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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1213330
審判番号 不服2008-9824  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-17 
確定日 2010-03-11 
事件の表示 特願2002-237329「金属材の耐食性評価方法、金属材の腐食寿命予測方法、金属材、金属材の設計方法及び金属材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月19日出願公開、特開2003-329573〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年8月16日(優先権主張平成14年3月8日)の出願であって、平成19年10月24日付け拒絶理由通知に対し、平成20年1月9日付けで手続補正されたが、同年3月10日付けで拒絶査定され、これに対し、同年4月17日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年5月19日付けで手続補正されたものである。

第2 平成20年5月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年5月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正前及び本件補正後の本願発明
本件補正により特許請求の範囲請求項1は、以下のとおり補正された。
「【請求項1】 下記(A)の工程と下記(B)の工程とからなる工程を1乃至複数回繰り返えして耐食性を評価することを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程であって、この工程の時間は10分以内である。
(B)金属材に温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定した、乾燥工程を先に行い、その後に湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを複数回行う工程であって、乾燥工程と湿潤工程の露点変動が±5℃以内に設定される。」

本件補正は、特許請求の範囲についてするもので、特許請求の範囲については、
(1)本件補正前の請求項1に「(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程」、「前記(A)の工程の時間は10分以内である。」とあったところ、「(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程であって、この工程の時間は10分以内である。」と実質的な内容の変更を伴わない補正をし、
(2)本件補正前の請求項1に「(B)金属材に温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定した、乾燥工程を先に行い、その後に湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを1乃至複数回行う工程であって」とあったところ、
(a)「1乃至」を省き、すなわち、サイクル数として1回のみの場合を省き、
(b)本件補正前の請求項2の構成を付加し、
「(B)金属材に温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定した、乾燥工程を先に行い、その後に湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを複数回行う工程であって、乾燥工程と湿潤工程の露点変動が±5℃以内に設定される。」と限定するものである。

したがって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、「平成18年法改正前」とする。)の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「平成10年度 通商産業省工業技術院委託 新発電システムの標準化に関する調査研究(新発電関連要素機器の長期耐久性及び寿命予測の標準化)」、1999年 3月 財団法人 日本ウェザリングテストセンター発行(以下、「引用例1」という。)金-45?47及び金55?59には、図面とともに次の事項が記載されている(なお、引用例1における○の中に1、2、3、4を記載した表記について、当審において、各々(丸付1)、(丸付2)、(丸付3)、(丸付4)と表記した。)。

(1-ア)「4 促進腐食試験(複合サイクル試験)
4.1 目的
大気腐食試験は結果が得られるまでに長時間を必要とし,また,暴露場所と暴露期間などによって再現性が必ずしも優れていないため,実験室における促進腐食試験について検討した。ここでは,塩水噴霧試験などと比較して大気暴露試験に近い結果が得られるといわれている復合サイクル腐食試験に注目した。複合サイクル腐食試験は, JIS K 5621,JASO M61O-92などで規格化されているが,このうち金属材料を対象とした JASO M 610-92に準拠した試験を長時間実施するとともに,これを修正した複合サイクル腐食試験を行った。そして,これらの試験結果から,複合サイクル試験方法の課題を明らかにし新しい試験方法を提案することを目的としている。
なお,これまでに得られた試験結果から次のような基本条件を満たす促進腐食試験を実施するべきであるとの結論が得られている。すなわち.再現性が良好で大気腐食との相関に優れた試験結果が得られる試験方法の確立をめざし,(1)耐侯性鋼の場合,ある程度試験サイクルが進んだ時点で腐食速度が減少する条件を策定する。(2)乾爆時間と湿潤時間の比は,銚子の気象条件を基準として,1:1とする。(3)1サイクルは8時間とする。(4)試験片設置場所の相違による試験機の槽内温度,風速,塩水付着量,ぬれなどの違いを無視できるような試験条件を見いだす。
4.2 試験方法
4.2.1 試験条件
(1)試験片の種類:炭素鋼(SM400B,SPCC-SD),耐侯性鋼(SMA490BW),銅(C1200P),亜鉛(旧JIS H4321,1種)
・・・(中略)・・・
(C)1% NaCl - 湿潤 - 乾燥法
(丸付1)塩水噴霧:1%NaCl,35℃,10min →
・・・(中略)・・・
4.2.2 評価方法及び槽内環境の測定方法
(丸付1)外観観察(目視,写真撮影),腐食度,孔食深さ,光沢,変色
・・・(中略)・・・
前年度までに,(A)法?(G-2)法について12,24,48,96,192サイクルの試験を実施した。その結果,複合サイクル腐食試験による金属材料の腐食は,湿潤と乾燥時間の割合とともに,付着塩分量の影響の大きいことが判明した。そして,腐食を加速するための水溶液は通常5%NaClを用い,噴霧雰囲気下に試験片を設置する。しかし,通常の大気中に含まれるNaClはごく微量であるため,大気暴露した試験片表面に付着するNaClもわずかである。そこで大気腐食のより優れた再現性を求めるためには,NaCl濃度を小さくする必要があると考えられたので,ここでは5%NaClの他に0.1%,1% NaCl,人工酸性雨水溶液を用いた。一方JASD M 610-92では噴霧時間が2hであるため,多量にClイオンが供給されるとともに,降下した噴霧液が試験片表面を流れる。そこで,噴霧液が試験片表面を流れ出さないで均一に試験片表面を濡らす短時間の塩水噴霧条件についても検討した。また,NaCl濃度と噴霧時聞の腐食に及ぼす影響に注目し,0.1%と1 % NaCl水溶液を用い,噴霧時間を20,30minの2水準として炭素鋼(SPCC-SD)を対象に促進腐食試験を実施した。さらに,0.1%NaClを用い,暴露試験した試験片と同じもののうち全面腐食する試験片,炭素鋼(SM400B),耐侯性鋼(SMA490BW),銅,亜鉛について促進腐食試験を実施した。
本年度は,これまでの結果に基づき,特に(G-2)法の複合サイクル試験条件をべースにして,大気暴露試験に供した炭素鋼(SM400B),耐候性鋼(SMA490BW)を対象に,腐食に及ぽす塩の蓄積効果を検証する目的で,(G-2)法のサイクル試験を所定のサイクル行い塩を蓄積した後,引き続いて湿潤・乾燥サイクルのみの試験(試験装置は別の環境試験機を使用)を行う復合サイクル試験を行った。複合サイクル試験の組合せ,サイクル条件及び試験水準は以下のとおりである。
複合サイクル試験:(G-2)法サイクル試験 → (湿欄・乾爆)サイクル試験
(G-2)法サイクル試験:湿潤-1% NaCl 噴霧-湿潤-乾爆 8 時間/1サイクル
(丸付1)湿潤, 35℃,90?100%RH,30min→
(丸付2)塩水噴霧,35℃,1%NaCl,30min→
(丸付3)湿潤,35℃,90?100%RH,60min→
(丸付4)乾燥,40℃,50%RH,6hr→ (丸付1)へ
(湿潤・乾燥)サイクル試験:
(丸付1)湿潤,35℃,90?100%RH,2hr→
(丸付2)乾燥,40℃,50%RH,6hr→ (丸付1)へ
試験水準
(G-2)法サイクル数 (湿潤・乾操)サイクル数(n=3)
(1)12サイクル → 0,12,24,48,84,132サイクル
(2)24サイクル → 0,12,36,72,120サイクル
(3)36サイクル → 0,24,60,108サイクル
(4)60サイクル → 0,36,84サイクル
(G-2)法サイクル数 (湿潤・乾操)サイクル数(n=5)
(1)18サイクル → 0,24,48,72,120,168サイクル
(2)24サイクル → 0,24,46,72,120,168サイクル
また,試験サイクルの経過に伴う試験機槽内の塩の付着のバラツキと蓄積量について調べた。」(金-45第1行?金-47第33行)

上記摘記事項(1-ア)の記載から複合腐食サイクル試験において、試験片である金属材の腐食度を評価していることが読み取れる。

上記摘記事項(1-ア)記載の「一方JASD M 610-92では噴霧時間が2hであるため,多量にClイオンが供給されるとともに降下した噴霧液が試験片表面を流れる。」から、塩水噴霧は、試験片である金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させていることが読み取れる。

上記摘記事項(1-ア)記載の「(G-2)法のサイクル試験を所定のサイクル行い塩を蓄積した後,引き続いて湿潤・乾燥サイクルのみの試験(試験装置は別の環境試験機を使用)を行う復合サイクル試験を行った。」から、湿潤、塩水噴霧、湿潤、乾燥の順で1サイクルとし、このサイクルを所定回行う工程と、湿潤、乾燥の順で1サイクルとし、このサイクルを所定回行う工程が読み取れる。

これらの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記(A)の工程と下記(B)の工程とからなる工程を1回行う金属材料の腐食度を評価する複合腐食サイクル試験方法。
(A)湿潤工程、金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる塩水噴霧工程、湿潤工程、乾燥工程の順で1サイクルとし、このサイクルを所定回行う工程。
(B)湿潤工程、乾燥工程の順で1サイクルとし、このサイクルを所定回行う工程。」

(2)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された武藤泉、杉本克久「屋外大気腐食環境のモデリングとそれに基づく定露点型サイクル腐食試験法の開発」、材料と環境、Vol.47, No.8、平成10年8月15日 社団法人 腐食防食協会発行(以下、「引用例2」という。)第519?527頁には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2-ア)「Fig.7に,鋼坂表面の相対湿度と鋼板温度の対応関係を示す。図中の破線は,大気の露点(水蒸気分圧)が一定の場合の両者の関係である。この図より,大気の露点は場所や季節が違うと異なるものの,3 日間程度の短期間ではおおむね一定(±5K)であることが分かる。露点一定とは,湿潤大気中の水蒸気と乾燥空気の存在量(分圧,容積あるいは質量)の比がー定であることである。水蒸気,乾操空気共に気体であるため,温度や気圧によって存在量の比は変わらない。ところで,日照により地面や植生地が暖められると水が蒸発し,露点は上昇するはずである。しかし,実際には露点が一定であったということは,上昇気流や地表面付近の大気の乱流輸送により,蒸発量と等しい量の水蒸気が上空に移動したためではないかと思われる。」(第524頁左欄第2?15行)

(2-イ)「以上より,(1)海塩付着量,(2)露点,(3)材料温度の日変化,をパラメー夕とすることで海浜地域における屋外大気腐食環境の状態を記述できること,およびこれらの条件を規定した促進腐食試験によって,ステンレス鋼の耐候性を短時間で評価できることが分かった。このように,本モデルは,今まで定量的取り扱いが少なかった大気腐食挙動と環境条件との関連性の定量的解明に有用である。」(第526頁右欄第17?24行)

(2-ウ)第1図には、「Corrosion test cycle derived from the model of the atmospheric corrosion environments established in present work(当審注:本研究で立証した大気中腐食環境モデルより得た試験サイクル)」という表題とともに、Salt Spray(当審注:塩水噴霧) (301K,14,4ks)-301K,90%,16.56ks-301K,90%-8.52ks-322K,32%-6ks-327K,25%-4.92ks-328K,24%-4.92ks-327K,25%-6ks-322K,32%-8.52ks-301K,90%-301K,90%,16,56ksを1サイクルとした図が記載されている。

3.対比・判断
本願補正発明と引用例1発明とを対比する。

(1)引用例1発明の「金属材料」は、その構造・機能からみて、本願補正発明の「金属材」に相当する。

(2)引用例1発明の「腐食度を評価すること」は、腐食度をもとに耐食性を評価することが技術常識であることからみて、本願補正発明の「耐食性を評価すること」に相当する。

(3)引用例1発明の「湿潤工程、金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる塩水噴霧工程、湿潤工程、乾燥工程の順で1サイクルとし、このサイクルを所定回行う工程」と、本願補正発明の「金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程」とは、「金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程を含む工程」という点で共通する。

(4)引用例1発明の「湿潤工程、乾燥工程の順で1サイクルとし、このサイクルを所定回行う工程」と、本願補正発明の「金属材に温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定した、乾燥工程を先に行い、その後に湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを複数回行う工程」とは、「金属材に乾燥工程、湿潤工程で1サイクルとし、このサイクルを複数回行う工程」という点で共通する。

以上、(1)?(4)の考察から、両者は、

(一致点)
「下記(A)の工程と下記(B)の工程とからなる工程を1回して耐食性を評価することを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程を含む工程。
(B)金属材に乾燥工程、湿潤工程で1サイクルとし、このサイクルを複数回行う工程」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
(A)のサイクルと(B)のサイクルとからなる1工程が、本願補正発明では、「(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程」と、「(B)乾燥工程を先に行い、その後に湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを複数回行う工程」であるのに対し、引用例1発明では、「(A)湿潤工程、金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる塩水噴霧工程、湿潤工程、乾燥工程の順で1サイクルとし、このサイクルを所定回行う工程」と、「(B)湿潤工程、乾燥工程の順で1サイクルとし、このサイクルを所定回行う工程」であり、(A)の工程が1回であるか否か不明であり、また、塩水噴霧工程の後の工程及び(B)の工程が、湿潤工程を先に行う点。

(相違点2)
本願補正発明では、(A)の塩分を付着させる工程の時間が10分以内であるのに対し、引用例1発明では、塩分を付着させる工程の時間として、20分、30分、2時間の例が示されているものの、他の工程との関係で、どの時間で行うのが有意であるか明記されていない点。

(相違点3)
(B)の工程が、本願補正発明では、「温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定」しているのに対し、引用例1発明では、そのようなものであるか否かが不明である点。

(相違点4)
(B)の工程が、本願補正発明では、「乾燥工程と湿潤工程の露点変動が±5℃以内に設定される」のに対し、引用例1発明では、そのようなものであるか否かが不明である点。

4.当審の判断
上記(相違点1)について検討する。
本願補正発明の属する試験方法であるサイクル腐食試験法において、模擬する環境に応じて、乾燥工程と湿潤工程の繰り返し数を適宜設定すること、及び、乾燥工程と湿潤工程を繰り返す場合に乾燥工程を先に行うことは、本願の優先権主張の日前において周知の技術である。
例えば、特開2001-296235号公報には、
「【0007】また、単一腐食因子でなく、複数の腐食因子を用い、サイクル的に試験する複合サイクル試験方法として、代表的な例として、JASO M 609 (自動車用材料腐食試験方法)がある。このサイクルは、図2で示すように、塩水噴霧(5vol%中性塩化ナトリウム溶液)を試験槽内温度35±1℃で2時間、乾燥(60±1℃)を相対湿度20?30%RHで4時間、湿潤(95%RH以上)を試験槽内温度50±1℃で2時間を1サイクルとして、任意回数繰り返し行う。この試験方法は、塗装鋼板について塗膜下腐食を評価対象とし、塗膜フクレ及び塗膜剥離(はくり)幅の測定を規定している。
【0008】複合サイクル試験で、光照射(紫外線劣化)と組み合わせ防食性能を評価する試験方法としては、JIS K 5621(一般さび止めペイント)がある。これは、前処理として、サンシャインウェザーメーターで60時間光照射を行い、塩水噴霧(5vol%中性塩化ナトリウム溶液)を試験槽内温度35±2℃で0.5時間、湿潤試験(95±3%RH)を試験槽内温度30±2℃で1.5時間、熱風乾燥試験(50±2℃)で2時間、温風乾燥試験(30±2℃)で2時間、からを1サイクル(合計時間6時間)として、28サイクル行うものである。この試験法は、光照射(紫外線)劣化後の腐食進行を評価するのに適していると言われている。
【0009】その他複合サイクル試験で、5vol%中性塩化ナトリウム溶液中に試料片を水没させる浸漬試験を含んだ試験方法の代表例として、SAE J 1047がある。この試験方法は、浸漬試験(5vol%中性塩化ナトリウム溶液)、液温52℃で5分、乾燥(12%RH)、試験槽内温度52℃で3時間、湿潤(98%RH)、試験槽内温度52℃で4時間55分、からを1サイクル(合計時間8時間)として任意回数サイクル行うものがある。
【0010】複合サイクル腐食試験に関しては、上記以外に塩水噴霧、湿潤、乾燥、浸漬の試験項目の順序や組合せを変えたり、試験時間を変えたサイクル試験パターンが、他にも数多く文献に紹介されている。」と記載され、
特開平10-253524号公報には、
「【0002】【従来の技術】屋外で使用される機器・構造物などに求められる最も重要な性能は耐久性であり、特に金属材料の場合、耐久性は大気腐食に対する耐食性により大きく左右される。この大気腐食に対する耐食性を把握する最も良い方法は、大気暴露試験である。しかし、大気暴露試験は結果が出るまでに長い期間が必要であるばかりか、環境の影響を把握し、材料の使用限界を把握するためには、多くの地点で試験を実施する必要があり、多大な労力と費用を必要とする。
【0003】この問題を解決するため、各種の促進試験が規格設定され、提案されている。一般に、金属材料の湿潤大気中(特に海浜環境)における耐食性を把握するための促進試験方法としては、JIS Z 2371に規格化されている塩水噴霧試験や、「ステンレス鋼便覧(第3版)」(ステンレス協会編、1995年、p.469?471)に紹介されているサイクル腐食試験が広く用いられている。
【0004】塩水噴霧試験とは、材料に塩化物イオンを含む試験液(多くの場合は5%NaCl水溶液を使用する)を、所定時間噴霧し材料の腐食量を計測するものである。サイクル腐食試験は、複合腐食試験や複合サイクル腐食試験などと呼ばれることもある。この方法は、5%NaCl水溶液や人工海水などを試験片に噴霧した後に、乾燥と湿潤(この組み合わせを1サイクルとする)を繰り返し、サイクル数に対する材料の腐食量を計測するものである。一般に、試験液の噴霧は35℃、乾燥は湿度30%以下で温度60℃程度、湿潤は湿度90%以上で温度が50℃前後に設定される。また、これらの試験では、温度と相対湿度はステップ状に変化させることを特徴としている。この塩水噴霧とサイクル腐食試験は、ある試験条件下での材料間の耐食性の違いを把握する方法である。
【0005】一方、腐食に及ぼす環境条件の影響を把握する試験方法として、特開昭56-104235号公報には、試験片の表面に各種濃度の水溶性塩類と固型粒子を付着させ、乾燥と湿潤を繰り返す方法が開示されている。これは、付着物の量と腐食量との関係を調べ、耐食性に及ぼす環境条件の影響を把握するというものである。
【0006】【発明が解決しようとする課題】塩水噴霧とサイクル腐食試験は、いずれも促進試験として実績があり、ある特定の大気環境については、大気曝露試験結果との間に対応関係が見い出されている。しかし、これは、腐食の程度が長期大気曝露試験の結果に近くなるように、乾燥・湿潤過程の順序と回数、乾燥・湿潤過程の温湿度などの促進試験条件を試行錯誤により決定した結果である。本来、これらの試験は、試験条件を一定として材料間の耐食性の違いを評価するものである。したがって、ある地域や特定の大気環境を想定し、そこでの材料の耐食性や耐久性を推定するという、本来、大気腐食促進試験に求められている情報を提供することは不可能である。
【0007】一方、特開昭56-104235号公報に開示されている試験方法は、付着塩の量を変化させ乾湿を繰り返すことで、環境条件と耐食性との関係を得るというものである。しかし、屋外大気環境での耐食性や腐食挙動は、付着塩量だけではなく、結露の状態や乾湿繰り返し条件にも大きく依存する。したがって、結露の模擬方法や乾湿繰り返し方法を規定していないこの方法で得た結果は、実際の大気環境下での耐食性を提供するものではない。
【0008】このように、真に適切な大気腐食促進試験方法は未だ開発されていないのが現状である。そこで、本発明は、所望の大気環境における金属材料の耐食性を促進・評価する方法を提供するものである。」と記載されている。

したがって、引用例1発明において、上記周知技術のように特定の大気環境を模擬できるように乾燥・湿潤工程の順序と回数とを適宜設定すべく、(A)の工程を1回とし、(A)及び(B)の工程として乾燥工程の次に湿潤工程を行うように設計し、全体として、塩水噴霧工程の後に、乾燥工程、湿潤工程を繰り返すようにすることで、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

上記(相違点2)について検討する。
塩水噴霧時間は、模擬する環境や噴霧する塩分濃度等との関係で設定しうるものといえ、各種の腐食試験法においても、10分以内に設定することに臨界的意義を有するとはいえず、適宜設定し得ることである。

したがって、引用例1発明の塩水噴霧工程として、10分以内に設定するように設計し、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

上記(相違点3)について検討する。
温度と相対湿度をステップ状に変化させて乾燥工程及び湿潤工程を行うことは、サイクル腐食試験における本願の優先権主張の日前に周知の技術である。
例えば、引用例2には、上記摘記事項(2-ウ)に記載されているように、ステップ状に乾燥工程を実施する例が記載されており、
特開平10-253524号公報には、
「【0004】塩水噴霧試験とは、材料に塩化物イオンを含む試験液(多くの場合は5%NaCl水溶液を使用する)を、所定時間噴霧し材料の腐食量を計測するものである。サイクル腐食試験は、複合腐食試験や複合サイクル腐食試験などと呼ばれることもある。この方法は、5%NaCl水溶液や人工海水などを試験片に噴霧した後に、乾燥と湿潤(この組み合わせを1サイクルとする)を繰り返し、サイクル数に対する材料の腐食量を計測するものである。一般に、試験液の噴霧は35℃、乾燥は湿度30%以下で温度60℃程度、湿潤は湿度90%以上で温度が50℃前後に設定される。また、これらの試験では、温度と相対湿度はステップ状に変化させることを特徴としている。この塩水噴霧とサイクル腐食試験は、ある試験条件下での材料間の耐食性の違いを把握する方法である。」と記載されている。

したがって、引用例1発明の(B)工程に対し、周知の温度と相対湿度をステップ状に変化させる技術を付加して、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

上記(相違点4)について検討する。
引用例2には、上記摘記事項(2-ア)及び(2-ウ)からみて、大気中の腐食状態を模擬するために乾燥、湿潤のサイクルを露点温度を±5度にする条件が記載されている。
したがって、引用例1発明の(B)工程に対し、露点温度を±5度にする条件を付加して、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本願発明の奏する効果についても、引用例1、2及び周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例1発明、引用例2の記載事項、及び、上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。

なお、請求人は、当審における審尋に対する平成21年10月26日付け回答書において、「金属材の耐食性を評価する工程は、『下記(A)の工程と下記(B)の工程とからなる工程を複数回繰り返えして耐食性を評価する工程を備えたことを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)海塩または人工海塩、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム塩化ナトリウム-塩化マグネシウム混合物、塩化ナトリウム-塩化カルシウム混合物、岩塩から選択された塩水を用いて、塩水浸漬、塩水噴霧、または塩水滴下により金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程であって、この工程の時間は10分以内であり、塩水溶液による被試験体の腐食を進行させない工程。
(B)金属材に温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定した、乾燥工程を先に行い、その後に湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを複数回行なう工程であって、乾燥工程と湿潤工程の露点変動が±5℃以内に設定される。』
この技術事項を独立請求項1,2及び21に組み入れることにより、前置報告書での指摘事項を解消される。
また、補正案の請求項1、2及び21は、いずれも特許第4218280号の請求項に記載されていない技術的事項(本願の当初明細書には記載されている技術的事項)を含んでいるので、特許第4218280号の請求項に記載された発明との同一性の問題(39条)もない。
更に、補正案の請求項1、2及び21は、何れも金属材の耐食性を評価する工程に係る上記の特徴部分を共有しているので、37条の要件を充足している。
(6) そして、上記のように補正することにより、請求項1、2及び21において特定する事項は、金属材が使用される実環境を的確に模擬した耐食性評価方法を得るために適した条件設定となり、所与の作用効果を奏する技術的意義を有するものとなる。」旨の主張をし、補正案を示している。

しかしながら、本願補正発明に対応する補正案の請求項1において限定した事項に関し、環境に基づいて各種条件を設定することは、引用例1、2及び上記の周知技術の範囲で適宜行っていることに過ぎず、塩水の種類の限定に関しても、塩水の成分に鑑み適宜設定しうることである。そして、腐食試験の結果に基づき、腐食寿命予測を行うことは、引用例1に開示されているといえる。そして、環境に応じて、既知の工程の繰り返し回数や順序等の条件を設定し、試験を行うことが、上記のとおり周知であることから、新規の組み合わせを見いだしたとしても、特定の環境において評価の正確性が担保される程度の効果に止まるものといえる。また、請求項の数が拒絶査定時と比較して増加しており、請求項21?26には、拒絶査定時の各請求項には記載されておらず、かつ、何れの構成からも限定的とはいえない「支配的環境因子と決定する工程」が含まれている。
してみると、上記補正案によっても、引用例1発明、引用例2の記載事項、及び、周知技術に対して、その進歩性があるとはいえず、上記主張は採用できない。

5.本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年5月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1乃至23に係る発明は、平成20年1月9日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至23に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 下記(A)の工程と下記(B)の工程とからなる工程を1乃至複数回繰り返えして耐食性を評価することを特徴とする金属材の耐食性評価方法。(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程。
(B)金属材に温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定した、乾燥工程を先に行い、その後に湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを1乃至複数回行う工程であって、前記(A)の工程の時間は10分以内である。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1は、前記「第2[理由]2.」の記載から、以下の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。

「下記の工程とからなる工程を複数回行う金属材料の腐食度を評価する複合腐食サイクル試験方法。
金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる塩水噴霧工程、湿潤工程、乾燥工程の順で1サイクルとした工程であり、塩水噴霧を10分行う。」

そして、原査定の拒絶の理由で引用された引用例2の記載事項は、前記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明と引用例発明とを対比する。

(1)引用例発明の「金属材料」は、その構造・機能からみて、本願発明の「金属材」に相当する。

(2)引用例発明の「腐食度を評価すること」は、腐食度をもとに耐食性を評価することが技術常識であることからみて、本願発明の「耐食性を評価すること」に相当する。

(3)引用例発明の「金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる塩水噴霧工程、湿潤工程、乾燥工程の順で1サイクルとした工程」は、工程の順序からみて、本願補正発明の「(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程。(B)乾燥工程、湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを1回行う工程であって、前記(A)の工程の時間は10分である。」ことに相当する。

以上、(1)?(3)の考察から、両者は、

(一致点)
「下記(A)の工程と下記(B)の工程とからなる工程を複数回して耐食性を評価することを特徴とする金属材の耐食性評価方法。
(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程を含む工程。
(B)金属材に乾燥工程、湿潤工程で1サイクルとし、このサイクルを1回行う工程であって、前記(A)の工程の時間は10分である。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
(A)のサイクルと(B)のサイクルとからなる工程が、本願補正発明では、「(A)金属材の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる工程」と、「(B)乾燥工程を先に行い、その後に湿潤工程を行うことを1サイクルとし、このサイクルを1回行う工程」であるのに対し、引用例発明では、「金属材料の表面に塩化物イオンを含む塩分を付着させる塩水噴霧工程、湿潤工程、乾燥工程の順で1サイクルとした工程」であり、すなわち、湿潤工程を乾燥工程より先に行う点。

(相違点2)
(B)の工程が、本願補正発明では、「温度と相対湿度をステップ状に変化させて設定」しているのに対し、引用例発明では、そのようなものであるか否かが不明である点。

上記(相違点1)について検討するに、上記「第2[理由]4.」での(相違点1)に係る検討と同様の理由により、引用例発明の湿潤工程及び乾燥工程に対し、乾燥工程を先に行う周知の技術を適用し、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

上記(相違点2)について検討するに、上記「第2[理由]4.」での(相違点3)に係る検討と同様に理由により、引用例発明の湿潤工程及び乾燥工程に対し、周知の温度と相対湿度をステップ状に変化させる技術を付加して、本願発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本願発明の奏する効果についても、引用例1及び周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって、本願発明は、引用例1発明、及び、上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-06 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-25 
出願番号 特願2002-237329(P2002-237329)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 居島 一仁
後藤 時男
発明の名称 金属材の耐食性評価方法、金属材の腐食寿命予測方法、金属材、金属材の設計方法及び金属材の製造方法  
代理人 砂川 克  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 直樹  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 市原 卓三  
代理人 野河 信久  
代理人 中村 誠  
代理人 河井 将次  
代理人 佐藤 立志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  
代理人 風間 鉄也  
代理人 勝村 紘  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 白根 俊郎  
代理人 岡田 貴志  
代理人 峰 隆司  
代理人 山下 元  
代理人 村松 貞男  
代理人 河野 哲  
代理人 竹内 将訓  
代理人 橋本 良郎  

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