• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1213334
審判番号 不服2008-10915  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-30 
確定日 2010-03-11 
事件の表示 特願2002-351400「複屈折測定装置および複屈折試料の軸方位検出方法、複屈折測定装置のキャリブレーション方法。」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 2日出願公開、特開2004-184225〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年12月3日の出願であって、平成19年7月6日付け拒絶理由通知に対して、同年9月10日付けで手続補正がされたが、平成20年3月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年4月30日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同年5月30日付けで手続補正されたものである。

第2 平成20年5月30日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年5月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正前及び本件補正後の本願発明
本件補正は、補正の内容として、特許請求の範囲請求項5について、補正前の
「【請求項5】 偏光子からの光を光弾性変調子により変調し、該変調された光を試料
に照射し、該試料からの出力光を検光子に通して検出することで前記試料の複屈折を測定
する複屈折測定装置において、
前記試料として4分の1波長板を用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を
行うことを特徴とする複屈折測定装置のキャリブレーション方法。」を、
「【請求項5】 請求項1記載の装置において、
前記試料として4分の1波長板を用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を
行ったことを特徴とする複屈折測定装置。」と補正するものである。

2 本件補正の適否についての判断
(1)カテゴリーの変更について
補正後の請求項5は「複屈折測定装置」の発明に関するものであるが、補正前の請求項5は「複屈折測定装置のキャリブレーション方法」の発明に関するものである。
そうすると、本件補正により、請求項5の発明のカテゴリーは、補正前の「装置のキャリブレーション方法」から「装置」へと変更されているが、該変更の補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、及び、明りょうでない記載の釈明のいずれの目的にも該当しない。

(2)限定的減縮について
次に、本件補正による請求項5の補正事項が、補正前の請求項1を限定したものとして検討する。
本件補正により、補正前の請求項1の「複屈折測定装置」に対し、「前記試料として4分の1波長板を用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を行」う構成が追加されたものである。
しかしながら、上記構成は請求項1の発明特定事項の何れの構成を限定するものではないため、新たな構成を追加したものである。

よって、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、「平成18年法改正前」とする。)の特許法第17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、当該構成の追加が、同項に掲げる請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれの目的にも該当しないことは明らかである。

したがって、本件補正は、平成18年法改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)請求人の主張について
請求人は、当審における審尋に対する平成21年11月12日付けの回答書において、次の主張を行っている。
「しかしながら、補正前の特許請求の範囲には、その請求項1に『複屈折率測定装置』が存在しており、『方法の発明』とはカテゴリーの異なる『物の発明』に関する請求項を新たに創設したものではない。
そして、前記補正前請求項5には『…複屈折測定装置において、…複屈折測定装置のキャリブレーション方法』とあり、補正前請求項5が『複屈折測定装置』を前提としたものであることが明らかである。
(中略)
以上のとおりであるから、『…複屈折測定装置において、…複屈折測定装置のキャリブレーション方法』とあったのを『複屈折測定装置』にする補正は、補正前に装置発明か、方法発明かが不明瞭であったものを、装置発明であることを明らかにしたものであり、不明瞭な記載の釈明に相当する。したがって、本審判請求人による審判請求時補正は適法なものであり、却下されるべきではない。」

しかしながら、方位角を測定することを目的とする複屈折測定装置に係る発明と、複屈折測定装置により測定される方位角を正しく測定するために装置を較正することは、発明の課題が異なるものといえる。また、補正前請求項5のキャリブレーション方法の発明において、その構成に不明りょうな点があったのであれば、キャリブレーション方法を構成する発明特定事項の補正を行うべきものといえる。
したがって、「・・・複屈折測定装置のキャリブレーション方法」とあったのものを「キャリブレーション方法」を削除し、「・・・複屈折測定装置」とすることは、その発明の課題を変更するものであり、明りょうでない記載の釈明とはいえない。よって、上記主張は採用できない。

3 独立特許要件の検討
以上で検討したとおり、本件補正は、平成18年法改正前の特許法第17条の2第4項に記載する要件を満たしていないが、仮に、当該要件を満たすものと解した場合に、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、さらに検討を進める。

(1)本願補正発明
本件補正について、上記のとおり補正の要件を満たすものと解した場合、本願の請求項5に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、引用する請求項1の構成を考慮すると、次のとおりのものである。

「光照射手段からの光を二つの直線偏光にして透過する複屈折性偏光子と、
該直線偏光の光に変調を与える光弾性変調子と、
前記光弾性変調子により変調された光の一方である参照光に従い該光弾性変調子を制御するPEMコントローラーと、
前記光弾性変調子により変調された光の他方を測定光として試料に照射して得られた、該試料からの出力光が透過する検光子と、
前記偏光子の軸方位に対する前記検光子の軸方位の方位角を変更するための検光子回転手段と、
を備え、前記検光子回転手段により複数の異なる方位角で測定を行うことで、真空紫外域での前記試料の軸方位を検出することを特徴とする複屈折測定装置において、
前記試料として4分の1波長板を用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を
行ったことを特徴とする複屈折測定装置。」

(2)引用例
(a)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である米国特許第6268914号明細書(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(翻訳は、引用例1のパテントファミリーである特表2003-519789号公報(以下、「公表公報」という。)に基づく。)。

(a-ア)「本装置は、試料の領域にわたり複数の位置のどの位置でも行われるように低レベル複屈折の測定を可能にする。測定された結果は、データ・ファイルに収集され、迅速な分析のために図表的に表示される。
本発明の一実施例において、本装置の光学構成要素は、1つの側が反射可能に被覆された試料の複屈折特性を測定するために配置され、試料が光の伝達が完全でない場合でも複屈折特性の測定を可能にする。」(第2欄第29行?39行:公表公報の段落【0010】?【0011】)

(a-イ)「図1のブロック図は、本発明によりなされた装置の主要な光学構成要素を示している。構成要素として、632.8ナノメーター(nm)の波長を有する光源20としてのヘリウム・ネオン・レーザーを含む。光源から発出したビーム「B」は、約1ミリメートル(mm)の断面積または「スポット・サイズ」を有する。
光源ビーム「B」は、基準軸線に対して+45度の偏光方向に向けられた偏光子22に入射するように指向される。グラン・トムソン方解石偏光子のような消光性の高い偏光子が好ましい。また、偏光子22は精密かつ累進的な回転体に取り付けられるのが好ましい。
偏光子22からの偏光された光は、光弾性変調器24の光学素子25に入射する(図1および図5)。好適な実施例において、光弾性変調器(以下、「PEM」という)は、オレゴン州ヒルズボロのハインズ・インスツルメンツ(Hinds Instruments)社製のモデルPEM-90 I/FS50である。PEMが好適であるが、これの代わりに光源の偏光を変調するために他の機構を用いることができることは注目すべき点である。
PEMは、0度に向けられた複屈折軸線を有し、発振複屈折を好ましくは公称周波数50kHzで光学素子25に加える制御器84によって制御される。この点について、制御器84は、光学素子25が2つのクォーツ変換器29間に接着剤で結合されている2つのクォーツ変換器29を駆動する。
PEMの発振複屈折は、PEMを通って伝播する偏光された光の直交成分間に時変の位相差を発生させる。どの瞬間においても、位相差はPEMによってもたらされたリターデーションである。リターデーションは、ナノメーターのような長さの単位で測定できる。PEMによってもたらされたリターデーションの大きさを変化させることができるように、PEMは調整が可能である。手近な場合において、リターデーションの大きさは、0.383波長(242.4nm)であるように選択される。
PEMから伝播する光のビームは、透明な試料26を通って指向される。試料は、直交(XおよびY)軸線に沿って試料を並進運動的意味で運動させるように制御できる試料ステージ28によってビームの経路に支持されている。この試料ステージ28は、東京都のTHK株式会社によって製造されたモデルKR2602 A-250のような、多くの従来設計のものとすることができる。明らかなように、試料ステージ28の運動制御器は、試料の領域にわたるリターダンスおよび方向の複数の測定に到達するためにビームで試料26を走査できるように駆動される。
試料26は、この試料を通るビームにリターダンスを発生させる。後述するように、本発明によって提供される処理によって決定される値が、このリターダンスの値である。本装置は、リターダンスの低レベルを決定するのに特に適している。低リターダンス・レベルは、±0.01nm未満の感度で決定される。
試料によってもたらされるリターダンスの無曖昧な測定値を得るために、試料を通って出るビーム「Bi」は、異なる偏光方向を有する2つの部分に分離され、後続する処理のための情報の2つの経路を形成する。
最初に、ビーム「Bi」を分離するために好適な機構を着目するに、そのビームの経路(以下、入射経路という)にビーム分割ミラー30が配置されている。ビーム「Bi」の部分「B1」は、ビーム分割ミラー30を完全に通り、検知のための検知器組立体32に入る。」(第3欄第35行?第4欄第35行:公表公報の段落【0013】?【0021】)

(a-ウ)「ミラー30を通るビーム「Bi」の部分は、偏光方向が基準軸線から-45度であるように配置されている小型のグラン・テイラー型(Glan-Taylor type)分析器42を含む検知器組立体32(図1)に入る。分析器42からビーム「Bi」は検知器44に入り、その詳細はさらに以下に記載する。
ビーム分割ミラー30の反射面35(図3)は、上向きに試料26の方を向いて面している。ミラーは、入射経路(すなわち、試料26から伝播するビーム「Bi」の光路)が反射面35とほぼ垂直になるように取り付けられている。この方向付けは、好ましくは、ビームの経路を数度より大きく再方向付けすることを要求される光学構成要素によって別な方法でもたらされるリターダンスを実質的に除くためである。
図1は、入射経路に沿って進むビーム「Bi」とミラー30から反射されたビーム部分「Br」との間に形成された角度「A」を示している。角度「A」は、説明の目的のために非常に拡大して示している。好適な実施例において、この角度は0度より大きく、10度より小さい。最も好適な実施例においては、角度「A」は5度未満である。
反射された部分であるビーム「Br」は、他方の検知器組立体50に入射する。組立体50は、柱36(図3)に取り付けられ、組立体が入射ビーム「Bi」に隣接され反射ビーム「Br」を受けるために配置されるように構成されている。さらに、特に、組立体50は、腕54によって柱36に保持されている基板52を含む。図4に最もよく示しているように、この基板は、基板に回動可能に取り付けられかつ基板52の底部に環状の肩部58を形成するために皿穴形状になっている大きな中央の開口56を有する内環57を含む。
検知器の構成要素は、小型に統合され、平坦な前面側62を有するハウジング60に包含されている。ハウジングの残りの側面は、基板52の中央の開口56の曲率と一致するように曲線状に曲げられている。さらに、ハウジング60のこの部分は、ハウジングの曲線状の側面が基板52に適合し基板に不動に固定されるステップ部分64を含む。
副ハウジング70は検知器の構成要素のハウジング60の内部の平坦側62に対して固定されている。副ハウジング70は、底部に形成された開口72を有する全体として円筒形の部材である。開口72のちょうど上方に、偏光方向がPEM24の偏光方向と平行の0度であるように配置されている小型のグラン・テイラー型分析器74が存在している。」(第4欄第65行?第5欄第45行:公表公報の段落【0026】?【0031】)

(a-エ)「装置の構成要素の残余の複屈折を除去するための前記のような試みにかかわらず、残余の複屈折の少なくとも数レベルの存在は避けられない。本装置において、高精度な結果は、装置に存在する残余の複屈折を説明するために式(8)の結果を補正することによって得られ、残余は装置のオフセットとして参照することができる。実際において、光弾性変調器の光学素子およびビーム分割ミラー基板に存在する残余の複屈折は、結果としての測定に誤差をもたらす可能性がある。そのような誤差は、試料が置かれていない状態で装置を最初に作動させることによって測定できる。誤差の補正は、各経路に対する誤差の値を減じることによって行われる。
装置のオフセットは、試料が置かれていない状態で測定を行うことによって得られる。両経路1および2からの結果はそれぞれ0度および45度での装置のオフセットである。
数式9:(表記は省略。)
ここで、上付きの「0」は試料がないことを示す。項ρ=0を生む式は経路1に対応する(-45度分析器42)。ρ=π/4を生む式は経路2に対応する(0度分析器74)。装置のオフセットは試料が測定されたとき両経路のために補正される。経路1および2のための装置のオフセットは、固定された機器構成で一定である(測定誤差の範囲内で)。装置の構成要素または周囲の圧力もしくは温度にいかなる変化もなければ、装置は校正された状態を持続する。
原理において、この手順は装置の自己校正の方法を提供する。しかしながら、本装置の試料測定を、他の方法を用いて得られた測定と比較することは賢明である。
そのような校正試料は、複合ゼロ次波長板によって提供される。複合波長板は、相互間で非常に小さなリターダンスの相違(たとえば0.03波長未満)を有するように選択された2つの複数次波長板(例えばクォーツ)または2つのゼロ次波長板(例えばマイカ)を含む。それらは、校正で用いるための必要とされる低レベル・リターダンスの複合ゼロ次波長板を作成するために一方のリターダンスが他方から減じられるように、直角な軸線を有して結合される。そのような構成は、リターダンスの低温度係数を有して表面にわたり均一のリターダンスを提供する。」(第8欄第64行?第9欄第44行:公表公報の段落【0063】?【0068】)

(a-オ)「また、通常の知識を有する者は、単一の検知器を用いた連続的な測定は、異なる2つの偏光方向の強度信号を測定し、これにより連続処理のための情報の2つの経路を形成するために用いられることが理解できる。例えば、単一の検知器組立体を用いることができる。このことは、第2の検知器組立体およびビーム分割ミラーを用いることなく行える。しかしながら、そのような設定は、分析器を回転させる、または、無曖昧なリターダンスの測定を保証し、速い軸線の方向を確かめるために異なる方向の2つの偏光子の間で切り替えをする必要がある。選択的に、試料と分析器とは45度回転させられる。」(第12欄第22?33行:公表公報の段落【0094】)

上記摘記事項(a-エ)の記載から、校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値を校正していることが読み取れる。

これらの記載によると、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「632.8nmの波長を有する光源20からの光を透過する偏光子22と、
偏光子からの偏光された光を変調を与える光弾性変調器24と、
前記光弾性変調子24を制御する制御器84と、
前記光弾性変調器24により変調された光を試料26に照射して得られた光が透過し、偏光方向が互いに45°異なる2つのグラン・テイラー型分析器42,74を備え、
前記2つのグラン・テイラー型分析器42,74による2方位角の検出に基づく測定を行うことで、波長が632.8nmにおける複屈折特性の測定を行う装置において、
校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の校正を行った装置。」である。

(b)本願出願前に頒布された刊行物である特開平5?10821号(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(b-ア)「【請求項1】 入射光を主光束(LM)と参照光束(LR)の偏光に分割する分割偏光器(14A)と、
分割された該参照光束及び主光束が通され、角周波数ωで振動される光弾性変調子(16)と、
該光弾性変調子を通った参照光束が通される検光子(42)と、
該検光子を通った参照光束を検出する光検出器(44)と、
該光検出器の出力に含まれている角周波数2ωの交流成分の振幅と直流成分の大きさとの比が一定になるように、該光弾性変調子を角周波数ωで振動させる光弾性変調子制御回路(18A、46?50)と、
を有することを特徴とする位相差制御装置。
【請求項2】 前記光検出器(44)は光電子増倍管(44)であり、
前記光弾性変調子制御回路は、
該光検出器の出力に含まれている直流成分を増幅するDCアンプ(46)と、
該直流成分の大きさが一定値になるように該光電子増倍管の感度を調節する感度調節回路(48)と、
該光検出器の出力に含まれている角周波数2ωの交流成分の振幅の平方に比例した信号を生成するロックインアンプ(50)と、
該ロックインアンプの出力が一定になるように、該光弾性変調子を角周波数ωで振動させる光弾性変調子駆動回路(18A)と、
を有することを特徴とする請求項1記載の位相差制御装置。
【請求項3】 前記分割偏光器(14A)は、入射光束を常光と異常光の2つの直線偏光に分割し、その一方を参照光束とし、他方を主光束とする複屈折性偏光子であることを特徴とする請求項1又は2記載の位相差制御装置。」

(b-イ)「【0009】【発明が解決しようとする課題】ところが、光弾性変調子16自体やその雰囲気の温度が変化しても位相差振幅δ0が変化し、測定値が不正確になる。このような問題は、旋光分散計(ORD)、円二色性分散計(CD)、直線二色性分散計(LD)及び直線複屈折分散計(LB)等においても同様の原因で生ずる。
【0010】本発明の目的は、このような問題点に鑑み、光弾性変調子に入射する光の波長や光弾性変調子自体やその雰囲気の温度が変化しても、光弾性変調子によって与えられる位相差の振幅を一定値に保持することができる位相差制御装置及び方法を提供することにある。」

(b-ウ)「【0055】なお、本発明には外にも種々の変形例が含まれる。例えば、上式(4)及び(5)から明らかなように、感度調節回路48を用いずに、ロックインアンプ50の出力とDCアンプ46の出力の平方との比を駆動回路18Aに供給する構成であってもよい。また、位相差振幅δ0は2.405ラジアンに限定されず、δ0を一定に制御するものであればよい。例えば、円二色性分散計(CD)や直線複屈折分散計(LB)では位相差振幅δ0を1.840ラジアンに、旋光分散計(ORD)や直線二色性分散計(LD)では位相差振幅δ0を3.05ラジアンに制御するのが好ましい。さらに、上記実施例では、本発明に係る位相差制御装置及び方法をエリプソメータに適用した場合を説明したが、本発明は光弾性変調子を備えた他の装置、例えば旋光分散計(ORD)、円二色性分散計(CD)、直線二色性分散計(LD)及び直線複屈折分散計(LB)等の測定装置にも適用できることは勿論である。
【0056】
【発明の効果】以上説明した如く、本発明に係る位相差制御装置及び方法によれば、光弾性変調子に入射する光の波長や光弾性変調子もしくはその雰囲気の温度が変化しても、光弾性変調子により与えられる位相差の振幅を一定値に保持することができるという優れた効果を奏し、エリプソメータ、旋光分散計、円二色性分散計、直線二色性分散計及び直線複屈折分散計等の測定精度向上に寄与するところが大きい。」

(b-エ)「【0028】(A)最初に、検光子42の透過軸方位を複屈折性偏光子14Aの透過軸方位と平行にする。すなわち、スイッチSWをオフにした状態で、信号B2が最大値になるように検光子42の回転角を調整して固定する。
【0029】(B)主光束LMを試料20で反射させずに、検光子22に入射させる。そして、検光子22の透過軸方位を複屈折性偏光子14Aの透過軸方位と平行にする。すなわち、信号A2が最大値になるように検光子22の回転角を調整して固定する。
【0030】(C)スイッチSWをオンにし、目標値設定器54の出力電圧Eを変化させ、この電圧Eとロックインアンプ32の出力電圧A2との関係を測定する。電圧Eを変化させると振幅V0も変化し、V0と|A2|との関係は、例えば図2中のFのようになる。
【0031】(D)次に、検光子22を光軸の回りに90°回転させた状態で、目標値設定器54の出力電圧Eを変化させ、この電圧Eとロックインアンプ32の出力電圧A2との関係を測定する。電圧Eを変化させると振幅V0も変化し、V0と|A2|との関係は、例えば図2中のGのようになる。
【0032】(E)同一のEに対し上記(C)における|A2|と上記(D)における|A2|とが等しくなるように電圧E=E0を設定する。これは、図2のFとGの交点の電圧|A2|=E0を求め、これをB2の目標値E0として目標値設定器52に対し設定することに相当する。
【0033】このような設定を行なった後に、従来と同様にして、試料20に対する測定を行う。」

(b-オ)「【0033】そこで、例えば350nm以下の紫外域にわたる波長の光を使用する場合には、図7に示すような構成の分割偏光器を使用する。この分割偏光器は、分光器12Aからの発散光束を平行光束にする凹面鏡141と、凹面鏡141で反射された平行光束を透過光束と反射光束に2分割するビームスプリッタ142と、この透過光束を反射させる平面鏡143と、ビームスプリッタ142及び平面鏡143で反射された光束が通される偏光子14とからなる。例えば、平面鏡143で反射された光束が主光束LMとして用いられ、ビームスプリッタ142で反射された光束が参照光束LRとして用いられる。この角度は、偏光子14がその機能を果たす最大許容視野角以内でありかつ参照光束LRを主光束LMから分離して検光子42に入射させることができれる角度以上であればよく、例えば3?20゜の範囲内の角度である。他の点は、上記第1実施例又は第2実施例と同一である。」

(c)原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特表2001-511514号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(c-ア)「【0053】上述した装置のPEMの使用は、波長板のリターデーションを測定する実際的で効率的な方法を提供する。すでに記載したように、PEMの光学素子の発振複屈折はこの目的に依存する。しかしながら、そのような素子は、測定のリターデーションの対応する静的成分に加える小さな残余の又は静的な複屈折を有し、これがエラーを引き起こす。本発明の別な面にあるように、このエラーは、次に記述する補償技術によって除去される。
【0054】この補償技術は、PEM22のあとに波長板44(図1の波線で示されている)を配置することを含む。この波長板は、既知の半波長リターデーションを有し、半波長板として参照される。この半波長板は、主題波長板26が装置から移動される間に、上述のターンテーブル24のようなターンテーブルに取り付けられる。半波長板44は、ロック・イン増幅器36からのV1f信号が最小になるまで回転される。次いで、半波長板44は、信号がゼロになるまで傾斜される。これが、正確な大きさ及び角度でのPEMと半波長板とのリターデーション網を確立する。
【0055】今述べた正確になされた装置で処理する前に、前述の式(1)から(7)の妥当性を維持するために、全体の動作を調整する必要がある。補償半波長板によって導入された偏光効果により妥当性は失われる。この点について、光の直線偏光成分は90度を越えて回動され、円偏光成分の方向は反転されるであろう(たとえば、右回り円偏光成分は左回り円偏光成分になる)。これらの効果の調整(すなわち、それら式の妥当性の修復)は、90度まで第2偏光子28を回動させることによって達成される。
【0056】今述べた補償や修正技術のために半波長板を用いる代わりに、全波長板を代用することが考えられる。これは、上述した半波長板の偏光効果を避けるものである。全波長板の使用は2軸の傾斜ターンテーブルを必要とし、全波長板はその傾斜軸に平行な軸方向に取り付けられる。取り付けられた全波長板は、装置内で(再び、主題波長板がない状態で)PEM軸に平行な軸の一つの方向に位置される。この配置において、小さなV1f信号とともに、大きなV2f信号が観察される。全波長板は、V1fがゼロになるまで傾斜される。」

(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを対比する。
(a)引用例1発明の「光源20」、「光弾性変調器24」、「制御器84」、「試料26」は、その機能・構成からみて、
本願補正発明の「光照射手段」、「光弾性変調子」、「PEMコントローラー」、「試料」に各々相当する。

(b)引用例1発明の「グラン・テイラー型分析器」は、入射光の偏光を行う機能からみて、本願補正発明の「検光子」に相当する。

(c)引用例1発明の「装置」は、複屈折特性の測定を行うことから、本願補正発明の「複屈折測定装置」に相当する。

(d)引用例1発明の「632.8nmの波長を有する光源20からの光を透過する偏光子22」と、本願補正発明の「光照射手段からの光を二つの直線偏光にして透過する複屈折性偏光子」とは、「光照射手段からの光を直線偏光にして透過する偏光子」という点で共通する。

(e)引用例1発明の「前記光弾性変調器24により変調された光を試料26に照射して得られた光が透過する、偏光方向が互いに45°異なる2つのグラン・テイラー型分析器42,74」と、本願補正発明の「前記光弾性変調子により変調された光の他方を測定光として試料に照射して得られた、該試料からの出力光が透過する検光子」とは、「前記光弾性変調子により変調された光を測定光として試料に照射して得られた、該試料からの出力光が透過する検光子」という点で共通する。

(f)引用例1発明の「前記2つのグラン・ディラー型分析器42,74による2方位角の検出に基づく測定を行うことで、波長が632.8nmにおける複屈折特性の測定を行う」と、本願補正発明の「前記検光子回転手段により複数の異なる方位角で測定を行うことで、真空紫外域での前記試料の軸方位を検出すること」とは、「複数の異なる方位角で測定を行うことで、複屈折特性の測定を行う」点で共通する。

(g)一般的に「校正」と「較正」とは広義に同意であることから、引用例1発明の「校正」は、本願補正発明の「較正」に相当する。そして、引用例1発明の「校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の校正を行った」ことと、本願補正発明の「前記試料として4分の1波長板を用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を行ったこと」とは、「試料として波長板を用いて較正を行ったこと」という点で共通する。

以上、(a)?(g)の考察から、両者は、

(一致点)
「光照射手段からの光を直線偏光にして透過する偏光子と、
該直線偏光の光に変調を与える光弾性変調子と、
該光弾性変調子を制御するPEMコントローラーと、
前記光弾性変調子により変調された光を試料に照射して得られた、該試料からの出力光が透過する検光子と、
を備え、複数の異なる方位角で測定を行うことで、複屈折特性の測定を行うことを特徴とする複屈折測定装置において、
試料として波長板を用いて較正を行ったことを特徴とする複屈折測定装置。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
光照射手段からの光を直線偏光にして透過する偏光子とPEMコントローラーとが、本願補正発明では、「光照射手段からの光を二つの直線偏光にして透過する複屈折性偏光子」と「前記光弾性変調子により変調された光の一方である参照光に従い該光弾性変調子を制御するPEMコントローラー」であるのに対し、引用例1発明では、「光源20からの光を透過する偏光子22」と「光弾性変調子24を制御する制御器84」であり、参照光をつくり、それを用いて光弾性変調子を制御するものではない点。

(相違点2)
複数の異なる方位角で測定を行うための検光子に関連する構成が、本願補正発明では、「偏光子の軸方位に対する前記検光子の軸方位の方位角を変更するための検光子回転手段」を備え、「前記検光子回転手段により複数の異なる方位角で測定を行う」構成であるのに対し、引用例1発明では、「偏光方向が互いに45°異なる2つのグラン・テイラー型分析器42,74」により、「測定を行う」構成である点。

(相違点3)
複数の異なる方位角で測定を行うことで、測定を行う複屈折特性が、本願補正発明では、「試料の軸方位」であるのに対し、引用例1発明では、「複屈折特性」とあるのみで、「試料の軸方位」が含まれているか否かが不明である点。

(相違点4)
複屈折特性を測定するときの測定波長が、本願補正発明では、「真空紫外域」であるのに対し、引用例1発明では、「632.8nm」である点。

(相違点5)
校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の較正を行うことが、本願補正発明では、「前記試料として4分の1波長板を用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を行ったこと」であるのに対し、引用例1発明では、「校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の校正を行った」ことである点。

(4)当審の判断
上記(相違点1)について検討する。
引用例2には、上記摘記事項(b-ア)?(b-ウ)からみて、「光弾性変調子に入射する光の波長や光弾性変調子もしくはその雰囲気の温度が変化しても、光弾性変調子により与えられる位相差の振幅を一定値に保持する」という本願補正発明と共通する目的を有し、光弾性変調子を備えた装置に適用可能な、「入射光束を常光と異常光の2つの直線偏光に分割し、その一方を参照光束とし、他方を主光束とする複屈折性偏光子と、分割された該参照光束及び主光束が通される光弾性変調子と、該光弾性変調子を通った参照光束が通される検光子と、該検光子を通った参照光束を検出し、光弾性変調子の制御を行う光弾性変調子制御回路」が記載されている。
したがって、引用例1発明の光弾性変調器及び制御器に対し、上記引用例2に記載された参照光を用いて制御するものを適用し、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

上記(相違点2)について検討する。
引用例2において、上記(2)(b?オ)に摘記したように、本願補正発明の検光子に相当するグラン・テイラー型分析器を回転させて測定を行うように構成しても良いことが示唆されており、また、試料の複数の異なる方位角で測定を行うために、試料を透過した光路上の検光子を回転させる構成は、一例として、特開2000-230863号に「【0018】検光素子2は、ステッピングモータ8の駆動により任意の角度に回転される。この検光素子2を透過した被測定光は、その時の検光素子2の角度に応じた偏光成分のみ後段に到達する。この検光素子2としては各種知られているが、本実施形態では、一般にポーラロイドと呼ばれる偏光板が採用される。この偏光板は、薄型の光透過型であると共に光軸方向が変化しないため、装置の小型化が図られる。また、当該偏光板は、検光素子として使える波長範囲が比較的広いという利点もある。」と記載されているように、本願周知の構成である。
したがって、引用例1発明の偏光方向が互いに45°異なる2つのグラン・テイラー型分析器に代えて、周知の回転する検光子の構造を採用し、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば、容易になし得たことである。

上記(相違点3)について検討する。
複屈折装置において、試料の透過光を複数の偏光角で偏光させて測定して軸方位を検出することは、周知の技術である。
例えば、特開平8-327498号公報には、「【0121】【発明の効果】以上説明したように、請求項1?11記載の発明に係る複屈折測定装置は、試料に入射される前のレーザ光の2つの周波数成分の夫々における偏光面の方位をレーザ光の光軸を中心として定めた基準方位に対して2つの互いに異なる角度に切り換えて旋光させ、その2つの周波数成分の夫々が試料を介して入射される直線偏光子を光軸を中心として所定の周期で回転させることにより、光検出器が検出した光信号から光ビート成分に関する交流成分の正弦波成分及び余弦波成分を抽出し、その正弦波成分及び余弦波成分に基づいて試料の複屈折位相差、複屈折主軸方位、及び旋光角を取得する構成としたため、光ヘテロダイン法を適用した比較的に簡素な構成で、直線複屈折に関する情報(複屈折位相差及び主軸方位)と円複屈折に関する情報(旋光角)とを同時に且つ個別に取得できる。これにより、光関連分野に利用される液晶等の試料に関する品質評価を正確且つ容易に実施でき、特に従来では困難とされていたTN、STN液晶パネルのセルの厚さや、光スイッチ等の動作時の旋光特性等を正確且つ容易に測定できる。」と記載され、
特開平2-83428号公報には、「特許請求の範囲(1)周波数差をもつ2つの直交した偏光成分から成る2周波直交偏光レーザ光源と、前記レーザ光源の光軸上に対向して配置されている光電検出器と、前記レーザ光源と光電検出器を結ぶ光路中に光軸の周りに回転可能に配置されている2分の1波長板と、前記光路中に前記2分の1波長板に続いて配置され光軸の周りに回転可能に配置される直線偏光子と、前記2分の1波長板と直線偏光子との間に設けられている複屈折測定試料配置部と、前記2分の1波長板の回転に対して前記直線偏光子の回転が2倍になるように同期させて駆動する駆動手段と、前記2分の1波長板が1回転した時光電検出器によって得られる検出出力を処理して進相軸方位または複屈折量を測定する演算処理装置から構成した自動複屈折測定装置。」と記載されている。
したがって、引用例1発明の装置で測定する複屈折特性として、周知の軸方位を採用し、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

上記(相違点4)について検討する。
光学測定装置において、被測定物に応じて測定波長を適宜選択することは、常套の技術であり、真空紫外域での測定を行うことは、例えば、引用例2において、上記(2)(b-オ)に摘記したように、真空紫外域を含む「350nm以下の紫外域にわたる波長の光」を使用することが記載されており、深澤知行,真空紫外波長域におけるCaF2の複屈折測定,Jasco Report,日本,2002年2月25日,Vol.44/No.1,Page.1-4に記載されているように周知の技術である。
よって、引用例1発明の装置において、測定波長として真空紫外域を選択し、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得ることである。

上記(相違点5)について検討する。
引用例3には、上記摘記事項(c-ア)からみて、試料である波長板26の代わりに半波長や全波長の補償波長板を測定光路上に配置し、当該補償波長板を用いた時の検出結果をもとに、試料測定時の較正を行うことが記載されている。また、波長板として、全波長板、半波長板、4分の1波長板が存在することは、周知のことであるから、(c-ア)の記載からみて、補償波長板として、半波長板、全波長板のほかに、4分の1波長板を採用することに、困難性は認められない。
さらに、測定値を較正を行う際に、各種誤差要素による較正時の検出信号をもとに測定時の検出信号を較正することは、測定技術分野における周知の技術である。
例えば、引用例2には、上記摘記事項(b-エ)のように、信号電圧を補正する技術が記載されており、特開平7-63669号公報には、「【0041】又本実施例ではこの測定装置の固有のPDLをあらかじめ校正してその補正値をメモリにテーブルとして保持しており、これに基づいて得られた光信号のレベルを補正している。しかしこのような校正法以外の校正法も考えられる。例えば補正データを保持したメモリを用いて、そのλ/2板及びλ/4板の回転角度に対応させてこの装置固有のPDLを打ち消すようにI/V変換器や増幅器の増幅率をCPU側から各角度(θ,φ)毎に制御し変化させるようにしてもよい。又この補正値を乗算する乗算器を用いて補正するようにしてもよい。更に光源の出力をこのメモリのデータに基づいて変化させ、この装置固有のPDLを打ち消すように構成することも可能である。この場合には光源11自体の光出力を何らかの方法で制御してもよく、又光源11から出射された光に光変調器を通しその強度を制御するようにしてもよい。特に光源側の光強度を制御して装置に固有のPDLを打ち消す方法は、利得の入力レベル依存性のあるEDFAや後述する多チャンネル計測,伝送路のPDL評価に適している。」と記載されている。
よって、引用例1の校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の校正を行うことに対して、引用例3に記載されたように各種の波長板を用い、周知の四分の1波長板と周知の検出信号を較正する技術を付加して、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本願補正発明の効果も、引用例1発明、引用例2及び3に記載された事項、並びに周知技術に基づいて当業者が予想し得る範囲内のものであり、格別顕著なものとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用例1発明、引用例2及び3に記載された事項、並びに、周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、次の主張を行っている。
「ここで、審査官殿は、引例3には、偏光子、光弾性変調素子、検光子を用いた複屈折測定技術において、1/2波長板を用いて装置の校正を行うことが記載されていると主張される。
しかしながら、引例3は、波長板を試料として用いた時の検出信号を基準として検出信号の較正を行う考慮が一切なく、光弾性変調素子の残留歪の補正に用いているに過ぎない。
また、引例1はPEM法装置の安定化のために、ドリフト要因の周期に対応した時間間隔でキャリブレーションを頻繁に行うことにより、0.01nm以下のドリフトを抑えることをターゲットとしている。裏を返せば、引例1記載のシングルビームのPEM法装置では、キャリブレーションを頻繁に行わなければ、測定値の信頼性が得られない程脆弱であることを示している。
したがって、各引例からは、波長板を試料として用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を行うことを容易に想到するのは困難であり、従来は、波長板を光弾性変調素子の残留歪を補正するために用いるに過ぎない。
このような検出信号の較正の相違は、本発明が、より安定した複屈折測定を行うことができるのに対し、従来が光弾性変調素子の残留歪の補正を行っているものの、本発明のような検出信号の較正に関する考慮がないので、安定した複屈折測定が困難であるという作用効果の違いをもたらしている。
したがって、検出信号の較正の相違は、本願請求項5にかかる発明と各引例とを区別するのに十分な差異となる。」

しかしながら、一般的に装置の較正を行う際に、ドリフト要因への対策と装置の各構成の配置により発生する初期較正を行うことは常套のことである。本願補正発明において、前者は参照光を用いた光弾性変調子の制御により行われ、後者は四分の1波長板による較正で実現されていると読み取れ、後者は各種装置において較正用試料や較正作業により広く行われている技術思想であるといえる。
そして、上記主張の引用例1のドリフト要因については、上記(4)の(相違点1)に係る検討のとおり、一般的にドリフト要因とされる温度等の影響による測定値を変動させるため、引用例2に記載された公知の参照光を用いた光弾性変調子を制御する技術を採用することにより解決されうることである。また、スケールを較正するなどの検出信号の較正を行うことも、上記(4)の(相違点5)に係る検討のとおり周知の較正技術にすぎない。
したがって、上記主張は採用できない。

(6)小括
以上のとおり、平成20年5月30日付けの手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年5月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項5に係る発明は、平成19年9月10日付け手続補正書の特許請求の範囲請求項5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項5】 偏光子からの光を光弾性変調子により変調し、該変調された光を試料に照射し、該試料からの出力光を検光子に通して検出することで前記試料の複屈折を測定する複屈折測定装置において、
前記試料として4分の1波長板を用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を行うことを特徴とする複屈折測定装置のキャリブレーション方法。」

2 引用例記載の発明
前記「第2[理由]3(2)」の摘記事項(a-エ)の記載から、校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値を校正する、装置の校正方法であることが読み取れる。
したがって、上記の事項、及び、前記「第2[理由]3(2)」の摘記事項(a-ア)乃至(a-エ)によると、原査定の拒絶の理由に引用された引用例1において、次の発明(「以下、引用例発明」という。)が記載されていると認められる。

「偏光子からの偏光された光を光弾性変調器24により変調し、前記光弾性変調器24により変調された光を試料26に照射し、該試料26からの光をグラン・テイラー型分析器42,74を通して2方位角を検出する測定を行い、該試料26の複屈折特性の測定を行う装置において、
校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の校正を行う、前記装置の校正方法。」

そして、原査定の拒絶の理由に引用された引用例3は、前記「第2[理由]3(2)」に記載したとおりのものである。

3 対比
本願発明と引用例発明とを対比する。
(a)引用例発明の「偏光子22」、「光弾性変調器24」は、その機能・構成からみて、
本願発明の「偏光子」、「光弾性変調子」に各々相当する。

(b)引用例発明の「2つのグラン・テイラー型分析器」は、入射光の偏光を行う機能からみて、本願補正発明の「検光子」に相当する。また、引用例発明の「該試料26からの光をグラン・テイラー型分析器42,74を通して2方位角を検出する測定を行」うことは、検光子を通して試料の複屈折特性に係る測定を行っていることからみて、本願発明の「試料からの出力光を検光子に通して検出することで前記試料の複屈折を測定する」ことに相当する。

(c)引用例発明の「装置」は、複屈折特性の測定を行うことから、本願発明の「複屈折測定装置」に相当する。

(d)一般的に「校正」と「較正」とは広義に同意であることから、引用例1発明の「校正」は、本願補正発明の「較正」に相当する。そして、引用例発明の「校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の校正を行う、前記装置の校正方法」と、本願補正発明の「前記試料として4分の1波長板を用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を行ったことを特徴とする複屈折測定装置のキャリブレーション方法」とは、「試料として波長板を用いて較正を行うことを特徴とする複屈折測定装置のキャリブレーション方法」という点で共通する。

以上、(a)?(d)の考察から、両者は、

(一致点)
「偏光子からの光を光弾性変調子により変調し、該変調された光を試料に照射し、該試料からの出力光を検光子に通して検出することで前記試料の複屈折を測定する複屈折測定装置において、
試料として波長板を用いて較正を行うことを特徴とする複屈折測定装置のキャリブレーション方法。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の補正を行うことが、本願補正発明では、「前記試料として4分の1波長板を用いた時の検出信号を基準として、検出信号の較正を行う」のに対し、引用例発明では、「校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の校正を行う」ことである点。

4 当審の判断
上記(相違点)について検討するに、前記「第2[理由]3 (4)」で検討したのと同様に、引用例発明の校正試料として波長板を用いたときの測定値をもとに検出値の校正を行うことに対して、引用例3に記載されたように各種の波長板を用い、周知の四分の1波長板と周知の検出信号を較正する技術を付加して、本願発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本願発明の効果も、引用例発明、引用例3に記載された事項、並びに周知技術に基づいて当業者が予想し得る範囲内のものであり、格別顕著なものとはいえない。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項5に係る発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-06 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-25 
出願番号 特願2002-351400(P2002-351400)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 573- Z (G01N)
P 1 8・ 571- Z (G01N)
P 1 8・ 572- Z (G01N)
P 1 8・ 55- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 574- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 亜矢子  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
居島 一仁
発明の名称 複屈折測定装置および複屈折試料の軸方位検出方法、複屈折測定装置のキャリブレーション方法。  
代理人 岩橋 祐司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ