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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1214273
審判番号 不服2007-16482  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-13 
確定日 2010-04-02 
事件の表示 平成10年特許願第 42950号「熱転写式プリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月24日出願公開、特開平11-227241〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年2月10日の出願であって、平成19年5月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年6月13日付けで審判請求がされるとともに、同年7月11日付けで手続補正書が提出され、その後、当審からの平成21年6月10日付けの審尋に対し、指定した期間内に回答書が提出されなかったものである。

上記の平成19年7月11日付けの手続補正により、請求項1,2が削除されるとともに、請求項1,2を引用していた請求項3が、請求項1,2となったものであるから、平成19年7月11日付けの手続補正は、請求項の削除を目的としたものに該当し、適法である。

そうすると、本願の請求項1,2に係る発明は、平成19年7月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項2】 回転軸に外嵌されるプラテンローラと、1ライン上に配列された複数の微小発熱体を設けたサーマルヘッドとを備え、前記プラテンローラと前記サーマルヘッドの間に記録紙及びインクリボンを挟持し、サーマルヘッドの所定位置の微小発熱体を熱することにより、前記記録紙に前記微小発熱体の1ライン毎に所望の印刷を順次行うようにした熱転写式プリンタにおいて、
前記サーマルヘッドの微小発熱体の配列の一方端から奇数番目位置、或いは偶数番目位置の微小発熱体による印刷後、前記記録紙を前記微小発熱体の1ライン幅の約1/2移動させ、かつ、インクリボンを1/2ライン分前進させて、前記サーマルヘッドの残りの偶数番目位置、或いは奇数番目位置の微小発熱体による印刷をすることにより、微小発熱体の発熱温度を上昇させることなく、印画濃度を向上させるようにしたことを特徴とする熱転写式プリンタ。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由において引用された特開平8-244265号公報(原査定の拒絶理由通知書における引用文献1、以下、「引用刊行物」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審で付与)。

(a)「【0002】
【従来の技術】中間調記録を得るための記録装置は多々あるが、その中でもサーマルヘッド等の熱記録ヘッドを用いた中間調記録装置は、機構が簡単で、信頼性が高く、保守性に優れている等の利点から、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の各種記録装置に幅広く適用されている。熱記録ヘッドを用いた中間調記録装置は、例えば、溶融型あるいは昇華型等のインクシートのインクを熱によって記録紙にn(nは2以上の整数)階調記録を行うものである。
【0003】中間調記録、即ち、n(nは例えば64)階調記録を行うためには、上述のように、溶融型あるいは昇華型インクシートによる熱転写記録方法が使用されている。この熱転写記録方法は、熱記録ヘッドを構成する複数の発熱抵抗体に加えられた電気エネルギにより発生する熱量に対応した、顔料または染料インクを所定の記録紙に転写することにより所要の記録を行うものである。そして、上記発熱抵抗体への加熱量は、これらに加えられる通電パルスの個数や時間幅によって制御されるものである。
(中略)
【0005】このように各階調に対応したパルス個数の通電パルスSBを各発熱抵抗体に印加することにより、そのパルス個数に対応したエネルギ分のインクが転写され、各濃度の中間調記録がなされる。通常、サーマルヘッドに1ライン分並べられて設けられた各発熱抵抗体に、それぞれに対応した通電パルスを一括あるいは分割して印加し、1ライン分の記録を行う。そして、記録紙を一定速度で副走査送りしながら順次各ライン毎の記録を行って平面的な記録を行うものである。」

(b)「【0088】実施例2.次に別の実施例について説明する。この実施例2は、昇華型と溶融型の兼用化が可能な中間調記録装置及び中間調記録方法に関するものである。この実施例2の装置及び方法は、切り替え手段によって、昇華型記録時において上述した階調制御手段をもって記録し、溶融型記録時において後述する奇数偶数制御手段をもって記録を行うものであり、兼用化が可能な装置においても高画質記録を実現するものである。
(中略)
【0092】これに対し、この実施例2では、まず、入力階調データを1ライン分受信した後、1ラインのデータを2回に分けて記録を行う。すなわち、最初に奇数番目の発熱抵抗体(画素5c,5eに対応)のみ発熱させるように、偶数番目の発熱抵抗体(画素5d,5fに対応)に対応するデータをマスキングして、常に’0’のデータをサーマルヘッドに転送する。そして、1/2ピッチ分だけ紙送りした後に、今度は偶数番目のみ発熱させるように、奇数番目の発熱抵抗体に対応するデータをマスキングして、常に’0’のデータをサーマルヘッドに転送する。そして、再び1/2ピッチ分だけ紙送りする。この結果、図15に示すような記録状態が得られる。
【0093】この場合、隣接する記録と記録の間隔が広がり、隣接発熱抵抗体の熱影響が抑えられる。したがって、記録同士が結合することがなくなり、画質が向上する。このように、この実施例2の装置及び方法は、溶融型記録の場合には、隣接発熱抵抗体の熱影響を抑えるため、排他的に記録を行うようにし、安定した画質を得るものである。」

(c)図15は以下のとおりのものである。


これらの記載から、引用刊行物には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「複数の発熱抵抗体により構成されたサーマルヘッドを備え、記録紙とインクシートを用いて、発熱抵抗体から発生する熱によって、インクを所定の記録紙に転写することにより、前記記録紙に前記発熱抵抗体の1ライン毎に所要の記録を行うプリンタにおいて、
前記発熱抵抗体において、最初に奇数番目の発熱抵抗体のみ発熱させるようにした後、1/2ピッチ分だけ紙送りした後に、今度は偶数番目の発熱抵抗体のみ発熱させるようにしたプリンタ。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の
「発熱抵抗体」、
「インクシート」、
「所要の記録」、

は、それぞれ、本願発明の

「微小発熱体」、
「インクリボン」、
「所望の印刷」

に相当する。

また、引用発明は、サーマルヘッド、記録紙、インクシートを用いたプリンタであるから、引用発明の「プリンタ」が、「熱転写式プリンタ」であることは明らかである。また、熱転写式プリンタにおいて、サーマルヘッドによって印刷を行うにあたり、なんらかの裏当てとなる部材が必要なことは当然のことであり、かかる裏当てとなる部材として、回転軸に外嵌されるプラテンローラを用いること、またその際に、プラテンローラとサーマルヘッドとの間に、記録紙及びインクリボンを挟持することによって印刷を行うことは、いずれも例を挙げるまでもなく一般的に行われていることであり、引用発明においても同様の構成となっているものと認められる。
さらに、上記摘記事項(b)の、「入力階調データを1ライン分受信した後、1ラインのデータを2回に分けて記録を行う。・・・そして、1/2ピッチ分だけ紙送りした後に、・・・そして、再び1/2ピッチ分だけ紙送りする。」との記載から、かかる「1/2ピッチ分」は、1ラインを2つに分けたときの1つであることが読み取れるため、引用発明の「1/2ピッチ分」は、本願発明の「1/2ライン分」に相当する。

してみると、両者は、
「回転軸に外嵌されるプラテンローラと、1ライン上に配列された複数の微小発熱体を設けたサーマルヘッドとを備え、前記プラテンローラと前記サーマルヘッドの間に記録紙及びインクリボンを挟持し、サーマルヘッドの所定位置の微小発熱体を熱することにより、前記記録紙に前記微小発熱体の1ライン毎に所望の印刷を順次行うようにした熱転写式プリンタにおいて、
前記サーマルヘッドの微小発熱体の配列の一方端から奇数番目位置の微小発熱体による印刷後、前記記録紙を前記微小発熱体の1ライン幅の1/2移動させ、前記サーマルヘッドの偶数番目位置の微小発熱体による印刷をする熱転写式プリンタ。」
の点で一致し、

以下の点で相違する。

・相違点1
記録紙を微小発熱体の1ライン幅の1/2移動させたときに、本願発明では「インクリボンを1/2ライン分前進させている」のに対し、引用発明ではインクリボンの移動について記載がない点。

・相違点2
本願発明では、「微小発熱体の発熱温度を上昇させることなく、印画濃度を向上させるように」しているのに対し、引用発明では微小発熱体の発熱温度の差異についての記載がない点。

上記相違点について検討する。

・相違点1について
引用発明には、インクリボンの移動についての記載はないが、インクリボンの送り量を、紙送りの量と等しくすることは周知(必要であれば、以下の周知文献1,2等参照)
例えば、周知文献1の段落【0032】には、「したがって、インクリボン15の巻き取りについては用紙Pの正搬送方向(印字時の搬送方向)の搬送と常に一致して動作する」との記載があり、インクリボンと用紙の搬送が一致していることから、インクリボンと紙送りの送り量が等しくなっていることが読み取れる。
また、周知文献2にも、段落【0024】に、「このようにプラテン21は、副走査方向の印字タイミングに同期して2ライン分ずつ間欠回転駆動されて受像紙22を搬送する。受像紙22は、インクリボンと共に副走査方向に2ライン分ずつ間欠移動する。」との記載があり、受像紙とインクリボンが共に移動することから、受像紙とインクリボンとの送り量が等しくなっていることが読み取れる。
したがって、引用発明において上記周知技術を適用して、インクリボンの送り量を記録紙の送り量と等しくして、記録紙を1ラインの1/2移動させる際に、インクリボンも同じく1/2ライン分移動させるようにすることは、当業者が適宜容易になし得ることである。

周知文献
1.特開平8-174877号公報
2.特開平8-90814号公報

・相違点2について
引用発明においても、本願発明と同様に、特定のラインにおける微小発熱体の熱の印加は、該特定のラインを1/2に分けて、2回の熱の印加によって行われている。ここで、1ラインを1回の熱の印加によって行う場合と、1/2ラインずつ2回の熱の印加で行う場合を考慮すると、同程度の濃度を実現するためには、2回の熱の印加で行う場合の方が、1回に印加する熱量は少なくなることは明らかである。
結果として、引用発明において、印画濃度を向上させようとする際にも、1ラインを1回の熱の印加で行う場合と比較して、微小発熱体の発熱温度を上昇させることなく行っているものと認められるため、上記相違点2は実質的な相違点とはいえない。

効果の点についても、引用発明から予測し得る程度のものにすぎない。

したがって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項2に係る発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は、請求項1に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-29 
結審通知日 2010-02-03 
審決日 2010-02-17 
出願番号 特願平10-42950
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 一宮 誠
赤木 啓二
発明の名称 熱転写式プリンタ  
代理人 斎藤 春弥  
代理人 高橋 陽介  

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