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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1213634
審判番号 不服2008-552  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-09 
確定日 2010-03-15 
事件の表示 特願2002-560821「ろう付け用製品」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 8日国際公開、WO02/60639、平成16年 6月17日国内公表、特表2004-517734〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年1月31日(優先権主張2001年2月2日、2001年5月29日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成18年9月19日付けの拒絶理由通知書が送付され、平成19年3月19日付けで手続補正され、同年10月9日付けで拒絶査定がされたところ、この査定を不服として、平成20年1月9日に審判請求がされ、さらに、同年1月25日付けで手続補正がされたものであり、当審において平成21年6月16日付けで前置審査報告書に基づく審尋をしたところ、回答書が提出されなかったものである。

第2 補正の却下の決定

【結論】
平成20年1月25日付けの手続補正を却下する。

【理由】

I.補正の内容

平成20年1月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下の(A)から(B)とする補正事項を含む。

(A)
「 【請求項1】
ろう付け用製品であって、ケイ素を2から18重量%の範囲の量で含んで成るアルミニウム合金で作られたアルミニウム層(1)と前記アルミニウム層(1)の外側表面に位置するニッケル含有層(2)を含んでなり、前記アルミニウム層(1)とこれの外側に位置するあらゆる層がろう付け操作で一緒になって溶加材金属を形成し、ここで、前記溶加材金属が、水素発生反応に関してニッケルよりも低い交換電流密度を示す、錫、ビスマス、亜鉛、銀、インジウム、鉛、アンチモン、マグネシウム、カドミウムおよびガリウムを包含する群から選択される少なくとも1種の元素を含有し、かつそれによってNiと前記少なくとも1種の元素の全部の総量のモル比が10:(0.3から30)の範囲である組成を有する、ろう付け用製品。」

(B)
「 【請求項1】
ろう付け用製品であって、ケイ素を2から18重量%の範囲の量で含んで成るアルミニウム合金で作られたアルミニウム層(1)と前記アルミニウム層(1)の外側表面に位置するニッケル含有層(2)を含んでなり、前記アルミニウム層(1)とこれの外側に位置するあらゆる層がろう付け操作で一緒になって溶加材金属を形成し、ここで、前記溶加材金属が、水素発生反応に関してニッケルよりも低い交換電流密度を示す、錫、ビスマス、および亜鉛を包含する群から選択される少なくとも1種の元素を含有し、かつそれによってNiと前記少なくとも1種の元素の全部の総量のモル比が10:(0.3から30)の範囲である組成を有する、ろう付け用製品。」

II.補正の目的の適法性
上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した、ニッケルよりも低い交換電流密度を示す元素の群として、「錫、ビスマス、亜鉛、銀、インジウム、鉛、アンチモン、マグネシウム、カドミウムおよびガリウムを包含する群から選択される少なくとも1種の元素」との限定を、「錫、ビスマス、および亜鉛を包含する群から選択される少なくとも1種の元素」とさらに限定するものである。
してみると、当該補正事項は、補正前の請求項1に記載した特定事項を減縮するものであって、補正の前後で、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

III.独立特許要件について
[1]本願補正発明1
本願補正発明1は、上記「I.(B)」の請求項1として記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「ろう付け用製品であって、ケイ素を2から18重量%の範囲の量で含んで成るアルミニウム合金で作られたアルミニウム層(1)と前記アルミニウム層(1)の外側表面に位置するニッケル含有層(2)を含んでなり、前記アルミニウム層(1)とこれの外側に位置するあらゆる層がろう付け操作で一緒になって溶加材金属を形成し、ここで、前記溶加材金属が、水素発生反応に関してニッケルよりも低い交換電流密度を示す、錫、ビスマス、および亜鉛を包含する群から選択される少なくとも1種の元素を含有し、かつそれによってNiと前記少なくとも1種の元素の全部の総量のモル比が10:(0.3から30)の範囲である組成を有する、ろう付け用製品。」

《特許法第29条第2項違反の検討》
[2]刊行物及びその記載事項
原査定の理由で引用されている、国際公開第00/71784号(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a)
「14. Brazing sheet product having a core sheet (1), a clad layer
(2) on said core sheet (1) made of an aluminium alloy containing
silicon in an amount in the range 2 to 18% by weight, and a layer
(3) comprising nickel on the outer surface of said clad layer,
characterised by a layer (4) comprising zinc or tin as a bonding
layer between said outer surface of said clad layer and said layer
comprising nickel.

20. Brazing sheet product according to any one of claimes 14 to
19, wherein taken together said clad layer and all layers exterior
thereto, have a composition containing at least one of the following
elements,
Bi in the range 0.01 to 0.5% by weight, preferably 0.05 to0.5%
Mg in the range 0.2 to 2.0% by weight
Sb in the range 0.01 to 0.5% by weight, preferably 0.05 to0.5%

23. Brazing sheet product according to any one of claime 14 to 22,
wherein said clad layer (2) contains by weight Zn in an amount in
the range of up to 5%, preferable in the range 0.5 to 3%. 」
(CLAIMS)

(1b)
「 It is an object of the present invention to provide a method of
manufacturing nickel-plated brazing sheet product, comprising a
core provided on at least one side with a clad of an Al-Si alloy
comprising Si in the range of 2 to 18 weight %, by which method
good adhension of the surface of the clad layer to the nickel is
obtained. 」(page5,line26 - page6,line4)

(1c)
「Example 3
In this example, bismuth was included in the zinc bonding layer,
in order to reduce the surface tension of the molten brazing alloy
formed by the clad layer and the layers above it during brazing.
The sheet product on which the bonding layer was applied consisted
of a core of alloy AA3003 (78.2% by weight) and two clad layers
of alloy AA4045 (10.9% by weight each), total thickness 0.5 mm.
The displacement plating baths used in several trials were as shown
in Table 5, which also shows the results obtained in the adhesion
test and brazeability tests carried out as in Example 1.
The process steps were:-
a. cleaning of clad surface, using bath of 35 g/l ChemTec 30014,
50℃, 180 s
b. thorough rinsing
c. alkaline etching, using bath of 30 g/l ChemTech 30203, 50 ℃,
20 s
d. thorough rinsing
e. desmutting, using 50% HNO_(3), room temperature, 60 s
f. thorough rinsing
g. zincate immersion, see Table 5, to apply Zn-Bi layer of about 35
μm (about 0.25 g/m^(2))
h. nickel plating, using the lead-free basic bath described above in
Example 2, 26℃, 3 A/dm^(2), 50 s, corresponding to Ni layer
thickness of 0.5μm (4.5 g/m^(2))

The composition of the layer from bath 3 was not measured. ICP stand
for induced coupled plasma.
The results here show that the inclusion in the thin bonding layer
of even a small amount of Bi, as an example of an element reducing
surface tension of the molten brazing alloy, achieves a significant
effect on brazing performance. However the presence of Bi in the
bonding layer reduces the adgesion effect achieved, while still
permitting brazing. The weight of Zn in the layer should preferably
be at least 50%, more preferably at least 75%. 」
(page29,line4 - page31,line14)

なお、当該刊行物1の訳文として、日本国出願における公表公報である、特表2003-500216号公報の、上記摘示箇所に対応する部分の記載を以下に示す。

(1a)
「【請求項14】 コアシート(1)、ケイ素を2-18重量%の量で含むアルミニウム合金から作られた該コアシート上の被覆層(2)、及びニッケルを該被覆層の外表面上に含んでなる層(3)を有するろう付けシート製品であって、更に該被覆層の該外表面と該ニッケルを含んでなる層との間に亜鉛またはスズを結合層として含んでなる層(4)を有する、該ろう付けシート製品。

【請求項20】 該被覆層及びこれに対して外側のすべての層を一緒にして、次の元素、
0.01-0.5重量%、好ましくは0.05-0.5%の範囲のBi、
0.2-2.0重量%の範囲のMg、
0.01-0.5重量%、好ましくは0.05-0.5%の範囲のSb、
の少なくとも1つを含む組成を有する、請求項14から19のいずれか1に記載のろう付けシ-ト製品。

【請求項23】 該被覆層(2)が、重量で5%までの範囲の、好ましくは0.5-3%の範囲のZnを含む、請求項14から22のいずれか1に記載のろう付けシ-ト製品。」

(1b)
「本発明の目的は、Siを2-18重量%の範囲で含んでなるAl-Si合金の被覆層を少なくとも1つの面に付与されたコアを含んでなり、これによって被覆層表面へのニッケルの良好な付着が得られる、ニッケルメッキのろう付けシート製品を製造する方法を提供することである。」(【0011】)

(1c)
「実施例3
本実施例では、ろう付け中に被覆層及びその上の層によって形成される溶融ろう付け合金の表面張力を減じるために、亜鉛結合層にビスマスを含ませた。この結合層を適用したシート製品は、全厚さが0.5mmで、合金AA3003(78.重量%)のコアと合金AA4045(各10.9重量%)の2つの被覆層とからなった。
いくつかの試行で用いた交換メッキ浴は表5に示すとおりであった。なお表5は、実施例1のように行った付着試験及びろう付け性試験で得られた結果を示す。本工程は、次の段階からなった:
a、ケムテク30014の浴35g/lを50℃、180秒間用いる被覆表 面の清浄、
b、完全な濯ぎ、
c、ケムテク30203の浴30g/lを50℃、20秒間用いるアルカリ 性腐食
d、完全な濯ぎ、
e、50%HNO_(3) を室温で60秒間用いる汚れ取り、
f、完全な濯ぎ、
g、約35μmのZn-Bi層(約0.25g/m^(2) )を適用するための 亜鉛酸塩浸積、表5を参照、
h、実施例2で上述した鉛を含まない塩基性浴を26℃、3A/dm^(2) で
50秒間用いる、Ni層の厚さ0.5μm(4.5g/m^(2) )に相当す るニッケルメッキ。

表5
Zn-Bi浴 1 2 3 4
水酸化ナトリウムg/l 120 120 120 120
酸化亜鉛g/l 20 20 20 20
酒石酸カリウム
ナトリウムg/l 50 50 50 50
硝酸ナトリウムg/l 1 1 1 1
酸化ビスマス(III)g/l 0 10 2 1
メッキ時間、秒 12 12 12 12
結合層の外観 銀色 黒色 灰色 銀色
金属様 粉末 金属様
ICPデータからの Bi:0.7 Bi:0.05
Zn,Bi組成g/m^(2 ) ^( ) Zn:0.35 Zn:0.25
ニッケルメッキ、秒 50 50 50 50
付着試験 優秀 非常に貧弱 貧弱 優秀
ろう付け試験 - + + +

浴3からの層の組成は測定しなかった。ICPは誘導カップルド・プラズマ(induced coupled plasma)を示す。

上述の結果は、少量でさえ薄い結合層にBiが含まれると、溶融ろう付け合金の表面張力を減じる元素の例として、ろう付け性能にかなりの効果が達成できることを示す。しかしながら結合層におけるBiの存在は、ろう付けを可能にするものの、達成される付着効果を低下させる。Znの層中の重量は、好ましくは少なくとも50%、更に好ましくは少なくとも75%であるべきである。」

[3]本願補正発明1についての当審の判断

(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1の摘示(1a)には、「コアシート(1)、ケイ素を2-18重量%の量で含むアルミニウム合金から作られた該コアシート上の被覆層(2)、及びニッケルを該被覆層の外表面上に含んでなる層(3)を有するろう付けシート製品であって、更に該被覆層の該外表面と該ニッケルを含んでなる層との間に亜鉛またはスズを結合層として含んでなる層(4)を有する、該ろう付けシート製品」(第14項)が記載され、さらに、同じく摘示(1a)の第20項、第23項には、BiやZnの含有割合が記載されている。
そして、摘示(1c)には、その実施例3として、「全厚さが0.5mmで、合金AA3003のコアと合金AA4045の2つの被覆層」とからなるシート製品にa?hの段階で処理を行うことが記載されており、このうち、gの段階においては、「約35μmのZn-Bi層(約0.25g/m^(2))を適用するために、表5にあるような、亜鉛酸塩に浸漬すること」、さらにhの段階においては、「Ni層の厚さ0.5μm(4.5g/m^(2))に相当するニッケルメッキを行うこと」が記載されており、該被覆層及びZn-Bi層、Ni層は、「ろう付け中に被覆層及びその上の層によって形成される溶融ろう付け合金」を形成するものであることも同じく摘示(1c)に記載されている。

以上の記載及び認定事項を、本願補正発明1の記載振りに則り整理して記載すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

『ろう付けシート製品であって、ケイ素を2-18重量%の量で含むアルミニウム合金から作られた被覆層と前記被覆層の外表面上に、厚さ0.5μm(4.5g/m^(2))に相当するニッケル層を有し、該被覆層の該外表面と該ニッケル層との間に、約35μmのZn-Bi層(約0.25g/m^(2))を有し、前記被覆層及びその上の層がろう付け中に溶融ろう付け合金を形成するろう付けシート製品。』

(2)本願補正発明1と刊行物1発明との対比・判断

本願補正発明1(前者)と刊行物1発明(後者)とを対比すると、後者の『ろう付けシート製品』、『ケイ素を2-18重量%の量で含むアルミニウム合金から作られた被覆層』、『前記被覆層』、『外表面上』、『ニッケル層』は、前者の「ろう付け用製品」、「ケイ素を2から18重量%の範囲の量で含んで成るアルミニウム合金で作られたアルミニウム層」、「前記アルミニウム層」、「外側表面に位置する」、「ニッケル含有層」に相当する。そして、後者の『Zn-Bi層』は、亜鉛とビスマスを含有することは明らかであるから、前者の「錫、ビスマス、および亜鉛を包含する群から選択される少なくとも1種の元素を含有」するものに相当することは明らかである。さらに、後者の、『前記被覆層及びその上の層がろう付け中に溶融ろう付け合金を形成』する(ここで、『前記被覆層』は、前者の「アルミニウム層」にあたることは上述のとおり)ことは、前者の「前記アルミニウム層とこれの外側に位置するあらゆる層がろう付け操作で一緒になって溶加材金属を形成」することに相当することも明らかである。
してみると、両者は、

「ろう付け用製品であって、ケイ素を2から18重量%の範囲の量で含んで成るアルミニウム合金で作られたアルミニウム層と前記アルミニウム層の外側表面に位置するニッケル含有層を含んでなり、前記アルミニウム層とこれの外側に位置するあらゆる層がろう付け操作で一緒になって溶加材金属を形成し、ここで、前記溶加材金属が、錫、ビスマス、および亜鉛を包含する群から選択される少なくとも1種の元素を含有する、ろう付け用製品。」

で一致するものの、次の点で一見相違する。

相違点1:
本願補正発明1は、Niと錫、ビスマス、および亜鉛を包含する群から選択される少なくとも1種の元素の全部の総量のモル比が10:(0.3から30)の範囲であるのに対して、刊行物1発明では、不明である点。

相違点2:
本願補正発明1は、「水素発生反応に関してニッケルよりも低い交換電流密度を示す、錫、ビスマス、および亜鉛を包含する群から選択される少なくとも1種の元素を含有」するのに対して、刊行物1発明では、亜鉛、ビスマスを含有するものの、「水素発生反応に関してニッケルよりも低い交換電流密度を示す」か不明である点。

上記相違点について検討する。
・相違点1について
刊行物1の摘示(1c)には、Zn-Bi層に関し、「Znの層中の重量は、好ましくは少なくとも50%、更に好ましくは少なくとも75%であるべきである」と記載されている。この記載の条件をもとに、Zn,Biのモル量を換算し、Niのモル量との比の算出を試みる。

<換算にあたっての前提>
・Niの原子量: 58.71
・Znの原子量: 65.38
・Biの原子量:209.00
(いずれの原子量のデータも、「化学大辞典縮刷版、共立出版株式会社 発行、1993年6月1日 縮刷版第34刷」の各分冊による。)

<条件1>35μmのZn-Bi層(0.25g/m^(2))のZn-Bi層であって、Zn:Bi=50:50(重量比)の場合
Ni,Zn,Biのモル量を換算すると、
・Niのモル量 4.5 g/m^(2) ≒ 0.077mol/m^(2)
・Znのモル量 (0.25*0.5)g/m^(2) ≒ 0.0019mol/m^(2)
・Biのモル量 (0.25*0.5)g/m^(2) ≒ 0.0006mol/m^(2)
と換算される。
そして、NiとZn+Biのモル比を検討すると、
Ni:Zn+Bi = 0.077:0.0025 ≒ 10:0.32(>0.3)
となる。

<条件2>35μmのZn-Bi層(0.25g/m^(2))のZn-Bi層であって、Zn:Bi=75:25(重量比)の場合
Ni,Zn,Biのモル量を換算すると、
・Niのモル量 4.5 g/m^(2) ≒ 0.077mol/m^(2)
・Znのモル量 (0.25*0.75)g/m^(2) ≒ 0.0029mol/m^(2)
・Biのモル量 (0.25*0.25)g/m^(2) ≒ 0.0003mol/m^(2)
と換算される。
そして、NiとZn+Biのモル比を検討すると、
Ni:Zn+Bi = 0.077:0.0032 ≒ 10:0.42(>0.3)
となる。

<条件3>表5中のZn-Bi浴4のデータに基づく検討
刊行物1の摘示(1c)の表5には、刊行物1の実施例にあたる、Zn-Bi浴4に関し、ICPデータからの、Zn,Bi組成として、Bi0.05g/m^(2)、Zn0.25g/m^(2)であると記載されているから、念のため、当該データをもとに換算を試みる。すると、Ni,Zn,Biのモル量は、
・Niのモル量 4.5 g/m^(2) ≒ 0.077mol/m^(2)
・Znのモル量 0.25g/m^(2) ≒ 0.0038mol/m^(2)
・Biのモル量 0.05g/m^(2) ≒ 0.0002mol/m^(2)
と換算される。
そして、NiとZn+Biのモル比を検討すると、
Ni:Zn+Bi = 0.077:0.0040 ≒ 10:0.52(>0.3)
となる。

以上の検討から、条件1,2,3の何れにおいても、Niを10とした場合、Zn+Biのモル比は、0.3よりも大きくなるから、当該検討点は実質的な相違点とはなり得ない。

・相違点2について
刊行物1発明においても、本願補正発明1と同じく、亜鉛、ビスマスの各元素を含むものであるから、記載の有無にかかわらず、当然「水素発生反応に関してニッケルよりも低い交換電流密度を示す」ものであるといえる。したがって、当該検討点は技術的な相違点とはなり得ない。

(3)小括
したがって、本願補正発明1は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本願出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[4]まとめ

以上のとおりであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

I.本願発明
本願の平成20年1月25日付けの手続補正は、上記のとおり、却下されることとなった。
したがって、本願の請求項1?26に係る発明は、平成19年3月19日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。

「ろう付け用製品であって、ケイ素を2から18重量%の範囲の量で含んで成るアルミニウム合金で作られたアルミニウム層(1)と前記アルミニウム層(1)の外側表面に位置するニッケル含有層(2)を含んでなり、前記アルミニウム層(1)とこれの外側に位置するあらゆる層がろう付け操作で一緒になって溶加材金属を形成し、ここで、前記溶加材金属が、水素発生反応に関してニッケルよりも低い交換電流密度を示す、錫、ビスマス、亜鉛、銀、インジウム、鉛、アンチモン、マグネシウム、カドミウムおよびガリウムを包含する群から選択される少なくとも1種の元素を含有し、かつそれによってNiと前記少なくとも1種の元素の全部の総量のモル比が10:(0.3から30)の範囲である組成を有する、ろう付け用製品。」

II.原査定の理由の概要

原審の拒絶査定の理由は、概略以下の理由を含むものである。
「本願発明1は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

刊行物1:国際公開第00/71784号」

III.刊行物1の記載事項及び刊行物1発明の認定

刊行物1の記載事項及び刊行物1に記載された発明(刊行物1発明)の認定は、上記「第2 III.[2]」、及び「第2 III.[3](1)」に示すとおりである。

IV.対比・判断

上記「第2 III.」のとおり、本願発明1を特定するために必要な事項をより狭い範囲に限定的に減縮するものとした本願補正発明1が、刊行物1に記載された発明であるから、その上位概念の発明である本願発明1は、上記「第2 III.」と同様の理由により、刊行物1に記載された発明である。

第4.むすび

以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、原査定の理由により本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-15 
結審通知日 2009-10-16 
審決日 2009-11-02 
出願番号 特願2002-560821(P2002-560821)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23K)
P 1 8・ 113- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山田 靖
植前 充司
発明の名称 ろう付け用製品  
代理人 中村 行孝  
代理人 紺野 昭男  
代理人 高村 雅晴  
代理人 横田 修孝  
代理人 吉武 賢次  

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