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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1212812
審判番号 不服2008-11766  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-08 
確定日 2010-03-04 
事件の表示 特願2002-342069「赤外線検出回路及び赤外線検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月15日出願公開、特開2003-227753〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年11月26日(優先権主張 平成13年11月27日)の出願であって、平成20年3月31日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月8日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年6月5日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年6月5日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、平成19年11月5日付けの特許請求の範囲(以下、「補正前」という。)の請求項1を以下のとおり補正するものである。(下線部は補正箇所を示す。)
「焦電素子に接続された第1の演算増幅器の出力端子と反転入力端子との間に、直流成分を帰還させる回路とコンデンサとを並列接続した電流電圧変換回路と、
前記電流電圧変換回路から出力される電圧信号を増幅する第1の増幅回路と、
スイッチトキャパシタフィルタで構成され、前記第1の増幅回路からの電圧信号のうち所定の周波数帯域成分を通過させるバンドパスフィルタ回路と、
前記スイッチトキャパシタフィルタに所定周波数の基準クロック信号を出力する基準クロック生成回路と、
前記バンドパスフィルタ回路から出力される電圧信号が閾値レベル以上のとき検出信号として出力する出力回路とを備え、
前記バンドパスフィルタ回路は、少なくとも3個以上のフィルタが多段接続された構造を有し、第1のハイパスフィルタ、第1のローパスフィルタの順で交互に接続され、
前記第1の増幅回路は、第2の演算増幅器を備え、
前記第1の演算増幅器の出力端子を増幅用の抵抗を介して前記第2の演算増幅器の反転入力端子に接続するとともに、前記第1の演算増幅器の出力端子と前記第2の演算増幅器の非反転入力端子との間に第2のローパスフィルタを接続し、
前記第2のローパスフィルタは、
前記第1の演算増幅器の出力端子と前記第2の演算増幅器の非反転入力端子との間に接続され、不純物不拡散ポリシリ抵抗により構成された第1の抵抗部と、
前記第2の演算増幅器の非反転入力端子の接地側に接続されたコンデンサと、
前記第1の抵抗部に並列接続された第1のスイッチ回路とを備え、
電源投入後所定期間、前記第1のスイッチ回路をオンする第1のスイッチ制御部を更に備えることを特徴とする赤外線検出回路。」(以下、「本願補正発明」という。)

補正前の請求項1の「ハイパスフィルタ、ローパスフィルタの順で」を「第1のハイパスフィルタ、第1のローパスフィルタの順で」とする補正事項は、第2のローパスフィルタと区別するための補正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。また、補正前の請求項1に、「前記第1の増幅回路は、第2の演算増幅器を備え、」および「前記第1の演算増幅器の出力端子を増幅用の抵抗を介して前記第2の演算増幅器の反転入力端子に接続するとともに、前記第1の演算増幅器の出力端子と前記第2の演算増幅器の非反転入力端子との間にローパスフィルタを接続し、」という構成を追加する補正事項は、補正前の請求項9の構成を追加するものであり、「前記ローパスフィルタは、」「前記第1の演算増幅器の出力端子と前記第2の演算増幅器の非反転入力端子との間に接続され、不純物不拡散ポリシリ抵抗により構成された第1の抵抗部と、」「前記第2の演算増幅器の非反転入力端子の接地側に接続されたコンデンサと、」を備えるという構成を追加する補正事項は、補正前の請求項10および請求項12の構成を追加するものであり、「前記第1の抵抗部に並列接続された第1のスイッチ回路とを備え」、「第1のスイッチ制御部を更に備える」という構成を追加する補正事項は、補正前の請求項11の構成を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。そして、第1のスイッチ制御部について「電源投入後所定期間、前記第1のスイッチ回路をオンする」とする補正事項は、発明特定事項である第1のスイッチ制御部を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

以上より、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。
そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物記載の発明
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平3-269390号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。
[1a]「2.特許請求の範囲
1. 焦電素子を有する焦電センサの出力信号を増幅した増幅出力信号にもとづき、人間、動物等の被検出体を検出する焦電型検出回路において、スイッチドキャパシタフィルタとして構成され、前記増幅出力信号の低域成分を通過させて出力するローパスフィルタと、
スイッチドキャパシタフィルタとして構成され、前記ローパスフィルタの出力の高域成分を通過させて出力するハイパスフィルタと、
前記ローパスフィルタおよびハイパスフィルタに与えるべき動作クロックを発生させるクロック発生回路と、
前記ハイパスフィルタの出力レベルを所定の基準レベルと比較して検出信号を出力するコンパレータと
を備えることを特徴とする焦電型検出回路。」(第1頁左下欄第4行?同頁右下欄第2行)
[1b]「〔発明が解決しようとする課題〕
ところで、焦電センサの出力信号は、第9図に示すように0.1?10Hz程度の低周波であり、従って第7図の回路は十分な低周波特性が要求される。このため、抵抗R_(1),R_(2)には2MΩ程度の高抵抗のものが必要になり、コンデンサC_(1),C_(2)には47μF程度の大容量のものが必要になる。従って、第7図の回路を集積化すると、これら抵抗R_(1),R_(2)やコンデンサC_(1),C_(2)が外付け部品となってしまい、装置の小型化が行なえなくなる。
そこで本発明は、上記従来技術の問題点を解決した焦電型検出回路を提供することを目的としている。」(第2頁右上欄第9行?同頁左下欄第2行)
[1c]「 第1図は第1実施例に係る焦電型検出回路の回路図である。図示の通り、焦電センサ1の出力はカップリングコンデンサC_(3)を介して正転増幅器11に与えられ、その増幅出力信号はSCF構成のローパスフィルタ12から、同じくSCF構成のハイパスフィルタ13に与えられる。ハイパスフィルタ13の出力は正転増幅器14で増幅され、ウィンドコンパレータ4を介して検出信号として出力される。
発振回路21は一定周波数のパルス信号を出力するもので、出力パルスはカウンタ22で周波数がおとされた後、タイミングジェネレータ23から基本クロックとしてクロック発生回路24L,24Hに与えられる。クロック発生回路24L,24Hは例えば2?4相の動作クロックを生威し、これをローパスフィルタ12およびハイパスフィルタ13に与える。」(第2頁右下欄第17行?第3頁左上欄第13行)
[1d]「〔発明の効果〕
以上、詳細に説明した通り本発明によれば、ローパスフィルタとハイパスフィルタがSCFとして構成されるので、高抵抗素子や大容量素子が不要になる。このため、外付け部品をなくして装置の小型化を実現できる。」(第4頁左上欄第18行?同頁右上欄第3行)
[1e]第1図には、焦電素子がゲートに接続されたFETと焦電素子の両端に並列接続された抵抗とFETのソースとグランドとの間に介設された抵抗とからなる焦電センサ1と、演算増幅器を備えた正転増幅器11とを有する、第1実施例の構成が記載されている。
上記[1a]、[1c]、[1e]の記載によれば、引用例1には、
「焦電素子を有し焦電素子がゲートに接続されたFETと焦電素子の両端に並列接続された抵抗とFETのソースとグランドとの間に介設された抵抗とからなる焦電センサの出力信号を増幅した増幅出力信号にもとづき、人間、動物等の被検出体を検出する焦電型検出回路において、焦電センサの出力はカップリングコンデンサを介して演算増幅器を備えた正転増幅器に与えられ、その増幅出力信号は、スイッチドキャパシタフィルタとして構成され、前記増幅出力信号の低域成分を通過させて出力するローパスフィルタと、スイッチドキャパシタフィルタとして構成され、前記ローパスフィルタの出力の高域成分を通過させて出力するハイパスフィルタと、前記ローパスフィルタおよびハイパスフィルタに与えるべき動作クロックを発生させるクロック発生回路と、前記ハイパスフィルタの出力レベルを所定の基準レベルと比較して検出信号を出力するコンパレータとを備える焦電型検出回路。」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平10-318834号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の記載がある。
[2a]「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、従来の焦電型赤外線検出装置がこのような問題を有している点に鑑みて開発されたものであり、特に、バンドパスフィルタ機能を備えた電圧増幅回路を、不完全積分回路と、積分回路とを組み合わせて構成することによって、外付けコンデンサの必要個数を少なくするとともに、静電容量を小さくできる構成として、回路全体の小型化を図るものである。」
[2b]「【0017】
【発明の実施の形態】以下に添付図を参照して、本発明の一実施例を説明する。図1?図3は、請求項1,2に記載された本発明の要部をなす電圧増幅回路の一実施例を示す内部回路のブロック図である。焦電型赤外線検出装置の全体構成は、図1に見るように、熱線の変化を検知した焦電素子Csから出力される焦電電流を電圧信号に変換するため、I/V変換ブロックを電流電圧変換回路Bとして設けており、この電流電圧変換回路Bから出力された電圧信号を、更に電圧増幅回路Aに入力して、人体の移動検知に必要な所定の周波数帯域の電圧信号を増幅処理した後、出力回路Cから出力される検知信号を用いて必要な制御がなされるようになっている。」
[2c]「【0027】例えば、R3=2.2GΩの高抵抗を使用すれば、C2=0.1μFのコンデンサを使用すればよく、この場合、低域側のカットオフ周波数fc2は、fc2=(1M・100K)/(2π・100・2.2G・1M・0.1μ)=0.723(Hz)となり、人体検知に必要な範囲に決定できる。抵抗R3としては、拡散抵抗やポリシリ抵抗ではなく、ノンドープポリシリ抵抗、トランジスタのオフ抵抗などの高抵抗を用いれば、IC化した回路に容易に組み込みできる(請求項6)。また、この場合、コンデンサC2の値を0.1μF以下に選択できるので、積分回路2のコンデンサの静電容量も小さくでき、低域側のカットオフ周波数を同じにして、回路全体としての小型化、低コスト化が図れる。」
[2d]「【0028】図2は、電圧増幅回路Aに加えて、電流電圧変換回路B、出力回路Cの詳細な回路構成を組み込んだブロック図を示している。電流電圧変換回路Bは、焦電素子Csから出力される微小な焦電電流(数fA程度)を、非反転入力端子に基準電圧Vrefを入力させ、帰還容量C3を付加した演算増幅器OP6に入力させる構成としており、帰還容量C3のインピーダンス変換によって、微小な焦電電流を電圧信号(数μV程度)に変換している。この図2では、演算増幅器OP6には、別の演算増幅器OP7にコンデンサC4と抵抗R6を付加した積分回路を、直流帰還回路として付加接続した構成にして、低周波の信号に対して動作が安定になるコンデンサのインピーダンス特性を改善している(請求項7,8)。」
[2e]「【0047】請求項7,8において提案した焦電型赤外線検出装置によれば、電流電圧変換回路を、帰還容量を付加した演算増幅器によるインピーダンス変換を利用する構成としているので、S/N比が著しく向上でき、低ノイズで感度の高い焦電型赤外線検出装置が実現する。特に、請求項8では、帰還容量を付加した演算増幅器には更に直流帰還回路を接続付加しているので、帰還容量に固有な低域におけるインピーダンス変換動作の不安定性も改善される。」

3 対比
本願補正発明と引用例1発明とを対比する。
(ア)引用例1発明の「焦電素子」は、本願補正発明の「焦電素子」に相当する。
(イ)引用例1発明の「焦電センサ」における「焦電素子がゲートに接続されたFETと焦電素子の両端に並列接続された抵抗とFETのソースとグランドとの間に介設された抵抗」とからなる部分は、本願の明細書段落【0003】において、従来の技術の電流電圧変換回路として説明されている回路構成と同じ回路構成を有するから、本願補正発明の「電流電圧変換回路」としての機能を有するといえる。
(ウ)引用例1発明の「演算増幅器を備えた正転増幅器」は、正転増幅器であるものの、焦電センサの出力を増幅するものであるから、本願補正発明の「前記電流電圧変換回路から出力される電圧信号を増幅する第1の増幅回路」に相当し、「前記第1の増幅回路は、第2の演算増幅器を備え」ているといえる。
(エ)引用例1発明の「スイッチドキャパシタフィルタとして構成され、前記増幅出力信号の低域成分を通過させて出力するローパスフィルタ」と「スイッチドキャパシタフィルタとして構成され、前記ローパスフィルタの出力の高域成分を通過させて出力するハイパスフィルタ」は、組み合わされてバンドパスフィルタとして作用するものであるから、本願補正発明の「スイッチトキャパシタフィルタで構成され、前記第1の増幅回路からの電圧信号のうち所定の周波数帯域成分を通過させるバンドパスフィルタ回路」に相当する。
(オ)引用例1発明の「前記ローパスフィルタおよびハイパスフィルタに与えるべき動作クロックを発生させるクロック発生回路」は、本願補正発明の「前記スイッチトキャパシタフィルタに所定周波数の基準クロック信号を出力する基準クロック生成回路」に相当する。
(カ)引用例1発明の「前記ハイパスフィルタの出力レベルを所定の基準レベルと比較して検出信号を出力するコンパレータ」は、本願補正発明の「前記バンドパスフィルタ回路から出力される電圧信号が閾値レベル以上のとき検出信号として出力する出力回路」に相当する。
したがって両者は、
「焦電素子に接続された電流電圧変換回路と、前記電流電圧変換回路から出力される電圧信号を増幅する第1の増幅回路と、スイッチトキャパシタフィルタで構成され、前記第1の増幅回路からの電圧信号のうち所定の周波数帯域成分を通過させるバンドパスフィルタ回路と、前記スイッチトキャパシタフィルタに所定周波数の基準クロック信号を出力する基準クロック生成回路と、前記バンドパスフィルタ回路から出力される電圧信号が閾値レベル以上のとき検出信号として出力する出力回路とを備え、前記第1の増幅回路は、第2の演算増幅器を備える赤外線検出回路。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]電流電圧変換回路が、本願補正発明では、第1の演算増幅器の出力端子と反転入力端子との間に、直流成分を帰還させる回路とコンデンサとを並列接続しており、カップリングコンデンサを介さずに第1の増幅回路に出力するのに対し、引用例1発明では、焦電素子がゲートに接続されたFETと焦電素子の両端に並列接続された抵抗とFETのソースとグランドとの間に介設された抵抗とからなり、カップリングコンデンサを介して出力する点。
[相違点2]バンドパスフィルタ回路が、本願補正発明では、少なくとも3個以上のフィルタが多段接続された構造を有し、第1のハイパスフィルタ、第1のローパスフィルタの順で交互に接続されるのに対し、引用例1発明では、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタが2段接続された構造を有するものの、3個以上のフィルタを用いておらず、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタの順ではない点。
[相違点3]本願補正発明では、「前記第1の演算増幅器の出力端子を増幅用の抵抗を介して前記第2の演算増幅器の反転入力端子に接続するとともに、前記第1の演算増幅器の出力端子と前記第2の演算増幅器の非反転入力端子との間に第2のローパスフィルタを接続し、前記第2のローパスフィルタは、前記第1の演算増幅器の出力端子と前記第2の演算増幅器の非反転入力端子との間に接続され、不純物不拡散ポリシリ抵抗により構成された第1の抵抗部と、前記第2の演算増幅器の非反転入力端子の接地側に接続されたコンデンサと、前記第1の抵抗部に並列接続された第1のスイッチ回路とを備え、電源投入後所定期間、前記第1のスイッチ回路をオンする第1のスイッチ制御部を更に備える」のに対し、引用例1発明では、演算増幅器を備えるものの、第1の演算増幅器に相当する部材が正転増幅器であり、上記構成を備えていない点。

4 判断
[相違点1]について
引用例1発明は、引用例1の[1b]の記載によれば、「抵抗R_(1),R_(2)やコンデンサC_(1),C_(2)が外付け部品となってしまい、装置の小型化が行なえなくなる」という従来技術の問題点を解決することを課題としている。
一方、引用例2は、[2a]に記載されるように、焦電型赤外線検出装置において、外付けコンデンサの必要個数を少なくするとともに、静電容量を小さくできる構成として、回路全体の小型化を図ることを課題としており、引用例1発明と引用例2に記載された発明とは、焦電型検出回路の小型化を課題とする点で共通するものである。
そして、引用例2の[2b]には、焦電型赤外線検出装置の回路として、焦電素子Csから出力される焦電電流を電圧信号に変換するための電流電圧変換回路Bを設けており、この電流電圧変換回路Bから出力された電圧信号を、更に電圧増幅回路Aに入力して、人体の移動検知に必要な所定の周波数帯域の電圧信号を増幅処理した後、出力回路Cから出力される検知信号を用いて必要な制御がなされるようになっている回路が記載されており、[2d]には、電流電圧変換回路Bが、帰還容量C3を付加した演算増幅器OP6で構成されており、演算増幅器OP6には直流帰還回路を付加接続していることが記載されており、電流電圧変換回路Bの出力がカップリングコンデンサを介さずに電圧増幅回路Aに出力されている。
したがって、焦電型検出回路の小型化を課題とする引用例1発明における電流電圧変換回路としての機能を有する部分として、同様の課題を有する引用例2に記載された焦電型赤外線検出装置の回路の電流電圧変換回路Bの構成を採用し、本願補正発明の上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到しうることである。

[相違点2]について
バンドパスフィルタ回路において、フィルタが多段接続された構造を有することは周知である。例えば、特開昭61-18206号公報の第2頁右上欄第16行?第3頁左下欄第2行には、各種電子電気機器に使用されるバンドパスフィルタの一実施例として、アクティブ・バンドパスフィルタY_(2),Y_(3),Y_(4),Y_(5)からなる回路構成が記載されている。また、特開2001-189641号公報の段落【0028】や【0034】には、合成BPFをカスケード接続して設定されたアクティブバンドパスフィルタが記載されている。さらに、特開2001-99707号公報の【請求項1】にも、焦電素子を有する赤外線検出装置において、電圧増幅回路を1次フィルタの複数段の接続で構成したものが記載されている。
また、バンドパスフィルタ回路として、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタの順で接続された構造を有するものも周知である。例えば、特開平7-66682号公報の【請求項1】には、ハイパスフィルタと、ハイパスフィルタの出力に接続されるローパスフィルタを備えたバンドパスフィルタが記載されている。また、特開平9-210767号公報の段落【0013】には、ハイパスフィルタHPFおよびローパスフィルタLPFからなるバンドパスフィルタ61が記載されている。
したがって、引用例1発明におけるローパスフィルタとハイパスフィルタを、上記周知技術に記載されるように、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタの順とし、さらに3個以上のフィルタが多段接続された構造のフィルタとして、本願補正発明の上記相違点に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

[相違点3]について
出力を、抵抗を介して増幅器の反転入力端子に接続するとともに前記出力をローパスフィルタを介して前記増幅器の非反転入力端子に接続することは周知である。例えば、特開平9-119864号公報の段落【0044】?【0049】および【図1】には、ローパスフィルタ回路11,差動増幅回路21から大略構成されている焦電型赤外線センサ用信号処理装置が記載されており、入力抵抗R23がOPアンプ22の反転入力端子と焦電型赤外線センサ1からの出力信号が入力される入力端子T1との間に接続されており、ローパスフィルタ回路11および入力抵抗R21が入力端子T1とOPアンプ22の非反転入力端子との間に接続されている。また、特開昭63-279607号公報の第3頁右下欄第14行?第4頁左上欄第2行および第3図には減算回路が記載されており、第3頁右上欄第7?10行および同頁左下欄第17?20行の記載を参酌すれば、出力を増幅度を設定する抵抗を介して演算増幅器の反転入力端子に接続するとともに出力をボルテージ・フォロアを介して接続されたローパスフィルタを介して非反転入力端子に接続することが記載されている。
また、抵抗素子として、不純物不拡散ポリシリ抵抗を用いることは、例えば、引用例2の[2c]に「ノンドープポリシリ抵抗」等を用いれば「IC化した回路に容易に組み込みできる」と記載されているように、周知である。
さらに、焦電型検出回路において、電源投入後の不具合を防止するために、電源投入後所定時間動作するスイッチング手段を設けることは周知である。例えば、特開平9-119864号公報の特に段落【0046】にはローパスフィルタ11を構成する抵抗R11と並列接続されるように配置されたスイッチング素子12が記載されており、段落【0051】には、焦電型赤外線センサ用信号処理装置10の電源を投入して、スイッチング素子12を動作させる回路をオン状態にし、一定時間経過後にスイッチング素子12をオフ状態にすることが記載されている。また、実願昭59-24702号(実開昭60-137392号公報)のマイクロフィルムの、実用新案登録請求の範囲には、焦電型赤外線検出素子から発生する主力を増幅する増幅回路において、電源投入時に所定時間オンさせるスイッチング手段を並列に接続させることが記載されている。
したがって、引用例1発明において、正転増幅器に代えて、上記のとおり周知である、センサの出力を抵抗を介して反転入力端子に接続するとともにセンサの出力をローパスフィルタを介して非反転入力端子に接続した負帰還の増幅器を採用し、さらに上記ローパスフィルタにおいて、抵抗に上記周知の不純物不拡散ポリシリ抵抗を用いること、上記周知のスイッチ回路および電源投入後所定期間スイッチ回路をオンするスイッチ制御部を設けること、により、本願補正発明の上記相違点に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

そして、本願補正発明の効果について検討すると、本願明細書段落【0008】の記載によれば、動作点の変動分をカットするためのカップリングコンデンサが不要となり、回路が小型化されるというものであるが、引用例1の[1d]および引用例2の[2c]には、大容量のコンデンサを不要とすることにより小型化されることが記載されている。また、本願補正発明は、初段のハイパスフィルタにより動作点の変動分がカットされ、2段目以降に接続されたローパスフィルタにより高周波成分がカットされ、3段目以降に接続されたハイパスフィルタによりスイッチトキャパシタのスイッチングの際に生じるフィードスルーノイズによる変動分がカットされるというものであるが、初段のハイパスフィルタにより動作点の変動分がカットされることは自明の効果であり、後段のフィルタが前段のフィルタにより生じたノイズをカットしうることも自明である。さらに、本願補正発明は、電源投入後の所定期間に電圧信号の動作点が変動することに起因して生じる第2の増幅回路の飽和が防止されるものであり、電源投入後所定期間において動作点が変動することによる第1の増幅回路の飽和がより確実に防止されるものでもあるが、例えば周知技術として挙げた特開昭63-279607号公報や特開平9-119864号公報も同様の回路構成を有するため、同様の作用効果を奏するものである。
以上より、本願補正発明の効果は、引用例1,2に記載された発明および上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものであって、格別なものであるとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例1,2に記載された発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明
1 本願発明の認定
本件補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?17に係る発明は、平成19年11月5日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「 焦電素子に接続された第1の演算増幅器の出力端子と反転入力端子との間に、直流成分を帰還させる回路とコンデンサとを並列接続した電流電圧変換回路と、
前記電流電圧変換回路から出力される電圧信号を増幅する第1の増幅回路と、
スイッチトキャパシタフィルタで構成され、前記第1の増幅回路からの電圧信号のうち所定の周波数帯域成分を通過させるバンドパスフィルタ回路と、
前記スイッチトキャパシタフィルタに所定周波数の基準クロック信号を出力する基準クロック生成回路と、
前記バンドパスフィルタ回路から出力される電圧信号が閾値レベル以上のとき検出信号として出力する出力回路とを備え、
前記バンドパスフィルタ回路は、少なくとも3個以上のフィルタが多段接続された構造を有し、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタの順で交互に接続されていることを特徴とする赤外線検出回路。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物およびその記載事項は、前記「第2 2 引用刊行物記載の発明」に記載したとおりである。

3 対比
本願発明と引用例1発明とを対比する。
(ア)引用例1発明の「焦電素子」は、本願発明の「焦電素子」に相当する。
(イ)引用例1発明の「焦電センサ」における「焦電素子がゲートに接続されたFETと焦電素子の両端に並列接続された抵抗とFETのソースとグランドとの間に介設された抵抗」とからなる部分は、本願の明細書段落【0003】において、従来の技術の電流電圧変換回路として説明されている回路構成と同じ回路構成を有するから、本願発明の「電流電圧変換回路」としての機能を有するといえる。
(ウ)引用例1発明の「演算増幅器を備えた正転増幅器」は、正転増幅器であるものの、本願発明の「第1の増幅回路」は、前記電流電圧変換回路から出力される電圧信号を増幅するという機能のみ特定するものであり、引用例1発明の「正転増幅器」も焦電センサの出力を増幅するものであるから、本願発明の「前記電流電圧変換回路から出力される電圧信号を増幅する第1の増幅回路」に相当する。
(エ)引用例1発明の「スイッチドキャパシタフィルタとして構成され、前記増幅出力信号の低域成分を通過させて出力するローパスフィルタ」と「スイッチドキャパシタフィルタとして構成され、前記ローパスフィルタの出力の高域成分を通過させて出力するハイパスフィルタ」は、組み合わされてバンドパスフィルタとして作用するものであるから、本願発明の「スイッチトキャパシタフィルタで構成され、前記第1の増幅回路からの電圧信号のうち所定の周波数帯域成分を通過させるバンドパスフィルタ回路」に相当する。
(オ)引用例1発明の「前記ローパスフィルタおよびハイパスフィルタに与えるべき動作クロックを発生させるクロック発生回路」は、本願発明の「前記スイッチトキャパシタフィルタに所定周波数の基準クロック信号を出力する基準クロック生成回路」に相当する。
(カ)引用例1発明の「前記ハイパスフィルタの出力レベルを所定の基準レベルと比較して検出信号を出力するコンパレータ」は、本願発明の「前記バンドパスフィルタ回路から出力される電圧信号が閾値レベル以上のとき検出信号として出力する出力回路」に相当する。
したがって両者は、
「焦電素子に接続された電流電圧変換回路と、前記電流電圧変換回路から出力される電圧信号を増幅する第1の増幅回路と、スイッチトキャパシタフィルタで構成され、前記第1の増幅回路からの電圧信号のうち所定の周波数帯域成分を通過させるバンドパスフィルタ回路と、前記スイッチトキャパシタフィルタに所定周波数の基準クロック信号を出力する基準クロック生成回路と、前記バンドパスフィルタ回路から出力される電圧信号が閾値レベル以上のとき検出信号として出力する出力回路とを備える赤外線検出回路。」である点で一致し、「第2 3 対比」において本願補正発明と引用例1発明との相違点として挙げた[相違点1]および[相違点2]で相違する。

4 判断
すでに「第2 4 判断」において検討したとおり、上記[相違点1]および[相違点2]は、当業者が容易に想到しうることまたは適宜なし得ることである。そして、本願発明の効果も、引用例1,2に記載された発明および上記周知技術から当業者が予測できる範囲のものであって、格別なものであるとはいえない。
したがって、本願発明は、引用例1,2に記載された発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-04 
結審通知日 2010-01-05 
審決日 2010-01-21 
出願番号 特願2002-342069(P2002-342069)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01J)
P 1 8・ 575- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 佳規  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 郡山 順
宮澤 浩
発明の名称 赤外線検出回路及び赤外線検出装置  
代理人 麻野 義夫  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 大西 裕人  
代理人 江川 勝  
代理人 小谷 悦司  

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