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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20086549 審決 特許
不服20057354 審決 特許
不服200722790 審決 特許
不服20078928 審決 特許
不服20078614 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1213618
審判番号 不服2008-6571  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-17 
確定日 2010-03-17 
事件の表示 特願2005-199854「異種免疫原を発現する生のベネズエラウマ脳炎ウイルスによる免疫応答の誘発方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月12日出願公開、特開2006- 6335〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1. 手続の経緯

本願は,平成7年5月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年5月27日,米国)を国際出願日とする特願平8-500055号の一部を平成17年7月8日に特許法第44条第1項の規定に基づいて新たな特許出願としたものであって,平成19年12月14日付で拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年3月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,平成20年4月14日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2. 平成20年4月14日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年4月14日付の手続補正を却下する。

[理由]
I. 平成20年4月14日付け手続補正

本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】 ワクチンとして使用するための組換えベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスであって,被験対象を病気から防御する効果を持つ免疫原性タンパク質またはペプチドをコードしているRNAに機能できるように結合されたプロモーターを含む異種RNA断片を含み,かつ少なくとも1つの弱毒化突然変異を含む組換えベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスであって,前記免疫原性タンパク質またはペプチドが,前記VEEウイルスの構造タンパク質とは別個のタンパク質またはペプチドとして発現する組換えVEEウイルス。」 から,
「【請求項1】 ワクチンとして使用するための組換えベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスであって,
前記VEEウイルスが,少なくとも1つの弱毒化突然変異と,構造タンパク質がコードされている領域の上流または下流に挿入された異種RNA断片とを含み,
前記異種RNA断片が,免疫原性タンパク質またはペプチドをコードしているRNA配列と,前記RNA配列の上流に結合した26Sプロモーター配列とを含み,
前記免疫原性タンパク質またはペプチドが,前記VEEウイルスの構造タンパク質とは別個のタンパク質またはペプチドとして発現する組換えVEEウイルス。」(以下,「本願補正発明」という。) と補正された。

II. 判断

1. 上記特許請求の範囲の請求項1における補正は,
(1) 免疫原性タンパク質またはペプチドに関し,「病気から防御する効果を持つ」という限定が付されていたものから,その限定を削除し,
(2) 異種RNA断片の位置に関し,何ら特定がなされていなかったところ,「構造タンパク質がコードされている領域の上流または下流に挿入された」と限定し,
(3) 異種RNA断片に含まれるプロモーターに関し,「免疫原性タンパク質またはペプチドをコードしているRNAに機能できるように結合されたプロモーター」を,「前記RNA配列(免疫原性タンパク質またはペプチドをコードしているRNA配列)の上流に結合した26Sプロモーター配列」に限定するものである。

(1)については,免疫原性タンパク質またはペプチドに関し,補正前には,「病気から防御する効果を持つ」という限定が付され,免疫原性タンパク質またはペプチドが明確に特定されていたものを,当該補正後には,その限定が削除され,単に「免疫原性タンパク質またはペプチド」となったものである。それ故,この補正は,免疫原性タンパク質またはペプチドを特定するために必要な事項を限定するものとはいえない。
そうすると,(1)について,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定される「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」に該当しない。

したがって,当該補正は,同法同条同項同号に規定される特許請求の範囲の減縮に該当せず,ましてや,同法同条同項第1,3,4号に規定される請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。

2. 上記1.のとおり,当該補正は,特許請求の範囲の減縮に該当せず,ましてや,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれにも該当しないことは明らかである。
また,仮に,上記補正が特許請求の範囲の減縮に該当するとした場合であっても,以下に述べるとおり,本願補正発明が特許出願の際,独立特許要件(特許法第29条第2項)を満たしておらず,独立して特許を受けることができるものではない。

(1) 本願補正発明
本願補正発明は,平成20年4月14日付で手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 ワクチンとして使用するための組換えベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスであって,
前記VEEウイルスが,少なくとも1つの弱毒化突然変異と,構造タンパク質がコードされている領域の上流または下流に挿入された異種RNA断片とを含み,
前記異種RNA断片が,免疫原性タンパク質またはペプチドをコードしているRNA配列と,前記RNA配列の上流に結合した26Sプロモーター配列とを含み,
前記免疫原性タンパク質またはペプチドが,前記VEEウイルスの構造タンパク質とは別個のタンパク質またはペプチドとして発現する組換えVEEウイルス。」

(2) 引用例
これに対して,原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張日前に頒布された刊行物には,以下の記載がなされている。

A. 引用刊行物1. Dok. Akad. Nauk., Vol.332, No.6, (1993), p.789-791(以下「引用例1」という。)

a. 「遺伝子工学的操作にとっての基礎として,プラスミドpVE2とpVE3とを選択した。このプラスミドには,ベネズエラ馬脳炎ウイルスゲノムの実物大のDNAコピー(TRINIDAD株)が含まれる。その際,サブゲノム的RNA合成用の補足的26Sプロモーターが,構造ビリオン蛋白質をコード化する(pVE3)領域前か(pVE2)領域後に挿入される。さらに,構造蛋白質の遺伝子を,弱毒化した株230から採取した。26S RNAとともに最初に合成される(カプシドの,コア蛋白質の)C蛋白質遺伝子の5’末端に,5つ及び2つのコドンによって分離されたATGの3つのコドンが存在するため,我々は,最初の及び3番目のメチオニンのコドンのもとで異種遺伝子をクローンすることを可能にする構造を得た。異種構造遺伝子として,B型肝炎ウイルスの表面抗原遺伝子(HBsAg)を選択した。・・・。
標準的な遺伝子工学的手法によって,26SプロモーターとB型肝炎ウイルスの遺伝子preS_(2)-Sを含む遺伝子カセットを設計した。
26S-HB_(S)-1(図1a)には,遺伝子ns4の3’末端234П.O.,26Sプロモーター,雌牛蛋白質の第1Metコドンの下でクローン化されるB型肝炎ウイルス遺伝子preS_(2)-Sが含まれていた。・・・。
次の段階で,カセットとプラスミドpVE2とpVE3を利用して,ベネズエラウマ脳炎ウイルスゲノムにpreS_(2)-S遺伝子を組み込んだ4つのプラスミドを形成した。
1) pVEHB-24 (図1В)-遺伝子カセット26S-HB_(S)-1を構造蛋白質コード化領域の後ろに挿入した。
2) ・・・
3) pVEHB-25 (図1Г)-遺伝子カセット26S-HB_(S)-1を天然の26Sプロモーター前に挿入した。
4) ・・・
バクテリオファージT7のRNAポリメラーゼの補助による生体外プラスミドからのレストリクターゼBsu151による直線化の後で,RNAを合成した。RNA転写産物によって,鶏の胎児の繊維芽細胞の培養菌をトランスフェクトした。すべての転写産物のために,細胞病理学上の作用を明らかにし,それらに相当するウイルスの試料を得た。
得られた組換えウイルスの特性を比較するために,Vero細胞に多数の1 δoe/КЛを感染させ,培養液におけるウイルスとHBsAgの濃度を測定した(表1)。
表1 ベネズエラウマ脳炎組換えウイルスによるHBsAgの発現
番号 組換え型 培養基のウイルス濃度 培養基のHBsAg濃度
δoe/ml mkg/ml
1 pVEHB-25 1.2・10^(9) 0.12±0.02
2 pVEHB-361 1.3・10^(9) 0.09±0.02
3 pVEHB-24 1.8・10^(9) 0.004±0.001
4 pVEHB-9 1.0・10^(9) None
5 110^(Γ ) 2.4・10^(9) None

Γ 110-構造蛋白質の遺伝子が弱毒化した株230の遺伝子と置き換えられているTRINIDAD株に基づいて作成し,ベネスエラ馬脳炎ウイルスの組換え株。これは,プラスミドpVE2,3と続くpVEHBの形成において最初の株である。」
( 第789頁右欄11行目?第790頁右欄最終行,第791頁 表1)

b. 「上記に基づいて,アルファウイルスが,真核生物における蛋白質の一時的な発現にとって便利なベクターシステムであり,蛋白質の処理及び機能の研究にとってのみならず,その大規模生産にとっても,そしてさらに,恐らく生ワクチンのモデル形成にとっても便利なベクターシステムであると認めることができる。」(第791頁左欄下から4行目?同頁右欄4行目)

c. 「組換えウイルスVEHB-25を利用した場合の発現水準は,preS_(2)-S遺伝子を挿入した痘瘡ワクチンの組換えウイルスを利用した場合に得られる水準とほぼ等しいことが分かった。」
( 第791頁左欄下から9行目?下から5行目 )

B. 引用刊行物2. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.89, No.1, (1992), p.207-211 (以下「引用例2」という。)

「ポリオウイルスに加え,関連するアルファウイルスであるベネズエラウマ脳炎ウイルスの複数箇所弱毒化された株用として,及び,黄熱病ウイルス17Dワクチン株用として,感染性のあるウイルスを回復させるためのcDNAクローンが,最近作成された。」( 第211頁左欄第27?31行目 )

C.引用刊行物3.Virology, Vol.183, (1991), p.20-31(以下「引用例3」という。)

「ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEE)の弱毒化変異株が,培養細胞の急速浸透(rapid penetration)のための選択により単離された(R.E.Johnston and J.F.Smith, 1988, Virology 162, 437-443)。これら弱毒化変異株の配列解析により,VEE E2糖蛋白遺伝子中 4カ所で弱毒化変異している候補,即ち,E2の3番目及び4番目での二重変異と,E2の76番目,120番目及び209番目で単一置換しているものが同定された。・・・。これら遺伝的にクローン化された変異ウイルスの特徴は,E2遺伝子上の該4カ所の各部位での変異が加速浸透(accelerated penetration)及び弱毒遺伝表現型の両方を付与するのに十分であることを示した。・・・。しかし,これら高度に弱毒化された株は,毒性VEEでの高濃度投与から保護するのに十分な免疫反応を誘導する能力を,依然維持していた。これらの結果は,遺伝的にクローン化されたVEE用生ウイルスワクチンによる防御が可能であることを示している。」 ( 第20頁 要約 )

D. 引用刊行物4.米国特許第5185440号明細書(以下「引用例4」という。)

「動物モデルシステムでVEEの毒性を弱毒化する明確なポイントミューテイションが,以前に単離された変異株の配列解析によって同定されている(Jonston and Smith, 1988)。これらのデータを図10に示す。そして,少なくとも1カ所,より好ましくは少なくとも2カ所,最も好ましくは少なくとも3カ所のそのような変異が,より安定したVEEワクチン株用に,複数カ所弱毒化されたテンプレートを産生する感染性クローンへ共に導入される。」 ( 第22欄第42?50行目 )

E. 引用刊行物5. Arch. Virol., [Suppl], Vol.9, (1994), p.99-109
(以下「引用例5」という。)

a.「我々のアプローチの重要な部分は,病原経路における異なる段階に影響を与える付加的な弱毒化変異を同定することである。ゲノムの保存領域の特定の置換(それは恐らくウイルスライフサイクルで要求される機能を果たすようになされている)は,宿主の特定の標的細胞でのウイルス増殖を阻止するであろう。そのような保存領域の一つは,E1糖蛋白の74?108位にあり,非荷電且つ疎水性残基の伸張を含んでいる。・・・。図2に,部位直接変異のためのKunkel法の修正を用いてなされたE1糖蛋白の80?93位間の一連のランダムなアミノ酸置換を示す。」
( 第106頁第17?29行目 )

b.「新規な弱毒化変異は,最も効果的な(変異)組み合わせをVEE用の新しいワクチン株へ導入する目的で確認,テストされるであろう。」
( 第108頁第17?19行目)

(3) 対比
本願補正発明と,引用例1に記載された発明(以下,「引用発明1」という。)とを,以下対比する。

ア. まず,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「Γ 110-構造蛋白質の遺伝子が弱毒化した株230の遺伝子と置き換えられているTRINIDAD株に基づいて作成し,ベネスエラ馬脳炎ウイルスの組換え株。これは,プラスミドpVE2,3と続くpVEHBの形成において最初の株である。」(表1 注釈)に関し,表1中の番号5の欄に記載されている組換え型110株は,構造蛋白質の遺伝子が弱毒化した株230の遺伝子と置き換えられているTRINIDAD株を基に作成された組換えVEEウイルス株で,表1中の番号3の組換え型pVEHB-24株及び表1中の番号1の組換え型pVEHB-25株の’親株’であることが分かる。
この組換え型110株は,構造蛋白質の遺伝子が弱毒化した株230の遺伝子と置き換えられた株に基づいて作成されたものであることから,少なくとも1つの弱毒化変異を含んでいるものと認められる。
それ故,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の,構造蛋白質の遺伝子が弱毒化した株230の遺伝子と置き換えられた株に基づいて作成された組換え型110株を親株として構築された組換え型pVEHB-24株及びpVEHB-25株は,本願補正発明の「少なくとも1つの弱毒化突然変異とを含」む組換えVEEウイルスに相当する。

イ. 次に,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「次の段階で,カセットとプラスミドpVE2とpVE3を利用して,ベネズエラウマ脳炎ウイルスゲノムにpreS_(2)-S遺伝子を組み込んだ4つのプラスミドを形成した。1)pVEHB-24(図1В)-遺伝子カセット26S-HB_(S)-1を構造蛋白質コード化領域の’後ろに挿入’した。・・・3)pVEHB-25(図1Г)-遺伝子カセット26S-HB_(S)-1を天然の26Sプロモーター’前に挿入’した。」に関し,まず,ベネズエラウマ脳炎ウイルスゲノムに組み込まれた「preS_(2)-S遺伝子」は,同箇所記載の「異種構造遺伝子として,B型肝炎ウイルスの表面抗原遺伝子(HBsAg)」のことである。
次に,この異種構造遺伝子を含む核酸断片は,引用例1の同箇所記載の「(プラスミド)pVEHB-24(図1B)」及び「(プラスミド)pVEHB-25(図1Г)」において,「遺伝子カセット26S-HB_(S)-1」に相当するものであり,該核酸断片が,pVEHB-24(図1B)では「(VEEウイルスゲノムの)構造蛋白質コード化領域の’後ろに挿入’」されており,他方,pVEHB-25(図1Г)では「天然の26Sプロモーター’前に挿入’」,即ち,(VEEウイルスゲノムの26Sプロモーターの後には,当然,該プロモーターの調節を受ける構造蛋白質コード化領域があることから)(VEEウイルスゲノムの)構造蛋白質コード化領域の’前に挿入’されている。
それ故,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「(プラスミド)pVEHB-24(図1B)」及び「(プラスミド)pVEHB-25(図1Г)」にある核酸は,本願補正発明の「構造タンパク質がコードされている領域の上流または下流に挿入された異種(核酸)断片を含」む核酸に相当する。

ウ. さらに,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「(プラスミド)pVEHB-24(図1B)」及び「(プラスミド)pVEHB-25(図1Г)」に含まれている,異種構造遺伝子を含む核酸断片である「遺伝子カセット26S-HB_(S)-1」に関し,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「26SプロモーターとB型肝炎ウイルスの遺伝子preS_(2)-Sを含む遺伝子カセットを設計した。’26S-HB_(S)-1’(図1a)には,遺伝子ns4の3’末端234П.O.,’26Sプロモーター’,雌牛蛋白質の第1Metコドンの下でクローン化される’B型肝炎ウイルス遺伝子preS_(2)-S’が含まれていた」より,該「遺伝子カセット26S-HB_(S)-1」が,B型肝炎ウイルスの遺伝子preS_(2)-Sを含む遺伝子及びその上流に結合した26Sプロモーターとを含むことが分かる。
また,B型肝炎ウイルスの遺伝子preS_(2)-Sを含む遺伝子が,免疫原性蛋白質をコードする遺伝子であることは,本願優先日前,周知事項であった。
それ故,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「(プラスミド)pVEHB-24(図1B)」及び「(プラスミド)pVEHB-25(図1Г)」に含まれている異種構造遺伝子を含む核酸断片である「遺伝子カセット26S-HB_(S)-1」は,本願補正発明の「前記異種(核酸)断片が,免疫原性タンパク質またはペプチドをコードしている(核酸)配列と,前記(核酸)配列の上流に結合した26Sプロモーター配列とを含み」に相当する。

エ. また,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の表1の,番号3(組換え型pVEHB-24)及び番号1(組換え型pVEHB-25)を見ると,組換え型pVEHB-24及びpVEHB-25を用いて組換えVEEウイルスが作製されたのみならず,培養基中にHBsAgを発現させていることから,免疫原性蛋白質であるHBsAgが組換えVEEウイルスの構造蛋白質とは別個の蛋白質として発現していることが分かる。
それ故,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「pVEHB-24(図1B)」及び「pVEHB-25(図1Г)」に含まれている異種構造遺伝子を含む「遺伝子カセット26S-HB_(S)-1」による免疫原性蛋白質であるHBsAgの発現は,本願補正発明の「前記免疫原性タンパク質またはペプチドが,前記VEEウイルスの構造タンパク質とは別個のタンパク質またはペプチドとして発現する」に相当する。

オ. 引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「(プラスミド)pVEHB-24(図1B)」及び「(プラスミド)pVEHB-25(図1Г)」については,同箇所記載の「生体外プラスミド [(プラスミド)pVEHB-24(図1B)及び(プラスミド)pVEHB-25(図1Г)のこと] からのレストリクターゼBsu151による直線化の後で,’RNAを合成’した。RNA転写産物によって,鶏の胎児の繊維芽細胞の培養菌をトランスフェクトした。すべての転写産物のために,細胞病理学上の作用を明らかにし,それらに相当するウイルスの試料を得た」より,プラスミド上の核酸が,全てRNAに転写され,それを基としてRNAウイルスである組換えVEEウイルス試料を得たことが分かる。
それ故,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「(プラスミド)pVEHB-24(図1B)」及び「(プラスミド)pVEHB-25(図1Г)」を基にRNA転写産物として得られた組換えVEEウイルスにおいては,それが有する核酸は全て’RNA’であることから,上記イ.で述べた,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「(プラスミド)pVEHB-24(図1B)」及び「(プラスミド)pVEHB-25(図1Г)」にある核酸は,本願補正発明の「構造タンパク質がコードされている領域の上流または下流に挿入された異種’RNA’断片を含」むRNAに相当し,また上記ウ.で述べた,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.記載の「(プラスミド)pVEHB-24(図1B)」及び「(プラスミド)pVEHB-25(図1Г)」に含まれている異種構造遺伝子を含む核酸断片である「遺伝子カセット26S-HB_(S)-1」は,本願補正発明の「前記異種’RNA’断片が,免疫原性タンパク質またはペプチドをコードしている’RNA’配列と,前記’RNA’配列の上流に結合した26Sプロモーター配列とを含み」に相当する。

以上ア?オより,本願補正発明と引用発明1とを対比すると,

両者は,組換えベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスであって,
前記VEEウイルスが,少なくとも1つの弱毒化突然変異と,構造タンパク質がコードされている領域の上流または下流に挿入された異種RNA断片とを含み,
前記異種RNA断片が,免疫原性タンパク質またはペプチドをコードしているRNA配列と,前記RNA配列の上流に結合した26Sプロモーター配列とを含み,
前記免疫原性タンパク質またはペプチドが,前記VEEウイルスの構造タンパク質とは別個のタンパク質またはペプチドとして発現する組換えVEEウイルス である点,で一致し,

該組換えVEEウイルスの用途が,本願補正発明は,’ワクチンとして使用するための’と明示されているのに対し,引用発明1は,’ワクチンとして使用するための’という特定はなされていない点,でのみ相違する。

(4) 当審の判断

ア. 上記相違点について
引用例1の上記第2.II.2.(2)A.b.には,アルファウイルスは,真核生物における(外来)蛋白質の発現に便利なベクターシステムであり,生ワクチンのモデル形成にも便利なベクターシステムであると記載されている。
この記載を考慮すれば,引用発明1の組換えVEEウイルスを生ワクチンとして使用できるであろうことを期待して,これを確認すべく,該組換えVEEウイルスを生ワクチンとして使用することを,強く動機付けられるというべきである。

また,平成20年6月11日付け審判請求書の手続補正書において,本件請求人も「引用文献2には,異種ウイルスのエピトープを含むキメラ構造タンパク質を発現する組換えシンドビスウイルスが記載されております(ABSTRACT)。そして,同様の方法により,VEEウイルスの弱毒化株を用いて,弱毒化生ワクチン株の開発に適用できるとの示唆が記載されております(第211頁左欄第24?31行目)。」と述べているように,引用例2の上記第2.II.2.(2)B.には,組換えVEEウイルスの弱毒化株を,弱毒化生ワクチン株の開発に適用できることも示唆されている。

そうすると,引用発明1の組換えVEEウイルスに対し,上記引用例1,2の記載事項及び示唆を適用し,生ワクチンとして使用することは,当業者が容易に想到し得たことと認める。

そして,その結果,引用発明1の組換えVEEウイルスを生ワクチンとして使用できることが確認されたとしても,それは当業者の期待したどおりの結果が得られたことを意味するにすぎず,当業者が予測し得ないこととは認められない。

イ. 本件請求人の主張に対する反論
本件請求人は,平成20年6月11日付け審判請求書の手続補正書において,
(i) 引用発明1で使用されている弱毒化VEEウイルス230株は,ヒトにおいて複製するとしても僅かであり,生ワクチンとして使用できず,引用例1には,動物を被験対象として引用発明1の組換えVEEウイルスを投与することについて何ら記載されていない。それ故,引用発明1の組換えVEEウイルスは,本願補正発明の優れた効果,即ち,生ワクチンとして使用でき,また異種のタンパク質またはペプチドをVEEウイルスの構造蛋白質とは別個に発現することができることにより,異種ウイルス等に対する免疫応答を惹起できるという優れた効果,を得ることはできない,

(ii) 組換えウイルスをワクチンとして使用することが本願優先日前広く行われていることであったとしても,個別具体的な組換えウイルスが,安全性及び有効性の両方の観点で現実にワクチンとして使用可能であるか否かは,詳細な実験による裏付けがなければ不明であることは,本願優先日当時当業者にとっては周知事項であること,一方,異種断片を有する組換えVEEウイルスが,安全性及び有効性の両方の観点で現実にワクチンとして使用可能であることは,本願出願前において証明されておらず,本願補正発明の組換えVEEウイルスは,生ワクチンとしての有効性及び安全性が示されている,

それ故,本願補正発明は,引用例1?5に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に想到し得たものではない旨主張している。

i) 上記(i)について
引用例1の上記第2.II.2.(2)A.cには,引用発明1に属する組換えVEEウイルスVEHB-25(弱毒化VEEウイルス230株を使用)に関し,組み込まれた異種preS_(2)-S遺伝子のHBsAg発現水準が,異種preS_(2)-S遺伝子を組み込んだ痘瘡ワクチンの組換えウイルスを利用した場合に得られる水準とほぼ等しい,と明記されている。それ故,弱毒化VEEウイルス230株を使用した引用発明1は,痘瘡ワクチン用組換えウイルスと同様,ワクチンとして使用できる蓋然性が高いといえる。

仮に,本件請求人の主張の如く,引用発明1で使用される弱毒化VEEウイルス230株自体が,ヒトにおいて僅かしか複製せず,生ワクチンとして使用困難であったとしても,引用例3?5の上記第2.II.2.(2)C.?E.から明らかなように,そもそも,弱毒化VEEウイルス株は多数存在し,それら弱毒化VEEウイルス株を生ワクチンとして適用可能なことは,本願優先日前,周知事項であった。
そうすると,引用発明1の組換えVEEウイルスにおいて,生ワクチンとして使用しようとする際に,より有効な生ワクチンとする目的で,引用発明1で使用される弱毒化VEEウイルス株に代えて,引用例3?5記載の他の弱毒化VEEウイルス株を適用することに,格別の困難性は認められない。

さらに,本件請求人は,本願補正発明は,異種の蛋白質又はペプチドをVEEウイルスの構造蛋白質とは別個に発現できることから,異種ウイルス等に対する免疫応答を惹起できるという優れた効果を有する旨も併せ述べている。
しかしながら,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.a.の表1の記載より,培養基中に,外来免疫原性タンパク質またはペプチドであるB型肝炎ウイルスのpreS2-S(HBsAg)の濃度が明記されていることから,引用発明1の組換えVEEウイルスも,異種の蛋白質又はペプチドをVEEウイルスの構造蛋白質とは別個に発現できるものである。それ故,引用発明1も,異種ウイルス等に対する免疫応答を惹起できるという効果を有するものである。

ii) 上記(ii)について
上記第2.II.2.(4) ア.で述べたように,引用例1の上記第2.II.2.(2)A.b.の記載を考慮すれば,引用発明1の組換えVEEウイルスを生ワクチンとして使用できるであろうことを期待して,これを確認すべく,該組換えVEEウイルスを生ワクチンとして使用することを,強く動機付けられるのであり,その結果,引用発明1の組換えVEEウイルスを生ワクチンとして使用できることが見出されたとしても,そのことは,当業者が期待したどおりの結果が得られたことを意味するにすぎないことは,上述のとおりであり,本願補正発明はそれを確認したにすぎず,当業者が予測し得ないこととは認められない。

したがって,本件請求人の上記主張は採用できない。

(5) 小括
以上のとおり,本願補正発明は,引用例1?5に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものと認める。
したがって,本件補正発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

III. むすび

以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず,同法第17条の2第4項の規定に違反するものであり,仮に本件補正が特許請求の範囲の減縮に該当した場合であっても,同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3. 本願発明について

I. 平成20年4月14日付の手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1に係る発明は,本願出願当初明細書に記載された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのもの(以下,「本願発明」という。)である。

「【請求項1】 ワクチンとして使用するための組換えベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスであって,被験対象を病気から防御する効果を持つ免疫原性タンパク質またはペプチドをコードしているRNAに機能できるように結合されたプロモーターを含む異種RNA断片を含み,かつ少なくとも1つの弱毒化突然変異を含む組換えベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスであって,前記免疫原性タンパク質またはペプチドが,前記VEEウイルスの構造タンパク質とは別個のタンパク質またはペプチドとして発現する組換えVEEウイルス。」

II. 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は,前記第2.II.2.(2)に記載したとおりである。

III. 対比・判断
本願発明は,前記第2.で検討した本願補正発明において,
1.免疫原性タンパク質またはペプチドに関し,「病気から防御する効果を持つ」という限定を付加,
2.異種RNA断片の挿入位置の限定を削除,
3.異種RNA断片に含まれるプロモーターの位置及び種類の限定を削除,したものである。

1.については,そもそも,免疫原性タンパク質またはペプチドが,’病気から防御する効果を持つ’というのは,’中和活性を有する’こと,すなわち,ワクチンとして用いることができるものに他ならない。そして,この限定は,本願補正発明の,組換えベネズエラウマ脳炎(VEE)ウイルスの限定である「ワクチンとして使用するための」と実質的に同一の意味であり,本願発明は本願補正発明を実質的に限定したものとはいえない。
したがって,本願発明は,本願補正発明を実質的に包含するものと認められる。
そうすると,前記第2.に記載したとおり,本願補正発明は,引用例1?5に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明を実質的に包含する本願発明も,同様の理由により,引用例1?5に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4. むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,引用例1?5に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-22 
結審通知日 2009-10-23 
審決日 2009-11-04 
出願番号 特願2005-199854(P2005-199854)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 知美高堀 栄二  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 齊藤 真由美
北村 弘樹
発明の名称 異種免疫原を発現する生のベネズエラウマ脳炎ウイルスによる免疫応答の誘発方法  
代理人 角田 恭子  
代理人 岡本 正之  
代理人 有原 幸一  
代理人 吉田 尚美  
代理人 河村 英文  
代理人 松島 鉄男  
代理人 森本 聡二  
代理人 中村 綾子  
代理人 深川 英里  
代理人 松崎 隆  
代理人 奥山 尚一  
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