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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1214400
審判番号 不服2008-11041  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-01 
確定日 2010-04-07 
事件の表示 特願2003-186879「ベルト伝動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年1月27日出願公開、特開2005-23947〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年6月30日の出願であって、平成20年3月26日付けで拒絶査定がされたところ、平成20年5月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成20年1月21日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
原動ハス歯プーリの駆動力をハス歯ベルトとの噛合せにより従動ハス歯プーリに伝達するベルト伝動装置であって、前記原動ハス歯プーリの歯筋角度が、前記ハス歯ベルトの歯筋角度より大きく、その角度の差が0°より大きく0.75°以下であり、前記従動ハス歯プーリの歯筋角度が、前記ハス歯ベルトの歯筋角度と同一であることを特徴とするベルト伝動装置。」

2.原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明及び記載事項
(1)刊行物1:特開2001-159449号公報
(2)刊行物2:特開昭55-51148号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「ハス歯歯付ベルト伝動装置」に関して、図面(特に、図6及び7、図11及び12、図15?17を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、ハス歯歯付ベルト伝動装置の技術分野に関し、特にベルトの片寄り抑制技術に係るものである。」(第2頁第2欄第8?10行、段落【0001】参照)
(b)「ところで、かかるハス歯歯付ベルト伝動装置の動力伝達過程において、駆動プーリでは、図15(a)に示す噛合終了部(以後「出側」と称する)から図15(b)に示す噛合開始部(以後「入側」と称する)までの全ての噛合するベルト歯11aは、プーリ溝21a側面からベルト長さ方向にf_(1)という外力を受けることとなる。また、従動プーリでは、図16(a)に示す入側から図16(b)に示す出側までの全ての噛合するベルト歯11aは、プーリ溝31a側面に対し、周方向にf_(2)という外力を与え、ベルト歯11aはその抗力としてf_(3)という力を受けることとなる。
ここで、ベルト歯11aの延びる方向はベルト幅方向に対して角度をなしているため、ベルト歯11aが受ける上記f_(1)及びf_(3)の外力は、ベルト1aを幅方向に変位させるように作用することとなる。すなわち、図17(a)に示すように、f_(1)はベルト歯11aの延びる方向と垂直な方向にf_(1)'、平行な方向にf_(1)''という力が作用していることに等しく、同様に、図17(b)に示すように、f_(3)はベルト歯11aの延びる方向と垂直な方向にf_(3)'、平行な方向にf_(3)''という力が作用していることに等しい。そして、相反する方向に作用するf_(1)''とf_(3)''との合力によって片寄り力がベルト1aに作用し、ベルト1aがベルト幅方向のいずれか一方に片寄りを生じることとなる。このようにベルト1aに片寄りが生じると、ベルト側面がプーリのフランジに摺動して騒音を発したり、その摺動によるベルト側面の摩耗によりベルト寿命が損なわれるという不都合がある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ハス歯歯付ベルトの運転時におけるベルトの片寄りを抑止し、ベルト側面がフランジに摺動して発する騒音やベルト側面の摩耗を防止することにある。」(第2頁第2欄第30行?第3頁第3欄第12行、段落【0004】?【0006】参照、なお、記号は図17の表記に合わせて記載した。)
(c)「(実施形態2)図6は実施形態2に係るハス歯歯付ベルト伝動装置の駆動プーリの入側(a)、中間部(b)及び出側(c)におけるプーリ溝とベルト歯との位置関係を示す。図7は従動プーリの入側(a)、中間部(b)及び出側(c)におけるプーリ溝とベルト歯との位置関係を示す。なお、実施形態1と同一の部分については同一の符号で示している。
実施形態2に係るハス歯歯付ベルト伝動装置の構成及びその構成要素であるハス歯歯付ベルトは実施形態1の場合と同一である。
駆動プーリ2は、ハス歯歯付ベルト1のベルト歯11が噛合するプーリ溝21が周縁に所定ピッチ(P_(2))で設けられており、このプーリ溝ピッチ(P_(2))はベルト歯ピッチ(P_(1))と同一とされている。そして、図6(a)に示すように、プーリ溝21の延びる方向がプーリ軸方向に対して所定の角度(β)をなしており、これはベルト歯11の延びる方向がベルト幅方向に対してなす角度(α)より大きく設定されている。
従動プーリ3は、図7(a)に示すように、プーリ溝31の延びる方向がプーリ軸方向に対して所定の角度(γ)をなしており、これはベルト歯11の延びる方向がベルト幅方向に対してなす角度(α)より小さく設定されている。その他の構成は、外径が約2倍である点を除いては駆動プーリ2と同一構成を有する。
次に、上記構成のハス歯歯付ベルト伝動装置の運転時の駆動プーリ2及び従動プーリ3におけるベルト歯11とプーリ溝21,31との位置関係及び接触形態について説明する。
まず、駆動プーリ2において、入側は、図6(a)に示すように、ベルト歯11後端(図の右上端)がプーリ溝21側面に線接触した形態でベルト歯11がプーリ溝21に噛合する。次いで、出側に行くに従って、図6(b)に示すように、図の右側からベルト歯11が弾性変形し、プーリ溝21側面との接触面積が徐々に大きくなっていく。そして、出側では、図6(c)に示すように、ベルト歯11後面全体がプーリ溝21側面に接触するようにベルト歯11が弾性変形し、噛合が解除されることとなる。
従動プーリにおいては、入側は、図7(a)に示すように、ベルト歯11の前端(図の右下端)がプーリ溝31側面に線接触した形態でベルト歯11がプーリ溝31に噛合する。次いで、出側に行くに従って、図7(b)に示すように、図の右側からベルト歯11が弾性変形し、プーリ溝31側面との接触面積が徐々に大きくなっていく。そして、出側では、図7(c)に示すように、ベルト歯11前面全体がプーリ溝31側面に接触するようにベルト歯11が弾性変形し、噛合が解除されることとなる。
以上のように構成されたハス歯歯付ベルト伝動装置によれば、駆動プーリ2のプーリ溝21の延びる方向がプーリ軸方向に対してなす角度(β)が、ベルト歯11の延びる方向がベルト幅方向に対してなす角度(α)よりも大きく設定されており且つ図6(c)に示すように、出側ではベルト歯11後面全体がプーリ溝21側面に接触するので、図6(a)に示すように、入側では、ベルト歯11後端とプーリ溝21側面とが線接触となっており、図6(b)に示すように、出側に行くに従って、ベルト歯11が弾性変形してそれらの接触面積が順次に大きくなる構成となっている。すなわち、従来例のように全ベルト歯が後面全体でプーリ溝側面に接触するのとは異なり、噛合するプーリ溝21の位置によってベルト歯11の接触形態が異なる構成となっている。このため、従来例に比べて、ベルト歯11後面とプーリ溝21側面との接触面積が全体として小さいものとなり、ベルト1が駆動プーリ2から受ける力が低減され、ベルト1をベルト幅方向に変位させようとする作用も小さいものとなる。
また、従動プーリ3のプーリ溝31の延びる方向がプーリ軸方向に対してなす角度(γ)がベルト歯11の延びる方向がベルト幅方向に対してなす角度(α)よりも小さく設定されており且つ図7(c)に示すように、出側ではベルト歯11前面全体がプーリ溝31側面に接触するので、図7(a)に示すように、入側では、ベルト歯11前面とプーリ溝31側面とが線接触となってろい、図7(b)に示すように、出側に行くに従ってベルト歯11が弾性変形して、それらの接触面積が順次大きくなる構成となっている。すなわち、従来例のように全ベルト歯が前面全体でプーリ溝側面に接触するのとは異なり、噛合するプーリ溝31の位置によってベルト歯11の接触形態が異なる構成となっている。このため、従来例に比べて、ベルト歯11前面とプーリ溝31側面との接触面積が全体として小さいものとなり、ベルト1が従動プーリ3に与える力が低減され、すなわち、ベルト1が受ける抗力も小さくなり、ベルト1をベルト幅方向に変位させようとする作用も小さいものとなる。
このようにして、駆動プーリ2、従動プーリ3の各々において、ベルト1にかかる力が低減されることにより、それらの和である片寄り力も小さく抑えられ、ベルト1の片寄りの抑止がなされることとなる。従って、ベルト1がフランジに摺動することによる騒音や摩耗が防止されることとなる。」(第5頁第7欄第28行?第6頁第9欄第19行、段落【0025】?【0034】参照)
(d)「(実験2)
<評価したハス歯歯付ベルト伝動装置>以下のハス歯歯付ベルト、駆動プーリ及び従動プーリを準備した。
ハス歯歯付ベルト:ベルト歯ピッチ(P_(1))が8.1234mmであり、ベルト歯がベルト幅方向に対してなす角度(α)が10°である。ベルトは、本体がクロロプレンゴム組成物により構成され、心線としてガラスコードが埋設されており、ベルト歯側表面はゴム糊により接着処理されたナイロン帆布で被覆されているものである。
駆動プーリ4:プーリ溝ピッチ(P_(2))が8.1234mmであり、プーリ溝の延びる方向がプーリ軸方向に対してなす角度(β)が9°である。
駆動プーリ5:プーリ溝ピッチ(P_(2))が8.1234mmであり、プーリ溝の延びる方向がプーリ軸方向に対してなす角度(β)が11°である。
従動プーリ4:プーリ溝ピッチ(P_(2))が8.1234mmであり、プーリ溝の延びる方向がプーリ軸方向に対してなす角度(γ)が9°である。
従動プーリ5:プーリ溝ピッチ(P_(2))が8.1234mmであり、プーリ溝の延びる方向がプーリ軸方向に対してなす角度(γ)が11°である。
なお、いずれの駆動プーリもプーリ溝数は21のものであり、従動プーリは42のものである。
そして、以下の各組み合わせにより、各例に係るハス歯歯付ベルト伝動装置を構成した。
-例6-
ハス歯歯付ベルトと、駆動プーリ4と、従動プーリ4との組み合わせからなるハス歯歯付ベルト伝動装置を例6とした。すなわち、α>β、α>γである。
-例7-
ハス歯歯付ベルトと、駆動プーリ5と、従動プーリ5との組み合わせからなるハス歯歯付ベルト伝動装置を例7とした。すなわち、α<β、α<γである。
-例8-
ハス歯歯付ベルトと、駆動プーリ4と、従動プーリ5との組み合わせからなるハス歯歯付ベルト伝動装置を例8とした。すなわち、α>β、α<γである。
-例9-
ハス歯歯付ベルトと、駆動プーリ5と、従動プーリ4との組み合わせからなるハス歯歯付ベルト伝動装置を例9とした。すなわち、α<β、α>γであり、本発明例に係るものである。
<評価方法>実験1と同様のベルト走行試験評価を実施した。
<評価結果>定荷重を784Nとした場合における負荷トルクと片寄り力との関係を図11に示す。また、負荷トルクを0N・m、10N・mとした場合における定荷重と片寄り力との関係をそれぞれ図12(a)、(b)に示す。
図11によると、全体的な傾向として、負荷トルクが大きくなるに従って、ベルトには図8の紙面奥側に変位させようとする片寄り力が作用する傾向が伺われる。そして、その中で本発明例に係る例9は、片寄り力が従来例に係る例1を含む他例に比べて低い水準で推移していることが確認できる。
また、例8は、αをβより大きくし且つγより小さくした構成であるが、この場合、駆動プーリの入側では、ベルト歯とプーリ溝との位置関係が図13(a)に示すようになり、出側に行くに従って、プーリ溝21b側面の図の右上部分がベルト歯11b後面に接近しながら両者が接触することとなる。従って、例9のように、プーリ溝側面がベルト歯後面に徐々に接触するという構成とはならない。また、ベルト歯11bの図の左上部分は特に大きな圧縮変形を受けることとなるので、この構成ではベルト1bを幅方向に変位させようとする作用が助長されることとなる。図13(b)に示すように、従動プーリ3bにおいても同様であり、出側に行くに従って、ベルト歯11b前面の図の右下部分がプーリ溝31b側面に接近しながら両者が接触することとなる。そして、例8の試験評価の結果は、従来例に係る例1と同様の挙動を示している。この点は実験1の例5と同様である。
図12(a)及び(b)によると、負荷トルクが0N・mの場合も10N・mの場合も定荷重が大きくに従って片寄り力の作用する向きが変化することが確認できる。そして、その中で本発明例に係る例9は、片寄り力が従来例に係る例1を含む他例に比べて低い水準で推移していることが分かる。
すなわち、以上のことから、αをβより小さくし且つγより大きくすることにより、ハス歯歯付ベルトに作用する片寄り力を小さく抑えることができるということが確認された。」(第7頁第11欄第35行?第8頁第13欄第17行、段落【0049】?【0060】参照)
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
駆動プーリ2の駆動力をハス歯歯付ベルト1との噛合せにより従動プーリ3に伝達するハス歯歯付ベルト伝動装置であって、前記駆動プーリ2の歯筋角度が、前記ハス歯歯付ベルト1の歯筋角度より大きく、その角度の差が1°であり、前記従動プーリ3の歯筋角度が、前記ハス歯歯付ベルト1の歯筋角度より小さく、その角度の差が1°であるハス歯歯付ベルト伝動装置。

(刊行物2)
刊行物2には、「タイミングベルト」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、大文字を小文字で表記した個所がある。
(e)「本発明は離間したスプロケット間に懸回されるタイミングベルトに於て、該ベルトの脈動的な走行を防止する共に、該ベルトの走行に伴う騒音を低下させるものに関する。」(第1頁左下欄第10?13行)
(f)「本発明はかかる従来の欠点を除去するものであり、離間したスプロケット1,1間に懸回されるタイミングベルト2に於て、該ベルトの歯筋5とスプロケット1の回転軸6との傾きθ_(0)がほぼ該ベルトの軸直角ピッチP及びベルト巾bとの間にθ_(0)≧tan^(-1)(P/b)なる関係あるものとして構成される(第2図-第3図)。そして本発明のタイミングベルトに噛合するスプロケットも前記θ_(0)と同じだけ傾斜したねじれ歯を有する。」(第2頁左上欄第2?10行)

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「駆動プーリ2」は本願発明の「原動ハス歯プーリ」に相当し、以下同様に、「ハス歯歯付ベルト1」は「ハス歯ベルト」に、「従動プーリ3」は「従動ハス歯プーリ」に、「ハス歯歯付ベルト伝動装置」は「ベルト伝動装置」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、並びに相違点1及び2を有する。
<一致点>
原動ハス歯プーリの駆動力をハス歯ベルトとの噛合せにより従動ハス歯プーリに伝達するベルト伝動装置であって、前記原動ハス歯プーリの歯筋角度が、前記ハス歯ベルトの歯筋角度より大きいベルト伝動装置。
(相違点1)
前記原動ハス歯プーリの歯筋角度が前記ハス歯ベルトの歯筋角度より大きいことに関し、本願発明は、「その角度の差が0°より大きく0.75°以下であ」るのに対し、引用発明は、その角度の差が1°である点。
(相違点2)
前記従動ハス歯プーリの歯筋角度に関し、本願発明は、「前記ハス歯ベルトの歯筋角度と同一である」のに対し、引用発明は、ハス歯歯付ベルト1の歯筋角度より小さく、その角度の差が1°である点。
そこで、上記相違点1及び2について、まとめて検討をする。
(相違点1及び2について)
刊行物1には、上記摘記事項(d)の例9に関する記載からみて、引用発明に係る、「ベルト歯のベルト幅方向に対してなす角度(α)が10°、駆動プーリ5のプーリ溝のプーリ軸方向に対してなす角度(β)が11°、従動プーリ4のプーリ溝のプーリ軸方向に対してなす角度(γ)が9°であるハス歯歯付ベルト伝動装置」が記載又は示唆されている。
上記刊行物1に記載又は示唆されたものにおいても、上記摘記事項(d)の記載からみて、ベルト歯ピッチ(ベルト歯ピッチP_(1)=8.1234mm、駆動プーリ及び従動プーリのプーリ溝ピッチP_(2)=8.1234mm)、ベルト歯のベルト幅方向に対してなす角度(α=10°)、プーリ溝数(駆動プーリのプーリ溝数は21、従動プーリのプーリ溝数は42)、定荷重及び負荷トルク(定荷重を784N、負荷トルクを0N・m、10N・m)などの諸条件を所定の値に設定した場合において、駆動プーリ5のプーリ溝がプーリ軸方向に対してなす角度(β)を9°又は11°、従動プーリ4のプーリ溝の延びる方向がプーリ軸方向に対してなす角度(γ)を9°又は11°として、それらを組み合わせることにより数種類のハス歯歯付ベルト伝動装置を構成し、それぞれの装置について走行試験を実施することにより、ハス歯ベルトの歯筋角度に対する原動ハス歯プーリの歯筋角度及び従動ハス歯プーリの歯筋角度の数値範囲を、片寄り力を小さく抑えるように実験的に最適化又は好適化するようにして得られたものである。
そして、刊行物1には、「駆動プーリ2、従動プーリ3の各々において、ベルト1にかかる力が低減されることにより、それらの和である片寄り力も小さく抑えられ、ベルト1の片寄りの抑止がなされることとなる。従って、ベルト1がフランジに摺動することによる騒音や摩耗が防止されることとなる。」(上記摘記事項(c)参照)と記載されていることから、引用発明は、ハス歯歯付ベルトの運転時におけるベルト片寄り力を小さく抑えることにより、騒音や摩耗を防止できるという作用効果を奏するものである。
一方、本願発明は、明細書及び図面の記載からみて、原動ハス歯プーリの歯筋角度がハス歯ベルトの歯筋角度より大きいものにおいて、その角度の差の下限値0°及び上限値0.75°を境界として騒音試験の試験結果に急激な変化があるなどの技術的意義が見出せないから、角度の差の上下限値が臨界的意義を有するとは認められないし、ハス歯ベルトの歯筋角度を特定の値(θ”=5°)に設定するなどの条件の下に、当該上下限値の数値範囲を実験的に最適化又は好適化しているものであって、上記数値範囲とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものである。
また、刊行物2には、歯筋が傾斜している動力伝達用のタイミングベルト2とそれに噛み合うスプロケット1、1が同じ角度だけ傾斜したねじれ歯を有することが記載されているし、本願明細書の従来の技術にも記載されているように、従来の伝動装置においては、原動プーリ及び従動プーリの歯筋角度と、ベルトの歯筋角度が等しくなっていることは言うまでもない。
してみれば、引用発明に、刊行物1及び2に記載された技術手段を適用することにより、原動ハス歯プーリの歯筋角度θが、前記ハス歯ベルトの歯筋角度θ”より大きいものにおいて、その角度の差を0°より大きく0.75°以下とし、かつ、従動ハス歯プーリθ’の歯筋角度を、前記ハス歯ベルトの歯筋角度θ”と同じにすることにより、上記相違点1及び2に係る本願発明とすることは、当業者が技術的に格別の困難性を有することなく容易に想到し得たものである。

また、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明、及び刊行物2に記載された発明の奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書の【請求の理由】を補充した平成20年5月30日付けの手続補正書(方式)(以下、「手続補正書」という。)において、「図5から明らかなように、角度差を0.75°以下とすることにより、耐久性が顕著に良好となっていることから、角度差を0.75°以下とすることに臨界的意義はある。また、角度差を0°より大きくするという構成は、『前記原動ハス歯プーリの歯筋角度が、前記ハス歯ベルトの歯筋角度より大きい(構成要件(B))』という技術思想の表現上の繰り返しに過ぎず、数値範囲を限定したものではない。そして、本願発明は、従来の伝動装置(原動プーリの歯筋角度と、ベルトの歯筋角度が等しい伝動装置)に比べて、上記構成要件(B)により、異音の発生を防止できるという作用効果を有する。」(【本願発明が特許されるべき理由】「(4)相違点についての検討」の項参照)等と本願発明の奏する効果について主張している。
しかしながら、上記手続補正書に添付された参考表(本願明細書の記載内容を取り纏めた表)に記載された実施例2’(θ-θ”=0.75°)においては騒音試験の試験結果が未測定である(・・・印)し、同じく比較例2(θ-θ”=0°)においては騒音試験の試験結果について騒音低減効果がない(×印)と記載されていることなどから、原動ハス歯プーリの歯筋角度がハス歯ベルトの歯筋角度より大きいものにおいて、その角度の差の下限値0°及び上限値0.75°を境界として騒音試験の試験結果に急激な変化があるなどの技術的意義は見出せないから、角度の差の上下限値が臨界的意義を有するとは認められないので、審判請求人の上記主張は採用することができない。

4.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の請求項2に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-11 
結審通知日 2009-03-17 
審決日 2009-03-30 
出願番号 特願2003-186879(P2003-186879)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 広瀬 功次  
特許庁審判長 溝渕 良一
特許庁審判官 岩谷 一臣
常盤 務
発明の名称 ベルト伝動装置  
代理人 松浦 孝  
代理人 坪内 伸  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 小倉 洋樹  
代理人 野中 剛  

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