…から調製された反応媒質へ順次添加し、…2-(4-クロロベンジリデン)-6,6-ジメチルシクロヘキサノン…が得られる」ことが記載されている(摘記1-c)。
よって、本願補正発明にならって記載すると、刊行物1には、
「2-(4-クロロベンジリデン)-6,6-ジメチルシクロヘキサノンの製造方法であって、2-(4-クロロベンジリデン)-6-メチルシクロヘキサノンとハロゲン化アルキルを第三アミルアルコールの存在下で反応させることを特徴とする方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

オ 本願補正発明と引用発明との対比・判断
(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明の「2-(4-クロロベンジリデン)-6,6-ジメチルシクロヘキサノン」及び「2-(4-クロロベンジリデン)-6-メチルシクロヘキサノン」は、本願補正発明の「式
【化1】


[式中、Aは、(CH_(2))x-を表し、ここで、x=2であり、R^(1)およびR^(2)は、メチルを表し、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、水素を表し、Xは、塩素を表し、そしてnは1を表す]表される2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類」及び「式
【化2】


[この式中で用いる記号は式(I)で与えた意味を有する]
で表される2-アルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類」に相当する。
また、引用発明の「ヨウ化メチル」及び「第三アミルアルコール」は、本願補正発明の「ハロゲン化アルキル」及び「第三級アルコール類」に相当する。
してみると、両者は、
「式
【化1】

[式中、Aは、(CH_(2))x-を表し、ここで、x=2であり、R^(1)およびR^(2)は、メチルを表し、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、水素を表し、Xは、塩素を表し、そしてnは1を表す
]
で表される2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法であって、式
【化2】

[この式中で用いる記号は式(I)で与えた意味を有する]
で表される2-アルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類とハロゲン化アルキルを金属水酸化物および第三級アルコール類の存在下で反応させることから成ることを特徴とする方法」
という点で一致し、下記の点(i)?(ii)において相違するということができる。
(i)2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法において、本願補正発明は、「金属水酸化物」の存在下で反応させるのに対して、引用発明は「金属水素化物」の存在下で反応させる点
(ii)ハロゲン化アルキルにおいて、本願補正発明は、「式
R^(1)-Y (III)
[式中、R^(1)は式(I)で与えた意味を有し、Yは塩素または臭素で表す]
で表されるものである」のに対して、引用発明は、「ヨウ化メチル」である点

(イ)判断
a 相違点(i)について
刊行物1には、「R_(1)とR_(2)が同一の一般の構造式で定義されたようにアルキルあるいはアラルキル基である構造式VIIの化合物を得るためには、他の構造工程はR_(1)とR_(2)が水素原子である構造式…VIIのケトンを、R_(1)が一般の構造式で定義したごとくアルキルあるいはアラルキル基で、Yが、例えば、ハロゲン…であるアルキル化剤R_(1)-Yと、…アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属水酸化物、アルコレート及び水素化物の存在下、…アルコール…中で反応させる」ことが記載されている(摘記1-b)。この記載によれば、式VIIのケトンのR_(1)やR_(2)を水素からアルキルまたはアラルキル基に置換するにあたり、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物とアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水素化物は、同等に用いられると考えるのが自然であり、当業者であれば、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水素化物に換えて、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を用いることは、容易に想到することであるといえる。
また、水素化ナトリウムのごときアルカリ金属水素化物は、湿った空気で分解し、水と激しく反応して水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と水素を生じる、反応性の高い試剤であることが周知である(例えば、「化学大辞典5」(共立出版株式会社)1989年8月15日、縮刷版第32刷発行、58頁「水素化ナトリウム」の項参照)ので、取扱いの容易性や安全性の観点からも、当業者であれば、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水素化物に換えて、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を用いることは、容易に想到することであるといえる。
よって、引用発明において、水素化ナトリウムに換えて、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物とすることは、当業者であれば容易に想到することである。

b 相違点(ii)について
刊行物1には、式VIIのケトンのR_(1)やR_(2)を水素からアルキルまたはアラルキル基に置換するにあたり、アルキル化剤R_(1)-Yとして、Yがハロゲンであるものを用いる旨が記載されており(摘記1-b)、また、シクロアルカノン類をアルキル化するにあたり、アルキル化剤として、アルキルハロゲン化物を用いる際に、塩化物及び臭化物とともにヨウ化物も用いられることは周知であるから(例えば、特開平7-82219号公報の【0022】)、引用発明1において、ヨウ化メチルに換えて、Yが塩素あるいは臭素であるアルキル化剤R_(1)-Yとすることは、当業者であれば容易に想到するといえる。

カ 本願補正発明の効果について
平成19年6月8日提出の手続補正書(審判請求書)及び平成21年6月5日提出の回答書によれば、本願補正発明の効果は、平成19年6月5日提出の手続補正により補正された明細書(以下、「本願補正明細書」という。)の【0041】?【0045】に示されているように、以下のとおりであるといえる。
a「本発明に従う方法は、式(I)で表される2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造を穏やかな条件下で高収率に実施するに極めて簡潔な方法である。」
b「安全に対する高い出費を伴うことでのみ使用可能で取り扱いが困難な塩基、例えば金属水素化物または金属アミド類の使用が回避される。」
c「反応混合物を処理する時に水で汚染される可能性がありそして後で回収する必要がある、即ち骨のおれる操作を行う必要がある非常に特殊な溶媒、例えばDMSO、DMFまたはアンモニアなどを比較的多量に用いる必要がなくなる。」

【aについて】
上記「オ(イ)a」で述べたように、刊行物1において、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物と、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水素化物は、同等のものとして記載されており(摘記1-b)、両者は同等の効果を奏すると解するのが自然であるから、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水素化物を用いた場合に比べて、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を用いた場合のほうが格別顕著な効果を奏することは何ら示されていない以上、aについては予測できる範囲の効果であるといえる。

【bについて】
水素化ナトリウムのような金属水素化物は、水と激しく反応して水素を発生することが周知であるから、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物を用いることにより、取扱い上の不都合を回避し得ることは予測できる範囲の効果であるといえる。

【cについて】
刊行物1には、溶媒として、「飽和、不飽和あるいは芳香族炭化水素(任意的にハロゲン化される)、アルコール、アミド、ニトリルあるいはDMSOあるいはスルホランのごときスルフィド由来の酸化溶媒」を用いることが記載されているが(摘記1-b)、実施例においては、トルエン及び第三アミルアルコールが用いられており(摘記1-c)、特殊な溶媒は用いられていないから、cについては予測できる範囲の効果であるといえる。

してみると、本願補正発明の効果は、予測できる範囲のものであり、格別顕著な効果であるとはいえない。

キ まとめ
したがって、本願補正発明は、その出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ク 小括
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
そうすると、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、本願出願時の明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 式
【化1】

[式中、
Aは、任意に置換されていてもよい-(CH_(2))x-を表し、ここで、x=1、2または3であり、R^(1)およびR^(2)は、同一もしくは異なり、任意に置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキルまたはC_(3)-C_(7)-シクロアルキル基を表し、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、同一もしくは異なり、水素、任意に置換されていてもよいC_(1)-C_(4)-アルキルまたはC_(3)-C_(7)-シクロアルキルを表し、Xは、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C_(1)-C_(4-)アルキル、C_(1)-C_(4)-ハロゲノアルキル、C_(1)-C_(4)-アルコキシまたはC_(1)-C_(4)-ハロゲノアルコキシを表し、そしてX基が2つ以上存在している場合、これらは同じか或は異なっていてもよく、そしてnは、ゼロまたは1から5の整数を表す]で表される2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法であって、式
【化2】

[この式中で用いる記号は式(I)で与えた意味を有する]で表される2-アルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類とハロゲン化アルキルを金属水酸化物および第三級アルコール類の存在下で反応させることを特徴とする方法。」

2 原査定の拒絶の理由
本願発明についての原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
「刊行物Aの実施例IXには、本願の請求項1の一般式(I)に該当する化合物に、ハロゲン化アルキル、金属水素化物、第三級アルコールを反応させて、本願の請求項1の一般式(II)に該当する化合物を製造する発明が記載されている。刊行物Aの第11頁左下の記載によれば、刊行物Aでの(アルカリ)金属水素化物は(アルカリ)金属水酸化物と同等のものとして記載されているので、刊行物Aに記載の発明において、金属水素化物に代え金属水酸化物を使用することに格別の創意を認めることができない。また、そのようにすることにより、予想外の格別顕著な効果を奏するものとも認めることができない。」

3 刊行物について
「第2 2(2)イ」と同様。

4 刊行物に記載された事項
「第2 2(2)ウ」と同様。

5 刊行物に記載された発明
「第2 2(2)エ」と同様。

6 本願発明と引用発明との対比・判断
(ア)対比
本願発明は、本願補正発明のハロゲン化アルキルを特定していないものであるから、 本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「式
【化1】

[式中、Aは、(CH_(2))x-を表し、ここで、x=2であり、R^(1)およびR^(2)は、メチルを表し、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、水素を表し、Xは、塩素を表し、そしてnは1を表す
]
で表される2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法であって、式
【化2】

[この式中で用いる記号は式(I)で与えた意味を有する]
で表される2-アルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類とハロゲン化アルキルを金属水酸化物および第三級アルコール類の存在下で反応させることから成ることを特徴とする方法」
という点で一致し、下記の点(i’)において相違するということができる。
(i’)2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法において、本願補正発明は、「金属水酸化物」の存在下で反応させるのに対して、引用発明は「金属水素化物」の存在下で反応させる点

(イ)判断
上記相違点(i’)については、上記「第2 2(2)オ(イ)(i)」と同様の理由により、引用発明において、水素化ナトリウムに換えて、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の水酸化物とすることは、当業者であれば容易に想到することである。

7 本願発明の効果について
本願発明の効果は、本願明細書の【0041】?【0045】の記載によれば、上記「第2 2(2)カ」のa?cと同様である。
そして、上記「第2 2(2)カ」で述べたように、本願発明の効果は、予測できる範囲のものであり、格別顕著な効果であるとはいえない。

8 まとめ
したがって、本願発明は、その出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、その出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-15 
結審通知日 2009-09-29 
審決日 2009-10-13 
出願番号 特願平8-179834
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
P 1 8・ 575- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 唐木 以知良
坂崎 恵美子
発明の名称 2,2-ジアルキル-アリーリデン-シクロアルカノン類の製造方法  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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