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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1212742
審判番号 不服2007-7499  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-14 
確定日 2010-03-01 
事件の表示 平成 9年特許願第507101号「トランスケトラーゼ関連蛋白質」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月13日国際公開、WO97/05253、平成11年 9月14日国内公表、特表平11-510382〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年7月26日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年7月27日 ドイツ)とする国際出願であって、平成18年9月25日に特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成18年12月8日に拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年3月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成19年3月19日に特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。
2.平成19年3月19日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年3月19日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】以下:
(配列は省略。以下、この配列を「第1図のアミノ酸配列」という。)
のアミノ酸配列、または1個もしくは数個のアミノ酸がそれとは異なるアミノ酸配列を含有してなるトランスケトラーゼ関連蛋白質。」から、
「【請求項1】以下:
「第1図のアミノ酸配列」 (配列省略)
のアミノ酸配列を含有してなるトランスケトラーゼ関連蛋白質。」と、
請求項2は、
「【請求項2】以下:
(配列は省略。以下、この配列を「第2図のアミノ酸配列」という。)
のアミノ酸配列、または1個もしくは数個のアミノ酸がそれとは異なるアミノ酸配列を含有してなるトランスケトラーゼ関連蛋白質。」から、
「【請求項2】以下:
「第2図のアミノ酸配列」 (配列省略)
のアミノ酸配列を含有してなるトランスケトラーゼ関連蛋白質。」と、
請求項3は、
「【請求項3】以下:
(配列は省略。以下、この配列を「第3図のアミノ酸配列」という。)
のアミノ酸配列、または1個もしくは数個のアミノ酸がそれとは異なるアミノ酸配列を含有してなるトランスケトラーゼ関連蛋白質。」から、
「【請求項3】以下:
「第3図のアミノ酸配列」 (配列省略)
のアミノ酸配列を含有してなるトランスケトラーゼ関連蛋白質。」と、それぞれ補正された。
上記請求項1?3に係る補正は、平成18年9月25日付けで補正された請求項1?3に係る発明を特定するために必要な事項である「のアミノ酸配列、または1個もしくは数個のアミノ酸がそれとは異なるアミノ酸配列を含有してなるトランスケトラーゼ関連蛋白質」を「のアミノ酸配列を含有してなるトランスケトラーゼ関連蛋白質」と限定するものであって、その補正前と補正後の請求項1?3に記載された発明の、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1?3に記載された発明(以下それぞれ、「本願補正発明1」、「本願補正発明2」、「本願補正発明3」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(2)特許法第36条第4項について
本願補正発明1?3はいずれも、トランスケトラーゼ関連蛋白質という化学物質に係る発明であるが、化学物質に係る発明を当業者が実施することができるとは、当該発明に係る物質を作ることができ、かつ、使用することができることである。
そして、化学物質としての蛋白質にどのような有用性(1つ以上の技術的に意味のある特定の用途に関連する機能、活性)があるかが明細書に記載され、あるいは明細書の記載及び出願時の技術常識に基づき当業者が理解できなければ、その化学物質をどのように使用できるかについて記載されているとはいえず、当該化学物質に係る発明について当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

(2-1)本願明細書の記載
一方、トランスケトラーゼ関連蛋白質に関して本願明細書には、その有用性について、
(i)「本発明は、脚気およびヴェルニッケ-コルサコフ症候群等のチアミン欠乏症を伴う神経学的疾患の原因を研究することを可能にする。(TVP)は、本発明の抗体によりヒトの体液中で検出可能である。(TVP)と前記疾患の発生および形成との関連性が確立され得る。」(明細書第4頁下から第4行?下から第1行)、
(ii)「本発明は、チアミン欠乏症、具体的には脚気およびヴェルニッケ-コルサコフ症候群を伴う神経学的疾患の診断上の検出および治療上の検出に多大に寄与する。」(明細書第5頁第17行?第19行)、と記載されている。
また、その遺伝子のクローニングについては、
(iii)「該蛋白質は、例えば、脳および心臓等の種々の組織で異なる型で存在している。
前記蛋白質は、本発明において「トランスケトラーゼ関連蛋白質」(TVP)と称する。
好ましい態様において、(TVP)は、図2のアミノ酸配列を含む。かかる(TVP)は、動物、具体的には哺乳類、より具体的にはヒトの脳に特に見出される。
さらに好ましい態様において、(TVP)は図3のアミノ酸配列を含む、かかる(TVP)は、動物、具体的には哺乳類、より具体的にはヒトの心臓に特に見出される。」(明細書第2頁第6行?第15行)、
(iv)「本発明のcDNAの調製のためには、クローンがヒトゲノムのXq28領域を含むq1Z(Dietrich,A.ら、Nucleic Acids Res.19,(1991)2567-2572を参照)等のコスミドライブラリーを基礎として使用することが好ましい。かかるクローンをフィルター膜に固定し、脳、筋肉、肝臓、心臓等のブタ組織のmRNAから逆転写により得られた標識cDNAプールとハイブリダイズさせる(Coy,J.F.ら、Mammalian Genome 5,(1994),131-137を参照)。cDNAプールとのハイブリダイゼーションシグナルを有するこれらのクローンを、胎児脳組織および/または心臓組織等のヒトcDNAライブラリーのスクリーニングに使用する。この目的のためには、cDNAライブラリー-λ-Zap、ストラタジーン社、カタログ番号936206が特に好ましい。本発明のcDNAが得られる。」(明細書第3頁第8行?第17行)、と記載されている。
しかしながら、実施例において、そのクローニングした遺伝子を発現させているものの、何らかの機能、活性があることを確認したことは記載されておらず、また、脚気およびヴェルニッケ-コルサコフ症候群を伴う神経学的疾患の診断上の検出および治療上の検出に使用できたことも記載されていない。実施例等で具体的に記載されているのは、大腸菌で発現させた第2図または第3図のアミノ酸配列からなる蛋白質に対して、ウサギ及びニワトリでポリクローナル抗体が、マウスでモノクローナル抗体が調製できることまでであって、この抗体を用いてヒトの体液中でTVPを検出できたことは記載されていない。
(2-2)本願補正発明2について
本願補正発明2に係るトランスケトラーゼ関連蛋白質(以下、「TVP」という。)はヒト脳由来であって、522アミノ酸からなる第2図のアミノ酸配列を含むものであり、原査定の引用例1に記載されている623アミノ酸からなるヒトトランスケトラーゼのアミノ酸配列と、アミノ酸レベルで64%程度の相同性を有するものである。
(2-2-1)当審の判断
上記(2-1)に記載したように、本願明細書には、本願補正発明2のTVPのみならず、本願補正発明1及び3のTVPについても、明細書に記載された本発明の目的である、脚気およびヴェルニッケ-コルサコフ症候群を伴う神経学的疾患の診断上の検出及び治療上の検出に使用できることは確認されていない。また、TVPが脚気及び上記神経学的疾患と密接に関連することが本願出願時の技術常識であるともいえないから、本願補正発明2のTVPに、特定疾患の診断上及び治療上の検出に使用できるという有用性があるとは、本願明細書の記載から当業者が当然理解できるとはいえない。
また、本願明細書には本願補正発明2のTVPがトランスケトラーゼ(以下、「TK」という。)活性を有することについては、記載も示唆もされていないが、審判請求人が平成21年5月22日付けで提出した回答書において、本願補正発明2のTVPがTK活性を有する旨を主張しており、下記(2-2-2)で検討する。
(2-2-2)審判請求人の主張
上記回答書において審判請求人は、(イ)図2のアミノ酸配列を含有してなるTVPは、公知の2つのチアミン結合部位を含むTKのアミノ酸配列と比較すると、チアミン結合部位を1つ欠損しており、チアミン結合能力が低下しているか、あるいはチアミン結合特異性が低下していると考えられるものの、このTVPは、利用可能なチアミンレベルに依存して解糖系に糖リン酸を導入するという典型的なTKの特性を依然として有するものであり、本発明の蛋白質がチアミン結合部位を1つ保有することからみて、依然としてTK活性を有するであろうことは、その構造を含む明細書の開示に基づき十分に理解し得る旨、及び、実験報告書として参考資料2、3を添付して、(ロ)図2のTVPのヒトの脳における発現挙動は、健常者とヴェルニッケ-コルサコフ症候群の患者とでは、現実に相違があり、添付した2つの実験報告書は、健常者とヴェルニッケ-コルサコフ症候群の患者の脳での図2のTPVの発現量を対比したもの(参考資料2)、全血由来のリンパ球でのmRNAの発現量を対比したもの(参考資料3)であり、いずれもヴェルニッケ-コルサコフ症候群の患者においてTPVの発現が顕著に低減していることが理解できる旨主張している。
上記(イ)の主張については、そもそも本願明細書に記載されていないTK活性についての主張であるから、そのような主張が考慮されるためには、図2の522アミノ酸からなるTPVの配列をみればTK活性を有することが当業者であれば当然に理解できるものでなければならない。しかしながら、審判請求人は、TVPがチアミン結合部位を1つ欠損していると主張しながら、その部位がどこであるかを特定していないし、TKの活性中心も特定していない。この主張は、TK活性の活性中心のアミノ酸配列が保存されているから、TK活性を保持しているというような具体的な根拠のある主張ではなく、64%程度のアミノ酸相同性からTK活性を有するとの推定に基づくものであり、本願出願時、全体のアミノ酸配列の相同性が64%程度あれば、その酵素活性が保持されるという技術常識は存在しないので、審判請求人の(イ)の主張は採用できない。
そもそも本願の出願当初の明細書には、本願発明の蛋白質について「トランスケトラーゼ関連蛋白質」と記載されており、このことは請求人自身も、本願発明の蛋白質が「トランスケトラーゼ」であると断定できなかったことを示すものである。
次に(ロ)の主張については、本願明細書には、上記(2-1)の(i)、(ii)に記載のように、脚気およびヴェルニッケ-コルサコフ症候群を伴う神経学的疾患の診断上の検出および治療上の検出と記載されているだけであり、ヴェルニッケ-コルサコフ症候群の患者において、その発現量が低減することは記載も示唆もされていない。本願明細書に記載の診断上及び治療上のの検出とは、発現量による検出であるとたとえ限定的に解釈した場合であっても、患者において発現量が増加する場合もあるのであるから、患者における発現が低減するという、出願後に行われ提出された実験結果は、本願明細書の記載に基づかないものであるので参照できない。
(2-2-3)小括
以上のように、本願補正発明2に係るTPVについては、どのような有用性があるかが明細書に十分な裏付けを以て記載されておらず、かつ本願出願時の技術常識に基いても、当業者がどのような有用性があるか理解できるよう本願明細書には記載されておらず、本願補正発明2について当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
(2-3)本願補正発明1及び3について
本願補正発明1に係るTVPは、129アミノ酸からなる第1図のアミノ酸配列を含むものであり、そのアミノ酸配列は、本願補正発明2に係る522アミノ酸からなるTVPのC末端部分に相当するものである。
また、本願補正発明3に係るTVPは、ヒト心臓由来であって、145アミノ酸からなる第3図のアミノ酸配列を含むものであり、そのアミノ酸配列は、本願補正発明1の129のアミノ酸のN末端にさらに16アミノ酸付加されたものであるが、その16アミノ酸は、本願補正発明2のTVPのアミノ酸配列中には存在しないものである。
(2-3-1)当審の判断
本願補正発明2と同様に本願補正発明1及び3に係るTPVについても、特定疾患の診断上及び治療上の検出に使用できることが、本願明細書の記載されているとも、その記載から当業者が当然理解できるものともいえないのは、上記(2-2-1)に記載した理由のとおりである。
また、第2図の522アミノ酸配列を含む本願補正発明2に係るTVPが、本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識を考慮しても、TK活性を有するとはいえないのは、上記(2-2-2)に記載した理由のとおりであり、そのC末端の129アミノ酸配列を含む本願補正発明1及び3に係るTPVにも、TK活性を有するとはいえない。
たとえ、仮に本願補正発明2に係るTPVがTK活性を有するものであるとしても、そのアミノ酸配列のどの部分がTK活性を担うものであるかは不明であるし、酵素活性の活性部位の立体構造の重要性を考慮すると、522アミノ酸のうち129のアミノ酸からなるC末端部分のみでTK活性を保持できるとは、技術常識からも考えられない。
(2-3-2)小括
以上のように、本願補正発明1及び3に係るTPVについては、どのような有用性があるかが明細書に十分な裏付けを以て記載されておらず、かつ本願出願時の技術常識に基いても、当業者がどのような有用性があるか理解できるよう本願明細書には記載されておらず、本願補正発明1及び3について当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない

(3)むすび
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明1?3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、本願補正発明1?3は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
3.本願発明について
平成19年3月19日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本出願に係る発明は、平成18年9月25日付手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1?10に記載された事項により特定されるものである。
そのうち、請求項3に係る発明は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項3】以下:
「第3図のアミノ酸配列」 (配列省略)
のアミノ酸配列、または1個もしくは数個のアミノ酸がそれとは異なるアミノ酸配列を含有してなるトランスケトラーゼ関連蛋白質。」(以下、「本願発明3」という。)
(1)原査定の理由
原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明の詳細な説明の記載には、本願請求項3、6?10に記載の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。
(2)当審の判断
本願発明3は、上記本願補正発明3を包含するものであり、上記2.(2-3)で記載した本願補正発明3についての、本願発明の詳細な説明の記載における特許法第36条第4項の規定違反の理由は、そのまま本願発明3にもあてはまることである。
したがって、本願発明3についても、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本願は特許を受けることができない。
4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、本願請求項3に記載の発明について特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-07 
結審通知日 2009-10-08 
審決日 2009-10-20 
出願番号 特願平9-507101
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小暮 道明濱田 光浩  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 上條 肇
鵜飼 健
発明の名称 トランスケトラーゼ関連蛋白質  
代理人 細田 芳徳  

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