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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1215150
審判番号 不服2008-16967  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-03 
確定日 2010-04-15 
事件の表示 特願2006-300247「観賞用水槽の加温制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月22日出願公開、特開2008-113615〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年11月6日の出願であって、平成20年5月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月1日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成21年8月10日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったが、何らの応答もなかったものである。

第2 平成20年8月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年8月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容、補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、次のとおりに補正しようとする補正事項を含むものである(下線部は、補正箇所)。
「水が満たされる観賞用水槽内に設置されるヒーターと、ヒーターの通電を制御する制御装置とから成る観賞用水槽の加温制御装置であって、
前記制御装置は、検温部とコントローラとをコード線で接続して構成されるとともに、コントローラには前記ヒーターがコード線を介して接続されており、
前記検温部には、温度に応じて電気抵抗値が変化する第1、第2の感温素子が組み込まれ、前記コントローラには、第1の感温素子の電気抵抗値に応じた出力が得られる第1の温度検出回路と、第2の感温素子の電気抵抗値に応じた出力が得られる第2の温度検出回路と、第1の温度検出回路で得られる出力により観賞用水槽内の水温を判別する水温判別部と、水温判別部による判別結果に応じて観賞用水槽内の水温が設定値になるように前記ヒーターの通電を制御するヒーター制御部と、第1、第2の各温度検出回路で得られる出力を比較し一致するとき検温部は水中にあると判断し一致しないとき検温部は水中にないと判断して表示器にエラー表示を行う水位判別部とが組み込まれており、前記第2の温度検出回路は、検温部が水中にあるときは第1、第2の各温度検出回路で得られる出力が一致し、検温部が水中にないときは前記第2の感温素子の空気中での発熱温度が外気温より高い温度に達して第1、第2の各温度検出回路で得られる出力が一致しなくなるように第2の感温素子に流れる電流が決定されており、
前記水位判別部により検温部が水中にあると判断されたとき、ヒーター制御部は水温判別部による判別結果に応じて水温が設定値になるようにヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順を実行し、水位判別部により検温部が水中にないと判断されたとき、ヒーター制御部がヒーターへの通電を停止した状態に設定した後、水位判別部は検温部が水中に浸された状態へ移行したかどうかを判別する判別手順を繰り返し実行し、前記判別手順の繰り返しにおいて水位判別部によって検温部が水中に浸された状態へ移行したことが判別されて表示器のエラー表示が解除されたとき、ヒーター制御部は前記ヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順へ移行するようにした観賞用水槽の加温制御装置。」

上記補正事項は、補正前の請求項1に係る発明を特定する事項である「水位判別部」について、「表示器にエラー表示を行う」もの及び「表示器のエラー表示が解除」されるものに限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

2.刊行物及びその記載内容
刊行物1:特開平8-238043号公報
刊行物2:特開平7-63592号公報

原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された上記刊行物1には、図面とともに、次のことが記載されている。
(1a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は観賞用の魚類や水草等を水と共に収容する観賞用水槽の水温を制御するコントローラや温度センサー等を改良した水温制御装置に関する。」、
(1b)「【0006】…本発明は、…その目的は、観賞用水槽内の貯水が消失したとき等の場合にヒータの通電を強制的に遮断することができる安全性の高い観賞用水槽の水温制御装置を提供することにある。」、
(1c)「【0014】図2は本発明の観賞用水槽の水温制御装置の一実施例の構成図であり、この水温制御装置1は、図示しない観賞用の魚類や水草等を貯水中に収容する観賞用の水槽2内に投入されるヒータ3および水分・温度一体センサー4と、これらヒータ3および水分・温度一体センサー4とに電気的に接続されて、水槽2外に設置されるサーモコントローラ5とを有する。
【0015】…水分・温度一体センサー4は水槽2内の貯水の温度を検出する温度センサーに、水分の有無を検出する水分センサーを一体に設けたものであり、水槽2内の水面下の内壁面に吸盤等により固定される。
【0016】この水分・温度一体センサー4は例えば図3(A)に示すようにサーミスタ等の温度センサー素子(図示せず)を内蔵する温度センサー6の本体ケース7に、水分検出用の一対の電極8a,8bを対向させて固着している。この水分検出用の一対の電極8a,8bはこれが貯水中に水没しているときと、水面の上方にあって水分の無い位置にあるときの抵抗または容量の変化を検出して水分の有無を検出し、その検出信号をケーブル9を介してサーモコントローラ5へ送信するようになっている。」、
(1d)「【0019】サーモコントローラ5は図1に示すようにヒータ3に電気的に接続される制御回路5aと、水分・温度一体センサー4に各々電気的に接続される温度検出回路5bおよび水分検出回路5cとを有する。
【0020】温度検出回路5bは水分・温度一体センサー4の温度センサー部により検出された温度検出値を読み込み、これを設定温度と比較し、温度検出値が設定値に到達しているときにオフ信号を、まだ到達していないときにオン信号を制御回路5aに与えるものである。
【0021】制御回路5aはこのオン信号を受けたときにヒータ3を通電し、オフ信号を受けたときに、ヒータ3への通電を遮断して、貯水の温度が設定温度でほぼ一定になるように制御するものである。…
【0022】そして、例えば地震等何らかの理由により水槽2が破損し、または転倒等により水槽2内の貯水が消失し、または水位が水分・温度センサ一体ー4の取付位置の下方に低下し、あるいは水分・温度一体センサー4が水槽2外へ放り出されると、この水分・温度一体センサー4の水分検出用の一対の電極8a,8b,10a,10bの抵抗や容量が変化し、またはリードスイッチ11の接点がオフに変化する。これらの変化を水分検出回路5cにより読み込むと、水分無しと判断して、水分無し信号が制御回路5aに与えられる。
【0023】これにより制御回路5aはヒータ3への通電を強制的に遮断する。」。
(1e)【図2】には、水温制御装置1と水分・温度一体センサー4、及びヒーターと水温制御装置1とは、コード線を介して接続されていることが記載されている。

上記記載及び技術常識によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「観賞用水槽2内に投入されるヒータ3と、水分・温度一体センサー4とサーモコントローラ5とからなる観賞用水槽の水温制御装置1であって、
水分・温度一体センサー4とサーモコントローラ5とをコード線で接続するとともに、
前記サーモコントローラ5と前記ヒータ3がコード線を介して接続されており、
前記水分・温度一体センサー4には、温度に応じて電気抵抗値が変化する温度センサー6及び水分検出用の電極8a,8aが組み込まれ、
前記サーモコントローラ5には、温度センサー6の抵抗に応じた出力が得られる温度検出回路5bと、水分検出用の一対の電極8a,8bの抵抗に応じた出力が得られ水分・温度一体センサー4が水中にあるか無いかを判断する水分検出回路5cと、温度検出回路5bで得られる出力により観賞用水槽内の水温を判別し温度検出回路5bによる判別結果に応じて観賞用水槽2内の水温が設定値になるように前記ヒータ3の通電を制御する制御回路5aとが組み込まれ、
水分検出回路5cにより水分・温度一体センサー4が水中にあると判断されたとき、制御回路5aは温度検出回路5bによる判別結果に応じて水温が設定値になるようにヒーター3の通電をオン、オフ制御し、
水分検出回路5cにより水分・温度一体センサー4が水中にないと判断されたとき、制御回路5aがヒータ3への通電を遮断する水温制御装置1。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

同じく、上記刊行物2には、図面とともに、次のことが記載されている。
(2a)「【請求項1】 周囲温度計測に用いられる第1の測温抵抗体と、
加熱電流が流され、これによる自己発熱で周囲温度より高温に保持される第2の測温抵抗体と、
前記第1及び第2の測温抵抗体からの信号を入力し、これらの差に相当する電圧信号を出力する差動手段と、
該差動手段が出力する電圧信号を基準電圧と比較し、基準電圧に対する電圧信号の大小により測温抵抗体が気液相何れにあるかを識別する信号を出力する比較手段とを備えることを特徴とする液面検出装置。」、
(2b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は液相と気相とで熱放散定数が異なることを利用した熱式液面センサを有する液面検出装置に係り、特に、半導体加工等における極度の高純度を要求する個所、例えば液体原料気化装置における液面制御に適した液面検出装置に関するものである。」、
(2c)「【0015】…図1は本発明による液面検出装置の一実施例を示し、同図において、液体原料気化装置の液体原料を収容するステンレス製容器1のフランジ1aには、2個の保護管3を備えた取付板4がパッキング5を介して気密に取り付けられる。保護管3にはそれぞれ測温抵抗体2C,2Hが挿入され、両測温抵抗体2C,2Hは正常な運転状態において液体原料の保持すべき液面の高さになる位置Lに設置される。
【0016】測温抵抗体2C,2Hからは外部回路との接続のためのリード線2が引き出されていて、図2に示すように、測温抵抗体2C,2Hはそれぞれ定電流回路S1,S2を介して電源Vccから電流を供給され、定電流回路S1,S2との接続点が差動回路10を構成する演算増幅器の反転入力及び非反転入力にそれぞれ接続されている。差動回路10の出力には両入力に印加されている電圧の差に相当する電圧信号が出力され、これが比較回路11において分圧抵抗R11及びR12によって発生される基準電圧と比較され、電圧信号が基準電圧より大きいとその出力にHレベルの信号を出力する。」、
(2d)「【0017】本発明においては、測温抵抗体2Cには抵抗を測定するのに必要最小限度の電流が流れるように設定するから、自己発熱は無視できて周囲温度測定のための測温抵抗体として動作する。一方、測温抵抗体2Hには約6mmAの加熱電流を流し、例えば気相中では自己加熱により測温抵抗体2Hに約20℃に相当する抵抗を与えるから、極小さな発熱体で測温抵抗体2Hを周囲温度より高温に設定するから、前述熱式液面センサの測温抵抗体として動作する。
【0018】すなわち、液体原料の液面6が正常運転中保持すべき液面の高さ以上であれば、測温抵抗体2Hは液相中にあって周囲温度に対する温度上昇は気相中の温度上昇より小さい。従って、同じく液相中にある測温抵抗体2Cから発せられる周囲温度に対応した大きさの電圧信号との差に相当する差動回路10の出力電圧が基準電圧より小さくなり、比較回路11の出力はLレベルになっている。
【0019】しかし、液体原料の液面6が上記正常液面L以下に低下すると、測温抵抗体2Hが気相に露出して、周囲温度に対する温度上昇が気相中の温度上昇になるから、同じく気相中にある測温抵抗体2Cから発せられる周囲温度に対応した大きさの電圧信号との差に相当する差動回路10の出力電圧が基準電圧より大きくなり、差動回路11の出力はHレベルになる。この比較回路11の出力により、液体原料を補充する自動制御が行われる。要するに、測温抵抗体2Cも気相に露出していて、ガスの温度を周囲温度信号として与えるから、熱放散定数の相違により液相と気相を判別する熱式液面センサの基本原理が正しく適用され、精密な液面制御が可能になる。」、
(2e)「【0029】更に、気化装置の運転に際しては上述液位の監視制御のみならず温度制御が必要であるが、本発明液位センサに含まれる周囲温度用の測温抵抗体を兼用できるから、全体として装置が簡略化出来る。」。

これらの記載及び技術常識によれば、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる。
「周囲温度計測に用いられ、温度に応じて電気抵抗値が変化する第1の測温抵抗体2Cと、
加熱電流を流し周囲温度より高温に保持される第2の測温抵抗体2Hと、
前記第1及び第2の測温抵抗体からの電気抵抗値に応じた出力信号を入力し、これらの差に相当する電圧信号を出力する差動手段とを有し、
第2の測温抵抗体2Hは、液体中にあるときは温度上昇が小さく、第2の測温抵抗体2Hの出力信号は、周囲温度に対応した第1の測温抵抗体2Cの出力信号との差が小さく、差に相当する電圧信号が小さくなり、気相に露出すると温度上昇が大きく、周囲温度に対応した第1の測温抵抗体2Cの出力信号との差に相当する電圧信号が大きくなるように流れる電流が設定されており、
該差動手段が出力する電圧信号を基準電圧と比較し、差動回路10の出力電圧が基準電圧より小さいと第1、第2の測温抵抗体2C,2Hは液体原料中にあると判断して警報を発し、
差動回路10の出力電圧が基準電圧より大きくなると第1、第2の測温抵抗体2C,2Hは液体原料中にないと判断する比較回路を備えた液面検出装置。」(以下、「刊行物2記載の発明」という。)

3.対比
そこで、本願補正発明と上記刊行物1記載の発明とを対比すると、上記刊行物1記載の発明の「ヒータ3」は本願補正発明の「ヒーター」に相当し、以下、
「水温制御装置1」は「加温制御装置」に、
「水分・温度一体センサー4」は「検温部」に、
「サーモコントローラ5」は「コントローラ」に、
「水分・温度一体センサー4及びサーモコントローラ5」は「制御装置」に、
「温度検出回路5b」は「水温判別部」に、
「制御回路5a」は「ヒーター制御部」に、
「水分検出回路5c」は「水位判別部」に、
それぞれ相当する。
また、刊行物1記載の発明は、温度検出値を設定温度と比較し、水分検出回路5cにより水分・温度一体センサー4が水中にあると判断されたとき、制御回路5aは温度検出回路5bによる判別結果に応じて水温が設定値になるようにヒーター3の通電をオン、オフ制御し、水分検出回路5cにより水分・温度一体センサー4が水中にないと判断されたとき、制御回路5aがヒータ3への通電を遮断するものであるから、「水位判別部により検温部が水中にあると判断されたとき、ヒーター制御部は水温判別部による判別結果に応じて水温が設定値になるようにヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順を実行し、水位判別部により検温部が水中にないと判断されたとき、ヒーター制御部がヒーターへの通電を停止した状態に設定」していることは、明らかである。

したがって、両者は、
「水が満たされる観賞用水槽内に設置されるヒーターと、ヒーターの通電を制御する制御装置とから成る観賞用水槽の加温制御装置であって、
前記制御装置は、検温部とコントローラとをコード線で接続して構成されるとともに、コントローラには前記ヒーターがコード線を介して接続されており、
前記水位判別部により検温部が水中にあると判断されたとき、ヒーター制御部は水温判別部による判別結果に応じて水温が設定値になるようにヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順を実行し、水位判別部により検温部が水中にないと判断されたとき、ヒーター制御部がヒーターへの通電を停止した状態に設定した後、水位判別部は検温部が水中に浸された状態へ移行したかどうかを判別する判別手順を繰り返し実行し、前記判別手順の繰り返しにおいて水位判別部によって検温部が水中に浸された状態へ移行したことが判別されたとき、ヒーター制御部は前記ヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順へ移行するようにした観賞用水槽の加温制御装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
検温部とコントローラからなる制御装置による水位の判別に関して、
本願補正発明は、
「検温部」が「温度に応じて電気抵抗値が変化する第1、第2の感温素子が組み込まれた」ものであり、
「コントローラ」は、「第1の感温素子の電気抵抗値に応じた出力が得られる第1の温度検出回路と、第2の感温素子の電気抵抗値に応じた出力が得られる第2の温度検出回路」を有し、
「第2の温度検出回路は、検温部が水中にあるときは第1、第2の各温度検出回路で得られる出力が一致し、検温部が水中にないときは前記第2の感温素子の空気中での発熱温度が外気温より高い温度に達して第1、第2の各温度検出回路で得られる出力が一致しなくなるように第2の感温素子に流れる電流が決定」されるものであり、
「水位判別部」は、「第1、第2の各温度検出回路で得られる出力を比較し一致するとき検温部は水中にあると判断し、一致しないとき検温部は水中にないと判断する」ものであるのに対し、
刊行物1記載の発明は、
「検温部」が「温度に応じて電気抵抗値が変化する温度センサー6及び水分検出用の電極8a,8aが組み込まれた」ものであって、2つの感温素子を有するものではなく、
「コントローラ」の「水位判別部」は、「水分検出用の一対の電極8a,8bの抵抗に応じた出力により、検温部が水中にあるか無いかを判断する」ものである点。
(相違点2)
水位判別部により検温部が水中にないと判断され、ヒーター制御部がヒーターへの通電を停止した状態に設定した後、本願補正発明では、水位判別部は検温部が水中に浸された状態へ移行したかどうかを判別する判別手順を繰り返し実行し、前記判別手順の繰り返しにおいて水位判別部によって検温部が水中に浸された状態へ移行したことが判別されたとき、ヒーター制御部は前記ヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順へ移行する」のに対し、刊行物1記載の発明では、このような手順が行われるか否か不明な点。
(相違点3)
「水位判別部」が、本願補正発明では、検温部は水中にないと判断したときに「エラー表示を行い」、検温部が水中に浸された状態へ移行したことが判別されたときに「エラー表示が解除」される「表示器」を有しているのに対し、刊行物1記載の発明では、エラー表示をする表示器を有していない点。

4.判断
(1)相違点1についての検討
上記刊行物2記載の発明の「測温抵抗体」、「液面検出装置」は、それぞれ、本願補正発明の「感温素子」、「制御装置」に相当し、刊行物2記載の発明の「比較回路」は、検温部が液体中にあるか否かの液位判別を行う「液位判別部」であるから、刊行物2記載の発明は、
「温度に応じて電気抵抗値が変化する第1、第2の感温素子が組み込まれた検温器」を有し、
「第1の感温素子の電気抵抗値に応じた出力が得られる第1の温度検出回路と、第2の感温素子の電気抵抗値に応じた出力が得られる第2の温度検出回路」を備え、
「第2の温度検出回路は、検温部が液体中にあるときは第1、第2の各温度検出回路で得られる出力の差が小さくなり、検温部が気相中にあり液体中にないときは、前記第2の感温素子の気相中での発熱温度が外気温より高い温度に達して第1、第2の各温度検出回路で得られる出力差が大きくなくなるように第2の感温素子に流れる電流が決定」されているものであり、
「第1、第2の各温度検出回路で得られる出力を比較し、差が小さいとき検温部は液体中にあると判断し、差が大きいときは検温部は液体中にないと判断する液位判別部」を有するものである。
さらに、刊行物2記載の発明の装置は、温度制御の際の周囲温度用の測温抵抗体を兼用できるものであり(記載事項(2e)参照)、温度制御と液位判別を行う用途に用いられるものである。
そうすると、刊行物1記載の発明において、温度制御と水位の判別手段として、温度と水分センサーを用いる制御手段に代えて、刊行物2記載の発明の、温度に応じて電気抵抗値が変化する2つの感温素子を用い液位判別を行う制御手段を採用し、上記相違点1の本願補正発明に係る事項とすることは、当業者であれば、容易になし得ることであり、その際、検温部が水中にあるときは第1.第2の各温度検出回路で得られる出力がほぼ一致するように第2の感温素子に流れる電流を決定することは適宜設定しうることである。

(2)相違点2についての検討
一般の自動制御において、エラーが解消されたときに通常の状態の制御に戻すことは普通に行われており、例えば、刊行物2記載の発明も、検温部が液体中にないときは、液を補充されるように自動制御し、液を補充し、検温部が液体中にあることが検出されたときは、液の補充を停止するような自動制御を行っているものと認められる。
そして、そのために、エラーが解消された状態へ移行したかどうかを判別する判別手順を繰り返し実行することは常套手段であって、刊行物1記載の発明において、検温部が水中にないと判断され、ヒーター制御部がヒーターへの通電を停止した状態に設定した後、水位判別部は検温部が水中に浸された状態へ移行したかどうかを判別する判別手順を繰り返し実行し、前記判別手順の繰り返しにおいて水位判別部によって検温部が水中に浸された状態へ移行したことが判別されたとき、ヒーター制御部がヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順へ移行するようにすることは、周知技術に基いて当業者が容易になしうることである。

(3)相違点3についての検討
相違点2について検討したとおり、検温部が水中にないと判断され、ヒーター制御部がヒーターへの通電を停止した状態に設定した後、水位判別部によって検温部が水中に浸された状態へ移行したことが判別されたとき、ヒーター制御部がヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順へ移行するようにすることは当業者が容易になしうることであり、また、エラーが生じたときに、刊行物2記載の発明のように警報を発したり、エラー表示を行い、エラーが解消されたときにこれらを解除することは、周知慣用の技術であるから、刊行物1記載の発明において、本願補正発明のように、「水位判別部」に「表示器」を設け、検温部が水中にないと判断したときに「表示器にエラー表示」行い、検温部が水中に浸された状態へ移行したことが判別されたときに「表示器のエラー表示が解除される」ように制御し、相違点3の本願補正発明に係る事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4)作用効果についての検討
そして、本願補正発明の効果である、水藻が付着しても、水位検出機能が損なわれることがないとの効果は、水位検出に電極を使用しない刊行物2記載の発明から予測可能なことであり、異常を検出して通電を停止できるとの効果は、刊行物1記載の発明も有するものであって、本願補正発明の作用効果は全体として、刊行物1、2記載の発明及び周知技術から予測できる程度のものであって、格別顕著なものとは認められない。

(5)まとめ
よって、本願補正発明は、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年8月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年11月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「水が満たされる観賞用水槽内に設置されるヒーターと、ヒーターの通電を制御する制御装置とから成る観賞用水槽の加温制御装置であって、
前記制御装置は、検温部とコントローラとをコード線で接続して構成されるとともに、コントローラには前記ヒーターがコード線を介して接続されており、
前記検温部には、温度に応じて電気抵抗値が変化する第1、第2の感温素子が組み込まれ、前記コントローラには、第1の感温素子の電気抵抗値に応じた出力が得られる第1の温度検出回路と、第2の感温素子の電気抵抗値に応じた出力が得られる第2の温度検出回路と、第1の温度検出回路で得られる出力により観賞用水槽内の水温を判別する水温判別部と、水温判別部による判別結果に応じて観賞用水槽内の水温が設定値になるように前記ヒーターの通電を制御するヒーター制御部と、第1、第2の各温度検出回路で得られる出力を比較し一致するとき検温部は水中にあると判断し一致しないとき検温部は水中にないと判断する水位判別部とが組み込まれており、前記第2の温度検出回路は、検温部が水中にあるときは第1、第2の各温度検出回路で得られる出力が一致し、検温部が水中にないときは前記第2の感温素子の空気中での発熱温度が外気温より高い温度に達して第1、第2の各温度検出回路で得られる出力が一致しなくなるように第2の感温素子に流れる電流が決定されており、
前記水位判別部により検温部が水中にあると判断されたとき、ヒーター制御部は水温判別部による判別結果に応じて水温が設定値になるようにヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順を実行し、水位判別部により検温部が水中にないと判断されたとき、ヒーター制御部がヒーターへの通電を停止した状態に設定した後、水位判別部は検温部が水中に浸された状態へ移行したかどうかを判別する判別手順を繰り返し実行し、前記判別手順の繰り返しにおいて水位判別部によって検温部が水中に浸された状態へ移行したことが判別されたとき、ヒーター制御部は前記ヒーターの通電をオン、オフ制御する制御手順へ移行するようにした観賞用水槽の加温制御装置。」

2.刊行物の記載内容
原査定に引用され本願出願前に頒布された刊行物及びその記載内容は、前記「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から「水位判別部」の限定事項である「表示器にエラー表示を行う」及び「表示器のエラー表示が解除」されるとの構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 4.」に記載したとおり、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-15 
結審通知日 2010-02-16 
審決日 2010-03-03 
出願番号 特願2006-300247(P2006-300247)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01K)
P 1 8・ 575- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 昌哉  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 神 悦彦
山本 忠博
発明の名称 観賞用水槽の加温制御装置  
代理人 新田 研太  
代理人 鈴木 由充  
代理人 小石川 由紀乃  
代理人 小石川 由紀乃  
代理人 鈴木 由充  
代理人 新田 研太  

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