• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1213727
審判番号 不服2008-31949  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-18 
確定日 2010-03-18 
事件の表示 特願2002-157163「現像剤担持体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 3日出願公開、特開2003-345095〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年 5月30日の出願であって、平成20年11月13日付で拒絶査定がなされ、これに対して同年12月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
この出願の請求項1ないし12に係る発明は、平成20年9月5付手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された特定事項によって特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】 少なくとも基体及び表面被覆層を有する現像剤担持体の製造方法であって、
円筒状若しくは円柱状の基体上に、少なくとも溶媒に溶解及び/又は分散された樹脂及び固体粒子を含有している表面被覆層形成用の塗料をエアスプレー法により塗布し表面被覆層を形成する工程を含み、
該塗料は、塗料循環システムによってスプレーガンに供給され、
該塗料循環システムは、攪拌機構を有する塗料槽、先端部分にニードル弁を有するスプレーガン、塗料槽?スプレーガン間において該塗料が空気と遮断されている非開放系の循環経路及び該塗料を循環経路内で定量的に加圧循環させる循環ポンプを具備しており、
該エアスプレー法は、霧化エアーを放出することにより該塗料を微粒子化し、前記基体上に塗料を付着させることにより該表面被覆層を形成することを特徴とする現像剤担持体の製造方法。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平3-203631号公報(原査定における引用例1。以下「引用例1」という。)には、以下の記載がある。(以下、各引用例の記載中に付した下線は当審にて付与。)

(1a)「 マンドレルは一般に円筒形であり、中空であってもむくであってもよい。マンドレルの外径は基体の所定の内径(すなわち基体を加熱する前の内径)より大きい。マンドレルの外径は、好ましくは基体の所定の内側円周より約0.2?約1.0%大きい。マンドレルの外径は、好ましくは、基体がそれでつくられている重合体物質の少なくとも見掛けのガラス転移温度へ基体を加熱したときの基体の内側円周より小さい。マンドレル表面は基体の支持表面として機能する。マンドレルは基体の適用及び取りはずしを容易にするため好ましくはテーパー状端部を有する。」(6頁右下欄18行?7頁左上欄9行)

(1b)「 本発明によれば、マンドレル上に強固に保持された基体上へ、次に層をコーティングする。本発明による電子写真像形底部材の製造に於ては、基体上へ適用される層は、例えばブロッキング層、接着剤層、光導電性層、輸送層、あるいは付加的な層を伴うか伴わないこれらの層の組み合わせを含むことができる。
かかるコーティング物質(以下に詳細に論する)は溶液、分散液、エマルジョン又は粉末から任意の適当な方法で基体上へ付着させることができる。付着されたコーティングは管又は基体上に薄い実質的に均一なコーティングを形成しなければならない。典型的なコーティング付着方法には、吹付けコーティング、浸漬コーティング、線巻きロッドコ-ティング、粉末コーティング、静電吹付け、音波吹付け、ブレードコーティングなどが含まれる。吹付けでコーティングを適用する場合には、ガスの助けによってあるいはガスの助けなしで吹付けを行うことができる。吹付けは、機械的及び(又は)静電吹付けに於けるような電気的方法で促進することができる。」(8頁左上欄3行3行?右上欄3行)

(1c)「 本発明の方法で用いることができる典型的なスプレーガンは環状共心空気ノズルで近接して取り巻かれた中央流体ノズルからなる。流体は、環状共心ノズルからのガス流によって生ずる真空によって、あるいは流体容器を加圧することによって流体ノズルから押し出される。流体ノズルの出口で第1次霧化(流体滴の分散)が起こる。環状ガス流と流体滴分散系との衝突によって第2次霧化が起こる。流体ノズルからのより大きい距離の所でのガスジェットによってそれ以上の霧化及び噴霧パターンの形成が生ずる。噴霧パターンの形は、開口を通って印加されるガス圧及び主流体清流に対する衝突角度によって円形から楕円形までに変えることができる。これらの特徴を有する典型的なスプレーガンはBinks Company(Franklin Park、111、)から発売されているModel 21スプレーガンである。」(8頁右上欄4行?20行)

(1d)「 管又は基体の最適な均一コーティングのためには、マンドレルを通常その軸のまわりに回転させかつスプレーガンをマンドレル軸に平行な方向に横断させることが好ましい。吹付けコーティングが操作では、物質及びプロセスパラメーターは相互依存性である。プロセスパラメーターの中には、噴射剤ガス圧、溶液流速、2次ガスノズル圧、ガンと基体との距離、ガン横断速度及びマンドレル回転速度が含まれる。物質パラ-メータには、例えば乾燥特性に影響を及ぼす溶剤混合物、溶存固体の濃度、溶存固体の組成(例えば単量体、重合体)、及び分散液又は溶液を用いるときの分散固体の濃度が含まれる。付着させたコーティングは均一で、なめらかでありかつ連行気泡などのような傷があってはならない。」(8頁左下欄1行?15行)

(1e)「 吹付けによって適用されるコーティング溶液は、通常、重合体を溶剤又は溶剤のブレンド中に溶解することによって調製される。」(8頁左下欄16行?18行)

したがって、前記摘記事項から引用例1には以下の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されている。
「円筒形のマンドレル上に強固に保持された基体上へ、重合体を溶剤又は溶剤のブレンド中に溶解することによって調製されるコーティング溶液を吹付けによって適用し層をコーティングする工程を含み、
スプレーガンは先端に環状共心空気ノズルで近接して取り巻かれた中央流体ノズルからなり、
流体は、環状共心ノズルからのガス流によって生ずる真空によって、あるいは加圧することによって流体ノズルから押し出され、流体ノズルの出口で第1次霧化(流体滴の分散)が起き、環状ガス流と流体滴分散系との衝突によって第2次霧化が起き、基体上に均一なコーティングを形成するものであるシームレス感光体ベルトの製造法」

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願昭60-84102号(実開昭61-200160号)のマイクロフィルム(原査定における引用例2。以下、「周知例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

(2a)「 第1図において、1は床下地表面に散布する粘稠溶液からなる防湿防蟻用薬剤の収容タンク、2はこの薬剤を圧送するスクリューポンプ、3は圧送された薬剤を散布するスプレーガンである。上記収容タンク1には駆動モータおよび及び撹拌羽根を備えた撹拌機4が取付けられ、この撹拌機4によって内部に収容された薬剤を撹拌混合するように構成されている。」(3頁末行?4頁7行)

(2b)「 以上のように構成された散布装置の使用方法について説明する。まず、各コック5,6,13を全閉にした状態で上記タンク1内に薬剤合成用の原料および水等の溶液を充填し、撹拌機4によって撹拌混合する。次いで収容タンク1の下方に設けられた薬剤取出管7のコック5,6を開放した後、ポンプ2を作動させる。この状態ではスプレーガン3の開閉コック13が閉止されているので上記ポンプ2から供給ホース16を経て圧送された薬剤はバイパスホース10を通って上記取出管7に戻された後、吸入ホース9を通ってポンプ2に至り、上記流路を循環することとなる。」(5頁5行?16行)

(2c)「図1


上記図1では、収容タンク1に撹拌羽根を備えた撹拌機4を有すること、ならびに収容タンク1とスプレーガン3間の薬剤の経路である吸入ホース9,バイパスホース10,供給ホース16は非開放系であることが、開示されている。

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平7-323246号公報(原査定における引用例3。以下、「周知例2」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

(3a)「【0014】図中の矢印は塗料の流れを示しており、定圧ポンプ2により塗料タンク1から吸いだされた塗料は塗装ガン3に供給される。塗装ガン3では必要時にガン内のノズルが開閉され、吹き出し圧力を供給することにより塗料が噴出される。この(実験例1)では、コック6は開いた状態にあり、塗装ガン3で塗装に使用されなかった塗料は再び塗料タンク1に戻されるものとする。また、撹拌装置4はトルクセンサーでトルクを検出し、モータのパワーを制御することにより一定のトルクで塗料タンク1内の塗料を撹拌している。また、恒温槽5は温度センサーにより塗料温度を検出し塗料温度を制御している。この時の条件を(A)とする。」

(3b)「【0032】また、本発明の第2、第3、第4の手段とすることにより、塗料が絶えず流動し、チキソトロピー効果が小さくなり、塗装時の塗料チキソトロピー性が原因でスプレーガンへの塗料の供給量が変動したり、塗料の供給途中や塗装ガン中で塗料で詰まることが抑えられ、安定した吐出量で塗装が持続できる。」

(3c)「【図1】


上記図1では、塗料タンク1に撹拌装置4を有すること、ならびに塗料タンク1と塗装ガン3間の経路は非開放系であることが、開示されている。

4.対比
引用例発明の「円筒形のマンドレル上に強固に保持された基体上へ、重合体を溶剤又は溶剤のブレンド中に溶解することによって調製されるコーティング溶液を吹付けによって適用し層をコーティングする工程」は、本願発明の「円筒状若しくは円柱状の基体上に、少なくとも溶媒に溶解及び/又は分散された樹脂及び固体粒子を含有している表面被覆層形成用の塗料をエアスプレー法により塗布し表面被覆層を形成する工程」に相当する。
引用例発明の「スプレーガンは先端に環状共心空気ノズルで近接して取り巻かれた中央流体ノズルからなり、」「流体ノズルの出口で第1次霧化(流体滴の分散)が起き、環状ガス流と流体滴分散系との衝突によって第2次霧化が起き、基体上に均一なコーティングを形成する」ことは、本願発明の「エアスプレー法は、霧化エアーを放出することにより該塗料を微粒子化し、前記基体上に塗料を付着させることにより該表面被覆層を形成する」ことに相当する。

したがって、両者は
「円筒状若しくは円柱状の基体上に、少なくとも溶媒に溶解及び/又は分散された樹脂及び固体粒子を含有している表面被覆層形成用の塗料をエアスプレー法により塗布し表面被覆層を形成する工程を含み、
該塗料は、塗料循環システムによってスプレーガンに供給され、
該塗料循環システムは、スプレーガンを具備しており、
該エアスプレー法は、霧化エアーを放出することにより該塗料を微粒子化し、前記基体上に塗料を付着させることにより該表面被覆層を形成する現像剤担持体の製造方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明が「基体及び表面被覆層を有する現像剤担持体の製造方法」であるのに対して、引用例発明は「現像剤担持体の製造方法」ではない点。

(相違点2)
本願発明では「スプレーガン」が「先端部分にニードル弁を有する」のに対して、引用例発明では「典型的なスプレーガンはBinks Company(Franklin Park、111、)から発売されているModel 21スプレーガンである」とされるだけであって、「先端部分にニードル弁を有する」点が明示されていない点。

(相違点3) 本願発明では、「塗料循環システムは」「攪拌機構を有する塗料槽、塗料槽?スプレーガン間において該塗料が空気と遮断されている非開放系の循環経路及び該塗料を循環経路内で定量的に加圧循環させる循環ポンプを具備」しているのに対して、
引用例発明は「流体は、環状共心ノズルからのガス流によって生ずる真空によって、あるいは加圧することによって流体ノズルから押し出され」るものの、「撹拌機構を有する塗料槽、塗料槽?スプレーガン間において該塗料が空気と遮断されている非開放系の循環経路及び該塗料を循環経路内で定量的に加圧循環させる循環ポンプを具備」する点が明示されていない点。

5.判断
(相違点1について)
引用例発明では、シームレス感光体ベルトを形成するために、円筒のマンドレル上に基体を強固に保持した上で複数の層をコーティングして感光体を形成している(上記1a1b参照。)したがって、上記相違点は実質的な相違点ではない。

(相違点2について)
ニードル弁を有する点について、「Binks Company Model 21」というスプレーガンについて、Binks社のカタログには、図面とともに以下の記載がある。

上記カタログに拠れば、「Binks Company Model 21」が先端にニードル弁を有したスプレーガンであることが明らかである。
なお、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平3-228073号公報(原査定における引用例4)でも、「導電性粒子を樹脂中に分散させた塗料」のように「比重の差や粒度分布を持った物質をスプレーで噴霧塗布する場合」に、「一般的なニードルタイプのスプレーガンを用いる」こと(同公報1頁右下欄1行?2頁左上欄9行参照。)が認められ、ニードルタイプのスプレーガンが広く使用されるものであることがわかる。
したがって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。

(相違点3について)
一般に、薬剤や塗料などの溶液散布手段において「攪拌機構を有するタンク」ならびに「タンク?スプレーガン間において溶液が空気と遮断されている非開放系の循環経路及び溶液を循環経路内で定量的に加圧循環させる循環ポンプ」は、従来周知(必要ならば、周知例1,2,上記2a?3cを参照されたい。)である。そして、上記従来周知の技術を、同じ溶液散布の技術分野に属する引用例発明に採用することは、当業者が適宜なしえたことである。
したがって、上記相違点2に係る構成を採用することに、格別の困難性はない。

(効果の差異)
また、本願明細書【0185】【0186】記載の「均一な被覆層」「均一分散性」に係る本願発明の効果も、引用例発明及び従来周知の技術から予測し得るものであり、格別顕著な効果であるとはいえない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-12 
結審通知日 2010-01-19 
審決日 2010-02-03 
出願番号 特願2002-157163(P2002-157163)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 孝幸  
特許庁審判長 柏崎 康司
特許庁審判官 一宮 誠
黒瀬 雅一
発明の名称 現像剤担持体の製造方法  
代理人 近藤 利英子  
代理人 吉田 勝広  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ