• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41C
管理番号 1214905
審判番号 不服2007-31075  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-16 
確定日 2010-04-05 
事件の表示 特願2001-316972「グラビア印刷版」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月23日出願公開、特開2003-118065〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成13年10月15日の出願であって、平成19年10月19日に手続補正がなされ、同年10月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

(2)本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成19年10月19日付け手続補正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「グラビア版用基体に硫酸銅メッキ層を形成し硫酸銅メッキ層に凹部を形成してから前記硫酸銅メッキ層の全面に硬質クロムメッキ層を形成し、撥インク性層を前記クロム層の全面にコートしてから前記撥インク性層のドクター摺動面を微小研磨して前記硬質クロムメッキ層を露出し前記凹部にのみ前記撥インク性層を残してなるグラビア印刷版であり、前記撥インク性層は、フルオロアルキルシランを溶剤に溶かして常温で浸漬法又はスプレーコート法によってコートして乾燥してなり、かつ前記凹部の硬質クロムメッキ層とフルオロアルキルシラン被膜との化学結合によって強い密着強度を有するようにした被膜であることを特徴とするグラビア印刷版。」(以下「本願発明」という。)

2 刊行物の記載事項
原査定において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-42781号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。 (下線は審決において付した。以下同じ。)
(1) 「【0004】まず、一般的にはシリンダー状をなしている鋼性のグラビア版用基体(1)上に銅層(2)を厚さ100?300μ程度施し、バフ研摩をして表面を平滑にしておく。
【0005】この後の工程は製版方法によって種々のものがあるが、そのうちの一つとしては銅層(2)の表面に感光性のレジストを均一にコートし、画像の焼付、現像を行った後に塩化第2鉄溶液で腐蝕し、画像部分に相当するインキを受容すべき凹部(3)と非画像部分(4)とを形成する。
【0006】このときの腐蝕の深度は10μ?60μ程度である。次にレジストを剥膜後湿式クロムメッキ法等により硬質クロム層(5)を1?10μ程度の厚さに施こす。」

(2) 「【0012】図3は本発明のグラビア印刷版の他の実施例の断面説明図であり、グラビア版用基体(1)上に施された銅層(2)に凹部(3)が形成され、全面にクロム層(5)が施され、凹部(3)に撥インキ性層(7)が施されている場合の例を示している。」

(3) 「【0021】すなわち、従来知られている種々の方法でグラビア印刷版を形成させクロムメッキ等のメッキを施して耐刷力を向上させた状態にし、次に撥インキ性樹脂例えばフッ素系樹脂を全面にコートし、非画像部に付着した撥インキ性樹脂を除去すればよい。
【0022】撥インキ性樹脂をコートするにはディスパージョン法、樹脂によっては塗料の状態でスプレーコート法等で行うことができ、・・(中略)・・
【0025】なお、全面に樹脂をコートした後に非画像部の樹脂を除去するのは研摩等の手段を用いることができる。」

(4) 上記(1)ないし(3)から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「グラビア版用基体上に銅層を施し、該銅層の表面に画像部分に相当する凹部と非画像部分とを形成し、全面に湿式クロムメッキ法による硬質クロム層を施し、撥インキ性樹脂であるフッ素系樹脂を全面にスプレーコート法でコートし、前記非画像部分に付着した撥インキ性樹脂を、研摩を用いて除去してなる、前記凹部に撥インキ性層が施されているグラビア印刷版。」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「湿式クロムメッキ法による硬質クロム層」、「撥インキ性層」、「非画像部分」は、それぞれ本願発明の「硬質クロムメッキ層」、「撥インク性層」、「ドクター摺動面」に相当する。
(2) 引用発明の「グラビア版用基体上に銅層を施し、該銅層の表面に画像部分に相当する凹部と非画像部分とを形成し、全面に湿式クロムメッキ法による硬質クロム層を施」すことと本願発明の「グラビア版用基体に硫酸銅メッキ層を形成し硫酸銅メッキ層に凹部を形成してから前記硫酸銅メッキ層の全面に硬質クロムメッキ層を形成」することとは「グラビア版用基体に銅層を形成し銅層に凹部を形成してから前記銅層の全面に硬質クロム層を形成」する点で共通する。
(3) 引用発明は「撥インキ性樹脂であるフッ素系樹脂を全面にスプレーコート法でコートし」ており、前記「全面」が「硬質クロム層」であることから、撥インク性層を硬質クロム層の全面にコートするものといえる。
(4) 引用発明の「前記非画像部分に付着した撥インキ性樹脂を、研摩を用いて除去してなる、前記凹部に撥インキ性層が施されている」ことと本願発明の「撥インク性層のドクター摺動面を微小研磨して前記硬質クロムメッキ層を露出し前記凹部にのみ前記撥インク性層を残してなる」こととは「撥インク性層のドクター摺動面を研磨して前記硬質クロムメッキ層を露出し前記凹部にのみ前記撥インク性層を残してなる」点で共通する。
(5) 上記(1)ないし(4)からみて、本願発明と引用発明とは、
「グラビア版用基体に銅層を形成し銅層に凹部を形成してから前記銅層の全面に硬質クロムメッキ層を形成し、撥インク性層を前記クロム層の全面にコートしてから前記撥インク性層のドクター摺動面を研磨して前記硬質クロムメッキ層を露出し前記凹部にのみ前記撥インク性層を残してなるグラビア印刷版。」の点で一致し、 以下の点で相違する。

相違点1:
前記銅層が、本願発明では、「硫酸銅メッキ層」であるのに対して、引用発明では、そのようなものであるかどうか不明な点。

相違点2:
前記「研摩」が、本願発明では、「微小研摩」であるのに対して、引用発明では「微小研摩」であるか否かは明確でない点。

相違点3:
前記撥インク性層が、本願発明では「フルオロアルキルシランを溶剤に溶かして常温で浸漬法又はスプレーコート法によってコートして乾燥してなり、かつ前記凹部の硬質クロムメッキ層とフルオロアルキルシラン被膜との化学結合によって強い密着強度を有するようにした被膜」であるのに対して、引用発明では、フッ素系樹脂をスプレーコート法でコートしたものである点。

4 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
(1)相違点1について
ア グラビア印刷版の銅層として硫酸銅メッキ層は、周知である(以下「周知技術1」という。例.特開昭51-86033号公報特に「2.特許請求の範囲・・(中略)・・グラビア版作成用メツキ装置」及び実施例(特に2頁右上欄8行の「銅メツキ浴として光沢硫酸銅メツキ、」)、特開昭58-74357号公報特に「特許請求の範囲「1.・・(中略)・・グラビア印刷版の製造方法」及び実施例(特に3頁左上欄2ないし3行の「硫酸銅浴にてさらに150μのCuメツキを行った」)、及び特開平4-282296号公報段落【0001】ないし【0003】参照)。
イ したがって、引用発明において、「銅層」として「硫酸銅メッキ層」を採用することは、当業者が周知技術1に基づいて適宜になし得た設計事項である。

(2)相違点2について
引用発明において、「研摩」は非画像部分の樹脂を除去するために用いられることから、研摩の度合いを前記樹脂の除去に必要十分な「微小」とすることは、当業者が適宜になし得た設計事項である。

(3)相違点3について
ア 印刷版の撥インク性層として、フルオロアルキルシランを溶剤に溶かして浸漬法又はスプレーコート法によってコートして形成した被膜を用いることは、周知である(以下「周知技術2」という。例.特開平4-332694号公報特に【請求項1】ないし【請求項4】、段落【0003】、【0007】、【0008】、【0011】ないし【0013】、特開平4-246594号公報特に【請求項1】ないし【請求項2】、段落【0009】、【0011】ないし【0014】、及び特開平5-116475号公報特に段落【0009】、【0016】、【0018】、【0026】参照)。
イ したがって、引用発明の撥インク性層として、フルオロアルキルシランを溶剤に溶かして浸漬法又はスプレーコート法によってコートして形成した被膜を用いることは、当業者が周知技術2に基づいて容易になし得たことである。
そして前記「浸漬法又はスプレーコート法」を「常温で浸漬法又はスプレーコート法」となすこと及び前記「浸漬法又はスプレーコート法によってコートして形成」を「浸漬法又はスプレーコート法によってコートして乾燥し形成」することは、例えば、上記特開平5-116475号公報「【0018】表面改質方法としては、これらのパーフルオロ基を有する化合物を有機溶媒に溶かした溶液として、・・(中略)・・浸漬、スプレー、・・(中略)・・などにより付与した後、風乾もしくは加熱乾燥、あるいは必要な応じて熱処理を行う。有機溶媒としては、例えば、n-ヘキサン・・(中略)・・等、パーフルオロ基を有する化合物を溶解あるいは均一に分散し、かつパーフルオロ基を有する化合物と反応性を示さない溶媒を1種または2種以上を混合したものが使用でき、・・(中略)・・」及び「【0026】・・(中略)・・n-ヘキサン300.00gに1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクチルトリクロロシラン0.25gを溶解した処理液を作り、この処理液に版を浸漬し常温で1分間、液相処理を行った。・・・(中略)・・・」)、特開平2-218603号公報3頁左上欄下から7行ないし右上欄6行「無機粉体及び有機粉体のパーフルオロアルキルシランによる処理法・・(中略)・・パーフルオロアルキルシランを、そのまま、または適当な溶剤・・(中略)・・に希釈し噴霧あるいは滴下により添加し均一分散させた後、室温または加熱乾燥を行う。」、並びに特開平6-175089号公報「【0015】ここで、プラスチックレンズの材料としては、・・(中略)・・等を挙げることができる蒸着膜は、光線透過率を高めたり遮光のために施され、無機フッ化物又は金属酸化物を、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、等の方法により単層又は複層に形成する。
【0016】B.本発明の方法を、防汚性処理膜を形成するに際して、下記各工程を経ることを特徴とする。
【0017】(1) 塗布工程:蒸着膜上に、ポリフルオロアルキルシラン加水分解物を有機溶剤で希釈し、界面活性剤を添加した防汚性処理液を使用してディッピングする。溶剤系塗布液に液温5?30℃で5?60秒でディッピングする。」及び「【0023】ディッピングの方法は、通常、常温(5?30℃)の防汚性処理液に、5?10秒浸漬後、1?10mm/秒の速度で引き上げることにより、均一な防汚性処理膜を形成可能となる。・・(中略)・・【0024】(2) 乾燥工程:次いで温風槽により、常温?65℃×30秒?5分、望ましくは40?60℃×1?4min の条件で風乾する。・・(中略)・・
【0030】
【実施例】
A.本発明を次に上げる実施例により具体的に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】処理液の調製;下記構造式で示されるポリフルオロアルキルシラン
CF_(3)(CF_(2))_(7) CH_(2) CH_(2) Si(OCH_(3))_(3)5部をメタノール95部に溶解させ、三つ口フラスコへ入れ撹拌をしながら70℃にて還流して加水分解を一昼夜行う。そして加水分解後、メタノール400部とパーフルオロアルキル化合物(ノニオン系界面活性剤)0.5部を混合し、よく撹拌してポリフルオロアルキルシラン1%溶液を得た。
【0032】[実施例1]基材は、CR39(ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネイト)製70φの平面レンズに、真空蒸着法によりレンズ表面側から無機物質のSi0_(2 )λ/4、ZrO_(2 )λ/8、Al_(2) 0_(3) λ/8、ZrO_(2) λ/4、Si0_(2) λ/4(λ=520nm)に設定し、反射防止膜(蒸着膜)を形成させたものを使用した。該反射防止膜は、グリーンの反射干渉色を呈した。
【0033】防汚性処理膜の形成は、上記処理液に20秒基材を浸漬し、5mm/秒で超音波をかけながら引き上げディッピングをし、その後60℃の雰囲気で1分風乾する。」に記載の如く、当業者が通常行う程度のことである。
ウ 本願の明細書には以下の事項が記載されている。
「【0008】
前記フロオロアルキルシランは、東芝シリコーン株式会社、信越化学株式会社等の製品であり、単品で例えば筆等で容易に塗布できる塗布性を有していて、ロール表面に塗布されとき、素材表面と化学的に接触して耐久性の有る表面エネルギーの低い塗膜を形成する。表面エネルギーが低いので強い撥インク性を有し凹部3の表面が撥インク性となる。
フロオロアルキルシランによる表面処理は、テフロンによる表面処理よりも、版面結合力が高く、表面エネルギーが低いから、高い撥水・撥油性を有する。」
エ したがって、上記イで、引用発明の撥インク性層として、フルオロアルキルシランを溶剤に溶かして常温で浸漬法又はスプレーコート法によってコートして乾燥することにより形成した被膜を用いれば、このフルオロアルキルシランからなる被膜と、該被膜と接触する素材表面である凹部の硬質クロムメッキ層とは、化学結合によって強い密着強度を有する(上記ウ参照。)ことになる。
オ 上記イ及びエから、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術2に基づいて容易になし得たことである。

(4)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術1ないし周知技術2の奏する効果から、当業者が容易に予測できた程度のものである。

(5)まとめ
以上の検討によれば、本願発明は、引用例に記載された発明、周知技術1ないし周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明、周知技術1ないし周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-08 
結審通知日 2010-02-09 
審決日 2010-02-22 
出願番号 特願2001-316972(P2001-316972)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 桐畑 幸▲廣▼
菅野 芳男
発明の名称 グラビア印刷版  
代理人 石原 進介  
代理人 石原 詔二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ