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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1213364
審判番号 不服2007-14465  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-18 
確定日 2010-03-10 
事件の表示 特願2005-135207号「入れ子式の要素を備えた噴射部を具備する針のない注射器」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月29日出願公開、特開2005-261962号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2000年6月30日(パリ条約による優先権主張1999年7月16日、仏国)を国際出願日とする特願2001-510539号の一部を平成17年5月6日に新たな特許出願としたものであって、平成19年2月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年5月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年10月23日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「液体有効成分(7)を噴射するための針のない注射器であって、液体有効成分が最初、少なくとも1つの噴射ノズルを具備し注射器の下流側端部(2)に置かれた噴射部(1,10)と、液体有効成分を加圧しかつ噴射部を通って押出す推進装置(9)の作用のもとに移動することができる壁(8)との間に置かれていて、噴射部(1,10)が少なくとも2つの要素(3,4,33,34)の組立体からなり、各要素が下流側の面と上流側の面とこれらの面を一緒に接合する側部表面とを有している針のない注射器において;
前記噴射部(1,10)が一つの支持体(4)と接触するようになっている芯(3,331,341)から構成されていて、前記芯(3,331,341)の接触表面は少なくとも一つの溝(31,53,54)を有しており、前記溝各々は、展開する断面を有していて、かつ前記支持体(4)の接触表面により区切られていることを特徴とする、針のない注射器。」

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、米国特許第3,788,315号明細書(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(a)「The present invention・・・(中略)・・・by hypodermic syringe and needle.」『本発明は、使い捨ての皮膚トランスジェクタに関し、特に、高圧及び高速の下で装置から薬剤を放出する手段を解除するために、外面にトリガー機構を具えた比較的小型の装置に関するものである。しばらくの間、内服用水剤の経皮的な投与のために様々な装置が入手可能であった。これらは、皮下注射器及び針による通常の皮下注射に取って代わるものである。』(第1欄第3?12行)(『』内は当審による仮訳、以下同様)
(b)「The main advantages・・・(中略)・・・who are excessively apprehensive of injections.」『針を使用しない注射によって得られる主たる利点は、薬剤の投与の相対的な無痛性及び針を用いた皮膚組織の貫通によって予め創出された外傷が無いことである。したがって、針の挿入から生じる感染又は出血の如何なる原因も回避される。更に、心理学上の観点から、針無しの注射は、注射を過度に懸念する患者にとって相当に有利である。』(第1欄第42?50行)
(c)「In the drawing a cutaneous transjector 1 is・・・(中略)・・・against the piston plunger 15.」『図示した皮膚トランスジェクタ1は、一方の端部が閉鎖し、反対側の端部が開放した細長いハウジングから形成され、ハウジングは円滑に丸みを帯びた縁部を有する円筒形状とするのが好適である。その開口端では、ハウジング3がカバー部材によって閉鎖される。図3に示すように、カバー部材5はねじ係合によってハウジングに固定される。ハウジング3とカバー部材5とを組み合わせることにより、トランスジェクタ1内に細長いチャンバ7を形成する。複数個の開口9は、チャンバ7と装置の外面との間に連絡するカバー部材5を通じて延在する。
図2に示すように、引張リング11は、開口9を包含する部分を包囲するカバー部材の半径方向外端表面に延在している。引張リング11は、波形をつけた表面又は粗い表面を有する。この表面は、薬剤の投与の間に、注射する場所をぴんと張られた状態に維持すると共に、スリップを防止するために有用である。
図3及び図5に示した本発明の実施形態において、横断的な隔壁13はチャンバ7を横切って延在し、その端部を仲介すると共に、チャンバをサブチャンバ又はスペース7a,7bに分割する。内服用水剤を包含するために配置したカバー部材に近接したスペース7a及び圧縮ガスとするパワーソースを包含するために配置した他のスペース7bとを用いて、内服用水剤を放出させる。
スペース7a内には、ピストンプランジャ15を具える。このピストンプランジャ15は、カバー部材5の開口9を通じて内服用水剤を放出させるためにパワーソースによってスペースを通過して変位可能とする。図3及び図5に示すように、スペース7aと調整するカバー部材5の内側及び外側表面は湾曲した形状を有する。カバー部材の外側表面は凸面形状であるのに対し、内側表面は凹面形状を有する。同様に、カバー部材に近接したピストンプランジャの端面は凸面形状を有する。これは、トランスジェクタから放出される内服用水剤の表面張力による凹凸形状に近似させるために具備される。
スペース7a,7b間の隔壁13は開口13aを具え、内服用水剤が投与されると前記開口を通じて圧縮ガスがピストンプランジャに向けて解除される。スペース7b内に圧縮ガスを抑止するために、トリガーに類似した部材17がカバープレートから離れたスペース7aの端部を横切って延在し、隔壁13の表面に接触する。トリガー状部材は、チャンバ7を横切って横方向に変位可能とし、開口又は穴17aを具える。圧縮ガスをピストンプランジャ15に向けて解除するために、開口又は穴17aは隔壁の開口13aと調整して移動可能である。』(第3欄第34行?第4欄第22行)
(d)「When the device such as shown in FIG.1・・・(中略)・・・which is almost completely painless and without trauma.」『図1に示したような装置が使用する準備ができているならば、シール1はカバー部材から除去され、テープ19又は他の安全手段はパワーソースを解除するトリガー状部材17の端部から取り外される。図3ではシール21は除去されているが、横方向変位からトリガー状部材17を抑止するテープ19は未だ所定の場所にある。図5ではテープは、ハウジングを通じて横方向に押圧されたトリガー状部材17を具えるハウジングから少なくとも部分的に除去されているため、その穴17aは隔壁13を通じる開口13aと整合する。圧縮ガスとするパワーソースはスペース7bから拡張し、カバー部材5に向けて駆動するピストンプランジャ15に対して相当の圧力を働かせる。ピストンプランジャが圧縮ガスによって変位すると、水力学の法則に拠り、内服用水剤は極めて高い圧力及び速度でカバー部材の開口9を通じて強制され、内服用水剤のトランスジェクションが如何なる針も使用せず、殆ど完全無痛かつ外傷なしに行われるよう皮膚組織を通じた極めて細微な流れで通過する。』(第6欄第29?51行)
(e)図3には、内服用水剤が最初、カバー部材5とピストンプランジャ15との間に置かれていることが図示されている。
(f)図3、5には、カバー部材5が開口9を具備し、皮膚トランスジェクタの下流側端部に置かれていることが図示されている。

上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、
「内服用水剤を放出させるための針を使用しない皮膚トランスジェクタであって、内服用水剤が最初、開口9を具備し皮膚トランスジェクタの下流側端部に置かれたカバー部材5と、圧縮ガスによって変位し内服用水剤を極めて高い圧力で開口9から放出させるピストンプランジャ15との間に置かれている針を使用しない皮膚トランスジェクタ。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、後者における「内服用水剤」が、その機能・作用等からみて前者における「液体有効成分」に相当し、同様に、「放出させる」が「噴射する」に、「針を使用しない」が「針のない」に、「皮膚トランスジェクタ」が「注射器」に、「開口9」が「少なくとも1つの噴射ノズル」に、「カバー部材5」が「噴射部」に、「圧縮ガス」が「推進装置」に、「変位し」が「移動することができる」に、「ピストンプランジャ15」が「壁」に、それぞれ相当している。
また、後者の「ピストンプランジャ15」は「圧縮ガスによって変位」するのであるから、前者の「推進装置の作用のもとに移動することができる壁」に相当するといえ、後者の「圧縮ガス」は「内服用水剤を極めて高い圧力で開口9から放出させる」のであるから、前者の「液体有効成分を加圧しかつ噴射部を通って押出す推進装置」に相当するといえる。

したがって、両者は、
「液体有効成分を噴射するための針のない注射器であって、液体有効成分が最初、少なくとも1つの噴射ノズルを具備し注射器の下流側端部に置かれた噴射部と、液体有効成分を加圧しかつ噴射部を通って押出す推進装置の作用のもとに移動することができる壁との間に置かれている、針のない注射器。」の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点:噴射部が、本願発明では、少なくとも2つの要素の組立体からなり、各要素が下流側の面と上流側の面とこれらの面を一緒に接合する側部表面とを有しており、噴射部が一つの支持体と接触するようになっている芯から構成されていて、芯の接触表面は少なくとも一つの溝を有しており、溝各々は、展開する断面を有していて、かつ支持体の接触表面により区切られているのに対し、引用発明では、そのような特定事項を備えていない点。

5.当審の判断
そこで上記相違点について検討する。
液体を噴射させる噴射ノズルを具備する噴射部の構成として、少なくとも2つの要素の組立体からなり、各要素が下流側の面と上流側の面とこれらの面を一緒に接合する側部表面とを有しており、噴射部が一つの支持体と接触するようになっている芯から構成されていて、芯の接触表面は少なくとも一つの溝を有し、溝は支持体の接触表面により区切られている点は、例えば、実願昭61-95835号(実開昭63-1655号)のマイクロフィルム(第2図、第3図(a)、(b)等参照)、実願昭59-64998号(実開昭60-176260号)のマイクロフィルム(第2、3図等参照)にも記載されているように周知技術であり、これを引用発明の液体を噴射させる噴射ノズルを具備する噴射部の構成として採用することは、当業者であれば格別困難なくなし得ることである。また、本願明細書段落【0020】?【0021】及び本願の平成19年5月18日付け審判請求書を参照すると、「溝各々は、展開する断面を有する」とは「溝各々は、溝の軸方向に沿って変化する断面を有する」と解されるが、液体有効成分を噴射する針のない注射器において、噴射ノズルの断面を軸方向に沿って変化させることは、例えば、国際公開第95/3844号(第2図のノズル5等参照)、特開平3-207374号公報(第27、28図等参照)にも記載されているように周知技術であり、上記噴射部が2つの要素の組立体からなる点の周知技術を採用する際に、芯の接触表面が有する溝を軸に沿って変化させるようにして噴射ノズルの断面を軸方向に沿って変化させるようにする程度のことは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって、上記相違点に係る本願発明の特定事項とすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。

また、本願発明の効果も引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-30 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2005-135207(P2005-135207)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎宮崎 敏長  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 蓮井 雅之
吉澤 秀明
発明の名称 入れ子式の要素を備えた噴射部を具備する針のない注射器  
代理人 鶴田 準一  
代理人 石田 敬  

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