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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1213381
審判番号 不服2008-27825  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-30 
確定日 2010-03-10 
事件の表示 平成10年特許願第225378号「軟質管の継手」拒絶査定不服審判事件〔平成12年2月18日出願公開、特開2000-46272号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成10年7月24日の出願であって、平成20年9月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年10月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年11月28日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成20年11月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年11月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「継手本体の管挿入部に挿入した軟質管を、管挿入部の外周に同軸に設けられた雄ねじ部に袋ナットを螺合することによりチャックリングを介して緊締するようにした軟質管の継手において、上記管挿入部に挿入され、軟質管の管端と当接可能なリング部の外周から半径方向にストッパを立ち上げると共に、上記リング部から軸方向に向かって拡開する可撓性の目視片を少なくとも一対に設けてなるインジケータを備え、上記継手本体の雄ねじ部には、上記目視片が挿通可能な窓孔と、上記ストッパの軸方向の移動を許容するガイド溝とを設け、上記袋ナットの継手本体側の開口端には上記ストッパと係合可能な切欠を設け、軟質管の上記管挿入部に対する挿入長さが所定量以上であるときには上記目視片をさらに拡開させて窓孔から突出させる一方、上記挿入長さが所定量以下であるときには上記目視片の復元力によりストッパを上記袋ナットの切欠と係合可能としたことを特徴とする軟質管の継手。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、補正前の請求項1(出願当初の特許請求の範囲の請求項1)に記載された発明を特定するために必要な事項である「ストッパ」について、立ち上げ位置を「リング部の外周」と限定し、同じく「袋ナット」について、「上記袋ナットの継手本体側の開口端には上記ストッパと係合可能な切欠を設け」との限定を付加するとともに、「袋ナットに形成した切欠」を「袋ナットの切欠」と言い換えたものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
(1)実願平3-96470号(実開平5-45380号)のCD-ROM
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平3-96470号(実開平5-45380号)のCD-ROM(以下、「引用例1」という。)には、「管継手」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「本考案は、継手本体内へ接続する管が所定量挿入されないと接続作業が出来ず、かつ正常に接続がなされたことを容易に確認が出来るようにした管継手に関するものである。」(段落【0001】)
イ.「本考案は、上記の問題を解消し、接続される管が継手の挿入部に所定量挿入されないと接続作業が出来ず、かつ正常に接続がなされたことを外部から容易に確認できるようにした管継手を提供することを目的とする。」(段落【0005】)
ウ.「本考案は上記の構成であるから、スライドキー部材は接続管の挿入を阻止する形になっている。従って逆に言えば、接続管の管端をスライドキー部材の内面側係止面に当接させて、管を押し込みながらスライドキー部材を切欠き溝内で前進させることにより、スライドキー部材の外面側突出部も所定の位置まで移動させ、そうしないことには袋ナットを螺合して締め付けることが出来ない。同時に舌状突出片が切欠き溝の端面から継手本体上部に押し出され、外面に飛び出すことによって正確な接続が完了したことを目視で確認することが出来るものである。
また、この時スライドキー部材はロックリングの切り割り部にも嵌って係止しているので、袋ナットとロックリングが共回り状態で回転することなく、一様にロックリングの歯部が接続管の端部外周面に喰い込むので、接続管がねじれるようなことがない。さらに、スライドキー部材を合成樹脂材料とした場合、ロックリングの切り割り部内にもこの樹脂材料が充填された状態で挾着され管の全周にわたり内面側に押圧するので水密シールが完全に達成される。」(段落【0008】)
エ.「図1は一実施例を示す継手の斜視図で、その部品構成を示している。図において、1は継手本体で、おねじ部11、竹のこ状の複数の円周突条部15を有する筒状突出部12、切欠き溝14、他の機器との接続おねじ部16、及び工具を掛ける六角部17とからなっている。2はロックリングで、内周面に接続管の端部外周面に喰い込む歯部21、軸方向に抜ける切り割り22、及び一端外周面に形成したテーパ面23とからなっている。3は袋ナットで、継手本体のおねじ部11に螺合するめねじ部、切欠き溝31、及び工具を掛ける六角部33とからなっている。4はスライドキーで、舌状突出片41、内面側に接続管の管端が当接する係止面42、及び外面側に袋ナットの切欠き溝31に嵌合する突出部43とからなっており、これは弾性を有する合成樹脂材料から成形されている。」(段落【0010】)
オ.「図2は、この継手の組立て時の状態を示し、上半分はスライドキーが切欠き溝に嵌合した部分の断面図、下半分はスライドキーを含まない部分の断面図である。 まず、継手本体1の切欠き溝14は図1に示すように、六角部17及びおねじ部11の一部に筒状突出片12まで達するようなキー溝状となっており、スライドキー4の舌状突出片41側がこの溝内に位置し、一方の係止面42側がロックリング2の切り割り22に位置する。このスライドキー4は、上記切欠き溝14と切り割り22の溝内に嵌合装着されるので、スライドキー4自体は前後動に摺動可能であるが、ロックリング2は、このスライドキーによって非回転状態に位置決めされることになる。
次にこの継手の仮組立てについて説明すると、上記の通りスライドキー4を切欠き溝14及び切り割り22に嵌合し、袋ナット3を組付け位置にもってきた後(図1,2参照)組立用治具5’を筒状突出部12に挿入し、その管端をスライドキー4の係止面42に押し当ててスライドキー4を前進させる。これによって、袋ナット3をねじ込むことができ、袋ナットのめねじ部32と継手本体のおねじ部11を螺合した螺合部35を形成する。そして、所定の位置まで螺合した後、袋ナット3の切欠き溝31をスライドキー4の突出部43の位置に合致させ、組立治具5’の押し込み力を解除すると、スライドキー4の突出部43は、舌状突出片41の弾性力によって袋ナット3の切欠き溝31内に押し戻され嵌った状態となる。(図2参照)その後、組立用治具5’を抜けば、継手本体1と袋ナット3は螺合部35で一体になっていると共に、スライドキー4と切欠き溝31とのキー止めによって回転できない状態となる。従って、この状態で各部品は仮組立てされたことになり、これ以上のねじ込みも分解もできないものとなっている。」(段落【0011】)
カ.「図3は、この継手と接続管を接続した完了後の状態を示し、上半分は図2と同様スライドキーを含む部分の断面図、下半分は同じくスライドキーを含まない部分の断面図である。
接続作業は、まず接続管5を筒状突出部12の円周突条部15へ挿入し、スライドキー4の係止面42に管端を押し付け、スライドキー4を前進させて上記した突起部43と切欠き溝31とのキー止めを解除し、さらに接続管5を押し込みつつ、袋ナットを回転させて継手本体1と袋ナット3の各ねじ部を螺合して締め付け作業を行う。この時、ロックリング2は回転することがないので接続管がねじれることがない。そしてロックリングのテーパ面23は袋ナットのテーパ面34によって径方向に押圧されるので、ロックリング2は縮径して、その歯部21が管端の外周面に強固に喰い込むと共に接続管も径方向に締め付けるので管内面は円周突条部15で完全に水密シールされる。また、スライドキー4が樹脂で出来ているのでロックリング2の縮径によって、これが切り割り22内に充填されたことになりこの部分もシールがなされる。
一方スライドキー4の舌状突出片41は、切欠き溝14の上端面18から飛び出し、接続完了時には相当量突出することになるので接続が正常になされたことを外部から目視で確認することができる。なお、この舌状突出片41は赤又は青等の継手本体と異なる色を付けることにより判別がより容易になる。またスライドキーの機構を径方向に複数個設けることも可能である。」(段落【0012】)
キ.図1には、係止面42を備えた角棒状部材の上面から半径方向に立ち上がる突出部43と、角棒状部材の後端面から軸方向に向かって拡開する可撓性の舌状突出片41を備えたスライドキー4が図示されている。角棒状部材は、図3に示されるように、接続管5の管端と当接可能な係止面42を備えている。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「継手本体1の筒状突出部12に挿入した接続管5を、筒状突出部12の外周に同軸に設けられたおねじ部11に袋ナット3を螺合することによりロックリング2を介して緊締するようにした管継手において、上記筒状突出部12に挿入され、接続管5の管端と当接可能な係止面42を備えた角棒状部材の上面から半径方向に突出部43を立ち上げると共に、上記角棒状部材から軸方向に向かって拡開する可撓性の舌状突出片41を1つ設けてなるスライドキー4を備え、上記継手本体1には、上記舌状突出片41が挿通可能な切欠き溝14の上端面18と、上記突出部43の軸方向の移動を許容する上記切欠き溝14とを設け、上記袋ナット3の継手本体1側の開口端には上記突出部43と係合可能な切欠き溝31を設け、接続管5の上記筒状突出部12に対する挿入長さが所定量以上であるときには上記舌状突出片41をさらに拡開させて切欠き溝14の上端面18から突出させる一方、上記挿入長さが所定量以下であるときには上記舌状突出片41の復元力により突出部43を上記袋ナット3の切欠き溝31と係合可能とした管継手。」

(2)実願平3-24361号(実開平4-111985号)のマイクロフィルム
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平3-24361号(実開平4-111985号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、「軟質管の継手」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ク.「本考案は軟質管の継手に関し、継手に軟質管を接続する場合の接続不良防止対策に係るものである。」(段落【0001】)
ケ.「本考案は、このような点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、軟質管の端面に押されて動くインジケータ突片によって挿入長さが所定量に達したことを確認することにある。」(段落【0005】)
コ.「図1、図2および図5は実施例に係る軟質管の継手を示し、10は胴であって、この胴10の内部には流体通路が貫設されている。この胴10の中央部にはレンチ係止部11が設けられ、その一端側には管挿入部12が設けられ、この管挿入部12の外周側には雄ネジ部13が設けられている。また、30は胴部10の一端側に設けられた袋ナットであって、この袋ナット30の内周面には雌ネジ部31が設けられ、この雌ネジ部31が胴10の雄ネジ部13に螺合している。そして袋ナット30の内奥部はテーパ面になっている。さらに、20はポリエチレン製の軟質管であって、その先端が袋ナット30の内部を貫通して胴10の管挿入部12に外嵌している。そして、上記接続管20と袋ナット30のテーパ面との間には、内周面に突歯を有するチャックリング40が設けられ、この突歯が軟質管20の外壁に喰い込んでいる。
すなわち、軟質管20を胴10に接続する場合、予め、胴10の管挿入部12にチャックリング40を嵌挿し、袋ナット30を胴10の雄ネジ部13に緩く螺合しておく。この状態で軟質管20を、袋ナット30を通して管挿入部12とチャックリング40との間に挿入する。そして、袋ナット30を更に締めつけると、袋ナット30のテーパ面に押圧されてチャックリング40が中心方向に降縮し、その突歯が軟質管20の周面に喰い込んで接続が完了する。
そして、雄ネジ部13には窓13aが開口している。この窓13aは継手の中心軸を介して対称な位置に二つ設けられている。また、管挿入部12まわりにはインジケータ50を設けている。図6および図7に示すように、このインジケータ50は、軟質管20の端面に当接するように管挿入部12に外嵌したリング部51と、このリング部51から軟質管挿入方向に向かって斜め外方に突設し且つ上記各窓13aに嵌入する一対の突片52,52とを備え、軟質管20の挿入長さLが所定量になったときにインジケータ50の突片52の先端が窓13aから出るように構成している。」(段落【0012】?【0014】)
サ.「次に、上記実施例の作用を説明する。継手は、当初、図1および図2の状態にあるが、軟質管20を管挿入部12に挿入していくと軟質管20の端面がインジケータ50のリング部51に当接し、更に挿入していくとインジケータ50は軟質管20に押されて前進する。
そして、図3に示すように、軟質管20の挿入長さLが所定量になると、インジケータ50の突片52の先端が窓13aから出るので、この突片先端の出没により、挿入長さLが所定量に達したことが確認される。この状態で袋ナット30を締め付けると、図4に示すように、軟質管20の継手への接続が完了する。このように突片先端の出没により挿入長さLが所定量に達したことを確認でき、軟質管20の継手における接続不良を防止して管挿入部12と軟質管20との間からの漏水や軟質管20の管挿入部12からの脱落などの不具合の発生を確実に防止することができる。」(段落【0016】?【0017】)
シ.「なお、上記実施例では、窓13aおよび突片52を二つずつ設けたが、一つずつにしてもよいし、逆に三対以上にしてもよい。」(段落【0019】)
ス.図6及び図7には、リング部51に一対の突片52を設けたインジケータ50が図示されている。また、上記シ.には、窓13aおよび突片52を「三対以上」設けてもよい旨記載されているから、突片52を「少なくとも一対に設けてなるインジケータ50」が記載されているものと認められる。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「胴10の管挿入部12に挿入した軟質管20を、管挿入部12の外周に同軸に設けられた雄ネジ部13に袋ナット30を螺合することによりチャックリング40を介して緊締するようにした軟質管の継手において、上記管挿入部12に挿入され、軟質管20の管端と当接可能なリング部51から軸方向に向かって拡開する可撓性の突片52を少なくとも一対に設けてなるインジケータ50を備え、上記胴10の雄ネジ部13には、上記突片52が挿通可能な窓13aを設け、軟質管20の上記管挿入部12に対する挿入長さが所定量以上であるときには上記突片52をさらに拡開させて窓13aから突出させる軟質管の継手。」

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、その意味、構造または機能からみて、引用発明1の「継手本体1」は本願補正発明の「継手本体」に相当し、以下同様に、「筒状突出部12」は「管挿入部」に、「接続管5」は「軟質管」に、「おねじ部11」は「雄ねじ部」に、「袋ナット3」は「袋ナット」に、「ロックリング2」は「チャックリング」に、「管継手」は「軟質管の継手」に、「突出部43」は「ストッパ」に、「舌状突出片41」は「目視片」に、「切欠き溝14の上端面18」は「窓孔」に、「切欠き溝14」は「ガイド溝」に、「切欠き溝31」は「切欠」に、それぞれ相当する。
引用発明1の「接続管5の管端と当接可能な係止面42を備えた角棒状部材」と本願補正発明の「軟質管の管端と当接可能なリング部」とは、どちらも「軟質管の管端と当接可能な当接部材」である点で共通する。
引用発明1の「スライドキー4」は、接続管の管端と当接可能な係止面42を備えた角棒状部材から軸方向に向かって拡開する可撓性の舌状突出片41設けてなるものであり、接続管5の上記筒状突出部12に対する挿入長さが所定量以上であるときには上記舌状突出片41をさらに拡開させて切欠き溝14の上端面18から突出させるという作用を奏するものであるから、軟質管の管端と当接可能な当接部材から軸方向に向かって拡開する可撓性の目視片を設けてなるものであり、軟質管の上記管挿入部に対する挿入長さが所定量以上であるときには上記目視片をさらに拡開させて窓孔から突出させるという作用を奏する点において、「インジケータ」に相当するものということができる。

したがって、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
[一致点]
「継手本体の管挿入部に挿入した軟質管を、管挿入部の外周に同軸に設けられた雄ねじ部に袋ナットを螺合することによりチャックリングを介して緊締するようにした軟質管の継手において、上記管挿入部に挿入され、軟質管の管端と当接可能な当接部材から半径方向にストッパを立ち上げると共に、上記当接部材から軸方向に向かって拡開する可撓性の目視片を設けてなるインジケータを備え、上記継手本体には、上記目視片が挿通可能な窓孔と、上記ストッパの軸方向の移動を許容するガイド溝とを設け、上記袋ナットの継手本体側の開口端には上記ストッパと係合可能な切欠を設け、軟質管の上記管挿入部に対する挿入長さが所定量以上であるときには上記目視片をさらに拡開させて窓孔から突出させる一方、上記挿入長さが所定量以下であるときには上記目視片の復元力によりストッパを上記袋ナットの切欠と係合可能とした軟質管の継手。」

そして、両者は次の点で相違する(かっこ内は対応する本願補正発明の用語を示す。)。
[相違点]
相違点1:本願補正発明は、当接部材が「リング部」であり、「リング部の外周」から半径方向にストッパを立ち上げると共に、「上記リング部」から軸方向に向かって拡開する可撓性の目視片を「少なくとも一対に」設けてなるのに対して、引用発明1は、当接部材が「係止面42を備えた角棒状部材」であり、「角棒状部材の上面」から半径方向に突出部43(ストッパ)を立ち上げると共に、「上記角棒状部材」から軸方向に向かって拡開する可撓性の舌状突出片41(目視片)を「1つ」設けてなる点。
相違点2:本願補正発明は、継手本体の雄ねじ部に目視片が挿通可能な窓孔とストッパの軸方向の移動を許容するガイド溝とを別個に設けたのに対して、引用発明1は、突出部43(ストッパ)の軸方向の移動を許容する切欠き溝14(ガイド溝)の上端面18が舌状突出片41(目視片)を挿通可能とする窓孔になっている点。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明2の「胴10」は本願補正発明の「継手本体」に相当し、以下同様に、「管挿入部12」は「管挿入部」に、「軟質管20」は「軟質管」に、「雄ネジ部13」は「雄ねじ部」に、「袋ナット30」は「袋ナット」に、「チャックリング40」は「チャックリング」に、「リング部51」は「リング部」に、「突片52」は「目視片」に、「インジケータ50」は「インジケータ」に、「窓13a」は「窓孔」に、それぞれ相当するから、引用発明2は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、
「継手本体の管挿入部に挿入した軟質管を、管挿入部の外周に同軸に設けられた雄ねじ部に袋ナットを螺合することによりチャックリングを介して緊締するようにした軟質管の継手において、上記管挿入部に挿入され、軟質管の管端と当接可能なリング部から軸方向に向かって拡開する可撓性の目視片を少なくとも一対に設けてなるインジケータを備え、上記継手本体の雄ねじ部には、上記目視片が挿通可能な窓孔を設け、軟質管の上記管挿入部に対する挿入長さが所定量以上であるときには上記目視片をさらに拡開させて窓孔から突出させる軟質管の継手。」ということができる。
ところで、引用発明1と引用発明2とは、どちらも「軟質管の継手」という同一技術分野に属するものであり(摘記事項ア.ク.参照)、どちらも軟質管の管挿入部への挿入長さが所定量以上に達したことを確認できるようにすることを課題とするものである(摘記事項イ.ケ.参照)。そして、引用発明1の「角棒状部材」と引用発明2の「リング部51」とは、どちらも軟質管の管端と当接可能な当接部材である点で共通し、引用発明1の「舌状突出片41」と引用発明2の「突片52」とは、どちらも「目視片」として機能し、軟質管の管挿入部に対する挿入長さが所定量以上であるときには目視片をさらに拡開させて窓孔から突出させるという作用を奏する点で共通するから、引用発明1において、「角棒状部材」及び「角棒状部材から軸方向に向かって拡開する可撓性の舌状突出片41を1つ設けてなる」構成に代えて、引用発明2の「リング部」及び「リング部から軸方向に向かって拡開する可撓性の目視片(突片52)を少なくとも一対に設けてなる」構成を採用することは、当業者であれば容易に想到できたことである。そして、その適用に際して、引用発明1における角棒状部材(当接部材)、突出部43(ストッパ)、筒状突出部12(管挿入部)、切欠き溝14(ガイド溝)、おねじ部11(雄ねじ部)などの相互の配置関係を考慮すれば、引用発明1の突出部43(ストッパ)をリング部のどこに設けるかは、自ずから決まることであるから、突出部43(ストッパ)をリング部の外周から立ち上げる構成とすることは、当業者にとって設計的事項にすぎないというべきである。
してみると、引用発明1に引用発明2を適用し、相違点1に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。
(2)相違点2について
引用発明1において、「角棒状部材」及び「角棒状部材から軸方向に向かって拡開する可撓性の舌状突出片41を1つ設けてなる」構成に代えて、引用発明2の「リング部」及び「リング部から軸方向に向かって拡開する可撓性の目視片(突片52)を少なくとも一対に設けてなる」構成を採用することは、上述のとおり、当業者であれば容易に想到できたことである。そして、引用例2に、「窓13aは継手の中心軸を介して対称な位置に二つ設けられている。」(摘記事項コ.参照)と記載されているように、引用発明2は、2つの窓孔が継手本体の雄ねじ部に中心軸を介して対称な位置に設けられ、それぞれの窓孔に一対の目視片のそれぞれを挿通可能としたものであるから、引用発明1に引用発明2を適用する際には、目視片を挿入可能にする窓孔についても目視片とセットで適用することは当然のことである。そうすると、窓孔をガイド溝とは別の位置に設けることは自然なことであり、当業者が適宜なし得ることということができる。
してみると、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明1に引用発明2を適用して、当業者であれば容易に想到できたものである。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

なお、審判請求人は、審尋に対する平成21年11月6日付け回答書の中で、「引用文献1はスライドキーを棒状に形成する以外に全く開示がないため、このスライドキーを径方向に複数個設けることが、万一、実施形態の一つであるとしても、リング状とすることは全く示唆を受けません。そして、引用文献1の発明を技術的に正確に把握する限り、むしろ棒状のものをリング状に置換することは当業者が容易に想到することではありません。」(「回答の内容(3)」の項参照)、「引用文献1と引用文献2の各発明は、舌状突出片と目視片に求める機能が異なり、相互に代替すれば技術的矛盾を有することを審判請求書において主張立証しています。そして、引用文献1および2には、こうした技術的な矛盾を整合させる記載がないことから、引用文献1および2には補正後の本願発明に想到する動機付けを構成しません。」(「回答の内容(4)」の項参照)と主張する。
しかし、上記4.(1)及び(2)で述べたとおり、引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明の属する技術分野、課題、機能、作用などの共通性を考慮すると、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された発明を適用することは、当業者であれば容易になし得ることである。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「継手本体の管挿入部に挿入した軟質管を、管挿入部の外周に同軸に設けられた雄ねじ部に袋ナットを螺合することによりチャックリングを介して緊締するようにした軟質管の継手において、上記管挿入部に挿入され、軟質管の管端と当接可能なリング部から半径方向にストッパを立ち上げると共に、上記リング部から軸方向に向かって拡開する可撓性の目視片を少なくとも一対に設けてなるインジケータを備え、上記継手本体の雄ねじ部には、上記目視片が挿通可能な窓孔と、上記ストッパの軸方向の移動を許容するガイド溝とを設け、軟質管の上記管挿入部に対する挿入長さが所定量以上であるときには上記目視片をさらに拡開させて窓孔から突出させる一方、上記挿入長さが所定量以下であるときには上記目視片の復元力によりストッパを上記袋ナットに形成した切欠と係合可能としたことを特徴とする軟質管の継手。」

2.引用例の記載事項
引用例の記載事項及び引用発明1及び引用発明2は、前記II.2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記II.1.の本願補正発明から、「ストッパ」の立ち上げ位置についての限定事項である「リング部の外周」との事項を省き、同じく「袋ナット」について限定事項である「上記袋ナットの継手本体側の開口端には上記ストッパと係合可能な切欠を設け」との事項を省くとともに、「袋ナットの切欠」を「袋ナットに形成した切欠」と言い換えたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3.4.に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-21 
結審通知日 2010-01-05 
審決日 2010-01-18 
出願番号 特願平10-225378
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16L)
P 1 8・ 575- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和田 雄二  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 川上 益喜
大山 健
発明の名称 軟質管の継手  
代理人 濱田 俊明  

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