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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1214803
審判番号 不服2006-25179  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-06 
確定日 2010-04-07 
事件の表示 特願2000-524489「亜鉛コーティングポット及び亜鉛コーティング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月17日国際公開、WO99/29919、平成13年12月18日国内公表、特表2001-526322〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成10年10月29日の出願であって平成18年8月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年11月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年12月5日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成18年12月5日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年12月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
補正後の請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】 溶解亜鉛含有金属中に浸されたコーティングロールに金属ストリップを巻き込んで亜鉛含有金属により金属ストリップをコーティングするためのコーティングポットであって、
前記コーティングロールが配置されると共に水平な底部表面を有するコーティング部と、
コーティング部の一方の側だけに位置し且つコーティングよりも深く且つ溶解亜鉛含有金属がドロスの終端速度よりも遅い速度まで減速されるのに十分な深さの水平な底部表面を有すると共に攪拌装置及びミキサー等の流動速度を速くする可能性がある装置を有しない収集部と、
コーティング部と収集部の間に位置して傾斜している移動領域と
を備え、
溶解亜鉛含有金属の流動性によりドロスがコーティング部の溶解亜鉛含有金属中を浮遊し、溶解亜鉛含有金属がドロスの終端速度よりも遅い速度で収集部を循環し、ドロスが収集部の底部に蓄積され、ドロスがコーティング工程を妨げることなく収集部から除去され得る
ことを特徴とする亜鉛コーティングポット。」(以下、「本願補正発明1」という。)

そして、平成18年12月5日付けの手続補正のうち、請求項1に係る部分は、補正前の請求項1に係る発明の構成要素である「亜鉛含有金属によってストリップをコーティングするためのコーティングポット」を、「溶解亜鉛含有金属中に浸されたコーティングロールに金属ストリップを巻き込んで亜鉛含有金属により金属ストリップをコーティングするためのコーティングポット」に、補正前の「水平な底部表面を有するコーティング部」を「前記コーティングロールが配置されると共に水平な底部表面を有するコーティング部」に、また、補正前の「コーティング部の一方の側だけに位置し且つコーティング部よりも深く且つ水平な底部表面を有すると共に攪拌装置及びミキサー等の流動速度を速くする可能性がある装置を有しない収集部」を「コーティング部の一方の側だけに位置し且つコーティング部よりも深く且つ溶解亜鉛含有金属がドロスの終端速度よりも遅い速度まで減速されるのに十分な深さの水平な底部表面を有すると共に攪拌装置及びミキサー等の流動速度を速くする可能性がある装置を有しない収集部」に、補正前の「ドロスが収集部の底部に蓄積され、溶解亜鉛含有金属がドロスの終端速度よりも遅い速度で収集部を循環し、ドロスがコーティング工程を妨げることなく収集部から除去され得る」を「溶解亜鉛金属の流動性によりドロスがコーティング部の溶解亜鉛含有金属中を浮遊し、溶解亜鉛含有金属がドロスの終端速度よりも遅い速度で収集部を循環し、ドロスが収集部の底部に蓄積され、ドロスがコーティング工程を妨げることなく収集部から除去され得る」に、それぞれ特定するものであって、請求項1記載の構成要件を種々の観点から更に限定するものであるから、特許法17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

次に本願補正発明1が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法17条の2第5項で準用する同法第126条5項の規定に適合するか否かについて、以下検討する。

2.引用刊行物とその記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-68746号公報(以下、「引用例1」という。)及び特開平6-299308号公報(以下、「引用例2」という。)には、それぞれ以下の記載がある。

(1)引用例1:特開平3-68746号公報
(1a)「(1)溶融金属メッキ槽内の底部で、シンクロールの下方に位置する領域に隆起部を設け、メッキ槽底部に溜まったボトムドロスの浮揚および巻上げを抑制することを特徴とする溶融金属メッキ鋼板へのドロス付着低減方法。
...
(3)溶融金属メッキ槽装置において、槽内の底部で、シンクロールの下部に対向する領域に、メッキ槽底部に溜まったボトムドロスの上昇を抑制する隆起部を有することを特徴とする溶融金属メッキ鋼板へのドロス付着低減装置。
(4)前記隆起部の形状が立方体、角錐台形状、または上に凸なる曲面からなることを特徴とする請求項2記載の溶融金属メッキ装置。」(公報1頁左下欄4行-右下欄2行「特許請求の範囲」)

(1b)「溶融亜鉛メッキライン(以下、「溶融金属メッキ」の代表例として「溶融亜鉛メッキ」について説明する)では、...溶融亜鉛メッキ槽内では、ストリップのFeが溶出してFeZn_(7)を主成分とするドロスが生成し、このドロスは第1図に示すように溶融亜鉛メッキ槽の底部に堆積する。」(1頁右下欄9行-2頁左上欄1行)

(1c)「堆積したボトムドロス20はシンクロール16の下部付近で生じるストリップ14の随伴流によって舞い上げられてストリップに付着し、メッキ鋼板に品質欠陥を生じさせる。」(2頁左上欄12-15行)

(1d)「第2図(a)、(b)、(c)-1、(c)-2に本発明の水モデルによるメッキ槽形状の1例を示す。...第2図(a)は、直方体形状の例を、同(b)は台形の例を、そして同(c)-1、(c)-2は上に凸なる曲面からなる例をそれぞれ示す。...第2図(a)を代表例として説明すると、メッキ浴13に入ってくる被メッキ鋼板14はシンクロール16を介して上方に引き上げられ出てくるが、シンクロール下部のメッキ槽底部は隆起しているため、シンクロール16の下部の流速が速くなりシンクロール下部にはドロスの堆積ができなくなって、被メッキ鋼板14の走行およびシンクロール16の回転によるボトムドロスの巻上げは起こらず、鋼板へのドロス付着は起こらない。」(3頁左上欄14行-右上欄12行)

(1e)「これらのテスト結果によれば、第2表に示すように、ドロス付着数は本発明の場合、いずれの隆起部の場合もともに低減しているが、特にメッキ槽底部の隆起部が直方体形状の場合、水モデルのテストにおける知見通り、その効果が顕著であることが認められた。」(4頁右上欄7-12行)

(1f)「実施例3 第4図に示すメッキ槽底部の隆起部が立方体形状の実際のGAメッキ装置を用い長時間試験を行った。通板速度は120m/minであった。その結果、...ボトムドロス堆積状況を計測したところ、スナウト側にドロスが多く堆積、隆起部上面にもドロスの流入が始まっていた。...7万トンメッキ処理後に、堆積したドロスをメッキ槽外に汲み出し隆起部と接触する堆積ドロス高さhを隆起部頂上より、低下させたのを確認して通板を継続した。汲み出した後のボトムドロスの状況を第6図(b)に示す。その結果、第7図にグラフで示すように、試験開始時と同じレベルまでドロス付着量を低減することができた。」(4頁左下欄1-18行)

(2)引用例2:特開平6-299308号公報
(2a)「【請求項1】 溶融亜鉛浴槽内にガスリフトポンプを設けると共に、このガスリフトポンプを囲うように側面に開口を有する静定槽を設け、シンクロールの下方に上面が傾斜した傾斜板を設け、この傾斜板の先方に該ガスリフトポンプの吸引口を臨ませて設けたことを特徴とする溶融亜鉛メッキラインにおける溶融亜鉛浴槽内のボトムドロス除去装置。」(特許請求の範囲)

(2b)「溶融亜鉛浴内に吸引ポンプを設置しただけでは、吸引ポンプ吸い込み口近傍のボトムドロスが吸引され、浴底全体のボトムドロスは吸引されず、その効果は十分ではなかった。」(【0004】)

(2c)「【作用】傾斜板に落下するボトムドロスは傾斜板の斜面に沿って先方へ移動し、傾斜板の下方に集まってくるので、ここにボトムドロスを吸引する吸引口を設置することにより、広範囲のボトムドロスを吸引することができる。」(【0006】)

(2d)「【実施例】...シンクロール1の下部に傾き20度の傾斜板2を設置し、スナウト3の下部にガスリフトポンプ4を設置した。また、ガスリフトポンプ4の吸引口5を傾斜板の下方に導いた。このとき、ボトムドロス7は傾斜板2に沿って下方に移動し、ガスリフトポンプ4に窒素ガスを10リットル/min導入すると、図2に示すように、浴底全体のボトムドロス7が約5時間でガスリフトポンプ4に吸引され、ガスリフトポンプの外周に設置した静定槽6に堆積した。」(【0007】)

3.当審の判断
3-1.引用例1に記載の発明
引用例1の摘示事項(1a)及び(1b)によれば、溶融亜鉛メッキ槽装置において、槽内の底部で、シンクロールの下部に対向する領域に、メッキ槽底部に溜まったボトムドロスの上昇を抑制する隆起部を設ける技術が記載されており、当該ボトムドロスはFeZn_(7)を主成分とし(摘示事項(1b))、シンクロール下部の随伴流によって舞い上げられてストリップに付着し、メッキ鋼板に品質欠陥を生じさせるもので(摘示事項(1c))、隆起部の形状としては、直方体、すなわち、頂面が長方形の平面状であるものが顕著な効果を奏する(摘示事項(1e))ことが記載されている。
したがって、引用例1には、「溶融亜鉛金属中に浸されたシンクロールにストリップを巻き込んで溶融亜鉛によりストリップを溶融亜鉛メッキするためのメッキ槽であって、前記シンクロールが配置されると共に水平な隆起した底部表面をなすシンクロール下方部を有し、該隆起部が、直方体形状、角錐台形状、上に凸なる曲面等からなるメッキ槽」(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。

3-2.対比・判断
本願補正発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「溶融亜鉛」、「シンクロール」、「ボトムドロス」、「ストリップ」及び「溶融亜鉛メッキ槽」は、それぞれ本願補正発明における「溶解亜鉛含有金属」、「コーティングロール」、「ドロス」、「金属ストリップ」及び「コーティングポット」に相当することは明らかである。
また、引用例1発明において、シンクロール下部の隆起部が直方体形状あるいは角錐台形状に形成される場合には、その頂面は平面部をなすことも明らかであるから、両者は、
「溶解亜鉛含有金属中に浸されたコーティングロールに金属ストリップを巻き込んで亜鉛含有金属により金属ストリップをコーティングするためのコーティングポットであって、前記コーティングロールが配置されると共に水平な底部表面を有するコーティング部を有するコーティングポット」である点で一致する一方、下記の点で相違する。

(相違点1):本願補正発明は、「コーティング部の一方の側だけに位置し且つコーティング部よりも深く且つ溶解亜鉛含有金属がドロスの終端速度よりも遅い速度まで減速されるのに十分な深さの水平な底部表面を有すると共に攪拌装置及びミキサー等の流動速度を速くする可能性がある装置を有しない収集部」を具備するのに対し、引用例1発明においては、隆起部以外の底部は、隆起部頂面との接続面以外は平面をなすものの、深さについて、本願補正発明のような限定を付していない点。
(相違点2):本願補正発明は、 「ドロスがコーティング工程を妨げることなく収集部から除去され得る」のに対し、引用例1発明においては、摘示事項(1f)に、「例えば7万トン処理後に、堆積したドロスをメッキ槽外に汲み出し隆起部と接触する堆積ドロス高さhを隆起部頂上より、低下させたのを確認して通板を継続した。」と記載されていることから、コーティング工程を中断してドロスを除去していると推測される点。

上記相違点について、検討する。
(相違点1について)
引用例1発明においては、コーティング部をなす隆起部の頂面と側面以外は、隆起部の頂面と比較して深い水平な底部表面を構成しており、そこにはコーティング工程中にドロスが堆積していき、また、攪拌装置やミキサー等が配置されていないことも明らかであるから、「コーティング部よりも深く且つ溶解亜鉛含有金属がドロスの終端速度よりも遅い速度まで減速されるのに十分な深さの水平な底部表面を有すると共に攪拌装置及びミキサー等の流動速度を速くする可能性がある装置を有しない収集部」ということができる。すると、本願補正発明と引用例1発明との相違は、そのような収集部が、本願補正発明では「コーティング部の一方の側だけに位置し」ているのに対して、引用例1発明では、隆起部の位置あるいは形状によってはコーティング部の一方の側のみに限らずに存在する可能性がある点にある。
しかしながら、コーティング部との位置関係を特定せずに、コーティング部の一方の側のみに収集部を配置したことによっても、格別の作用効果を奏するものとは認められないから、本願補正発明の限定は無意味であり、コーティング部の大きさや、コーティングポット中のコーティング部の位置関係により、収集部をコーティング部の一方の側のみに配置することは、当業者であれば適宜なし得る事項にすぎない。

(相違点2について)
引用例2には、溶融亜鉛メッキのための溶融亜鉛浴槽の傾斜板下部に相当する位置に、ガスリフトポンプの吸引口を臨ませて、浴底全体のボトムドロスを吸引除去する技術が記載されているから、引用例1発明に当該技術を適用して、コーティング工程中に、浴底に堆積したボトムドロスを吸引除去することは当業者であれば、適宜なし得るものと認められる。
したがって、本願補正発明は、引用例1発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者であれば容易に発明をすることができたものと認められる。

4.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
平成18年12月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-10に係る発明は、平成18年5月19日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】亜鉛含有金属によって金属ストリップをコーティングするためのコーティングポットであって、
水平な底部表面を有するコーティング部と、
コーティング部の一方の側だけに位置し且つコーティング部よりも深く且つ水平な底部表面を有すると共に攪拌装置及びミキサー等の流動速度を早くする可能性がある装置を有しない収集部と、
コーティング部と収集部との間に位置して傾斜している移動領域と
を備え、
ドロスが収集部の底部に蓄積され、溶解亜鉛含有金属がドロスの終端速度よりも遅い速度で収集部を循環し、ドロスがコーティング工程を妨げることなく収集部から除去され得る
ことを特徴とする亜鉛コーティングポット。」

2.引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1,2とその主な記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。

3.当審の判断
本願発明1を特定するに必要な事項を全て含み、さらに具体的に限定したものに相当する本願補正発明が、前記「II.3.」に記載したとおり、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様の理由で、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでも無く、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-30 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-11-24 
出願番号 特願2000-524489(P2000-524489)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 幹松本 要  
特許庁審判長 徳永 英男
特許庁審判官 國方 康伸
鈴木 正紀
発明の名称 亜鉛コーティングポット及び亜鉛コーティング装置  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 曾我 道治  
代理人 古川 秀利  

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