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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E21D
管理番号 1214464
判定請求番号 判定2009-600046  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2010-05-28 
種別 判定 
判定請求日 2009-12-07 
確定日 2010-03-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第2729986号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号カタログに示す「防水シート(商品名「フックバイト」)を用いて行うトンネルの防水シート取付方法」は、特許第2729986号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求は,イ号方法(被請求人力タログ(甲第3号証)の5頁にある「防水シート(商品名「フックバイト」)を用いて行うトンネルの防水シート取付方法)は特許第2729986号発明の技術的範囲に属する,との判定を求めたものである。

第2 本件特許発明
1 本件特許発明の構成
本件特許である特許第2656210号は,出願日を平成3年11月28日とする実用新案登録出願を,平成8年6月28日に特許出願に変更し,平成9年12月19日に設定登録されたものであって,本件特許発明は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】 地山をア-チ状に掘削して形成したトンネルの表面又は該トンネルの表面に形成した一次覆工の表面に,面ファスナの雄部材状の係止用突起を強固に係止できる不織布等から成る通水緩衝材を止着し,該通水緩衝材の表面に,裏面に前記係止用突起を多数設けた係止部材を適宜間隔を置いて点状に定着した防水性シ-トをその係止用突起を前記通水緩衝材に係止させて貼着することを特徴とするトンネルの防水シ-ト取付方法。」

そして,本件特許発明は,分説すると以下の構成要件を備えるものである。

A 地山をアーチ状に掘削して形成したトンネルの表面又は該トンネルの
表面に形成した一次覆工の表面に,
B 面ファスナの雄部材状の係止用突起を強固に係止できる不織布等から
成る通水緩衝材を止着し,
C 該通水緩衝材の表面に,裏面に前記係止用突起を多数設けた係止部材
を適宜間隔を置いて点状に定着した防水性シートをその係止用突起を
前記通水緩衝材に係止させて貼着することを特徴とする
D トンネルの防水シート取付方法。
(以下,上記A?Dを構成要件A?Dという。)

第3 イ号方法
1 判定請求人によるイ号方法の認定
請求書4頁1?11行によれば,判定請求人は,イ号方法を次のとおり認定している。

A’地山をアーチ状に掘削して形成したトンネルの表面又は該トンネルの
表面に形成した吹付けコンクリート面に,
B’面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる不織布をそのうえ
から当て板を用いコンクリート釘を打ちつけることによって止着し,
C’不織布の表面に,面ファスナーを適宜間隔を置いてライン状に定着し
た面ファスナー付EVAシートを押しつけて取りつける
D’トンネルの防水シート取付方法。

2 被請求人によるイ号方法の認定
答弁書11頁1?26行によると,被請求人は,判定請求人が認定したイ号方法が,構成A’,構成B’,構成D’を備えていることは認めているが,構成C’を次のとおり認定している。

C’不織布の表面に,EVAシートの長手方向に沿って3本の帯状の面
ファスナーを互いに適宜間隔を置いて連続的にライン状に定着した面
ファスナー付EVAを,前記帯状の面ファスナーがトンネルの周方向
に沿って配置されるように,押し付けて取り付ける

3 当審によるイ号方法の認定
甲第3号証5頁の「フックバイト」の欄の記載からみて,上記両者の「A’地山をアーチ状に掘削して形成したトンネルの表面」との認定は,甲第3号証に記載されていない事項を認定しているといえる。また,C’の認定については両者で争いがある。そこで,判定請求書に添付されたカタログに基づいてイ号方法を認定すると,イ号方法は,次のとおりのものである。

A’トンネルの表面に形成した吹付けコンクリート面に,
B’面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる不織布をそのうえ
から当て板を用いコンクリート釘を打ちつけることによって止着し,
C’不織布の表面に,EVAシートの長手方向に沿って3本の帯状の面
ファスナーを互いに適宜間隔を置いて連続的にライン状に定着した面
ファスナー付EVAを,押し付けて取り付ける
D’トンネルの防水シート取付方法。

第4 当審の判断
1 構成要件の充足性についての判断
(1)構成要件A,構成要件B,構成要件Dについて
イ号方法の「吹付けコンクリート面」,「面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる」,「不織布」が,それぞれ,本件特許発明の「一次覆工の表面」,「面ファスナの雄部材状の係止用突起を強固に係止できる」,「不織布等から成る通水緩衝材」に相当することは明らかである。
したがって,イ号方法の構成A’,構成B’,構成D’は,それぞれ,本件特許発明の構成要件A,構成要件B,構成要件Dを文言上充足する。

(2)構成要件Cについて
イ号方法の「EVAシート」が,本件特許発明の「防水性シート」に相当することは明らかである。
しかしながら,「防水性シート」を「通水緩衝材」に係止させて貼着するための「係止部材」を,本件特許発明では「適宜間隔を置いて点状に定着し」ているのに対して,イ号方法では「EVAシートの長手方向に沿って3本の帯状の面ファスナーを互いに適宜間隔を置いて連続的にライン状に定着し」ている点で相違している。
したがって,イ号方法の構成C’は,本件特許発明の構成要件Cを文言上充足していない。

2 均等の判断
判定請求人は「イ号方法は,本件特許の特許請求の範囲と異なる部分があるが,次の理由により,本件特許発明の均等発明に該当する。(以下略)」(請求書6頁9行?8頁4行)と主張し,被請求人は,「しかし,以下に述べるように,イ号方法は,均等の要件のいずれをも満たさないので,本件特許発明の均等発明ではなく,イ号方法は,本件特許発明の技術的範囲に属さないものである。(以下略)」(答弁書12頁17?19頁14行)と主張するので,この点について検討する。

(1)均等の要件
最高裁平成6年(オ)1083号判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)は,均等論が適用される場合について,次の5つの要件に従って認める旨の判示をしている。

「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても,
・その部分が特許発明の本質的部分ではなく(第一要件),
・その部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することがで き,同一の作用効果を奏するものであって(第二要件),
・このように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有す る者(当業者)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたも のであり(第三要件),
・対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからそ の出願時に容易に推考できたものではなく(第四要件),かつ,
・対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外された ものに当たるなどの特段の事情もないとき(第五要件)は,
その対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」

(2)第四要件(対象製品の容易推考性)について
最初に,イ号方法が,前記第四要件(対象製品等の容易推考性)を満たすか否かについて検討する。

本件判定請求答弁書において,被請求人は,乙第1ないし5号証により先行する発明や技術を示しているので,これらを本件特許発明の出願時の公知技術として参酌する。

ア 本件特許出願時における公知技術について
本件特許発明の特許出願前に頒布された刊行物である実願昭56-185764号(実開昭58-90298号)のマイクロフィルム(以下「先行文献1」という。)及び実願昭62-101801号(実開昭64-10599号)のマイクロフィルム(以下「先行文献2」という。)には,図面と共に以下の記載がある。

<先行文献1>
(1-ア)
「1 トンネルの一次覆工コンクリートと二次覆工コンクリートとの間に配設され,一次覆工コンクリート側からの湧水が二次覆工コンクリート側に浸出するのを防止する防水シートを一次覆工コンクリート内周壁に掛止する防水シートの掛止構造において,防水シートの一面全部又は一部に接続テープを貼設すると共に,一次覆工コンクリート内周壁に前記接続テープと係合する他の接続テープを固着し,前記防水シートに貼設した接続テープと一次覆工コンクリート内周壁に固着した他の接続テープとを係合させてなることを特徴とする一次覆工コンクリート内周壁への防水シートの掛止構造。」(明細書1頁5?18行)

(1-イ)
「図中1は,トンネルの1次覆工コンクリートと2次覆工コンクリートとの間に配設され,一次覆工コンクリート側からの湧水が2次覆工コンクリート側に浸出するのを防止する防水シートで,この防水シート1は合成樹脂製の基体2の一面に互いにほぼ等間隔ずつ離間して複数個の山型突起3が一体に突設され,これによりこれら突起3間に溝状通水路4が形成されているとともに,防水シートの一面側の所定部分には所定数(本実施例においては4個)の山型突起3間を覆うごとく接続テープ6が張設され,このテープ6は各山型突起3の頂部5において山型突起3に貼着せしめられている。この接続テープ6はテープ本体6aの一面に短い合成繊維6bの一端側を植設すると共に,他端側を折曲してなるもので,このテープ6の合成繊維の植設面を互に対向させ押圧することにより,テープ同士が連結,固定されると共に,引き離す方向に所定の力以上に付勢することにより,テープ同士の連結を解除し得るものである。なお,このテープは,例えばマジックテープやデュアルロックフアスナー(住友スリーエム(株))等の商品名で市販されているものをそのまま使用することもできる。
第4図は上記構成の防水シート1を一次覆工コンクリート7内周壁に固定する態様を示すもので,図中8は一次覆工コンクリート7の内周壁にコンクリート釘9で取付けられた壁側接続テープである。この壁側接続テープ8は前記防水シート1の頂部5間に張設された接続テープ6と係合され,防水シート1は山型突起3を一次覆工コンクリート側に向け,かつ山型突起3の長さ方向をトンネルの周方向と一致させて固定される。この場合,一次覆工コンクリート7側からの湧水は通水路4を通つて流れ落ちる。」(明細書5頁5行?6頁下から3行)

(1-ウ)
「この掛止構造によれば,防水シート1の一次覆工コンクリート7の内周壁への固定は極めて簡単で,予め一次覆工コンクリート7内周壁の所定位置に壁側接続テープ8をコンクリート釘9で固定しておき,この壁側接続テープ8に防水シート1の接続テープを対向させて軽く押圧することにより,防水シート1を迅速かつ確実に一次覆工コンクリート7内周壁に固定し得,作業性の極めて良好なものである。更に,この掛止構造によれば,防水シート1に直接釘やボルト等を打込むことがないので,これらの打込み部からの漏水は起こり得ず,二次覆工コンクリート側への漏水を確実に防止する。また更に,防水シート1は基体2,山型突起3等を押出し成型法などにより一体成型することができ,これに接続テープを熔着あるいは接着剤等を用いるなどの公知の方法で取付けることにより,簡単に製造することができる。
なお,上記実施例においては防水シートの一部の山型突起3間の所定部分にのみ接続テープ6を張設したがこれに限らず,防水シート全面に張設しても良く,また山型突起3間に接続テープ6を張設せずに頂部5の一部又は全部にのみテープ6を貼着するようにしても良い。」(明細書7頁1行?8頁3行)

(1-エ)
「第1図は防水シートが配設されるトンネル覆工部の断面側面図,第2図は従来の一次覆工コンクリートへの防水シートの取付状態を示す一部省略断面平面図,第3図は本考案に用いられる防水シートの一例を示す一部省略斜視図,第4図は本考案の一実施例を示す一部省略断面側面図である。」(明細書9頁1?6行)

(1-オ)
第3図の防水シートの一例を示す一部省略斜視図は,防水シートの頂部5が延びている方向が省略して図示されている。

これらの記載事項と図面を総合すると,先行文献1には,次の発明(以下「公知発明」という。)が開示されていると認められる。

「トンネルの一次覆工コンクリートと二次覆工コンクリートとの間に配設され,一次覆工コンクリート側からの湧水が二次覆工コンクリート側に浸出するのを防止する防水シートを一次覆工コンクリート内周壁に掛止する方法であって,
防水シートの一面全部又は一部にテープ本体の一面に短い合成繊維の一端側を植設すると共に,他端側を折曲してなる接続テープを貼設し,
前記接続テープの合成繊維の植設面を互に対向させ押圧することにより,テープ同士が連結,固定される他の接続テープを一次覆工コンクリート内周壁にコンクリート釘で固着し,
前記防水シートに貼設した接続テープと一次覆工コンクリート内周壁に固着した他の接続テープとを互に対向させ押圧することにより係合させてなる一次覆工コンクリート内周壁への防水シートの掛止方法。」

<先行文献2>
(2-ア)
「係止用突起を有する支持部材は,地山又は一次コンクリート面のアーチ部分(トンネルの天井乃至はその近傍)に対しては天井のアーチに沿って線状に取付けられ,その他の部分には線又は点若しくは面状に取付けられるから,トンネル天井側の防水シートの貼着作業が容易になり,また,弛みも生じにくい。
また,この部の支持部材は,防水シートの自重等により重力の作用で沿直方向に沿って曲がり,防水シートの被係止層と支持部材の係止用突起の係止面が重力によるせん断力の方向に沿った向きになるので,大きな係着力を発揮するから,先に防水シートをトンネルの天井側に係着し,しかる後,当該シートを側壁側に係着しても,脱落のおそれがない。
防水シート裏面と支持部材の係止関係はいわば,面ファスナの雌雄関係の態様で係止されているので,万一,シートに弛みが生じても直ちにそれを解消する補正をすることができる。
また,防水シートの裏面の被係止層は,不織布のように組成が疎な材料が部分的(点又は線)に防水シートに貼着されるから,全面貼着に比べ防水シート自体の柔軟性が損なわれず,且つ,組成の疎状態も損なわれないので,防水シートの取付けが楽になり,また,被係止層は通水機能を保有する。」(明細書6頁8行?7頁13行)

イ 対比
イ号方法と公知発明を対比すると,
(ア)公知発明の「一次覆工コンクリート内周壁」が,イ号方法の「トンネルの表面に形成した吹付けコンクリート面」に相当することは明らかである。
(イ)公知発明の「接続テープ」が,イ号方法の「面ファスナー」に相当することは明らかである。また,公知発明の「不織布」とイ号方法の「他の接続テープ」は,「面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる部材」である点で共通する。そうすると,公知発明の「前記接続テープの合成繊維の植設面を互に対向させ押圧することにより,テープ同士が連結,固定される他の接続テープを一次覆工コンクリート内周壁にコンクリート釘で固着し」とイ号方法の「面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる不織布をそのうえから当て板を用いコンクリート釘を打ちつけることによって止着し」は,「面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる部材をそのうえからコンクリート釘を打ちつけることによって止着し」ている点で共通する。
(ウ)甲第3号証3頁左下の表の見出し「防水シート(EVA*1) *1 エチレン酢酸ビニル共重合体」との記載からみて,公知発明の「防水シート」とイ号方法の「EVAシート」は,「防水シート」である点で共通する。そうすると,公知発明の「前記防水シートに貼設した接続テープと一次覆工コンクリート内周壁に固着した他の接続テープとを互に対向させ押圧することにより係合させてなる」とイ号方法の「不織布の表面に,EVAシートの長手方向に沿って3本の帯状の面ファスナーを互いに適宜間隔を置いて連続的にライン状に定着した面ファスナー付EVAを,押し付けて取り付ける」は,「部材の表面に,面ファスナー付防水シートを,押し付けて取り付ける」点で共通する。
(エ)公知発明の「防水シートの掛止方法」が,イ号方法の「トンネルの防水シート取付方法」に相当することは明らかである。

そうすると,両者は,
「トンネルの表面に形成した吹付けコンクリート面に,
面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる部材をそのうえからコンクリート釘を打ちつけることによって止着し,
部材の表面に,面ファスナー付防水シートを,押し付けて取り付ける,
トンネルの防水シート取付方法。」
である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる部材が,イ号方法では「不織布」であるのに対して,公知発明では「接続テープの合成繊維の植設面を互に対向させ押圧することにより,テープ同士が連結,固定される他の接続テープ」との記載に留まり,部材が特定されていない点。

(相違点2)
面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる部材をコンクリート釘で止着する際に,イ号方法では「当て板」を用いているのに対して,公知発明では「当て板」を用いていない点。

(相違点3)
防水シートの材質が,イ号方法では「EVA」であるのに対して,公知発明では材質が特定されていない点。

(相違点4)
面ファスナーが,イ号方法では「EVAシートの長手方向に沿って3本の帯状の面ファスナーを互いに適宜間隔を置いて連続的にライン状に定着し」ているのに対して,公知発明では「防水シートの一面全部又は一部」に貼設している点。

ウ 相違点についての当審の判断
(相違点1)について
上記(2-ア)によると,面ファスナーの被係止層として不織布が用いられる事項が記載されている。そして,公知発明と先行文献2は,トンネルへの防水シートの貼着という同一の技術分野に属することから,公知発明の「面ファスナ一を押しつけて取りつけることができる部材」として,「不織布」を採用することは当業者であれば容易に想到し得るというべきである。

(相違点2)について
シート状物を釘を用いて壁等に止着する際に,シート状物の上に当て板を用いて釘で止着することは周知の事項である。
例えば,本件特許発明の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-37669号公報には「また,前記防水シート(2)の両端部を夫々,側壁(b)の内面に当て板(5)を介してコンクリート釘等の固定具(6)にて止め付けるとともに」(2頁右下欄8?10行)と記載され,また,特開平2-153199号公報には「(2)天端位置にポリ塩化ビニール板(3)を取付機械により堀削した地山肌面にゴム裏当て(6)を介して圧着した。(3)次いでエヤ式釘打ち銃を用いてゴムバンキング(4)と押え座金(5)を通してコンクリート釘(7)を打ち付けた。」(3頁左上欄下から2行?右上欄4行)及び「(2)トンネルの円周方向,軸方向の位置決めを行ない,先づ地山(1)の天井壁面にエヤ式釘打ち銃を用いて未加硫ブチルゴムパッキングと押え座金を当て板としてポリエチレン板を取り付け固定する。」(3頁左下欄9?12行)と記載されている。
そうすると,公知発明において,相違点2に係るイ号方法の構成とすることに格別な困難性は認められない。

(相違点3)について
トンネルの防水シートの分野において,防水シートの材質としてEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)を用いることは周知の事項である。
例えば,本件特許発明の出願前に頒布された刊行物である実願平1-99928号(実開平3-40397号)のマイクロフィルムには「このトンネル工事用止水シート1は,第2図に示すように遮水シート2と通水層3とで大略構成されている。遮水シート2は,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,エチレン・酢酸ビニル共重合体等の軟質な熱可塑性樹脂やエラストマー等の軟質な合成ゴムより形成されている。」(明細書7頁7?13行)と記載され,また,実願平1-95662号(実開平3-36100号)のマイクロフィルムには「第1図は本考案の一実施例に係る防水シートを示すもので,この防水シート1は引張強度が160Kg/cm2以上で,かつ伸張度が600%以上のプラスチツク層2の両面に難燃剤を配合した難燃性プラスチック層3a,3bをそれぞれ積層したものである。ここで,難燃剤を配合した不透水性のプラスチック層に利用される樹脂としては,ポリエチレン,エチレン-酢酸ビニル共重合体,ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂,あるいはポリ塩化ビニル樹脂などであり」(明細書5頁4?14行)と記載されている。
そうすると,公知発明において,防水シートの材質として,エチレン酢酸ビニル共重合体を採用することに格別な困難性は認められない。

(相違点4)について
上記(1-ウ)の「なお,上記実施例においては防水シートの一部の山型突起3間の所定部分にのみ接続テープ6を張設したがこれに限らず,防水シート全面に張設しても良く,また山型突起3間に接続テープ6を張設せずに頂部5の一部又は全部にのみテープ6を貼着するようにしても良い。」との記載からみて,防水シートの頂部5にテープ6を貼る,つまり,面ファスナーを適宜間隔を置いて連続的にライン状に定着するようにすることは当業者であれば容易に想到し得るといえる。
また,面ファスナーの本数を何本にするのかは,防水シートの接着力等を考え,当業者が適宜行う設計事項に過ぎない。
更に,上記(1-エ)及び(1-オ)の記載からみて,公知発明においても,防水シートの長手方向に沿って接続テープを設けていることは明らかである。
そうすると,公知発明において,相違点4に係るイ号方法の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得るというべきである。

以上のことから,イ号方法は,公知発明に先行文献2及び周知の事項を適用することによって,当業者が容易に推考できたものである。

エ まとめ
以上検討したとおり,最高裁平成6年(オ)1083号判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)が判示するところの均等論が適用できるための5つの要件の内,少なくとも第四要件(対象製品の容易推考性)を満たすということができないのであるから,本件特許発明の構成要件Cとイ号方法の構成とが構成上異なる部分につき,その他の均等の要件を判断するまでもなく,均等論の適用ができないというべきである。

第5 むすび
以上検討したとおり,イ号方法は,文言上本件特許発明の技術的範囲に属さず,また,均等論が適用される余地もないから,イ号方法は,本件特許発明の技術的範囲に属さない。
よって,結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2010-03-10 
出願番号 特願平8-186982
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 憲子中槙 利明草野 顕子  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 郡山 順
松本 征二
登録日 1997-12-19 
登録番号 特許第2729986号(P2729986)
発明の名称 トンネルの防水シ-ト取付方法  
代理人 重松 沙織  
代理人 小島 隆司  
代理人 石川 武史  
代理人 小林 克成  
代理人 樋口 盛之助  
代理人 原 慎一郎  

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