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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1213677
審判番号 不服2007-15734  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-06 
確定日 2010-03-18 
事件の表示 特願2000-353069「耐熱性樹脂組成物及び塗料」拒絶査定不服審判事件〔平成14年5月28日出願公開、特開2002-155204〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成12年11月20日の特許出願であって、平成18年4月4日付けで拒絶理由が通知され、同年6月2日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成19年5月1日付けで拒絶査定がなされ、同年6月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月6日に手続補正書が提出され、同年8月22日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年10月2日付けで前置報告がなされ、当審において平成21年3月11日付けで審尋がなされ、同年5月11日に回答書が提出されたものである。



第2 平成19年7月6日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の結論]
平成19年7月6日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成19年7月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前の
「【請求項1】 一般式(I)
【化1】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す)で示される芳香族ジイソシアネート成分含有割合が20?90当量%であるジイソシアネート成分と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(II)
【化2】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示し、R^(3)は3価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(A)100重量部と、芳香族ジイソシアネート成分(但し上記(I)で示されるものを除く)と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(III)
【化3】


(式中、R^(3)は3価の有機基を表し、R^(4)は2価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(B)20?100重量部を含有してなる耐熱性樹脂組成物。
【請求項2】 ポリアミドイミド樹脂(B)が、数平均分子量10,000?50,000である請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の耐熱性樹脂組成物を塗膜成分として含有してなる塗料。」を、
「【請求項1】 一般式(I)
【化1】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す)で示される芳香族ジイソシアネート成分含有割合が20?90当量%である芳香族ジイソシアネート成分と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(II)
【化2】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示し、R^(3)は3価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(A)100重量部と、芳香族ジイソシアネート成分(但し上記(I)で示されるものを除く)と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(III)
【化3】


(式中、R^(3)は3価の有機基を表し、R^(4)は2価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(B)20?100重量部を含有してなる耐熱性樹脂組成物。
【請求項2】 ポリアミドイミド樹脂(B)が、数平均分子量10,000?50,000である請求項1記載の耐熱性樹脂組成物。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の耐熱性樹脂組成物を塗膜成分として含有してなる塗料。」とするものである。

2.補正の目的について
本件補正は、請求項1について下記補正事項1の補正をするものである。

<補正事項1>ジイソシアネート成分について、補正前の「ジイソシアネート成分」との記載を、「芳香族ジイソシアネート成分」と限定。
そこで、上記補正事項1について検討すると、これは、補正前の請求項1に記載したものをさらに限定するものであるから、補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定するものであると認められる。
したがって、請求項1に係る本件補正は、いわゆる限定的減縮を目的とするものと認められる。

3.独立特許要件について
上記第2 2.に記載したとおり、請求項1に係る本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、請求項1に係る本件補正が、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものか否かについて以下検討する。

(1)請求項1に係る発明
請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「一般式(I)
【化1】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す)で示される芳香族ジイソシアネート成分含有割合が20?90当量%である芳香族ジイソシアネート成分と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(II)
【化2】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示し、R^(3)は3価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(A)100重量部と、芳香族ジイソシアネート成分(但し上記(I)で示されるものを除く)と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(III)
【化3】


(式中、R^(3)は3価の有機基を表し、R^(4)は2価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(B)20?100重量部を含有してなる耐熱性樹脂組成物。」

(2)引用刊行物
刊行物A:特開平5-225830号公報(平成18年4月4日付け拒絶理由通知書における引用文献1)

(3)引用刊行物の記載事項
刊行物Aには、以下のとおりのことが記載されている。

ア 「【請求項1】少なくともジイソシアネート成分と酸成分とを原料とするポリアミドイミド系塗料の塗布、焼付けにより形成された絶縁被膜を有する絶縁電線において、原料としてのジイソシアネート成分が、下記一般式(I):
【化1】

[上記式中R^(1) ,R^(2) は、同一または異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。]で表される芳香族ジイソシアネート化合物を10?80モル%の範囲内で含有することを特徴とする絶縁電線。」(特許請求の範囲請求項1)

イ 「【請求項4】ポリアミドイミド系塗料が、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートと、上記以外のジイソシアネートと、酸成分とを共重合させて製造される請求項1記載の絶縁電線。」(特許請求の範囲請求項4)

ウ 「【請求項5】ポリアミドイミド系塗料が、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料と、上記以外のジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料との混合物である請求項1記載の絶縁電線。」(特許請求の範囲請求項5)

エ 「前記一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の、ジイソシアネート成分中に占める割合が10?80モル%の範囲内に限定されるのは、以下の理由による。つまり、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の割合が10モル%未満では、当該芳香族ジイソシアネート化合物の添加効果が得られず、絶縁被膜が損傷しやすいものとなってしまう。一方、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の割合が80モル%を超えると、絶縁被膜が剛直で可撓性に劣り、割れたり剥離したりしやすいものとなってしまう。」(段落【0018】)

オ 「上記ジイソシアネート成分と酸成分とから、本発明に使用されるポリアミドイミド系塗料を製造するには、たとえば、略化学量論量のジイソシアネート成分と酸成分とを適当な有機溶媒中で共重合させる、従来のポリアミドイミド系塗料と同様の製造方法を採用することができる。より詳細には、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を前記の割合で配合したジイソシアネート成分を、略等モル量の酸成分とともに、適当な有機溶媒中で0?180℃の温度で1?24時間反応させると、上記芳香族ジイソシアネート化合物を含むジイソシアネート成分と酸成分との共重合体であるポリアミドイミドが、有機溶媒中に溶解または分散したポリアミドイミド系塗料が得られる。
また、本発明に使用されるポリアミドイミド系塗料としては、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造したポリアミドイミド系塗料と、上記芳香族ジイソシアネート化合物以外のジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造したポリアミドイミド系塗料とを配合したものも使用可能である。この場合には、原料としての全ジイソシアネート成分中の、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物の割合が10?80モル%の範囲内になるように、両塗料の配合割合を調整すればよい。」(段落【0023】?【0024】)

カ 「実施例1
温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器、窒素吹き込み管を取り付けたフラスコ中に、上記窒素吹き込み管から毎分150mlの窒素ガスを流しながら、108.6gのトリメリット酸無水物(以下「TMA」という)と、29.9gの3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネート(以下「TODI」という)と、113.1gのジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート(以下「MDI」という)とを投入した。TODIの全ジイソシアネート中に占める割合は20モル%であった。
つぎに、上記フラスコ中に637gのN-メチル-2-ピロリドンを入れ、攪拌器で攪拌しつつ80℃で3時間加熱し、さらに、3時間かけて140℃まで昇温した後、140℃で1時間加熱した。そして、1時間経過した段階で加熱を止め、放冷して、濃度25%のポリアミドイミド系塗料を得た。このポリアミドイミド系塗料を、直径1.0mmの銅線表面に、常法によって塗布、焼付けして、膜厚35μmの絶縁被膜を有する絶縁電線を作製した。
実施例2
ポリアミドイミド系塗料作製時のTODIおよびMDIの仕込み量を、TODI=59.7g、MDI=84.8g、TODIの全ジイソシアネート中に占める割合を40モル%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。
実施例3
ポリアミドイミド系塗料作製時のTODIおよびMDIの仕込み量を、TODI=74.7g、MDI=70.7g、TODIの全ジイソシアネート中に占める割合を50モル%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。
実施例4
ポリアミドイミド系塗料作製時のTODIおよびMDIの仕込み量を、TODI=89.6g、MDI=56.6g、TODIの全ジイソシアネート中に占める割合を60モル%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。
実施例5
ポリアミドイミド系塗料作製時のTODIおよびMDIの仕込み量を、TODI=112.0g、MDI=35.3g、TODIの全ジイソシアネート中に占める割合を75モル%としたこと以外は、上記実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。
比較例1
ポリアミドイミド系塗料作製時にTODIを仕込まず、MDIを141.4g仕込んだこと以外は、上記実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。
比較例2
ポリアミドイミド系塗料作製時にMDIを仕込まず、TODIを149.3g仕込んだこと以外は、上記実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。」(段落【0029】?【0035】)

キ 「上記各実施例、比較例の絶縁電線について、以下の各試験を行った。
外観評価
上記各実施例、比較例の絶縁電線の外観を、目視にて観察した。
弾性率測定
実施例、比較例の絶縁電線から銅線をエッチング除去し、残った絶縁被膜(長さ6cm)を、引張試験機を用いて、チャック間隔3cm、引張速度1mm/分の条件で引張試験し、得られたS-Sカーブがら弾性率(kg/mm^(2) )を求めた。
可撓性試験
実施例、比較例の絶縁電線に、直径1mmのものから1mmずつ段階的に直径が大きくなる複数の丸棒を順次あてがって、電線を丸棒の外形に対応させて曲げた際の、絶縁被膜の割れや剥離を観察し、絶縁被膜に異状が見られなかった最小の丸棒の直径d(mm)を記録した。
急伸切断試験
実施例、比較例の絶縁電線を両端から急速に引っ張り、急伸させて切断した後、切断部分における、被膜の銅線からの浮き量(mm)を測定した。
ピアノ線損傷荷重測定
実施例、比較例の絶縁電線に直交させてピアノ線を重ね合わせ、ピアノ線に種々の重さの荷重をかけた状態でピアノ線を引抜き、絶縁被膜が損傷する荷重を記録した。
以上の結果を表1に示す。」(段落【0038】?【0041】)

ク 「【表1】

」(段落【0042】)

ケ 「上記表1の結果より、ジイソシアネート成分としてTODIを含有しない比較例1の絶縁電線では、絶縁被膜の弾性率が低く、また、ピアノ線損傷荷重測定の結果より、絶縁被膜が損傷し易いことが判った。一方、ジイソシアネート成分が100%TODIである比較例2の絶縁電線では、可撓性試験の結果より、絶縁被膜の可撓性が悪く、また、急伸切断試験の結果より、絶縁被膜が銅線から剥離し易いことが判った。
これに対し実施例1?7の絶縁電線は何れも、損傷し難く、しかも、可撓性にすぐれるとともに、銅線から剥離し難い絶縁被膜を有することが判った。また、上記各実施例の結果より、TODIの割合が高くなる程、絶縁被膜の弾性率が向上し、かつ、絶縁被膜が損傷し難くなるが、絶縁被膜の可撓性や密着性は、TODIの割合が低い程好ましく、両特性のバランスを考慮すると、TODIの割合が30?60モル%の範囲内にある実施例2?4がとくに優れたものであることが判った。」(段落【0043】?【0044】)

コ 「実施例8
比較例1で作製した、ジイソシアネート成分としてMDIのみを含むポリアミドイミド系塗料と、比較例2で作製した、ジイソシアネート成分としてTODIのみを含むポリアミドイミド系塗料とを、原料段階でのTODIとMDIとのモル比がTODI/MDI=20/80となるように配合し、十分に攪拌混合してポリアミドイミド系塗料を作製した。そして、このポリアミドイミド系塗料を使用して、前記実施例1と同様にして絶縁電線を作製した。
実施例9
比較例1で作製した、ジイソシアネート成分としてMDIのみを含むポリアミドイミド系塗料と、比較例2で作製した、ジイソシアネート成分としてTODIのみを含むポリアミドイミド系塗料とを、原料段階でのTODIとMDIとのモル比がTODI/MDI=50/50となるように配合したこと以外は、上記実施例8と同様にして絶縁電線を作製した。
実施例10
比較例1で作製した、ジイソシアネート成分としてMDIのみを含むポリアミドイミド系塗料と、比較例2で作製した、ジイソシアネート成分としてTODIのみを含むポリアミドイミド系塗料とを、原料段階でのTODIとMDIとのモル比がTODI/MDI=75/25となるように配合したこと以外は、上記実施例8と同様にして絶縁電線を作製した。
上記各実施例の絶縁電線について、前記外観評価、弾性率測定、可撓性試験、急伸切断試験およびピアノ線損傷荷重測定の各試験を行った。結果を表3に示す。」(段落【0048】?【0051】)

サ 「【表3】

」(段落【0052】)

シ 「上記表3の結果より、実施例8,9,10はそれぞれ、TODIの割合が同じ実施例1,3,5(表1参照)とほぼ同じ特性を示し、このことから、ポリアミドイミド系塗料を、TODIを含むものと含まないものの混合により製造しても、共重合により製造された塗料とほぼ同じ結果が得られることが判った。」(段落【0053】)

ス 「【発明の効果】本発明の絶縁電線によれば、ポリアミドイミドの構造中にビフェニル部分を導入して、絶縁被膜の弾性率を向上させることで、可撓性にすぐれ、しかも、損傷し難い絶縁被膜を形成することができる。したがって、本発明の絶縁電線は耐加工性にすぐれており、たとえばモータの捲線に使用する場合には、コアへの捲線量を従来より増大させても、捲線工程で絶縁被膜に損傷を生じるおそれがなく、より小型、軽量で性能の良いモータの要求に対応することができる。」(段落【0062】)

(4)刊行物に記載された発明
刊行物Aには、摘示ア及びウ?オから、「下記一般式(I):
【化1】

[上記式中R^(1) ,R^(2) は、同一または異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。]で表される芳香族ジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料と、上記以外のジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料との混合物であって、原料としてのジイソシアネート成分が、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートを10?80モル%の範囲内で含有するポリアミドイミド系塗料」の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。

(5)対比
補正発明1と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明の「一般式(I)(構造式及び式の説明省略。以下において、同様に、省略することがある。)で表される芳香族ジイソシアネート化合物」は、補正発明1の「一般式(I)(構造式及び式の説明省略。以下において、同様に、省略することがある。)で示される芳香族ジイソシアネート成分」に相当する。
そして、刊行物Aにおいては、摘示カ及びコから、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物としての3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネート(以下「TODI」という。)以外のジイソシアネートとして、芳香族ジイソシアネートであるジフェニルメタン-4,4′-ジイソシアネート(以下「MDI」という。)を用いてポリアミドイミド系塗料を製造しているから、刊行物発明の「一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料」及び「上記以外のジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料」が、補正発明1の「一般式(II)(構造式及び式の説明省略。)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂」及び「芳香族ジイソシアネート成分(但し上記(I)で示されるものを除く)と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(III)(構造式及び式の説明省略。)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂」に各々相当することも明らかである。
また、刊行物発明に係るポリアミドイミド系塗料は「一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料」と「上記以外のジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料」との混合物であるから、樹脂組成物であることは明らかであって、斯かる樹脂組成物が耐熱性であることも自明のことにすぎない。
さらに、「一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料」と「上記以外のジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド系塗料」との含有割合についてみれば、刊行物Aにおいては、摘示カ及びコから、実施例9において、ジイソシアネート成分としてMDIのみを含むポリアミドイミド系塗料と、ジイソシアネート成分としてTODIのみを含むポリアミドイミド系塗料とを、原料段階でのTODIとMDIとのモル比がTODI/MDI=50/50となるように配合したものが記載されており、ここで、MDIとTODIとの分子量は各々約250と約264であり、両者に共通の酸成分であるトリメリット酸無水物の分子量が約192であるから、ジイソシアネート成分としてMDIのみを含むポリアミドイミド系塗料の繰り返し単位と、ジイソシアネート成分としてTODIのみを含むポリアミドイミド系塗料の繰り返し単位との分子量は各々約354と約368となり、それからジイソシアネート成分としてTODIのみを含むポリアミドイミド系塗料100重量部に対してジイソシアネート成分としてMDIのみを含むポリアミドイミド系塗料が約96.2重量部配合されていると計算される。同様に実施例10においても、原料段階でのTODIとMDIとのモル比がTODI/MDI=75/25となるように配合したものが記載されているのであるから、ジイソシアネート成分としてTODIのみを含むポリアミドイミド系塗料100重量部に対してジイソシアネート成分としてMDIのみを含むポリアミドイミド系塗料が約32.1重量部配合されていると計算される。
そうすると、刊行物Aにおける斯かる含有割合と、補正発明1における「ポリアミドイミド樹脂(A)100重量部と、ポリアミドイミド樹脂(B)20?100重量部を含有してなる」とは、両者において含有割合が重複している。
してみれば、補正発明1と刊行物発明とは、「一般式(I)
【化1】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す)で示される芳香族ジイソシアネート成分含有割合が100当量%である芳香族ジイソシアネート成分と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(II)
【化2】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示し、R^(3)は3価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(A)100重量部と、芳香族ジイソシアネート成分(但し上記(I)で示されるものを除く)と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(III)
【化3】


(式中、R^(3)は3価の有機基を表し、R^(4)は2価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(B)20?100重量部を含有してなる耐熱性樹脂組成物。」の点で一致し、次の相違点で相違する。

<相違点>
一般式(I)で示される芳香族ジイソシアネート成分と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(II)(構造式及び式の説明省略。)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(A)において、芳香族ジイソシアネート成分が、補正発明1では、「一般式(I)で示される芳香族ジイソシアネート成分含有割合が20?90当量%である」と規定されているのに対し、刊行物発明では、「一般式(I)で示される芳香族ジイソシアネート成分含有割合が100当量%である」点。

(6)相違点に対する判断
ここで、刊行物Aにおいて、摘示ア及びエから、ジイソシアネート成分と酸成分とを原料とするポリアミドイミド系塗料の塗布、焼付けにより形成された絶縁被膜を有する絶縁電線において、原料としてのジイソシアネート成分が、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を10?80モル%の範囲内で含有することが記載されており、10?80モル%の範囲内で含有するための具体的な態様としては、摘示イ及びオ?ケから、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートと、上記以外の芳香族ジイソシアネートと、酸成分とを共重合させて製造することが記載されており、一方、摘示ウ、オ及びコ?シから、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミドと、上記以外の芳香族ジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミドとの混合物としても良いことも記載されている。
そして、摘示シから、ポリアミドイミド系塗料を、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートであるTODIを含むポリアミドイミドと含まないポリアミドイミドとの混合物により製造しても、共重合により製造されたポリアミドイミドとほぼ同じ結果が得られることも記載されている。
してみると、刊行物発明において、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートを10?80モル%の範囲内で含有するポリアミドイミド系塗料として、10?80モル%の範囲内で含有するための具体的な態様としての、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミドと、上記以外の芳香族ジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミドとの混合物において、その一成分である一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物と酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミドに代えて、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートと、上記以外の芳香族ジイソシアネートと、酸成分とを共重合させて製造されるポリアミドイミドを用いて、全体としての一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートの含有割合を依然として10?80モル%の範囲内とすることは、当業者であれば容易になし得る程度のことであるといわざるを得ず、その点に格別の困難性は見あたらない。
また、補正発明1の効果について検討しても、塗料として用いた場合、高温硬化後の塗膜の密着性及び加工性が優れるという点は、摘示キ、ク、サ及びスから、刊行物発明における浮き量が小さく、可撓性にすぐれ、損傷し難い、耐加工性にすぐれるということと一致するものと認められ、この点をもってして格別顕著なものであるとすることはできない。
また、補正発明1のエナメル線用ワニスという用途も刊行物発明の絶縁電線と一致している。
したがって、補正発明1は、刊行物発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

4. むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反しており、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 原査定の妥当性についての判断

1.本願発明
上記のとおり、平成19年7月6日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成18年6月2日付けの手続補正により補正された明細書及び図面(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「一般式(I)
【化1】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示す)で示される芳香族ジイソシアネート成分含有割合が20?90当量%であるジイソシアネート成分と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(II)
【化2】


(式中R^(1)及びR^(2)は、独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示し、R^(3)は3価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(A)100重量部と、芳香族ジイソシアネート成分(但し上記(I)で示されるものを除く)と三塩基酸無水物を反応させて得られる、一般式(III)
【化3】


(式中、R^(3)は3価の有機基を表し、R^(4)は2価の有機基を表す)で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂(B)20?100重量部を含有してなる耐熱性樹脂組成物。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由となった平成18年4月4日付けの拒絶理由通知書に記載された理由1の概要は、本願発明1は、引用文献1(特開平5-225830号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

3.引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
引用文献1は、上記第2 3.(2)の刊行物Aと同じであるから、引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明は、上記第2 3.(3)及び(4)に記載したとおりである。
以下、引用文献1に記載された発明を刊行物発明ともいう。

4.対比
本願発明1と刊行物発明とを対比する。
本願発明1は、上記第2 2.に記載したとおり、補正発明1から、ジイソシアネート成分について、「ジイソシアネート成分」との記載を、「芳香族」と限定してなる発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する補正発明1が、前記第2 3.に記載したとおり、刊行物発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.請求人の主張の検討
請求人は、平成18年6月2日提出の意見書、平成19年8月22日提出の審判請求書の手続補正書(方式)及び平成21年5月11日提出の回答書において、引用文献1には、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を20?90当量%含有する芳香族ジイソシアネート成分と酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド樹脂(A)と一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート以外の芳香族ジイソシアネート成分と酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミド樹脂(B)とを配合することについては何ら記載されていないし、該ポリアミドイミド樹脂(A)100重量部に対してポリアミドイミド樹脂(B)20?100重量部配合することについても何ら記載されていないと主張している。
しかしながら、上記第2 3.(6)で述べたとおり、引用文献1には、原料としてのジイソシアネート成分が、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネート化合物を10?80モル%の範囲内で含有するための具体的な態様として、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートと、上記以外の芳香族ジイソシアネートと、酸成分とを共重合させて製造すること、あるいは、一般式(I)で表される芳香族ジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミドと、上記以外の芳香族ジイソシアネートと酸成分とを原料として製造されたポリアミドイミドとの混合物とすることが、各々具体的な手段として記載されており、どちらにより製造してもほぼ同じ結果が得られることも記載されているのであるから、これらの手段を併用することに格別の困難性は見当たらないといわざるを得ないし、併用することに対する技術的な阻害要因も見当たらない。
そして、ポリアミドイミド樹脂(A)とポリアミドイミド樹脂(B)との配合割合については、上記第2 3.(5)で述べたとおり、本願発明と引用発明とで重複するものであるから、この点に差異は見当たらない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-18 
結審通知日 2010-01-19 
審決日 2010-02-02 
出願番号 特願2000-353069(P2000-353069)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉成 いずみ守安 智  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小野寺 務
▲吉▼澤 英一
発明の名称 耐熱性樹脂組成物及び塗料  
代理人 穂高 哲夫  

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