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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 D05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D05B
管理番号 1213958
審判番号 不服2008-936  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-11 
確定日 2010-03-25 
事件の表示 特願2002-139237「ミシンの上糸クランプ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月18日出願公開、特開2003-326063〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成14年5月14日に出願されたもので、平成19年8月3日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した明細書又は図面についての同年10月9日付け手続補正書が提出されたものの、同年12月4日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたもので、上記明細書又は図面についての平成20年2月8日付け手続補正書が提出され、その後、平成21年9月4日付け審尋が送付され、これに対し、同年10月30日付け回答書が提出されたものである。

2.原査定の理由
原査定の拒絶理由の1つは、以下のとおりのものと認める。

「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平4-24091号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

「特開平4-24091号公報」を、以下、「引用例」という。

3.当審の判断

3-1.平成20年2月8日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、以下に詳述するように、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3-1-1.本件補正の内容
本件補正は、以下の補正事項aを有するものと認める。

補正事項a;特許請求の範囲請求項1の記載を、以下のとおりに補正する。

「糸供給源から縫針にいたる糸経路上に配置され上糸に張力を付与する第1糸調子と、 前記第1糸調子の下流側の糸経路上に配置され、回転可能な押圧体に前記上糸が掛けられ該上糸に所望の張力を付与する第2糸調子としてのロータリーテンションと、
針棒上下動軌跡と交差可能な先端部を有し、作動時に前記先端部により糸切り後の縫針から導出する上糸端を捕捉するワイパーと、
前記ワイパーの作動時、その吸引口が前記ワイパーに対向するように配置された吸引ノズルと、前記吸引ノズルの前記吸引口に連通する負圧源と、前記上糸端を前記ワイパーで捕捉した後、前記負圧源を作動させて上糸端を前記吸引ノズル内に引き込み、前記上糸端を保持する保持機構とを備えたミシンの上糸クランプ装置において、
前記第2糸調子の下流側の糸経路上に配置され、往復動することにより前記上糸の引上げまたは下降する糸たぐり動作を行う糸たぐり機構を有し、
前記保持機構は、前記吸引ノズルと前記負圧源との間に接続されたクランプ部と、前記クランプ部の内部空間を移動可能なボールを備え、
糸切り後、前記内部空間内の前記ボールの移動によって前記クランプ部内で前記上糸端を保持した後、縫針の下降に伴って抵抗なく前記第2糸調子側から糸が繰り出されるように、縫製開始と略同時に前記第2糸調子が前記上糸への前記張力付与を所定の間だけ解除すると共に、一針目の縫い目を形成するのに必要な長さの上糸を繰り出すために、縫製開始と略同時に前記糸たぐり機構による糸たぐり動作をするように制御する制御手段を備えたことを特徴とするミシンの上糸クランプ装置。」

3-1-2.本件補正の適否
補正事項aによる補正後の請求項1に記載の発明(以下、「本件補正発明」という。)は、ミシンの上糸クランプ装置に係るものであるが、本件補正発明は、本件出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「本件当初明細書等」という。)に記載があったということはできない。

1)本件補正発明は、「縫針の下降に伴って抵抗なく前記第2糸調子側から糸が繰り出されるように、縫製開始と略同時に前記第2糸調子が前記上糸への前記張力付与を所定の間だけ解除すると共に、一針目の縫い目を形成するのに必要な長さの上糸を繰り出すために、縫製開始と略同時に前記糸たぐり機構による糸たぐり動作をするように制御する制御手段を備えた」と記載した事項を有する発明である。
そこで、上記事項を詳しく見ると、該事項における制御手段は、要するに、縫製開始と略同時に、第2糸調子が上糸への張力付与を所定の間だけ解除すると共に、糸たぐり機構による糸たぐり動作をするように、制御するものであるが、該制御手段は、本件当初明細書等に記載があったとはいえない。
この、本件当初明細書等に記載があったとはいえないことについては、請求人も、平成21年10月30日付け回答書において認めている。

2)また、本件補正発明は、「前記ワイパーの作動時、その吸引口が前記ワイパーに対向するように配置された吸引ノズルと、前記吸引ノズルの前記吸引口に連通する負圧源と、前記上糸端を前記ワイパーで捕捉した後、前記負圧源を作動させて上糸端を前記吸引ノズル内に引き込み、前記上糸端を保持する保持機構とを備えた」と記載した事項を有する発明である。
そこで、上記事項を詳しく見ると、該事項における吸引ノズルは、その吸引口がワイパーに対向するように配置されたものであって、その対向する部位が、ワイパーのいずれの部位であるかを問わないものである。その一方で、本件当初明細書等には、例えば、その【請求項3】には、「針棒上下動軌跡と交差可能な先端部を有し、前記先端部により糸切り後の縫針から導出する上糸端を捕捉可能なワイパーと、前記ワイパー作動時に前記ワイパーの前記先端部に対向する位置に吸引口を形成し、」と記載があり、吸引ノズルの吸引口が上記記載にあるとおりの「ワイパーの先端部」に対向するように配置されたものとして記載されていた、といい得るとしても、上記吸引口が、その対向する部位を問わないワイパーに対向するように配置されたものは、本件当初明細書等に記載があったとはいえない。
また、上記事項における保持機構は、上糸端をワイパーで捕捉した後、負圧源を作動させて上糸端を吸引ノズル内に引き込み、前記上糸端を保持するものであるが、この、捕捉した後に負圧源を作動させるような保持機構は、本件当初明細書等に記載があったとはいえない。

3)更に、本件補正発明は、「その吸引口が前記ワイパーに対向するように配置された吸引ノズルと、前記吸引ノズルの前記吸引口に連通する負圧源と、前記上糸端を前記ワイパーで捕捉した後、前記負圧源を作動させて上糸端を前記吸引ノズル内に引き込み、前記上糸端を保持する保持機構とを備えたミシンの上糸クランプ装置において」及び「前記保持機構は、前記吸引ノズルと前記負圧源との間に接続されたクランプ部と、前記クランプ部の内部空間を移動可能なボールを備え、糸切り後、前記内部空間内の前記ボールの移動によって前記クランプ部内で前記上糸端を保持し」と記載した事項を有する発明である。
そこで、上記事項を詳しく見ると、上記事項における保持機構は、少なくとも、ボールの座面、及びピストンロッドを有するクランプシリンダを有し、そして、ボールの移動によってクランプ部内で上糸端を保持する態様としては、上記ピストンロッドが伸張してボールを押圧することにより、上糸端をボールと座面との間に挟持して保持するものであるかを問わないものである。
その一方で、本件当初明細書等には、例えば、その段落【0021】には「開口部30cと内部空間30bとの連結部は、円錐形状とされて座面30eが形成されている。内部空間30bには、座面30eに対向してボール33が配設されている。ボール33は、内部空間30bに負圧が発生すると、内部空間30b内で浮遊できるようになっている。内部空間30bには、クランプシリンダ34が配設され、クランプシリンダ34のピストンロッド35は、ボール33に対向して配置されている。」との記載が、また、段落【0031】には「クランプシリンダ34のピストンロッド35は、伸張してボール33を押圧する。これにより、上糸端17aは、ボール33と座面30eとの間に挟持されて保持される。」との記載があることから、少なくとも、ボールの座面、及びピストンロッドを有するクランプシリンダを有し、そして、ボールの移動によってクランプ部内で上糸端を保持する態様としては、上記ピストンロッドが伸張してボールを押圧することにより、上糸端をボールと座面との間に挟持して保持する保持機構が記載されていた、といい得るとしても、上述したような、ピストンロッドを用いて保持するものであるかを問わない保持機構は、本件当初明細書等に記載があったとはいえない。

4)以上の検討を踏まえると、補正事項aは、新たな技術的事項を追加するものであって、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。
なお、本件補正前の請求項1に記載の発明は、「2)」の後半の「また、」で始まる部分と「3)」で述べたのと同趣旨の理由から、本件当初明細書等に記載があったとはいえないと判断され、平成19年10月9日付け手続補正書による手続補正に基づく、新たな拒絶理由、すなわち、同手続補正が特許法第17条の2第3項の規定に違反するという拒絶理由が生じていることを付記しておく。

3-1-3.まとめ
補正事項aを有する本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

3-2.原査定の拒絶理由について

3-2-1.本件の発明
本件補正は、先に「3-1」で述べたように却下すべきものであり、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件補正前の、願書に添付した明細書の請求項1に記載の事項により特定されるものであって、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。

「糸供給源から縫針にいたる糸経路上に配置され上糸に張力を付与する第1糸調子と、
前記糸経路上に配置され前記上糸に所望の張力を付与する第2糸調子と、
針棒上下動軌跡と交差可能な先端部を有し、作動時に前記先端部により糸切り後の縫針から導出する上糸端を捕捉するワイパーと、
前記ワイパーの作動時、その吸引口が前記ワイパーに対向するように配置された吸引ノズルと、前記吸引ノズルの前記吸引口に連通する負圧源と、前記上糸端を前記ワイパーで捕捉した後、前記負圧源を作動させて上糸端を前記吸引ノズル内に引き込み、前記上糸端を保持する保持機構とを備えたミシンの上糸クランプ装置において、
前記保持機構は、前記吸引ノズルと前記負圧源との間に接続されたクランプ部と、前記クランプ部の内部空間を移動可能なボールを備え、
前記内部空間内の前記ボールの移動によって前記クランプ部内で前記上糸端を保持した後、縫製開始と略同時に前記第2糸調子が前記上糸への前記張力付与を所定の間だけ解除するように制御する制御手段を備えたことを特徴とするミシンの上糸クランプ装置。」

3-2-2.引用例の記載
引用例には、以下の記載が認められる。

A;「〔産業上の利用分野〕
本発明は自動糸切り機構付きミシンに関し、特に縫製開始直後の針下位置で縫製を中断させたときでも、縫製終了時に切断された上糸の端部を上糸端部保持機構の糸保持部材で継続して保持させ得るようにしたものに関する。」(1頁右下欄末行?2頁左上欄5行)
B;「糸緩めソレノイド20に通電されていないときにはカム従動軸15Aがカム部17の段落ち部に当接して糸調子軸15を前方へ押動しないので、可動糸調子皿12とバネ回動規制部材155とは第2図に実線で示す押圧力付与位置に保持され、上糸Nsには調節ノブ14で調節された抵抗力が付加されている。しかし、糸緩めソレノイド20に通電されると連杆19が第1図にて右方へ移動しカム板16が時計方向に回転され、カム従動軸15Aはカム部17の作動部により押されて糸調子軸15を前方へ押動するので、可動糸調子皿12は張力解放位置にまたバネ回動規制部材155は前進位置に移動し、可動糸調子皿12は固定糸調子皿11から所定距離離間して上糸Nsに付加される抵抗力が解除される。」(4頁右下欄9行?5頁左上欄3行)
C;「次に、ミシンMの制御装置Cで行なわれる上糸処理制御のルーチンについて第11図のフローチャートに基いて、第12図?第16図を参照しながら説明する。但し、説明を理解し易いように、足踏みペダル123が前踏み位置に踏込まれてS1?S18が実行され、一連の縫製動作の実行中から説明する。尚、図中Si(i=1、2、3・・)は各ステップであり、第12図のT1?T11は夫々タイミングを示す。
・・・(審決注;「・・・」は、記載の省略を示す。以下、同様。)。従って、糸保持部材100だけが糸捕捉位置に移動して縫針24の目孔25から延びる上糸Nsの糸端部をフック部101で捕捉した状態で再度糸保持位置に移動復帰し、保持力付与部材97の糸押え部98と協働してこの上糸端部が保持される。その後、第1ソレノイド59の駆動が停止するT5のときに、糸緩めソレノイド20の駆動も停止される(S29)。
・・・。
そして、縫製を開始するために、T6のときに足踏みペダル123を操作して前踏み位置に踏み込まれたとき(踏込み信号が「H」レベル)には(S2:Yes)、制御装置C内に設けられた第1タイマM1に所定時間t1(例えば、100msec)が格納されてカウントが開始され(S3)、所定時間t1が経過したT7のときに(S4:Yes)、ミシンモータ駆動信号によりミシンモータ115が低速で駆動され(S5)、設定された糸緩め設定パルス数データNがカウンタIに格納され(S6)、糸緩めソレノイド20が駆動され(S7)、停止指令信号の入力が無く且つ針下信号発生器125から最初の針下信号が入力されたときには(S8:No、S9:Yes)、設定された上糸解放設定パルス数データMがカウンタJに格納され(S10)、パルス信号が入力される毎に両カウント値I・Jが夫々1つデクリメントされ(S11:YesS12)、カウント値Jが「0」になったT8のとき、例えば縫針24が最上位置から下降して上糸Nsのループが形成され上糸Nsと下糸Bsとの交絡(結節)が形成されたとき(S13:Yes)、上動ソレノイド55が所定時間(例えば、60msec)駆動される(S14)。このとき、糸保持部材100と保持力付与部材97とが第16図に示す糸保持位置から第14図の待機位置への移動開始直後の糸保持部材100の解放位置(第15図参照)のときに上糸端部が解放される。その後、カウント値Iが「0」になったT9のとき、例えば数針分の縫製が実行されて上糸Nsと下糸Bsとが確実に交絡した状態のとき(S15:Yes、S16、S17:Yes)、糸緩めソレノイド20の駆動が停止され且つミシンモータ115が高速で駆動され(S18)、縫製が連続して続行される。」(8頁右下欄下から5行?10頁左上欄13行)並びに、第2図及び第12図
D;「図面は本発明の実施例を示すもので、第1図は一部を切欠いて示したミシンのアーム部の正面図、」(10頁右下欄下から4?3行)及び第1図

3-2-3.引用例の発明
引用例には、記載Aによれば、縫製終了時に切断された上糸端部を上糸端部保持機構の糸保持部材で継続して保持させ得るようにした自動糸切り機構付きミシンについての発明が記載されているものと認められ、この発明は、上糸端部を保持する保持機構とを備えた自動糸切り機構付きミシンの上糸クランプ装置の発明ともいうことができるものである。
そして、上記発明に関する記載であることが明らかな記載Dには、特に、その第1図の図面符号「8」で引き出される図面部分のすぐ右にある装置部材様の記載が認められ、この記載を見れば、上記発明の自動糸切り機構付きミシンが、糸供給源から縫針24にいたる糸経路上に配置され上糸に張力を付与する糸調子(以下、この糸調子を「第1図糸調子」という。)を備えることは、当業者であれば、普通に理解できるものである。
また、同じく記載Cには、糸調子機構1、糸保持部材100と保持力付与部材97からなる上糸端部を保持する装置部が記載されていると認められ、糸調子機構1が上記糸経路上に配置されるものであることは明らかで、該糸調子機構1は、記載B及び記載Cによれば、上糸に抵抗力を付加したり、抵抗力を解除したりする機能を有するもので、該抵抗力が張力といい得ることは明らかである。そして、上記記載B及び記載Cの、特に、記載Cの「糸保持部材100だけが糸捕捉位置に移動して縫針24の目孔25から延びる上糸Nsの糸端部をフック部101で捕捉した状態で再度糸保持位置に移動復帰し、保持力付与部材97の糸押え部98と協働してこの上糸端部が保持される。」及び「縫製を開始するために、T6のときに足踏みペダル123を操作して前踏み位置に踏み込まれたとき(踏込み信号が「H」レベル)には(S2:Yes)、・・・、ミシンモータ駆動信号によりミシンモータ115が低速で駆動され(S5)、・・・、糸緩めソレノイド20が駆動され(S7)、・・・、例えば縫針24が最上位置から下降して上糸Nsのループが形成され上糸Nsと下糸Bsとの交絡(結節)が形成されたとき(S13:Yes)、上動ソレノイド55が所定時間(例えば、60msec)駆動される(S14)。このとき、糸保持部材100と保持力付与部材97とが第16図に示す糸保持位置から第14図の待機位置への移動開始直後の糸保持部材100の解放位置(第15図参照)のときに上糸端部が解放される。その後、・・・、例えば数針分の縫製が実行されて上糸Nsと下糸Bsとが確実に交絡した状態のとき(S15:Yes、S16、S17:Yes)、糸緩めソレノイド20の駆動が停止され且つミシンモータ115が高速で駆動され(S18)、縫製が連続して続行される。」の記載を参照すると、上述した上糸端部を保持する装置部が上糸端部を保持した後、縫製開始と略同時に上述した糸調子機構1が上糸への張力付与を所定の間だけ解除するように制御されていることが見て取れ、このように制御する制御手段を上記発明が有しているものと認められる。

してみると、引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

「糸供給源から縫針24にいたる糸経路上に配置され上糸に張力を付与する第1図糸調子と、
前記糸経路上に配置され前記上糸に所望の張力を付与する糸調子機構1と、
上糸端部を保持する装置部とを備えた自動糸切り機構付きミシンの上糸クランプ装置において、
前記の上糸端部を保持する装置部が、上糸端部を保持した後、縫製開始と略同時に上記糸調子機構1が上糸への張力付与を所定の間だけ解除するように制御する制御手段を備えた、上糸クランプ装置。」についての発明

3-2-4.対比判断

1)本件発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「上糸端部を保持する装置部」は、本件発明の「ワイパーと保持機構」に対応し、両者発明は、
「糸供給源から縫針にいたる糸経路上に配置され上糸に張力を付与する第1糸調子と、
前記糸経路上に配置され前記上糸に所望の張力を付与する第2糸調子と、
上糸端を保持する保持機構とを備えたミシンの上糸クランプ装置において、
前記保持機構は、前記上糸端を保持した後、縫製開始と略同時に前記第2糸調子が前記上糸への前記張力付与を所定の間だけ解除するように制御する制御手段を備えた、ミシンの上糸クランプ装置。」である点で一致し、

以下の点において相違していると認められる。

相違点A;本件発明は、「針棒上下動軌跡と交差可能な先端部を有し、作動時に前記先端部により糸切り後の縫針から導出する上糸端を捕捉するワイパーと、前記ワイパーの作動時、その吸引口が前記ワイパーに対向するように配置された吸引ノズルと、前記吸引ノズルの前記吸引口に連通する負圧源と、前記上糸端を前記ワイパーで捕捉した後、前記負圧源を作動させて上糸端を前記吸引ノズル内に引き込み、前記上糸端を保持する保持機構とを備え」ており、「前記保持機構は、前記吸引ノズルと前記負圧源との間に接続されたクランプ部と、前記クランプ部の内部空間を移動可能なボールを備え、前記内部空間内の前記ボールの移動によって前記クランプ部内で前記上糸端を保持」するよう構成されている点。

2)相違点Aについて検討する。
ミシンにおいて、針棒上下動軌跡と交差可能な先端部を有し、作動時に前記先端部により糸切り後の縫針から導出する上糸端部を捕捉するワイパーと、該ワイパーの作動時、その吸引口が該ワイパーに対向するように配置された吸引ノズルと、該吸引ノズルの前記吸引口に連通する負圧源と、前記上糸端部を前記ワイパーで捕捉した後、上糸端部を、前記負圧源の作動により、前記吸引ノズル内に引き込み、前記上糸端部を保持する装置部とを備え、該装置部は、前記吸引ノズルと前記負圧源との間に接続されたクランプ部と、該クランプ部の内部空間を移動可能なボールを備え、該内部空間内の前記ボールの移動によって前記クランプ部内で前記上糸端部を保持するよう構成されているミシンは、この出願前、周知であると認められ(実願平5-69949号(実開平7-37063号)のCD-ROMの段落【0005】、【0006】や第3図、特開平9-299665号公報の段落【0050】?【0052】及び【図1】を参照。)、該周知の技術を、引用発明の上糸端部を保持する装置部に代えて適用することは、該周知の技術が上糸端部を保持するためのものであることから、容易に想到し得るものである。
また、引用発明に上記周知の技術を適用するに際して、上糸端部をワイパーで捕捉した後に負圧源を作動させることも、上糸端部を吸引ノズル内に引き込んでこれを保持するのは、上糸端部をワイパーで捕捉した後に必要なことであることから、やはり、容易に想到し得るものである。
してみると、相違点Aは、容易に為し得るものである。

3-2-5.まとめ
本件発明は、引用発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、原査定の拒絶理由は、相当である。

4.結び
原査定は、妥当である。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-20 
結審通知日 2010-01-26 
審決日 2010-02-08 
出願番号 特願2002-139237(P2002-139237)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D05B)
P 1 8・ 561- Z (D05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西藤 直人  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 佐野 健治
豊島 ひろみ
発明の名称 ミシンの上糸クランプ装置  
代理人 内藤 照雄  

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