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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01G
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01G
管理番号 1213129
審判番号 無効2008-800216  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-10-22 
確定日 2010-02-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4028929号発明「植栽用マット及びその敷設方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4028929号(以下、「本件特許」という。)は、平成10年5月12日に出願したものであって、平成19年10月19日に特許権の設定の登録(発明の名称:植栽用マット及びその敷設方法、請求項の数:6)がなされ、請求人より平成20年10月22日付けで、本件特許の特許請求の範囲の請求項1乃至6に係る特許に対して本件特許無効審判(無効2008-800216)が請求されたところ、平成21年1月23日(特許庁受入日)に被請求人より答弁書が提出されるとともに、同日に願書に添付した明細書の訂正(以下、「本件訂正」という。)が請求され、これに対し、請求人より平成21年3月5日付けで弁駁書の提出がなされたものである。

第2 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 審判請求書における主張
請求人は、本件特許の請求項1乃至6に係る特許を無効とする旨を請求の趣旨とし、その理由として、下記甲第2号証?甲第10号証の証拠方法を提出するとともに、以下のとおり主張している。

(1)無効理由1
本件特許の請求項1乃至6に係る発明(以下、本件訂正の前後を通して請求項1乃至請求項6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」乃至「本件発明6」といい、総称して「本件発明」という。)は、甲第2号証(以下、「引用刊行物1」という。)に記載された発明との間に相違点があるものの、その相違点は、甲第3号証?甲第10号証に記載された事実からすれば、設計的事項であることは明らかである。
したがって、本件発明は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許の請求項1乃至6に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件発明1、2、6においては、「通水口」、「給水管」、「管」なる事項が特定されるのみであるが、本件特許の特許出願の明細書においては、「通水口」と「給水管」や「管」との間に「保水層」が介在している実施例が開示されるのみである。また、本件発明は、「通水口」、「保水層」及び「給水管」の三者が特定されることで、本件発明の課題を解決するものであるが、「保水層」が特定されていない本件発明は、単に「給水管」や「管」が配置されるだけのものであり、その「給水管」や「管」の技術的意義が全く理解できない。
したがって、本件発明1、2、6、及び本件発明2に従属する本件発明3乃至5は、明確でなく、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

2 弁駁書における主張
請求人は、弁駁書において、以下のとおり主張している。

(1)本件訂正後の発明
被請求人は、答弁書において訂正をしたにもかかわらずその訂正事項は引用刊行物1に記載された発明に開示された新規性のないものと言っている。そうすると、そもそも訂正を行った趣旨を理解できないが、それはそれとして、言うならば、訂正された請求項1、請求項2及び請求項6は特許性の観点からすれば、訂正前の請求項1、請求項2及び請求項6となんら変わるものではない。
したがって、被請求人の答弁によっても請求人の主張は審判請求書におけるものから変わるものではない。

(2)無効理由1
引用刊行物1の【0006】に記載されているように、引用刊行物1には、係合部は、容器の底部において、縦方向又は横方向の少なくとも一方向に全通する溝部であり、その溝部が容器の中央部に形成されることには限定されないことが開示されており、しかも、その溝部が容器の底部の側壁側に形成されることも示唆されていることになる。そして、そのような配置の溝部は、必然的に側壁側が開放される結果、本件発明に係る「内向きへこみ部」に他ならない。
従って、被請求人の主張するような技術的な阻害要因は引用刊行物1に記載された発明には存在しない。

(3)無効理由2
被請求人は、本件発明が「保水層」を特定せずとも発明として成立する旨を主張しているが、やはり、「給水管」の技術的意義が不明であるし、「給水管」と「通水口」との関係も不明である。

[証拠方法]
平成20年10月22日付け特許無効審判の審判請求書に添付した証拠方法は以下のとおりである。

ア 甲第1号証 : 特許第4028929号公報
イ 甲第2号証 : 特開平9-51728号公報
ウ 甲第3号証 : 実願平1-84339号(実開平3-24836号)のマイクロフィルム
エ 甲第4号証 : 特開平8-116811号公報
オ 甲第5号証 : 特開平7-184468号公報
カ 甲第6号証 : 実願昭49-16号(実開昭51-8942号)のマイクロフィルム
キ 甲第7号証 : 実願平3-11350号(実開平5-20543号)のCD-ROM
ク 甲第8号証 : 特開平5-284865号公報
ケ 甲第9号証 : 特開平8-228606号公報
コ 甲第10号証 : 特開平7-135842号公報

第3 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件訂正を請求するとともに、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、本件審判の請求は理由がないことについて、答弁書において、概略以下のとおり反論している。

1 無効理由1
引用刊行物1に記載された発明は、プランターの底部の凹部に係合部を設け、予め設置した給水管に前記係合部を係合することにより、プランターを位置決めして設置するものであり、係合不能なプランター容器の側壁の外側に配管を設置することを全く想定外とするものであるから、引用刊行物1に記載された発明において、側壁の内向きへこみ部で形成された空間部に給水管を配設することは不当であり、技術的な阻害要因がある。
更に、設計事項とは、給水管を底部に設けても、側方に設けても等価であることを意味するが、本件発明には特有の効果を認められるからこれらが等価でない、即ち設計事項ではないことは明らかである。
更に、本件特許が存在しない状態で、引用刊行物1に記載された発明の側壁外側に配管を通すと着想することは明らかに困難である。

2 無効理由2
保水層を設けない構成は明細書【0008】?【0011】に明記されており、明細書【0012】?【0013】には保水層の有無に依拠しない作用効果が明記されている。係る明細書の記載は、「保水層」の特定なしで技術が成立することを示していることは明らかである。

第4 訂正の適否についての当審の判断
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
以後、本件訂正前の願書に添付した明細書及び図面を「特許明細書等」といい、本件訂正後のそれを「訂正明細書等」という。(下線は、訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項(a)
特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に敷設する際に、
該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該空間部のうち任意経路に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設することを特徴とする植栽用マットの敷設方法。」
を、
「【請求項1】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設する際に、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該空間部のうち任意経路に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設することを特徴とする植栽用マットの敷設方法。」
と訂正する。

(2)訂正事項(b)
特許請求の範囲の請求項2について、
「【請求項2】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、
該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に敷設し、
該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該空間部のうち任意経路に給水管を配設することを特徴とする植栽用マットの敷設設備。」
を、
「【請求項2】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、
該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設し、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該空間部のうち任意経路に給水管を配設することを特徴とする植栽用マットの敷設設備。」
と訂正する。

(3)訂正事項(c)
特許請求の範囲の請求項6について、
「【請求項6】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、
該セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、該マットフレームを敷設面に複数敷設することにより、
該セル側壁間に全体として格子状の連続した空間部を形設し、
該空間部の任意経路に管を配設してなることを特徴とする植栽用マットの敷設設備。」
を、
「【請求項6】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、
該セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、該マットフレームを敷設面に複数縦横に隣接させて敷設することにより、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し、
該空間部の任意経路に給水管を配設してなることを特徴とする植栽用マットの敷設設備。」
と訂正する。

(4)訂正事項(d)
発明の詳細な説明について、
「また、本発明による植栽用マットの敷設方法は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に敷設する際に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、該空間部のうち任意経路に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設することを特徴とする。そして、前記植栽用マットの敷設方法では、前記植栽用マットを敷設面に敷き詰める前に、該敷設面に予め保水層を設けると好適である。」(段落【0009】)を、
「また、本発明による植栽用マットの敷設方法は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設する際に、隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、該空間部のうち任意経路に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設することを特徴とする。そして、前記植栽用マットの敷設方法では、前記植栽用マットを敷設面に敷き詰める前に、該敷設面に予め保水層を設けると好適である。」(段落【0009】)と訂正する。

(5)訂正事項(e)
発明の詳細な説明について、
「また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に敷設し、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、該空間部のうち任意経路に給水管を配設することを特徴とする。また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、前記セルの底部に中空凹部を下方に突出形成することを特徴とする。また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする。また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする。」(段落【0010】)を、
「また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設し、隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、該空間部のうち任意経路に給水管を配設することを特徴とする。また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、前記セルの底部に中空凹部を下方に突出形成することを特徴とする。また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする。また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする。」(段落【0010】)と訂正する。

(6)訂正事項(f)
発明の詳細な説明について、
「また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、該マットフレームを敷設面に複数敷設することにより、該セル側壁間に全体として格子状の連続した空間部を形設し、該空間部の任意経路に管を配設してなることを特徴とする植栽用マットの敷設設備。」(段落【0011】)を、
「また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、該マットフレームを敷設面に複数縦横に隣接させて敷設することにより、隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し、該空間部の任意経路に給水管を配設してなることを特徴とする。」(段落【0011】)
と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項(a)について
ア 訂正事項(a)のうち、「植栽用マットを敷設面に敷設する」を「植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設する」とする訂正は、植栽用マットの敷設の態様を「縦横に隣接させて」と限定する訂正であるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
この訂正は、訂正前の特許明細書等における図22、24、26の記載を根拠とするものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項(a)のうち、「該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成する」を「隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成する」とする訂正は、セルの内向きへこみ部で形成する空間部の場所を、「隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に」、限定する訂正であるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
この訂正は、訂正前の特許明細書等における段落【0013】、【0056】、図23、25、26の記載を根拠とするものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項(b)について
ア 訂正事項(b)のうち、「植栽用マットを敷設面に敷設し」を「植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設し」とする訂正については、上記(1)訂正事項(a)についてのアで説示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項(b)のうち、「該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成する」を「隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成する」とする訂正については、上記(1)訂正事項(a)についてのイで説示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項(c)について
ア 訂正事項(c)のうち、「該マットフレームを敷設面に複数敷設する」を「該マットフレームを敷設面に複数縦横に隣接させて敷設する」とする訂正は、マットフレームの敷設の態様を「縦横に隣接させて」と限定する訂正であるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
この訂正は、訂正前の特許明細書等における図22、24、26の記載を根拠とするものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項(c)のうち、「該セル側壁間に全体として格子状の連続した空間部を形設し」を「隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し」とする訂正は、セル側壁間に形設される全体として格子状の連続した空間部の場所を、「隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に」、限定する訂正であるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
この訂正は、訂正前の特許明細書等における段落【0013】、【0056】、図22乃至26の記載を根拠とするものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項(c)のうち、「管」を「給水管」とする訂正は、管の用途を給水に限定する訂正であるから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
この訂正は、訂正前の特許明細書等における段落【0011】の記載を根拠とするものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項(d)、(e)、(f)について
訂正事項(d)、(e)、(f)は、特許請求の範囲の訂正に伴い、これに対応する発明の詳細な説明の記載を整合させて訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 まとめ
以上のとおり、訂正事項(a)乃至(f)はいずれも特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合し、かつ、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。
よって、訂正請求書に添付した明細書のとおり、訂正することを認める。

第5 無効理由についての当審の判断
1 無効理由1
(1)本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件発明1乃至6は、訂正明細書等の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至請求項6に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
ア 本件発明1
「【請求項1】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設する際に、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該空間部のうち任意経路に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設することを特徴とする植栽用マットの敷設方法。」

イ 本件発明2
「【請求項2】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、
該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設し、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該空間部のうち任意経路に給水管を配設することを特徴とする植栽用マットの敷設設備。」

ウ 本件発明3
「【請求項3】
前記セルの底部に中空凹部を下方に突出形成することを特徴とする請求項2記載の植栽用マットの敷設設備。」

エ 本件発明4
「【請求項4】
一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする請求項2又は3記載の植栽用マットの敷設設備。」

オ 本件発明5
「【請求項5】
一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする請求項2又は3記載の植栽用マットの敷設設備。」

カ 本件発明6
「【請求項6】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、
該セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、該マットフレームを敷設面に複数縦横に隣接させて敷設することにより、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し、
該空間部の任意経路に給水管を配設してなることを特徴とする植栽用マットの敷設設備。」

(2)引用刊行物に記載された発明
審判請求書に添付した甲第2号証(特開平9-51728号公報)であって、本願の出願前の平成9年2月25日に頒布された刊行物である引用刊行物1には、「プランターと植物栽培装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

<記載事項1>
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、主として、緑化対策の一貫として、施工性に優れた安価なプランターと、これを用いた植物栽培装置に関するものである。」

<記載事項2>
「【0004】本発明は、上記事情に基づいてなされたもので、プランターの構造を工夫することで、比較的簡単な施工で、給水、施肥などが自動化でき、短期的な緑化などにも採用できる可搬性のある、新規なプランターと植物栽培装置を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】このため、本発明では、図示の実施例でも明らかにしたように、プランターが、給水、給液、排水、通気などのために床面に配置される配管1と係合する係合部2Aを、容器2の底部に一体に形成すると共に、上記係合部2Aに対応して、上記底部に、配管1と連通する導通口2Bを設けた構造になっている。このようなプランター容器は、真空成形、圧空成形、射出成形又はプレス成形により形成され、プラスチック、セラミック等により構成されている。」

<記載事項3>
「【0007】また、本発明では、上記プランターを用いた植物栽培装置として、給水、給液、排水、通気などのための配管1を所定間隔で床面に配置すると共に、配管1と係合する係合部2Aを容器2の底部に一体に形成した複数のプランターを、係合部2Aが配管1に嵌合する状態で、床面上に隣接して配列すると共に、容器2の底部に設けた導通口2Bを介して、プランター容器の内部を配管1の導通口1Aに連通している。」

<記載事項4>
「【0010】このように、本発明のプランターを採用することで、床面に配管をすれば、そこにプランターを組合せ、配列して、所望の床面積で、大規模な植物栽培プラントが実現できることになる。これは、施工が簡単であり、工期も大幅に短縮でき、更には、可搬性があり、解体や部分取り替えなども行えるので、短期のイベント会場などの緑化にも採用できる。
【0011】また、要すれば、配管1を通して、各プランターに対して、給水、液体肥料の供給が行え、更に、プランターからの過剰水分の排出、植物の根に対する通気などの機能も、同一配管を介して実現でき、自動化することが可能である。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の第1の実施の形態を、図1?図4を参照して具体的に説明する。ここに示すプランターは、給水、給液、排水、通気などのために床面に略水平に配置される配管1を通す逆U字形断面の溝部よりなる係合部2Aを、平面視で正方形又は長方形をなす容器2の底部に一体に形成すると共に、係合部2Aに対応して、上記底部の中央に、配管1に形成した導通口1Aと連通する導通口2Bを設けている。なお、この実施の形態では、容器2は、真空成形や圧空成形、或いは射出成形などによって成形されるプラスチック製であり、導通口2Bは、容器2の内底面より上方に湾曲形成された溝部よりなる係合部2Aの上面より下方向にノズル状に突出され、適当な環状パッキング材3を介して導通口1Aに液密に嵌合されるのが好ましい。容器2をセラミックや金属などにより形成することも可能である。」

<記載事項5>
「【0014】このようなプランターを多数用いて、所要の面積の緑化領域を確保するための植物栽培装置は、上述の、給水、給液、排水、通気などのための配管1を所定間隔で床面4に略水平に設置すると共に、配管1を通す係合部2Aを容器2の底部に形成したプランターを、係合部2Aが配管1に嵌合する状態で、床面3上に配列すると共に、容器2の底部に設けた導通口2Bを介して、プランター内部を配管1の導通口1Aに連通して、構成される。この際、連係部2Cで隣接するプランターを相互に接続し、連続する長方形や、T字形、L字形、更には、十字形などの緑化領域を構成する。」

<記載事項6>
「【0018】
【発明の効果】本発明は、以上詳述したようになり、給水、給液、排水、通気などのために床面に配置される配管を通す係合部を、容器の底部に形成すると共に、上記係合部に配管と連通する導通口を設けているプランターを提供することで、以下のような作用効果が得られる。すなわち、本発明では、個々のプランターに、予め、土壌を詰め、施肥し、所要の植物を植裁しておけるので、緑化現場では、工期が著しく短縮できる。個々のプランターで植物栽培を始め、養生、ストックが可能なので、計画生産や在庫が可能であり、コストダウンなどの経済効果が得られる。配管も床面に設置するだけでよく、埋設などの面倒が無く、施工が容易であり、作業に熟練を要しないなどの利点がある。プランター容器を床面上に設置するときに、その係合部を配管に嵌合するようにして設置するところからその設置が容易で、位置決め配列も容易である。各プランター内への給排水を配管を通して行うので能率的である。プランターに鉤形の連係部を突設することによりプランターの位置決め配列が容易且つ確実となる。」

図面の図1からみて、プランターを床面に複数縦横に隣接させて敷設することが見て取れる。

図面の図2からみて、底部に導通口2Bが設けられ、側壁の下部に内向きへこみ部が形成された一つのセルが、上部が開口するように凹設された容器からなるプランターが見て取れる。

図面の図1、4からみて、プランターを床面上に配列する際に、隣接するプランターのセルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で経路となる空間部を形成することが見て取れる。

図面の図1、4からみて、プランターを床面上に配列する際に、隣接するプランターのセルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設することが見て取れる。

したがって、前記記載事項1乃至6及び図面の記載からみて、引用刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「底部に、真空成形や圧空成形、或いは射出成形によって成形され、ノズル状に突出した導通口2Bを設けた一つのセルが、上部が開口するように凹設された容器からなり、
該セルの側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植物栽培が可能なプランターを床面に複数縦横に隣接させて敷設する際に、
隣接するプランターのセルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で経路となる空間部を形成すると共に、
前記容器の底部に形成された逆U字形断面の溝部よりなる係合部に給水のための配管を通し、前記係合部の上面より前記ノズル状に突出した導通口2Bを、前記配管の導通口1Aに嵌合させる状態にて、該植物栽培が可能なプランターを敷設する植物栽培が可能なプランターの敷設方法。」(以下、「引用発明1」という。)

「底部に、真空成形や圧空成形、或いは射出成形によって成形され、ノズル状に突出した導通口2Bを設けた一つのセルが、上部が開口するように凹設された容器からなり、
該セルの側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植物栽培が可能なプランターを床面に複数縦横に隣接させて敷設し、
隣接するプランターのセルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で経路となる空間部を形成すると共に、
前記容器の底部に形成された逆U字形断面の溝部よりなる係合部に給水のための配管を通し、前記係合部の上面より前記ノズル状に突出した導通口2Bを、前記配管の導通口1Aに嵌合させる状態とする植物栽培が可能なプランターの敷設設備。」(以下、「引用発明2」という。)

「底部に、真空成形や圧空成形、或いは射出成形によって成形され、ノズル状に突出した導通口2Bを設けた一つのセルが、上部が開口するように凹設された容器からなり、
該セルの側壁の下部に内向きへこみ部を形成し、該容器を床面に複数縦横に隣接させて敷設することにより、
隣接するプランターのセルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し、
前記容器の底部に形成された逆U字形断面の溝部よりなる係合部に給水のための配管を通し、前記係合部の上面より前記ノズル状に突出した導通口2Bを、前記配管の導通口1Aに嵌合させる状態とする植物栽培が可能なプランターの敷設設備。」(以下、「引用発明3」という。)

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。

引用発明1において、容器の底部に、ノズル状に突出して設けられた導通口2Bを介して、配管から容器内に給水されるから、引用発明1の「導通口2B」は、本件発明1の「通水口」に相当する。
引用発明1の「底部に」は、本件発明1の「底部に若しくは底部近傍に」に相当する。同様に、「一つのセル」は「一つ又は複数のセル」に、「容器」は「マットフレーム」に、「側壁」は「所要側壁」に、「植物栽培が可能なプランター」は「植栽用マット」に、「床面」は「敷設面」に、「複数縦横に」は「縦横に」に、それぞれ相当する。
したがって、引用発明1の「底部に、真空成形や圧空成形、或いは射出成形によって成形され、ノズル状に突出した導通口2Bを設けた一つのセルが、上部が開口するように凹設された容器からなり、該セルの側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植物栽培が可能なプランターを床面に複数縦横に隣接させて敷設する」と、本件発明1の「底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設する」とは、「底部に若しくは底部近傍に通水口を設けられた一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設する」という点で共通する。

引用発明1の「隣接する」、「経路」は、それぞれ本件発明1の「隣り合う」、「所要経路」に相当するから、引用発明1の「隣接するプランターのセルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で経路となる空間部を形成する」は、本件発明1の「隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成する」に相当する。

引用発明1の「給水のための配管」は、本件発明1の「給水管」に相当する。
そして、引用発明1の逆U字形断面の溝部よりなる係合部を底部に形成した容器を敷設した場合、その係合部と敷設面との間に空間部が形成されるから、引用発明1の「前記容器の底部に形成された逆U字形断面の溝部よりなる係合部に給水のための配管を通し」と、本件発明1の「該空間部のうち任意経路に給水管を配設して」とは、「該植栽用マットの下部に形成された空間部に給水管を配設し」という点で共通する。
したがって、引用発明1の「前記容器の底部に形成された逆U字形断面の溝部よりなる係合部に給水のための配管を通し、前記係合部の上面より前記ノズル状に突出した導通口2Bを、前記配管の導通口1Aに嵌合させる状態にて、該植物栽培が可能なプランターを敷設する」と本件発明1の「該空間部のうち任意経路に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設する」とは、「該植栽用マットの下部に形成された空間部に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設する」という点で共通する。

引用発明1の対象である「植物栽培が可能なプランターの敷設方法」は、本件発明1の対象である「植栽用マットの敷設方法」に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明1の両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

<一致点>
「底部に若しくは底部近傍に通水口を設けられた一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設する際に、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該植栽用マットの下部に形成された空間部に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設することを特徴とする植栽用マットの敷設方法。」

<相違点1>
一つ又は複数のセルの底部に若しくは底部近傍に設けられた通水口が、本件発明1では、穿設されて設けられているのに対して、引用発明1では、穿設されて設けられていない点。

<相違点2>
給水管の配設に関して、本件発明1では、隣り合う該植栽用マットのセルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、該空間部のうち任意経路に給水管を配設しているのに対して、引用発明1では、そのように限定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点1
引用発明1は、容器の底部に形成された逆U字形断面の溝部よりなる係合部に給水のための配管を通し、前記係合部の上面より突出された導通口2Bが前記配管の導通口1Aに嵌合するものである。そして、配管の導通口1Aに嵌合するためには導通口2Bを突出して形成する必要があり、そのために真空成形や圧空成形、或いは射出成形によって成形されているところ、穿設する、すなわちプランターのセル又は容器の底部に孔をあけるだけでは、導通口2Bを突出して形成できず、前記配管の導通口1Aから容器内へ給水するという引用発明1の所期の目的が達成できないこととなる。つまり、引用発明1において、通水口として、真空成形や圧空成形、或いは射出成形によって成形されノズル状に突出したものから、本件発明1のように、穿設されたものに変更することには、阻害要因がある。
したがって、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たものとすることはできない。

(イ)相違点2
請求人は、甲第3号証から甲第8号証の記載を例示して、灌水用等の管を配設する態様は、植栽用マットの下方、側方、上方を通って配設するケースと様々であり、また甲第9号証から甲第10号証の記載を例示して、側壁下部の内向きにへこんでいる部分によって形成される空間部を何らかの目的で使用することは周知である旨主張している。
しかしながら、引用発明1は、容器の底部に形成された逆U字形断面の溝部よりなる係合部に給水のための配管を通し、配管からの給水を、配管の導通口1A、プランターの底部の導通口2Bを介してプランターに供給するものであり、隣り合うセルの側壁間の下部に該セルの内向きへこみ部で形成された空間部に、給水のための配管を通した場合、セルの側壁下部の内向きへこみ部には導通口2Bが形成されていないため、配管からプランターに給水するという目的が達成できない。よって、引用発明1において、給水のための配管を、導通口2Bを有する係合部と敷設面の間の空間部から、本件発明1のように、隣り合う植栽用マットのセルの側壁間の下部に該セルの内向きへこみ部で形成された空間部に移設することには、阻害要因がある。
したがって、灌水用等の管の配設が様々であることや、上記空間部を何らかの目的で使用することが、たとえ周知事項であるとしても、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たものとすることはできない。

また、請求人は弁駁書において、引用刊行物1には、係合部は、容器の底部において、縦方向又は横方向の少なくとも一方向に全通する溝部であり、その溝部が容器の中央部に形成されることには限定されないことが開示されており、しかも、その溝部が容器の底部の側壁側に形成されることも示唆されていると主張しているが、請求人の主張の根拠としている引用刊行物1の段落【0006】には、溝部である係合部が縦横二方向に形成されている場合は、容器の底部の中央で交差されているとよいと記載されているのみであって、容器の側壁で交差するとまでは読み取れない。
したがって、この記載から係合部が容器の底部の側壁側に形成されることも示唆されている旨の請求人の主張は採用できない。

そして、本件発明1によって奏される効果は、引用刊行物1の記載から当業者が予測し得る程度のものであるとすることはできない。

ウ まとめ
したがって、本件発明1は、引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明2とを対比すると、本件発明2と引用発明2の両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

<一致点>
「底部に若しくは底部近傍に通水口を設けられた一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設し、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該植栽用マットの下部に形成された空間部に給水管を配設することを特徴とする植栽用マットの敷設設備。」

<相違点3>
一つ又は複数のセルの底部に若しくは底部近傍に設けられた通水口が、本件発明2では、穿設されて設けられているのに対して、引用発明2では、穿設されて設けられていない点。

<相違点4>
給水管の配設に関して、本件発明2では、隣り合う該植栽用マットのセルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、該空間部のうち任意経路に給水管を配設しているのに対して、引用発明2では、そのように限定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点3
相違点3は相違点1と同一であるから、「(3)本件発明1について イ 判断 (ア)相違点1」の項において検討したとおり、上記相違点3に係る本件発明2の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たものとすることはできない。

(イ)相違点4
相違点4は相違点2と同一であるから、「(3)本件発明1について イ 判断 (イ)相違点2」の項において検討したとおり、上記相違点4に係る本件発明2の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たものとすることはできない。

そして、本件発明2によって奏される効果は、引用刊行物1の記載から当業者が予測し得る程度のものであるとすることはできない。

ウ まとめ
したがって、本件発明2は、引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(5)本件発明3について
本件発明3は、本件発明2において、セルの底部に中空凹部を下方に突出形成するという発明特定事項を付加したものである。
したがって、上記「(4)本件発明2について」で説示したように、本件発明2が、引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとすることはできないのであるから、同様に、本件発明3も、引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない

(6)本件発明4について
本件発明4は、本件発明2又は3において、隣り合う植栽用マットのセルの側壁の下部に形成された内向きへこみ部を相互に対向させ、空間部を形成すると限定したものである。
したがって、上記「(4)本件発明2について」、「(5)本件発明について3」で説示したように、本件発明2、本件発明3が、引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとすることはできないのであるから、同様に、本件発明4も、引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(7)本件発明5について
本件発明5は、本件発明2又は3において、隣り合う一の植栽用マットのセル側壁と、他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、空間部を形成すると限定したものである。
したがって、上記「(4)本件発明2について」、「(5)本件発明について3」で説示したように、本件発明2、本件発明3が、引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとすることはできないのであるから、同様に、本件発明5も、引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(8)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と引用発明3とを対比すると、本件発明6と引用発明3の両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

<一致点>
「底部に若しくは底部近傍に通水口を設けられた一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、該マットフレームを敷設面に複数縦横に隣接させて敷設することにより、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し、
該植栽用マットの下部に形成された空間部に給水管を配設することを特徴とする植栽用マットの敷設設備。」

<相違点5>
一つ又は複数のセルの底部に若しくは底部近傍に設けられた通水口が、本件発明6では、穿設されて設けられているのに対して、引用発明3では、穿設されて設けられていない点。

<相違点6>
給水管の配設に関して、本件発明6では、セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、マットフレームを敷設面に複数縦横に隣接させて敷設することにより、隣り合う該植栽用マットのセルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し、該空間部の任意経路に給水管を配設しているのに対して、引用発明3では、そのように限定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点5
相違点5は相違点1と同一であるから、「(3)本件発明1について イ 判断 (ア)相違点1」の項において検討したとおり、上記相違点5に係る本件発明6の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たものとすることはできない。

(イ)相違点6
相違点6と相違点2とはいずれも、本件発明では、セルの側壁間の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、隣り合う植栽用マットのセルの側壁間の下部に形成した空間部の任意経路に給水管を配設しているのに対して、引用発明では、そのように限定されていないという点において共通しており、この点についての相違点6の判断は、相違点2と変わらない。よって、「(3)本件発明1について イ 判断 (イ)相違点2」の項において検討したとおり、上記相違点6に係る本件発明6の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得たものとすることはできない。

そして、本件発明6によって奏される効果は、引用刊行物1の記載から当業者が予測し得る程度のものであるとすることはできない。

ウ まとめ
したがって、本件発明6は、引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(9)まとめ
以上のとおり、本件発明1乃至6は、いずれも引用発明1及び甲第3号証から甲第10号証に記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2 無効理由2
(1)「保水層」について
訂正明細書等の段落【0011】に「また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、該マットフレームを敷設面に複数縦横に隣接させて敷設することにより、隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し、該空間部の任意経路に給水管を配設してなることを特徴とする。」と記載されており、「保水層」のない構成について記載されているといえる。
また、本件発明において解決しようとする課題は、段落【0006】に記載されているように、既存の建築物に適用でき且つ敷設や撤去作業に多大な時間、労力やコストを必要としないことであるが、植栽用マットの敷設や撤去の作業性を良くする作用効果は、分解可能な軽量な植栽用マットを敷設面に複数敷き詰め、対向するセル側壁下部に給水管配設用空間部が形成されることによるものであり、「保水層」があることによるものではない。
したがって、本件発明の発明特定事項に「保水層」がなかったとしても、本件発明は課題を解決し得るものであり、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1乃至6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものである。

(2)「通水口」と「給水管」の関係について
上述したように、「保水層」がなかったとしても、本件発明は植栽用マットの敷設や撤去の作業性を良くする効果を奏し課題を解決するものであるから、その意味において「通水口」と「給水管」の関係、及び「給水管」の技術的意義は明確である。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1乃至6の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1乃至本件発明6についての特許は、無効とすべきものとすることはできない。
また、本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
植栽用マット及びその敷設方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、
該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設する際に、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該空間部のうち任意経路に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設することを特徴とする植栽用マットの敷設方法。
【請求項2】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、
該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設し、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、
該空間部のうち任意経路に給水管を配設することを特徴とする植栽用マットの敷設設備。
【請求項3】
前記セルの底部に中空凹部を下方に突出形成することを特徴とする請求項2記載の植栽用マットの敷設設備。
【請求項4】
一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする請求項2又は3記載の植栽用マットの敷設設備。
【請求項5】
一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする請求項2又は3記載の植栽用マットの敷設設備。
【請求項6】
底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、
該セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、該マットフレームを敷設面に複数縦横に隣接させて敷設することにより、
隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し、
該空間部の任意経路に給水管を配設してなることを特徴とする植栽用マットの敷設設備。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明はビルの屋上、ベランダ、テラスなど、特に人工地盤に配設して、植物、特に芝生などの地被植物、草花、野菜などを育成する植栽用マット及びその敷設方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ビルの屋上、ベランダ、テラスのように平面的な敷設面を有する箇所に植物を植栽する場合には、防水層及び防根層を形成し又はシートを敷き、その上に土壌を盛って、芝生等の地被植物、草木、野菜などを植栽していた(例えば、特開平4-99411号公報)。
【0003】
しかし、上記のように土壌を敷設する方法では防水層などの設備が必要となるため、既存の建築物に適用することが困難である一方、新建築物に用いる場合にもコスト負担が大きくなるという問題がある。
【0004】
また、上記の植栽設備を使用するためには大がかりな作業が必要となり、多大な時間と労力を要することとなる。
【0005】
他方では、一般に防水層の寿命は10年?15年と言われており、そのたび毎に撤去作業が必要となる。また、寿命以外にも植栽工事などで不慮にして敷設面、防水面に損傷を生じた場合に、漏水防止のために植栽植物や土壌を撤去し防水層を補修する必要がある。この撤去作業にも多大な時間と労力を要する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであって、既存の建築物に適用でき且つ敷設や撤去作業に多大な時間、労力やコストを必要としない植栽用マット及びその敷設方法を提供することを目的とする。
【0007】
更には、土壌や水分の管理が容易な植栽用マット及びその敷設方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明による植栽用マットは、底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形設してなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明による植栽用マットの敷設方法は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設する際に、隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、該空間部のうち任意経路に給水管を配設して、該植栽用マットを敷設することを特徴とする。そして、前記植栽用マットの敷設方法では、前記植栽用マットを敷設面に敷き詰める前に、該敷設面に予め保水層を設けると好適である。
【0010】
また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きへこみ部を形成してなる植栽用マットを敷設面に縦横に隣接させて敷設し、隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、該セルの内向きへこみ部で所要経路の空間部を形成すると共に、該空間部のうち任意経路に給水管を配設することを特徴とする。また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、前記セルの底部に中空凹部を下方に突出形成することを特徴とする。また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする。また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、一の前記植栽用マットと他の前記植栽用マットとを隣り合わせ、該一の植栽用マットのセル側壁と、該他の植栽用マットのセル側壁の下部に形成された内向きへこみ部とを相互に対向させ、前記空間部を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の植栽用マットの敷設設備は、底部に若しくは底部近傍に通水口を穿設された一つ又は複数のセルが、上部が開口するように凹設されたマットフレームからなり、該セルの所要側壁の下部に内向きにへこんでいる部分を形成し、該マットフレームを敷設面に複数縦横に隣接させて敷設することにより、隣り合う該植栽用マットの該セルの側壁間の下部に、全体として格子状の連続した空間部を形設し、該空間部の任意経路に給水管を配設してなることを特徴とする。
【0012】
【作用】
上記の如く、分解可能な軽量の植栽用マットを敷設面に複数敷き詰めるものであるから、極めて容易かつ短時間に且つコストをかけずに敷設や撤去作業を行うことが可能である。
【0013】
また、セルの側壁下部に形設された内向きへこみ部を有する複数の植栽用マットを単に敷設面に敷き詰め、或いは内向きへこみ部を形設したセル側壁を対向させて敷設面に敷き詰めることにより、対向するセル側壁相互間の下部に所要経路の給水管配設用空間部が形成されるので、作業性が非常に良い。
【0014】
また、植栽用マットの敷設面に平面状の保水層を形設することで、植栽用マット内に植物育成材(客土、軽量人工土壌等)を詰め込んで種子を撒き或いは草木等を植栽した場合、植栽用マットの上部からのジョウロ等による灌水や降雨などの余剰水の一部は排水ドレインに排水されずに、各セル内の底部に形設した通水口から保水層に吸水され貯水される。このため、セル内の植物育成材が水不足となった場合、保水層の水分がセル底部の開口部から毛細管現象によって通水口に導かれて吸水されることになる。従って、保水層が植物育成材への水分補給源となり、水枯れの心配がなく、種子・植物の育成に大きく貢献し管理も容易になる。
【0015】
更には、保水層の上面の給水管配設用空間部に給水管を配設し、給水管の周囲に小穴を穿設して給水することで、水分が保水層に貯水される。このため、植栽用マット内に詰め込んだ土壌の水分が不足した場合、植栽用マットの底面に設けた通水口から吸水され、水枯れすることなく植物育成材に撒いた種子または植栽植物の育成を良好に保つことができ、管理も更に容易になる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、具体的な実施形態に基づいて説明するが、本発明はかかる実施形態によって限定されるものではない。
【0017】
植栽用マット1(第一実施形態)は、図1乃至図3に示す如く、上部が開口するように一つのセル3が凹設された方形のマットフレーム2からなり、セル3の四面側壁3aの下部には、内向きへこみ部4が形設されている。
【0018】
セル3の側壁3a下部から底部3b中心に向かって隆起部5が形成され、底部3b中心付近にある隆起部5の端部上面の適宜箇所には、通水口6が穿設されている。隆起部5の内側は、逆U字型の空間で凹溝の開口部7になっており、余剰水は開口部7を通って排出される構成である。通水口6及び開口部7の形状、寸法、個数などの形態は、マットフレーム2及びセル3の構成に応じて適宜決定され、底部3bまたは底部3bの近傍にあればよく、これは以下の各実施形態においても同様である。
【0019】
マットフレーム2の周縁には補強として周縁リブ8aが形成されているが、これはマットフレーム2自体が必要強度を有すればなくてもよく、以下の各実施形態においても同様である。
【0020】
尚、マットフレーム2の材質は合成樹脂製のものが良好であり、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレンが用いられ、真空成型、ブロー成型、射出成型、押し出し成型等の成型方法で形成される。また、マットフレーム2の大きさは、例えば25cm×25cm、25cm×50cm、50cm×50cmとする等適宜である。
【0021】
ここで、第一実施形態の類似の変形例について説明する。
【0022】
第一変形例は図4に示す如く、セル3が一つのマットフレーム2で、四つの側壁3aうち三面において側壁3aの下部が内向きにへこみ、内向きへこみ部4が形設されている。他の一側壁3aは、上部から下部に向かって緩い内向きテーパ面となっている。
【0023】
第二変形例は図5に示す如く、四つの側壁3aうち相隣する二面において側壁3aの下部が内向きにへこみ、内向きへこみ部4が形設されている。他の相隣する二側壁3aは、上部から下部に向かって緩い内向きテーパ面となっている。
【0024】
第三変形例は図6に示す如く、セル3が一つのマットフレーム2で、四つの側壁3aうち一面において側壁3aの下部が内向きにへこみ、内向きへこみ部4が形設されている。他の三側壁3aは、上部から下部に向かって緩い内向きテーパ面となっている。
【0025】
次に、植栽用マット1の第二実施形態について説明する。図7に示す如く、植栽用マット1は方形のマットフレーム2からなり、四面の側壁2aの下部には内向きへこみ部4が形設されている。マットフレーム2内には、マットフレーム2の上端部を越えない高さ、即ち周縁リブ8aの高さと同一か又はこれより低い高さで十字状に画成部材9を配設し、マットフレーム2内を四個のセル3に画成している。
【0026】
画成部材9の形状は、図示例の外、交差状、井桁状等適宜である。また、画成部材9はマットフレーム2と一体成型する、別部材をマットフレーム2内に配設する等適宜である。上記構成は、後述する第二実施形態の類似の変形例である植栽用マット1にも適用できる。
【0027】
ここで、第二実施形態の類似の変形例について説明する。
【0028】
第一変形例は図8に示す如く、方形マットフレーム2の側壁2aのうち、三面の側壁2aの下部に、内向きへこみ部4を形設してある。他の一側壁2aは、上部から下部に向かって緩い内向きテーパ面になっている。
【0029】
第二変形例は図9に示す如く、方形マットフレーム2の側壁2aのうち、相隣する二面の側壁2aの下部に内向きへこみ部4を形設してある。他の相隣する二面の側壁2aは上部から下部に向かって緩い内向きテーパ面になっている。
【0030】
第三変形例は図10に示す如く、方形マットフレーム2の側壁2aのうち、一面の側壁2aの下部に内向きへこみ部4を形設してある。他の三面の側壁2aは上部から下部に向かって緩い内向きテーパ面になっている。
【0031】
次に、植栽用マット1の第三実施形態について説明する。図11に示す如く、植栽用マット1は四個の略方形のセル3が凹設されたマットフレーム2からなり、隣接するセル3相互は、その上端部を連結リブ8bによって連接されている。マットフレーム2の外周部にはセル3の上端部に、連結リブ8bと略同一の高さの周縁リブ8aが設けられている。そして、マットフレーム2の四側面に位置する四個のセル3における外側壁3aの下部に、内向きへこみ部4を形設してへこませてある。
【0032】
周縁リブ8a、連結リブ8bの厚さは、可撓性を持たせて敷設面の凸凹等(スラブ)の不陸によく追従させると同時に、マットフレーム2に直接または歩行板を敷いて人が乗っても、つぶれない程度の強度を有する厚さとすることが必要である。これにより、マットフレーム2は、複数のセル3の底部3bで支持されて屈曲により安定感を有すると共に、屋上などのスラブ面に敷き詰め可能な形状となる。また、セル3の厚さと同様となる配慮が必要である。尚、場合によって、連結リブ8bは別体で設けることも可能である。
【0033】
他の構成については第一実施形態と同様、セル3の側壁3a下部から底部3b中心に向かって隆起部5が形成され、底部3b中心付近にある隆起部5の端部上面の適宜箇所には、通水口6が穿設されている。隆起部5の内側は、逆U字型の空間で凹溝の開口部7になっており、余剰水は開口部7を通って排出される構成である。
【0034】
上記第三実施形態の植栽用マット1は、類似の変形例として示した図12乃至図14の如く、マットフレーム2の三側面、二側面及び一側面に位置する所定数のセル3の外側壁3aの下部に、内向きへこみ部4を形設して適用できる。
【0035】
次に、植栽用マット1の第四実施形態について説明する。図15に示す如く、本実施形態の植栽用マット1は、第一実施形態の植栽用マット1の四個を、その上端部で周縁リブ8aと連結リブ8bで連接し、一体に形成した構成の植栽用マット1である。各セル3の側壁3aの下部に内向きへこみ部4を形設すること、各セル3内の底部3bの通水口6等の構成は第一実施形態と同様である。
【0036】
ここでも、周縁リブ8a、連結リブ8bの厚さは、可撓性を持たせて敷設面の凸凹等(スラブ)の不陸によく追従させると同時に、マットフレーム2に直接または歩行板を敷いて人が乗っても、つぶれない程度の強度を有する厚さとすることが必要であり、更にセル3の厚さと同様となる配慮が必要である。
【0037】
そして、マットフレーム2のセル3を四個としたので、各セル3の対向する側壁3a間の下部に、連結した略逆U字形の空間部10が形成される。即ち、マットフレーム2の連結リブ8bの下部に十字状の空間部10が形成される。
【0038】
ここで、第四実施形態の類似の変形例を図16乃至図19に示す。第四実施形態の植栽用マット1は、図16乃至図18の如く、三側面、二側面及び一側面に位置する所定数のセル3の外側壁3aの下部に内向きへこみ部4を形設したマットフレーム2、或いは図19の如く、外側壁3aに内向きへこみ部4を形設しないマットフレーム2、とすることも当然可能である。
【0039】
尚、上述した植栽用マット1では、マットフレーム2に凹設されるセル3の数を四個としたが、この他六個、八個、九個など適宜である。また、上記第一乃至第三実施形態の植栽用マット1は、各セル3内にフィルタを介して客土や軽量人工土壌などの植物育成材を詰め込み、種子を撒き或いは芝生等の地被植物、草木等を植えて、独立して個々に植物栽培用マット1として使用できる。
【0040】
次に、植栽用マット1の第五実施形態について説明する。図20に示す如く、本実施形態の植栽用マット1は、セル3が一つのマットフレーム2で、四面の側壁3aの下部を内側にへこませ、内向きへこみ部4を形設している。
【0041】
この植栽用マット1は、第一実施形態の植栽用マット1と類似の構成であるが、各セル3内の底部3bに、下方に中空凹部11を所定寸法に突出形成して、底部3bのレベルを前記所定寸法上部に移動させ、中空凹部11の底部11a近傍に通水口6を穿設したものである(図21参照)。
【0042】
図20示例では、四面の側壁3aに内向きへこみ部4を形設したが、この他、三側面、二側面又は一側面に内向きへこみ部4を構成することは、前述の各実施形態に示した通り適宜である。
【0043】
そして、以下では植栽用マット1を実際に敷設面に敷設する方法について説明する。図22は植栽用マット1を敷設方法の第一実施形態の平面図、図23はその正面図である。
【0044】
本実施形態では、マットフレーム2の相隣する二側面に位置する各セル3の側壁3aの下部に内向きへこみ部4を形設した植栽用マット1(図13参照)を用い、各セル3内に植物育成材12である客土を詰め込んだ状態としてある。
【0045】
その後、セル3の適宜側壁3aに形設された内向きへこみ部4を相互に対向させて、複数の植栽用マット1を屋上、ベランダ、テラス等の敷設面13に敷き詰め、各マットフレーム2のセル3相互間の下部に、所用経路の略逆U字形の空間部10が形成されることになる。この空間部10は、後述する給水管配設用の空間としての役割を果たす。
【0046】
また、上部から下部に向かって緩い内向きテーパ面となっているセル3の側壁3aと、セル3の側壁3aの下部に形設された内向きへこみ部4を相互に対向させて敷き詰めた場合は、図23示例形状の空間部10aが形成される。この空間部10aは上記空間部10よりも狭いが、細い給水管15の配設用空間として有効である。
【0047】
尚、植栽用マット1への植物育成材12の詰め込み、及びその後の播種、芝生等の地被植物・草木等の植え込みは、敷設面13への植栽用マット1の敷設前又は敷設後のどちらでもよい。上記のように敷設した植栽用マット1の種子・植物は、その上部からのジョウロ等による潅水、降雨等により育成することができる。
【0048】
ここで、上記植栽用マット1の敷設方法の種々形態につき説明する。
【0049】
まず、マットフレーム2の四側面の下部に内向きへこみ部4を形設した植栽用マット1の場合(図3、図7、図11、図15参照)、単に敷き詰めることにより、マットフレーム2若しくは各セル3の対向側壁2a、3a間に略逆U字形の空間部10が形成され、全体として格子状の連結した空間部10が構築される。
【0050】
尚、図15示例においては、予めマットフレーム2の連結リブ8bの下部に十字状の略逆U字形の空間部10が形成されているので、図20及び図21の敷設例に対して二倍の数の格子状の連続した空間部10が構築される。
【0051】
また、マットフレーム2の三側面、二側面又は一側面の下部に内向きへこみ部4を形設した植栽用マット1の場合(図4乃至図6、図8乃至図10、図12乃至図14、図16乃至図18参照)、各セル3の内向きへこみ部4を対向させて敷き詰めることにより、その部分に略逆U字形の空間部10が形成され、全体として所要経路の連続した空間部10が構築される。
【0052】
尚、図15の変形例である図16乃至図18示例では、予めマットフレーム2の連結リブ8bの下部に十字状の略逆U字形の空間部10が形成されているので、格子状の連続した空間部10が付加構築される。
【0053】
また、図19示例のマットフレーム2は、各セル3の連結リブ8bの下部に十字状の略逆U字形の空間部10が形成されているのみで、その空間部10により格子状の連続した空間部10が構築される。
【0054】
更に、敷設面13に保水層14を設け、その上に植栽用マット1を敷設し、給水管15を配設する敷設方法について説明する。
【0055】
本実施形態の敷設方法では、図24乃至図26に示す如く、敷設面13に平面状の保水層14を敷設して形成し、その上に植栽用マット1を敷設する。上記図示例は、図15の植栽用マット1を複数個適用し、各セル3内に植物育成材12としての軽量人工土壌を詰め込んだ状態としてある。敷設する保水層14としては、化学繊維や天然繊維を使用した織布・不織布・フェルト、吸水ポリマーをシート状に加工したもの、あるいはそれらの複合物等を用いる。
【0056】
そして、植栽用マット1を敷設する際には、マットフレーム2の下部の十字状の空間部10及び隣接する植栽用マット1の相互間の下部に形成される空間部10の位置で保水層14上に、空間部10の所要経路に沿うように給水管15を配設し、空間部10の位置に配設した給水管15を覆うように植栽用マット1を敷き詰める。
【0057】
即ち、屋上、ベランダ、テラス等の敷設面13に平面上の保水層14を形成した後、複数の植栽用マット1を敷き詰めて、各マットフレーム2の連結リブ8bの下部及び各セル3相互間の下部に所要経路の略逆U字形の空間部10が格子状に連続形成されることになる。
【0058】
これにより、空間部10に給水管15が配設された状態となり、前記空間部10は、給水管配設用の空間部10として極めて重要な役割を果たすことになる。また、前記空間部10aについても細い給水管15に対する配設用空間として貴重な役割を果たす。給水管15は潅水用加圧装置に接続され全体として潅水装置を構成する。
【0059】
尚、植栽用マット1への植物育成材12の詰め込み、及びその後の播種、芝生等の地被植物・草木等の植え込みは、植栽用マット1の敷設前または敷設後のどちらでもよい。
【0060】
上記の如く保水層14を設けることで、ジョウロ等による上部からの潅水、降雨等の余剰水の一部は、排水ドレインに排水されることなく保水層14に貯水され、セル3内の植物育成材12が水不足となった場合、保水層14の水分を底部3bの通水口6から毛細管現象によって吸水される。従って、保水層14は植物育成材12への水分補給源となって水枯れの心配がなく、植物の育成に大きく貢献し管理も容易になる。
【0061】
そして、保水層14の存在により、植物の成育の培地となる植物育成材12を少なくしても、植物の育成条件である水分を好適に保持することができるので、ビル屋上、ベランダ、テラス等の敷設面13への加重負担を軽減できる。
【0062】
また、植栽用マット1の底部3bにある通水口6から出た植物の根張りは、保水層14上または保水層14内に位置して、敷設面13を劣化させることがなく、防根の作用も果たす。
【0063】
尚、植栽用マット1の敷設面13への敷き詰めに際しては、各種ある植栽用マット1の中から適宜形状のものを選定し、適材適所に組み合わせて敷設することが可能で、その適合性は極めて大きい。また、本発明の植栽用マット1は、図示例の形状に限定されることなく、本発明の要旨の範囲内である植栽用マット1の全てを包含するものである。
【0064】
【発明の効果】
本発明による植栽用マット及びその敷設方法は上記構成であるから、既存の建築物に適用することが可能であり、且つ敷設や撤去作業に多大な時間、労力やコストを必要としない効果を奏する。
【0065】
更には、土壌や水分の管理が容易な植栽用マット及びその敷設方法を提供することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による植栽用マットの第一実施形態の平面図。
【図2】図1の正面図。
【図3】図1の斜視図。
【図4】第一実施形態の第一変形例の斜視図。
【図5】第一実施形態の第二変形例の斜視図。
【図6】第一実施形態の第三変形例の斜視図。
【図7】本発明による植栽用マットの第二実施形態の斜視図。
【図8】第二実施形態の第一変形例の斜視図。
【図9】第二実施形態の第二変形例の斜視図。
【図10】第二実施形態の第三変形例の斜視図。
【図11】本発明による植栽用マットの第三実施形態の斜視図。
【図12】第三実施形態の第一変形例の斜視図。
【図13】第三実施形態の第二変形例の斜視図。
【図14】第三実施形態の第三変形例の斜視図。
【図15】本発明による植栽用マットの第四実施形態の斜視図。
【図16】第四実施形態の第一変形例の斜視図。
【図17】第四実施形態の第二変形例の斜視図。
【図18】第四実施形態の第三変形例の斜視図。
【図19】第四実施形態の第四変形例の斜視図。
【図20】本発明による植栽用マットの第五実施形態の斜視図。
【図21】第五実施形態における中空凹部の部分斜視図。
【図22】本発明による植栽用マット敷設方法の第一実施形態の平面図。
【図23】図22の正面図。
【図24】本発明による植栽用マット敷設方法の第二実施形態の平面図。
【図25】図24の正面図。
【図26】図24の斜視図。
【符号の説明】
1 植栽用マット
2 マットフレーム
2a 側壁
3 セル
3a 側壁
4 内向きへこみ部
6 通水口
8a 周縁リブ
8b 連結リブ
10 空間部
14 保水層
15 給水管
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-04-07 
結審通知日 2009-04-10 
審決日 2009-04-21 
出願番号 特願平10-129302
審決分類 P 1 113・ 121- YA (A01G)
P 1 113・ 537- YA (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 裕一  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 濱本 禎広
飯野 茂
登録日 2007-10-19 
登録番号 特許第4028929号(P4028929)
発明の名称 植栽用マット及びその敷設方法  
代理人 元井 成幸  
代理人 元井 成幸  
代理人 高橋 隆二  
代理人 高橋 隆二  
代理人 藤本 昇  
代理人 薬丸 誠一  

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