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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1213907
審判番号 不服2008-30384  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-28 
確定日 2010-03-23 
事件の表示 平成10年特許願第206256号「電気融着システム」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月 2日出願公開、特開2000- 35178〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯の概要
本願は、平成10年7月22日の出願であって、平成20年10月23日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年11月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年12月19日付けで明細書を補正する手続補正がなされたものである。

【2】平成20年12月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年12月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 通電制御情報等を記録したバーコードを付した電気融着継手であって、前記バーコードには少なくとも当該電気融着継手が融着中に発生する短絡や過融着に対する許容量を考慮して複数の電流上昇許容量を予め設定してコード化し、前記コード化した複数の電流上昇許容量の中から一つを選択して記録した電気融着継手と、
バーコードを付した電気融着継手のバーコードから当該電気融着継手に関する通電制御情報等を読み取るバーコードリーダを備え、前記通電制御情報に基づき当該電気融着継手の内部に埋設された電熱線に通電する電気融着用コントローラであって、
前記通電制御情報等が入力されたバーコードから各種通電制御情報と共に記録された前記電流上昇許容量を読み取って記憶する記憶手段と、通電開始後、所定の時間毎に電流を監視して実際の電流上昇量を演算し、所定時間毎に前記実際の電流上昇量とバーコードに記録された前記電流上昇許容量を比較する演算制御手段と、比較した結果、実際の電流上昇量がバーコードに記録された前記電流上昇許容量から外れる場合は警報を表示する表示手段、又は通電を停止する手段とを有する電気融着用コントローラと、
を備えていることを特徴とする電気融着システム。」に補正された(なお、下線は補正箇所を示す)。
上記補正は、請求項1についてみると、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、本件補正前の請求項4に記載した発明を特定するために必要な事項である「バーコード」について「少なくとも電気融着継手が融着中に発生する短絡や過融着に対する許容量を考慮して設定した所定の電流上昇許容量がコード化して記録され、」を、「少なくとも電気融着継手が融着中に発生する短絡や過融着に対する許容量を考慮して複数の電流上昇許容量を予め設定してコード化し、前記コード化した複数の電流上昇許容量の中から一つを選択して記録した」と構成を限定し、「電流上昇許容量」について「バーコードに記録された」と構成を限定するものであるから、新規事項を追加するものではなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲で、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する補正の目的に合致する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか (平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
(刊行物A)
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-24548号公報(以下、「刊行物A」という。)には、「樹脂配管融着用コントローラー及びそれを用いた樹脂配管融着システム」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は樹脂配管融着用コントローラー及び樹脂配管融着システムに関し、特に樹脂(ポリエチレン、架橋ポリエチレン、ポリブテン等)製のパイプおよび継手によるガス、水道、給湯、下水等の配管を施工する際に、内部に電熱線を埋設させた継手を使用し、この電熱線に通電することにより電熱線を発熱させて継手とパイプとを融着させる技術(エレクトロフュージョン)に使用される樹脂配管融着用コントローラー及び樹脂配管融着システムに関する。」

(イ)「【0004】この際、継手に供給する電力は継手70の種類(サイズやソケット、サドル、エルボ等の形態)によって異なり、継手70の種類毎に、継手70に供給する電圧、電流、通電時間が異なった値に設計されている。
【0005】従って、融着時には、継手毎にその継手に供給する電圧、電流、通電時間等をそれぞれ設定する必要がある。そのために、従来においては、継手70に埋設された電熱線そのものの抵抗値や、継手の電力供給端子72に埋設された継手識別用抵抗の抵抗値をコントローラーによって読み取り、その抵抗値とコントローラー内に予め記憶されている電圧、電流、通電時間等の融着制御情報対抵抗値の表とを対比させて、その継手の融着制御情報を得、その情報に基づいてコントローラーは継手に所定の条件の通電を行っていた。
【0006】なお、このコントローラー100は、上記通電手段等以外に、電源ケーブル50と、表示部110と、スイッチ120と、コントローラー100から継手70に電力を供給する継手接続ケーブル60とを備えている。
【0007】また、継手の種類を識別し、継手に供給すべき電圧、電流、通電時間等の融着制御情報をコントローラーに与えるために、継手にバーコードを貼り付け、コントローラーとケーブルで結ばれたバーコードスキャナーによって、継手のバーコードを読み取り、バーコードに載っている情報に基づいてコントローラーが継手に所定の条件で通電を行うことも行われていた。」

(ウ)「【0011】一方、継手にバーコードを貼り付け、バーコードスキャナーによって継手のバーコードを読み取り、バーコードに載っている情報に基づいてコントローラーが継手に所定の条件で通電を行う技術によれば、継手の種類の特定ができるのみならず、メーカーの特定やロット番号等も特定でき、多くの管理情報が得られ、また、抵抗値等を測定するのではなくバーコードから情報を読み込むので継手の種類の特定を誤ってしまうこともない。さらに、バーコードから直接、電圧、電流、通電時間等の融着制御情報を読み込めるので、継手の設計が新しくなっても、バーコードの内容を変更するだけで対応でき、拡張性が容易である。
【0012】しかしながら、この従来のバーコードを用いる方法では、バーコードスキャナーはコントローラーとケーブルで結ばれていたため、操作性に問題があった。また、表示部はコントローラ本体に設けられていたので、継手の近くではバーコードの情報を読むことはできず、例えば、コントローラーが地上にあり、地中等の見えにくいところに継手があった場合には、バーコード情報の確認が困難であるという問題があった。
【0013】従って、本発明の目的は、より多くの融着管理情報が得られ、継手の種類の特定に誤りがなく、継手の設計が新しくなっても、拡張が容易であり、しかも、操作性がよく、さらに、継手の近くでは継手に関する情報の確認が容易な樹脂配管融着用コントローラー及び樹脂配管融着システムを提供することにある。」

(エ)「【0034】継手70にはバーコード75が貼り付けられており、まず、携帯端末30に備えられているバーコードスキャナーによって継手70のバーコード75を読む。その後、携帯端末30を通電装置10の携帯端末装着部17に装着する。その後、携帯端末30からバーコードの情報に基づく融着データを通電装置10に送り、通電装置10はその融着データーに基づいて継手接続ケーブル60及び通電用接続端子62、ならびに通電用接続端子72を介して、継手70に通電し、継手70とパイプ80とを融着する。なお、通電装置10は電源コード50を備えている。
【0035】上記のようにして施工現場にて樹脂配管の融着施工を行った後、事務所にて、転送ユニット210を介してパーソナルコンピュータ200に携帯端末30から、施工現場においてコントローラーによって行われた継手の融着情報を伝送する。この融着情報とは、継手のバーコードから読み取った、継手口径、継手種類、通電電圧、通電電流、通電時間、融着温度設定、製造メーカ、製造年月日、ロット番号等の情報に加えて、外部情報入力手段から入力した施工現場、施工会社、施工者等の情報、さらには、施工結果、融着結果等がある。このようにして、バーコードのデータ、施工結果、融着結果等がパーソナルコンピューターで容易に管理、処理できる。
【0036】図2に示すように、継手70は、樹脂製継手の内部に電熱線74が埋設されており、電熱線74の両端はそれぞれ通電用接続端子72に接続されている。継手70の内部にはパイプ導入部78が設けられており、このパイプ挿入部78にパイプ80が挿入されて継手70とパイプとの融着が行われる。融着が行われると、インジケータ76として形成された孔を樹脂が埋めて融着が行われたことを示す。
【0037】図3は本実施の形態のコントローラー100のブロック図である。コントローラー100は通電装置10と携帯端末30とを備えている。携帯端末30は、CPU31とバーコードスキャナー32とキーボード33と液晶表示34とメモリ35とデータ転送部36とを備えている。
【0038】キーボード33によって、バーコード以外の情報、例えば、施工現場、施工会社、施工者等の入力が行われる。
【0039】継手70に設けられているバーコードには、継手口径、継手種類、通電電圧、通電電流、通電時間、融着温度設定、製造メーカ、製造年月日、ロット番号等の情報が記載されており、バーコードスキャナー32によってこれらの情報を読み取る。この読み取りの際には、これらの情報は液晶表示34に表示される。また、この読み取ったデーターはメモリ35に記憶される。
【0040】そして、継手70のバーコードから読み取ったデータはデータ転送部36およびデータ転送部14を介して通電装置10内の制御部11に送られる。通電装置10は継手70の電熱線74に通電を行うアナログ回路部12を備えており、継手70のバーコードから読み取ったデータに基づいて制御部11によりアナログ回路12の制御が行われ、継手70の電熱線74に電源55から供給される電力の制御が行われる。通電時の電熱線74の電流及び/又は電圧の情報は検出部13により検出され、制御部11に送られフィードバック制御が行われる。また通電時のデーターはデータ転送部14およびデータ転送部36を介して携帯端末30に送られ、液晶表示34に表示されると共にメモリ35にも記録される。」

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物Aには、次の発明(以下、「刊行物A記載の発明1」という。)が記載されていると認められる。
[刊行物A記載の発明1]
「融着制御情報が載っているバーコード75を貼り付けた継手70と、
バーコード75を貼り付けた継手70のバーコード75から当該継手70に関する融着制御情報を読み取るバーコードスキャナーを備え、前記融着制御情報に基づき当該継手70の内部に埋設された電熱線74に通電するコントローラ100を備えている樹脂配管融着システム。」

(刊行物B)
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平1-266393号公報(以下、「刊行物B」という。)には、「エレクトロフュージョン継手の不良表示方法」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(オ)「本発明はプラスチック管を連結するのに使用され、管との接触面に電熱線を埋設したエレクトロフュージョン継手の不良若しくは融着不良を検出し、それを表示する方法に関する。」(第1ページ右下欄第19行?第2ページ左上欄第2行)

(カ)「第二の本発明の目的は、電熱線の短絡や過熱など融着が適正に行われていないときにそれを早期に適確に見付け出し、融着不良を表示させることにある。
問題点の解決手段
第二の発明はそのため、プラスチック管を連結するのに使用され、管との接触面に電熱線を埋設し、管との融着が電熱線に所定の電力量を付与して接触面を加熱溶融することにより行われるエレクトロフュージョン継手において、通電時における電流、電圧、電気抵抗の電気特性のうち、一つ以上の電気特性を通電期間中感知して変化の速度或いは加速度を演算し、変化の速度或いは加速度が許容範囲を超えたとき融着不良を表示させるようにしたものである。
融着不良の表示は、警報音、警報ランプの点灯等によって行われる。なお融着不良が生じたときそれを表示するだけでもよいが、好ましくは表示とともに通電回路のスイッチが自動的に切られ、通電が停止するようにされる。」(第3ページ左上欄第19行?右上欄第18行)

(刊行物C)
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-196630号公報(以下、「刊行物C」という。)には、「電気溶着装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。なお、丸付き数字1?6は、(1)?(6)と表記した。

(キ)「本発明は、熱可塑性樹脂からなるパイプ部材と同じく熱可塑性樹脂からなる継手部材とを接合するに当り、パイプ部材と接触する継手部材の表面に加熱要素が設けられ、該加熱要素に電流を供給することによって前記パイプ部材と前記継手部材とを溶着する電気溶着装置に関し、より詳細には、パイプ部材と継手部材との溶着異常を検出する装置に係る。」(第1ページ右下欄第12行?19行)

(ク)「すなわち、パイプ部材の挿入されていない部分では、継手部材の表面に設けられた加熱要素が樹脂の溶融に伴って動いてしまい、短絡するといったことが発生する。このため、抵抗値が小さくなることから、加熱素子に流れる電流が増大し、この結果、パイプ部材と継手部材との溶着強度が充分に得られないこととなる。」(第2ページ左上欄第10行?16行)

(ケ)「マイクロプロセッサ6内では、前記A/D変換器5を介して入力された電流値が、正常溶着時に流れる電流値か異常溶着時に流れる電流値かをチェックし、異常溶着時の電流値であると判断したときには、電力供給部2に対して動作停止を示す制御信号を送出することにより、該電力供給部2の動作を停止する処理を行う。また、図示は省略しているが、溶着異常を知らせるためのブザーを鳴らす等の処理を行う。このような処理は、マイクロプロセッサ6内でソフトウェア的に行われる。
すなわち、マイクロプロセッサ6に入力される電流値が、電流センサ3による最初の測定値であるときには、その後の比較基準値として、一旦メモリ7に記憶する。この状態において、次に電流センサ3によって検出された電流値が、交流/直流変換器4及びA/D変換器5を介することにより、マイクロプロセッサ6に入力されると、マイクロプロセッサ6は、A/D変換器5から送られてきた電流値を一旦サンプリングし(ステップ(1))、次にこのサンプリングした電流値と、メモリ7に記憶された前回の電流値とを比較する(ステップ(2))。そして、その比較結果により、今回測定された電流値が前回の電流値よりも小さいときには、メモリ7の記憶内容を更新することにより、今回の測定値を最小値としてメモリ7に記憶する(ステップ(3))。
一方、ステップ(2)において、メモリ7に記憶された最小値を示す電流値と、その後に電流センサ3によって測定された電流値とを比較した結果、その後に測定された電流値がメモリ7に記憶された電流値よりも大きいときには、ステップ(4)の動作に移行し、その測定した電流値が、メモリ7に記憶された最小値を示す電流値よりも110%以上大きな値であるかを判断し、110%以上大きな値である場合には、プラス1をカウントアップする。そして、次の判断において再び110%以上大きな値である場合には、プラス2とカウントアップし、このカウント数が5回以上となった場合には、溶着異常と判断して(ステップ(5))、ステップ(6)に移行する。そして、このようにして異常と判断すると、ステップ(6)において異常処理を行う。すなわち、マイクロプロセッサ6より電力供給部2に動作停止命令を示す制御信号を送出し、電力供給部2の動作を停止して、加熱ヒータ1への電力の供給を停止する。又は、図示は省略しているが、警報ブザーを鳴らすことにより、作業者に溶着異常を知らせる等の処理を行う。」(第4ページ右上欄第14行?右下欄第20行)

(コ)「なお、上記実施例では、異常判定の精度を向上させるために、最小値から+10%の許容範囲を設けているが、この許容範囲は+10%に限定されるものではなく、例えば、+5%又は0%等とすることが可能である。」(第5ページ左上欄第5行?9行)

3.対比・判断
本願補正発明と刊行物A記載の発明1を対比すると、その機能からみて、刊行物A記載の発明1の「融着制御情報」は本願補正発明の「通電制御情報」に相当し、以下同様に、「載っている」は「記録した」に、「バーコード75」は「バーコード」に、「貼り付けた」は「付した」に、「継手70」は「電気融着継手」に、「バーコードスキャナー」は「バーコードリーダ」に、「電熱線74」は「電熱線」に、「コントローラ100」は「電気融着用コントローラ」に、「樹脂配管融着システム」は「電気融着システム」に、それぞれ相当する。
したがって、本願補正発明の用語を使用して記載すると、両者は、
「通電制御情報を記録したバーコードを付した電気融着継手と、
バーコードを付した電気融着継手のバーコードから当該電気融着継手に関する通電制御情報を読み取るバーコードリーダを備え、前記通電制御情報に基づき当該電気融着継手の内部に埋設された電熱線に通電する電気融着用コントローラを備えている電気融着システム。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は、バーコードに「少なくとも電気融着継手が融着中に発生する短絡や過融着に対する許容量を考慮して複数の電流上昇許容量を予め設定してコード化し、前記コード化した複数の電流上昇許容量の中から一つを選択して記録し」、電気融着用コントローラが「通電制御情報等が入力されたバーコードから各種通電制御情報と共に記録された電流上昇許容量を読み取って記憶する記憶手段と、通電開始後、所定の時間毎に電流を監視して実際の電流上昇量を演算し、所定時間毎に前記実際の電流上昇量とバーコードに記録された前記電流上昇許容量を比較する演算制御手段と、比較した結果、実際の電流上昇量がバーコードに記録された前記電流上昇許容量から外れる場合は警報を表示する表示手段、又は通電を停止する手段」を有しているのに対し、刊行物A記載の発明1は、そのような構成を有していない点。

上記相違点1について以下に検討する。
刊行物Bには、電熱線の短絡や過熱など融着が適正に行われていないときにそれを早期に適確に見付け出すために、通電中、電流の変化の速度或いは加速度を演算し、許容範囲を超えたときは、警報等の表示や通電の停止をするエレクトロフュージョン(電気融着継手)の不良表示方法が記載されており(上記記載事項(カ)参照)、また刊行物Cには、短絡等の溶着異常を検出するために、電流供給時に電流値をチェックし、測定した電流値がメモリに記憶された電流値よりも所定量以上大きいときは、警報ブザーを鳴らすかまたは電力の供給を停止する電気溶着装置が記載されている(上記記載事項(ケ)参照)。
そうすると、電気融着継手において、電熱線の短絡や過熱等の異常を検知するために、通電開始後、所定時間ごとに電流を監視して電流の上昇量を演算し、予め設定してある設定値(電流上昇許容量)と比較し、設定値から外れる場合は、警報を表示する表示手段、又は通電を停止させる停止手段を設けることは、従来周知の事項であるといえる。
一方、電気融着継手にバーコードを付す技術的意義は、異なる種類の継手に通電する場合でも、各継手が有する多くの管理情報や融着制御情報を容易に、また確実にコントローラに伝達することができる、である(例えば、刊行物Aについての上記記載事項(ウ)等参照)。
そして、バーコードに記憶させる情報は、当業者が適宜選択できる事項であるところ、電流上昇許容量も電気融着継手の融着制御情報の一つであり、また、電気融着継手のサイズ、種類、材質等によって最適な電流上昇許容量は、それぞれ異なることも当業者であれば容易に理解できることである(例えば、刊行物Cについての上記記載事項(コ)には、継手ごとではないものの電流上昇許容量を異なる値とすることが記載乃至示唆されている)。
そうすると、刊行物A記載の発明1及び上記従来周知の事項に接した当業者であれば、刊行物A記載の発明1に、上記従来周知の事項を適用することは、容易に想到し得たことであり、その際、融着制御情報の一つである電流上昇許容量を、各継手ごとの最適な値を選択した上でバーコードに記録することは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。そして、このようにしたものは、実質的に相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を具備するということができる。

また、本願補正発明の奏する効果について検討しても、刊行物Aに記載された発明1及び上記従来周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。

したがって、本願補正発明は、刊行物Aに記載された発明及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の請求の理由を補正した平成20年12月19日付けの手続補正書において、「引用例1?6(審決注:「引用例1」、「引用例5」、「引用例6」が、本審決中の「刊行物A」、「刊行物B」、「刊行物C」にそれぞれ相当する。以下同様)を組合わせたものでは、単にバーコードの一情報として一律の電流上昇許容量を記録したものに過ぎません。従いまして、継手の改良等によって電流上昇許容量を変更したり、新たな形状の継手を追加して電流上昇許容量を加える場合には、コントローラのプログラムを変更する必要が生じたり、バーコードのデジット数の変更が生じてしまうことになります。電気融着用コントローラは、施行工事を行う業者が配管工事の事前に購入しておく言わば工具の一種でありますから、一旦、販売したコントローラを回収してプログラムを変更することは大変な労力が必要となります。
このように本願発明の特徴的な構成は、引用例1から6には記載も示唆もされておらず、これらの文献を組合せたとしても容易に想到できるものではありません。そして、この特徴的な構成によってもたらされる、優れた作用効果をえられるものでもありません。」(【本願発明が特許されるべき理由】「4.本願発明と引用文献との対比」「b)本願請求項1と、引用例1から6との相違点の意義について」の項を参照。)と主張している。
しかしながら、電気融着継手のバーコードにはもともと各継手の個別情報が記録されていること、また、電気融着継手のサイズ、種類、材質等によって最適な電流上昇許容量が異なることも、当業者であれば容易に理解できることは上記のとおりであり、さらに、刊行物A記載の発明1に従来周知の事項を適用するにあたり、融着制御情報の一つである電流上昇許容量を、各継手ごとの最適な値を選択してバーコードに記録することは、当業者が適宜なし得る設計的事項であることも上記のとおりである。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。

4.むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【3】本願発明について
1.本願発明
平成20年12月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成18年7月28日及び平成20年6月6日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】 バーコードを付した電気融着継手のバーコードから当該電気融着継手に関する通電制御情報等を読み取るバーコードリーダを備え、前記通電制御情報に基づき当該電気融着継手の内部に埋設された電熱線に通電する電気融着用コントローラであって、
前記バーコードには、少なくとも当該電気融着継手が融着中に発生する短絡や過融着に対する許容量を考慮して設定した所定の電流上昇許容量がコード化して記録され、
前記通電制御情報等が入力されたバーコードから各種通電制御情報と共に電流上昇許容量を読み取って記憶する記憶手段と、通電開始後、所定の時間毎に電流を監視して実際の電流上昇量を演算し、所定時間毎に前記実際の電流上昇量と前記電流上昇許容量を比較する演算制御手段と、比較した結果、実際の電流上昇量が前記電流上昇許容量から外れる場合は警報を表示する表示手段、又は通電を停止する手段とを有することを特徴とする電気融着用コントローラ。」

2.引用刊行物とその記載事項
上記【2】2.に記載したとおりである。

また、刊行物Aには、次の発明(以下、「刊行物A記載の発明2」という。)が記載されていると認められる。
[刊行物A記載の発明2]
「バーコード75を貼り付けた継手70のバーコード75から当該継手70に関する融着制御情報を読み取るバーコードスキャナを備え、前記融着制御情報に基づき当該継手70の内部に埋設された電熱線74に通電するコントローラ。」

3.対比・判断
本願発明と刊行物A記載の発明2を対比すると、それぞれの有する機能からみて、上記【2】3.において述べたと実質的に同様の相当関係を有するので、両者は、
「通電制御情報を記録したバーコードを付した電気融着継手と、
バーコードを付した電気融着継手のバーコードから当該電気融着継手に関する通電制御情報を読み取るバーコードリーダを備え、前記通電制御情報に基づき当該電気融着継手の内部に埋設された電熱線に通電する電気融着用コントローラ。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点2]
本願発明は、バーコードに「少なくとも電気融着継手が融着中に発生する短絡や過融着に対する許容量を考慮して設定した所定の電流上昇許容量がコード化して記録され」、電気融着用コントローラが「通電制御情報等が入力されたバーコードから各種通電制御情報と共に電流上昇許容量を読み取って記憶する記憶手段と、通電開始後、所定の時間毎に電流を監視して実際の電流上昇量を演算し、所定時間毎に前記実際の電流上昇量と前記電流上昇許容量を比較する演算制御手段と、比較した結果、実際の電流上昇量がバーコードに記録された前記電流上昇許容量から外れる場合は警報を表示する表示手段、又は通電を停止する手段」を有しているのに対し、刊行物A記載の発明2は、そのような構成を有していない点。

上記相違点2について検討するに、相違点2については、上記【2】3.の相違点1において検討した内容と実質的に同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものである。

また、本願発明の奏する効果について検討しても、刊行物Aに記載された発明2及び従来周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとは認められない。

したがって、本願発明は、刊行物Aに記載された発明2及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物Aに記載された発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明(本願発明)が特許を受けることができないものである以上、請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-15 
結審通知日 2010-01-22 
審決日 2010-02-02 
出願番号 特願平10-206256
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16L)
P 1 8・ 575- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 常盤 務
藤村 聖子
発明の名称 電気融着システム  

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