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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1215257
審判番号 不服2006-1037  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-16 
確定日 2010-04-19 
事件の表示 特願2000-529273「合成生体材料化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月 5日国際公開,WO99/38542,平成14年 1月22日国内公表,特表2002-501785〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は,平成10年1月29日の出願であって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成15年9月12日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】カルシウム,酸素およびリンを含み,該元素の少なくとも一つの一部が約0.1?0.6Åのイオン半径を有する元素で置換されている単離された生体吸収性の生体材料化合物。」

2.引用刊行物及びその記載事項
これに対して,原査定の理由に引用された,本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物1には,以下のことが記載されている。

刊行物1:国際公開第97/9286号(原審で引用された引用文献1;英文のため翻訳文で記載する。(対応日本公報は特表平11-512069号公報))

(1-1)
「図5は,グラフ(a),(b),(c)を含むものであり,(a)組成物と基質の界面,(b)界面のすぐ上,(c)フィルムの上における,エネルギー散乱X線分光スペクトル法の結果を示す。」(明細書8頁第23?25行)
(1-2)
「現在,安定剤の存在により,リン酸カルシウム相内部のαTCPを顕著にかつ予想外に安定化させ,骨芽細胞と破骨細胞の両活性を支持,促進し,かつ,この様な活性を高い再現性で定量化することを可能にする生物的活性を有する組成物が提供され,また骨組織の欠損の診断および治療法の開発が可能となる。
『安定化』という言葉は,ハイドロキシアパタイトの変換により形成された,in vivoまたはin vitroで環境条件または生理学的環境に置かれた時に一貫した結晶学的および化学的構造を維持する,リン酸カルシウム相に対して使用されることが理解される。」(明細書第9頁第29行?次頁第9行)
(1-3)
「シリカが,βリン酸三カルシウムの様な他の相よりも,αリン酸三カルシウムの形成を促進する直接的な役割を果たすことに関して提唱されている機序は,ケイ素がハイドロキシアパタイト結晶構造に入り,βよりもα相を安定化させるというものである。」(明細書第14頁第23?27行)
(1-4)
「現在,好ましい例によれば,開始ハイドロキシアパタイト物質の性質と,シリカの添加方法が重要であることも実証されている。粉末形態のシリカを市販の純粋ハイドロキシアパタイト粉末に添加し,混合を促すために共に製粉するとすると,1000℃以上の高い焼結温度で観察された変換生成物はβTCPであった。これに反して,本発明に従って調製された粉末に金属-有機溶液としてシリカを添加すると,950℃の線で図2に示す様に低温で保持される安定化されたαリン酸三カルシウム相に主に変換される。この変換は可逆的でない。」(明細書第14頁第27?次頁第6行)
(1-5)
「高温度域において,安定剤を添加された粉末の転換温度は,純粋粉末に関する1200℃以上から,シリカを添加された粉末の約950℃へと低下を示した。既に記載したように,この事実はケイ酸カルシウムの形成によるものと考えられており,これによって,生成された安定化相組成物は低温に冷却されても保持される。」(明細書第15頁第6?10行)
(1-6)
「本発明に従って,安定剤を加えて調製された粉末が,所望の表面形態と内部微細孔構造を持つ再現性の高い安定した相組成物を有する1つの理由は,ハイドロキシアパタイトが最初非常に微細な粒子としてゾル-ゲル工程により調製されたためである。金属有機溶液の形態でケイ素の様な安定剤を添加することにより,これらの粒子がそれぞれケイ素の相と緊密に接触することが可能となり,十分混合される。焼結時,シリカは変換反応で遊離されたCaOに非常に近接している。それぞれの粒子表面でケイ酸カルシウムが形成されることにより,反応の可逆性が制限され,水性生理的培地中でαリン酸三カルシウムの溶解性を阻害するものと提唱されている。」(明細書第15頁第12?23行)
(1-7)
「焼結は,安定剤の存在下に行われる。安定剤は,焼結工程中ハイドロキシアパタイトを通して基質からの拡散により,あるいは焼結前にハイドロキシアパタイトに安定剤を添加することにより供給できる。拡散であれ,添加であれ,安定剤は,薄いフィルム,粉末,厚いコーティング,セラミック塊,及び,その中に形成された内部マクロ多孔を持つセラミック塊の形態のリン酸カルシウム相を安定化させるのに十分な量が供給される。」(明細書第16頁第14?21行)
(1-8)
「好ましい実施例は,石英基質面上のハイドロキシアパタイトのフィルムを焼結することによって提供される。石英基質は,リン酸カルシウム相全体に拡散し,十分なケイ素含有量を達成できるために十分なケイ素の供給源を提供する。図5(a),組成物と基質の界面,図5(b)界面のすぐ上,図5(c)フィルムの上に示すように,ケイ素はフィルム組成物全体で利用され得る。焼結期間中,ケイ素は石英の表面から遊離され,ハイドロキシアパタイト相の表面を通って拡散する。」(明細書第17頁第5?13行)
(1-9)
「好ましいハイドロキシアパタイト対αリン酸三カルシウム比の範囲内でハイドロキシアパタイトがαリン酸三カルシウムに変換する間,ケイ素はCaOと反応し,ケイ酸カルシウムを形成し,これはαリン酸三カルシウムと安定な複合体を形成する。」(明細書第17頁第13?17行)
(1-10)
「本発明の安定化人工組成物は,薄いフィルムとより厚いコーティングだけでなく,粉末とセラミック塊の作製にも適している。セラミックは,所望の安定化ハイドロキシアパタイト/αリン酸三カルシウム相混合物を作製するためにシリカを添加し,ここに記載されているゾル-ゲル法により調製された焼結粉末から調製される。…この様なセラミックは,薄いフィルムまたはコーティングとして使用される安定化組成物と同じ特性を全て保持している。SiO_(2)により安定化された組成物に関しては,エックス線回折は,最初の粉末と最終セラミックの相組成に殆ど変化を示さなかった。図8に認められる様に,平面図は図9に示される石英基質にコーティングされた組成と著しく類似している。薄いフィルムとセラミック塊の上の破骨細胞の吸収能は非常に類似している。破骨細胞の吸収は,セラミック塊上の吸収小窩18として観察され,薄いフィルム上に観察される吸収小窩18と類似している(図8および9)。」(明細書第22頁第5?25行)
(1-11)
「…本発明による人工生物的活性組成物は,正常の組織修復と再生を可能にすると同時に,正常の骨組織リモデリングの過程において人工材料が吸収されることを可能にして,骨誘導と吸収の両者を促進する。」(明細書第27頁第22?25行)
(1-12)
「手順2.シリカ添加ハイドロキシアパタイトの調整
シリカ溶液は以下の手順で調製する。決定された量の約0.168gSiO_(2)/4mlの溶液を調製する。4mlのシリカ溶液を,手順1で作成し,遠心分離したハイドロキシアパタイトゾル-ゲル物質60mlに加え,転換反応にて生成される0.168gのCaOと反応させる。
シリコン溶液成分
テトラプロピルオルトケイ酸塩 Si(OC_(3)H_(7))_(4) 7.32gm
2-メトキシエタノール CH_(3)OCH_(2)CH_(2)OH 34.5gm
焼結中の転換に際して生成されるCaO1モルに対してSiO_(2)1モルとなるような比率のSiO_(2)濃度となるように,シリカ溶液を手順1で調製したハイドロキシアパタイトに加える。」(明細書第29頁第19行?次頁第2行)
(1-13)
「手順3.薄いフィルムフォーマットの調製
基質の性質によって,薄いフィルムの調製にはハイドロキシアパタイトゾル-ゲル物質の調製に関して手順1あるいは手順2を利用することが可能である。もし,フィルムの焼結に必要な安定剤が基質によって供給されるならば手順1を採用することができる。もし,そのような安定剤が基質によって供給されないならば,安定剤を添加する手順2が必要となる。

石英ディスク基質,あるいは他の適当な組成の基質を手順1で調整したゾル-ゲルに浸す。ディスクは表面に接触するのを避けるため縁を把持する。」(明細書第30頁第5?27行)
(1-14)
「手順7.ハイドロキシアパタイトの焼結

炉の温度は所望のハイドロキシアパタイト対αTCP比を得るために必要な温度に設定する。作製されたハイドロキシアパタイトとαリン酸三カルシウムの勾配層を通して,シリコンが確実に望ましい状態で拡散される様に,Lindbergモデル894-Blue Mの様なプログラム可能な炉を利用して,炉を最長1時間,通常は920℃から1100℃の範囲から選択される,所望の温度で維持されるようにプログラムすることができる。」(明細書第32頁第13?28行)
(1-15)
「請求の範囲
1.焼結温度で安定剤の存在下に,ハイドロキシアパタイトを不溶性の安定化リン酸三カルシウムに変換することにより作製される安定化リン酸カルシウム相からなる,その上で骨細胞活性を一貫して指示することが可能な形態を提供する生物的に活性のある焼結組成物。
2.前記安定化リン酸三カルシウムが,主にαリン酸三カルシウムである請求項1に記載の組成物。
3.前記組成物が,粉末,フィルム,厚いコーティング,または立体塊材料である請求項2に記載の組成物。

8.前記組成物は石英基質上にコーティングされ,焼結時にケイ素が石英から,形成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離され,αリン酸三カルシウムを安定化する請求項2に記載の組成物。
9.前記ケイ素が焼結前にハイドロキシアパタイトに溶液として添加される請求項3に記載の組成物。
10.前記ケイ素がオルトケイ酸四プロピルである請求項1または請求項9に記載の組成物。」(請求の範囲第34頁?次頁)
(1-16)
(図5)


3.対比

刊行物1には,「『焼結温度で安定剤の存在下に,ハイドロキシアパタイトを不溶性の安定化リン酸三カルシウムに変換することにより作製される安定化リン酸カルシウム』であって,『焼結時にケイ素が石英から,形成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離され』るか又は『ケイ素が焼結前にハイドロキシアパタイトに溶液として添加される』ことによって安定化されたリン酸カルシウム」((1-15)の請求項1,8及び9)(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
ここで,本願発明と引用発明とを比較すると,ともに「リン酸カルシウムは,カルシウム,酸素及びリンを含む化合物」に関するものであって,本願発明における「約0.1?0.6Åのイオン半径を有する元素」とは,例えば,本願請求項4や実施例4などの記載から見て,ケイ素を含むものであることから,本願発明も引用発明も,少なくともリン酸カルシウム中にケイ素を含む点でも共通するものである。
そして,引用発明に係るリン酸カルシウムは,例えば,刊行物1の請求項1に「その上で骨細胞活性を一貫して指示することが可能な形態を提供する」(1-15)と記載されているように,生体内で使用される材料となる化合物であるから,生体材料化合物であるということができる。
さらに,例えば,(1-11)に「…本発明による人工生物的活性組成物は,正常の組織修復と再生を可能にすると同時に,正常の骨組織リモデリングの過程において人工材料が吸収されることを可能にして,骨誘導と吸収の両者を促進する。」と記載されているように,生体吸収性を有するものである。
また,(1-10)において,「本発明の安定化人工組成物は,薄いフィルムとより厚いコーティングだけでなく,粉末とセラミック塊の作製にも適している。セラミックは,所望の安定化ハイドロキシアパタイト及びαリン酸三カルシウム相混合物を作製するためにシリカを添加し,ここに記載されているゾル-ゲル法により調製された焼結粉末から調製される。」と記載されていて,基剤上に形成されたフィルムやコーティングの形態のみならず,単独のセラミック塊の形態でも製造されるので,「単離された」ということもできるものである。
したがって,本願発明と引用発明とは,「カルシウム,酸素およびリンを含み,さらにケイ素を含む,単離された生体吸収性の生体材料化合物。」の点で一致していて,以下の点で一応相違している。
・[相違点]
本願発明では,「カルシウム,酸素およびリンの少なくとも一つの一部がケイ素で置換されている」と特定されているのに対して,引用発明ではそのような特定がなされていない点。

4.当審の判断

そこで,上記相違点について検討する。
刊行物1の請求の範囲では,例えば「焼結時にケイ素が石英から,形成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離され」(請求項8)とされているだけであって,該ケイ素が,カルシウム,酸素又はリンと置換しているか否かが明らかにされているものではないが,そのことにより本願発明と引用発明とが実質的に差異があるものとすることができるか否かついて,以下検討する。

まず,本願明細書において開示された本願発明に係るリン酸カルシウムの製造方法と,引用発明に係るリン酸カルシウム化合物との製造方法について比較する。

最初に,本願発明に係る化合物の製造方法についてであるが,特許請求の範囲においては,製造方法に関して特段の限定はなされていない。そこで,明細書の記載から検討する。
例えば,「実施例4」などに記載されているように,主としてリン及びカルシウムを含むコロイド懸濁液から得られるゾル-ゲルに対して有機ケイ素化合物を添加することによる方法が開示されているほか,「実施例2」として,石英基質上に薄膜を形成して,これを基質ごと焼結させることによる製造方法が記載されているとともに,そのような石英基質上の薄膜を焼成して得られたものについても,明細書【0042】には,
「1molのSiO_(2)から1molのmHAの添加剤濃度を使用して製造した粉末のX線解析パターンは,石英上の薄膜について得られたものと同様であることを図9は示す。この試料については,ケイ素をテトラプロピルオルトシリケートとして2メトキシエタノールに添加した。」及び
「図11(a)は,Si-mHAから形成したペレットの結晶形態が石英上の薄膜において観察されるものと同様であることを示す。」
と記載されているように,有機ケイ素化合物をゾル-ゲル形態のリン酸カルシウム前駆体に添加して製造したものと同様な構造のものが得られる旨の記載がある。
このような本願明細書の記載からすると,本願発明に係る化合物は,特に,ケイ素の添加・混合方法に関して,特定の方法のみによって製造されるものとは解されず,ケイ素を,ゾル-ゲル形態のリン酸カルシウム前駆体に対して有機ケイ素化合物として添加する方法のみならず,ケイ素を含まないゾル-ゲルを石英基質上で薄膜とした後に焼結する方法によっても製造され得ると解されるものである。

次に,引用発明に係るリン酸カルシウムの製造方法について,刊行物1の記載から検討する。
例えば,請求の範囲においては,その請求項8には,
「8.前記組成物は石英基質上にコーティングされ,焼結時にケイ素が石英から,形成されつつあるリン酸カルシウム相の中に遊離され,αリン酸三カルシウムを安定化する…」(1-15)
と記載されているように,石英基質上の薄膜を焼成する方法が示されているほか,請求項9及び10には,
「9.前記ケイ素が焼結前にハイドロキシアパタイトに溶液として添加される請求項3に記載の組成物。
10.前記ケイ素がオルトケイ酸四プロピルである請求項1または請求項9に記載の組成物。」(1-15)
とも記載されていて,焼成前にケイ素化合物として添加する方法についても示されている。
そして,実施例の記載を見ると,「手順2.シリカ添加ハイドロキシアパタイトの調整」として,ゾル-ゲルの状態のリン酸カルシウム前駆体に対してケイ素化合物を添加する方法も記載されていて(1-12),さらに,「手順3.」として,
「基質の性質によって,薄いフィルムの調製にはハイドロキシアパタイトゾル-ゲル物質の調製に関して手順1あるいは手順2を利用することが可能である。もし,フィルムの焼結に必要な安定剤が基質によって供給されるならば手順1を採用することができる。もし,そのような安定剤が基質によって供給されないならば,安定剤を添加する手順2が必要となる。」(1-13)
と,石英基質を使用するか否かに応じて異なる二通りの方法が開示されている。
さらに,特に,ケイ素を溶液の形態で添加することについては,例えば,
「本発明に従って調製された粉末に金属-有機溶液としてシリカを添加すると,950℃の線で図2に示す様に低温で保持される安定化されたαリン酸三カルシウム相に主に変換される。」(1-4),
「金属有機溶液の形態でケイ素の様な安定剤を添加することにより,これらの粒子がそれぞれケイ素の相と緊密に接触することが可能となり,十分混合される。」(1-6),及び,
「焼結は,安定剤の存在下に行われる。安定剤は,焼結工程中ハイドロキシアパタイトを通して基質からの拡散により,あるいは焼結前にハイドロキシアパタイトに安定剤を添加することにより供給できる。拡散であれ,添加であれ,安定剤は,薄いフィルム,粉末,厚いコーティング,セラミック塊,及び,その中に形成された内部マクロ多孔を持つセラミック塊の形態のリン酸カルシウム相を安定化させるのに十分な量が供給される。」(1-7)
と記載されているように,リン酸カルシウムの安定化に対して十分な効果を与えるものである。
してみると,刊行物1に記載された引用発明に係るリン酸カルシウムの製造方法としては,石英基質を使用して,該石英から遊離されるケイ素を安定剤とする方法も,また,ゾル-ゲル形態のリン酸カルシウム前駆体に対して,安定剤であるケイ素溶液を添加することによる方法も,何れも採用できるものであると解される。

したがって,本願発明に係るリン酸カルシウムも,引用発明に係るリン酸カルシウムも,ともに安定剤であるケイ素の添加方法については特定の方法に限定されるものではなく,両発明に係る製造方法は基本的には差異がないものとせざるを得ない。

そして,刊行物1においては,焼成後のリン酸カルシウムについて,以下のように,ケイ素がハイドロキシアパタイトの結晶構造の内部まで入り込むことに関する記載や,或いはリン酸カルシウム相全体にまで拡散するといった記載がなされている。
(ア)「図5(a),組成物と基質の界面,図5(b)界面のすぐ上,図5(c)フィルムの上に示すように,ケイ素はフィルム組成物全体で利用され得る。焼結期間中,ケイ素は石英の表面から遊離され,ハイドロキシアパタイト相の表面を通って拡散する。」(1-8);(図5A?5Cについては,(1-1)及び(1-16)参照;なお,図5Bのほか図5Cにおいても僅かながらもSiのピークが認められる)
(イ)「安定剤の存在により,リン酸カルシウム相内部のαTCPを顕著にかつ予想外に安定化させ,」(1-2)
(ウ)「ケイ素がハイドロキシアパタイト結晶構造に入り,βよりもα相を安定化させるというものである。」(1-3)
(エ)「石英基質は,リン酸カルシウム相全体に拡散し,十分なケイ素含有量を達成できるために十分なケイ素の供給源を提供する。」(1-8)
(オ)「作製されたハイドロキシアパタイトとαリン酸三カルシウムの勾配層を通して,シリコンが確実に望ましい状態で拡散される様に,Lindbergモデル894-Blue Mの様なプログラム可能な炉を利用して,炉を最長1時間,通常は920℃から1100℃の範囲から選択される,所望の温度で維持されるようにプログラムすることができる。」(1-14)
これに対して,刊行物1においては,リン酸カルシウムの安定化に対して,焼成で生成する酸化カルシウムとケイ素との反応により生ずるケイ酸カルシウムが関与するとの記載もなされており,その記載は,以下のようなものである。
(カ)「…安定剤を添加された粉末の転換温度は,純粋粉末に関する1200℃以上から,シリカを添加された粉末の約950℃へと低下を示した。既に記載したように,この事実はケイ酸カルシウムの形成によるものと考えられており,…」(1-5)
(キ)「焼結時,シリカは変換反応で遊離されたCaOに非常に近接している。それぞれの粒子表面でケイ酸カルシウムが形成されることにより,反応の可逆性が制限され,水性生理的培地中でαリン酸三カルシウムの溶解性を阻害するものと提唱されている。」(1-6)
(ク)「…ハイドロキシアパタイトがαリン酸三カルシウムに変換する間,ケイ素はCaOと反応し,ケイ酸カルシウムを形成し,これはαリン酸三カルシウムと安定な複合体を形成する。」(1-9)
しかしながら,これら(カ)?(ク)の記載は何れもケイ酸カルシウムの存在やその関与を事実として確認し,断定したとするものではない一方で,上記(ア)?(オ)の記載,特に,(ア)における図5B及び同Cで示されたデータによれば,一部のケイ素は,リン酸カルシウムの表面部分に止まらず,その内部に浸透しているといえるものである上,(イ)?(オ)にも,ケイ素がリン酸カルシウム相の全体にまで拡散又は結晶構造にも入り込む,とする記載もなされているものである。
このような刊行物1の記載からすると,ケイ酸カルシウムがリン酸カルシウムの表面で生成し,これがリン酸カルシウムの安定化に関与していると考察しつつも,一部ケイ素がリン酸カルシウム相の内部まで浸透していることを,刊行物1は示していると理解されるものである。
そうしてみると,本願発明に係るリン酸カルシウムと引用発明に係るリン酸カルシウムとは,製造方法については基本的に両者に差異がない上,生成物についても,後者は少なくとも部分的には前者と共通する構造となっているものと解されるので,仮に,両者の製造方法について,例えば混合の度合い等において多少の差異があったとしても,そのことは共通する構造部分の多寡に影響する場合があるとしても,引用発明において,本願発明にいう「スケライト構造」が全く生成していないとする根拠には不十分であるとせざるを得ないものである。
したがって,引用発明では「置換する」ことが明記されていないとしても,実質的には本願発明と同じ構造をもつリン酸カルシウムが,少なくとも一部は生成しているものと認められる。

なお,請求人は,原審で提出された意見書(平成17年8月1日提出)において,本願の図16を根拠に「本願請求項1に記載の化合物が,引用文献1に記載の化合物であるリン酸三カルシウムと明白に区別されることが示されている」と主張しているが,図16において,本願発明に係るリン酸カルシウムと比較しているのは,標準品のαTCRであって,刊行物1に記載のリン酸カルシウムではないので,このような請求人の主張は採用できない。
また,審判請求の理由(平成18年4月6日付け手続補正書)において,刊行物1の方法では,ケイ素とコロイド懸濁液の粒子(ゾル-ゲル)を密接に混合しておらず,このように混合が十分に行われていない場合,結晶格子内のCa-Pのリンの位置でケイ素の置換は到底生じ得ない旨主張している。そして,明細書にも「重要な処理段階には,反応物が局所的に確実に利用されるように,候補添加剤としてのケイ素とコロイド懸濁液の粒子との密接な混合が含まれる。」(【0068】)及び「密接に混合しなければ独自の組成は生じない。」(【0069】)とも記載されているものである。
しかしながら,明細書にはこれらの記載がある一方で,前記したように段落【0042】には,「1molのSiO_(2)から1molのmHAの添加剤濃度を使用して製造した粉末のX線解析パターンは,石英上の薄膜について得られたものと同様であることを図9は示す。この試料については,ケイ素をテトラプロピルオルトシリケートとして2メトキシエタノールに添加した。」及び「図11(a)は,Si-mHAから形成したペレットの結晶形態が石英上の薄膜において観察されるものと同様であることを示す。」とも記載されていて,ここでは必ずしもケイ素とゾル-ゲルを密接に混合する方法によらずとも,石英上の薄膜を焼結する方法によっても,同様な結晶構造のものが得られるとされるものである。このような本願明細書の記載からすれば,仮に,より完全にケイ素の置換を行うためには,密接な混合が不可欠であったと言い得たとしても,例えば,石英上の薄膜を焼結する方法でも,少なくとも部分的にはケイ素が置換した結晶構造のものができているとする解釈を否定するものとはなり得ないものである。
すなわち,刊行物1において行われている石英上の薄膜を焼結する方法又はケイ素を溶液の形態でゾル-ゲルに添加する方法が,たとえ本願発明の方法と細部において多少条件が異なるものであったとしても基本的には異なるところはないものであるから,刊行物1の方法によっても少なくとも部分的には,本願発明の如くケイ素が置換したリン酸カルシウムと同じ結晶構造のものが生成しているとする解釈は,本願明細書の記載に照らすと,請求人の上記主張によっては否定されるものではない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,上記刊行物1に記載された発明であるので,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2009-11-20 
結審通知日 2009-11-25 
審決日 2009-12-08 
出願番号 特願2000-529273(P2000-529273)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 裕美子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 内田 淳子
伊藤 幸司
発明の名称 合成生体材料化合物  
代理人 奥山 尚一  
代理人 河村 英文  
代理人 有原 幸一  
代理人 吉田 尚美  
代理人 松島 鉄男  
代理人 中村 綾子  
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