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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 E05C
管理番号 1213970
審判番号 不服2008-18820  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-24 
確定日 2010-03-25 
事件の表示 特願2003-125074「ラッチ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日出願公開,特開2004-332219〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成15年4月30日の出願であって,平成20年6月12日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月24日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに,平成20年8月25日付けで手続補正がなされたものであって,その後,当審において,平成21年8月10日付けで審査官による前置報告書の内容を提示するとともに請求人の意見を求める審尋を行ったところ,同年10月9日付けで回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は,平成20年8月25日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。

(本願発明)
「一方の部材を他方の部材に係脱自在に係留するためのものであって、
前記一方の部材に固定されるラッチ本体と、
前記他方の部材に設けられるラッチ受けに設定された係留部に係合して該ラッチ受けに前記ラッチ本体を掛け止める展開位置と係留部に係合せずラッチ受けよりラッチ本体が脱離することを許容する退避位置との間で変位可能であるようにラッチ本体に支持された可動子と、
所定の操作体に対する操作に連動して前記可動子を変位させる駆動機構とを具備し、
前記ラッチ本体を前記ラッチ受けに対して接近する方向に相対移動させ、該ラッチ本体を前記係留部よりもその接近移動方向に向かって先方に位置づけながら係留部に臨ませた上、前記可動子を展開位置とすることで、可動子を介してラッチ受けにラッチ本体を掛け止めることができるラッチ装置。」

3.刊行物に記載された事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願日より前に頒布された刊行物である特開平10-212850号公報(以下「刊行物1」という。)には,次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】 錠本体(1)とラッチ受け(2)とからなり、前記錠本体(1)は、シリンダー(3)に横軸(4)を支点として下方に下がった施錠位置と上方に上がった解除位置とに揺動するラッチ(5)と、該ラッチ(5)を常時施錠位置に強制するスプリング(6)とを備え、前記ラッチ(5)の先端部分がシリンダー(3)の端面開口部(7)から露出されており、このラッチの露出した部分の周辺を取り囲む凹面状のカップケース(8)がシリンダー開口面に固定されており、前記ラッチ受け(8)(当審注:(2)の誤記。)は取付け基板(9)から突出した膨出部(10)にに設けられたラッチ受入れ用の係合凹部(11)を備え、少なくとも前記基板(9)から突出した膨出部(10)が前記錠本体のカップケース(8)に嵌り込むことができる寸法に形成されており、更に前記ラッチ(5)が、引き手レバーによって解除位置に駆動できるように形成されている、引き戸用錠。
【請求項2】 前記ラッチ(5)の後部にカム(12)が配置され、該カム(12)は引き手(14)のレバー(15)から突出された突起(16)に係合してレバー(15)をスライドさせることにより角軸(13)と共に回動すべく構成され、該カム(12)の先端が前記ラッチ(5)の後部に揺動可能にリンクされている請求項1に記載の引き戸用錠。・・・」(【特許請求の範囲】)
(1b)「【発明の属する技術分野】本発明は、引き戸に使用される錠に関するもので、一般に鎌錠と呼ばれるタイプの錠に関する。
【従来の技術】従来、前記したタイプの引き戸用錠は、ラッチ先端が引き戸先端面から突出していて、引き戸搬送時や組立作業時に隣接する部材に当たって錠機能を損傷したり、あるいは他の引き戸をラッチのよって傷つけたりすることがあった。」(【0001】,【0002】)
(1c)「【発明の実施の形態】以下、本発明の構成を図1?図3に示した実施例に基ずき説明する。この錠は引き戸Aに取り付けられる錠本体1と、框Bに取り付けられるラッチ受け2とからなる。前記錠本体1は、一端が開口したシリンダー3に横軸4を支点として図1に示す下方に下がった施錠位置と図2で示す上方に上がった解除位置とに揺動するラッチ5と、該ラッチ5を常時施錠位置に強制するスプリング6とを備えている。
而して前記ラッチ5の先端部分がシリンダー3の端面開口部7から露出されており、このラッチの露出した部分の周辺を取り囲む凹面状のカップケース8がシリンダー開口面に固定されている。前記ラッチ5の後部の顎部5bにはカム12の一片12aが揺動自在にリンクされている。該カム12は引き戸Aの側面に取り付けられる引き手14のレバー15から突出した突起16に係合しており、レバー15を図の矢印方向にスライドさせることによりバネ受け18を介してスプリング6を圧縮させながら角軸13と共に回動すべく構成され、該カム12の回動によりラッチ5を解除位置に揺動させる構造となっている。またレバー15への押圧力を解除するとスプリング6の力によりラッチ5が図1の施錠位置に復帰する。
一方、前記ラッチ受け8は取付け基板9から突出した膨出部10に設けられたラッチ受入れ用の係合凹部11を備え、少なくとも前記膨出部10が前記錠本体のカップケース8に嵌り込むことができる寸法に形成されている。」(【0008】?【0010】)
(1d)【図1】及び【図2】には,錠本体(1)のシリンダー(3)に備えられたラッチ(5)が,ラッチ受け(2)の係合凹部(11)に係合してラッチ受け(2)と錠本体(1)とを固定する施錠位置と,係合凹部(11)に係合せずラッチ受け(2)と錠本体(1)とが離間することを許容する解除位置との間で変位可能であること,が示されている。
(1e)【図1】及び【図2】には,錠本体(1)をラッチ受け(2)に対して接近する方向に相対移動させ,ラッチ(5)を施錠位置とすることで,ラッチ(5)を介してラッチ受け(2)と錠本体(1)とを固定することができること,が示されている。

そして,上記記載事項(1a)ないし(1d)に記載された内容及び当業者の技術常識を総合すると,刊行物1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明)
「引き戸(A)に取り付けられる錠本体(1)と,框(B)に取り付けられるラッチ受け(2)とを具備し,
引き戸(A)に取り付けられる錠本体(1)は,シリンダー(3)と,カップケース(8)と,ラッチ受け(2)の係合凹部(11)に係合してラッチ受け(2)と錠本体(1)とを固定する施錠位置と係合凹部(11)に係合せずラッチ受け(2)と錠本体(1)とが離間することを許容する解除位置との間で変位可能であるように錠本体(1)のシリンダー(3)に備えられたラッチ(5)と,引き手(14)のレバー(15)をスライドさせることによりラッチ(5)を揺動させるカム(12)とを備え,ラッチ(5)の先端部分がシリンダー(3)の端面開口部(7)から露出されており,このラッチの露出した部分の周辺を取り囲む凹面状のカップケース(8)がシリンダー(3)の開口面に固定されており,
框(B)に取り付けられるラッチ受け(2)は取付け基板(9)から突出した膨出部(10)に設けられたラッチ(5)受入れ用の係合凹部(11)を備え,基板(9)から突出した膨出部(10)が錠本体(1)のカップケース(8)に嵌り込むことができる寸法に形成されており,
錠本体(1)をラッチ受け(2)に対して接近する方向に相対移動させ,ラッチ(5)を施錠位置とすることで,ラッチ(5)を介してラッチ受け(2)と錠本体(1)とを固定することができる,引き戸用錠。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「引き戸(A)」は,本願発明の「一方の部材」に,以下同様に,「框(B)」は「他方の部材」に,「錠本体(1),錠本体(1)のシリンダー(3),及び錠本体(1)のカップケース(8)」は「ラッチ本体」に,「ラッチ受け(2)」は「ラッチ受け」に,「係合凹部(11)」は「係留部」に,「ラッチ(5)」は「可動子」に,「引き手(14)のレバー(15)」は「所定の操作体」に,「カム(12)」は「駆動機構」に,「引き戸用錠」は「ラッチ装置」に,それぞれ相当する。

また,本願発明における「(可動子の)展開位置」及び「(可動子の)退避位置」とは,本願の明細書を参酌しても,可動子とラッチ本体との位置関係において定義されたものではないため,例えば,「(可動子が)ラッチ本体から突出した状態」や,「(可動子が)ラッチ本体に収納された状態」のような特定の状態を意味するものではなく,単に,可動子が係留部に係合した状態や,可動子が係留部に係合しない状態を意図したものと解釈せざるを得ず,同様に,本願発明における「ラッチ受けにラッチ本体を掛け止める」及び「ラッチ受けよりラッチ本体が脱離可能となる」という構成は,本願の明細書を参酌しても,例えば,ラッチ受けがラッチ本体に対応した形状の凹部を有することによりラッチ受けに対してラッチ本体がぴったり嵌り込んだような特定の状態を意味するものではなく,単に,可動子が係留部に係合することにより必然的に生じるラッチ受けにラッチ本体が係止された状態や,可動子が係留部に係合しないことにより必然的に生じるラッチ受けにラッチ本体が係止されない状態を意図したものと解釈せざるを得ない。
そうすると,引用発明の「ラッチ受け(2)と錠本体(1)とを固定する施錠位置」及び「ラッチ受け(2)と錠本体(1)とが離間することを許容する解除位置」は,本願発明の「ラッチ受けにラッチ本体を掛け止める展開位置」及び「ラッチ受けよりラッチ本体が脱離することを許容する退避位置」に相当する。

また,引用発明の「引き戸用錠」が「引き戸(A)」を「框(B)」に係脱自在に係留するためのものであること,すなわち,一方の部材を他方の部材に係脱自在に係留するためのものであること,は明らかである。

してみれば,両者は,
「一方の部材を他方の部材に係脱自在に係留するためのものであって,
一方の部材に固定されるラッチ本体と,
他方の部材に設けられるラッチ受けに設定された係留部に係合して該ラッチ受けにラッチ本体を掛け止める展開位置と係留部に係合せずラッチ受けよりラッチ本体が脱離することを許容する退避位置との間で変位可能であるようにラッチ本体に支持された可動子と,
所定の操作体に対する操作に連動して可動子を変位させる駆動機構とを具備し,
ラッチ本体をラッチ受けに対して接近する方向に相対移動させ,可動子を展開位置とすることで,可動子を介してラッチ受けにラッチ本体を掛け止めることができるラッチ装置。」である点で一致し,次の点で,一応相違する。

<相違点>
可動子を展開位置とする場合のラッチ本体と係留部の位置関係が,本願発明は「ラッチ本体を係留部よりもその接近移動方向に向かって先方に位置づけながら係留部に臨ませた」状態であるのに対し,引用発明は「ラッチ受け(2)は取付け基板(9)から突出した膨出部(10)に設けられたラッチ(5)受入れ用の係合凹部(11)を備え,基板(9)から突出した膨出部(10)が錠本体(1)のカップケース(8)に嵌り込むことができる寸法に形成」されている点。

5.判断
上記相違点について検討する。引用発明において,ラッチ受け(2)は取付け基板(9)から突出した膨出部(10)に設けられたラッチ(5)受入れ用の係合凹部(11)を備え,基板(9)から突出した膨出部(10)が錠本体(1)のカップケース(8)に嵌り込むことができる寸法に形成されている。そうすると,引用発明において,ラッチ(5)を展開位置とする場合には,錠本体(1)のカップケース(8)に,ラッチ受け(2)の膨出部(10)が嵌り込むことにより,錠本体(1)のカップケース(8)は,係合凹部(11)よりも接近移動方向に向かって先方に位置づけられることとなり,同時に,膨出部(1)に設けられた係合凹部(11)は,錠本体(1)のカップケース(8)に面する,すなわち,臨むようになることは明らかである。
そうすると,引用発明においても,可動子(ラッチ(5))を展開位置とする場合には,ラッチ本体(錠本体(1)のカップケース(8))を係留部(係合凹部(11))よりもその接近移動方向に向かって先方に位置づけながら係留部(係合凹部(11))に臨ませた状態となるのであるから,この点において,本願発明と引用発明とは相違しない。

したがって,本願発明は引用発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

なお,念のため,本願発明の作用効果についても検討を行う。本願の明細書の段落【0009】には「・・・ラッチ受けに掛け止められるラッチを、可動子と可動子を変位可能に支持するラッチ本体という複数要素の組み合わせとして構成し、ラッチ受けへの係合またはその解除切り替えの役割と、ラッチ受けに対する位置づけの役割とを分担させることとした。・・・可動子とラッチ本体とに機能を分けたことで、ラッチ受けにラッチを掛け止めたときの遊び、がたつきを極小にするような設計を行うことが可能となる。・・・」と記載されており,本願は,ラッチ受けにラッチ本体を掛け止めることによりラッチ受けに対してラッチ本体を位置づけするという「(ア)位置決め機能」と,可動子を変位させることによりラッチ受けに対してラッチ本体を係合または解除するという「(イ)係脱機能」とを,別途設けることにより,ラッチ受けとラッチ本体との遊びやがたつきを抑制することを課題の一つとしたものと解される。
一方,引用発明は,ラッチ受け(2)の基板(9)から突出した膨出部(10)が錠本体(1)のカップケース(8)に嵌り込むことができる寸法に形成された構成を有しており,特に,明細書の【図1】及び【図2】を参酌すれば,ラッチ受け(2)の膨出部(10)が,錠本体(1)のカップケース(8)に当接することにより,錠本体(1)がラッチ受け(2)に対して接近する方向において位置決めされるようになっているから,引用発明も上記「(ア)位置決め機能」を有しているものといえる。また,引用発明のラッチ(5)は係合凹部(11)に係合するのであるから,引用発明が上記「(イ)係脱機能」を有していることは明らかである。
そうすると,本願発明の作用効果は,引用発明の作用効果と同じである。

6.むすび
したがって,本願発明は引用発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-22 
結審通知日 2010-01-26 
審決日 2010-02-08 
出願番号 特願2003-125074(P2003-125074)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (E05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住田 秀弘▲高▼木 尚哉引地 麻由子  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 神 悦彦
関根 裕
発明の名称 ラッチ装置  
代理人 赤澤 一博  

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