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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 F16K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16K
管理番号 1213218
審判番号 不服2008-30273  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-27 
確定日 2010-03-11 
事件の表示 平成11年特許願第183851号「ボールバルブ」拒絶査定不服審判事件〔平成13年1月16日出願公開、特開2001-12622号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成11年6月29日の出願であって、平成20年10月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年11月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年12月25日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成20年12月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年12月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「流体通過孔が内壁面で形成されたハウジングと、該ハウジングの流体通過孔に回転可能に配置されるとともに中央部を貫通する貫通孔及び外殻を形成する球状外周面とをもつ回転ボールと、前記ハウジングの内壁面に係止され前記回転ボールの球状外周面と前記ハウジングの内壁面との間の環状の隙間を気密的にシールする環状シール部材とを持つボールバルブであって、
前記環状シール部材は、ゴム材料で形成するとともに、前記回転ボールの回転に伴う前記環状シール部材の前記ハウジング内壁面の係止部の浮きを抑制するための浮き防止部材を一体に具備し、
該浮き防止部材は、前記環状シール部材の環状平面に平行に沿って形成されたリング状の平面部と、該平面部垂直に延設された前記平面部を補強する補強部を有し、
前記補強部は前記ハウジング内壁面の係止部のシール周面に対面し、
前記平面部は、先端部が前記環状シール部材に埋没されて該平面部の端部を前記環状シール部材で覆われる構造とすることにより、前記補強部と前記環状シール部材の埋没部とを除く前記浮き防止部材の外周面は、前記環状シール部材が係止される前記内壁面との間で空間を形成し、
前記埋没された環状シール部材は、前記浮き防止部材の平面部の先端部のバネ応力によって弾性変形し、前記ハウジングの内壁面と前記環状シール部材との隙間を気密的にシールする
ことを特徴とするボールバルブ。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)

2.補正の目的及び新規事項の追加の有無
上記補正は、補正前の請求項1(平成20年9月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である「環状シール部材」について、「ゴム材料で形成するとともに」との限定を付加し、浮き防止部材について、「該浮き防止部材は前記環状シール部材と一体となり前記環状シール部材が係止される前記内壁面との間で空間を形成するとともに、前記環状シール部材は前記浮き防止部材の端部を覆っている」とあるのを「該浮き防止部材は、前記環状シール部材の環状平面に平行に沿って形成されたリング状の平面部と、該平面部垂直に延設された前記平面部を補強する補強部を有し、前記補強部は前記ハウジング内壁面の係止部のシール周面に対面し、前記平面部は、先端部が前記環状シール部材に埋没されて該平面部の端部を前記環状シール部材で覆われる構造とすることにより、前記補強部と前記環状シール部材の埋没部とを除く前記浮き防止部材の外周面は、前記環状シール部材が係止される前記内壁面との間で空間を形成し、」と限定し、さらに、環状シール部材の作用に関する事項である「前記埋没された環状シール部材は、前記浮き防止部材の平面部の先端部のバネ応力によって弾性変形し、前記ハウジングの内壁面と前記環状シール部材との隙間を気密的にシールする 」という事項を追加するものである。
ところで、請求項1に追加された「前記埋没された環状シール部材は、前記浮き防止部材の平面部の先端部のバネ応力によって弾性変形し、前記ハウジングの内壁面と前記環状シール部材との隙間を気密的にシールする」という補正事項(以下、「追加補正事項」という。)は、平成20年12月25日付けの手続補正により補正された審判請求書の請求の理由によれば、出願当初の明細書の段落【0031】、【0032】、【0042】及び【0043】の記載事項、並びに図2及び図3の図示内容を補正の根拠とするものである。そして、出願当初の明細書には、次のように記載されている。
「【0031】また、環状シール部材71(72)には、浮き防止部材76(77)が一体的に接合されている。この浮き防止部材76(77)は、環状シール部材71(72)の第1及び第2の環状平面711及び712(721及び722)に平行に沿って形成されたリング状の平面部761(771)と、この平面部761(771)の外縁全周から所定の曲率で略垂直方向に折れ曲がって延設され、筒状に形成された外周部762(772)とを備えて構成されている。この外周部762(772)は、平面部761(771)の変形を補強する補強部としての役割を果たす。」
「【0032】また、ゴム製の環状シール部材71(72)と浮き防止部材76(77)とは、焼き付け、接着等により一体とされ、図に示すように環状シール部材71(72)の外周が浮き防止部材76(77)の外周部762(772)で覆われ、また浮き防止部材76(77)の平面部761(771)はその先端部が環状シール部材71(72)に埋没するようにされている。」
「【0042】さらにこの浮き防止部材77は、図2に良く示すように、環状シール部材72に一体的に取り付けられているとともに、環状シール部材72の第1及び第2の環状平面721及び722に平行に沿って形成されたリング状の平面部771と、平面部771から略垂直に延設されて環状平面部を補強する補強部772とを有する。浮き防止部材77が単に環状平面部のみをもつ円板リング形状であると、回転ボールの回転操作に伴い環状シール部材に作用する局所的な圧力によって、円板リング形状の浮き防止部材自体も変形してしまうおそれがあるが、本例の浮き防止部材77は上記したように、リング状の平面部771及び、この平面部771から略垂直に延設されて平面部771を補強する補強部772とを有するので、この補強部772が平面部771の剛性を補強するリブ的な役割を果たし、浮き防止部材77自体が変形することを防止する。従って、確実にシール部材の局所的な変形を防止することができる。」
「【0043】また、浮き防止部材77における補強部772は、平面部771の外縁全周から略垂直に延設されて筒形状を呈した外周部とされている。このように平面部771の全周から略垂直に筒状に補強部(外周部)772を形成することにより、浮き防止部材77の剛性がより一層補強され、浮き防止部材77の変形、ひいては環状シール部材72の変形による浮きを確実に防止することができる。」
しかしながら、上記のとおり、審判請求人が補正の根拠としてあげた段落【0031】、【0032】、【0042】及び【0043】には追加補正事項については何も記載されておらず、また、これらの記載からみて自明の事項とも認められない。また、出願当初の明細書の他の記載及び図面を見ても、追加補正事項についてはどこにも記載されていないし、また、それらの記載からみて自明の事項とも認められない。
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

本件補正が却下すべきものであることは上述のとおりであるが、本件補正が新規事項を追加するものではないとした場合、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することになる。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)についても、以下に検討する。

3.独立特許要件
3-1.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭62-95494号(実開昭64-771号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、「ボールバルブ用パッキン」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「流体流通孔を備えてバルブケース内に回転可能に装着されたボールバルブとバルブケースとの間には、ボールバルブの周面に対し弾性接触した状態で摺動して密封機能をもたらすボールバルブ用パッキンが使用されている。
第3図に示すものは、従来から知られているボールバルブ用パッキンの一例で、バルブケース(1)内に形成されたパッキン装着段部(2)内に、ゴム材料をもって略4分円状の断面形状を呈する環状体に製せられ、略L字様の断面形状を呈する補強環(11)を接着されたボールバルブ用パッキンが装着され、ボールバルブ(3)の周面に対する弾性接触によってバルブケース(1)とボールバルブ(3)との間の密封機能をもたらしている。」(明細書2ページ10行?3ページ4行)
イ.「上記した従来例のボールバルブ用パッキンは、ボールバルブ(3)の周面に対する断面円弧形状の環状体の内周面の弾性接触によって両部材間の密封機能を生じさせるように構成されているために、両部材間の摺動抵抗が高く保たれ、バルブの開閉をソレノイドによって行わせるようになした制御機構においてその作動を不可能にするとか、長時間放置された場合に、両部材の接触部が固着して密封性を低下させる等の問題点を有している。」(明細書3ページ6行?14行)
ウ.第3図には、流体通過孔が内壁面で形成されたバルブケース1と、該バルブケース1の流体通過孔に回転可能に配置されるとともに中央部を貫通する流体流通孔4及び外殻を形成する外周面とをもつボールバルブ3と、前記バルブケース1の内壁面に係止されたパッキンとを持つボールバルブ装置が図示されている。ボールバルブ3は、全体形状が一般に球形であることからみて、外殻を形成する球状外周面をもつことは明らかである。
エ.第3図には、バルブケース1の内壁面にシール周面とシール垂直面とからなるパッキン装着段部2が形成されている点が図示されている。
オ.第3図には、補強環11を一体に具備するパッキンであって、バルブケース1のパッキン装着段部2に係止されたパッキンが図示されている。パッキンは、ボールバルブ3の球状外周面とバルブケース1の内壁面との間の環状の隙間を密封することは明らかである。
カ.第3図には、パッキンの環状平面に平行に沿って形成されたリング状の平面部と、該平面部垂直に延設された筒状部とを有する補強環11が図示されている。また、補強環11の筒状部はパッキン装着段部2のシール周面に対面していることが看取できる。
キ.第3図には、補強環11の平面部の先端面がパッキンで覆われる構造となっていて、補強環11の外周面は、パッキンが係止されるバルブケース1の内壁面との間で空間を形成している点が図示されている。また、パッキンは補強環11の平面部の先端面を覆うとともに、その覆っている部分がバルブケース1のシール垂直面に向かって突出し、その突出部がシール垂直面に当接している態様が図示されている。この突出部がシール垂直面に当接している構成により、パッキンが、バルブケース1の内壁面とパッキンとの隙間を密封する機能を果たしていることは明らかである。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに従って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「流体通過孔が内壁面で形成されたバルブケース1と、該バルブケース1の流体通過孔に回転可能に配置されるとともに中央部を貫通する流体流通孔4及び外殻を形成する球状外周面とをもつボールバルブ3と、前記バルブケース1の内壁面に係止され前記ボールバルブ3の球状外周面と前記バルブケース1の内壁面との間の環状の隙間を密封するパッキンとを持つボールバルブ装置であって、
前記パッキンは、ゴム材料で形成するとともに、補強環11を一体に具備し、
該補強環11は、前記パッキンの環状平面に平行に沿って形成されたリング状の平面部と、該平面部垂直に延設された筒状部を有し、
前記筒状部は前記バルブケース1内壁面のパッキン装着段部2のシール周面に対面し、
前記平面部は、先端面が前記パッキンの突出部で覆われて該平面部の先端面を前記パッキンで覆われる構造とすることにより、前記筒状部を除く前記補強環11の外周面は、前記パッキンが係止される前記内壁面との間で空間を形成し、
前記パッキンの突出部は、前記バルブケース1の内壁面と前記パッキンとの隙間を密封するボールバルブ装置。」

3-2.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、構造または機能からみて、引用発明の「バルブケース1」は本願補正発明の「ハウジング」に相当し、以下同様に、「流体流通孔4」は「貫通孔」に、「ボールバルブ3」は「回転ボール」に、「密封する」は「気密的にシールする」に、「パッキン」は「環状シール部材」に、「ボールバルブ装置」は「ボールバルブ」に、「パッキン装着段部2」は「係止部」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「パッキン」は、補強環11を一体に具備しているので、ゴム材料で形成されたパッキンだけのものに比べて、ボールバルブ3の回転に伴うパッキンの浮きが抑制されることは明らかであり、補強環11が浮きを抑制する機能を有しているということができるから、引用発明の「補強環11」は本願補正発明の「浮き防止部材」に相当する。
さらに、引用発明の「筒状部」は、その形状からみて、平面部を補強していることは明らかであるから、本願補正発明の「平面部を補強する補強部」に相当する。
また、引用発明の「前記平面部は、先端面が前記パッキンの突出部で覆われて該平面部の先端面を前記パッキンで覆われる構造とすることにより、前記筒状部を除く前記補強環11の外周面は、前記パッキンが係止される前記内壁面との間で空間を形成し」ている点と本願補正発明の「前記平面部は、先端部が前記環状シール部材に埋没されて該平面部の端部を前記環状シール部材で覆われる構造とすることにより、前記補強部と前記環状シール部材の埋没部とを除く前記浮き防止部材の外周面は、前記環状シール部材が係止される前記内壁面との間で空間を形成し」ている点とは、どちらも「前記平面部は、該平面部の先端面を前記環状シール部材で覆われる構造とすることにより、前記補強部を除く前記浮き防止部材の外周面は、前記環状シール部材が係止される前記内壁面との間で空間を形成し」ている点で共通する。
さらに、引用発明の「前記パッキンの突出部は、前記バルブケース1の内壁面と前記パッキンとの隙間を密封する」点と本願補正発明の「前記埋没された環状シール部材は、前記浮き防止部材の平面部の先端部のバネ応力によって弾性変形し、前記ハウジングの内壁面と前記環状シール部材との隙間を気密的にシールする」点とは、どちらも「前記環状シール部材は、前記ハウジングの内壁面と前記環状シール部材との隙間を気密的にシールする」点で共通する。

したがって、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
[一致点]
「流体通過孔が内壁面で形成されたハウジングと、該ハウジングの流体通過孔に回転可能に配置されるとともに中央部を貫通する貫通孔及び外殻を形成する球状外周面とをもつ回転ボールと、前記ハウジングの内壁面に係止され前記回転ボールの球状外周面と前記ハウジングの内壁面との間の環状の隙間を気密的にシールする環状シール部材とを持つボールバルブであって、
前記環状シール部材は、ゴム材料で形成するとともに、前記回転ボールの回転に伴う前記環状シール部材の前記ハウジング内壁面の係止部の浮きを抑制するための浮き防止部材を一体に具備し、
該浮き防止部材は、前記環状シール部材の環状平面に平行に沿って形成されたリング状の平面部と、該平面部垂直に延設された前記平面部を補強する補強部を有し、
前記補強部は前記ハウジング内壁面の係止部のシール周面に対面し、
前記平面部は、該平面部の先端面を前記環状シール部材で覆われる構造とすることにより、前記補強部を除く前記浮き防止部材の外周面は、前記環状シール部材が係止される前記内壁面との間で空間を形成し、
前記環状シール部材は、前記ハウジングの内壁面と前記環状シール部材との隙間を気密的にシールするボールバルブ。」

そして、両者は次の点で相違する(かっこ内は対応する引用発明の用語を示す。)。
[相違点]
本願補正発明においては、平面部は、「先端部が環状シール部材に埋没されて」おり、環状シール部材が係止される内壁面との間で空間を形成するのが「補強部と環状シール部材の埋没部とを除く浮き防止部材の外周面」であり、「埋没された環状シール部材は、前記浮き防止部材の平面部の先端部のバネ応力によって弾性変形し、前記ハウジングの内壁面と前記環状シール部材との隙間を気密的にシールする」のに対して、引用発明においては、平面部は、先端面が環状シール部材(パッキン)の突出部で覆われており、先端部が環状シール部材(パッキン)に埋没されていないため、環状シール部材(パッキン)が係止される内壁面との間で空間を形成するのが、補強部を除く浮き防止部材(補強間11)の外周面であり、環状シール部材(パッキン)の突出部が、ハウジング(バルブケース1)の内壁面と前記環状シール部材(パッキン)との隙間を気密的にシール(密封)する点。

3-3.判断
上記相違点について検討する。
上記相違点は、実質的には、浮き防止部材の平面部の先端部が環状シール部材に埋没されているかどうかの違いにすぎず、その違いによって、環状シール部材が係止される内壁面との間で空間を形成するのが、浮き防止部材の外周面の埋没部を除くかどうかの違いとなり、環状シール部材の作用についても、「埋没された環状シール部材は、前記浮き防止部材の平面部の先端部のバネ応力によって弾性変形し、前記ハウジングの内壁面と前記環状シール部材との隙間を気密的にシールする」という作用上の違いが生じてくるのである。
ところで、補強環の先端部を環状シール部材に埋没したシール部材は、例えば特開平9-133219号公報(段落【0020】、図1参照)などに見られるように、高い密封性を維持するためのシール手段として従来周知である。
また、引用発明においてもシール性能については当業者が当然に考慮する課題である。
そうすると、引用発明及び上記周知技術に接した当業者であれば、引用発明において、ハウジング(バルブケース1)の内壁面との間の密封性を考慮して、補強環11(浮き防止部材)に上記周知技術を適用し、補強環11の平面部の先端部を環状シール部材に埋没させて、相違点に係る本願補正発明のように構成することは、格別の創意を要することなく容易に想到し得たことである。そして、そのようにしたものは、実質的にみて相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を具備しているということができる。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、平成20年12月25日付けの手続補正により補正された審判請求書の請求の理由において、「第三のシール部位は、第二のシール部位でシールできなかった流体を確実にシールする部位であります。第三のシール部位における流体の圧力は大気圧に近く、第二のシール部位における流体の圧力に比較して小さな圧力であります。また、埋没された環状シール部材は、環状シール部材をハウジング内壁面に当接することによって弾性変形し、さらにこの弾性変形によって浮き防止部材の平面部の先端部のバネ応力が発生し、これによって弾性変形が常時発生するため、前記した流体の圧力が大気圧であることの相乗効果によって、確実な流体のシールが行われます。
なお、上記した第三のシール部位における流体シールの効果は、浮き防止部材の補強部と環状シール部材の埋没部とを除く浮き防止部材の外周面に、環状シール部材が係止される内壁面との間で空間を形成することによってもたらされます。」と主張している。
しかし、「第三のシール部位における流体の圧力は大気圧に近く、第二のシール部位における流体の圧力に比較して小さな圧力」である点は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。また、引用発明においても、平面部は、「該平面部の先端面を前記パッキンで覆われる構造とすることにより、前記筒状部を除く前記補強環11の外周面は、前記パッキンが係止される前記内壁面との間で空間を形成し」たものであり、平面部の先端面を覆っている部分がハウジング(バルブケース1)のシール垂直面に向かって突出し、その突出部がシール垂直面に当接している(上記キ.参照)のであるから、第三のシール部位におけるシール性能に関して本願補正発明と比べて格別顕著な差異があるとは解されず、仮にあるとしても、引用発明に周知技術を適用したものにおいては本願補正発明と同様の効果を得ることができることは明らかである。
また、審判請求人は、審尋に対する平成21年11月5日付け回答書の中で、「図7において回転ボール3を反時計回りに回転させたときには球状外周面30を介して環状シール部材のA部分に図7における時計回りの力が働きます。このとき、環状シール部材のA部分においては、平面部を覆っている環状シール部材(以後、覆い部と称する)は係止部のシール垂直面に押し付けられ、覆い部の変形と摩擦によりシール垂直面に覆い部が密着し、かつ、環状シール部材のB部分においては、環状シール部材全体にも時計回りの力が働き、覆い部を介して平面部がシール垂直面に押さえつけるため、B部分の浮きを防止できます。
図7において回転ボール3を時計回りに回転させたときには球状外周面30を介して環状シール部材のA部分に図7における反時計回りの力が働きます。その場合でも平面部とシール垂直面との間に覆い部が存在するため、環状シール部材は滑りにくくなっています。仮に環状シール部材のA部分が反時計回りに回転しても平面部の外周部と接続する部分(以後、角部と称する)がシール垂直面に当接したところで止まるため、環状シール部材のB部分の浮きを制限できます。また金属製の浮き防止部材の平面部はリング状の平板構造の剛性により、一部にかかる応力は他の部分からの反力によりねじりに抗することができ、B部分の浮きを防止できます。
こうして本願発明は回転ボール3を時計回りに回転させても反時計回りに回転させてもB部分の浮きを防止できるため、B部分が貫通孔に噛みこまれることを防止できます。」と主張している。
しかしながら、これらの主張は明細書及び図面の記載に基づかない主張である。また、上記のとおり、引用発明においても、一致点に記載したように、環状シール部材は「浮き防止部材を一体に具備し、浮き防止部材は、環状シール部材の環状平面に平行に沿って形成されたリング状の平面部と、該平面部垂直に延設された平面部を補強する補強部を有し」ているなど、本願補正発明とほぼ同様の構成を備えている以上、ほぼ同様の作用を奏するものと推察され、仮にそうでないとしても、引用発明に上記周知技術を適用したものは本願補正発明と同様の作用を奏することは明らかである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

3-4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成20年9月19日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「流体通過孔が内壁面で形成されたハウジングと、該ハウジングの流体通過孔に回転可能に配置されるとともに中央部を貫通する貫通孔及び外殻を形成する球状外周面とをもつ回転ボールと、前記ハウジングの内壁面に係止され前記回転ボールの球状外周面と前記ハウジングの内壁面との間の環状の隙間を気密的にシールする環状シール部材とを持つボールバルブであって、
前記環状シール部材は、前記回転ボールの回転に伴う前記環状シール部材の前記ハウジング内壁面の係止部の浮きを抑制するための浮き防止部材を具備し、該浮き防止部材は前記環状シール部材と一体となり前記環状シール部材が係止される前記内壁面との間で空間を形成するとともに、前記環状シール部材は前記浮き防止部材の端部を覆っていることを特徴とするボールバルブ。」

2.引用例の記載事項
引用例の記載事項及び引用発明は、前記II.3.3-1.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.1.の本願補正発明から、「環状シール部材」についての限定事項である「ゴム材料で形成するとともに」との事項を省き、環状シール部材の作用に関する「前記埋没された環状シール部材は、前記浮き防止部材の平面部の先端部のバネ応力によって弾性変形し、前記ハウジングの内壁面と前記環状シール部材との隙間を気密的にシールする」との事項を省くとともに、浮き防止部材についての「該浮き防止部材は、前記環状シール部材の環状平面に平行に沿って形成されたリング状の平面部と、該平面部垂直に延設された前記平面部を補強する補強部を有し、前記補強部は前記ハウジング内壁面の係止部のシール周面に対面し、前記平面部は、先端部が前記環状シール部材に埋没されて該平面部の端部を前記環状シール部材で覆われる構造とすることにより、前記補強部と前記環状シール部材の埋没部とを除く前記浮き防止部材の外周面は、前記環状シール部材が係止される前記内壁面との間で空間を形成し、」との構成を、「該浮き防止部材は前記環状シール部材と一体となり前記環状シール部材が係止される前記内壁面との間で空間を形成するとともに、前記環状シール部材は前記浮き防止部材の端部を覆っている」との構成に拡張するものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、発明特定事項を限定的に減縮したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.3-2.及び3-3.に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-28 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-25 
出願番号 特願平11-183851
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16K)
P 1 8・ 575- Z (F16K)
P 1 8・ 55- Z (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊谷 健治尾崎 和寛  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 藤村 聖子
常盤 務
発明の名称 ボールバルブ  

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