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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1213713
審判番号 不服2008-19962  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-06 
確定日 2010-03-18 
事件の表示 特願2006-223964「有機エレクトロルミネッセンス素子」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 8日出願公開、特開2007- 35643〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年8月18日に特許出願された特願平7-210336号の一部を分割して、平成17年4月4日に新たな特許出願として出願した特願2005-107381号のさらにその一部を分割して、平成18年8月21日に新たな特許出願として出願したものであって、その後の経緯は以下のとおりである。
平成19年12月17日 拒絶理由通知(同年12月25日発送)
平成20年 2月25日 意見書
平成20年 7月11日 拒絶査定(同年7月15日発送)
平成20年 8月 6日 本件審判請求
平成20年 9月 4日 手続補正書
平成20年11月13日 前置報告書
平成21年 5月12日 審尋
平成21年 9月28日 補正の却下の決定(平成20年9月4日付け手続補正書)、拒絶理由通知(同年9月29日発送)
平成21年11月30日 意見書・手続補正書


2.当審拒絶理由の概要
当審において、平成21年9月28日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は以下のとおりである。

本願の請求項1?7に係る発明(当審注:平成20年9月4日付け手続き補正は却下されたので、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明である。)は、下記引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項及び引用例3?6にそれぞれ記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

引用例1:特開平4-192290号公報
引用例2:特開平4-125683号公報
引用例3:特開平7-151909号公報
引用例4:特開平6-18869号公報
引用例5:特開平6-5368号公報
引用例6:特開平5-202355号公報


3.本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成21年11月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
少なくとも一方が透明又は半透明である一対の陽極及び陰極からなる電極間に、少なくとも発光層を有し、該一対の陽極及び陰極からなる電極の外側に、かつ発光が放射される側に、高低差が0.1μm以上0.2mm以下の凹凸を表面に有する透明又は半透明なポリエチレンテレフタレートである基材が貼合剤を用いて貼合されており、かつ該基材と素子表面との間に空気層を挟みこんでいないことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」


4.引用例
4-1 当審拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例1(特開平4-192290号公報)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

4-1-1 「2.特許請求の範囲
(1) 対向する電極間に介設され、この電極に電圧を印加すると電界発光する発光層を有する薄膜EL装置において、
上記発光層が発生する光を取り出す側に集光用のマイクロレンズを備えることを特徴とする薄膜EL装置。
(2)上記マイクロレンズの大きさは、上記発光層の発光する部分である発光部を含む画素の大きさと同等であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜EL装置。
(3)上記マイクロレンズの大きさは、上記発光層の発光する部分である発光部を含む画素の大きさ未満であり、上記画素の大きさが上記マイクロレンズの大きさの整数倍であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜EL装置。」(1頁左下欄4行?同頁左下欄19行)

4-1-2 「【産業上の利用分野】
本発明は、電子機器の表示装置として用いられる薄膜EL装置に関する。」(1頁右下欄1-3行)

4-1-3 「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の薄膜EL装置では、発光層22が発生する等方的な光の大部分が、ガラス基板19、透明電極20、発光層22等の光学的界面における全反射により、上記薄膜EL装置の内部に閉じこめられ、光の取り出し効率が悪いという問題がある。このことを、以下詳細に説明する。まず、上記発光層22、絶縁膜21、23、透明電極20、ガラス基板19の屈折率を夫々ne、ni、nd、ngで表記すると、ne>ni、nd、ng>1であることから、光の取り出し面の法線と全反射臨界角θ以上の角度をなす光は、全て全反射されて、上記薄膜EL装置の内部に閉じ込められる。」(2頁左上欄4行?同頁左上欄16行)

4-1-4「【作用】
上記構成によれば、上記発光層によって発生され、上記マイクロレンズに入射する光は、外部との界面となる上記マイクロレンズの半球状の面に入射する。したがって、上記半球状の面に上記光が達した点における法線と上記光が進行してきた方向とがなす角度すなわち上記外部との界面に上記光が達した点における法線と上記光が進行してきた方向とがなす角度は上記マイクロレンズがない場合に較べて、小さくなるので、上記光は、上記界面で全反射することなく外部へ取り出される。」(2頁左下欄12行?同頁右下欄2行)

4-1-5「【実施例】
以下、本発明を図示の実施例により詳細に説明する。
第1図に本発明の薄膜EL装置の第1の実施例の要部詳細図を示す。第1図に示すように、上記実施例は、透明電極3と背面電極7との間に発光層5を設けている。そして、上記透明電極3と上記発光層5の間には第1の絶縁膜4を設けている。また、上記背面電極7と上記発光層5の間には第2の絶縁膜6を設けている。上記透明電極3の光を取り出す側の面にはガラス基板2を設けている。また、上記ガラス基板2の光を取り出す側の面には、マイクロレンズ1を設けている。」(3頁右上欄12行?同頁左下欄4行)

4-1-6 「上記第1の実施例のマイクロレンズの製造方法の一例を、第3図に示す。
・・・。
(A)まず、アクリル樹脂のポリメチルメタアクリレートを、十分に洗浄したガラス基板2上に、均一な膜厚となるように塗布して、上記ポリメチルメタアクリレートからなる膜31を形成する。
(B)次に、上記膜31上に、図示しないフォトレジストを塗布した後、露光、現像を行なう。更に、スパッタエッチング法により、上記フォトレジストをマスクとして、上記ポリメチルメタアクリレートからなる膜31をエッチングした後、上記フォトレジストを剥離することにより、上記膜31をエッチングパターン32に形成する。
(C)次に、上記エッチングパターン32に対して、100°C?200°Cの範囲で加熱整形処理を行なうことにより、半球状のマイクロレンズ1を形成する。
上記ポリメチルメタアクリレートは、透明度、加工の容易さに優れ、ガラスの屈折率(約1.5)とほぼ同等の屈折率1.49を有するので、上記マイクロレンズ1とガラス基板2との界面での屈折および全反射がほとんどなく、マイクロレンズの材料として優れている。」(3頁右下欄14行?4頁左上欄18行)

4-1-7 「次に、第4の実施例を第6図(B)に示す。この実施例は、マイクロレンズの部分のみが前述の第1の実施例と異なる。したがって、第1の実施例と同一部分には同一番号を付して、マイクロレンズに関する部分を重点的に説明する。この実施例は、第6図(A)に示すように、ガラス基板2および発光部8を備えるEL素子66と、別工程であらかじめ作成したマイクロレンズアレイ61とを、第6図(B)に示すように、密着させて形成したものである。ここで、上記マイクロレンズアレイ61と上記EL素子66との間の部分に空気等の物質が介在すると、上記部分で光の屈折、全反射が発生して、光の取り出し効率が低下するので、上記マイクロレンズアレイ61と上記EL素子66との間にすきまができないように、上記マイクロレンズアレイ61と上記EL素子66とを完全に密着させた。」(4頁右下欄2行?同頁右下欄18行)

(a)上記4-1-5における「第1図に本発明の薄膜EL装置の第1の実施例の要部詳細図を示す。・・・透明電極3と背面電極7との間に発光層5を設けている」との記載から、透明電極3と背面電極7が対をなし、その電極間に発光層5を有する薄膜EL装置が開示されている。
(b)上記(a)で引用した記載、上記4-1-5における「透明電極3の光を取り出す側の面にはガラス基板2を設けている。」との記載、前記「透明電極3の光を取り出す側の面」は透明電極3の外側であることから、ガラス基板2は一対の透明電極3及び背面電極7からなる電極の外側であって、発光が放射される側である透明電極に設けられることが開示されている。
(c)上記4-1-5における「上記ガラス基板2の光を取り出す側の面には、マイクロレンズ1を設けている。」との記載から、ガラス基板2の表面にマイクロレンズ1が設けられていることが開示されている。
(d)上記4-1-6における「上記第1の実施例のマイクロレンズの製造方法の一例を、第3図に示す。・・・。半球状のマイクロレンズ1を形成する。上記ポリメチルメタアクリレートは、透明度、加工の容易さに優れ、・・・マイクロレンズの材料として優れている。」との記載から、「半球状のマイクロレンズ」は凹凸を表面に有するマイクロレンズと言え、凹凸を表面に有する透明なポリメチルメタアクリレートからなるマイクロレンズが開示されている。
(e)上記4-1-7における「次に、第4の実施例を第6図(B)に示す。この実施例は、マイクロレンズの部分のみが前述の第1の実施例と異なる。・・・。この実施例は、・・・ガラス基板2および発光部8を備えるEL素子66と、別工程であらかじめ作成したマイクロレンズアレイ61とを、第6図(B)に示すように、密着させて形成したものである。ここで、上記マイクロレンズアレイ61と上記EL素子66との間の部分に空気等の物質が介在すると、上記部分での光の屈折、全反射が発生して、光の取り出し効率が低下するので、上記マイクロレンズアレイ61と上記EL素子66との間にすきまができないように、上記マイクロレンズアレイ61と上記EL素子66とを完全に密着させた。」との記載から、マイクロレンズ1とガラス基板表面との間にすきまができないように完全に密着させたEL素子が開示されている。

してみると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「一対の透明電極3及び背面電極7からなる電極間に、発光層5を有し、該一対の透明電極3及び背面電極7からなる電極の外側に、かつ発光が放射される側である透明電極に設けたガラス基板2の表面に、凹凸を表面に有する透明なポリメチルメタアクリレートからなるマイクロレンズ1が設けられており、かつ該マイクロレンズ1と該ガラス基板表面との間にすきまができないように完全に密着させた薄膜エレクトロルミネッセンス素子。」

4-2 当審拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例2(特開平4-125683号公報)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

4-2-1 「2.特許請求の範囲
スイッチング素子をマトリクス状に形設具備させた基板(アクティブマトリクス)と、前記基板上に堆積パタンニングされたEL素子群と、前記スイッチング素子を介してEL素子群を選択的に駆動する外部回路とを備え、
前記EL素子が有機EL系をEL発光層として成ることを特徴とするEL表示装置。」(1頁左下欄4行?同頁左下欄11行)

4-2-2 「(産業上の利用分野)
本発明は薄型ディスプレイ装置に係り、特にEL表示装置に関する。」(1頁左下欄14-16行)

4-2-3 「第1図(a)において、1はガラス基板、2はソース領域2aおよびドレイン領域2bを有する多結晶シリコンTFT、3はゲート電極、4はたとえばSiO_(2)などの絶縁層、5は前記多結晶シリコンTFT2のソース領域2aに接続する信号電極母線、6は前記多結晶シリコンTFT2のドレイン領域2bに接続する例えばITOから成る画素電極、7は電荷輸送層、8はEL発光層、9はたとえばAg、Mgなどから成る背面電極層もしくは対向電極層である。」(2頁右下欄17行?3頁左上欄6行)

4-2-4 「なお、前記各構成例において、画素電極6は透光性のITO電極のほか、・・・。」(3頁右上欄20行?同頁左下欄2行)

4-2-5 「上記のように構成された本発明に係るEL表示装置は、広い視野角を呈するが、これをさらに向上・改善するため、EL発光面を拡散面、あるいは指向性透過集光面にしてもよい。たとえばELパネルのガラス基板1面を粗面化して、EL発光を拡散させ、視野角を拡大させるとか、あるいは第9図に要部の構成を断面的に示すごとくELパネルのガラス基板1面にレンチキュラレンズ15を蝕刻もしくは樹脂の塗布成型により設け、特定視野方向への集光や均一散光を行わせることで、視野角の限定、あるいは拡大が可能となる。」(4頁左下欄17行?同頁右下欄7行)

4-3 当審拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例3(特開平7-151909号公報)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

4-3-1 「【0027】 ……本発明のレンズシート4は、……図14のように、半球面等周囲が独立した突起状の単位レンズ42を多数2次元方向に配列してなる蝿の目レンズが使用される。此処で、単位レンズ42の断面形状としては、図12、図14のように円、楕円、カージオイド、ランキンの卵形、サイクロイド、又はインボリュート曲線等の連続で滑らかな曲線、或いは図6の様に三角形、四角形、又は六角形等の多角形の一部分又は全体を用いる。これら単位レンズ42は、図12の様な凸レンズでも、図13の様な凹レンズでも良い。これらの中でも、好ましいのは設計、製造の容易さ、集光、光の拡散特性(半値角、サイドローブ光(斜め方向に出来る輝度のピーク)の少なさ、半値角内輝度の等方性、法線方向の輝度)等の点から円柱又は楕円柱である。特に面光源の法線方向が長軸となった楕円が輝度が高く好ましい。長軸/短軸=1.27?1.85の範囲が特に良好である。」

4-3-2 「【0029】このフィルムレンズ4は、透光性基材から形成される。此処で透光性基材としては、ポリメタアクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル等のアクリル酸エステル又はメタアクリル酸エステルの単独若しくは共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等熱可塑性樹脂、或いは紫外線又は電子線で架橋した、多官能のウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等のアクリレート、不飽和ポリエステル等透明な樹脂、透明な硝子等、透明なセラミックス等が用いられる。」

4-3-3 「【0044】[製造例]
材料
基材:透明な2軸延伸PETフィルム(膜厚100μm)上に、透明な接着層を約1μmになるように塗布し、この上に、単位レンズ42のパターンを形成させるウレタンアクリレートのプレポリマーを主成分とする紫外線硬化型樹脂を塗布して、樹脂塗膜を硬化(固化)後に型を離型することにより、ピッチ110μmで、単位レンズ形状が長軸長/短軸長=1.85の楕円柱を稜線が互いに平行になるように、隣接して配列された図12のようなリニアなレンズ形状を形成したフィルムレンズを用いる。……」

4-4 当審拒絶理由で引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例4(特開平6-18869号公報)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

4-4-1 「【0031】15はマイクロレンズ基板11とスペース基板13とを接続する接着層であり、具体的には紫外線硬化型の樹脂を主成分とする接着剤である。」


5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(イ)引用発明における「透明電極3」は、その文字どおり透明な電極であるから、引用発明の「一対の透明電極3及び背面電極7からなる電極間」と本願発明の「少なくとも一方が透明又は半透明である一対の陽極及び陰極からなる電極間」とは、「少なくとも一方が透明である一対の電極間」である限りにおいて一致する。
(ロ)引用発明の「発光層5」は、本願発明の「発光層」に相当する。
(ハ)引用発明の「該一対の透明電極3及び背面電極7からなる電極の外側に、かつ発光が放射される側である透明電極に設けたガラス基板2の表面に」と本願発明の「該一対の陽極及び陰極からなる電極の外側に、かつ発光が放射される側に」とは、「該一対の電極の外側に、かつ発光が放射される側に」である限りにおいて一致する。
(ニ)引用発明における「ポリメチルメタアクリレート」と本願発明における「ポリエチレンテレフタレート」は何れも高分子材料である点で一致し、また、引用発明における「凹凸を表面に有する」「マイクロレンズ」は、本願発明の「凹凸を表面に有する」「基材」に相当するから、引用発明の「凹凸を表面に有する透明なポリメチルメタアクリレートからなるマイクロレンズ1」と、本願発明の「凹凸を表面に有する透明又は半透明なポリエチレンテレフタレートである基材」とは、「凹凸を表面に有する透明な高分子材料である基材」である点において一致する。
(ホ)引用発明における「ガラス基板表面」は、本願発明における「素子表面」に相当し、また、引用発明における「すきまができないように完全に密着させ」たものは、本願発明における「空気層を挟みこんでいない」ものに相当するから、引用発明の「該マイクロレンズ1と該ガラス基板表面との間にすきまができないように完全に密着させ」ることは、本願発明の「該基材と素子表面との間に空気層を挟みこんでいない」ことに相当する。
(ヘ)引用発明の「薄膜エレクトロルミネッセンス素子」と本願発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、「エレクトロルミネッセンス素子」である限りにおいて一致する。

すると、本願発明と、引用発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
少なくとも一方が透明である一対の電極間に、少なくとも発光層を有し、該一対の電極の外側に、かつ発光が放射される側に、凹凸を表面に有する透明な高分子材料である基材が設けられており、かつ該基材と素子表面との間に空気層を挟みこんでいないエレクトロルミネッセンス素子。

一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点>
(1)本願発明では、エレクトロルミネッセンス素子が「有機エレクトロルミネッセンス素子」であり、一対の電極が「一対の陽極及び陰極」であるのに対し、引用発明では、エレクトロルミネッセンス素子が「薄膜エレクトロルミネッセンス素子」であり、一対の電極が陽極、陰極の区別のない「電極」である点。
(2)基材の高分子材料が、本願発明では「ポリエチレンテレフタレート」であるのに対し、引用発明では、「ポリメチルメタアクリレート」である点。
(3)基材表面の凹凸が、本願発明では「高低差が0.1μm以上0.2mm以下」であるのに対し、引用発明では不明である点。
(4)基材と素子表面とは、本願発明では「貼合剤を用いて貼合」されているのに対して、引用発明では、具体的にどのようにして設けられているか不明である点。


6. 判断
6-1 相違点(1)について
エレクトロルミネッセンス素子として、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の陽極及び陰極からなる電極間に、少なくとも発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子は、引用例2に記載されるよう周知である。(引用例2では、「画素電極6」と「背面電極層9」との間に有機EL系の「EL発光層8」有しており、「画素電極6」と「背面電極層9」の一方が「陽極」、他方が「陰極」として機能し、「画素電極6」は、透光性のITO電極である。)
薄膜エレクトロルミネッセンス素子と有機エレクトロルミネッセンス素子は、何れも光源や表示装置等に用いられる周知の発光素子であるから、引用発明の薄膜エレクトロルミネッセンス素子に代えて引用例2に記載の周知の有機エレクトロルミネッセンス素子を採用し、一対の電極をそれぞれ陽極、陰極とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

6-2 相違点(2)について
引用例3には、上記4-3-2において摘記したとおり、「【0029】このフィルムレンズ4は、透光性基材から形成される。此処で透光性基材としては、・・・、ポリエチレンテレフタレート、・・・等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等熱可塑性樹脂・・・等が用いられる。」と記載されている。レンズを構成する高分子材料としてポリエチレンテレフタレートは、上記引用例3に記載されるよう周知・慣用の高分子材料であり、ポリエチレンテレフタレートを用いることに格別の困難性は無い。また、光の取り出し効率が材料の屈折率に依存することは当業者に自明(例えば、引用例1の第2頁左上欄?同頁右上欄の【発明が解決しようとする課題】の項には、スネルの法則に基づく説明がされている。)であるから、光の取り出し効率が高まり輝度が向上するという作用効果もポリエチレンテレフタレートの屈折率に基いて当業者が予測しうる程度の作用効果にすぎず、格別のものとは認められない。

6-3 相違点(3)について
引用発明におけるマイクロレンズ1は、発光層の発生する光がガラス基板2の界面で全反射するのを防止して、光の取り出し効率を向上させる機能(上記記載事項4-1-3、4-1-4参照)を有しており、該マイクロレンズ表面の凹凸をどの程度の高低差とするかは、前記機能を発揮できるよう当業者が適宜設定しうるものである。そして、マイクロレンズの凹凸の高低差として、例えば引用例3には上記4-3-3において摘記したとおり「……ピッチ110μmで、単位レンズ形状が長軸長/短軸長=1.85の楕円柱……」であると記載され、前記ピッチ及び長軸長/短軸長から算出される前記楕円柱の凹凸表面高低差として
110(μm)×1.85/2=101.75(μm)
のものが開示されており、「0.1μm以上0.2mm以下」の高低差は、マイクロレンズが普通に有する高低差と認められることから、相違点(3)に係る発明特定事項とすることに格別の困難性はなく、当業者の通常の創作能力の発揮である。

6-4 相違点(4)について
平坦な面を有する面に、凹凸表面を有するマイクロレンズ基材を設ける際に、貼合剤である接着層を介して貼合することは、引用例4に記載されているように本願出願時に周知の技術であるから、引用発明において、基材を素子表面に設ける際、前記周知技術を適用し、上記相違点(4)に係る発明特定事項と為すことは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の作用効果は、引用発明と、上記引用例2-4に記載された周知の技術事項とに基いて当業者が容易に予測しうる範囲内のものである。
以上のことから、本願発明は、引用発明及び引用例2-4に記載された周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


7.むすび
以上のとおり、本願発明は、当審拒絶理由で通知した拒絶の理由が依然として解消しておらず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、上記の拒絶理由によって拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-12 
結審通知日 2010-01-19 
審決日 2010-02-03 
出願番号 特願2006-223964(P2006-223964)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 聡東松 修太郎  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 今関 雅子
北川 清伸
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

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