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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1213895
審判番号 不服2007-10249  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-11 
確定日 2010-03-23 
事件の表示 特願2000-400246「プリントカートリッジおよび往復台組立体」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月17日出願公開、特開2001-191508〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年12月28日(パリ条約による優先権主張・2000年1月5日,米国)の出願であって、平成17年11月1日付け拒絶理由通知に対して、平成18年5月2日付けで手続補正がされたが、平成19年1月9日付けで拒絶査定され、これに対し、同年4月11日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年同月27日付けで明細書の手続補正がなされたものである。
これに対し、当審において、平成19年6月12日付けで審査官により作成された前置報告書について、平成21年3月17日付けで審尋を行ったところ、審判請求人は同年7月27日付けで回答書を提出した。



2.平成19年4月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年4月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理 由]
2-1.本件補正について
(1)本件補正前後の特許請求の範囲
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、その補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりのものである。
ア 本件補正前の特許請求の範囲(平成18年5月2日付け手続補正後のもの)
「 【請求項1】 プリンタ往復台に取付可能なインクジェットプリントカートリッジにおいて、
ハウジング、
前記ハウジングにあるプリントヘッド、
前記ハウジングにあって前記プリントヘッドと連絡しているインク貯蔵容器、
前記ハウジングにあって前記プリントヘッドに結合し、前記プリントヘッドを作動させてインクを放出させる電気相互接続体、
前記ハウジングにあって前記プリントカートリッジを完全取付位置に保持し、かつ前記プリンタ往復台にあり前記電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受け、前記電気相互接続体が往復台相互接続体と導電係合するようにするラッチ構成要素、
および
前記ハウジングにあって各列が一つ以上の多数ビット位置を形成できる複数の列を有する所定のパターンに形成され、前記列の少なくとも一つが、前記プリントカートリッジが一定の互換性のないプリンタ往復台の完全取付位置に留まらないようにする障壁として動作するようにした機械的キー、
を備えていることを特徴とするプリントカートリッジ。
【請求項2】 前記機械的キーは、各列が少なくとも三つの異なるビット位置を規定できる複数の列を有する所定のパターンを備えていることを特徴とする請求項1に記載のプリントカートリッジ。
【請求項3】 前記複数の列が三つ以上の列を備えていることを特徴とする請求項2に記載のプリントカートリッジ。
【請求項4】 前記機械的キーは、各ブロックが前記多数ビット位置の一つのビットを表し、前記複数の列を形成している直立ブロックにより規定された所定のパターンに形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプリントカートリッジ。
【請求項5】 前記複数の列はそれぞれ、デフォルト位置にある固定端および可変端を備えており、前記機械的キーは、前記可変端に沿う境界線により規定された所定のパターンに形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプリントカートリッジ。
【請求項6】 前記境界線は、連続隆起縁により形成されていることを特徴とする請求項5に記載のプリントカートリッジ。
【請求項7】 カートリッジを保持するための一つ以上のシュートを有するプリンタ往復台に取付可能なインクジェットプリントカートリッジにおいて、
中にインク貯蔵容器があり、外面を有するハウジング、
前記外面にあって前記インク貯蔵容器と連絡しており、インクを放出するノズルの配列を有するノズル部材、
前記ハウジングにあってノズルの前記配列を選択的に作動させる電気相互接続体、
前記ハウジングにあって、前記プリントカートリッジが前記プリンタ往復台の印刷位置に取付けられているとき前記プリンタ往復台のシュートに係合する位置基準部、前記ハウジングの前記外面にあって、前記プリントカートリッジが前記プリンタ往復台の印刷位置に取付けられているとき、前記プリンタ往復台にあり前記電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受けるためのラッチ構成要素、および
前記ハウジングの前記外面にあって、境界を形成する前端を有する多数列の所定のパターンにより形成されている機械的キー、
を備えていることを特徴とするプリントカートリッジ。
【請求項8】 前記機械的キーは、各々が前記列の所定長を形成する少なくとも三つの異なるビット位置を有する多数列の行列により形成される所定のパターンを備えており、前記パターンは前記ハウジングの前記外面の上方に5mm未満突出する低プロフィルを有していることを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項9】 前記機械的キーおよび前記ラッチ構成要素が共に、前記ハウジングの前記外面の同じ側に設置されていることを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項10】 前記列の少なくとも一つは、前記プリントカートリッジがプリンタ往復台の互換性のないシュートの前記印刷位置に取付けられることがないようにする障壁として動作することを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項11】 前記列の少なくとも二つは、前記プリントカートリッジがプリンタ往復台の互換性のないシュートの前記印刷位置に取付けられることがないようにする障壁として動作することを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項12】 前記インク貯蔵容器に液体インクの供給品を備えていることを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項13】 それに取付けられた一つ以上のインクジェットプリントカートリッジを保持するための往復台組立体において、
枠、
前記枠にある支持部材、
前記支持部材に支持されて一つ以上のプリントカートリッジを保持するためのシュート、
前記シュートにあって、前記プリントカートリッジを選択的に作動させてインクを放出させるために前記一つ以上のプリントカートリッジに結合するための電気相互接続体、
前記シュートにあって前記電気相互接続体の方に向かって押圧するV形端を有し、前記一つ以上のプリントカートリッジを確実に取付けられた印刷位置に保持するための片寄せばね、および
前記シュートにあって各列が一つ以上の多数ビット位置を規定できる複数の列を有する所定のパターンに形成され、前記列の少なくとも一つは、互換性のないプリントカートリッジが確実に取付けられた印刷位置に留まらないようにする障壁として動作するようにした機械的キー、
を備えていることを特徴とする往復台組立体。
【請求項14】 前記機械的キーは、各々が少なくとも三つの異なるビット位置を規定できる複数の列を有する所定のパターンを備えていることを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項15】 前記複数の列が四つ以上の列を備えていることを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項16】 前記複数の列はそれぞれ、デフォルト位置にある固定端および可変端を備えており、前記機械的キーは、前記可変端に沿う境界線により規定された所定のパターンに形成されていることを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項17】 前記境界線は、連続隆起縁により形成されていることを特徴とする請求項16に記載の往復台組立体。
【請求項18】 前記列の少なくとも一つは、プリントカートリッジがプリンタ往復台の互換性のないシュートの前記印刷位置に取付けられないようにする障壁として動作することを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項19】 前記列の少なくとも二つは、プリントカートリッジがプリンタ往復台の互換性のないシュートの前記印刷位置に取付けられないようにする障壁として動作することを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項20】 更に、印刷領域を通過する媒体を保持するためのプラテン、および前記往復台を前記プラテン上で前後に移動させるための機構を備えていることを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】 プリンタ往復台に取付可能なインクジェットプリントカートリッジにおいて、
ハウジング、
前記ハウジングにあるプリントヘッド、
前記ハウジングにあって前記プリントヘッドと連絡しているインク貯蔵容器、
前記ハウジングにあって前記プリントヘッドに結合し、前記プリントヘッドを作動させてインクを放出させる電気相互接続体、
前記ハウジングにあって前記プリントカートリッジを完全取付位置に保持し、前記電気相互接続体が往復台相互接続体と導電係合するようにするラッチ構成要素、および
前記ハウジングにあって各列が1つまたは複数のビット位置を規定する複数の列を有する所定のパターンに形成され、前記列の少なくとも一つが、前記プリントカートリッジが一定の互換性のないプリンタ往復台の完全取付位置に留まらないようにする障壁として動作するようにした機械的キー、
を備えていることを特徴とするプリントカートリッジ。
【請求項2】 前記機械的キーは、各列が少なくとも三つの異なるビット位置を規定できる複数の列を有する所定のパターンを備えていることを特徴とする請求項1に記載のプリントカートリッジ。
【請求項3】 前記複数の列が三つ以上の列を備えていることを特徴とする請求項2に記載のプリントカートリッジ。
【請求項4】 前記機械的キーは、各ブロックが前記複数のビット位置の一つのビットを表し、前記複数の列を形成している直立ブロックにより規定された所定のパターンに形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプリントカートリッジ。
【請求項5】 前記複数の列はそれぞれ、デフォルト位置にある固定端および可変端を備えており、前記機械的キーは、前記可変端に沿う境界線により規定された所定のパターンに形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプリントカートリッジ。
【請求項6】 前記境界線は、連続隆起縁により形成されていることを特徴とする請求項5に記載のプリントカートリッジ。
【請求項7】 カートリッジを保持するための一つ以上のシュートを有するプリンタ往復台に取付可能なインクジェットプリントカートリッジにおいて、
中にインク貯蔵容器があり、外面を有するハウジング、
前記外面にあって前記インク貯蔵容器と連絡しており、インクを放出するノズルの配列を有するノズル部材、
前記ハウジングにあってノズルの前記配列を選択的に作動させる電気相互接続体、
前記ハウジングにあって、前記プリントカートリッジが前記プリンタ往復台の印刷位置に取付けられているとき前記プリンタ往復台のシュートに係合する位置基準部、
前記ハウジングの前記外面にあって、前記プリントカートリッジが前記プリンタ往復台の印刷位置に取付けられているとき、前記プリンタ往復台にある片寄せ部材を受けるためのラッチ構成要素、および
前記ハウジングの前記外面にあって、境界を形成する前端を有する多数列の所定のパターンにより形成されている機械的キー、
を備えていることを特徴とするプリントカートリッジ。
【請求項8】 前記機械的キーは、各々が前記列の所定長を形成する少なくとも三つの異なるビット位置を有する多数列の行列により形成される所定のパターンを備えており、前記パターンは前記ハウジングの前記外面の上方に5mm未満突出する低プロフィルを有していることを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項9】 前記機械的キーおよび前記ラッチ構成要素が共に、前記ハウジングの前記外面の同じ側に設置されていることを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項10】 前記列の少なくとも一つは、前記プリントカートリッジがプリンタ往復台の互換性のないシュートの前記印刷位置に取付けられることがないようにする障壁として動作することを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項11】 前記列の少なくとも二つは、前記プリントカートリッジがプリンタ往復台の互換性のないシュートの前記印刷位置に取付けられることがないようにする障壁として動作することを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項12】 前記インク貯蔵容器に液体インクの供給品を備えていることを特徴とする請求項7に記載のプリントカートリッジ。
【請求項13】 それに取付けられた一つ以上のインクジェットプリントカートリッジを保持するための往復台組立体において、
枠、
前記枠にある支持部材、
前記支持部材に支持されて一つ以上のプリントカートリッジを保持するためのシュート、
前記シュートにあって、前記プリントカートリッジを選択的に作動させてインクを放出させるために前記一つ以上のプリントカートリッジに結合するための電気相互接続体、
前記シュートにあって前記一つ以上のプリントカートリッジを確実に取付けられた印刷位置に保持するための片寄せ部材、および
前記シュートにあって各列が1つまたは複数のビット位置を規定する複数の列を有する所定のパターンに形成され、前記列の少なくとも一つは、互換性のないプリントカートリッジが確実に取付けられた印刷位置に留まらないようにする障壁として動作するようにした機械的キー、
を備えていることを特徴とする往復台組立体。
【請求項14】 前記機械的キーは、各列が少なくとも三つの異なるビット位置を規定できる複数の列を有する所定のパターンを備えていることを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項15】 前記複数の列が四つ以上の列を備えていることを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項16】 前記複数の列はそれぞれ、デフォルト位置にある固定端および可変端を備えており、前記機械的キーは、前記可変端に沿う境界線により規定された所定のパターンに形成されていることを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項17】 前記境界線は、連続隆起縁により形成されていることを特徴とする請求項16に記載の往復台組立体。
【請求項18】 前記列の少なくとも一つは、プリントカートリッジがプリンタ往復台の互換性のないシュートの前記印刷位置に取付けられることがないようにする障壁として動作することを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項19】 前記列の少なくとも二つは、プリントカートリッジがプリンタ往復台の互換性のないシュートの前記印刷位置に取付けられることがないようにする障壁として動作することを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。
【請求項20】 更に、印刷領域を通過する媒体を保持するためのプラテン、および前記往復台を前記プラテン上で前後に移動させるための機構を備えていることを特徴とする請求項13に記載の往復台組立体。」

(2)補正内容
本件補正は、以下に示すアないしウの補正内容よりなる。
ア 本件補正前の請求項1及び13に記載された「1つ以上の多数ビット位置」を、「1つまたは複数のビット位置」とする。
イ 本件補正前の請求項1及び13に記載された「かつ前記プリンタ往復台にあり前記電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受け、」を削除する。
ウ 本件補正前の請求項7に記載された「プリンタ往復台にあり前記電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受けるためのラッチ構成要素」を、「プリンタ往復台にある片寄せ部材を受けるためのラッチ構成要素」とする。


2-2.補正目的について
上記各補正内容について検討する。
(1)補正内容アについて
補正内容アは、本件補正前の請求項1及び13に係る発明を特定するために必要な事項である「機械的キー」を実質的に変更するものではない。

(2)補正内容イ及びウについて
補正内容イおよびウは、本件補正前の請求項1,7及び13に係る発明を特定するために必要な事項である「ラッチ構成要素」について、「電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受け」るという限定を省くものである。

(3)補正目的についてのまとめ
ア 上記(1)および(2)に示したとおりであるから、補正内容アないしウよりなる本件補正は、本件補正前の請求項1,7及び13およびこれらを引用する請求項2?6,8?12及び14?20について、その発明を特定するために必要な事項に関する限定を省くものであるから、全体として、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではなく、かつ、同項第1号に掲げられた「請求項の削除」、同項第3号に掲げられた「誤記の訂正」、及び同項第4号に掲げられた「明りようでない記載の釈明」のいずれの事項を目的とするものでもない。
イ なお、上記アについては、平成19年6月12日付けで審査官により作成された前置報告書により指摘がなされていたものであり、当審において平成21年3月17日付けで審尋を行い、上記アについての指摘をしたところ、審判請求人は平成21年7月27日付け回答書にて
「(2)出願人の回答
審査官殿の前置報告書におきまして指摘されました本願請求項1?20の箇所に対しまして、出願当初の明細書の特許請求の範囲における請求項1と2、請求項7と8、請求項13と14を組み合わせるとともに、段落番号[0020]及び[0021]などを根拠にして下記のように補正したいと思います。・・・(後略)」(回答書2頁18行?22行)と述べるとともに、補正案において「電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受け」る構成を再度付加する一方で、補正目的違反であるとの審査官の指摘に対しては何ら反論をしていないことから、審判請求人も本件補正が補正目的要件を満たさないものと認めているものである。


2-3.補正却下の決定のむすび
上記「2-2.補正目的について」で示したとおり、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げられたいずれの事項をも目的とするものではないから、本件補正は、同法第17条の2第4項の規定に違反する。

したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



3.本願発明について
3-1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1ないし20に記載された発明は、前記「2-1.(1)ア」において、本件補正前の特許請求の範囲(平成18年5月2日付け手続補正後のもの)に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「2-1.(1)ア」にて請求項1として記載した以下のとおりのものと認める。
「プリンタ往復台に取付可能なインクジェットプリントカートリッジにおいて、
ハウジング、
前記ハウジングにあるプリントヘッド、
前記ハウジングにあって前記プリントヘッドと連絡しているインク貯蔵容器、
前記ハウジングにあって前記プリントヘッドに結合し、前記プリントヘッドを作動させてインクを放出させる電気相互接続体、
前記ハウジングにあって前記プリントカートリッジを完全取付位置に保持し、かつ前記プリンタ往復台にあり前記電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受け、前記電気相互接続体が往復台相互接続体と導電係合するようにするラッチ構成要素、
および
前記ハウジングにあって各列が一つ以上の多数ビット位置を形成できる複数の列を有する所定のパターンに形成され、前記列の少なくとも一つが、前記プリントカートリッジが一定の互換性のないプリンタ往復台の完全取付位置に留まらないようにする障壁として動作するようにした機械的キー、
を備えていることを特徴とするプリントカートリッジ。」

3-2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特許第2975620号公報(以下「引用文献」という。)には、図示とともに以下(1)?(5)に示す記載がある。(注.下記摘記において、下線は審決で付す。)

(1)「【請求項1】それぞれ異なる色のインクを収納する複数のインクカートリッジ(8)と、該インクカートリッジを収納する複数のカートリッジハウジング(120)と、印刷ヘッド組立体(5)と、各インクカートリッジから印刷ヘッド組立体へインクを供給するための手段とを有する多色インクジェット印刷装置において、
前記各カートリッジハウジング内にはキー装置が設けられ、インクカートリッジには、カートリッジハウジングのキー装置に対応するキー装置が設けられ、
前記カートリッジハウジング内のキー装置及びカートリッジのキー装置が、同じ数で同じ配列とされた複数の凹みと、該凹みの内の選択された凹みにキー部材(48,53)を挿入することにより、各カートリッジハウジング及びカートリッジに特有のキー構造を形成して、特定の色のインクカートリッジが特定のカートリッジハウジングにのみ適合するような構造としたことを特徴とする多色インクジェット印刷装置。」

(2)「第1図は本発明の一実施例を具体化した代表的なインクジェット印刷装置1を概略的に示す。一般に、インクジェット印刷装置1は印刷用紙供給及び帰還部分2を備え、この部分2から印刷用紙を印刷シリンダ3へ送り、印刷用紙をこの部分2へ回収する。印紙用紙を処理する機構は本発明の要旨を構成しないので、その詳細説明は省略する。第1図に略示する印刷ヘッド組立体5はキャリッジ組立体6上に装着され、適当な駆動手段7により移動せしめられる。印刷動作期間中、印刷ヘッド組立体はシリンダ3と共に回転移動する印刷用紙に近接した印刷経路を横切って横断運動する。インクは、インク供給カートリッジ8に接続した可撓性の導管11を介して印刷ヘッド組立体へ供給され、印刷ヘッド組立体から帰還せしめられる。貯蔵及び起動部分9は印刷ヘッド組立体5の印刷経路の左側(第1図)に隣接して位置し、駆動手段7及びキャリッジ組立体6は、印刷装置の適当なシーケンスにおいて、貯蔵及び起動部分9と共働するように印刷ヘッド組立体を運動させる。」(5欄45行?6欄12行)

(3)「第3a図を参照すると、カートリッジ8はインク循環機構の諸ラインに対して、共働するように簡単に装着でき、簡単に取り外すことができるように構成されている。特に、カートリッジ8は、囲われたインク供給及び帰還リザーバを画定する側壁83、底壁84及び頂壁85を有する。カートリッジの頂壁はポート31、32、33、34、35、36を備えた隆起部87を有し、各ポートはカートリッジ外部からカートリッジ内の供給及び帰還リザーバへの流体流路を提供する。」(6欄42行?50行)

(4)「第3b図と共に第4、5図を参照すると、本発明によるプリンタのハウジングはクリップ部材40を有し、このクリップ部材はカートリッジ8の隆起部の衝合面87c上に形成した対応するキー装置の素子(51にて示す)と共働するキー装置の素子(41にて示す)を有する。クリップ部材はデテント端部43を備えたアーム部材42を構成するように(例えばモールド成形により)形成されている。クリップ部材40のアーム部材は可撓性で、その端部43は、挿入され又は取り外されるインクカートリッジのフランジ87dがデテント端部に係合したときにアーム部材を外方に撓ませるカム表面を有する。」(8欄43行?9欄3行)

(5)「第4、5図には、カートリッジハウジングを接続するインク循環機構のためのインクの色を表すピンパターンでクリップ部材を符号化即ちコード化するためクリップ部材40の所定のみぞ孔にキーピン48を挿入する方法を示す。同様に、第6図及び第7a図ないし第7e図は、特定のインク色のしるしでカートリッジをコード化するためカートリツジのキー素子51を所定のみぞ孔内にプラグ部材53を配置する方法を示す。例えば、第6図に示すインクカートリッジは、第5図に示すように挿入されるピンによりコード化されるクリップ部材内に挿入するためには適正にコード化されていない(第7a図に示すようなカートリッジのプラグ部材のコード化位置が、第5図のピンとクリップ部材とで構成されるキー部分にカートリッジを挿入するための適正な位置である)。
作動においては、第6図のプラグ部材の位置を有するインクカートリッジは、第5図のキー位置でコード化されるカートリッジハウジング内に挿入しようとするオペレータに対して確実な機械的フィードバックを提供する。従って、カートリッジを挿入している期間中、ピン48は第6図のカートリッジのプラグ部材53に衝合し、カートリッジが完全に挿入されたデテント(係止)位置に動くのを阻止する。このため、ハウジングに連結されたインク循環機構内へ間違った色のインクを収容したカートリッジを配置しようとしているオペレータに、間違いを知らせる。更に、カートリッジが完全挿入位置へ移動できないため、ハウジングのドアは閉じることができず、ハウジングとの開弁関係になるようにカートリッジを持ち上げることができない。従って、間違った色のインクをインク循環機構に導入することにより生じる悲惨な結果の発生を確実に防止できる。」(9欄22行?10欄10行)

(6)上記記載(4)及び記載(5)における「カートリッジ8」の「キー装置」は、各「キー素子51」が1ビット(「プラグ部材53」が存在するか否か)の情報を有するものである。そして、引用文献の第6図ないし第7図から、この「カートリッジ8」の「キー装置」は各列が2つの「キー素子51」を有する2列のキー素子群により構成されていることが看取できる。
よって、引用文献の「カートリッジ8」の「キー装置」は、各列が2ビット位置を形成できる2列の「キー素子51」よりなるものであることが把握できる。

(7)引用文献の明細書及び図面全体を参酌しつつ、上記(1)ないし(6)を検討すると、引用文献には次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)と認められる。
「インクジェット印刷装置1のカートリッジ8であって、
前記インクジェット印刷装置1の印刷ヘッド組立体5はキャリッジ組立体6上に装着され、適当な駆動手段7により移動せしめられるものであり、
前記カートリッジ8はインク循環機構の諸ラインに対して、共働するように簡単に装着でき、簡単に取り外すことができるように構成されており、かつ、前記カートリッジ8は、囲われたインク供給及び帰還リザーバを画定する側壁83、底壁84及び頂壁85を有し、
プリンタのハウジングはクリップ部材40を有し、このクリップ部材40はカートリッジ8の隆起部の衝合面87c上に形成した対応するキー装置の素子51と共働するキー装置の素子41を有しており、前記クリップ部材40はデテント端部43を備えたアーム部材42を構成するように形成され、前記クリップ部材40の前記アーム部材42は可撓性で、その端部43は、挿入され又は取り外されるインクカートリッジ8のフランジ87dがデテント端部に係合したときにアーム部材を外方に撓ませるカム表面を有し、
インクの色を表すピンパターンで前記クリップ部材40を符号化即ちコード化するため前記クリップ部材40の所定のみぞ孔にキーピン48を挿入し、特定のインク色のしるしで前記カートリッジ8をコード化するため前記カートリッジ8のキー装置の素子51を所定のみぞ孔内にプラグ部材53を配置し、作動においては、カートリッジを挿入している期間中、ピン48は第6図のカートリッジのプラグ部材53に衝合し、カートリッジ8が完全に挿入されたデテント(係止)位置に動くのを阻止することにより、ハウジングに連結されたインク循環機構内へ間違った色のインクを収容したカートリッジ8を配置しようとしているオペレータに、間違いを知らせるものであって、
前記カートリッジ8のキー装置は、各列が2ビット位置を形成できる2列のキー素子51よりなる、
インクジェット印刷装置1のカートリッジ8。」


3-3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「カートリッジ8」,「インク供給及び帰還リザーバ」及び「側壁83、底壁84及び頂壁85」は、本願発明における「プリントカートリッジ」,「プリントヘッドと連絡しているインク貯蔵容器」及び「ハウジング」に相当する。

(2)引用発明における「インクカートリッジ8のフランジ87d」は、プリンタ側に設けられた「クリップ部材40」の「デテント端部43を備えたアーム部材42」に係合するカートリッジ8側の構成要素であり、「ラッチ構成要素」と呼ぶことができるものである。したがって、引用発明における「インクカートリッジ8のフランジ87d」と、本願発明における「ハウジングにあってプリントカートリッジを完全取付位置に保持し、かつプリンタ往復台にあり前記電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受け、前記電気相互接続体が往復台相互接続体と導電係合するようにするラッチ構成要素」とは、「ハウジングにあってプリントカートリッジを完全取り付け位置に保持し、プリンタ側にある係合部材と係合するラッチ構成要素」である点で一致する。

(3)引用発明における「各列が2ビット位置を形成できる2列のキー素子51よりなる」構成は、本願発明における「各列が一つ以上の多数ビット位置を形成できる複数の列を有する所定パターンに形成され」る構成に相当する。

(4)引用発明における「カートリッジ8のキー装置の素子51」は「所定のみぞ孔内にプラグ部材53を配置し、作動においては、カートリッジを挿入している期間中、ピン48は第6図のカートリッジのプラグ部材53に衝合し、カートリッジ8が完全に挿入されたデテント(係止)位置に動くのを阻止することにより、ハウジングに連結されたインク循環機構内へ間違った色のインクを収容したカートリッジ8を配置しようとしているオペレータに、間違いを知らせる」ものであり、かつ、「各列が一つ以上の多数ビット位置を形成できる複数の列を有する所定パターンに形成され」ているものであるから、本願発明における「ハウジングにあって各列が一つ以上の多数ビット位置を形成できる複数の列を有する所定のパターンに形成され、前記列の少なくとも一つが、プリントカートリッジが一定の互換性のないプリンタ往復台の完全取付位置に留まらないようにする障壁として動作するようにした機械的キー」とは、「ハウジングにあって各列が一つ以上の多数ビット位置を形成できる複数の列を有する所定のパターンに形成され、前記列の少なくとも一つが、プリントカートリッジが一定の互換性のないプリンタ側の完全取付位置に留まらないようにする障壁として動作するようにした機械的キー」である点で一致する。

(5)してみると、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「プリントカートリッジであって、
ハウジング、
前記ハウジングにあってプリントヘッドと連絡しているインク貯蔵容器、
前記ハウジングにあって前記プリントカートリッジを完全取り付け位置に保持し、プリンタ側にある係合部材と係合するラッチ構成要素、および
前記ハウジングにあって各列が一つ以上の多数ビット位置を形成できる複数の列を有する所定のパターンに形成され、前記列の少なくとも一つが、前記プリントカートリッジが一定の互換性のないプリンタ側の完全取付位置に留まらないようにする障壁として動作するようにした機械的キー、
を備えるプリントカートリッジ。」

(6)一方で、引用発明と本願発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明の「プリントカートリッジ」は、「プリンタ往復台に取付可能」であって、かつ、「プリントヘッド」及び「プリントヘッドに結合し、前記プリントヘッドを作動させてインクを放出させる電気相互接続体」を備えるとの特定を有するのに対し、引用発明の「プリントカートリッジ」は上記特定を有さない点。
<相違点2>
本願発明の「ラッチ構成要素」は「プリンタ往復台にあり前記電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受け、前記電気相互接続体が往復台相互接続体と導電係合するようにする」との特定を有するものであるのに対し、引用発明の「ラッチ構成要素」は上記特定を有さない点。


3-4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)<相違点1>について
インクジェットプリンタに使用されるプリントカートリッジとして、「プリンタ往復台に取付可能」であり、「インク貯蔵容器」、「プリントヘッド」及び「プリントヘッドに結合し、前記プリントヘッドを作動させてインクを放出させる電気相互接続体」を備えたプリントカートリッジは、特開平1-125238号公報(特に第6図参照。),特開平2-235777号公報(特に第18図参照。),特開平6-344628号公報(特に段落【0006】,【0010】,【0023】,図2及び図6参照。),特開平10-235889号公報(特に段落【0059】?【0066】,図8及び図10参照。)等に記載されているように、周知技術(以下「周知技術1」という。)である。
かつ、上記周知技術1の例示として挙げた文献のうち、特開平6-344628号公報及び特開平10-235889号公報には、正しいインクカートリッジのみを装着できるようにするという技術課題が開示されていることから、上記周知技術である「プリンタ往復台に取付可能」であり、「インク貯蔵容器」、「プリントヘッド」及び「プリントヘッドに結合し、前記プリントヘッドを作動させてインクを放出させる電気相互接続体」を備えたプリントカートリッジについても、正しいプリントカートリッジのみを装着できるようにするという、引用発明と共通した課題が存在するものであることは、当業者ならば当然認識していたものであると認められる。
したがって、引用発明における「プリントカートリッジ」に替えて、前記周知技術1である「プリンタ往復台に取付可能」であり、「インク貯蔵容器」、「プリントヘッド」及び「プリントヘッドに結合し、前記プリントヘッドを作動させてインクを放出させる電気相互接続体」を備えたプリントカートリッジを採用し、もって<相違点1>の構成とすることは、当業者ならば容易に想到することができたものである。

(2)<相違点2>について
上記「(1)<相違点1>について」で示したように、インクジェットプリンタに使用されるプリントカートリッジとして、「プリンタ往復台に取付可能」であり、「インク貯蔵容器」、「プリントヘッド」及び「プリントヘッドに結合し、前記プリントヘッドを作動させてインクを放出させる電気相互接続体」を備えたプリントカートリッジは、周知のものであるところ、そのようなプリントカートリッジを完全取付位置に保持する「ラッチ構成要素」として、「プリンタ往復台にあり前記電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受け、前記電気相互接続体が往復台相互接続体と導電係合するようにする」機能を有するように構成する技術も、上記周知技術1の例示として挙げた文献のうち特開平1-125238号公報(特に第6図参照。),特開平2-235777号公報(特に第18図参照。)にも記載されているように、周知技術(以下「周知技術2」という。)である。
したがって、引用発明における「プリントカートリッジ」に替えて、前記周知技術2である「プリンタ往復台に取付可能」であり、「インク貯蔵容器」、「プリントヘッド」及び「プリントヘッドに結合し、前記プリントヘッドを作動させてインクを放出させる電気相互接続体」を備えたプリントカートリッジを採用する際に、該プリントカートリッジを完全取付位置に保持する「ラッチ構成要素」に「プリンタ往復台にあり前記電気相互接続体の方に向かって押圧する片寄せばねのV形端を受け、前記電気相互接続体が往復台相互接続体と導電係合するようにする」機能を付加し、もって<相違点2>の構成とすることは、当業者ならば容易に想到することができたものである。

(3)小括
上記(1)及び(2)に示したとおりであるから、<相違点1>及び<相違点2>の構成は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に想到することができたものであり、それにより得られる効果も、引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果及び周知技術2の奏する効果から、当業者が予測することができた程度のものに過ぎない。
よって、本願発明は、当業者が引用文献に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。


3-5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-29 
結審通知日 2009-10-30 
審決日 2009-11-10 
出願番号 特願2000-400246(P2000-400246)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 57- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
上田 正樹
発明の名称 プリントカートリッジおよび往復台組立体  
代理人 有原 幸一  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  

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