• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1214947
審判番号 不服2007-15392  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-31 
確定日 2010-04-15 
事件の表示 平成11年特許願第258728号「印字装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月27日出願公開、特開2001- 80122〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成11年9月13日の出願であって、平成15年3月20日、平成18年7月21日及び平成19年2月2日に手続補正がなされ、平成19年4月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月31日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日に手続補正がなされ、当審において、平成21年11月26日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知されたものである。
なお、請求人は、平成22年1月27日に意見書を提出している。

(2)本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成19年5月31日付け手続補正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は次のものである。

「1列に配置された複数のプリントヘッドを用いて1つの用紙上に重ねて印字を行なう印字装置において、
画像データを格納するビットマップメモリと、
プリントヘッドの間の相対的な傾き量に基づいて、画像データをビットマップ上で処理することによりライン単位で副走査方向に補正する第1補正手段と、
第1補正手段により補正がされた画像データを、前記プリントヘッドの出力タイミングを制御することにより、1ラインより小さい単位で副走査方向に補正する第2補正手段とを備え、
前記第2補正手段は、
前記ビットマップメモリから読み出された画像データを1ライン単位で遅延させるラインバッファと、
前記プリントヘッドへ出力するべく、前記ビットマップメモリから読み出された画像データと前記ラインバッファの画像データとを選択的に切り換えるセレクタと、
プリントヘッドの間の相対的な傾きについての補正情報に基づいて前記セレクタを作動させる制御部と
を備えたことを特徴とする印字装置。」(以下「本願発明」という。)

2 刊行物の記載事項
当審拒絶理由で引用した「本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-315545号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。)

(1)「【0032】
…(略)…
1.第1実施例の装置の構造
図2は本発明になる画像形成装置の第1実施例の内部構造を説明する図である。装置本体10の内部には記録媒体例えば記録用紙を搬送させるための搬送ベルトユニット11が設けられ、搬送ベルトユニット11には過透性の誘電体材料、例えば適当な合成樹脂材料から作られた無端ベルト12を回動自在に備える。無端ベルト12は4つのローラ22-1,22-2,22-3,22-4の回りに掛け渡される。搬送ベルトユニット11は装置本体10に対し着脱自在に装着されている。
…(略)…
【0036】装置本体10内にはY,M,C,Kの4台の静電記録ユニット24-1,24-2,24-3,24-4が設けられ、無端ベルト12の従動ローラ22-2と駆動ローラ22-1との間に規定されるベルト上側の記録紙移動経路に沿って、上流から下流側に向かってY,M,C,Kの順番に直列に配置されたタンデム構造を有する。
【0037】静電記録ユニット24-1?24-4は、現像剤としてイエロートナー成分(Y)、マゼンタトナー成分(M)、シアントナー成分(C)、及びブラックトナー成分(B)を使用する点が相違し、それ以外の構造は同じである。このため静電記録ユニット24-1?24-4は、無端ベルト12の上側の記録紙移動経路に沿って移動する記録紙上にイエロートナー像、マゼンタトナー像、シアントナー像及びブラックトナー像を順次重ねて転写記録し、フルカラーのトナー像を形成する。
【0038】図3は図2の静電記録ユニット24-1?24-4の1つを取り出して示す断面図である。静電記録ユニット24は感光ドラム32を備え、記録動作時に感光ドラム32は時計回りに回転駆動される。感光ドラム32の上方には例えばコロナ帯電器あるいはスコロトロン帯電器等として構成された前帯電器34が配置され、前帯電器34により感光ドラム32の回転表面は一様な電荷で帯電される。
【0039】感光ドラム32の帯電領域には光学書込ユニットとして機能するLEDアレイ36が配置され、LEDアレイ36のスキャニングで出射された光によって静電潜像が書き込まれる。即ち、LEDアレイ36の主走査方向に配列された発光素子は、コンピュータやワードプロセッサ等から印刷情報として提供される画像データから展開した画素データ(ドットデータ)の階調値に基づいて駆動され、このため静電潜像はドットイメージとして書き込まれる。
…(略)…
【0046】…(略)…
2.ハードウェア構成と機能
図5は本実施例における画像形成装置のハードウェア構成を示すブロック図である。本実施例のハードウェアは、エンジン部60とコントローラ部62で構成される。エンジン部60には、図2に示した搬送ベルトユニット11、静電記録ユニット24-1?24-4等の印刷機構部の制御動作を行うメカニカルコントローラ64が設けられている。
…(略)…
【0049】コントローラ部62のコントロール用MPU72には、パーソナルコンピュータ92から転送されたY,M,C,Kの各画像データを画素データ(ドットデータ)に展開して格納する画像メモリ82-1,82-2,82-3,82-4が設けられる。一方、コントローラ用MPU72は、インタフェース処理部78及びコントローラ部コネクタ80を介してエンジン部60に接続され、エンジン部60側で検出された位置ずれ情報をインタフェース処理部78で受信し、画像メモリ82-1?82-4に展開された各画像の画素データを対象に位置ずれ補正を行うことができる。
【0050】コントローラMPU72は、画像メモリ82-1?82-4に各カラー画素データを展開する際に、アドレス指定を行うためアドレス指定部84を備える。アドレス指定部84に続いては、アドレス変換部86が設けられる。アドレス変換部86は、インタフェース処理部78を介してエンジン部60側から提供された位置ずれ情報に基づき、位置ずれ補正のためのアドレス変換を行う。
【0051】画像メモリ82-1?82-4に続いては解像度変換部88が設けられる。解像度変換部88にはY,M,C,Kに対応してバッファメモリ90-1,90-2,90-3,90-4が設けられている。解像度変換部88は、画像メモリ82-1?82-4から読み出した位置ずれ補正済みの画素データをLEDアレイ36-1?36-4における副走査方向(用紙搬送方向)で分解して2つの高分解能画素データに変換する。
【0052】例えば、画像メモリ82-1?82-4で展開された際の分解能が主走査方向600dpi、副走査方向600dpiであったとすると、解像度変換部80において主走査方向は600dpiであるが、副走査方向については1200dpiの高解像度画素データに変換される。この副走査方向で2倍となる高解像度画素データへの変換により、エンジン部60で走査線が斜めとなったときの位置ずれ補正における印字精度を高めることができる。尚、n=2に限定されず、例えばn=3であれば、副走査方向については1800dpiの高解像度画素データへの変換が行われる。
…(略)…
【0055】図7は図5のコントローラ部60に設けた解像度変換部88を示すブロック図である。解像度変換部88にはY,M,C,Kごとに図示のようにバッファメモリ90、インタフェース部110、アドレス指定部112及び変換制御部114が設けられる。インタフェース部110には、図5の画像メモリ82-1?82-4側からの位置ずれ補正済みの画素データが入力される。
【0056】変換制御部114には、図5のコントローラ部62に設けたインタフェース処理部78を経由して、エンジン部60側で検出された位置ずれ情報に基づく位置ずれ補正データが供給される。バッファメモリ90は、エンジン部60におけるLEDアレイ36-1?36-4の用紙搬送方向に直交する方向を主走査方向x、用紙搬送方向を副走査方向yとすると、副走査方向yの1画素を2つに分解して2画素とした高分解能画素データに変換する。
【0057】このバッファメモリ90上に対する解像度変換により、例えば主走査方向xが600dpi、副走査方向yが同じく600dpiであった画素データは、主走査方向xについては600dpiと同じであるが、副走査方向yについては2倍の1200dpiの高解像度に変換される。バッファメモリ90から1画素を分解した2つの高解像度画素データを読み出して第1スキャンライン目と第2スキャンライン目の時分割発光による書込記録が行われることになる。
【0058】この解像度変換部88における高解像度画素データへの変換と、高解像度画素データを用いたエンジン部60における記録書込みの詳細は、後の説明で更に明らかにされる。図8は図5のハードウェア構成で実現される本実施例における画像形成装置の機能ブロック図である。図8において本実施例における画像形成装置は、位置ずれ検出部116と位置ずれ補正部124の2つの機能を基本的に有する。位置ずれ検出部116としての機能は、図5のエンジン部60に設けたセンサ処理用MPU60で実現される。また位置ずれ補正部124としての機能は、図5のコントローラ部62に設けたMPU72により実現される。
…(略)…
【0062】位置ずれ演算部120で求める位置ずれ情報としては、Kの主走査方向の走査線を基準とした対象画像の主走査方向の走査線の始端位置における主走査方向のずれ量Δx、同じく始端位置における副走査方向のずれ量Δy、走査線終端における傾きを示す副走査方向の変移量(スキュー量)Δz、及びK主方向走査線の基準幅Lに対する対象走査線の検出幅Lの倍率K(=L/L0)である。
【0063】このように位置ずれ演算部120で算出された位置ずれ情報は、位置ずれ情報格納部122に格納される。位置ずれ情報格納部122に格納される位置ずれ情報はKを基準としていることから、Kの位置ずれ情報は全て0であり、従ってKの位置ずれ情報は必要ではなく、残りのY,M,Cの3つの位置ずれ情報を格納することになる。
【0064】位置ずれ補正部124は、位置ずれ補正情報格納部126とアドレス変換部128を備える。位置ずれ補正情報格納部126には、位置ずれ検出部116で検出された位置ずれ情報格納部122のY,M,Cのそれぞれの位置ずれ情報に基づいた位置ずれ補正情報が格納される。アドレス変換部128は、位置ずれ補正情報格納部126に格納された位置ずれ補正情報に基づき、画像メモリ82-1?82-4に画素データを展開する際の位置ずれ補正のためのアドレス変換を行う。このアドレス変換部128の機能は、図5のコントローラ部62にあっては、専用のアドレス変換部86を設けることで実現している。
【0065】アドレス変換部128による位置ずれ補正のためのアドレス変換は、K画像メモリ82-4についての画素データの展開については不要であり、残りのY,M,Cの画像メモリ82-1?82-3のそれぞれに対し画素データを展開の際に位置ずれ補正のためのアドレス変換を行う。またアドレス変換部128による位置ずれ補正のためのアドレス変換は、位置ずれ検出部116で検出された位置ずれ情報の全てについて行うのではなく、位置ずれ情報の値が予め定めた閾値を越えた情報についてのみ行う。例えば600bpiの画素ピッチは約42μmであることから、42μm以上の位置ずれについて補正する。
【0066】更に位置ずれ補正部124は、位置ずれ補正が済んだY,M,C,Kの画像メモリ82-1?82-4から画素データを読み出してLED駆動部130により書込駆動する際に、データ転送経路の途中に設けている解像度変換部88-1?88-4による解像度変換処理の制御も行う。この解像度変換処理は、副走査方向yで1画素を分解して2つの高解像度画素データに変換し、各高解像度データの階調値を生成する。
【0067】このため図8の機能ブロックにあっては、解像度変換部88-1?88-4を位置ずれ補正部124から切り離して設けているが、位置ずれ補正部124に含めてもよいことはもちろんである。ただ実際の装置構成上は、専用の解像度変換部としての回路モジュールを設けることが望ましい。図9は図8の機能を備えた本実施例における画像形成装置における印刷処理動作の全体的なフローチャートである。まず装置の電源を投入すると、ステップS1で、予め定めた初期化処理が行われ、この初期化処理の中にステップS2の位置ずれ検出処理がある。ステップS2の位置ずれ検出処理が済むと、ステップS3で上位のパーソナルコンピュータからの印刷要求の有無をチェックしいる。
【0068】印刷要求があるとステップS4に進み、パーソナルコンピュータから転送されてくる画像データを画像メモリに展開する際に、ステップS4で位置ずれ補正処理を実行する。この位置ずれ補正処理には、図8のアドレス変換部128による位置ずれ補正と解像度変換部88-1?88-4による解像度変換処理が含まれる。
【0069】続いてステップS5でエンジン部60側の印刷準備完了を待って、ステップS6でエンジン部60による印刷処理を実行する。また処理中にステップS7で色ずれ調整処理の指示があるか否かチェックしており、もし色ずれ調整処理の指示があれば、ステップS2に戻って、電源投入時の立ち上げ時と同様な位置ずれ検出処理を再度行う。」

(2)「【0092】このような位置ずれ検出情報が得られると、図8の位置ずれ補正部124において位置ずれ補正情報が作成され、基本的にはアドレス変換部128における位置ずれ補正のためのアドレス変換による画像メモリへの書込みにより位置ずれが補正され、基準となる黒画像に位置合せされた印刷結果が得られる。図22は位置ずれ検出情報に基づく画素データの補正と印字の原理説明図である。」

(3)「【0091】このようなレジストマークの転写に基づく位置ずれ検出により、図8の位置ずれ検出部116に設けた位置ずれ情報格納部122には、図21のように、シアン用テーブル122C、マゼンタ用テーブル122M及びイエロー用テーブル122Yに分けて、それぞれの主走査方向位置ずれ量Δx、副走査方向位置ずれ量Δy、副走査方向偏位量(スキュー量)Δz及び主走査方向の線幅の倍率Kが、位置ずれ検出情報として格納される。
【0092】このような位置ずれ検出情報が得られると、図8の位置ずれ補正部124において位置ずれ補正情報が作成され、基本的にはアドレス変換部128における位置ずれ補正のためのアドレス変換による画像メモリへの書込みにより位置ずれが補正され、基準となる黒画像に位置合せされた印刷結果が得られる。図22は位置ずれ検出情報に基づく画素データの補正と印字の原理説明図である。
【0093】図10のレジストマークに基づく対象印字ライン140の位置ずれの検出結果は、図22(A)のような主走査方向xと副走査方向yにつき1画素ピッチで仕切られたビットマップメモリ空間174での位置ずれに変換される。図22(A)のビットマップメモリ空間174にあっては、まず理想印刷ライン148が決まっていることから、これに対する実際の転写による対象印刷ライン140を設定する。
【0094】即ち、主走査方向位置ずれ量Δx、副走査方向位置ずれ量Δy及び副走査方向偏位量(スキュー量)Δzを用いて、対象印刷ライン140をビットマップメモリ空間174に設定できる。この対象印刷ライン140を画素データに変換すると、図22(B)のような位置ずれデータ176-1?176-3が生成できる。
【0095】この図22(B)の位置ずれデータに対し、図22(C)のような補正データ、即ち図22(A)の検出対象ライン140を理想印刷ライン148に対し線対称にマイナス側に反転し、且つ主走査方向のマイナス側(左側)に主走査方向位置ずれ量Δxだけシフトした曲線を、ビットマップメモリ空間174で補正データ178-1?178-3に変換したものである。
【0096】この図22(C)の補正データを読み出してLEDアレイを発光駆動すると、図22(D)のように、図22(B)の位置ずれが補正されて図22(A)の理想印刷ライン148に対応する印字結果180を得ることができる。この図22(A)?(D)の位置ずれデータ、補正データ及び印字結果の関係は、説明を簡単にするため、画像メモリの解像度とLEDアレイの解像度を同一とした場合である。本実施例における位置ずれ補正にあっては、図22(A)?(D)におけるビットマップ空間174は副走査方向yについて1画素を2画素に分解して解像度を高めており、副走査方向の解像度を高めることによって、図22(C)のような補正データで印字した場合の図22(D)の印字結果180における副走査方向での画素の凹凸を滑らかにするスムージングができる。」

(4)「【0101】…(略)…。
4.位置ずれ補正図25は図3の静電記録ユニットに設けた感光ドラム32に対するLEDアレイ36の配置状態を説明する図である。LEDアレイ36は、発光素子としてのLEDチップ182-1,182-2,・・・182-nを感光ドラム32の回転方向に直交する主走査方向に複数配列している。LEDチップ182-1?182-nのピッチ間隔は、主走査方向の分解能を例えば600dpiとすると、約42μmとなる。
【0102】図26は図25のLEDアレイ36に対するLED駆動部130を示すブロック図である。LED駆動部130に対しては、図7の解像度変換部88に設けているバッファメモリ90で生成された高解像度画素データが供給される。バッファメモリ90に対する高解像度画素データの変換処理は、図27のようになる。図27(A)は画像メモリ82のメモリ領域の一部であり、主走査方向xの1画素領域192ごとに画素データを展開しており、副走査方向yについても同じ1画素領域194となっている。例えば主走査方向xの解像度は600dpiであり、副走査方向yについても解像度は同じく600dpiとなっている。
【0103】このような画像メモリ82の画素データについて、解像度変換部88に設けているバッファメモリ90は、図27(B)のように高解像度画素データに変換する。バッファメモリ90のメモリ空間は、主走査方向xについては図27(A)の画像メモリ82と同じ1画素領域194に1つの画素データを格納した600dpiとなっている。
【0104】これに対し副走査方向yについては、1画素領域194を第1スキャンデータ領域196と第2スキャンデータ領域198の2つに分け、図27(A)の画像メモリ82から読み出した1つの画素データを2つに分解した高解像度画素データとして格納している。このためバッファメモリ90における副走査方向yの解像度は、画像メモリ82の600dpiの整数倍、例えば2倍の1200dpiに変換されている。また3倍の1800dpiに変換してもよい。
【0105】再び図26を参照するに、バッファメモリ90は図27(B)のような高解像度画素データが展開されており、その第1スキャンデータ領域196の主走査方向xの1ライン分の画素データと、第2スキャンデータ領域198の同じく主走査方向xの1ライン分の画素データを順次読み出して、LED駆動部130に第1スキャンデータ及び第2スキャンデータとして出力している。
【0106】LED駆動部130には第1レジスタ220、第2レジスタ222、セレクタ224、LED発光駆動回路226が設けられる。第1レジスタ220と第2レジスタ222には、図25の感光ドラム32の回転記録面における1/2画素ピッチの移動に同期して、バッファメモリ90より1画素を副走査方向に分解して生成された第1スキャンデータと第2スキャンデータが順次格納される。
【0107】セレクタ224は第1レジスタ220と第2レジスタ222に第1スキャンデータ及び第2スキャンデータが格納された後の次のタイミングで、まず第1レジスタ220の出力を選択し、LED発光駆動回路226に出力してLEDアレイ36の第1スキャン目の発光駆動による書込みを行う。続いて感光ドラム32の1/2画素ピッチの移動後のタイミングでセレクタ224は第2レジスタ222の出力を選択し、第2スキャンデータをLED発光駆動回路226に出力して、LEDアレイ36による第2スキャン目の発光駆動による書込みを行う。
【0108】図28は図26のLED駆動部130による時分割による1画素書込みの説明図である。図28(A)は第1スキャン目の書込動作であり、LEDアレイ36は第1スキャンデータの発光駆動による第1スキャン発光パターン206を発生し、感光ドラム32上に第1スキャン印字領域202で示す潜像書込領域を形成する。
【0109】続いて図28(B)のように、感光ドラム32が1/2画素ピッチ移動したタイミングでLED36の第2スキャン目の発光駆動が行われ、第2スキャン発光パターン208が出される。この第2スキャン発光パターン208により、感光ドラム32上の既に書込みが済んだ第1スキャン印字領域202に続いて第2スキャン印字領域204の潜像書込みが行われる。このようなLEDアレイ36の第1スキャンと第2スキャンの時分割による書込みで、感光ドラム32上には1画素ピッチ幅の1画素印字領域200が形成される。
【0110】本実施例における位置ずれ補正にあっては、図27(B)のように、バッファメモリ90に展開して高解像度画素データに変換する際に同時に位置ずれ補正を施す。図29は高解像度画素データへの変換と同時に行う位置ずれ補正を説明する。この位置ずれ補正にあっては、変換後の高解像度画素データについての階調値の生成処理を伴う。
【0111】図29(A)は印字データの階調値であり、主走査方向xについて1ドット目から21ドット目を例にとっており、階調値Dは例えば最大8階調となっている。図29(B)は位置ずれ補正前の印字データであり、図26のバッファメモリ90のメモリ空間に高解像度画素データに展開して格納した状態であり、主走査方向xの1画素幅の走査ラインを印字するため、第1スキャンデータ領域196と第2スキャンデータ領域198に画像メモリからの画素データを2つに分解して高解像度画素データとして格納している。
【0112】この位置ずれ補正前の印字データを図26のLED駆動部130に出力して印字結果を得ると、図29(C)のようになる。この印字結果は、右斜め上に向かう印字ずれを起こしていることが分かる。図29(C)のような印字結果における位置ずれは、図8に示した位置ずれ検出部116によって検出され、図21のような主走査方向位置ずれ量Δx、副走査方向位置ずれ量Δy、副走査方向偏位量(スキュー量)Δz、更に主走査方向の線幅の倍率Kが得られ、これに基づき図23の位置ずれ補正テーブルの補正値が求まる。
【0113】図29(D)は、図29(C)の印字結果の位置ずれを補正するために位置ずれを補正した後の印字データである。この位置ずれ補正後の印字データは、主走査方向xの領域216-1,216-2,216-3について、2つに分解された高解像度画素データが1画素領域194に収まっている。また主走査方向の領域218-1,218-2,218-3については、2つに分解された高解像度画素データは1画素領域194-1,194-2,194-3,194-4の境界に存在している。
【0114】このため、1画素領域194-1?194-3に位置している領域216-1?216-3の高解像度画素データにあっては、図28(A),(B)に示したように、図29(A)の階調値Dを使用して第1スキャン目と第2スキャン目の発光駆動を行えばよい。これに対し画素境界に位置する領域218-1?218-3の高解像度画素データにあっては、先行する1画素領域の第2スキャン目と後続する画素領域の第1スキャン目の書込みとなり、図29(A)の階調値はそのまま使用できない。そこで画素境界に位置する領域218-1?218-3については、図30のように階調値を2つに分割する。
【0115】図30における補正前の階調データ210につき、高解像度画素データが画素境界に存在しない領域216-1?216-3については、右側の第1スキャン目階調データ212のように同じ階調値を格納する。これに対し高解像度画素データが画素境界に位置する領域218-1?218-3については、第1スキャン目の階調データ212と第2スキャン目の階調データ214に分ける。
【0116】即ち、補正前の階調データ210の階調値をD、補正後の第1スキャン目階調データ212の階調値をD1、第2スキャン目階調データ214の階調値をD2とすると、D=D1+D2となるように階調値を分ける。例えば境界画素領域218-1に位置する3ドット目の階調値D=5は、D1=3、D2=2に分けられる。
【0117】図31は図30の階調データの生成処理のフローチャートである。まずステップS1で主走査方向の1ドットの階調値を読み込み、ステップS2で副走査方向の境界画素を含むか否かチェックし、含まなければステップS3に進み、第1スキャン目階調データとして階調値をそのままセットする。一方、画素境界を含む場合にはステップS4に進み、階調値を第1スキャン目と第2スキャン目に分割してセットする。以上の処理をステップS5で全ラインの処理が終わるまで繰り返す。
【0118】図32は図29(D)の位置ずれ補正後の印字データと図30で生成された第1スキャン目階調データ212及び第2スキャン目階調データ214を用いた図26のLED駆動部130によるLEDアレイ36の発光駆動のタイミングチャートである。図32(A)は主走査方向1ドット目のLEDチップ182-1の発光駆動のタイミングチャートであり、1画素発光周期をTとすると、時刻t1からT/2周期を過ぎた時刻t2までが第1スキャン目の発光駆動となり、時刻t2からT/2周期を経過した時刻t3までが第2スキャン目の発光駆動となる。
【0119】この場合、1ドット目については図29(D)のように副走査方向に分割された2つの高解像度画素データは1画素領域194-1に位置しているため、図30のように生成された第1スキャン目と第2スキャン目階調値(D1,D2)は(1,0)であり、D1=1に対応してT/2周期の発光期間に最大階調値8に対応して設定した8回のパルス発光タイミングの先頭の1パルスの発光を、第1スキャン目と第2スキャン目の時分割により2回繰り返す。
【0120】図32(B)は主走査方向xの2ドット目であり、図29(D)のように2ドット目についても高解像度画素データは画素領域194-1に収まっていることから、第1スキャン目の階調値D1=3に基づいて第1ドット目と同様、時刻t1,t2からの各タイミングで階調値D1=3に対応した3回のパルス発光を2回繰り返す。
【0121】図32(C)は主走査方向の3ドット目であり、図29(D)のように3ドット目は1画素領域194-1と1画素領域194-2の境界に副走査方向に分解した2つの高解像度画素データが位置しており、図30のように第2スキャン目階調値D1=3、第2スキャン目階調値D2=2に分けられている。このため、時刻t1からT/2周期過ぎた時刻t2のタイミングで第1スキャン目階調値D=3に対応した3パルスの発光を2回連続して繰り返す。続いてT/2周期を経過した時刻t3のタイミングから第2スキャン目の階調値D2=2に対応した2発光パルスによる発光駆動を2回繰り返す。
【0122】主走査方向の4ドット目、5ドット目についても、3ドット目と同様、図29(D)において画素境界に位置することから、3ドット目と同じタイミングで第1スキャン目階調値D1と第2スキャン目の階調値D2に対応した発光駆動を行う。図32(D)は主走査方向の6ドット目であり、6ドット目も図32(C)の3ドット目と同じ境界に位置していることから、同一タイミングで第1スキャン目階調値D=4と第2スキャン目階調値D2=3に対応した回数のパルス発光を行う。
【0123】図32(E)の主走査方向の7ドット目については、図29(D)のように次の1画素領域194-2に高解像度画素データが位置することから、第1スキャン目階調値D1=5のみによる第1スキャン目と第2スキャン目に分けた発光駆動を時分割で行う。図33は図26のLED駆動部130における図32のタイミングによる発光駆動を行うためのフローチャートである。まずステップS1で、主走査ラインの1画素分の画素データ、即ち副走査方向に2つに分割された高解像度画素データを読み込み、ステップS2で画素境界に位置するか否かチェックする。画素境界に位置していなければステップS3に進み、第1レジスタ220と第2レジスタ222に第1スキャン目の階調値D1に対応した同じパルス発光回数をセットする。
【0124】一方、画素境界に位置していた場合にはステップS4に進み、第2レジスタ222に第1スキャン目の階調値D1に対応したパルス発光回数の2倍の回数をセットすると共に、第1レジスタ220に第2スキャン目の階調値に対応したパルス発光回数の2倍の回数をセットする。続いてステップS5に進み、副走査方向における1/2画素ピッチの移動に伴う同期パルスを受けると、ステップS6で第1レジスタ220をセレクタ224で選択してLED発光駆動回路226によりLEDアレイ36を発光駆動し、第1スキャン目の書込みを行う。
【0125】続いてステップS7で、ステップS5と同様、副走査方向の1/2画素ピッチの移動に伴う同期パルスを受けると、ステップS8に進み、第2レジスタ222をセレクタ224で選択し、LED発光駆動回路226によりLEDアレイ36の第2スキャン目の発光駆動による書込みを行う。そしてステップS9で全ラインの書込終了を判別するまで、ステップS1からの処理を繰り返す。
【0126】実際の駆動回路にあっては、ステップS1?S4の処理とステップS5?S8の処理は、副走査方向の1/2画素ピッチ移動に伴う同期パルスにより並列的に処理されており、ステップS1?S4のレジスタ書込みに対しステップS5?S8のLEDアレイの発光駆動は1画素ピッチ分のタイミング遅れをもつことになる。
【0127】ここで図5の実施形態にあっては、コントローラ部62に設けている画像メモリ82-1?82-4からエンジン部60に画素データを読み出して転送する経路の途中に設けている解像度処理部88のバッファメモリ90-1?90-4において、高解像度画素データへの変換と位置ずれ補正、更に位置ずれ補正に伴う階調データの生成を行っているが、パーソナルコンピュータ92からの画像データをY,M,C,Aの画像メモリ82-1?82-4に画素データとして展開する際に、高解像度データへの変換、位置ずれ補正及び階調データの生成を行うようにしてもよい。…(略)…。」

(5)上記(1)ないし(3)から、引用例には、
「記録紙を搬送させるための無端ベルトを回動自在に備える搬送ベルトユニットが装置本体内部に着脱自在に装着され、前記無端ベルトの従動ローラと駆動ローラとの間に規定されるベルト上側の記録紙移動経路に沿って、Y,M,C,Kの4台の静電記録ユニットが上流から下流側に向かってY,M,C,Kの順番に直列に配置されて装置本体内部に設けられたタンデム構造を有し、該静電記録ユニットの各々は、感光ドラムと、前帯電器と、主走査方向に発光素子が配列されたLEDアレイからなる光学書込ユニットとを備え、前記前帯電器により前記感光ドラムの回転表面を一様な電荷で帯電し、コンピュータやワードプロセッサ等から印刷情報として提供される画像データから展開した画素データ(ドットデータ)の階調値に基づいて前記発光素子が駆動されて、静電潜像をドットイメージとして書き込み、無端ベルトの上側の記録紙移動経路に沿って移動する記録紙上にイエロートナー像、マゼンタトナー像、シアントナー像及びブラックトナー像を順次重ねて転写記録し、フルカラーのトナー像を形成する画像形成装置において、
4台の前記静電記録ユニット等の印刷機構部の制御動作を行うメカニカルコントローラが設けられたエンジン部と、コントロール用MPUが設けられたコントローラ部とで構成され、前記コントロール用MPUにはパーソナルコンピュータから転送されたY,M,C,Kの各画像データを画素データ(ドットデータ)に展開して格納する画像メモリと、解像度変換部と、前記画像メモリに各カラー画素データを展開する際にアドレス指定を行うためのアドレス指定部と、該アドレス指定部に続くアドレス変換部とが設けられ、前記解像度変換部にはY,M,C,Kに対応して4つのバッファメモリが設けられており、前記アドレス変換部は、前記エンジン部側から提供された、Kの主走査方向の走査線を基準とした対象画像の主走査方向の走査線の始端位置における主走査方向のずれ量Δx、同じく始端位置における副走査方向のずれ量Δy、走査線終端における傾きを示す副走査方向の変移量(スキュー量)Δz、及びK主方向走査線の基準幅Lに対する対象走査線の検出幅Lの倍率K(=L/L0)である位置ずれ情報に基づき、該位置ずれ情報の全てについて行うのではなく、該位置ずれ情報の値が予め定めた閾値を越えた、例えば600bpiの画素ピッチは約42μmであることから、42μm以上の位置ずれ情報についてのみ、Y,M,Cの画像メモリのそれぞれに対し画素データを展開する際に位置ずれ補正するためのアドレス変換を行い、基本的にはアドレス変換部における位置ずれ補正のためのアドレス変換による画像メモリへの書込みにより位置ずれが補正され、基準となる黒画像に位置合せされた印刷結果が得られようになるが、この位置ずれ補正データで印字した場合は副走査方向での画素の凹凸を伴う印字結果となるので、更に、位置ずれ補正が済んだY,M,C,Kの画像メモリから画素データを読み出してLED駆動部により書込駆動する際に、データ転送経路の途中に設けている前記解像度変換部による解像度変換処理を行って、副走査方向yで1画素を分解して2つの高解像度画素データに変換し、各高解像度データの階調値を生成して、例えば主走査方向xが600dpi、副走査方向yが同じく600dpiであった画素データは、副走査方向yについては2倍の1200dpiの高解像度に変換され、前記解像度変換部のバッファメモリから1画素を分解した2つの高解像度画素データを読み出して第1スキャンライン目と第2スキャンライン目の時分割発光による書込記録を行って、副走査方向で2倍となる高解像度画素データへの変換により、前記エンジン部で走査線が斜めとなったときの位置ずれ補正における副走査方向での画素の凹凸を滑らかにするスムージングをして印字精度を高めることができる画像形成装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(6)上記(4)、図29、図30及び図32から、引用例には、副走査方向で2倍となる高解像度画素データへの変換により、エンジン部で走査線が斜めとなったときの位置ずれ補正における副走査方向での画素の凹凸を滑らかにするスムージングの手法に関して、次の技術事項が把握される。
ア 主走査方向位置ずれ量Δx、副走査方向位置ずれ量Δy、副走査方向偏位量(スキュー量)Δz及び主走査方向の線幅の倍率Kからなる位置ずれ補正テーブルの補正値による位置ずれ補正後の印字データ(図29(D)参照。)について、
(ア)主走査方向xの領域216-1(1ドット目及び2ドット目),216-2(7ドット目ないし10ドット目),216-3(15ドット目ないし18ドット目)について、2つに分解された高解像度画素データでが1画素領域194(1ライン目ないし3ライン目のいずれか)に収まっていること。
(イ)主走査方向の領域218-1(3ドット目ないし6ドット目),218-2(11ドット目ないし14ドット目),218-3(19ドット目ないし21ドット目)については、2つに分解された高解像度画素データは1画素領域194-1(1ライン目),194-2(2ライン目),194-3(3ライン目),194-4(4ライン目)の境界に存在していること。
イ 上記ア(ア)の1画素領域194-1(1ライン目)?194-3(3ライン目)のいずれかに位置している領域216-1?216-3(1ドット目、2ドット目、7ドット目ないし10ドット目、15ドット目ないし18ドット目)の高解像度画素データのように、位置ずれ補正後の印字データの2つの高解像度画素データが第1スキャン及び第2スキャンからなる1ライン内に収まっている場合にあっては、印字データの階調値Dを使用しての発光駆動を、1画素発光周期をTとすると、時刻t1からT/2周期を過ぎた時刻t2までの第1スキャン目と時刻t2からT/2周期を経過した時刻t3までの第2スキャン目とで2回繰り返し行えばよい(図32参照。)こと。
ウ 上記ア(イ)の画素境界に位置する領域218-1?218-3(3ドット目ないし6ドット目、11ドット目ないし14ドット目、19ドット目ないし21ドット目)の高解像度画素データのように先行する1ラインの第2スキャンと後続する1ラインの第1スキャンの境界を位置ずれ補正後の印字データの2つの高解像度画素データが跨いでいる場合にあっては、先行する1画素領域の第2スキャン目と後続する画素領域の第1スキャン目の書込みとなり、補正前の印字データの階調データ210の階調値D(3ドット目ではD=5、5ドット目ではD=8)はそのまま使用できず、補正後の第1スキャン目の階調データ212の階調値をD1、第2スキャン目の階調データ214の階調値をD2とすると、D=D1+D2となるように、例えば、3ドット目はD1=3、D2=2、5ドット目はD1=4、D2=4というように、つまり階調値Dが奇数である場合にはD1=D2+1、偶数の場合にはD1=D2となるように、階調値Dを分け(図30参照。)、先行する1ラインの第2スキャン目で階調値D1(3ドット目ではD1=3、5ドット目ではD1=4)に対応した数の発光パルスによる発光駆動を2回繰り返し、続いて後続する1ラインにおける第1スキャン目の階調値D2(3ドット目ではD2=2、5ドット目ではD2=4)に対応した数の発光パルスによる発光駆動を2回繰り返せばよいこと。
エ 上記イにおいては、階調値Dを使用しての発光駆動を1ラインの第1及び第2スキャンで1回ずつ計2回繰り返すのに対して、上記ウにおいて階調値Dが偶数の場合では、階調値Dを半分にして使用しての発光駆動を先行する1ラインの第2スキャン目で2回繰り返し、続いて後続する1ラインにおける第1スキャン目でも2回繰り返しているが、これは、階調値Dを使用しての発光駆動を1回ずつ計2回繰り返していることにほかならないから、階調値Dが偶数の場合には、位置ずれ補正後の印字データの2つの高解像度画素データが第1スキャン及び第2スキャンからなる1ライン内に収まっているか、先行する1ラインの第2スキャンと後続する1ラインの第1スキャンの境界を跨いでいるかにかかわりなく、位置ずれ補正後の印字データの2つの高解像度画素データが分配される2つのスキャンで階調値Dを使用しての発光駆動を1回ずつ計2回繰り返せばよいこと。
オ 上記エのとおり、階調値Dが偶数の場合には、上記ウにおいて上記イと同じ発光駆動を行っているのにかかわらず、上記ウのような複雑な分配を行い、補正前の印字データの階調データの階調値をDはそのまま使用できないとしているのは、8階調の階調画像データを有する1画素を2スキャンで書き込み副走査方向で解像度を2倍とする高解像度画素データへの解像度変換及びその解像度変換と同時に行う位置ずれ補正を行う結果、変換及び補正の前のラインに後続するライン(の第1スキャン)に分配される階調値D2を、変換及び補正の前のライン(の第2スキャン)に分配される階調値D1に比較して、全体として小さくなるようにし、変換及び補正の前のラインの階調値のウエイトが少し大きくなるようにするためであると解されること。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「『前記無端ベルトの従動ローラと駆動ローラとの間に規定されるベルト上側の記録紙移動経路に沿って』、『上流から下流側に向かってY,M,C,Kの順番に直列に配置されて装置本体内部に設けられ』た『Y,M,C,Kの4台の静電記録ユニット』に『備え』られた『主走査方向に発光素子が配列されたLEDアレイからなる光学書込ユニット』」、「記録紙」、「トナー像を形成」、「画像形成装置」、「無端ベルトの上側の記録紙移動経路に沿って移動する記録紙上にイエロートナー像、マゼンタトナー像、シアントナー像及びブラックトナー像を順次重ねて転写記録し、フルカラーのトナー像を形成する画像形成装置」、「『パーソナルコンピュータから転送されたY,M,C,Kの各画像データ』を『展開』した『画素データ(ドットデータ)』」、「格納する」、「画像メモリ」、「『エンジン部側から提供』された、『Kの主走査方向の走査線を基準』とした『対象画像の主走査方向』の『走査線終端における傾きを示す副走査方向の変移量(スキュー量)Δz』である『位置ずれ情報』」、「600bpiの画素ピッチは約42μmであることから、42μm以上の位置ずれ情報についてのみ」、「Y,M,Cの画像メモリのそれぞれに対し画素データを展開する際に位置ずれ補正のためのアドレス変換を行い」、「アドレス変換部」、「『位置ずれ補正が済んだY,M,C,Kの画像メモリ』から『読み出』した『画素データ』」、「『副走査方向で2倍となる高解像度画素データへの変換』により、『解像度変換部のバッファメモリから1画素を分解した2つの高解像度画素データを読み出して第1スキャンライン目と第2スキャンライン目の時分割発光による書込記録を行って』」、「エンジン部で走査線が斜めとなったときの位置ずれ補正における副走査方向での画素の凹凸を滑らかにするスムージングをして」及び「解像度変換部」は、それぞれ、本願発明の「1列に配置された複数のプリントヘッド」、「用紙」、「印字」、「印字装置」、「1つの用紙上に重ねて印字を行なう印字装置」、「画像データ」、「格納する」、「ビットマップメモリ」、「プリントヘッドの間の相対的な傾き量」、「ライン単位で」、「画像データをビットマップ上で処理する」、「第1補正手段」、「第1補正手段により補正がされた画像データ」、「前記プリントヘッドの出力タイミングを制御することにより」、「1ラインより小さい単位で副走査方向に補正する」及び「第2補正手段」に相当する。
(2)引用発明において、「『コンピュータやワードプロセッサ等から印刷情報として提供される画像データから展開した画素データ(ドットデータ)の階調値』に基づいて駆動されて『静電潜像をドットイメージとして書き込』む『発光素子』」は、「LEDアレイからなる光学書込ユニット」に「配列され」ているから、上記(1)に照らせば、引用発明の「印字(トナー像を形成)」は「1列に配置された複数のプリントヘッド(光学書込ユニット)」を用いて行われることが明らかである。したがって、引用発明の「印字装置」と本願発明の「印字装置」とは、「1列に配置された複数のプリントヘッドを用いて1つの用紙上に重ねて印字を行なう」点で一致する。
(3)引用発明の「第1補正手段(アドレス変換部)」は、「プリントヘッドの間の相対的な傾き量(副走査方向の変移量(スキュー量)Δzである位置ずれ情報)」に基づき、「画像データをビットマップ上で処理する(アドレス変換)」ことにより「ライン単位で(42μm以上の位置ずれ情報についてのみ)」位置ずれ補正しているから、引用発明の「第1補正手段」と本願発明の「第1補正手段」とは「プリントヘッドの間の相対的な傾き量に基づいて、画像データをビットマップ上で処理することによりライン単位で副走査方向に補正する」点で一致する。
(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明と引用発明とは、
「1列に配置された複数のプリントヘッドを用いて1つの用紙上に重ねて印字を行なう印字装置において、
画像データを格納するビットマップメモリと、
プリントヘッドの間の相対的な傾き量に基づいて、画像データをビットマップ上で処理することによりライン単位で副走査方向に補正する第1補正手段と、
第1補正手段により補正がされた画像データを、前記プリントヘッドの出力タイミングを制御することにより、1ラインより小さい単位で副走査方向に補正する第2補正手段とを備えた印字装置。」である点で一致し、

「前記第2補正手段が、本願発明では『前記ビットマップメモリから読み出された画像データを1ライン単位で遅延させるラインバッファと、前記プリントヘッドへ出力するべく、前記ビットマップメモリから読み出された画像データと前記ラインバッファの画像データとを選択的に切り換えるセレクタと、プリントヘッドの間の相対的な傾きについての補正情報に基づいて前記セレクタを作動させる制御部とを備え』ているのに対して、引用発明ではそうなっていない」点(以下「相違点」という。)で相違する。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)上記2(6)からみて、引用例には、引用発明の「第2補正手段(解像度変換部)」が行う「1ラインより小さい単位での副走査方向の補正(エンジン部で走査線が斜めとなったときの位置ずれ補正における副走査方向での画素の凹凸を滑らかにするスムージング)」の手法に関して、解像度変換及び位置ずれ補正の前のラインに後続するラインの第1スキャンに分配される階調値D2を、変換及び補正の前のラインの第2スキャンに分配される階調値D1に比較して、全体として小さくなるような、8階調の階調画像データを有する1画素を2スキャンで書き込んで副走査方向で解像度を2倍とする高解像度画素データへの解像度変換及びその解像度変換と同時に行う位置ずれ補正を行う手法が記載されているところ、2値画像のように階調が無い画像の場合には、スキャン毎の1つの書き込みで表現できる濃度の情報としては、0及び1のいずれかの高解像度画素データしかないから、解像度変換及び位置ずれ補正の前と同じラインに分配される0又は1の高解像度画素データと、その元のラインに後続するラインに分配される0又は1の高解像度画素データとの間での0又は1の高解像度画素データの分配について、上記2(6)オのようにウエイトを考える必要がないことが当業者に自明である。
(2)してみると、2値画像のように階調が無い画像の場合には、上記2(6)オのようにする必要がないのであるから、位置ずれ補正後の印字データの2つの高解像度画素データが第1スキャン及び第2スキャンからなる1ライン内に収まっているか、先行する1ラインの第2スキャンと後続する1ラインの第1スキャンの境界を跨いでいるかにかかわりなく、位置ずれ補正後の印字データの2つの高解像度画素データが分配される2つのスキャンで補正前の印字データの0又は1の画素データを使用しての発光駆動を1回ずつ計2回繰り返せばよいことになる。
(3)したがって、引用発明の「第2補正手段」が行う「1ラインより小さい単位での副走査方向の補正」は、2値画像を対象とする印字装置にあっては、位置ずれ補正が済んだY,M,C,Kの画像メモリから画素データを読み出してLED駆動部により書込駆動する際に、データ転送経路の途中に設けている解像度変換部による解像度変換処理と同時に位置ずれ補正を行って、副走査方向yで1画素を分解して、分解前の画素データと同じ内容(0又は1)の2つの高解像度画素データに変換し、変換された2つの高解像度画素データを、1ラインより小さい単位(42μm以下)の位置ずれ情報に基づいて、変換及び補正前の画素データが収まっていた元のラインの第1及び第2スキャン、あるいは元のラインの第2スキャン及び元のラインに続くラインの第1スキャンに分配し、第1スキャンライン目と第2スキャンライン目の時分割発光による書込記録を行って、副走査方向で2倍となる高解像度画素データへの変換及び1ラインより小さい単位(42μm以下)の補正により、エンジン部で走査線が斜めとなったときの位置ずれ補正における副走査方向での画素の凹凸を滑らかにするスムージングを行うことは、当業者が引用例に記載された技術事項に基づいて容易に想到することができたことである。
(4)他方、入力画像データを1ライン等の単位で遅延させるラインバッファと、前記入力画像データと前記ラインバッファの画像データとを選択的に切り換えるセレクタとを備え、前記セレクタを作動させる制御情報に応じて画像データを切り換えて出力する手段は、本願出願前に周知である(例.当審拒絶理由で引用した特開平6-79917号公報(【0077】?【0081】、図7参照。「外部から入力される走査線毎のラインデータ34-0」、「ラインメモリ32」、「変動分のデータΔLc」及び「セレクタ33の出力」が、それぞれ、「入力画像データ」、「1ライン等の単位で遅延させるラインバッファ」、「制御情報」及び「出力」に相当する。)、当審拒絶理由で引用した特開昭58-186254号公報(2頁左上欄12行?同頁右下欄3行及び第3図参照。「第1の2値化回路12で2値化された画信号」、「第1のシフトレジスタ」、「切り換え接点が選択される電子スイッチ17」及び「演算回路14の一方の入力端子への供給」が、それぞれ、「入力画像データ」、「1ライン等の単位で遅延させるラインバッファ」、「選択的に切り換えるセレクタ」及び「出力」に相当する。)、当審拒絶理由で引用した特開平5-114994号公報(【0041】?【0050】、図5参照。「黒バッファ1003からの画像データ」、「遅延メモリ1005」、「第2セレクタ1006b」及び「第2セレクタ1006bの出力」が、それぞれ、「入力画像データ」、「1ライン等の単位で遅延させるラインバッファ」、「選択的に切り換えるセレクタ」及び「出力」に相当する。)。以下「周知技術」という。)。
(5)上記(3)及び(4)からみて、
引用発明において、
「第2補正手段」に、 画像メモリから読み出した画素データを1ライン単位で遅延させるラインバッファと、画像メモリから読み出した画素データと前記ラインバッファの画像データとを選択的に切り換えるセレクタとを備え、
位置ずれ補正が済んだY,M,C,Kの画像メモリから画素データを読み出してLED駆動部により書込駆動する際に、
データ転送経路の途中に設けている解像度変換部による解像度変換処理を行い、副走査方向yで1画素を分解して、分解前の画素データと同じ内容(0又は1)の2つの高解像度画素データに変換すると同時に、
エンジン部で走査線が斜めとなったときのライン単位で副走査方向の42μm以上の位置ずれ補正における副走査方向での画素の凹凸を更に位置補正するために、
時分割発光による書込記録を行う対象が第1スキャンの時、1ラインより小さい単位(42μm以下)の位置ずれ情報に基づいて、該第1スキャンの高解像度画素データとして、前記ラインバッファで1ライン遅延させた先行するライン画素データを分解した高解像度画素データ(参考図1の(b)の▲、(e)の●を参照。)、及び、画像メモリから読み出した現在のラインの画素データを分解した高解像度画素データ(参考図の(a)及び(c)の▲、(d)の●、(f)の■を参照。)のいずれか一方のデータ(0又は1)を前記セレクタを切り換えて選択し、
<参考図>
-----------------------------
(a)▲ 第1 (c)▲(第1スキャン)
▲ ▲ ライン ▲(第2スキャン)
-----------------------------
第2 (b)▲ (d)●(第1スキャン)
ライン ●(第2スキャン)●
-----------------------------
第3 (e)● (f)■ (第1スキャン)
ライン ■ (第2スキャン)
-----------------------------
高解像度画素データを、
変換及び補正前の画素データが収まっていた元のラインの第1及び第2スキャンに収まるように(参考図の(a)、(c)、(d)及び(f)参照。)、
又は、元のラインの第2スキャン及び元のラインに続くラインの第1スキャンに跨るように(参考図の(b)及び(e)参照。)、
分配する1ラインより小さい単位(42μm以下)の補正を行い、
上記相違点に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例に記載された技術事項及び周知技術に基づいて容易になし得た程度のことである。
(6)また、本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、引用例に記載された技術事項の奏する効果及び周知技術が奏する効果から当業者が予測することができた程度のものである。
(7)まとめ
以上の検討によれば、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載された技術事項及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明、引用例に記載された技術事項及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-10 
結審通知日 2010-02-16 
審決日 2010-03-02 
出願番号 特願平11-258728
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 督史清水 康司桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 岩崎 伸二
湯本 照基
発明の名称 印字装置  
代理人 田中 光雄  
代理人 石野 正弘  
代理人 川端 純市  
代理人 山田 卓二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ