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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1213903
審判番号 不服2008-6661  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-18 
確定日 2010-03-23 
事件の表示 特願2002-569571号「内燃機関の制御のための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月12日国際公開、WO02/70883、平成16年 7月15日国内公表、特表2004-521226号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、2002年 2月26日(パリ条約による優先権主張2001年 3月 3日、ドイツ連邦共和国)の国際出願であって、平成19年12月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成20年 3月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同日付けで手続補正(前置補正)がなされたものである。

II.平成20年 3月18日付けの手続補正についての却下の決定
[補正却下の結論]
平成20年 3月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
微粒子フィルタを含んでいる内燃機関の制御のための方法であって、
内燃機関に供給される空気量の開ループ制御および/または閉ループ制御が前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、利用可能な排ガスエネルギの全てが利用されるように行われる形式の方法において、
前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、制御可能な排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータの駆動制御信号に対する限界値が補正されるようにしたことを特徴とする方法。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「制御可能な排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータの駆動制御信号形成に使用される信号が補正される」を「制御可能な排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータの駆動制御信号に対する限界値が補正される」と、限定するものであって、この限定した事項は、願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されており、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-80912号公報(以下「引用例1」という。)には、「内燃機関の排気浄化装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

a:「【請求項1】 機関排気系における排気集合部と各気筒とを連通する各排気ポートのそれぞれに配置されたパティキュレートトラップと、各前記パティキュレートトラップの排気上流側において、各前記排気ポートを少なくとも一つの他の前記排気ポートと連通させるための連通路と、各前記連通路に配置された常時開の開閉弁と、少なくとも一つの前記パティキュレートトラップへの排気ガスの流入を一時的に抑制可能にする流入抑制手段とを具備し、必要に応じて前記流入抑制手段によって前記少なくとも一つのパティキュレートトラップへの排気ガスの流入を一時的に抑制すると共に、前記少なくとも一つのパティキュレートトラップが配置された前記排気ポートを他の前記排気ポートと連通させるための前記連通路に配置された前記開閉弁を閉弁することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】・・・
【請求項3】 前記流入抑制手段は、機関排気系に配置されたターボチャージャ・タービンのための可変ノズル絞り機構であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。」

b:「【0002】
【従来の技術】内燃機関、特に、ディーゼルエンジンの排気ガス中には、カーボンを主成分とする有害なパティキュレートが含まれており、排気ガスを大気に放出する以前にこのようなパティキュレートを除去することが望まれている。そのためにディーゼルエンジンの排気系には、パティキュレートを捕集するフィルタとして、パティキュレートトラップを配置することが提案されている。このようなパティキュレートトラップは、パティキュレート捕集量の増加に伴い大きな排気抵抗となるために、捕集したパティキュレートを燃焼させ、パティキュレートトラップ自身を再生する必要がある。」

c:「【0025】
【発明の実施の形態】図1は、本発明による第一実施形態の排気浄化装置が取り付けられた機関排気系の概略図である。同図において、1はシリンダヘッド排気側への取り付けフランジ、2は各気筒の排気集合部、3は排気集合部2と各気筒とを連通する排気ポートである。排気集合部2の下流側は、ターボチャージャのタービン8を介して大気へ通じており、タービン8の下流側排気通路はタービン8の軸線方向に延在している。各排気ポート3には、それぞれ、パティキュレートトラップ4が配置されている。
・・・
【0027】各パティキュレートトラップ4は、例えば、セラミック等の多孔性物質からなる多孔性物質パティキュレートトラップである。このパティキュレートトラップは、複数の長手方向に延在する隔壁によって細分化された複数の軸線方向空間を有し、隣接する二つの軸線方向空間において、一方が排気上流側を、他方が排気下流側をセラミック等の閉塞材によって閉塞されている。こうして、隣接する二つの軸線方向空間は、排気上流側から流入した排気ガスを隔壁を介して排気下流側に流出するトラップ通路となり、多孔質物質からなる隔壁は、トラップ壁として、排気ガス通過の際にパティキュレートを捕集するようになっている。
【0028】また、各パティキュレートトラップ4は、例えば、耐熱性金属繊維の不織布と耐熱性金属の波板から構成された金属繊維パティキュレートトラップとしても良い。このパティキュレートトラップは、二枚の不織布と二枚の波板とが互いに違いに厚さ方向に積層されて螺旋状に巻かれ、不織布と波板とによって複数の軸線方向空間が形成されているものである。不織布を構成する耐熱性金属繊維及び波板を構成する耐熱金属として、例えば、Fe-Cr-Al合金又はNi-Cr-Al合金等が利用可能である。二枚の不織布は、排気上流側端部において一方の面同士を互いに密着させて螺旋状に連続して溶接され、また、排気下流側端部において他方の面同士を互いに密着させて螺旋状に連続して溶接される。こうして、半径方向に隣接する二つの軸線方向空間は、排気上流側から流入した排気ガスをいずれかの不織布を介して排気下流側に流出するトラップ通路となり、不織布は、トラップ壁として、排気ガス通過の際にパティキュレートを捕集するようになっている。
【0029】本実施形態の排気浄化装置には、さらに、各パティキュレートトラップ4の排気上流側において、各排気ポート3を隣接する排気ポート3へ連通するための連通路6が設けられている。各連通路6には、常時開の開閉弁6aが配置されている。また、機関排気系のパティキュレートトラップ直上流側部分、すなわち、各連通路6により互いに連通された排気ポート3のパティキュレートトラップ上流側部分には第一圧力センサ7aが配置され、機関排気系のパティキュレートトラップ下流側部分、すなわち、排気集合部2には第二圧力センサ7bが配置されている。
【0030】また、ターボチャージャのタービン8の直上流側の排気通路は、タービン8を取り囲むように構成され、タービン8へ流入する排気ガスの流速及び流量を調整するための可変ノズル9が設けられている。この可変ノズルによって、タービンの回転数は、気筒内から排出される排気ガス流量によって一義的に定まることなく、所望回転数に制御することができる。さらに、排気集合部2の直下流側には、常時開の排気制御弁10が配置されている。なお、排気制御弁10は、排気ガス流量を減少させるために設けられており、前述の可変ノズル9によって排気ガス流量が減少させられるのであれば、省略することも可能である。
【0031】このように構成された排気浄化装置において、各気筒から排出される比較的高速の排気ガスは、各連通路6によって全排気ポート3へ分散される。それにより、特定のパティキュレートトラップ4へ流入する排気ガスの流速変化は、図2に示すように、比較的低速で推移する。パティキュレートトラップ4の細孔の大きさは、パティキュレートに比較して非常に大きくされているが、流入する排気ガスが低速であるために、排気ガス中のパティキュレートはパティキュレートトラップ4の細孔の回りに付着堆積して捕集され、この付着堆積パティキュレートは崩されることなく容易に比較的大きく成長することができる。こうして、パティキュレートトラップ4の実質的な細孔の大きさを、ある程度に減少させ、パティキュレートトラップ4におけるパティキュレート捕集率は高められる。」

d:「【0033】排気ガス中には、気筒内へ侵入したエンジンオイルの燃焼生成物であるカルシウム及びリン等の酸化物及び硫化物等も含まれている。これらは、アッシュと称され、パティキュレートと同程度の大きさを有し、パティキュレートに比較して発生量は少ないものの各パティキュレートトラップ4にパティキュレートと同様に良好に捕集されている。アッシュは、非常に燃焼させ難いものであるために、各パティキュレートトラップ4からパティキュレートを焼失させても、パティキュレートトラップに残留して堆積し、排気抵抗を増加させる。」

e:「【0039】また、本実施形態では、アッシュの堆積によってパティキュレートトラップ4の排気抵抗が増大した時には、第三の制御として、各開閉弁6aにより各連通路6を閉鎖すると共に、各気筒の排気行程初期においてだけ、ターボチャージャの可変ノズル9を絞り側に作動するようになっている。この第三の制御においても、各気筒の排気行程初期に排気系における排気抵抗が増加されるために、第二のピーク流速を高めることができ、第二の制御と同様な効果を得ることができる。
【0040】これらの第二及び第三の制御は、各開閉弁6aにより各連通路6を閉鎖すると共に、各気筒の排気行程初期においてだけ、排気制御弁10又は可変ノズル9等によって排気通路を絞り、言わば、この時にパティキュレートトラップ4への排気ガスの流入を抑制するものであり、その分、その後に絞りを開放した際には、パティキュレートトラップ4へ流入する排気ガスの流速は高められ、堆積アッシュを崩すことを可能としてる。
【0041】このような制御において、パティキュレートトラップ4への排気ガスの流入を抑制する機構は、本実施形態の構成における排気制御弁10又は可変ノスル9に限定されることはなく、例えば、排気制御弁10の位置は、各排気ポート3のパティキュレートトラップ4の上流又は下流側としても良い。また、各パティキュレートトラップ4への排気ガスの流入を抑制する時期は、各気筒の排気行程初期に限定されることはなく、例えば、各気筒の今回の排気行程全体としても良く、この場合には、各気筒の次回の排気行程でパティキュレートトラップ4への排気ガスの流入抑制を解除する時に各パティキュレートトラップ4へ流入する排気ガスの流速を通常時に比較して高めることができる。すなわち、各連通路6の閉鎖と共に、パティキュレートトラップ4への排気ガスの流入を一時的に抑制すれば、前述の効果を得ることができる。」

f:「【0065】
【発明の効果】本発明による内燃機関の排気浄化装置によれば、機関排気系における排気集合部と各気筒とを連通する各排気ポートのそれぞれに配置されたパティキュレートトラップと、各パティキュレートトラップの排気上流側において、各排気ポートを少なくとも一つの他の排気ポートと連通させるための連通路と、各連通路に配置された常時開の開閉弁と、少なくとも一つのパティキュレートトラップへの排気ガスの流入を一時的に抑制可能にする流入抑制手段とを具備し、必要に応じて流入抑制手段によって少なくとも一つのパティキュレートトラップへの排気ガスの流入を一時的に抑制すると共に、この少なくとも一つのパティキュレートトラップが配置された排気ポートを他の排気ポートと連通させるためのい連通路に配置された開閉弁を閉弁するようになっているために、この抑制が解除された時には、一斉に多量の排気ガスが非常に高速でパティキュレートトラップを通過する。この非常に高速の排気ガスは、パティキュレートトラップに堆積するアッシュを、容易に崩して細かくし、パティキュレートトラップの下流側に排出することができる。」

これらの記載からみて、上記引用例1には、
「パティキュレートトラップ4を含んでいる内燃機関の排気浄化装置の制御のための方法であって、ターボチャージャ・タービン8の可変ノズル絞り機構の作動が前記パティキュレートトラップ4の排気抵抗に応じて行われる方法において、
前記パティキュレートトラップ4の排気抵抗に応じて制御されるターボチャージャ・タービン8の可変ノズル絞り機構が作動される方法」(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-356155号公報(以下「引用例2」という。)には、「エンジンの制御装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。

g:「【0053】図1に戻り、EGR通路54の開口部下流の排気通路53に可変容量ターボチャージャ2を備える。これは、吸気コンプレッサ2bと同軸配置される排気タービン2aのスクロール入口に、ステップモータ2cにより駆動される可変ノズル2dを設けたもので、コントロールユニット41により、可変ノズル2dは低回転域から所定の過給圧が得られるように、低回転側では排気タービン2aに導入される排気の流速を高めるノズル開度(傾動状態)に、高回転側では排気を抵抗なく排気タービン2aに導入させノズル開度(全開状態)に制御する。また、所定の条件にあるときは、可変ノズル2dは、過給圧を下げるノズル開度に制御される。」

h:「【0063】まず、過給圧制御から説明すると、図4は可変ノズル2dの指令開度の演算フローで、10msec毎に実行する。なお、図4に示す指令開度の演算方法は、基本的に公知のものである。
【0064】ステップ1では回転数Ne、燃料噴射量Qf、コンプレッサ入口圧Pa、実過給圧8Pm_istを読み込む。
【0065】ここで、実過給圧Pm_istはEGR制御で後述する吸気圧(コンプレッサ出口圧)Pmと同じものであり、この吸気圧Pmはコレクタ52aに設けた吸気圧センサ72(図1参照)により、またコンプレッサ入口圧Paはエアフローメータ55の上流に設けた大気圧センサ73(図1参照)により検出している。燃料噴射量Qfの演算は後述する。
【0066】ステップ2では回転数Neと燃料噴射量Qfから図5を内容とするマップを検索することにより基本過給圧MPMを、またステップ3ではコンプレッサ入口圧Paより図6を内容とするテーブルを検索することにより過給圧の大気圧補正値を求め、ステップ4でこの大気圧補正値を基本過給圧MPMに乗じた値を目標過給圧Pm_solとして演算する。
【0067】ステップ5では実過給圧Pm_istがこの目標過給圧Pm_solと一致するようにPI制御によりノズル開度のPI補正量STEP istを演算する。
【0068】ステップ6では回転数Neと燃料噴射量Qfより図7を内容とするマップを検索することにより可変ノズルの基本開度MSTEPを、またステップ7ではコンプレッサ入口圧Paより図8を内容とするテーブルを検索することによりノズル開度の大気圧補正値を求め、この補正値を基本開度MSTEPに乗じた値をステップ8において目標開度STEP solとして演算する。
【0069】ステップ9では、実過給圧Pm_istと回転数NeからD(微分)補正量を算出し、これと前述のPI補正量STEP istとをステップ10において目標開度STEPsolに加算した値をVNTstep1として演算する。
【0070】ステップ11ではエンジン回転数Neと実過給圧Pm_istから所定のマップ(図示しない)を検索してリミッタ上下限値を求め、VNTstep1がこのリミッタ内にあればVNTstep1の値を、そうでない場合はリミッタ上下限値を指令開度VNTstepとして演算する。
【0071】このようにして得られる可変ノズルの指令開度VNTstepは、図示しない所定のテーブルを検索することにより、ステップ数(可変ノズルアクチュエータとしてのステップモータ2cに与える制御量)に変換され、このステップ数により指令開度VNTstepとなるように、ステップモータ2cが駆動される。」

3.発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「パティキュレートトラップ4」は、摘記事項bによれば、「パティキュレートを捕集するフィルタ」であるから、本願補正発明の「微粒子フィルタ」に相当し、以下同様に、「パティキュレートトラップ4の排気抵抗に応じて」は、「微粒子フィルタの負荷状態に依存して」に相当する。
また、引用発明の「ターボチャージャ・タービン8の可変ノズル絞り機構の作動がパティキュレートトラップ4の排気抵抗に応じて行われる」ことと、「内燃機関に供給される空気量の開ループ制御および/または閉ループ制御が前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、利用可能な排ガスエネルギの全てが利用されるように行われる」こととは、ターボチャージャー・タービン8を駆動し可変絞り機構を作動することにより、内燃機関に供給される空気量が制御され、その際、利用可能な排ガスエネルギーが利用されることから、「内燃機関に供給される空気量の制御が前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、利用可能な排ガスエネルギーが利用されるように行われる」という限りにおいて一致する。
そして、引用発明の「制御されるターボチャージャ・タービン8の可変絞り機構が作動される」ことと、本願補正発明の「制御可能な排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータの駆動制御信号に対する限界値が補正される」こととは、「制御可能な排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータが駆動される」限りにおいて一致する。
そうすると、両者は、
「微粒子フィルタを含んでいる内燃機関の制御のための方法であって、
内燃機関に供給される空気量の制御が前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、利用可能な排ガスエネルギーが利用されるように行われる形式の方法において、
前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、制御可能な排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータが駆動される方法」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

<相違点1>
内燃機関に供給される空気量の制御が微粒子フィルタの負荷状態に依存して、利用可能な排ガスエネルギーが利用されるように行われるものにおいて、本願補正発明では、空気量の制御が「開ループ制御および/または閉ループ制御」であり、利用可能な排ガスエネルギーの「全て」が利用されるように行われるのに対して、引用発明には、そのような言及がない点。

<相違点2>
本願補正発明では、「排気タービン駆動式過給機の制御アクチュエータの駆動制御信号に対する限界値が補正される」のに対して、引用発明では、排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータが駆動されるものの、それ以上の言及がない点。

4.相違点についての検討
(1)相違点1について
開ループ制御も閉ループ制御もそれぞれ慣用されるものであり、空気量の制御をいずれかの制御で行うことに格別の困難性はなく、また、「利用可能な排ガスエネルギーの全てを利用」して効率を上げようとすることは、当業者が適宜採用可能な事項に過ぎない。

(2)相違点2について
摘記事項g、hからみて、上記引用例2には、
「エンジンの制御装置において、可変容量ターボチャージャ2の可変ノズル2dの指令開度に対するリミッタ上下限値を設けたもの」が記載されており、上記引用例2に記載された事項の「エンジン」、「可変容量ターボチャージャ2」、「可変ノズル2d」、「リミッタ上下限値」は、それぞれ本願補正発明の「内燃機関」、「排気タービン駆動式過給機」、「制御用アクチュエータ」、「限界値」に相当する。
また、上記引用例2に記載された事項の「指令開度」は、摘記事項hの段落【0071】の記載からみて、モータに与える制御量に変換されるものであり、本願補正発明の「駆動制御信号」に対応するものである。
そうすると、上記引用例2には、
「内燃機関の制御装置において、排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータの駆動制御信号に対する限界値を設けたもの」が開示されているものと認められる。
そして、内燃機関の制御において、「制御パラメータに対する限界値が補正されること」は、慣用手段に過ぎない(必要があれば、特開平11-50897号公報の段落【0025】、【0026】を参照のこと。)ことから、本願補正発明でいう上記相違点2については、上記引用例2に開示された事項に、上記慣用手段を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願補正発明が奏する作用効果について検討しても、上記引用発明、上記引用例2に開示された事項及び上記慣用手段から予測される程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、上記引用発明、上記引用例2に開示された事項及び上記慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

III.上記補正却下された後の本願発明について
1.本願発明の記載事項
平成20年 3月18日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成19年10月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
微粒子フィルタを含んでいる内燃機関の制御のための方法であって、
内燃機関に供給される空気量の開ループ制御および/または閉ループ制御が前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、利用可能な排ガスエネルギの全てが利用されるように行われる形式の方法において、
前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、制御可能な排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータの駆動制御信号形成に使用される信号が補正されるようにしたことを特徴とする方法。」

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は前記II.2.(1)に記載したとおりである。

3.対比・判断
前記II.3.の発明の対比を参照して、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、
「微粒子フィルタを含んでいる内燃機関の制御のための方法であって、
内燃機関に供給される空気量の制御が前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、利用可能な排ガスエネルギーが利用されるように行われる形式の方法において、
前記微粒子フィルタの負荷状態に依存して、制御可能な排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータが駆動される方法」
の点で一致し、以下の各点で相違するものと認められる。

<相違点1’>
内燃機関に供給される空気量の制御が微粒子フィルタの負荷状態に依存して、利用可能な排ガスエネルギーが利用されるように行われるものにおいて、本願発明では、空気量の制御が「開ループ制御および/または閉ループ制御」であり、利用可能な排ガスエネルギーの「全て」が利用されるように行われるのに対して、引用発明には、そのような言及がない点。

<相違点2’>
本願発明では、「排気タービン駆動式過給機の制御アクチュエータの駆動制御信号形成に使用される信号が補正される」のに対して、引用発明では、排気タービン駆動式過給機の制御用アクチュエータが駆動されるものの、それ以上の言及がない点。

上記相違点1’については、前記II.4.(1)に検討したのと同様な理由により、当業者が適宜なし得たものである。

上記相違点2’について検討する。
引用発明は、制御用アクチュエータである可変ノズル絞り機構を作動させるものであって、駆動制御信号についての言及はないが、通常制御アクチュエータを作動させるためには、駆動制御信号を形成する信号を変化させる、つまり補正することが技術常識ともいえることから、本願発明でいう相違点2については、引用発明に基づいて当業者が適宜なし得たものである。

そして、本願発明が奏する作用効果について検討しても、上記引用発明から予測される程度のものであって、格別のものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、上記引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2009-10-27 
結審通知日 2009-10-30 
審決日 2009-11-10 
出願番号 特願2002-569571(P2002-569571)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 祐介畔津 圭介所村 陽一  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 藤井 昇
金丸 治之
発明の名称 内燃機関の制御のための方法および装置  
代理人 二宮 浩康  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 杉本 博司  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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