• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1213606
審判番号 不服2007-12385  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-27 
確定日 2010-03-17 
事件の表示 平成 9年特許願第290438号「水架橋成形物及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年4月20日出願公開、特開平11-106601〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は平成9年10月7日の特許出願であって、平成17年10月12日付けで拒絶理由が通知され、同年12月15日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成19年3月6日付けで拒絶査定がされ、これに対し同年4月27日に拒絶査定不服審判が請求され、同年5月16日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成17年12月15日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものである。(以下、請求項1?4に係る発明を、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」といい、これらを総称して「本願発明」という。)

第3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、平成17年10月12日付け拒絶理由通知書及び平成19年3月6日付け拒絶査定からみて、「本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物2:特開平9-208637号公報 」というものである。

第4.刊行物に記載された事項
上記刊行物2には、以下の事項が記載されている。

ア.「【請求項1】 エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合体からなる直鎖状ポリエチレンのシラン変性物であって、
190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.02?0.8g/10分の範囲であり、
密度(d)が0.920?0.940g/cm^(3)の範囲であり、
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係が、式(1)
Mw/Mn≦3.0 …(1)
を満たすことを特徴とする架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレン。
【請求項2】 請求項1記載のシラン変性直鎖状ポリエチレンからなる成形体を架橋させてなる架橋パイプ。」(特許請求の範囲)

イ.「【発明の属する技術分野】本発明は、架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレンおよびそれから製造された架橋パイプに関するものであり、より詳しくは柔軟性およびクリープ特性に優れ、給湯、給水、床暖房、ロードヒーティング等のパイプに使用するための架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレンおよびそれから製造された架橋パイプに関するものである。」(段落【0001】)

ウ.「《直鎖状ポリエチレン》本発明の架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレンにおいて、シラン変性前の直鎖状ポリエチレンは、エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合体からなる直鎖状ポリエチレンである。α-オレフィンの割合は0.1?10モル%、好ましくは0.2?5モル%であるのが望ましい。
エチレンと共重合する炭素原子数3?20のα-オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等があげられる。これらの中では1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンが好ましい。」(段落【0007】?【0008】)

エ.「シラン変性前の直鎖状ポリエチレンは、公知の触媒、例えば特開昭60-88016号公報等に記載のいわゆるチーグラー触媒または特開平6-65443号公報等に記載のいわゆるメタロセン触媒等を用いて、エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとを共重合させることにより製造することができる。代表的な重合方法としては、スラリー法、気相法、溶液法等があげられるが、シラン変性前の直鎖状ポリエチレンは製造の際に使用する重合触媒や重合方法等により制約されるものではない。」(段落【0009】)

オ.「《シラン変性直鎖状ポリエチレン》本発明の架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレンは、上記直鎖状ポリエチレンのシラン変性物である。本発明の架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレンは、変性前の直鎖状ポリエチレンに、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物を加熱グラフト、すなわちシラン変性させることによって製造することができる。
シラン変性に使用するラジカル発生剤としては、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3等の有機過酸化物があげられる。これらの中では2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
シラン変性に使用するシラン化合物としては、末端ビニル基およびアルコキシ基等の加水分解可能な有機基を有するシラン化合物が好ましく、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等があげられる。これらの中ではビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましい。
シラン変性直鎖状ポリエチレンの具体的な製造方法としては、例えば次のような方法があげられる。すなわち変性前の直鎖状ポリエチレン100重量部に前記ラジカル発生剤0.001?5重量部、好ましくは0.01?2重量部および前記シラン化合物0.1?10重量部、好ましくは0.5?5重量部を加え、例えばヘンシェルミキサー等の適当な混合機により混合し、押出機、バンバリーミキサー等により140?250℃程度に加熱、混練して加熱グラフトさせることにより製造することができる。」(段落【0010】?【0013】)

カ.「本発明のシラン変性直鎖状ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)は、ASTM D-1238に従い、190℃、2.16kg荷重の条件下で測定された値が0.02?0.8g/10分、好ましくは0.04?0.4g/10分の範囲にある。メルトフローレート(MFR)が0.02?0.8g/10分の範囲にあると、架橋パイプの押出成形が容易であり、また高温耐圧クリープ特性が優れている。
また本発明のシラン変性直鎖状ポリエチレンの密度(d)は0.920?0.940g/cm^(3)、好ましくは0.930?0.940g/cm^(3)の範囲にある。密度が0.920?0.940g/cm^(3)の範囲にあると、柔軟性に優れた架橋パイプが得られる。なお密度(d)は、JIS K6760により測定された値である。
さらに本発明のシラン変性直鎖状ポリエチレンは、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係が、式(1)
Mw/Mn≦3.0 …(1)
を満たし、好ましくはMw/Mnの値が2.9以下、より好ましくは2.8以下を満たす。MFRと密度が前記範囲内であり、かつMw/Mnが前記範囲であると、高温耐圧クリープ特性および柔軟性に優れた架橋パイプが得られる。なお重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はウォーターズ社GPCモデルALC-GPC-150Cにより測定した値である。測定条件は、カラムとして東洋曹達(株)製PSK-GMH-HTを用い、オルソジクロルベンゼン(ODCB)溶媒、140℃である。」(段落【0014】?【0016】)

キ.「《架橋パイプ》本発明の架橋パイプは、前記シラン変性直鎖状ポリエチレンの成形体を架橋してなるものである。成形体は、通常100重量部にシラノール縮合触媒0.001?5重量部、好ましくは0.01?2重量部を配合し、通常パイプ成形機を用いてパイプ状に成形される。
上記シラノール縮合触媒としては、シラノール基間の脱水縮合を促進する触媒として用いられている公知の化合物を使用することができる。代表的なシラノール縮合触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート等があげられる。また、シラノール縮合触媒および変性前の直鎖状ポリエチレンを用いてマスターバッチを別途作成し、これとシラン変性直鎖状ポリエチレンとをヘンシェルミキサー、Vブレンダー等の混合機によりドライブレンドした後、この混合物をパイプ成形に使用してもよい。
成形されたパイプは通常次のような方法により架橋される。すなわち、パイプを常温?130℃程度、好ましくは常温?100℃にて水中、水蒸気中または多湿雰囲気下で1分間?1週間程度、好ましくは10分間?1日間程度水分と接触させる。これにより、シラノール触媒によりシラン架橋反応が進行し、架橋パイプが得られる。本発明はパイプの架橋方法、例えば水分との接触方法等により制約を受けるものではない。」(段落【0017】?【0019】)

ク.「実施例1
チーグラー触媒にて重合された、MFR=1.7g/10min、密度=0.937g/cm^(3)、Mw/Mn=2.6の直鎖状ポリエチレン(1-ブテン=1.1モル%)100重量部に、ビニルトリメトキシシラン2重量部および2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン0.03重量部を配合し、口径65mm、L/D=28、圧縮比3.0の押出機を用いて、設定温度230℃、スクリュー回転数80rpmの条件で加熱グラフトを行い、シラン変性直鎖状ポリエチレンを得た。このシラン変性直鎖状ポリエチレンのMFR、密度、Mw/Mnは表1に記載の通りであった。なお重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はウォーターズ社GPCモデルALC-GPC-150Cにより測定した。測定条件は、カラムとして東洋曹達(株)製PSK-GMH-HTを用い、オルソジクロルベンゼン(ODCB)溶媒、140℃である。
上記シラン変性直鎖状ポリエチレンと、シラン変性前の直鎖状ポリエチレン100重量部にジオクチル錫ジラウレート1.5重量部を含有させたマスターバッチとを25:1の重量比でブレンドし、口径65mm、L/D=25、圧縮比2.5の押出機により設定温度170℃でJIS K6769に規定されるPN15、1種、呼び径13のパイプを成形した。このパイプを80℃の温水中に24時間浸漬して架橋させ、架橋パイプを得た。
上記架橋パイプのゲル分率、クリープ破壊時間および柔軟性を下記方法により調べた。結果を表1に示す。ゲル分率の測定はJIS K6769に準拠して行った。クリープ破壊時間は、サンプル長さ50cm、温度95℃、応力4.7MPaまたは4.2MPaの条件にて窒素ガスにて加圧して測定した。なお次式により試験内圧から応力を換算した。
応力=内圧*〔(外径/肉厚)-1〕/2
柔軟性の評価は、シラン変性直鎖状ポリエチレンより作成した架橋シートのオルゼン剛性を測定して判定した。すなわちオルゼン剛性の小さいものは柔軟性に優れ、オルゼン剛性の大きいものは柔軟性に劣っているため、オルゼン剛性が450MPa以上のものは×、450MPa未満のものは○と評価した。オルゼン剛性の測定方法は次の通りである。すなわち、シラン変性直鎖状ポリエチレンを177℃、圧力3.9MPa、予熱時間5分、加圧時間5分の条件でプレス成形して2mm厚のシートを得、このシートを80℃のジブチル錫ジラウレートエマルジョン溶液に24時間浸漬して架橋シートとし、水により洗浄し、23℃、湿度50%にて24時間状態調節した後、ASTM D747によりオルゼン剛性を測定し、表1に記載の結果を得た。なお、ジブチル錫ジラウレートエマルジョン溶液は、水35 literにグリセリン500gを加え、これにドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム175g、ジブチル錫ジラウレート35gを加えて撹拌しながら沸騰するまで加熱することにより得た。
・・・・
実施例4
実施例1で用いた直鎖状ポリエチレンの代わりに、メタロセン触媒にて重合された、MFR=3.1g/10min、密度=0.931g/cm^(3)、Mw/Mn=2.2の直鎖状ポリエチレン(1-ヘキセン=1.3モル%)を使用して、実施例1と同様にしてシラン変性直鎖状ポリエチレンおよび架橋パイプを得、表1記載の結果を得た。
実施例5
実施例1で用いた直鎖状ポリエチレンの代わりに、メタロセン触媒にて重合された、MFR=3.0g/10min、密度=0.936g/cm^(3)、Mw/Mn=2.2の直鎖状ポリエチレン(1-ヘキセン=0.8モル%)を使用して、実施例1と同様にしてシラン変性直鎖状ポリエチレンおよび架橋パイプを得、表1記載の結果を得た。」(段落【0023】?【0030】)

ケ.「【表1】


」(段落【0031】)

コ.「比較例1
実施例1で用いた直鎖状ポリエチレンの代わりに、チーグラー触媒にて重合された、MFR=3.3g/10min、密度=0.936g/cm^(3)、Mw/Mn=3.9の直鎖状ポリエチレン(4-メチル-1-ペンテン=0.9モル%)を使用して、実施例1と同様にしてシラン変性直鎖状ポリエチレンおよび架橋パイプを得、表2記載の結果を得た。
・・・
比較例5
実施例1で用いた直鎖状ポリエチレンの代わりに、チーグラー触媒にて重合された、MFR=1.9g/10min、密度=0.917g/cm^(3)、Mw/Mn=2.9の直鎖状ポリエチレン(4-メチル-1-ペンテン=4.1モル%)を使用して、実施例1と同様にしてシラン変性直鎖状ポリエチレンおよび架橋パイプを得、表2記載の結果を得た。」(段落【0032?【0036】)

サ.「【表2】

」(段落【0037】)

第5.当審の判断
1.刊行物2に記載された発明
刊行物2には、本願発明と同様の用途に用いられる(本願明細書の段落【0029】、【0033】、【0038】参照)、「エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合体からなる直鎖状ポリエチレンのシラン変性物であって、
190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.02?0.8g/10分の範囲であり、
密度(d)が0.920?0.940g/cm^(3)の範囲であり、
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係が、式(1)
Mw/Mn≦3.0 …(1)
を満たすことを特徴とする架橋パイプ用シラン変性直鎖状ポリエチレン。」について記載されており(摘示事項アの請求項1)、また、このシラン変性直鎖状ポリエチレンは、変性前の直鎖状ポリエチレン100重量部に有機過酸化物(ラジカル発生剤)0.001?5重量部、並びに末端ビニル基およびアルコキシ基等の加水分解可能な有機基を有するシラン化合物0.1?10重量部を加え、例えばヘンシェルミキサー等の適当な混合機により混合し、押出機、バンバリーミキサー等により140?250℃程度に加熱、混練して加熱グラフトさせることにより製造することができることが記載されている(摘示事項オ)。
さらに、刊行物2には、架橋パイプは、シラン変性直鎖状ポリエチレンの成形体を架橋してなるものであること、成形体は、通常100重量部にシラノール縮合触媒0.001?5重量部を配合し、通常パイプ押出機を用いてパイプ状に成形されること、成形されたパイプは通常、常温?130℃程度にて水中、水蒸気中または多湿雰囲気下で1分間?1週間程度水分と接触させ、これにより、シラノール触媒によりシラン架橋反応が進行し、架橋パイプが得られることが記載されている(摘示事項アの請求項2、キ?ク)。
そうしてみると、刊行物2には、
「エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとの共重合体からなる直鎖状ポリエチレン100重量部に有機過酸化物0.001?5重量部、および末端ビニル基およびアルコキシ基を有するシラン化合物0.1?10重量部を加え、混合し、押出機、バンバリーミキサー等により140?250℃程度に加熱、混練して加熱グラフトさせることにより、シラン変性直鎖状ポリエチレンを製造し、当該シラン変性直鎖状ポリエチレン100重量部にシラノール縮合触媒0.001?5重量部を配合し、パイプ押出機を用いてパイプ状に成形し、成形されたパイプを、常温?130℃にて水中、水蒸気中または多湿雰囲気下で1分間?1週間程度水分と接触させて架橋する、架橋パイプの製造方法において、
前記シラン変性直鎖状ポリエチレンは、
(a)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.02?0.8g/10分の範囲であり、
(b)密度(d)が0.920?0.940g/cm^(3)の範囲であり、
(c)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係が、Mw/Mn≦3.0 を満たすものである、架橋パイプの製造方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2.対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「常温?130℃にて水中、水蒸気中または多湿雰囲気下で1分間?1週間程度水分と接触させて架橋する」との工程は、水架橋といえるものであるから、当該工程に供される「成形されたパイプ」は、「水架橋性成形物」といえ、引用発明の「架橋パイプ」は、「水架橋成形物」といえることは明らかである。
また、引用発明の有機過酸化物はラジカル発生剤であるから、「140?250℃程度に加熱」は、ラジカルを発生させるための加熱であって、その温度140?250℃は、分解温度以上の温度と認められる。
また、引用発明のパイプ成形機は、その実施例の記載からみて、押出機といえる(摘示事項ク)。
そうすると本願発明1と引用発明とは、
「水架橋成形物の製造方法であって、
(1)直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体に不飽和アルコキシシランと有機過酸化物を配合し、
(2)得られた配合物を押出機中で該有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱し、水架橋性不飽和アルコキシシラングラフトエチレン-α-オレフィン共重合体を形成させ、
(3)該水架橋性不飽和アルコキシシラングラフト共重合体にシラノール縮合触媒を配合
した後、該押出機又は別の押出機より所定の形状に押出し水架橋性成形物をつくり、
(4)該水架橋性成形物を水と接触させる水架橋成形物の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体が、本願発明1は、「シングルサイト触媒を使用して製造された、密度0.910?0.922g/cm^(3)、メルトインデックス0.1?5g/10分、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)2.0?3.5の直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体」と特定されているのに対し、引用発明では、シラン変性された直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体の密度、メルトフローレート(MFR)、Mw/Mnの数値は特定されているが、シラン変性される前の数値については特定はなされていない点。

相違点2:水架橋成形物が、本願発明1では「架橋効率、耐加熱変形性及び機械的特性に優れた水架橋成形物」であって、「架橋度、加熱変形率及び抗張力に優れる水架橋成形物」と特定されているのに対し、引用発明ではかかる特定はなされていない点。

3.相違点についての判断
(1)相違点1について
(1-1)触媒について
刊行物2には、「シラン変性前の直鎖状ポリエチレンは、公知の触媒、例えば特開昭60-88016号公報等に記載のいわゆるチーグラー触媒または特開平6-65443号公報等に記載のいわゆるメタロセン触媒等を用いて、エチレンと炭素原子数3?20のα-オレフィンとを共重合させることにより製造することができる。」ことが記載されており(摘示事項エ)、さらに、5つの実施例のうち、実施例1?3ではシングルサイト触媒ではないチーグラー触媒を重合に用い、実施例4及び5ではシングルサイト触媒であるメタロセン触媒を重合に用いることが記載されていることから(摘示事項ク)、引用発明において、直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体を重合するために用いる触媒として、チーグラー触媒、メタロセン触媒の2種の触媒から、メタロセン触媒を選択することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
また、メタロセン触媒を選択したことによる効果について検討しても、本願明細書の実施例3(メタロセン触媒を用いて、直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体を重合)と、比較例3(チーグラー触媒を用いて、直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体を重合)とを比較しても、得られた水架橋シートの、
a)架橋度は、それぞれ「58%」、「56%」
b)加熱変形率は、それぞれ「7.5%」、「8.3%」
c)抗張力は、それぞれ「26MPa」、「24MPa」
d)伸びは、それぞれ「620%」、「660%」
であって、チーグラー触媒、メタロセン触媒の2種の触媒から、メタロセン触媒を選択することにより、格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。

(1-2)密度について
引用発明のシラン変性直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体の密度は、0.920?0.940g/cm^(3)の範囲である。
そして、刊行物2には、その実施例1?5及び比較例1?5において、シラン変性前の直鎖状ポリエチレンとシラン変性後のシラン変性直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体の密度とが記載されているが(摘示事項ク?サ)、これらを対比すると、シラン変性前後で直鎖状ポリエチレンの密度において有意な差異は認められない。
そうであれば、直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体の密度はシラン変性前後において変化しないと解するのが相当であるから、引用発明において、シラン変性直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体の密度が0.920?0.940g/cm^(3)の範囲である以上、そのシラン変性前の直鎖状ポリエチレンの密度も0.920?0.940g/cm^(3)の範囲のものである蓋然性が高い。
したがって、引用発明の直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体の密度は、本願発明1の直鎖状低密度エチレン-α-共重合体の密度と重複・一致するものと認められる。

(1-3)メルトインデックスについて
引用発明のシラン変性直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体のメルトフローレートは、「190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.02?0.8g/10分の範囲である」。
本願明細書にはメルトインデックス(MFRと同義)の測定条件については明記されていないが、「190℃、2.16kg荷重」は、メルトインデックスの測定条件として、一般的なものであるから、本願発明1のメルトインデックスも「190℃、2.16kg荷重における」値と解するのが相当である。
そして、刊行物2の実施例1?5には、シラン変性前の直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体としてMFRが1.7?3.1g/10分のものが記載されており(摘示事項ク)、本願発明1の直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体のメルトフローインデックスと重複・一致している。
したがって、引用発明のシラン変性前の直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体のMFRは、本願発明1の直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体のメルトフローインデックスと重複・一致することは明らかである。

(1-4)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)について
刊行物2には、実施例4及び5に、メタロセン触媒を用いて重合したシラン変性前の直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体であって、Mw/Mnが2.2のものが記載されている。
さらに、刊行物2には、その実施例1?5において、シラン変性前の直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体とシラン変性直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体のMw/Mnとが記載されているが(摘示事項ク)、これらを対比すると、シラン変性前後で直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体のMw/Mnはほぼ一致している。
そうであるから、引用発明のシラン変性前の直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体のMw/Mnは、シラン変性直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体と同様にMw/Mn≦3.0を満たす蓋然性が高い。
したがって、引用発明のシラン変性前の直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体のMw/Mnは、本願発明1の直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体のMw/Mnと重複・一致するものと認められる。
さらに、付言すると、本願発明1の直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体のMw/Mnの「2.0?3.5」との値は、メタロセン触媒を用いて重合することにより自ずと得られる範囲のものであって、引用発明においても同様にメタロセン触媒を用いて直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体を重合していることから、本願発明1と引用発明におけるMw/Mnの値は相違するものとは認められない。

(2)相違点2について
上記の「(1)相違点1について」で述べたように、相違点1の(1-2)?(1-4)に係る事項は実質的な相違点とは認められないものである。
そうであれば、相違点1の(1-1)の触媒に係る事項として、メタロセン触媒を選択することにより、引用発明においても、本願発明1と同様に「架橋効率、耐加熱変形性及び機械的特性に優れた水架橋成形物」であって、「架橋度、加熱変形率及び抗張力に優れる水架橋成形物」が自ずと得られるものと解するのが相当である。
したがって、相違点2は、相違点1に係る触媒を選択することにより自ずと得られる効果を示したものにすぎず、かつ、その効果についても、上記第5.の3.の(1)の(1-1)において述べたように、本願明細書の実施例3及び比較例3とを対比してみても、格別顕著なものとも認められない。

(3)まとめ
よって、本願発明1は、その出願前に頒布された刊行物2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成17年12月15日付け手続補正書及び平成19年4月27日付け審判請求書(平成19年5月16日付け手続補正書により補正)において、刊行物2(引例2)について、概略、次の1?3のように主張している。
1.「引例2には、シラン変性前の直鎖状ポリエチレンのMFR、d(密度)、Mw/Mnについての記載はありません。したがって、引例2の構成要件の基となる直鎖状ポリエチレンのシラン変性物と本願発明の構成要件の基となる直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体とは重合体自体が異なったものであり、異なる重合体の密度を、同一の重合体として結論を導いた拒絶査定の備考(I)で記載された『密度は重複する範囲を含んでいる。』との解釈は、明らかに誤った根拠に基づいています。
引例2では実施例のポリエチレンの密度が0.931?0.967g/cm^(3)でありますが、これらは本願発明の密度である0.910?0.922g/cm^(3)とは重複しておりません。」

2.「引例2で、実施例1と比較例5のゲル分率(通常、架橋度と同意と考えられる。)を対比すると、シラン変性前ポリエチレンの密度が0.937g/cm^(3)の実施例1から得られたシラン変性ポリエチレンのゲル分率が86%であり、これより密度が低い比較例5(0.917g/cm^(3))ではゲル分率が80%であり、より低密度の比較例5の方が、ゲル分率(架橋度)が小さい結果になっています。これは、ポリエチレンの密度が小さくなると架橋効率が落ちることを引例2が示唆していると解釈できます。一方で、・・・実施例4及び実施例5のゲル分率(80%及び81%)から、密度が0.93g/cm^(3)を超える場合に得られるゲル分率は、チーグラー触媒を用いた実施例1の方が、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いた実施例4、5と比べて、より高く、シングルサイト触媒で重合された直鎖状ポリエチレンがチーグラー触媒で重合されたものよりも架橋度が上がらないことを示唆しています。
これに対して、本願発明は、ポリエチレン密度0.910?0.922g/cm^(3)と引例2よりも低密度領域の直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体を特定しているものであり、この低密度領域において、シングルサイト触媒を使用して製造されたものを特定することにより、チーグラー触媒等に比べて製造されたものより高い架橋効率を達成しており、このようなことは、引例2には、何ら記載がありません。」

3.「引例2では、チーグラー触媒を使用して製造された直鎖状ポリエチレンは、密度が低くなると架橋度が小さくなること、及びほぼ同程度の密度においては、シングルサイト触媒を使用して製造された直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体は、チーグラー触媒を使用して製造された直鎖状ポリエチレンに比べて架橋度が小さいことを示唆していますが、これとは逆に、本願発明では、シングルサイト触媒を使用して製造された直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体が、チーグラー触媒を使用して製造された直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体よりも架橋度が高くなることを示しています。これは、本願発明の触媒が異なるが、密度が同一の0.922g/cm^(3)である実施例3と比較例3の架橋度を比べると、シングルサイト触媒を使用して製造された直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体の実施例3のほうがチーグラー触媒を使用して製造された比較例3より高い架橋度を得ていることから明らかです。」

4.主張1について
引用発明のシラン変性前の直鎖状ポリエチレンのMFR、d(密度)、Mw/Mnが本願発明1のそれぞれの値と重複・一致することは上記第5.の3.の(1)の(1-2)において、述べたとおりであり、また、本願出願前において、メタロセン触媒を用いて密度が0.910?0.922g/cm^(3)のものは製造できなかったとも認められないので、その密度は刊行物2の実施例1?5に記載されたものに限定されるわけではない。

5.主張2について
刊行物2の実施例1は、1-ブテンを1.1モル%含む直鎖状ポリエチレンであるのに対し、比較例5は4-メチル-ペンテンを4.1モル%含むものであって、そのα-オレフィン成分が異なっているし(摘示事項ク?サ)、また、通常、2例の対比によって、その相関関係を導くことまではできないことから、これらの例から「ポリエチレンの密度が小さくなると架橋効率が落ちる」と直ちに結論づけることはできない。
また、刊行物2の実施例1と実施例4及び5とは、その触媒のみならず、MFR及びMw/Mnが異なっているところ、同様に密度が同程度であるがMFR及びMw/Mnが異なっている実施例1と実施例3とを対比すると、そのゲル分率は大きく異なっている(摘示事項ク?ケ)。
そうであるから、実施例1と実施例4及び5のゲル分率の差異を、触媒の差異によると直ちに結論づけることはできない。
さらに、本願明細書における実施例及び比較例は密度0.918?0.922g/cm^(3)の範囲のもののみであり、また、実施例2と比較例2及び実施例3と比較例3とは、触媒が異なるとともに、これに伴いMw/Mnも異なっているから、これらの対比により、「低密度領域において、シングルサイト触媒を使用して製造されたものを特定することにより、チーグラー触媒等に比べて製造されたものより高い架橋効率を達成している」ことが裏付けられているものと認めることはできない。

6.主張3について
上記5.で述べたように、刊行物2の実施例及び比較例を対比しても、「チーグラー触媒を使用して製造された直鎖状ポリエチレンは、密度が低くなると架橋度が小さくなること、及びほぼ同程度の密度においては、シングルサイト触媒を使用して製造された直鎖状低密度エチレン-α-オレフィン共重合体は、チーグラー触媒を使用して製造された直鎖状ポリエチレンに比べて架橋度が小さい」と直ちに結論づけることはできない。
さらに、本願明細書の実施例3と比較例3とは、触媒が異なるとともに、これに伴いMw/Mnも異なっているから、これらの対比により、「シングルサイト触媒を使用して製造された直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体が、チーグラー触媒を使用して製造された直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体よりも架橋度が高くなること」と直ちに認めることはできない。

7.まとめ
したがって、上記主張1?主張3は、いずれも採用することができないものである。

第7.結び
以上のとおりであるから、本願発明2?4について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-11 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-25 
出願番号 特願平9-290438
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 16- Z (C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 庸子橋本 栄和  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 松浦 新司
▲吉▼澤 英一
発明の名称 水架橋成形物及びその製造方法  
代理人 河備 健二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ