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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1213978
審判番号 不服2008-22558  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-03 
確定日 2010-03-25 
事件の表示 特願2002-197323「フェルール」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月 5日出願公開、特開2004- 38005〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願手続の概要は、次のとおりである。
特許出願 平成14年 7月 5日
拒絶理由通知発送 平成19年 8月21日
意見書・手続補正書提出 平成19年10月19日
拒絶理由通知発送 平成20年 2月19日
意見書提出 平成20年 4月14日
拒絶理由通知発送 平成20年 5月13日
意見書・手続補正書提出 平成20年 7月10日
当該補正の却下の決定 平成20年 8月 1日
拒絶査定謄本発送 平成20年 8月 5日
審判請求 平成20年 9月 3日
手続補正書提出 平成20年10月 1日

II.平成20年10月1日付け手続補正についての補正却下の決定
[I]補正却下の決定の結論
平成20年10月1日付け手続補正を却下する。

[II]理由
1.本件補正の内容
平成20年10月1日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1を
「【請求項1】
外筒をなす金属製のインサートパイプ内に、軸心部にファイバー装着孔を有する樹脂成形部を一体成形され、前記インサートパイプの後端外周に環状溝による係止部を形成されたフェルール本体と、
前記フェルール本体の前記ファイバー装着孔と連続するファイバー装着孔を軸心部に有し、前記フェルール本体の後端側に樹脂成形された筒状のベース部とにより構成され、
前記ベース部は、前記インサートパイプの前記係止部と、前記インサートパイプの後端側から外方に突出した前記樹脂成形部の後端外周を被覆する態様で、前記フェルール本体の樹脂成形部と一体接合されていることを特徴としたフェルール。」と補正することを含むものであって、平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「平成14年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められるので、以下に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について独立特許要件の検討を行う。

2.刊行物
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-21928号公報(以下「刊行物1」という。)には、図とともに次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光ファイバの端部に取り付けられて光ファイバ同士の接続に使用される単心光コネクタ用フェルールに関するものである。」
「【0011】
【実施例】以下に本発明を実施例により詳細に説明する。図1は、本発明のフェルールを鍔部に組み込んだ単心光コネクタ10の一実施例を示す断面図である。単心光コネクタ10は、先端部のフェルール20とこのフェルール20の後部に連なる鍔部30とを備えている。先端部のフェルール20は、後述する円筒部スリーブ22の外周の軸心に光ファイバ挿入孔21を有している。フェルール20の外周部を構成する円筒部スリーブ22は、例えばセラミックス製の円筒スリーブ22からなっていて、その内部にはプラスチック樹脂23が充填され、かつその軸心に前述したように光ファイバ挿入孔21が設けられている。円筒スリーブ22とプラスチック樹脂23とはインサート成形により一体的に形成されている。円筒スリーブ22の先端部の外面はフェルール20の前方に向かって縮径するテーパ状になっていて、この先端部はプラスチック樹脂23内に埋設されている。
【0012】また、鍔部30に連結する円筒スリーブ22の後端部にあっては、円筒スリーブ22の後端部がプラスチック樹脂23により覆われていて、円筒スリーブ22の先端部と後端面及び内部がプラスチック樹脂23により囲まれた状態となっている。フェルール20の外周と光ファイバ挿入孔21とは同心となっている。言い換えるとそれらの中心軸は一致した状態になっている。
【0013】単心光コネクタ10の鍔部30には、その軸心に光ファイバ心線を挿入する光ファイバ心線挿入孔31が設けられていて、その光ファイバ心線挿入孔31はフェルール20に設けられている光ファイバ挿通孔24を経て光ファイバ挿入孔21に連通している。この、鍔部30は、例えばプラスチック樹脂で形成されたもので、鍔部30の凹部32にフェルール20の後端が嵌め込まれて連結されている。」
「【0018】…なお、上記実施例において、円筒スリーブはセラミックス製のものが使用されたが、円筒スリーブはセラミックス製に限らず他の剛性部材である金属やガラス等を使用しても上記実施例と同様の性能が得られる。
【0019】
【発明の効果】以上述べたように、本発明の請求項1の単心光コネクタ用フェルールによれば、フェルールはセラミックス、金属またはガラスで構成されている円筒スリーブをインサート成形したプラスチック樹脂で形成されているので、全体がプラスチック樹脂成形体だけでできているものに比べて充分な強度を有している。」

以上の記載によれば、刊行物1には、
「先端部のフェルール20とこのフェルール20の後部に連なる鍔部30とを備えている単心光コネクタ10であって、
フェルール20の外周部を構成する円筒部スリーブ22は、その内部にプラスチック樹脂23が充填され、その軸心には光ファイバ挿入孔21がフェルール20の外周と同心となるように設けられ、円筒スリーブ22とプラスチック樹脂23とはインサート成形により一体的に形成されており、
鍔部30に連結する円筒スリーブ22の後端部にあっては、円筒スリーブ22の後端部がプラスチック樹脂23により覆われていて、円筒スリーブ22の先端部と後端面及び内部がプラスチック樹脂23により囲まれた状態となっており、
鍔部30には、その軸心に光ファイバ心線を挿入する光ファイバ心線挿入孔31が設けられていて、その光ファイバ心線挿入孔31はフェルール20に設けられている光ファイバ挿通孔24を経て光ファイバ挿入孔21に連通しており、
鍔部30は、プラスチック樹脂で形成され、鍔部30の凹部32にフェルール20の後端が嵌め込まれて連結されており、
円筒部スリーブ22は金属で構成されている単心光コネクタ10。」の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2
原審における平成20年8月1日付け補正の却下の決定において引用された特開2000-147320号公報(以下「刊行物2」という。)には、図とともに次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光ファイバを接続するために用いられる光コネクタ(光ファイバコネクタともいう)のフェルールに関し、さらに詳しくはそのフランジ部材が合成樹脂製のフェルールに関する。本発明はまた、このようなフェルールを製造するための方法及び装置にも関する。」
「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の光コネクタ用フェルールの第一の特徴は、フランジ部材の材料を従来一般に用いられているステンレス鋼から合成樹脂に変更すると共に、キャピラリー部材とフランジ部材の取付態様を、従来の圧入方式からインモールド成形方式に変更し、フランジ部材の成形とキャピラリー部材への接合を単一工程で同時に行うことにある。これにより、フェルールの生産性を上げることができると共に、大幅な製造コストダウンを図ることができる。但し、キャピラリー部材とフランジ部材の接合強度の問題は、インモールド成形方式の採用だけでは解決できない。
【0014】そこで、本発明の第二の特徴は、キャピラリー部材とフランジ部材の接合部分の所定位置に、互いに係合状態を形成するような構造の係合部、例えば、キャピラリー部材の接合部外周面に溝等の凹部及び/又は凸部を、フランジ部材の接合部内周面に、上記凹部内に突出するような凸部及び/又は上記凸部外周を被覆するような凹部を形成した点にある。このような係合態様は、予め接合部外周面に凹部及び/又は凸部を形成したキャピラリー部材を用いたインモールド成形方式により容易に達成される。すなわち、フランジ部材の成形の際に合成樹脂材料が上記キャピラリー部材の凹部内に充填され、又は凸部を被覆し、フランジ部材の成形と同時に、上記係合部を介して充分な接合強度でキャピラリー部材と一体的に接合されたフェルールが得られる。上記係合部は、キャピラリー部材をフランジ部材から引き抜く力に充分に抗することができ、JISで要求される10kg以上の高い引抜強度を示す。」
「【0016】
【実施例】以下、添付図面に示す実施例を説明しつつ本発明について詳細に説明する。図4は、本発明に係る光コネクタ用フェルールの一実施例を示している。このフェルール10aは、光ファイバ挿通孔13を有するキャピラリー部材11aと光ファイバ心線挿通孔14を有するフランジ部材12aとからなることは従来のフェルールと同様であるが、フランジ部材12aは後述するようなインモールド方式により合成樹脂から成形されている点において異なる。また、キャピラリー部材11aのフランジ部材12aとの接合部側の端部外周面には、係合部として予め断面半円形状の溝18(凹部)が形成されており、フランジ部材12aの成形の際に合成樹脂材料がこの溝18内に充填されて突条19(凸部)が形成されるので、成形されたフランジ部材12aは充分な接合強度でキャピラリー部材11aに結合される。従って、JISに規定される12kg以上の引抜強度を示し、アダプタハウジングからフェルール10aを引き抜く際に、キャピラリー部材11aとフランジ部材12aとの間に作用する引抜力に対抗する実用的に充分な強度を有する。
【0017】…。また、キャピラリー部材11aの材料としては、セラミックス、金属、非晶質合金など従来公知のものを使用できるが、特にジルコニア製のものを好適に用いることができる。」
「【0021】図8は、図4に示すフェルールのキャピラリー部材とフランジ部材の係合部の変形例を示している。このフェルール10bにおいては、キャピラリー部材11bに形成された溝18b及び該溝18bと係合しているフランジ部材12bの突条19bは、図4に示すフェルールよりもさらに接合強度が向上するように、断面略正方形状に形成されている。但し、ダイヤモンド砥石による溝加工の関係から、溝18の底面両側縁は丸みを有するものとなる。なお、図4及び図8に示すフェルール10a、10bにおいては、キャピラリー部材11a、11bの溝18、18b(及び該溝と係合するフランジ部材12a、12bの突条19、19b)は、キャピラリー部材11a、11bの全周に亘って延在しているが、充分な引抜強度さえ得られれば断続的に存在してもよい。」

3.対比
本願補正発明と刊行物1発明を対比する。
(1)刊行物1発明の「フェルール20」、「鍔部30」及び「単心光コネクタ10」がそれぞれ本願補正発明の「フェルール本体」、「ベース部」及び「フェルール」に対応するところである。
(2)そして、刊行物1発明の「円筒部スリーブ22」は、「フェルール20の外周部を構成する」とともに「金属で構成されている」から、本願補正発明の「外筒をなす金属製のインサートパイプ」に相当する。
また、刊行物1発明の「光ファイバ挿入孔21」が本願補正発明の「ファイバー装着孔」に相当するところであり、刊行物1発明の「プラスチック樹脂23」は、「その軸心には光ファイバ挿入孔21がフェルール20の外周と同心となるように設けられ、円筒スリーブ22とプラスチック樹脂23とはインサート成形により一体的に形成されて」いるから、本願補正発明の「軸心部にファイバー装着孔を有する樹脂成形部」に相当する。
したがって、刊行物1発明の「フェルール20」と本願補正発明の「フェルール本体」は、「外筒をなす金属製のインサートパイプ内に、軸心部にファイバー装着孔を有する樹脂成形部を一体成形されたフェルール本体」である点で一致する。
(3)また、刊行物1発明の「鍔部30」は、「プラスチック樹脂で形成され、鍔部30の凹部32にフェルール20の後端が嵌め込まれて連結されており」、また、「その軸心に光ファイバ心線を挿入する光ファイバ心線挿入孔31が設けられていて、その光ファイバ心線挿入孔31はフェルール20に設けられている光ファイバ挿通孔24を経て光ファイバ挿入孔21に連通して」いるから、本願補正発明の「前記フェルール本体の前記ファイバー装着孔と連続するファイバー装着孔を軸心部に有し、前記フェルール本体の後端側に樹脂成形された筒状のベース部」に相当する。
(4)また、刊行物1発明は、「円筒スリーブ22の後端部がプラスチック樹脂23により覆われていて、円筒スリーブ22の先端部と後端面及び内部がプラスチック樹脂23により囲まれた状態となって」いる「フェルール20」の後端が「鍔部30」の凹部32に嵌め込まれて連結されている構造のものであるから、本願補正発明と、「前記ベース部は、前記インサートパイプの後端外周と、前記インサートパイプの後端側から外方に突出した前記樹脂成形部の後端外周を被覆する態様で、前記フェルール本体の樹脂成形部と一体接合されている」点で一致する。

以上のことから、本願補正発明と刊行物1発明は、
「外筒をなす金属製のインサートパイプ内に、軸心部にファイバー装着孔を有する樹脂成形部を一体成形されたフェルール本体と、
前記フェルール本体の前記ファイバー装着孔と連続するファイバー装着孔を軸心部に有し、前記フェルール本体の後端側に樹脂成形された筒状のベース部とにより構成され、
前記ベース部は、前記インサートパイプの後端外周と、前記インサートパイプの後端側から外方に突出した前記樹脂成形部の後端外周を被覆する態様で、前記フェルール本体の樹脂成形部と一体接合されているフェルール。」の点で一致する。

一方、本願補正発明は、「インサートパイプの後端外周に環状溝による係止部」が形成され、この係止部をベース部が被覆しているのに対し、刊行物1発明は、円筒スリーブ22の後端外周に環状溝による係止部が形成されておらず、鍔部30が係止部を被覆するようになっていない点で相違する。

4.相違点についての検討
上記相違点について検討する。
刊行物2には、光ファイバ挿通孔を有するキャピラリー部材と光ファイバ心線挿通孔を有するフランジ部材からなるフェルールにおいて、キャピラリー部材と合成樹脂製のフランジ部材との充分な接合強度を得るために、キャピラリー部材の接合部外周面に溝等の凹部を設け、フランジ部材の接合部内周面に上記凹部内に突出するような凸部を設けた構造とすることが記載されている。
ここで、キャピラリー部材の接合部外周面に設けられる溝は、刊行物2の段落【0021】にキャピラリー部材の全周に亘って延在するものである旨記載されているから、本願補正発明と同様の「環状溝」であるといえ、また、刊行物2における「キャピラリー部材」及び「フランジ部材」は、それぞれ刊行物1発明の「フェルール20」及び「鍔部30」に対応するものであり、さらに、上記構造は「キャピラリー部材」が金属であっても有効である旨が刊行物2の段落【0017】に記載されているから、刊行物1発明の「フェルール20」を構成する「円筒スリーブ22」の後端外周部に「環状溝」を設けるようにして、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
また、本願補正発明の効果についても、刊行物1及び刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が予測可能なものであって、格別のものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成20年10月1日付けの手続補正は上記のとおり却下され、また、平成20年7月10日付けの手続補正も却下されているので、本願の請求項に係る発明は、平成19年10月19日付けで補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
外筒をなすインサートパイプ内に、軸心部にファイバー装着孔を有する樹脂成形部を一体成形され、前記インサートパイプの後端外周に環状凹凸形状の係止部を形成されたフェルール本体と、
前記フェルール本体の前記ファイバー装着孔と連続するファイバー装着孔を軸心部に有し、前記フェルール本体の後端側に樹脂成形された筒状のベース部とにより構成され、
前記ベース部は、前記インサートパイプの前記係止部を被覆する態様で、前記フェルール本体の前記樹脂成形部と一体接合されていることを特徴としたフェルール。」

2.判断
本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えたものが上記本願補正発明であると認められるところ、本願補正発明は、上記II.[II]2.?4.において検討したように、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
してみれば、本願発明が刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであることは明らかである。

3.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、刊行物2は、原査定の拒絶の理由に直接引用されたものではないが、原審における補正の却下の決定の理由に引用されており、請求人も本件審判請求の請求の理由において刊行物2についての意見を述べているところである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-20 
結審通知日 2010-01-26 
審決日 2010-02-10 
出願番号 特願2002-197323(P2002-197323)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前川 慎喜柏崎 康司  
特許庁審判長 稲積 義登
特許庁審判官 右田 昌士
吉野 公夫
発明の名称 フェルール  
代理人 大島 陽一  

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