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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25D |
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管理番号 | 1213954 |
審判番号 | 不服2007-30805 |
総通号数 | 125 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-05-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-11-15 |
確定日 | 2010-03-25 |
事件の表示 | 特願2003-34770号「電子機器用冷却システムの液体冷媒及びその充填方法並びに電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月 2日出願公開、特開2004-245477号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成15年2月13日の出願であって、平成19年10月9日付けで拒絶査定がなされ(発送日:平成19年10月16日)、これに対し、同年11月15日に拒絶査定不服審判が請求されたものであって、請求項1に係る発明(以下、同項に係る発明を「本願発明」という。)は、平成19年9月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「アルミニウム合金製の熱交換器を含む電子機器用冷却システムの液体冷媒であり、グリコール類濃度が5?60重量%であって溶存酸素濃度が0.5ppm以下であるグリコール類水溶液からなることを特徴とする電子機器用冷却システムの液体冷媒。」 2.引用例 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、特開2003-28068号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 a.「【発明の属する技術分野】本発明はたとえば電子機器の冷却システムを構成する小型の圧電ポンプに関するものである。」(段落【0001】、下線は当審で付与、以下同様。) b.「なお、図2は本発明の実施の形態1における圧電ポンプの動作測定を説明するための模式図であり、本発明の実施の形態1における圧電ポンプ10を用いた冷却装置を組込んだノートパソコンの模式図である。 図2において、11は圧電ポンプ、12は吸熱器、13は放熱器であり、圧電ポンプ11、吸熱器12および放熱器13の間は、液体の流路14で接続し閉回路循環サイクルを形成し、この中に水とエチレングリコールの混合物の液体を充填し、この液体を冷媒として冷却装置を構成している。この冷却装置は、ノートパソコン本体15内で、吸熱器12はCPUなどの発熱体16に伝熱パッド16aを介して密着させ、放熱器13は表示部17に収納している。」(段落【0033】及び【0034】)、 c.「圧電振動子4を上下方向に連続的に撓ませることにより、上記動作が繰返し行われ、液体冷媒が圧電ポンプ11-吸熱器12-放熱器13-圧電ポンプ11という閉回路循環サイクルにより形成された冷却装置内を循環することになるのである。圧電ポンプ11で押し出された液体冷媒は、吸熱器12において発熱体16の熱を吸収し、放熱器13へ移動し放熱器13で放熱し再び冷却されて圧電ポンプ11に戻ってくる。これを繰り返すことによりノートパソコン内で発生した熱を外部へ放出する。この液体冷媒は、放熱器13で最も低温となり放熱器13から圧電ポンプ11へ流入し吸熱器12へ流出される。」(段落【0037】) 上記記載事項及び図面の記載からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「吸熱器12及び放熱器13を含む電子機器の冷却システムの液体冷媒であり、水とエチレングリコールの混合物の液体からなることを特徴とする電子機器の冷却システムの液体冷媒。」 (2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、特開2002-189535号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 a.「【発明の属する技術分野】本発明は、液冷却システムに係わり、特に超小型・薄型構造に好適な液冷システムに関する。」(段落【0001】) b.「そこで、本発明は、超小型・薄型化した電子機器に用いられる高発熱の半導体装置等に好適な、腐食に伴う機器への影響を抑制してシステム全体の健全性を確保することができる液冷システムまた、それを用いたパーソナルコンピュータを提供することにある。」(段落【0011】) c.「……例えば、前記受熱ジャケットはアルミニウムを主成分とする材料を構成要素とし、前記放熱パイプはステンレス材料を構成要素とする。……また、耐食性は落ちる可能性があるが、上記観点では、他に受熱ジャケットにアルミニウムを主成分とする材料を構成要素とし、放熱パイプに銅を主成分とする材料を構成要素とすることも考えられる。」(段落【0014】) d.「または、前記受熱ジャケットはアルミニウムを主成分とする材料を構成要素とし、前記放熱パイプはアルミニウムを主成分とする材料を構成要素とすることも考えられる。なお、この場合は、アルミニウム系材料の腐食抑制剤を添加することが腐食抑制効果を高める観点では好ましい。」(段落【0017】) e.「……を有するパーソナルコンピュータであって、前記受熱ジャケットはアルミニウムを主成分とする材料を構成要素とし、前記放熱パイプはアルミニウムを主成分とする材料を構成要素とし、前記受熱ジャケットにおける前記冷却液流路から前記ジャケットの表面までの厚さは、前記放熱パイプにおける前記冷却流路から前記放熱パイプ表面までの厚さより厚く構成されているものである。」(段落【0019】) f.「……アルミニウムは、熱伝導性、加工性、軽量の観点から、受熱ジャケットの材質として適している。……」(段落【0025】) 上記記載事項及び図面の記載からみて、引用例2には、次の事項が記載されている。 「電子機器に用いられる液冷システムにおいて、受熱ジャケット、放熱パイプをアルミニウムを主成分とする材料で構成する点。」 3.対比 本願発明と引用発明と対比すると、引用発明における「吸熱器12及び放熱器13」は、その機能に照らし、本願発明における「熱交換器」に、同様に、引用発明における「電子機器の冷却システム」は、本願発明における「電子機器用冷却システム」に、引用発明における「水とエチレングリコールの混合物の液体」は、本願発明における「グリコール類水溶液」に、それぞれ相当する。 したがって、両者は、 「熱交換器を含む電子機器用冷却システムの液体冷媒であり、グリコール類水溶液からなることを特徴とする電子機器用冷却システムの液体冷媒。」 で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本願発明では、アルミニウム合金製の熱交換器を含む電子機器用冷却システムの液体冷媒であるのに対し、引用発明では、熱交換器を含む電子機器用冷却システムの液体冷媒であるが、この熱交換器の材料が不明な点。 [相違点2] グリコール類水溶液について、本願発明では、グリコール類濃度が5?60重量%であって溶存酸素濃度が0.5ppm以下であるのに対し、引用発明では、グリコール類濃度及び溶存酸素濃度が不明な点。 4.当審の判断 [相違点1]について 引用例2に記載された事項における「電子機器に用いられる液冷システム」は、本願発明における「電子機器用冷却システム」に相当し、引用例2に記載された事項における「受熱ジャケット、放熱パイプ」は、本願発明における「熱交換器」に相当する。また引用例2に記載された事項における「アルミニウムを主成分とする材料」は、「アルミニウム合金」を示すものと解される。したがって、引用例2には、「電子機器用冷却システムにおいて、熱交換器をアルミニウム合金で構成する点」が記載されている。 そして、熱交換器をアルミニウム合金で構成することは熱伝導性、加工性、軽量の観点から適している(引用例2の摘記事項f)のであるから、引用例2に記載の上記事項を引用発明に施し、熱交換器をアルミニウム合金製とする程度のことは、当業者が容易に想到し得たことである。 [相違点2]について 引用例1には、グリコール類濃度について記載されていない。しかしながら、冷却システムの液体冷媒としてグリコール類を選択する場合、選択されるグリコール類の「冷媒としての効果」、「冷媒流路内面での防食性能」、「液体冷媒が冷媒流路を流れる際の流動性、即ち冷媒の粘度」を考慮すべきことは当業者であれば自明のことであって、これら事項を考慮して、グリコール類濃度を最適な値にすることは、当業者の通常の創作能力にすぎず、かつ、グリコール類濃度を5?60重量%としたことによる臨界的意義も認められないことから、グリコール類濃度を5?60重量%と特定することは、当業者であれば容易に想到し得たことといわざるをえない。また、冷却システムの冷媒として液体冷媒を採用する場合、液体冷媒の溶存酸素濃度をできるだけ低減し、防食等を図ることも従来よく知られた周知の事項(例えば、特開昭59-18666号公報、特開平3-191274号公報、特開平8-83991号公報、特開2001-164244号公報参照)であるから、引用発明においても、液体冷媒の溶存酸素濃度をできるだけ低減し、防食等を図ることは当然に考慮される事項であり、またその際に液体冷媒の溶存酸素濃度をどの程度以下とするかは当業者の通常の創作能力にすぎず、かつ、溶存酸素濃度を0.5ppm以下としたことによる臨界的意義も認められないから、溶存酸素濃度を0.5ppm以下と特定することは、当業者であれば容易に想到し得たことといわざるをえない。 してみると、上記したように液体冷媒において当然に考慮されるべき事項に基づいて、グリコール類濃度が5?60重量%であって溶存酸素濃度を0.5ppm以下と特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明が奏する作用、効果は、引用発明及び引用例2に記載された事項、並びに周知の事項から容易に予測できたものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された事項、並びに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-01-25 |
結審通知日 | 2010-01-26 |
審決日 | 2010-02-08 |
出願番号 | 特願2003-34770(P2003-34770) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F25D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 槙原 進 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
清水 富夫 豊島 唯 |
発明の名称 | 電子機器用冷却システムの液体冷媒及びその充填方法並びに電子機器 |
代理人 | 中村 智廣 |
代理人 | 佐々木 一也 |
代理人 | 成瀬 勝夫 |