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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1214783
審判番号 無効2007-800217  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-05 
確定日 2010-03-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3886275号「地下タンクの構造」の特許無効審判事件についてされた平成20年9月8日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成20年(行ケ)第10379号、平成21年2月12日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3886275号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 経緯

1.本件特許
本件特許に係る経緯は、概要、以下のとおりである。
出願日 平成10年12月9日
(特願平10-350451号)
設定登録日 平成18年12月1日
(請求項の数:3、権利者:大成建設株式会社)

2.本件請求
本件請求に係る経緯は、概要、以下のとおりである。
(1)清水建設株式会社(以下「請求人」という。)は、平成19年10月5日に請求項1ないし3に係る発明について特許無効審判を請求した。
(2)特許権者である大成建設株式会社(以下「被請求人」という。)は、平成19年12月21日付けで答弁書を提出した。
(3)平成20年5月30日に口頭審理が行われ、口頭審理当日、当事者双方より口頭審理陳述要領書が提出された。
(4)請求人、被請求人は平成20年6月16日にそれぞれ上申書を提出した。
(5)その後、平成20年9月8日付けで請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされた。
(6)これに対し、被請求人は、平成20年10月20日に審決の取消しを求める訴え(平成20年(行ケ)第10379号)を知的財産高等裁判所に提起し、その後90日の期間内である同年12月1日に訂正審判を請求したところ、当該裁判所は、平成21年2月12日付けで、特許法第181条第2項の規定により審決の取り消し決定をした。
(7)その後、特許法第134条の3第2項の規定により指定された期間内に訂正請求書が提出されなかったので、同法第134条の3第5項の規定により上記(6)の訂正審判の請求書に添付された訂正明細書を援用した「訂正の請求」がされたものとみなされることとなり、これに対し、請求人は平成21年4月10日付けで弁駁書を提出した。
(8)被請求人は、平成21年5月19日付けで上申書を提出した。

第2 訂正の可否に対する判断

1.訂正の内容
上記「第1 2.(7)」の訂正請求書に添付された訂正明細書によると、訂正請求された訂正(以下「本件訂正」という。)は、次のとおりである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の
「【請求項1】
側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、
地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に搭載した盛土とによって構成し、
側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、地下壁の上端の外周に取付けた棚板と、棚板の上に搭載した盛土の重量の和が、
底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造。

【請求項2】
地下壁の上端の外周に取付けた棚板は、
地下壁構築の際に使用したガイドウオールである、
請求項1記載の、地下タンクの構造。

【請求項3】
地下壁の上端の外周に取付けた棚板は、
地下壁溝築の際に使用したガイドウオールであって、
水平方向に分割して構成した、
請求項1、2記載の、地下タンクの構造。」を

「【請求項1】
側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、
地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土とによって構成し、
側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、地下壁の上端の外周に取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の和が、底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造。」と訂正する。

(2)訂正事項b
明細書の段落【0005】の
「【課題を解決するための手段】
上記のような目的を達成するために、本発明の地下タンクの構造は、側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に搭載した盛土とによって構成し、側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、地下壁の上端の外周に取付けた棚板と、棚板の上に搭載した盛土の重量の和が、底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造を特徴としたものである。」を

「【課題を解決するための手段】
上記のような目的を達成するために、本発明の地下タンクの構造は、側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土とによって構成し、側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、地下壁の上端の外周に取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の和が、底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造を特徴としたものである。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張、変更の存否
(1)訂正事項aについて
上記訂正事項aは、訂正前の特許請求の範囲の請求項2及び請求項3を削除するとともに、訂正前の請求項1の「棚板の上に搭載した盛土」との発明を特定する事項について、搭載を地下タンク構築後とし、盛土を荷重盛土とし、「棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。
また、明細書の段落【0011】の記載からみて、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項bについて
上記訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項1の訂正に伴うものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、上記訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

以上のことから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び同法同条第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 本件特許発明

上記「第2 訂正の可否に対する判断」で示したとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、上記「第1 2.(7)」の訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、
地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土とによって構成し、
側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、地下壁の上端の外周に取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の和が、
底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造。」

第4 当事者の主張(請求人)

請求人は、審判請求書、平成20年5月30日付け陳述要領書、平成20年6月16日付け上申書、平成21年4月10日付け弁駁書によれば、次の理由及び証拠方法から本件特許発明の特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきであると主張している。

〈無効の理由〉
本件訂正前の本件特許の請求項1から3に係る発明は、いずれも、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。
本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正前の請求項1に係る発明と実質的に異なるところはないから、その特許は同法123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。
(以下、各甲号証をその番号に合わせて、甲1などという。)

(1)本件訂正前の本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)について

本件訂正前の本件特許の請求項1に係る発明(本件発明1)について、以下、当事者の主張の通り分説する。
(構成A)
側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、
(構成B)
地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に搭載した盛土とによって構成し、
(構成C)
側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、地下壁の上端の外周に取付けた棚板と、棚板の上に搭載した盛土の重量の和が、底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、
(構成D)
地下タンクの構造。

本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり(理由1a)、また、甲1及び甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(理由1b、理由1c)。

〈甲1との一致点・相違点〉
(a)甲1は、スラブ(棚板)が土留壁(地下壁)でなく側壁(側壁)に取り付けられる点のみで、本件発明1と相違する(取付け対象の相違)。
(b)構成Cは一致点であり相違点ではない。スラブは「浮き上がり防止に必要な幅に設定され」(6頁12行?13行)ることから、甲1の地下式貯槽構造物は「浮き上がり防止」を目的としており、「揚圧力と等しいかそれよりも大きい」の重量を有していることは明らかである。

〈理由1a(甲1を単独引用例)〉
甲1は重量(スラブと盛土層)の加算により「経済的に地下水による揚圧力に対向できる」(3頁18行?20行)ものであり、その目的は、本件発明1の目的である「簡単な施工と構造によって、揚圧力に対抗する」(段落0004)と同じである。両発明ともその本質は重量の加算にあるところ、取付け対象の相違(側壁か土留壁か)自体は重量の増減に直接作用しないから、単なる設計事項である。
本件発明1は、甲1から容易に推考できたものである。

〈理由1b(甲1を主引用例)〉
甲2では、連続地中壁の頂部に結合したガイドウオールの重量を地下タンクの重量に加算する(段落0010、図1)。この構成は、本件発明1の「棚板」に相当する。
本件発明1は、甲1に、甲2の「連続地中壁の頂部にガイドウオールを結合した構成」を組み合わせることにより、容易に推考できたものでもある。
〈理由1c(甲2を主引用例)〉
(a)甲2は、重量の和が「揚圧力と等しいかそれよりも大きい」構成や「盛土」を備えていない点において本件発明1と相違する。
(b)しかし、上記相違点は甲1に開示されている。また、甲1は「液化ガスなどが貯蔵される地下式貯槽構造物の構造に関する」(1頁16行?17行)ものであり、甲2(地下タンクの構造)と技術分野を共通にする。また、本件発明1とも課題を共通とし、同一の効果を奏する。
本件発明1は、甲2に、甲1の「スラブと盛土層」の構成を組み合わせることにより、容易に推考できたものでもある。

(2)証拠方法
甲第1号証:実願平2-94761号(実開平4-53696号)明細書 甲第2号証:特開平6-270990号公報
甲第3号証:特開平5-93423号公報

なお、甲第1号証については「実願平2-94761号(実開平4-53696号)のマイクロフィルム」とする。

(3)本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(本件特許発明)について
本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正前の請求項1に係る発明と実質的に異なるところはないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。

第5 当事者の主張(被請求人)

被請求人は、平成19年12月21日付け答弁書において、「本件審判の請求を棄却する。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、同上答弁書、平成20年5月30日付け陳述要領書、平成20年6月16日付け上申書、上記「第1 2.(7)」の訂正の請求書、平成21年5月19日付け上申書によれば、概略、次のように主張している。
なお、「棄却する。」は「成り立たない。」の趣旨であるとする。

(1)本件訂正前の本件特許の請求項1に係る発明(本件発明1)について 本件訂正前の本件特許の請求項1に係る発明(本件発明1)について、前記第4 当事者の主張(請求人)の(1)で示したとおり分説する。

〈甲1との一致点・相違点〉に対して
(a)相違点の看過
本件発明1は甲1と下記4点で相違する。請求人は、相違点(B-2)、(C-2)を看過している。
相違点(B-1)
本件発明1では、棚板を「地下壁」に取り付けているのに対して、甲1では、張り出しスラブ20を「側壁14」に取り付けており、被取り付け対象(地下壁、側壁)が異なる点。
相違点(B-2)
本件発明1では、棚板を地下壁の「上端」に取り付けているのに対して、甲1では、張り出しスラブ20を側壁14の「上端部近傍」に取り付けており、取り付け部位(上端、上端部近傍)が異なる点。
相違点(C-1)
上記相違点(B-1)に伴い全体重量に加算する対象の内容が異なる点に加え、さらに、甲1では、段差20aと低温液体(満液状態)の重量も加算される点。
相違点(C-2)
本件発明1では、重量の和が「揚圧力と等しいかそれよりも大きい」のに対して、甲1では、重量の和が「揚圧力に対抗できる」としており、重量の和の条件が異なる点。

(b)説明
(b1)上端について
甲1では、「側壁14の上端を閉止するようにその上端部と一体的に形成された屋根16」(5頁11行?12行)、「側壁14の上端部近傍の外周縁に環状の張り出しスラブ20が、側壁14と一体に形成され」(6頁8行?9行)と記載されている。これによれば、側壁の「上端部」は屋根の取付け箇所を示し、側壁の「上端部近傍」はスラブの取付け箇所を示す。そして、図2では、スラブは、側壁の「上端部」ではなく「上端部」から一定距離下方の位置で取り付けられており、「上端部近傍」の「近傍」はこの「一定距離下方」の意味である。したがって、甲1の「上端部近傍」は本件発明1の「上端」と異なる。
(b2)重量和の定義について
甲1の「タンク自体の自重と盛土荷重との相互作用により地下式貯槽構造物の底板に作用する地下水の揚圧力に対抗でき、従来の地下式貯槽構造物のように底版などのタンク構成部分の厚みを過剰にする必要がないので、経済的な面で極めて有利になる。」(8頁9行?14行)において、「揚圧力に対抗できる」のは「タンクの自重と盛土荷重」のみなのか、それ以外も含まれるのか不明瞭であり、さらには、「タンクの自重」の範囲も不明瞭である(因みに、図2では、屋根の盛土層と満液液体も含まれる)。
(b3)揚圧力に対抗するについて
特許明細書の「揚圧力に対抗することができる」(段落0004等)との記載は、文字面上、甲1の「揚圧力に対抗できる」と同じであるが、特許明細書では「対抗する」の具体について、さらに「底板2に下から作用する場圧力と等しいかそれよりも大きくなるようにその形状を構成する。」(段落0013)と規定しており、この点で、特許明細書の「揚圧力に対抗する」は甲1の「揚圧力に対抗できる」と異なるものである。

〈理由1a(甲1を単独引用例)〉に対して
甲1には、そもそも、本件発明1の構成B「地下壁の棚板」や構成C「重量の和が揚圧力と等しいかそれより大きい」の思想が存在しないので、甲1から、本件発明1を容易に推考できるものではない。
(a)阻害要因
仮に、甲1において、スラブを土留壁(地下壁)に取り付けても、その「上端部近傍」(一定距離下方の位置)に取り付けた構成が得られるだけであり、本件発明1のように地下壁の「上端」に取り付けたことにはならない。下方の位置に棚板を取り付ける場合には、地盤をより深く掘削する、取り付け後に棚板上部を表層レベルまで埋め戻す、などといった新たな課題が生じる。
(b)本件発明1の有利性
甲1では、スラブ(盛土層支持)を側壁に取り付けるので、側壁を厚くする必要があり(せん断力対策等)、「壁の厚さを増して大きな重量を確保し、掘削幅を大きく拡大しなければならない」ことに繋がる。本件発明1では、棚板(盛土支持)を地下壁に取り付けるので、「側壁等を厚くする必要はない」との有利性がある。

〈理由1b(甲1を主引用例)〉に対して
甲1と甲2のいずれにも、本件発明1の構成B「地下壁の棚板」や構成C「重量の和が揚圧力以上」の開示がなく、構成Bと構成Cの組合せからなる技術思想も存在しないので、甲1と甲2を組み合わせたとしても、本件発明1を容易に推考できるものではない。
(a)構成B
本件発明1の棚板は「後述するような重量を支持できるだけの寸法、強度が必要となる」(段落0010)もので、棚板自身と盛土の双方の重量を地下壁に伝達する。
これに対して、甲2の「ジベル7」(段落0010、図1)は短尺であり大きな荷重に耐えることができないから、ガイドウオールは盛土を支持するものではない。ガイドウオールは自身の重量を地中連続壁に伝達するに止まり、盛土の重量は伝達しない。
ガイドウォール上の土(図1)は「覆土」であって「盛土」(荷重)ではない。因みに、本件の場合、盛土の重量は棚板の重量の約10倍である。
(b)構成C
(b1)重量の和の定義
甲2のガイドウォールは盛土を支持しないので、甲2には、盛土の重量を地下タンクの重量に加算するという技術思想は存在しない。 甲2の目的は「側壁や底版に要するコンクリートの量を低減させ」ることにあるから(段落0005)、甲2の「ガイドウオールの重量を加算できる」は「加算する重量と同等分の重量を、側壁や底版の重量(必要以上の重量)から差し引く」との意味であり、地下タンクの総重量を増加させるものではない。甲2には「ガイドウォールの重量を地下タンクの重量に加算する」という技術思想も存在しない。
(b2)重量の和の条件
甲2には「地下タンクの構造は・・・地下水で浮くのを防止するため、所定の厚みに形成されている」(段落0002)との記載はあるものの、「地下水で浮くのを防止する」ための条件(構成C)は記載されていない。
(b3)重量の和の定義と条件
本件発明1において重量和に加算する6つは最低限のものである。この最低限の重量が「揚圧力と等しいかそれよりも大きい」のであり、他の構成部材が加わっても(加えても)、この条件は変わらない。構成Cはこの点において格別の意義があり、甲2には勿論開示がない。
(b4)地下水位との関係
甲2のガイドウォールは地下水位より上方で結合されることを必須とする(段落0010)。本件発明1の「棚板」にこのような制限(地下水位より上方)はなく、地下水位の上方にある場合は棚板の重量と盛土の重量を伝達し、地下水位の下方にある場合は棚板の有効重量(浮力が差し引かれた)と盛土の重量を伝達する。
甲2の外側ガイドウオールの作用・効果は本件発明1と大きく異なる。
(c)阻害要因
仮に、甲1に甲2の「連続地下壁の頂部にガイドウオールを結合した構造」を組み合わせたとしても、単に、「スラブ(甲1)とガイドウオール(甲2)の双方を有する構成」(表4)が得られるに過ぎず、本件発明1の構成が得られる訳ではない。
加えて、上記構成(表4)から本件発明1に至るには、さらに、側壁からスラブを取り除き、次いで盛土層をガイドウォールで支持させる必要がある。しかし、スラブは甲1の本質的特徴とも言うべきものであり、甲1の本質的特徴を取り除く過程を経てはじめて本件発明1に至るというのであれば、これはもはや、甲1に甲2を組み合わせるという論理構成を大きく逸脱するものである。
(d)主張の矛盾
甲2は、請求人が出願人である特許出願の公開特許公報である。当該特許出願の手続き(意見書)において、請求人(出願人)自ら、「甲1の張り出しスラブ20は、甲2の外側ガイドウオールと同一視できない」趣旨の意見を述べた事実がある。本件審判請求で、一転、張り出しスラブと外側ガイドウオールとを同一視する旨の主張をするのは、これと矛盾し不当である。

〈理由1c(甲2を主引用例)〉に対して
甲2(主引用例)に甲1を組み合わせたとしても、本件発明1を容易に推考できるものではない。
(a)甲2(単独)
(a1)甲2には「盛土」に関する記載や記号は一切存在しない。ガイドウォール上の線(図1)はたまたま描かれたもので、これをもって「盛土」の根拠とすることはできない。仮に、同線が地表面を示すとしても「覆土」に過ぎない。
(a2)甲2のガイドウォールには、本件発明1の「棚板」と異なり、その上に「盛土」(荷重)を上載する必要性や蓋然性は存在せず、甲2のガイドウォールに「盛土」(荷重)を支持させること自体、甲2の本質を誤認するものである。甲2は、本件発明1の構成C「揚圧力と等しいかそれよりも大きい」を欠くものである。
(a3)また、甲2の技術思想は前記のとおり「加算する重量と同等分を、側壁や底版の重量から差し引く」であり、地下タンクの総重量を増加させるという技術思想ではない。
(a4)甲2から、本件発明1の構成B、Cを想起することはできず、したがって、本件発明1は甲2に対し進歩性を有する。

(b)甲2に甲1を組み合わせること
(b1)甲2の技術思想は「加算する重量と同等分を、側壁や底版の重量から差し引く」ものであり、甲2のガイドウォールを甲1の「スラブと盛土層」に置き換えたとしても(甲2のガイドウォールに甲1の「スラブにより盛土層を支持する」という技術思想を適用したとしても)、単に、「ガイドウォールと盛土」と同等分の重量を減じるだけのことであり、本件発明1の構成C「揚圧力と等しいかそれよりも大きい」との技術思想は形成し得ない。(b2)甲2には「連続地中壁の施工後、ガイドウォールを撤去しないことにより、施工期間の短縮を図る」という技術思想もある。甲2のガイドウォールを甲1の「スラブと盛土層」 に置き換えるにはガイドウォールの撤去を必要とするところ、これは、上記技術思想(ガイドウオールの不撤去、施工期間の短縮)を無視するものであり、甲2に接した当業者は採用しない。(b3)以上、甲2に甲1を置換・適用することは、甲2(主引用例)の技術思想を無視するものである。甲2に甲1を組み合わせたとしても、結局は、甲1(主引用例)に甲2を組み合わせた場合(上記表4)と同じであり、本件発明1の構成とはなり得ない。

(2)本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(本件特許発明)について
本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、甲1、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(a)甲2に記載された発明について
(a1)甲2の図1は、形状、位置関係、寸法等を正確に描いた設計図ではなく、技術思想を説明するため概念的に表した図面であり、甲2の明細書全体の記載に照らせば、ガイドウオール6が地下水位より上にあることを示すことができればよい。図1に土がガイドウオールの上にあるように描かれているからといって、土の存在を推認することはできない。したがって、甲2の図1に示されたものは、ガイドウオールに土を搭載する機能があると断定することができる根拠はない。
(a2)甲2の「側壁と底版は、底版に下から作用する揚圧力で浮くのを防止する」の意味するところが必ずしも明らかでないが、地下タンクの技術分野においては一般に、底板に下から作用する揚圧力に対抗して地下タンクを浮き上がらせない技術手法として、〈方式1〉地下タンクをタンク下方に設置したアンカーにて牽引してアンカー牽引力と地下タンクの重量にて揚圧力に対抗する方式(訂正審判請求書の甲第3号証、訂正審判請求書の甲第4号証参照)、〈方式2〉地下水をポンプにて吸水して地下水位を下げて揚圧力を減少する方式(訂正審判請求書の甲第3号証参照)、〈方式3〉地下タンクの重量のみにて揚圧力に対抗する方式(訂正審判請求書の甲第3号証等参照)の3通りの浮き上がり防止方式があるが、甲2には3通りの防止方式のうち上記方式3を採用した旨を窺わせる記載はなく、かつ、上記方式1、2を排除する旨の記載もないから、甲2発明は、上記方式3、すなわち、側壁と、底版と、屋根と、荷重盛り土の重量の和が、底版に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成したものである、と断定することはできない。
(b)甲2に甲1を組み合わせること
もともと甲2に記載の発明のガイドウオールが、土の搭載機能がないものであることから、その機能を具備する甲1に記載の発明の張り出しスラブの構成を削除することができないので、甲2に記載の発明に甲1に記載の発明を適用した発明は、甲2に記載の発明のガイドウオールと甲1に記載の発明の側壁上端部近傍に取付けられた張り出しスラブがともに具備されたものであり、本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明の構成とはなり得ない。

なお、被請求人は、平成20年12月1日付け訂正審判の請求書において、訂正審判請求書の甲第3号証(特開昭54-54430号公報)、訂正審判請求書の甲第4号証(特開平4-60069号公報)を提出している。

第6 当審の判断

1.甲第2号証、甲第1号証の記載

(1)甲第2号証
(1-1)甲第2号証(甲2)には、「地下タンクの構造」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。

〈産業上の利用分野〉
(ア)「本発明は、例えばLPG地下式貯槽等の地下構造物に用いて好適な地下タンクの構造に関するものである。」(段落0001)
〈従来の技術〉
(イ)「従来、地下タンクの構造は、地中に連続して構築される連続地中壁と、内部空間を画成する側壁と、この側壁の下端部に固定・設置される底版と、側壁の上端部に取り付けられた屋根とから構成されている。これら、連続地中壁と、側壁と、底版とは、鉄筋コンクリートからなり、これらが地下水で浮くのを防止するため、所定の厚みに形成されている。」(段落0002)
〈発明が解決しようとする課題〉
(ウ)「ところで、側壁や底版は、地下水の浮力に対する安全性から所定の厚みに形成されているために、側壁や底版の周囲の地盤の圧力に対抗できる強度以上の厚みに形成されている。このため、地盤を掘削する量が多大になり、側壁や底版に要するコンクリートの量が多大になる。
そして、連続地中壁を施工するときに使用した内側ガイドウォールと外側ガイドウォールとを撤去するために、これらの撤去作業が煩雑であった。 本発明は前記課題を有効に解決するもので、地盤を掘削する量を低減させるとともに、側壁や底版に要するコンクリートの量を低減させ、さらに外側ガイドウォールの撤去作業を不要にできる地下タンクの構造を提供することを目的とする。」(段落0004、段落0005)
〈課題を解決するための手段〉
(エ)「本発明の地下タンクの構造は、内部掘削時の山留壁としての連続地中壁と、地中に内部空間を画成する側壁と、該側壁の下端部に設置される底版とを有する地下タンクの構造であって、前記連続地中壁の頂部は、その外側に設置された外側ガイドウォールにジベルで結合されていることを特徴とするものである。」(段落0006)
〈作用〉
(オ)「本発明の地下タンクの構造では、連続地中壁の頂部は、その外側に設置された外側ガイドウォールにジベルで結合されているから、外側ガイドウォールを構造体の一部として利用できる。すなわち、ガイドウォールの重量が地下タンクの構造体の重量に加算される。」(段落0007)
〈実施例〉
〈地下タンクの構造〉
(カ)「以下、本発明の地下タンクの構造の一実施例について、図1を参照しながら説明する。図1に示すように、符号1は地下タンクの構造であり、この地下タンクの構造1は、地中に連続して構築された連続地中壁2と、この連続地中壁2の内側に固定・設置される底版3および側壁4と、側壁4の上端部に開閉自在に屋根5と、連続地中壁2の外側に設置された外側ガイドウォール6とから構成されている。」(段落0008)
(キ)「これら連続地中壁2と、底版3と、側壁4と、外側ガイドウォール6とは、鉄筋コンクリートから所定の厚みに形成されている。これら底版3、側壁4、屋根5に囲まれて内部空間8が画成されている。この内部空間8には、例えば、液化天然ガス等の液体が充填されている。前記底版3と側壁4とは、地中に構築され、これら底版3と側壁4との周囲の地盤の圧力に対抗できる必要な強度の厚みに形成されている。」(段落0009)
〈外側ガイドウォール〉
(ク)「外側ガイドウォール6は、地下水位より上方に構築され、連続地中壁2外側の周囲に配設され、かつ、この連続地中壁2の頂部にジベル7で結合されている。このジベル7は、例えば、スタッドボルト、アンカーボルト等からなり、連続地中壁2と外側ガイドウォール6とにまたがって配設され、鉛直方向および円周方向に沿って複数並設され、外側ガイドウォール6の自重をジベル7を介して連続地中壁2に伝達させることができる。また、地下水位より上方に構築された外側ガイドウォール6には、浮力が作用しないから、外側ガイドウォール6の全ての重量が地下タンクの構造体の重量に加算される。」(段落0010)
〈地下タンクの施工〉
(ケ)「まず、外側ガイドウォール6と内側ガイドウォールとを仮設する。これら外側ガイドウォール6と内側ガイドウォールとの間を掘削し、連続地中壁用鉄筋籠(図示略)を挿入する。その後、コンクリートを打設し、連続地中壁が完成するが、このときに、外側ガイドウォール6に、その内側に突出するジベル7を取り付けておくことにより、連続地中壁2の頂部と外側ガイドウォール6とを結合する。連続地中壁2完成後に、内側ガイドウォールを撤去する。次に、連続地中壁2内部の地盤を床付け位置まで掘削し、掘削された地中の底部に底版用鉄筋(図示略)を組み立て、地中の底部にコンクリートを打設することにより底版3が完成する。連続地中壁2の内側には、側壁用鉄筋(図示略)を組み立て、コンクリートを打設することにより、側壁4が完成する。その後、側壁4の上端部に屋根5を取り付けることにより、地下タンクの構造1が施工される。」(段落0011)
〈効果等〉
(コ)「このような地下タンクの構造1によれば、連続地中壁2の頂部は、その外側に設置された外側ガイドウォール6にジベル7で結合したから、外側ガイドウォール6の重量を地下タンクの構造体の重量に加算できる。このため、地下タンクの構造体における地下水の浮力に対する安全性を維持できるとともに、側壁4や底版3を周囲の地盤の圧力に対抗できる必要な強度の厚みに形成できるから、側壁4や底版3を薄くでき、地盤を掘削する量を低減でき、側壁4や底版3に要するコンクリートの量を低減できる。したがって、地下タンクの構造1の施工期間を短縮でき、地下タンクの構造1の施工に要する費用を低減できる。」(段落0012)
(サ)「そして、外側ガイドウォール6を連続地中壁2に結合して、地下タンクの構造体の重量として利用するために、外側ガイドウォール6の撤去作業を不要にできる。このため、地下タンクの構造1の施工作業性を向上させることができ、外側ガイドウォール6の撤去作業を不要にできるから、地下タンクの構造1の施工期間を短縮できる。」(段落0013)
(シ)「さらに、外側ガイドウォール6を地下水位より上方に構築したため、外側ガイドウォール6自身に浮力が作用するのを防止でき、外側ガイドウォール6の重量の全てを地下タンクの構造体の重量に加算できる。このため、地下タンクの構造体における地下水の浮力に対する安全性を向上できる。」(段落0014)

(1-2)甲第2号証に記載された発明
(a)地下タンクの構造
甲2の上記記載(ア)ないし(キ)からすると、甲2には「地下タンクの構造」に関して、従来例として、地中に連続して構築される連続地中壁と、内部空間を画成する側壁と、この側壁の下端部に固定・設置される底版と、側壁の上端部に取り付けられた屋根とから構成された構造(従来構造という)が記載され、本発明として、地中に連続して構築された連続地中壁2と、連続地中壁2の内側に固定・設置される底版3および側壁4と、側壁4の上端部に開閉自在に屋根5と、連続地中壁2の外側に設置されたガイドウォール6とから構成される構造体(甲2構造体という)が記載されている。甲2構造体を構成する要素は従来構造を構成する要素にガイドウォール6を加えたものである。
(b)ガイドウオール6
甲2の上記記載(ク)からすると、甲2構造体では、ガイドウォール6が連続地中壁2の外側の周囲に配設され、連続地中壁2の頂部にジベル7で結合される。
(c)土
甲2の図1には、ガイドウォールの上方と下方のそれぞれに水平線が引かれている。上方の線は地表面を示し下方の線は地下水位を示すことが看て取れる。
図1中のガイドウォールと下方水平線との間隔は、「外側ガイドウォール6は、地下水位より上方に構築され」(上記記載(ク))ることを示すこと(単なる図面上の空白ではないこと)に照らせば、ガイドウォールと上方水平線との間隔は、ガイドウオールが地表面より下方に構築されることを示すものであり、したがって、ガイドウォールの上面には「土」が存在すると理解するのが自然である。
(d)重量の和、揚圧力と等しいかそれよりも大きい
甲2の上記記載(イ)、(カ)、(シ)からすると、従来、「地下タンクの構造は、地中に連続して構築される連続地中壁と、内部空間を画成する側壁と、この側壁の下端部に固定・設置される底版と、側壁の上端部に取り付けられた屋根とから構成されている。これら、連続地中壁と、側壁と、底版とは、鉄筋コンクリートからなり、これらが地下水で浮くのを防止するため、所定の厚みに形成されている。」、そして、課題解決のために、地下タンクの構造1を、「地中に連続して構築された連続地中壁2と、この連続地中壁2の内側に固定・設置される底版3および側壁4と、側壁4の上端部に開閉自在に屋根5と、連続地中壁2の外側に設置された外側ガイドウォール6とから構成」することにより、「外側ガイドウォール6を地下水位より上方に構築したため、外側ガイドウォール6自身に浮力が作用するのを防止でき、外側ガイドウォール6の重量の全てを地下タンクの構造体の重量に加算できる。このため、地下タンクの構造体における地下水の浮力に対する安全性を向上できる。」のであるから、甲2は、地下タンクの重量によって揚圧力に対抗する方式(被請求人の主張する〈方式3〉)を採用し、地下タンクを浮き上がらせなくしたものであることは明らかである。
さらに、甲2の上記記載(イ)、(オ)、(ク)、(コ)、(シ)からすると、甲2は、地下タンクが「地下水で浮くのを防止する」ことが従来からの課題であったところへ、今回、「外側ガイドウォール6が・・・連続地中壁2の頂部に・・・結合される」ことにより、「外側ガイドウォール6の重量を地下タンクの構造体の重量に加算できる。このため、地下タンクの構造体における地下水の浮力に対する安全性を維持できる」としたものである。これは、重量により「地下水で浮くのを防止する」との思想に立つものである。すなわち、地下タンクには種々の力が作用するところ、このうち重量(重力)と地下水(浮力、揚圧力)に限定した2つの力の観点から地下タンクの鉛直方向の安定性を考察するものである。
ところで、上記2つの力の観点から安定性を考察することとした場合、重量が「底板に下から作用する揚圧力」よりも小さいと、揚圧力が重量に勝り、「地下水で浮くのを防止する」ことができないことは、特許明細書の上記記載を待つまでもなく、力学の原理(力のつりあい条件)である。甲2が重量により「地下水で浮くのを防止する」との思想に立つ以上、重量が「底板に下から作用する揚圧力よりも等しいか大きい」ことを設計の基本としていることは明らかである。

以上のことからすると、甲第2号証には、
「連続地中壁2の内側に固定・設置される側壁4、連続地中壁2の内側に固定・配置される底版3、側壁4の上端部に開閉自在に構成された屋根5、地中に連続して構築された連続地中壁2によって構成された地下タンクにおいて、
連続地中壁2の上端に外周方向にジベル7で取り付けられたガイドウオール6と、ガイドウオール6の上に搭載した土とによって構成され、
前記側壁4と、前記底版3と、前記屋根5と、前記連続地中壁2と、ガイドウオール6の重量の和である地下タンクの構造に係る重量が、底版3に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造。」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)甲第1号証
甲第1号証(甲1)には、「地下式貯槽構造物」(考案の名称)に関して、以下の記載がある。

〈産業上の利用分野〉
(ス)「この考案は、液化ガスなどが貯蔵される地下式貯槽構造物の構造に関する。」(1頁16行?17行)
〈作用〉
(セ)「上記構成の地下式貯槽構造物によれば、側壁の上端部近傍の外周縁に設けられた環状の張り出しスラブと、この張り出しスラブ上に積載された盛土層とを有しているので、地下式貯槽構造物には、地下式貯槽構造物自体の自重に加え、盛土層の荷重が作用しており、これらの相互作用により地下式貯槽構造物の底版に作用する地下水の揚圧力に対抗できる。」(4頁11行?18行)
〈実施例〉
(ソ)「地下式貯槽構造物は、これを構築する際に地上から地中連続壁工法により地盤E中の支持層に下端が到達するように形成された環状の土留壁10と、土留壁10の内部を根切りして、その底面に砕石層11を敷設した上に形成された円盤状の底版12と、前記土留壁10の内面側にこれと一体に形成された両端が開口した円筒状の側壁14と、側壁14の上端を閉止するようにその上端部と一体的に形成された屋根16とを有していて、底版12,側壁14,屋根16とで四周が画成されている。」(5頁4行?14行)
(タ)「この実施例の地下式貯槽構造物では、側壁14の上端部近傍の外周縁に環状の張り出しスラブ20が、側壁14と一体に形成され、この張り出しスラブ20上に盛土層22が設けられている。」(6頁7行?11行)
(チ)「以上のように構成された地下式貯槽構造物では、側壁14の上端部近傍の外周緑に投げられた環状の張り出しスラブ20と、この張り出しスラブ20上に積載された盛土層22とを有しているので、地下式貯槽構造物には、地下式貯槽構造物自体の自重に加え、盛土層22の荷重が作用しており、これらの相互作用により地下式貯槽構造物の底版に作用する地下水の揚圧力に対抗できる。」(7頁3行?10行)
(ツ)「第2図は、この考案の他の実施例を示しており、以下にその特徴点についてのみ説明する。
同図に示す実施例では、屋根16の高さが第1図のものよりも高いので、盛土層22は、側壁14の上端部近傍の外周縁に形成された張り出しスラブ20上にだけ載置するようにしている。」(7頁11行?16行)

2.本件特許発明について
(1)本件特許発明の記載
本件特許発明は下記のとおりである。

「側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、
地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土とによって構成し、
側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、地下壁の上端の外周に取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の和が、底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造。」

(2)対比
本件特許発明と甲2発明を対比すると以下の対応が認められる。
(a)地下タンク
甲2発明の「連続地中壁2の内側に固定・設置される側壁4」、「連続地中壁2の内側に固定・設置される底版3」、「側壁4の上端部に開閉自在に屋根5」および「地中に連続して構築された連続地中壁2」は、それぞれ、本件特許発明にいう「側壁」、「底板」、「屋根」および「側壁の外周に設置した地下壁」に相当する。

(b)棚板
(b1)棚板の一般的意味
「新明解国語辞典」(三省堂)によれば、「棚」とは「板を横に渡して物を載せる場所」の意味であり「棚板」とは「棚として使われる板」の意味である。
(b2)本件特許発明の棚板
本件特許発明の「棚板」は、「片持ち梁状に張り出した状態で取り付ける」(特許明細書の段落0009)ものであり、「地下連壁1の上端とは構造上一体化するように構成する。そのために・・・キー71・・・せん断伝達鋼材72・・・機械継ぎ手73・・・重ね継ぎ手・・・といった各種の構成を採用することができる」(同段落)ものである。
本件特許発明は、「片持ち梁状に張り出した状態(で取り付ける)」が上記一般的意味にいう「板を横に渡し」た状態に類似し、その上に「盛土を搭載する」構成が上記一般的意味にいう「物を載せる」機能に該当することから、これを「棚板」と称していることが認められる。
(b3)甲2発明のガイドウオール6
甲2発明のガイドウオール6が連続地中壁に「片持ち梁状に張り出した状態」でジベルで結合されることは図1からも明らかであり、また、ジベルの形状・構成が特許明細書の「せん断伝達鋼材72」(図2)と何ら異ならないことは明らかである。また、ガイドウォール6がその上に土を搭載することは前記のとおりである。したがって、上記一般的意味に照らせば、甲2発明のガイドウォール6も「棚板」といえるものであり、そうすると、甲2発明のガイドウオール6は本件特許発明の「地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板」に相当するものである。

(c)棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土
甲2発明は、ガイドウオール6(棚板)の上に搭載した土を含むものであり、そうすると、本件特許発明とは、「棚板の上に搭載した土」を含む点で一致する。
もっとも、本件特許発明では「土」が、地下タンク構築後に棚板の上に搭載され、また、「荷重盛土」であるところ、甲2発明では、「土」が、地下タンク構築後に棚板の上に搭載され、また、「荷重盛土」であるとの明示はない。

(d)重量の和、揚圧力と等しいかそれよりも大きい
甲2発明は、側壁4と、底版3と、屋根5と、連続地中壁2と、ガイドウオール6の重量の和である地下タンクの構造に係る重量が、底版3に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成したものであり、そうすると、甲2発明と本件特許発明とは、「地下タンクの構造に係る重量が、底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した」点において一致する。
もっとも、本件特許発明では、「棚板の上に搭載した土」を「荷重盛土」として重量に加算しており、したがって、地下タンクの構造に係る重量が「側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、棚板と、棚板の上に搭載した荷重盛土の重量の和」であるのに対して、甲2発明では、地下タンクの構造に係る重量が「側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、棚板の重量の和」であり、「棚板上に搭載した土」が「荷重盛土」であるとも、これを重量に加算するとも記載がない点で、相違が認められる。

(3)一致点・相違点
本件特許発明と甲2発明との一致点及び相違点は下記のとおりである。
記(一致点)
側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、
地下壁の上端に外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に搭載した土とによって構成し、
地下タンクの構造に係る重量が、底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造。
記(相違点)
本件特許発明では、「棚板の上に搭載した土」が、「地下タンク構築後に」棚板の上に搭載され、また、「荷重盛土」とし重量に加算し、地下タンクの構造に係る重量が「側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、棚板と、棚板の上に搭載した荷重盛土の重量の和」であるのに対し、甲2発明では、「棚板の上に搭載した土」が、「地下タンク構築後に」棚板の上に搭載されるとの明示はなく、また、「棚板の上に搭載した土」を「荷重盛土」とし重量に加算するとの明示はなく、地下タンクの構造に係る重量が「側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、棚板の重量の和」である点。

(4)相違点等の判断
(4-1)「棚板の上に搭載した土」を「荷重盛土」とし重量に加算し、地下タンクの構造に係る重量を「側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、棚板と、棚板の上に搭載した荷重盛土の重量の和」とする点について
(a)甲2
甲2の「ガイドウオールの重量が地下タンクの構造体の重量に加算される」はすなわち、タンク構造体に付属する物の重量をもタンク構造体の重量として考慮するという思想に立つものである。そして、ガイドウオール(棚板)は、本来、地下タンクの構成要素でないことに照らせば、甲2には、ガイドウオール(棚板)に限らずその他の付属物についても重量加算の対象とすることについて示唆があると言うべきである。
加えて、ガイドウオール(棚板)の重量を加算することとする以上は、ガイドウオール(棚板)自体に物が付属する場合、その付属物はガイドウオール(棚板)と一体のものであるとして、その分ガイドウオール(棚板)の重量に修正を加えなければならないことは、当業者が自然に理解するところである。
そうすると、甲2のようにガイドウオール(棚板)上に土が存在するときは、修正(土の重量)を加えたガイドウオール(棚板)の重量を加算することは、当業者において当然の行為である。
(b)甲1
甲1には、「地下式貯槽構造物では、側壁14の上端部近傍の外周緑に投げられた環状の張り出しスラブ20と、この張り出しスラブ20上に積載された盛土層22とを有しているので、地下式貯槽構造物には、地下式貯槽構造物自体の自重に加え、盛土層22の荷重が作用しており、これらの相互作用により地下式貯槽構造物の底版に作用する地下水の揚圧力に対抗できる。」(上記記載チ)、「上記盛土層22は、この実施例では、張り出しスラブ20上に載置するだけでなく、タンクの屋根16の上面を全面に亘って覆うようにして設けられている。」(6頁19行?7頁2行)と記載されている。
甲1には、地下式貯槽構造物自体の自重に加え盛土層の荷重も作用させることにより地下水の揚圧力に対抗することとし、その側壁(上端部)の外周に張り出す形状で付属させた部材(張り出しスラブ20)上に搭載した盛土層を荷重の一つとすること、すなわち、荷重盛土とすることが開示されている。
(c)小括
甲2と甲1とは、構造物本体(地下タンク、地下式貯層構造物)の自重に付属物の重量を加算することにより、地下水で浮くのを防止する(揚圧力に対抗する)ものであり、それらの目的は共通する。また、甲2の「ガイドウオールと土」と甲1の「スラブと盛土層」の各部分は、構造物の外周に張り出す形状で付属させた部材とその上の土という構造において類似する。
上記相違点に係る構成は、甲2において、構造体の付属物の重量も考慮するとの考えの下、甲2の構造(ガイドウオールと土)と甲1の構造(スラブと盛土層)の類似性に着目し、甲2の「土」に甲1の「スラブ上に搭載した盛土層の荷重」の考えを採用することにより、当業者が容易になし得ることである。
〈効果等について〉
本件特許発明の上記相違点に係る効果も、甲2及び甲1の記載ならびに上記力学上の事項から予測することができる程度のものである。

(4-2)「棚板の上に搭載した土」が、「地下タンク構築後に」棚板の上に搭載される点について
甲2の図1の地下タンクの構築において、外側ガイドウオール6(棚板)は地盤を掘削した後に連続地中壁2とジベル7によって結合されるから、その施工段階では、外側ガイドウオール6(棚板)の上部には土は存在しないと考えるのが妥当である。甲2において、土を施工する時期は特定されていないが、これを地下タンクの構築後に行うことは当業者であれば、容易に想到し得ることである。

(4-3)そして、前記相違点を総合的に検討しても奏される効果は当業者が当然に予測できる範囲内のものであり、格別顕著なものがあるとは認められない。

(5)まとめ
以上、本件特許発明は、甲2及び甲1に記載された発明ならびに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.当事者の主張について
(a)被請求人の主張
甲2には「盛土」について記載がない。ガイドウオール上の土は「覆土」(軽量)であり「盛土」(荷重)としての作用はない。
(当審)
甲2の土が「覆土」であれ「埋め戻し」であれ土である以上その重量は無視できるものではない。荷重作用はあるというべきである。ガイドウオールの重量が「地下水で浮くのを防止する」以上、その上に付属する土の重量もこの防止に寄与することは明らかである。甲2に「盛土」(荷重)の趣旨の記載がないことは妨げとはならない。
(b)被請求人の主張
本件特許発明は大小関係(揚圧力と等しいかそれよりも大きい)を規定するところ、甲2の「地下水で浮くのを防止する」や甲1の「地下水による揚圧力に対応できる」の記載は、具体的な大小関係まで示唆するものではない。 (当審)
特許明細書には「そうすれば上向きの力よりも下向きの力が大きくなり、揚圧力によって地下タンクが浮き上がる危険性は排除される。」(段落0013)と記載されている。これによれば、本件特許発明の大小関係の目的は「揚圧力によって地下タンクが浮き上がる危険性は排除される。」(同)ものであり、甲2の「地下水で浮くのを防止する」と同じものである。また、大小関係が基礎とする「そうすれば上向きの力よりも下向きの力が大きくなり」(同)は、単なる「力のつりあい条件」(力学の原理)にほかならないことは前記のとおりである。本件特許発明の力の大小関係は何ら新しい知見に基づくものではない。
(c)被請求人の主張
甲2のジベルは短尺であり大きな荷重に耐えることができないから、ガイドウオールは盛土を支持するものではなく、盛土の重量を地中連続壁に伝達するものでもない。
(当審)
特許明細書の「せん断伝達鋼材72」(図2)の形状・構成は、甲2の「ジベル7」(図1)と何ら異ならない。本件各発明の「せん断伝達鋼材72」が盛土荷重に耐えることができるとする以上、甲2の「ジベル7」もまた盛土荷重に耐えることができると言うべきである。また、他に、甲2のジベルが短尺であること、短尺なジベルは荷重に耐えることができないことにつき証拠もない。
主張は当を得ない。
(d)被請求人の主張
甲2は、ガイドウオールと同等分の重量を、側壁や底版の重量(必要以上の重量)から差し引くものであり、地下タンクの総重量の増減はない。
(当審)
仮に、差し引くものであるとしても、差し引いた後のタンク構造体も差し引く前と同様に安定性を維持しており、依然として構成Cにいう大小関係にあることは明らかである。主張は当を得ない。
(e)被請求人の主張
本件特許発明は、重量和に加算する重量を最低限(6つ)とした点に格別の意義がある。
(当審)
甲2の最低限(5つ)にさらに「土」を考慮に入れることが容易になし得ることは前記のとおりである。「土」は「地下水の浮力に対する安全性を維持する」際に考慮する項目の一つに過ぎず、格別の意義があるとは言えない。
(f)被請求人の主張
甲2のガイドウォールは、地下水位より上方で連続地中壁に結合されることを必須とする。
(当審)
本件特許発明は、地下水位に対するガイドウオール(棚板)の取付け位置を規定するものではない。仮に、甲2のガイドウォールの結合位置(地下水位より上方)が必須であるとしても、妨げにはならない。
(g)被請求人の主張
甲2に甲1を組み合わせるには、甲2のガイドウォールを撤去し甲1の「スラブと盛土層」に置き換える必要があるところ、撤去は、甲2の技術思想(ガイドウォールを撤去しない、施工期間の短縮)を無視するものである。 (当審)
前記のとおり、当業者は、甲2の「ガイドウオールと土」の構造と甲1の「スラブと盛土層」の構造との類似性に着目し、甲2の土を「盛土」にしようとするものであり、甲2においてガイドウオールを撤去する手順を踏むものではない。主張は前提を異にし当を得ない。
(h)被請求人の主張
甲1の重量の和には「満液液体」も含まれる。
(当審)
重量の和に満液液体を含む設計基準では、液体を収容しない状態で浮き上がる危険性があり、そのような設計基準は通常取らないものである。仮にそのような設計基準であったとしても甲1が開示する「盛土」の重量を加算するという思想を没却するものではない。主張は当を得ない。
(i)被請求人の主張
請求人の「張り出しスラブと外側ガイドウオールとを同一視する」主張は、請求人が特許出願(請求人が出願人、甲2が公開公報)の手続きにおいてした「同一視できない」趣旨の意見と矛盾し不当である。
(当審)
被請求人が挙げる特許出願は、本件特許に係る出願とは関係のない異なる出願であり、同出願手続きにおける請求人の主張は本件審理とは無関係である。主張は採用できない。
(j)被請求人の主張
甲2の図1は、形状、位置関係、寸法等を正確に描いた設計図ではなく、技術思想を説明するため概念的に表した図面であり、甲2の明細書全体の記載に照らせば、ガイドウオール6が地下水位より上にあることを示すことができればよい。図1に土がガイドウオールの上にあるように描かれているからといって、土の存在を推認することはできない。したがって、甲2の図1に示されたものは、ガイドウオールに土を搭載する機能があると断定することができる根拠はない。
(当審)
甲2の図1には、ガイドウォールの上方と下方のそれぞれに水平線が引かれている。上方の線は地表面を示し下方の線は地下水位を示すことが看て取れる。図1中のガイドウォールと下方水平線との間隔は、「外側ガイドウォール6は、地下水位より上方に構築され」ることを示すこと(単なる図面上の空白ではないこと)に照らせば、ガイドウォールと上方水平線との間隔は、ガイドウオールが地表面より下方に構築されることを示すものであり、したがって、ガイドウォールの上面には「土」が存在すると理解するのが自然である。主張は採用できない。
(k)被請求人の主張
甲2の「側壁と底版は、底版に下から作用する揚圧力で浮くのを防止する」の意味するところが必ずしも明らかでないが、地下タンクの技術分野においては一般に、底板に下から作用する揚圧力に対抗して地下タンクを浮き上がらせない技術手法として、〈方式1〉地下タンクをタンク下方に設置したアンカーにて牽引してアンカー牽引力と地下タンクの重量にて揚圧力に対抗する方式(訂正審判請求書の甲第3号証、訂正審判請求書の甲第4号証参照)、〈方式2〉地下水をポンプにて吸水して地下水位を下げて揚圧力を減少する方式(訂正審判請求書の甲第3号証参照)、〈方式3〉地下タンクの重量のみにて揚圧力に対抗する方式(訂正審判請求書の甲第3号証等参照)の3通りの浮き上がり防止方式があるが、甲2には3通りの防止方式のうち上記方式3を採用した旨を窺わせる記載はなく、かつ、上記方式1、2を排除する旨の記載もないから、甲2発明は、上記方式3、すなわち、側壁と、底版と、屋根と、荷重盛り土の重量の和が、底版に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成したものである、と断定することはできない。
(当審)
上記甲2の記載(イ)、(カ)、(シ)からすると、甲2は、従来、「地下タンクの構造は、地中に連続して構築される連続地中壁と、内部空間を画成する側壁と、この側壁の下端部に固定・設置される底版と、側壁の上端部に取り付けられた屋根とから構成されている。これら、連続地中壁と、側壁と、底版とは、鉄筋コンクリートからなり、これらが地下水で浮くのを防止するため、所定の厚みに形成されている。」、そして、課題解決のために、地下タンクの構造1を、「地中に連続して構築された連続地中壁2と、この連続地中壁2の内側に固定・設置される底版3および側壁4と、側壁4の上端部に開閉自在に屋根5と、連続地中壁2の外側に設置された外側ガイドウォール6とから構成」することにより、「外側ガイドウォール6を地下水位より上方に構築したため、外側ガイドウォール6自身に浮力が作用するのを防止でき、外側ガイドウォール6の重量の全てを地下タンクの構造体の重量に加算できる。このため、地下タンクの構造体における地下水の浮力に対する安全性を向上できる。」のであるから、甲2は、地下タンクの重量によって揚圧力に対抗する方式(被請求人の主張する〈方式3〉)を採用し、地下タンクを浮き上がらせなくしたものであることは明らかである。主張は当を得ない。
(l)被請求人の主張
もともと甲2に記載の発明のガイドウオールが、土の搭載機能がないものであることから、その機能を具備する甲1に記載の発明の張り出しスラブの構成を削除することができないので、甲2に記載の発明に甲1に記載の発明を適用した発明は、甲2に記載の発明のガイドウオールと甲1に記載の発明の側壁上端部近傍に取付けられた張り出しスラブがともに具備されたものであり、本件訂正後の本件特許の請求項1に係る発明の構成とはなり得ない。
(当審)
甲2と甲1とは、構造物本体(地下タンク、地下式貯層構造物)の自重に付属物の重量を加算することにより、地下水で浮くのを防止する(揚圧力に対抗する)ものであり、それらの目的は共通する。また、甲2の「ガイドウオールと土」と甲1の「スラブと盛土層」の各部分は、構造物の外周に張り出す形状で付属させた部材とその上の土という構造において類似する。そうすると、甲2発明において、「棚板の上に搭載した土」を「荷重盛土」とし重量に加算し、地下タンクの構造に係る重量を「側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、棚板と、棚板の上に搭載した荷重盛土の重量の和」とすることは、甲2において、構造体の付属物の重量も考慮するとの考えの下、甲2の構造(ガイドウオールと土)と甲1の構造(スラブと盛土層)の類似性に着目し、甲2の「土」に甲1の「スラブ上に搭載した盛土層の荷重」の考えを採用することにより、当業者が容易になし得ることである。主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明は甲第1号証および甲第2号証に記載された発明ならびに周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
地下タンクの構造
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、
地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土とによって構成し、
側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、地下壁の上端の外周に取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の和が、底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、地下タンクの構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に地下タンクは図7に示すように、側壁aと、底板bと、屋根cと、側壁aの外周に設置した地下連壁dとによって構成してある。
タンクの底板bには地下水の水頭に応じて、大きな揚圧力が下から作用して、タンクに浮き上がり力を与えている。
【0003】
【本発明が解決しようとする課題】
上記のような揚圧力に対抗するためには、従来の地下タンクでは壁、床版の厚さを増して大きな重量を確保し、そのコンクリートの重量によって揚圧力に対抗する対策を採用している。
しかしこのような対策を採用するためには、掘削深さ、および掘削幅を大きく拡大しなければならず、またコンクリートの体積が大きくなりきわめて不経済となる。
【0004】
本発明は上記したような従来の問題を解決するためになされたもので、簡単な施工と構造によって、揚圧力に対抗することができる、地下タンクの構造を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記のような目的を達成するために、本発明の地下タンクの構造は、側壁と、底板と、屋根と、側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タンクにおいて、地下壁の上端に、外周方向に向けて取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土とによって構成し、側壁と、底板と、屋根と、地下壁と、地下壁の上端の外周に取付けた棚板と、棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の和が、底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した、地下タンクの構造を特徴としたものである。
【0006】
【本発明の実施の態様】
以下図面を参照しながら本発明に関わる地下タンクの構造の実施例について説明する。
【0007】
<イ>一般的構造。
地下タンクは一般にはまずタンクの周囲に地下連壁1を構築し、地下連壁1によって包囲した内側の地山を最深部まで掘削し、底板2コンクリートを打設し、側壁3を立ちあげて構築してゆく。最上部まで立ちあげたら屋根6を架設して完了する。
【0008】
<ロ>地下連壁の構築。
地下連壁1の構築に際してはまず地表部分にガイドウオール4を設ける。
このガイドウオール4はコンクリート製の板体であり、地下連壁1の溝の縁に枠として配置する。このガイドウオール4を設けることによって、地下連壁1構築のための掘削機5が移動しても溝の周囲の地山が崩壊することを防止することができる。
したがって、地下連壁1の施工が完了するとガイドウオール4は地下連壁1の頭部に位置することになる。
【0009】
<ハ>棚板の形成。
上記のように、地下タンクは側壁3と、底板2と、屋根6と、側壁3の外周に設置した地下連壁1とによって構成してある。
このような地下タンクにおいて、地下連壁1の上端に、外周方向に向けて棚板7を片持ち梁状に張り出した状態で取付ける。
この棚板7は、地下連壁1の上端とは構造上一体化するように構成する。
そのために例えば地下連壁1の上端と棚板7とをキー71を介して取付けたり(図)、上端と棚板7とに連続するせん断伝達鋼材72を水平に配置したり(図)、上端と棚板7との間に機械継ぎ手73で連続した鉄筋74を配置したり(図)、あるいは連壁1の上端内部で、連壁1の鉄筋11と棚板7の鉄筋74を重ね継ぎ手で構成したり(図)、といった各種の構成を採用することができる。
棚板7の構築は地表面に棚板7部分を掘削して構成する。したがって地表面の掘削、地表面での鉄筋組み立て、地表面からのコンクリートの打設といった、通常のスラブ構築の方法とかわりなく、きわめて簡単な作業によって構築することができる。
なお、実際には地下連壁1の上端は解体して新たに別のコンクリートを打設して継ぎ足す場合が多いが、そのように継ぎ足した部分も含めて本明細書では『地下連壁1』と称している。
【0010】
<ニ>ガイドウオール4の転用。
地下連壁1の上端の外周に取付ける棚板7は、あらたに構築することも可能であるが、地下連壁1の構築に際して設置したガイドウオール4を転用することができる。その場合には通常の仮設のガイドウオール4とは異なり、後述するような重量を支持できるだけの寸法、強度が必要となる。地下タンクの周囲に配置するガイドウオール4は、水平方向に連続して一体化している。このように一体化して構成してあるガイドウオール4を、水平方向にユニットごとに分割して構成することもできる。
【0011】
<ホ>棚板7上の盛土。
地下タンクの構築が完了したら、盛土を行う。
盛土で重要な点は、特に地下タンクの周囲に配置した棚板7の上に搭載した荷重盛土8の量である。
【0012】
<ヘ>棚板7上の荷重盛土8の決定。
棚板7は自由な寸法だけ周囲に張り出すものではなく、その上に搭載する荷重盛土8の量、すなわち荷重盛土8の重量が問題である。
そのために板の寸法の決定は、
【0013】
[棚板7の上に搭載した荷重盛土8の重量]と、[側壁3の重量]と、[底板2の重量]と、[屋根6の重量]と、[地下連壁1の重量]と、[棚板7の重量]の和が、底板2に下から作用する[揚圧力]と等しいかそれよりも大きくなるようにその形状を構成する。
そうすれば上向きの力よりも下向きの力が大きくなり、揚圧力によって地下タンクが浮き上がる危険性は解除される。
【0014】
【本発明の効果】
本発明の地下タンクの構造は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<イ>コンクリートを厚くして重量を増加するためにはタンクの底板2、あるいは側壁3の掘削量を増加しなければならない。
しかし本発明の構成であれば、地表面に棚板7部分を配置するだけであるから、地表掘削、地表での鉄筋組み立て、地表面からのコンクリートの打設といった、通常のスラブ構築の方法とかわりなく、きわめて簡単な構造によって揚圧力に対抗することができる。
<ロ>ガイドウオールを転用する方法を採用すれば、余分なコストを必要とせずさらに経済的である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の地下タンクの構造の実施例の説明図。
【図2】地下タンクの棚板と荷重盛土の状態の説明図。
【図3】地下連壁と棚板との取付け状態の実施例の説明図。
【図4】地下連壁と棚板との取付け状態の実施例の説明図。
【図5】地下連壁と棚板との取付け状態の実施例の説明図。
【図6】ガイドウオールの設置状態の説明図。
【図7】従来の地下タンクの構造の説明図。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-08-18 
結審通知日 2008-08-21 
審決日 2008-09-08 
出願番号 特願平10-350451
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 三成大森 伸一  
特許庁審判長 藤内 光武
特許庁審判官 小池 正彦
岩井 健二
登録日 2006-12-01 
登録番号 特許第3886275号(P3886275)
発明の名称 地下タンクの構造  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 米田 昭  
代理人 佐伯 義文  
代理人 米田 昭  

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