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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1215183
審判番号 不服2009-2530  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-05 
確定日 2010-04-16 
事件の表示 平成11年特許願第140079号「振動エネルギ吸収装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月28日出願公開、特開2000-329182〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年5月20日の出願であって、平成20年12月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年2月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成21年3月6日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年3月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年3月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 シリンダと、このシリンダに固着されていると共にシリンダの軸方向の両端部開口面を閉塞した蓋手段と、シリンダ内に軸方向に相対的に移動自在に配されたロッドと、シリンダ内に収容された鉛と、シリンダ内に設けられており、シリンダに対するロッドの軸方向相対移動に抗する抵抗力を鉛との関係でロッドに発生させる抵抗力発生部と、シリンダの軸方向端部の環状隙間に配されたシール手段とを具備しており、蓋手段は、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する環状底面を有しており、シール手段は、鉛からの圧力を直接受けるプレッシャーリングと、プレッシャーリングからの圧力を受けると共に弾性皿ばね状に形成されている少なくとも一個のシールリングとを具備しており、シールリングは、環状隙間を規定する大径環状側面に当接する大径外周面と、環状隙間を規定する蓋手段の環状底面に当接する大径側の環状端面と、環状隙間を規定する小径環状側面に当接する小径内周面と、軸方向に対して傾斜する傾斜側面とを有しており、プレッシャーリングは、シールリングの傾斜側面に当接するべく、軸方向に対して傾斜する傾斜側面を有しており、当該傾斜側面を介して鉛圧をシールリングの傾斜側面に伝達して、シールリングを、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する蓋手段の環状底面との間で、軸方向に関して圧縮するようになっており、ロッドは、蓋手段を摺動自在に軸方向に移動自在に貫通して配されており、環状隙間は、蓋手段の内周面に形成された環状段部とロッドの外周面との間に形成されており、環状隙間を規定する大径環状側面は、蓋手段の環状段部の軸方向に平行な環状の側面からなり、環状隙間を規定する環状底面は、蓋手段の環状段部の軸方向に直交する環状側面からなり、環状隙間を規定する小径環状側面は、ロッドの外周面からなり、シールリングの傾斜側面は外側に面しており、プレッシャーリングは、鉛の圧力を受ける環状端面と、ロッドの外周面に摺動自在に当接する環状の内周面と、環状段部の軸方向に平行な環状の側面に摺動自在に当接する環状の外周面とを有しており、プレッシャーリングの傾斜側面は内側に面して、環状隙間に嵌装されている振動エネルギ吸収装置。
【請求項2】 抵抗力発生部は、ロッドの外周面に形成された少なくとも一つの膨出部及び凹所のうちの少なくとも一方からなる請求項1に記載の振動エネルギ吸収装置。
【請求項3】 シリンダと、このシリンダ内に軸方向に相対的に移動自在に配されたロッドと、このロッドに固着されていると共にシリンダの軸方向の両端部開口面を閉塞した蓋手段と、シリンダ内に収容された鉛と、シリンダ内に設けられており、シリンダに対するロッドの軸方向相対移動に抗する抵抗力を鉛との関係でロッドに発生させる抵抗力発生部と、シリンダの軸方向端部の環状隙間に配されたシール手段とを具備しており、蓋手段は、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する環状底面を有しており、シール手段は、鉛からの圧力を直接受けるプレッシャーリングと、プレッシャーリングからの圧力を受けると共に弾性皿ばね状に形成されている少なくとも一個のシールリングとを具備しており、シールリングは、環状隙間を規定する大径環状側面に当接する大径外周面と、環状隙間を規定する小径環状側面に当接する小径内周面と、環状隙間を規定する蓋手段の環状底面に当接する小径側の環状端面と、軸方向に対して傾斜する傾斜側面とを有しており、プレッシャーリングは、シールリングの傾斜側面に当接するべく、軸方向に対して傾斜する傾斜側面を有しており、当該傾斜側面を介して鉛圧をシールリングの傾斜側面に伝達して、シールリングを、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する蓋手段の環状底面との間で、軸方向に関して圧縮するようになっており、蓋手段は、シリンダの内周面に軸方向に移動自在に嵌合して配されており、環状隙間は、蓋手段の外周面に形成された環状段部とシリンダの内周面との間に形成されており、環状隙間を規定する大径環状側面は、シリンダの内周面からなり、環状隙間を規定する環状底面は、蓋手段の環状段部の軸方向に直交する環状側面からなり、環状隙間を規定する小径環状側面は、蓋手段の環状段部の軸方向に平行な環状の側面からなり、シールリングの傾斜側面は内側に面しており、プレッシャーリングは、鉛の圧力を受ける環状端面と、シリンダの内周面に摺動自在に当接する環状の外周面と、環状段部の軸方向に平行な環状の側面に摺動自在に当接する環状の内周面とを有しており、プレッシャーリングの傾斜側面は外側に面して、環状隙間に嵌装されている振動エネルギ吸収装置。
【請求項4】 抵抗力発生部は、シリンダの内周面に形成された少なくとも一つの膨出部及び凹所のうちの少なくとも一方からなる請求項3に記載の振動エネルギ吸収装置。」に補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、実質的に、本件補正前の請求項3に記載した発明を特定するために必要な事項である「シールリング」について「弾性皿ばね状に形成されている」という事項を付加し、同じく、「プレッシャーリング」について「鉛の圧力を受ける環状端面」という事項を付加して減縮するものであって、これは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平6-337030号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0011】
【具体例】図1から図4において、本例のエネルギ吸収装置1は、両端部2及び3が閉塞されたシリンダ4と、シリンダ4内にシリンダ4の軸方向Aに移動自在に配されたロッド5と、シリンダ4内に収容された鉛6と、シリンダ4内に設けられており、シリンダ4に対するロッドの軸方向相対移動に抗する抵抗力を鉛6との関係でロッド5に発生させる抵抗力発生部7と、シリンダ4の環状の隙間8に配されたシール手段9とを具備しており、本例のシール手段9は、鉛6からの圧力を直接受けるプレッシャーリング15と、プレッシャーリング15からの圧力を受けるシールリング16とを具備しており、シールリング16は、プレッシャーリング15からの圧力を受ける側の環状側面17に対向する他方の環状側面18に、軸方向Aに対して傾斜している環状の傾斜側面部19を有している。
【0012】鉄系の材料で形成されたシリンダ4は、円筒部25と円筒部25にボルト等により固着された蓋部26及び27とからなり、ロッド5は蓋部26及び27の孔28(蓋部27側は図示せず)を貫通して配されている。孔28において蓋部26に円筒状のベアリング29が固着されており、ベアリング29によりロッド5はシリンダ4に軸方向Aに移動自在に支持されている。
【0013】ロッド5は例えば高張力鋼から形成されており、抵抗力発生部7は、本例ではシリンダ4内のロッド5に形成された膨出部35からなる。
【0014】シールリング16は、プレッシャーリング15からの圧力を受ける側の環状側面17において、その外周側には、他方の環状側面18の傾斜側面部19の傾斜方向と同方向に傾斜している傾斜側面部41を、その内周側には、軸方向Aに対して直交する直交側面部42をそれぞれ有しており、内周側に傾斜側面部19を有している他方の環状側面18において、その外周側には、軸方向Aに対して直交する直交側面部43を有して、皿ばね状に形成されている。シールリング16の環状の外周面44及び内周面45はそれぞれ軸方向Aと平行になるように形成されている。傾斜側面部19及び41の軸方向Aに対する傾斜角は45度程度が好ましい。
【0015】プレッシャーリング15は、本例では、軸方向Aと平行になるように形成された環状の外周面51及び内周面52と、軸方向Aに対して直交する直交側面53及び54とを有して鉄系の材料から形成されている。
【0016】以上のようなベアリング29及びシール手段9は、図示しないが蓋部27側にも設けられており、また本例ではプレッシャーリング15及びシールリング16と同等のプレッシャーリング61及びシールリング62からなるシール手段63が円筒部25と蓋部26及び27との間の隙間64(蓋部27側は図示せず)にも装着されている。なお、シール手段63においてはシールリング62はシール手段9のシールリング16と比較して逆に向きに装着されている。
【0017】このように形成されたエネルギ吸収装置1は、例えばシリンダ4の円筒部25が地殻に固定され、ロッド5が建物に連結されて用いられる。そして地震などで建物が振動すると、ロッド5は円筒部25に対してA方向に移動する。このロッド5の円筒部25に対する相対的なA方向の移動の際、ロッド5の膨出部35とシリンダ4の内周面71とで規定される環状通路72を通って鉛6が塑性流動し、このとき環状通路72の大きさにより決定されるシリンダ4内圧がシリンダ4の両端閉塞部、すなわち蓋部26及び27に交互に作用してロッド5の円筒部25に対する相対的なA方向の移動の抵抗力として現れるようになり、塑性流動における鉛6の変形により振動エネルギが吸収される。
【0018】ところでエネルギ吸収装置1では、シリンダ4内圧が上昇して、鉛6によりプレッシャーリング15がB方向に押し付けられると、プレッシャーリング15に隣接したシールリング16はその全体の軸方向高さが低くなるようにプレッシャーリング15に押し付けられて変形される。この変形において環状内周面45の径が縮径されるためシールリング16はその環状内周面45でロッド5をしっかりと締めつけるようになり、この締め付けによりロッド5の外周面75に引き摺られて展延する鉛6のロッド5との隙間への侵入を阻止し、而して鉛6の漏出を防止する。すなわち本例のシール手段9のシールリング16はセルフシール機能を有しているといえる。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「シリンダ4と、このシリンダ4に固着されていると共にシリンダ4の軸方向の両端部開口面を閉塞した蓋部26、27と、シリンダ4内に軸方向に相対的に移動自在に配されたロッド5と、シリンダ4内に収容された鉛6と、シリンダ4内に設けられており、シリンダ4に対するロッド5の軸方向相対移動に抗する抵抗力を鉛6との関係でロッド5に発生させる抵抗力発生部7と、シリンダ4の軸方向端部の環状隙間8に配されたシール手段9とを具備しており、蓋部26、27は、シリンダ4の軸方向端部の環状隙間8を規定する環状底面を有しており、シール手段9は、鉛6からの圧力を直接受けるプレッシャーリング15と、プレッシャーリング15からの圧力を受けると共に皿ばね状に形成されているシールリング16とを具備しており、シールリング16は、環状隙間を規定する大径環状側面に当接する外周面44と、環状隙間を規定する蓋部26、27の環状底面に当接する大径側の直交側面部43と、環状隙間を規定する小径環状側面に当接する内周面45と、プレッシャーリング15からの圧力を受ける側の環状側面17の外周側に軸方向に対して傾斜する傾斜側面部19と、その内周側に軸方向に対して直交する直交側面部42とを有しており、プレッシャーリング15は、軸方向に対して直交する直交側面53及び54を有し、鉛圧をシールリング16に伝達して、シールリング16を、シリンダ4の軸方向端部の環状隙間を規定する蓋部26、27の環状底面との間で、軸方向に関して圧縮するようになっており、ロッド5は、蓋部26、27を摺動自在に軸方向に移動自在に貫通して配されており、環状隙間は、蓋部26、27の内周面に形成された環状段部とロッド5の外周面との間に形成されており、環状隙間を規定する大径環状側面は、蓋部26、27の環状段部の軸方向に平行な環状の側面からなり、環状隙間を規定する環状底面は、蓋部26、27の環状段部の軸方向に直交する環状側面からなり、環状隙間を規定する小径環状側面は、ロッド5の外周面からなり、シールリング16の傾斜側面部19は外側に面しており、プレッシャーリング15は、鉛6の圧力を受ける直交側面53と、ロッド5の外周面に摺動自在に当接する環状の内周面52と、環状段部の軸方向に平行な環状の側面に摺動自在に当接する環状の外周面51とを有しており、プレッシャーリング15は環状隙間に配されているエネルギ吸収装置1。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、後者の「蓋部26、27」は前者の「蓋手段」に相当し、同様に、「皿ばね状」は「弾性皿ばね状」に、「外周面44」は「大径外周面」に、「大径側の直交側面部43」は「大径側の環状端面」に、「内周面45」は「小径内周面」に、「傾斜側面部19」は「傾斜側面」に、「直交側面53」は「環状端面」にそれぞれ相当する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「シリンダと、このシリンダに固着されていると共にシリンダの軸方向の両端部開口面を閉塞した蓋手段と、シリンダ内に軸方向に相対的に移動自在に配されたロッドと、シリンダ内に収容された鉛と、シリンダ内に設けられており、シリンダに対するロッドの軸方向相対移動に抗する抵抗力を鉛との関係でロッドに発生させる抵抗力発生部と、シリンダの軸方向端部の環状隙間に配されたシール手段とを具備しており、蓋手段は、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する環状底面を有しており、シール手段は、鉛からの圧力を直接受けるプレッシャーリングと、プレッシャーリングからの圧力を受けると共に弾性皿ばね状に形成されている少なくとも一個のシールリングとを具備しており、シールリングは、環状隙間を規定する大径環状側面に当接する大径外周面と、環状隙間を規定する蓋手段の環状底面に当接する大径側の環状端面と、環状隙間を規定する小径環状側面に当接する小径内周面と、軸方向に対して傾斜する傾斜側面とを有しており、プレッシャーリングは、鉛圧をシールリングに伝達して、シールリングを、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する蓋手段の環状底面との間で、軸方向に関して圧縮するようになっており、ロッドは、蓋手段を摺動自在に軸方向に移動自在に貫通して配されており、環状隙間は、蓋手段の内周面に形成された環状段部とロッドの外周面との間に形成されており、環状隙間を規定する大径環状側面は、蓋手段の環状段部の軸方向に平行な環状の側面からなり、環状隙間を規定する環状底面は、蓋手段の環状段部の軸方向に直交する環状側面からなり、環状隙間を規定する小径環状側面は、ロッドの外周面からなり、シールリングの傾斜側面は外側に面しており、プレッシャーリングは、鉛の圧力を受ける環状端面と、ロッドの外周面に摺動自在に当接する環状の内周面と、環状段部の軸方向に平行な環状の側面に摺動自在に当接する環状の外周面とを有している振動エネルギ吸収装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明の「プレッシャーリング」は、「シールリングの傾斜側面に当接するべく、軸方向に対して傾斜する傾斜側面を有しており、当該傾斜側面を介して鉛圧をシールリングの傾斜側面に伝達して、シールリングを、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する蓋手段の環状底面との間で、軸方向に関して圧縮するようになって」おり、また、「プレッシャーリングの傾斜側面は内側に面して、環状隙間に嵌装されて」いるのに対し、引用例1発明は「プレッシャーリング15は、軸方向に対して直交する直交側面53及び54を有し、鉛圧をシールリング16に伝達して、シールリング16を、シリンダ4の軸方向端部の環状隙間を規定する蓋部26、27の環状底面との間で、軸方向に関して圧縮するようになって」おり、また、「プレッシャーリング15は環状隙間に配されて」いる点。
(4)判断
[相違点1]について
一般に、シール手段を構成する2つのリング状部材の相互当接面を傾斜面として、シール手段に軸方向の力が作用したとき、リング状部材を軸状部材(ロッド)に押し付けるようにしたものは、例えば、実願昭57-35802号(実開昭58-139550号)のマイクロフィルム(特に第1、2図)、特開平5-99070号公報(特に図1)、特公昭55-17260号公報(特に第2頁左欄第27?40行の「リング12、13は円錐状面を有し、…充分に押圧される。」)に示されているように周知である。引用例1発明のシール手段9においても、そのシール性の向上ないし改良を図ることが好適であることは明らかであり、シール手段9に上記の周知事項を適用することは当業者が容易に想到し得たものと認められる。また、そのようにしたプレッシャーリング15を環状隙間に嵌装することは、シール性を考慮すれば合理的な設計であり、少なくとも当業者が容易に想到し得たものと認められる。このようにしたものは、実質的にみて、相違点1に係る本願補正発明の上記事項を具備しているということができる。
そして、本願補正発明の作用効果は、引用例1に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、請求人は審判請求の理由、及び平成21年10月23日付け回答書において、概ね、
「先の審判請求書でも述べましたように、マイクロフィルム及び公報には、シールリング1及びシールリング1を保持するホルダー2の間又はシールリング本体11及びシールリング本体11を保持する金属製ホルダーリング12の間のような、シール部を構成するシールリングとシールリングを保持するホルダーとの2部材の間で傾斜面を形成することが記載されているのでありまして、シール部を構成するシールリングとシールリングを保持するホルダーとの2部材の間で傾斜面を形成することが知られている、審査官の言葉を借りれば、従来周知の技術であるということができるのでありまして、これを一般概念化して、「シール部を構成する2部材の間で傾斜面を形成し、本願と同様の楔効果によってシール性を向上させること」が従来周知の技術であるとされますご認定には、承服し難いのであります。
仮に、マイクロフィルム及び公報の記載から一般概念化された「シール部を構成する2部材の間で傾斜面を形成し、本願と同様の楔効果によってシール性を向上させること」が従来周知の技術であるとしましても、同審判請求書でも述べましたように、鉛の圧力を受ける環状端面とロッドの外周面に摺動自在に当接する環状の内周面と環状段部の軸方向に平行な環状の側面に摺動自在に当接する環状の外周面とを有して鉛からの圧力を直接受けるプレッシャーリングと斯かるプレッシャーリングからの圧力を受けると共に弾性皿ばね状に形成されているシールリングとの2部材の間で傾斜面を形成すること及び鉛の圧力を受ける環状端面と、シリンダの内周面に摺動自在に当接する環状の外周面と、環状段部の軸方向に平行な環状の側面に摺動自在に当接する環状の内周面とを有して鉛からの圧力を直接受けるプレッシャーリングと斯かるプレッシャーリングからの圧力を受けると共に弾性皿ばね状に形成されているシールリングとの2部材の間で傾斜面を形成することの夫々は、従来周知の技術であるとはいえないのであります。
のみならず、本願第一発明及び本願第三発明は、単に、「シール部を構成する2部材の間で傾斜面を形成」したものではなく、シリンダに固着されていると共にシリンダの軸方向の両端部開口面を閉塞した蓋手段との有機的な関連で、少なくともプレッシャーリングが「シールリングの傾斜側面に当接するべく、軸方向に対して傾斜する傾斜側面を有しており、当該傾斜側面を介して鉛圧をシールリングの傾斜側面に伝達して、シールリングを、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する蓋手段の環状底面との間で、軸方向に関して圧縮するようになっている」のであります。
しかも、これにより、弾性皿ばね状に形成されているシールリングを鉛圧により変形させ得るために、本願第一発明では、大径環状側面及び環状底面と環状隙間を規定するロッドの外周面である小径環状側面とへのシールリングの当接がぴったりと行われ、ロッドの外周面に展延する鉛のシリンダ外への漏出及び環状隙間を介してのシリンダ外への鉛の漏出のいずれもを効果的に阻止し得て、本願第三発明では、小径環状側面及び環状底面と環状隙間を規定するシリンダの内周面である大径環状側面とへのシールリングの当接がぴったりと行われ、シリンダの内周面に展延する鉛のシリンダ外への漏出及び環状隙間を介してのシリンダ外への鉛の漏出のいずれもを効果的に阻止し得て、而して長期の使用でのシリンダ内の鉛圧の低下を防ぎ得て、エネルギ吸収特性の劣化をなくし得、しかも、本願第一発明及び本願第三発明では、プレッシャーリングからの鉛圧のシールリングへの伝達が両傾斜面を介して行われるために、楔効果によりシールリングを容易に圧縮、変形でき、これによってもシールリングのよりぴったりとした大径環状側面、環状底面及びロッドの外周面並びに小径環状側面、環状底面及びシリンダの内周面への当接を容易に行い得るという上述の通りの鉛を収容したシリンダを具備し、鉛との関係で抵抗力を発生させる振動エネルギ吸収装置の技術分野における独特の作用効果を奏することができるのでありますから、ご引用文献1に記載の技術及び周知の技術から容易に想到できる程度のものではないと思料します。」と主張する。
確かに、「仮に、マイクロフィルム及び公報の記載から一般概念化された「シール部を構成する2部材の間で傾斜面を形成し、本願と同様の楔効果によってシール性を向上させること」が従来周知の技術であるとしましても、同審判請求書でも述べましたように、…ことの夫々は、従来周知の技術であるとはいえないのであります。」との主張はその限りではそのとおりであるが、一般に、シール手段を構成する2つのリング状部材の相互当接面を傾斜面として、シール手段に軸方向の力が作用したとき、リング状部材を軸状部材(ロッド)に押し付けるようにしたものは周知であること、引用例1発明のシール手段9にこのような周知事項を適用することは当業者が容易に想到し得たものと認められること、及び、本願補正発明の作用効果は、引用例1に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものであることは上記のとおりである。

したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成21年3月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明9」という。)は、平成20年5月23日付け手続補正により補正された明細書、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 シリンダと、このシリンダに固着されていると共にシリンダの軸方向の両端部開口面を閉塞した蓋手段と、シリンダ内に軸方向に相対的に移動自在に配されたロッドと、シリンダ内に収容された鉛と、シリンダ内に設けられており、シリンダに対するロッドの軸方向相対移動に抗する抵抗力を鉛との関係でロッドに発生させる抵抗力発生部と、シリンダの軸方向端部の環状隙間に配されたシール手段とを具備しており、蓋手段は、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する環状底面を有しており、シール手段は、鉛からの圧力を直接受けるプレッシャーリングと、プレッシャーリングからの圧力を受ける少なくとも一個のシールリングとを具備しており、シールリングは、環状隙間を規定する大径環状側面に当接する大径外周面及び環状隙間を規定する蓋手段の環状底面に当接する大径側の環状端面のうちの少なくとも一方と、環状隙間を規定する小径環状側面に当接する小径内周面及び環状隙間を規定する蓋手段の環状底面に当接する小径側の環状端面のうちの少なくとも一方と、軸方向に対して傾斜する傾斜側面とを有しており、プレッシャーリングは、シールリングの傾斜側面に当接するべく、軸方向に対して傾斜する傾斜側面を有しており、当該傾斜側面を介して鉛圧をシールリングの傾斜側面に伝達して、シールリングを、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する蓋手段の環状底面との間で、軸方向に関して圧縮するようになっている振動エネルギ吸収装置。
【請求項2】 ロッドは、蓋手段を摺動自在に軸方向に移動自在に貫通して配されており、環状隙間は、蓋手段の内周面に形成された環状段部とロッドの外周面との間に形成されており、環状隙間を規定する大径環状側面は、蓋手段の環状段部の軸方向に平行な環状の側面からなり、環状隙間を規定する環状底面は、蓋手段の環状段部の軸方向に直交する環状側面からなり、環状隙間を規定する小径環状側面は、ロッドの外周面からなり、シールリングの傾斜側面は外側に面している請求項1に記載の振動エネルギ吸収装置。
【請求項3】 プレッシャーリングは、ロッドの外周面に摺動自在に当接する環状の内周面と、環状段部の軸方向に平行な環状の側面に摺動自在に当接する環状の外周面とを有しており、プレッシャーリングの傾斜側面は内側に面して、環状隙間に嵌装されている請求項2に記載の振動エネルギ吸収装置。
【請求項4】 抵抗力発生部は、ロッドの外周面に形成された少なくとも一つの膨出部及び凹所のうちの少なくとも一方からなる請求項2又は3に記載の振動エネルギ吸収装置。
【請求項5】 シリンダと、このシリンダ内に軸方向に相対的に移動自在に配されたロッドと、このロッドに固着されていると共にシリンダの軸方向の両端部開口面を閉塞した蓋手段と、シリンダ内に収容された鉛と、シリンダ内に設けられており、シリンダに対するロッドの軸方向相対移動に抗する抵抗力を鉛との関係でロッドに発生させる抵抗力発生部と、シリンダの軸方向端部の環状隙間に配されたシール手段とを具備しており、蓋手段は、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する環状底面を有しており、シール手段は、鉛からの圧力を直接受けるプレッシャーリングと、プレッシャーリングからの圧力を受ける少なくとも一個のシールリングとを具備しており、シールリングは、環状隙間を規定する大径環状側面に当接する大径外周面及び環状隙間を規定する蓋手段の環状底面に当接する大径側の環状端面のうちの少なくとも一方と、環状隙間を規定する小径環状側面に当接する小径内周面及び環状隙間を規定する蓋手段の環状底面に当接する小径側の環状端面のうちの少なくとも一方と、軸方向に対して傾斜する傾斜側面とを有しており、プレッシャーリングは、シールリングの傾斜側面に当接するべく、軸方向に対して傾斜する傾斜側面を有しており、当該傾斜側面を介して鉛圧をシールリングの傾斜側面に伝達して、シールリングを、シリンダの軸方向端部の環状隙間を規定する蓋手段の環状底面との間で、軸方向に関して圧縮するようになっている振動エネルギ吸収装置。
【請求項6】 蓋手段は、シリンダの内周面に軸方向に移動自在に嵌合して配されており、環状隙間は、蓋手段の外周面に形成された環状段部とシリンダの内周面との間に形成されており、環状隙間を規定する大径環状側面は、シリンダの内周面からなり、環状隙間を規定する環状底面は、蓋手段の環状段部の軸方向に直交する環状側面からなり、環状隙間を規定する小径環状側面は、蓋手段の環状段部の軸方向に平行な環状の側面からなり、シールリングの傾斜側面は内側に面している請求項5に記載の振動エネルギ吸収装置。
【請求項7】 プレッシャーリングは、シリンダの内周面に摺動自在に当接する環状の外周面と、環状段部の軸方向に平行な環状の側面に摺動自在に当接する環状の内周面とを有しており、プレッシャーリングの傾斜側面は外側に面して、環状隙間に嵌装されている請求項6に記載の振動エネルギ吸収装置。
【請求項8】 抵抗力発生部は、シリンダの内周面に形成された少なくとも一つの膨出部及び凹所のうちの少なくとも一方からなる請求項6又は7に記載の振動エネルギ吸収装置。
【請求項9】 シールリングは、弾性皿ばね状に形成されている請求項1から8のいずれか一項に記載の振動エネルギ吸収装置。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、及びその記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明の「弾性皿ばね状に形成されている」という事項を削除し、「鉛の圧力を受ける環状端面」という事項を削除し、さらに、上記「3.本願発明」の請求項2において追加された事項である「ロッドは、蓋手段を摺動自在に軸方向に移動自在に貫通して配されており、環状隙間は、蓋手段の内周面に形成された環状段部とロッドの外周面との間に形成されており、環状隙間を規定する大径環状側面は、蓋手段の環状段部の軸方向に平行な環状の側面からなり、環状隙間を規定する環状底面は、蓋手段の環状段部の軸方向に直交する環状側面からなり、環状隙間を規定する小径環状側面は、ロッドの外周面からなり、シールリングの傾斜側面は外側に面している」という事項、及び、上記「3.本願発明」の請求項3において追加された事項である「プレッシャーリングは、ロッドの外周面に摺動自在に当接する環状の内周面と、環状段部の軸方向に平行な環状の側面に摺動自在に当接する環状の外周面とを有しており、プレッシャーリングの傾斜側面は内側に面して、環状隙間に嵌装されている」という事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、引用例1に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は引用例1に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。

4.結論
上述のとおり、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2?9について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-03 
結審通知日 2010-02-09 
審決日 2010-02-24 
出願番号 特願平11-140079
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16F)
P 1 8・ 575- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹村 秀康  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 川本 真裕
藤村 聖子
発明の名称 振動エネルギ吸収装置  
代理人 高田 武志  
代理人 高田 武志  

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