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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A43C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A43C
管理番号 1213348
審判番号 不服2008-28643  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-10 
確定日 2009-09-24 
事件の表示 特願2003-357379号「ソールおよびソールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年5月13日出願公開、特開2004-136095号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年10月17日(パリ条約による優先権主張2002年10月17日、独国)の出願であって、平成20年8月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がされたものである。

2.平成20年11月10日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年11月10日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項19は、「ソールの製造方法であって、
a. 少なくとも1つのロック手段を持つ固定用突出部を有するスタッドのための少なくとも1つの受容手段を提供し、
b. 該少なくとも1つの受容手段の周りにソール本体を形成する、
各工程を有してなり、
c. 前記受容手段が、空洞および第2のロック手段を持つ少なくとも1つの壁を有し、該壁を前記受容手段と一体に形成し、
前記受容手段および前記固定用突出部が、前記スタッドの向きを明確に規定する互いに対応する形状を有し、 前記スタッドが、前記受容手段から該スタッドを引き抜くための係合手段を有し、 前記係合手段が、前記スタッドの両側に配置された2つの凹部として設けられている、ことを特徴とする方法。」と補正された。
上記補正は、発明を特定するための事項である、スタッドに関し、「受容手段から該スタッドを引き抜くための係合手段を有し、 前記係合手段が、前記スタッドの両側に配置された2つの凹部として設けられている 」ことを限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、優先権主張日前に頒布された国際公開第99/45811号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図1?15とともに以下の事項が記載されている。
ア.「図1乃至図3は何れも本発明の履物用滑止具の実施の形態の一例としてのゴルフ靴用の滑止具に関するものである。但し、他の各種運動靴及びその他の履物にも使用可能である。
図1(a)は保持体の平面図、図1(b)は保持体の中央縦断面図、図2(a)は滑止体の平面図、図2(b)は滑止体の中央縦断面図、図3は滑止具の使用状態の中央縦断面図である。
この滑止具は66ナイロン樹脂製の保持体10と滑止体50からなる。・・・(中略)・・・
保持体10は、厚肉円筒状部12と、軸心方向中間位置において全周にわたり径方向外方に張り出した張出部14と、図1の下部を閉塞する底板16からなる。
張出部14は、・・・(中略)・・・図1(b)の上端部よりも下方を例えば合成ゴム製の靴底にインサート成形等により埋設固定した際に、保持体10が軸心線のまわりに回動することが確実性高く防がれる。また、底板16によって、インサート成形等による埋設固定の際に保持体10の厚肉円筒状部12内に合成ゴム等が侵入することが防がれる。
保持体10の厚肉円筒状部12における180度中心角毎の2箇所に、内周面に開口する軸心方向溝部18(保持体側挿入部)を有する。各軸心方向溝部18には、厚肉円筒状部12の上部(嵌合口側)の外周部に基部を有し、下方(嵌合奥)に向かう先端部が径方向内方突出の抜け止め突部20に形成された舌片22(片持梁状部)を備える。
舌片22は、それ自体の弾性により、その先端部である抜け止め突部20を径方向内方に弾性的に付勢されており、抜け止め突部20を径方向外方に変位させると径方向内方向きの弾性反発力が生ずる。
舌片22の内側面のうち上部以外は内下方に傾斜し、舌片22の下側面(嵌合奥側面)は外上方に傾斜し、抜け止め突部20の縦断面は内方に向かって鋭角状に構成されている。抜け止め突部20の内端は厚肉円筒状部12の内径よりもやや内方に突出している。
・・・(中略)・・・
厚肉円筒状部12の円筒状内周面は、周方向の2箇所に不連続部として軸心方向溝部18を有し、保持体側嵌合部24を構成している。
滑止体50は、8個の小突起52が上面外周部に等間隔に配設されてなる略円板状の滑止部54と、その滑止部54の中央部に下向きに突設された円柱状の滑止体側嵌合部56からなる。
滑止体側嵌合部56の外径は、保持体側嵌合部24の内径より僅かに小さく、滑止体側嵌合部56の下端外周部には面取りが施されている。滑止体側嵌合部56の下端やや上方には、径方向外方開口の周方向の環状抜け止め溝部58(抜け止め凹部)が形成されている。環状抜け止め溝部58の下側面は軸心方向に対し直交し、上側面は外上向きに傾斜している。
・・・(中略)・・・
滑止部54における180度中心角毎の2箇所に対称状に、上下(軸心方向)に貫通する長方形断面の滑止体側挿入部60が形成されている。各滑止体側挿入部60の径方向内方位置は、滑止体側嵌合部56の外周位置に対応する。
保持体10における保持体側嵌合部24の円筒状内周面及び滑止体50における滑止体側嵌合部56の円筒状外周面が、横方向支持機構を構成する。
図3に示すようにゴルフ靴底80(図3において靴底面は上向き)に埋設固定した保持体10の保持体側嵌合部24に滑止体50の滑止体側嵌合部56を十分に嵌合させれば、舌片22の先端部の抜け止め突部20は、嵌合の過程において滑止体側嵌合部56の外周面により一旦径方向外方へ弾性的に拡開した後、環状抜け止め溝部58に嵌合する。保持体側嵌合部24と滑止体側嵌合部56の回転角度によらず環状抜け止め溝部58に抜け止め突部20が嵌合し得るので、保持体側嵌合部24に滑止体側嵌合部56を嵌合させて保持体10に滑止体50を取り付ける作業が容易であり、緩まないよう強くねじ込んで固定するための強い力及び手間を要しない。・・・(中略)・・・
抜け止め突部20が環状抜け止め溝部58に嵌合すると、舌片22による径方向内向きの付勢力と、環状抜け止め溝部58の下側面が軸心方向に対し直交し、抜け止め突部20の下側面が外上方に傾斜していることによりその嵌合が保持され、滑止体側嵌合部56が保持体側嵌合部24から上方へ離脱することが防がれて滑止体50が保持体10に固定的に保持される。」(第15頁第28行?第18頁第5行)
イ.「保持体10から滑止体50を離脱させるには、嵌合解除具90に二股状に設けられた挿入体92を滑止体側挿入部60及び軸心方向溝部18に十分に挿入する。両挿入体92の形状及び位置関係は、両滑止体側挿入部60に同時に十分に挿入し得るよう構成されている。両挿入体92を両滑止体側挿入部60及び軸心方向溝部18に同時に十分に挿入することにより、両挿入体92は、舌片22における内下方傾斜の内側面を押圧して径方向外方に拡開させ、環状抜け止め溝部58に対する抜け止め突部20の嵌合が解除される。これにより、滑止体側嵌合部56を保持体側嵌合部24から上方へ離脱させて滑止体50を保持体10から取り外すことができる。」(第18頁第19?27行)
ウ.「なお、突起152の位置により摩滅度が異なる場合、適時に、図12に示すように嵌合解除具の回動用凹部196を滑止部154の上面及びその中央部の小突起151に嵌合させた状態でその把持部192を把持して回転させることにより、回動用凹部196の周縁部を滑止部154の突起152に作用させて滑止体150を回転させて摩滅の均等化による長寿命化を図ることができる。」(第21頁第27行?第22頁第2行)
エ.「保持体110から滑止体150を離脱させるには、嵌合解除具190に平行状に設けられた一対の挿入体194を何れかの向かい合う一対の挿入孔160に挿入し、図11に示すように必要に応じその状態で把持部192を回動させることにより滑止体150を回動させて挿入体194及びそれを挿入した挿入孔160の回転角度位置をゴルフ靴底180に矢印Rで示された両軸心方向溝部118の位置に一致させた後、前記一対の挿入体194を軸心方向溝部118に十分に挿入する。・・・(中略)・・・
挿入体194が挿入孔160に挿入される際、その挿入孔160の開口部をほぼ閉塞する弁状体162が下方に押し開けられる。通常状態において挿入孔160は弁状体162によりほぼ閉塞されているので、挿入孔160が詰まって挿入体194を挿入し得なくなることが防がれ、嵌合解除をより確実性高く行うことができる。
両挿入体194を両挿入孔160を介して両軸心方向溝部118に同時に十分に挿入することにより、両挿入体194は、舌片122における内下方傾斜の内側面を押圧して径方向外方に拡開させ、環状抜け止め溝部158に対する抜け止め突部120の嵌合が解除される。これにより、滑止体側嵌合部156を保持体側嵌合部124から上方へ離脱させて滑止体150を保持体110から取り外すことができる。その際、外方拡開状態の舌片122の弾性反発力が両挿入体194に対し上方へ押し出す力を及ぼし、また、弁状体162が両挿入体194を挿入孔160の開口部付近で弾性的に押圧することにより、滑止体150の弁状体162が挿入体194を押圧保持する。そのため、滑止体150が離脱する向きに把持部192を移動させることにより、図10に示されるように滑止体150を容易に離脱させることができる。」(第22頁第3行?末行)
オ.「横方向支持機構は、例えば、保持体側嵌合部と滑止体側嵌合部が嵌合した場合に、嵌合方向における2以上の箇所において又は嵌合方向に連続的に、相互に嵌合方向に直交する方向に支持し得る外周部と内周部の一方を保持体側嵌合部に、他方を滑止体側嵌合部に設けることによって構成することができる。このような外周部と内周部の組み合わせの例としては、円筒状内周面と円筒状外周面、横断面多角形状(例えば横断面正多角形状)の内周面と外周面、横断面楕円形状の内周面と外周面(但し、何れも周方向又は嵌合方向の1又は2以上の部分に不連続部を有していてもよい。例えば円筒状内周面又は円筒状外周面が周方向に不連続であれば、嵌合方向に連続する1又は2以上の円弧状内周面又は円弧状外周面となる。)等を挙げることができる他、前記のような内周面及び外周面の一方と、他方を稜線がその面に沿う略嵌合方向の所要数の突条に替えたものとの組み合わせ等を挙げることができる。
横方向支持機構は、円筒状内周面と円筒状外周面(何れも周方向又は嵌合方向の1又は2以上の部分に不連続部を有していてもよい。)により構成して保持体に対する滑止体の嵌合方向のまわりの回転を、例えば芝生等の被踏部の保護や滑止体の滑止部の摩耗抑制等のために許容するものとすることもできる。なお、例えばゴルフ等の競技を行う上で少しでも有利な滑止機能を発揮させる上で、履物底部における滑止具の位置に応じて回転し得るものと回転し得ないものを混在させることもできる。」(第3頁第18行?第4頁第7行)
カ.保持体及び滑止具の使用状態の中央縦断面図である、図1(b)及び3には、保持体10の厚肉円筒状部12における舌片22と底板16以外の保持体10の各部分とが、連続した外形線で囲まれ、同じハッチングの付されているから、底板16以外の保持体10の各部分と舌片22とは一体に形成されたものが図示されているといえる。
また、同図1(b)及び3には、舌片22の外側で、保持体10の厚肉円筒状部12の外側の部分との間に、空間がある様子が図示され、上記記載事項(ア)に「舌片22は、それ自体の弾性により、その先端部である抜け止め突部20を径方向内方に弾性的に付勢されており、抜け止め突部20を径方向外方に変位させると径方向内方向きの弾性反発力が生ずる。」、上記記載事項(イ)に「両挿入体92を両滑止体側挿入部60及び軸心方向溝部18に同時に十分に挿入することにより、両挿入体92は、舌片22における内下方傾斜の内側面を押圧して径方向外方に拡開させ、環状抜け止め溝部58に対する抜け止め突部20の嵌合が解除される。」と記載されていることからみて、上記空間は舌片22が径方向外方への拡開時に、舌片22の一部が押し込まれる空間であるといえる。

これらの記載事項ア.?オ.及びカ.の図示内容を総合すると、上記引用刊行物には、
「靴底80の製造方法であって、
下端やや上方に径方向外方開口の周方向の環状抜け止め溝部58(抜け止め凹部)が形成されている滑止体側嵌合部56を有する滑止体50の滑止体側嵌合部56が、保持体側嵌合部24に嵌合させられる保持体10を、合成ゴム製の靴底80にインサート成形等により埋設固定し、
保持体10が空間及び先端部が径方向内方突出の抜け止め突部20に形成された舌片22(片持梁状部)を備え、該舌片22を保持体10と一体に形成され、
保持体10の保持体側嵌合部24及び滑止体側嵌合部56が回転し得る円筒状内周面と円筒状外周面や有利な滑止機能を発揮させる回転し得ない横断面多角形状の内周面と外周面、横断面楕円形状の内周面と外周面であり、
保持体10から滑止体50を離脱させる、嵌合解除具90に二股状に設けられた挿入体92を挿入する向かい合う一対の挿入孔160を有する方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「靴底80」は、その機能・構成からみて、前者の「ソール」に相当し、以下同様に、後者の「保持体10」は前者の「受容手段」に、後者の「滑止体50」は前者の「スタッド」に、後者の「滑止体側嵌合部56」は前者の「固定用突出部」に、後者の「環状抜け止め溝部58(抜け止め凹部)」は前者の「1つのロック手段」に、後者の「抜け止め突部20」は前者の「第2のロック手段」に、後者の「空間」は前者の「空洞」に、後者の「舌片22(片持梁状部)」は前者の「壁」にそれぞれ相当する。
後者の「下端やや上方に径方向外方開口の周方向の環状抜け止め溝部58(抜け止め凹部)が形成されている滑止体側嵌合部56を有する滑止体50の滑止体側嵌合部56が、保持体側嵌合部24に嵌合させられる保持体10を、合成ゴム製の靴底80にインサート成形等により埋設固定」する工程は、予め製作された「保持体10」を、「合成ゴム製の靴底80にインサート成形等により埋設固定」するものであり、その場合、保持体10を埋設する合成ゴム製の靴底80の部分は、前者の「ソール本体」に相当するといえるから、上記工程は前者の「a. 少なくとも1つのロック手段を持つ固定用突出部を有するスタッドのための少なくとも1つの受容手段を提供し、
b. 該少なくとも1つの受容手段の周りにソール本体を形成する、
各工程」に相当する。
そうすると、両者は、「ソールの製造方法であって、
a. 少なくとも1つのロック手段を持つ固定用突出部を有するスタッドのための少なくとも1つの受容手段を提供し、
b. 該少なくとも1つの受容手段の周りにソール本体を形成する、
各工程を有してなり、
c. 前記受容手段が、空洞および第2のロック手段を持つ少なくとも1つの壁を有し、該壁を前記受容手段と一体に形成する方法。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
相違点A:受容手段および固定用突出部に関し、本願補正発明が、「スタッドの向きを明確に規定する互いに対応する形状を有し」ているのに対して、引用発明は「保持体10の保持体側嵌合部24及び滑止体側嵌合部56が回転し得る円筒状内周面と円筒状外周面や有利な滑止機能を発揮させる回転し得ない横断面多角形状の内周面と外周面、横断面楕円形状の内周面と外周面」であって、本願補正発明のような形状ではない点。
相違点B:スタッドに関し、本願補正発明は「前記受容手段から該スタッドを引き抜くための係合手段を有し、
前記係合手段が、前記スタッドの両側に配置された2つの凹部として設けられている」のに対し、引用発明は、「保持体10から滑止体50を離脱させる、嵌合解除具90に二股状に設けられた挿入体92を挿入する向かい合う一対の挿入孔160を有する」ものの、本願補正発明のようなものではない点。

そこで、上記相違点について検討する。
ア.相違点Aについて
引用発明は、保持体10の保持体側嵌合部24及び滑止体側嵌合部56について、「回転し得る円筒状内周面と円筒状外周面」だけでなく、「有利な滑止機能を発揮させる回転し得ない横断面多角形状の内周面と外周面、横断面楕円形状の内周面と外周面」のものでもある。
一方、例えば特開2000-139514号公報や特開2001-137009号公報等に示されるように、スタッドの固定用突出部と受容手段の固定用突出部が挿入される嵌合部分を、スタッドの向きを一方向に規定する形状とすることは従来周知であって、国際公開第99/53790号公報でも、一方向ではないものの、スタッドを一定の方向に係止するスタッド下部のフックを有する突起が図示されている。さらに、上記特開2000-139514号公報には非対称のスタッドを回転しないように取り付けて最適のグリップを得ることも示唆されている。
そうすると、引用発明において、より良い滑止機能を得るべく、回転しないように、保持体10の保持体側嵌合部24及び滑止体側嵌合部56を、滑止体50の向きを規定する形状とすることに格別の困難性はなく、例えそれが、滑止体50(スタッド)を規定された一方向に規定するものであるとしても、上記特開2000-139514号公報には非対称のスタッドを回転しないように取り付けることが示唆され、かつそのような非対称のスタッドが周知でもあるから、当業者が必要に応じて適宜なし得たことといわざるを得ない。なお、本願補正発明は、スタッドのグラウンドに接する部分の形状が非対称としていない。
したがって、相違点Aに係る本願補正発明の構成とすることは、引用発明及び上記周知の事項から当業者が容易になし得たことといえ、そのことによる格別の効果も認められない。

イ.相違点Bについて
引用発明も「保持体10から滑止体50を離脱させる」ために嵌合解除具90を用いるものであって、嵌合解除具90は二股状に設けられた挿入体92を有している。
一方、特開昭58-200701号公報にはソールに取り付けられるキャップを取り外すための工具との係合面である環状溝を、キャップの側面に設け、これによりキャップを引き抜くことが示されており、米国特許第4,035,934号明細書にも取り外し工具の2つの脚の突起に係合する凹部をスタッドの両面に設けることが示されているように、側面の凹部によりスタッドを引き抜くことは、当業者にとって従来慣用手段であるといえ、引用発明も上記のように嵌合解除具90を用いるものであるから、引用発明において、工具により滑止体50を引き抜くべく、滑止体50の側面に工具との係合面として凹部を設けることに格別の困難性はない。
また、引用発明の嵌合解除具90も上記米国特許第4,035,934号明細書の取り外し工具も、2本の脚により取り外そうとするものであるから、滑止体50の側面に工具との係合面を設けるにあたり、その係合面を2つの凹部とすることは、このような工具に合わせて係合面を2つの凹部とするものといえ、当業者が適宜なし得た設計的事項である。
例え、引用発明が舌片22の先端部に形成された径方向内方突出の抜け止め突部20により係止するものであるとしても、例えば米国特許第5,848,482号明細書にも示されるように、これを単に引き抜くことを考え得ないというものではない。付言すると、仮に、2つの凹部の位置がスタッドのうち、ソールからグラウンドに突出するものであると仮定しても、そのような部分で係止して引き抜くことは、上記特開昭58-200701号公報や米国特許第5,848,482号明細書に示されるように当業者が適宜選択し得た事項といわざるを得ない。
したがって、相違点Bに係る本願補正発明の構成とすることは、引用発明及び上記周知の事項から当業者が容易になし得たことといえる。そして、そのことによる格別の効果も認められない。

また、相違点A及びBを合わせ考えたも、その効果が格別であるとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項21に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年1月9日に手続補正された明細書の特許請求の範囲の請求項21に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ソールの製造方法であって、
a. 少なくとも1つのロック手段を持つ固定用突出部を有するスタッドのための少なくとも1つの受容手段を提供し、
b. 該少なくとも1つの受容手段の周りにソール本体を形成する、
各工程を有してなり、
c. 前記受容手段が、空洞および第2のロック手段を持つ少なくとも1つの壁を有し、該壁を前記受容手段と一体に形成し、
前記受容手段および前記固定用突出部が、前記スタッドの向きを明確に規定する互いに対応する形状を有することを特徴とする方法。」

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物の記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、実質的に、前記「2.(1)」で検討した本願補正発明の発明を特定するための事項である、スタッドに関し、「受容手段から該スタッドを引き抜くための係合手段を有し、 前記係合手段が、前記スタッドの両側に配置された2つの凹部として設けられている 」とを限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-22 
結審通知日 2009-04-28 
審決日 2009-05-11 
出願番号 特願2003-357379(P2003-357379)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A43C)
P 1 8・ 121- Z (A43C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 裕介平田 慎二  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 清水 富夫
豊島 唯
発明の名称 ソールおよびソールの製造方法  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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