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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1215265
審判番号 不服2007-21158  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-01 
確定日 2010-04-19 
事件の表示 特願2006-154600「印刷制御装置、および、記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月24日出願公開、特開2006-315404〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年5月15日に出願した特願2000-141990号の一部を平成18年6月2日に新たな特許出願としたものであって、平成19年2月16日付けで通知された拒絶の理由に対して、同年4月18日付けで手続補正書が提出されたが、同年6月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月1日付けで審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出され、その後、当審における審尋に対して平成21年8月7日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成19年8月1日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年8月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正には、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする事項が含まれている。

(補正前)
「【請求項1】
印刷装置により印刷物を作成させる印刷制御装置において、
複写機による複写が困難な複写時消失紋様と、複写機により複写可能な複写時残存紋様とによってなる複写牽制地紋を生成する地紋生成手段と、
この地紋生成手段により生成された複写牽制地紋を印刷データとともに印刷媒体上に印刷させることにより前記印刷物を作成させる制御手段と、
前記複写牽制地紋についての設定内容として、印刷時に応じた固有の情報を記憶する地紋設定記憶手段と、
を備え、
前記地紋生成手段は、
複数の前記印刷物に共通する共通紋様と、前記地紋設定記憶手段内の設定内容に基づく印刷時に応じた固有の情報を示す可変紋様とからなる複写時残存紋様を含む複写牽制地紋を生成することを特徴とする印刷制御装置。」

(補正後)
「【請求項1】
印刷装置により印刷物を作成させる印刷制御装置において、
複写機による複写が困難な複写時消失紋様と、複写機により複写可能な複写時残存紋様とによってなる複写牽制地紋を生成する地紋生成手段と、
この地紋生成手段により生成された複写牽制地紋を印刷データとともに印刷媒体上に印刷させることにより前記印刷物を作成させる制御手段と、
印刷時に応じた固有の情報として任意に設定された前記複写牽制地紋についての設定内容を記憶する地紋設定記憶手段と、
を備え、
前記地紋生成手段は、
複数の前記印刷物に共通する共通紋様と、前記地紋設定記憶手段内の設定内容として前記印刷時に応じた固有の情報が記憶されていればこの情報を示す可変紋様とからなる複写時残存紋様を含む複写牽制地紋を生成することを特徴とする印刷制御装置。」

この補正事項は、「地紋設定記憶手段」に記憶される「複写牽制地紋についての設定内容」を、補正前の「印刷時に応じた固有の情報」から、「印刷時に応じた固有の情報として任意に設定された」に変更して、「印刷時に応じた固有の情報」が任意に設定されたものであることに限定するものである。また、「可変紋様」の生成に関して、補正前の「前記地紋設定記憶手段内の設定内容に基づく印刷時に応じた固有の情報を示す可変紋様」の生成から、「前記地紋設定記憶手段内の設定内容として前記印刷時に応じた固有の情報が記憶されていればこの情報を示す可変紋様」の生成に変更する事項があり、これは「可変紋様」の生成条件を限定したものと一応いえる。
したがって、この補正事項は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特開平6-258982号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1a)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は改ざん防止複数色文書を電子的に印刷する改善されたより効率的なシステムに関する。開示するシステムは、「安全な(safety)」背景に精細に入り交じった複数色と金額や名前、署名等の様々な英数字その他の情報の両方を合成した可変画像を、1つの印刷「機密保護文書(security document) 」にディジタル的に形成、合成可能なシステムである。この合成画像は要求時に本明細書で説明する適切な電子プリンタで用紙その他の下地の単一経路で印刷することが出来、事前に印刷した「安全用紙(safety paper)」を必要とする従来の機密保護文書印刷システムの問題や危険性をなくすことが出来る。
【0002】
【従来の技術】いかなる印刷システムも確信的な偽造者あるいは不注意な利用者を完全に防ぐことはできないが、特に小切手や銀行為替手形といった流通証券の機密保護文書の偽造や変造あるいは複製を防ぐあるいはその検出を支援する様々な方法が従来技術で知られている。偽造、複製その他の改ざんに対し対抗可能であることが望まれるその他の文書例としては、株券や証券文書、運転免許証、身分証明書、パスポート、賭金伝票、賞、チケット、あるいは電子的に流通するあるいは送られる契約書などの単に認証署名を付加することを要請される文書などがある。」

(1b)「【0032】【実施例】図について実施例を詳細に説明する。図1は統合マネージャ11により制御される例示的な流通証券その他の機密保護文書生成システム10を示し、記憶装置13、スキャナ14、プリンタ15(すべてスタンドアロン装置とすることが出来る)と接続ないしネットワーク18を通して互いにあるいは遠隔補助記憶装置(図示せず)などの他の要素と通信するために接続したワークステーション12がある。統合マネージャ11は流通証券の様々な部分を自動的に形成して統合、合成する。
【0033】図4には印刷した流通証券と以下に詳細に説明するその様々な画像要素(その2つを図9、10に拡大する)の1例を示す。この例は小切手40である。統合マネージャ11はプリンタ15の効率的な使用を最適化する形で小切手40の画像部分を電子的に合成する。プリンタ15には図2により詳細に示す画像出力端末(IOT)16と電子サブシステム(ESS)出力17が含まれている。プリンタ15は単一通路カラー電子写真プリンタで、ここでは上記のゼロックスコーポレイションの米国特許第5,144,369号、第4,811,046号、第4,847,655号、第5,157,441号、第5,138,378号、第5,119,131号、第5,132,730号で更に開示されたゼロックスコーポレイションの「4850」3レベル・ハイライトプリンタとする。
【0034】従来のワークステーション12で作動ないし自動的に作動する統合マネージャ11の1例を図3により詳細に示す。統合マネージャ11では流通証券の合成の制御を3つのモジュールに分割し、システム10を用いて流通証券の様々な組合せを形成出来るようにしている。その3つのモジュール単位は背景マネージャ21、署名マネージャ22、情報マネージャ23で、小切手40を印刷するため形成するディジタル像を生成する際にそれぞれ別々の機能を提供する。背景マネージャ21はここで図4の小切手40のような流通証券の背景42の電子画素ないしドットパターンを生成する。署名マネージャ22は小切手40上の認証署名43の保護を生成する独特の方法を提供する。最後に情報マネージャ23は更に後に詳細に説明する機密保護フォントを使用する金額46などの小切手40上にあるその他の全ての情報を融合する。」

(1c)「【0036】図11はコーレル・ドロー3.0及びマウスを用いてその利用可能な表示グラフィックオプションから選択して取る段階を特に示している。表示メニューセレクションには、例えば画像ハーフトーン化、パターン化、回転、複写、アウトライン化等のセレクションが含まれる。最初に背景パターン51を作るステップ110を用いて背景42を最初に形成する。ここで背景パターンの形成には、図6で説明する方法と同様の方法で2つの同一の画像輪郭54を形成することと、変化する階調密度を有するハーフトーンパターンでそれらを満たすことが含まれる。この時点でのそれらの2つの部分画像は異なるグレースケールで表現し、1つの画像はハイライトカラーを用いて示し、他は黒を用いて表現する。例えば2つの部分画像はハイライトカラー画像に付いては30-25%の変動階調密度を有するハーフトーン区域範囲を指定し、黒画像に対しては20-15%を指定できる。次のステップ111では人間の目には区別できないが電子写真複写機での複写には敏感な変動ハーフトーン密度を織り合わせつつ、「無効」などの警告語を暗い外郭線を用いてハーフトーンパターン内に埋め込むことで黒画像内に潜像をオプション的に形成する。黒画像内に潜像を形成する段階に続いて、両方の画像(ハイライトカラー及び黒)をステップ112で示したオーバーレイ符号化52で混合する。2つの画像内に混合するものは、埋め込まれたテキストを有する楕円形などの対象である。テキストと対象を混合することで、2つの画像に対し透明及び不透明な形でオーバーレイされる独特な符号化パターンが形成される。それらのオーバーレイした画像は各々の画像内の同一画素位置に正確に現れるように配置でき、さもなくばいくつかの画素だけオフセットされ、両方ともオリジナルの複製あるいは改変に対して抑止になることに留意する。ステップ113では、ステップ114でコーレルドロー図形表示をビットに解像する出力ファイルビットマップ解像度を選択する。2つの各々の画像に対して解像されたビットマップはTIFF(タッグ画像ファイルフォーマット)ファイルフォーマットに格納することが出来る。
【0037】図12は、ステップ120でTIFFフォーマットのファイルをまずエリキサ・ファイルフォーマットに変換するそれらのエリキサ・ソフトウエアツールを示したものである。ステップ121では、ハイライトカラーとなる変換画像に対してカラーを導入する。2つの画像(ハイライトカラーと黒)をオーバーレイしてステップ122及び図5で示すように合成背景画像42を形成する。続いてステップ123では、図4に示すボックス45のような図形と小切手名47のようなテキストを合成画像に追加する。独立した一連のステップでは、認証署名43と機密保護フォント46を形成する。認証署名43の形成はここで、オリジナル署名を走査するステップ124と、必要に応じて署名をエリキサファイルフォーマットに変換するステップ125と、走査した署名を複製して第2の署名を形成するステップ126と、両画像(複写及び最初に走査した画像)に独自のハーフトーン密度パターンを追加するステップ127と、最初に走査した画像とコピーを用いて合成署名を形成するステップ128が含まれる。認証署名が形成されると、ステップ132で認証署名43を図4に示すように合成画像40と併合する。機密保護フォント46の形成には、周知のフォントを総称フォントに変換するステップ129と、コピーの作成とパターンの適用を含め総称フォントの編集を行うステップ130と、後の参照のためにフォントを命名するステップ131とが含まれる。最終ステップ133では、背景画像40と認証署名43と任意のテキストないし図形及び機密保護フォント46を含むフォーム合成画像40からなる固定データをプリンタ15にロードして、後に述べるように印刷時に可変データと併合する。」

(1d)「【0039】背景マネージャ21が辿る1つの過程シーケンスを図6に詳細に示す。パターンサービス24は陰影、ハーフトーンパターン、走査画像ないし数学的に生成されたパターン(例:フラクタル)で構成できるパターン情報60の選択から始まる。パターン情報は密度階調度61、62を組み合わせて使用して画像にわたりパターンが現れる強度を限定するが、その例を図5に示す。2つの背景画像63、64は異なる階調度を有する組合せパターンを用いて形成する。従ってパターンサービス24はこの例では反対方向を持ち強度が変化する階調度61、62をそれぞれパターン60に加えて画像63、64を形成する。例えばハーフトーンパターンは画像63上で上から下へ約25-30%からハーフトーン区域範囲にわたる1つの陰影で変化し、画像64上では下から上へ約15-20%のハーフトーン区域範囲から変化する第2の陰影で変化する。即ち図4に示すように、小切手40の一辺から他方に、1つの色の強度(画素密度)が減少する一方で他の色の強度が徐々に増大するので、2つの色は両方とも入り交じり、小切手の表面にわたる2色保護背景パターンで密度の比率は相対的に変化している。
【0040】オーバーレイ符号化サービス25は背景マネージャ21で起動し、交互に不透明、透明な符号化パターン65を生成する。符号化背景パターンは自動的に繰り返し同心的に拡大した楕円(その例を図5に示す)のような対象を用いることでランダムに生成したり固定的に判定することが出来る。ランダムに生成するパターンは例えば三角形のような幾何学的対象と混合した後に歪曲した英数字文字のシーケンスなどの埋込みコードを用いて形成できる。混合した対象は、コード語を変えることによりシステム10により要求時に容易に変更することの出来るユニークなパターンを不明瞭に導入することで合成背景50に更なるレベルの複雑性を付け加えることになる。次にパターン65を画像63、64の上にオーバーレイして画像66、67を形成する。独特な重畳パターンは綿密な検査を行う場合を除いて殆ど目に見えず、複製したり正確にコピーするのは困難である。
【0041】2つの画像を併合ないし重ね映しして合成画像を形成する前に、画像66を更に潜像と併合しておく。潜像は上述したようにそれ自身よく知られている。ここで背景マネージャ21により使用可能になる潜像サービス26は、パターンサービス24が画像61をパターン化したのと同様に英数字のシーケンスを陰影化、パターン化し、上記した従来技術で教示されているように図5の「無効」などの潜在語が人間の目には見えないように2つの密度はほとんど変わらないが、複写機には複製するときに2つの密度を十分区別できるように異なるようにする。例えば潜像はハーフトーンパターン化区域で3-5mmの幅の半白色線として書くことが出来る。
【0042】即ち、「無効」などの語自身あるいはその他の潜像68の生成は、既存の可変に混合した黒色とその他の色(例:青)の画素背景画素パターンの間の白スペース内に重畳されたパターンにいくつかの黒色画素を追加することで達成することが出来る。それらの追加の「無効」の黒色ドットは既存の背景黒色ドットと混合されるので、それらは黒色の画素、特に互いに近接したものをコピーしたときにともかく大きく黒く見える。
【0043】更に上記したように「白色区域」を「無効」などの潜在語の周りに設けることが出来る。これはそれらの付加した「無効」文字画素の周りに約3.6mmの幅の境界ないし外郭区域とすることができ、その中でソフトウエアはちょうどそれらの白色文字外郭線区域の中の背景パターンから一部の背景黒色ドット(青のドットではない)を除去している。これによりオリジナルでは拡大鏡を通しても容易に見ることが出来なくても、特にインチ当り300ドット以上では無許可のコピー上で「無効」は更に見え易くなる。
【0044】この潜像68の形成後、画像66と併合して画像69を形成する。2つの結果的な合成画像69、67にはプリンタ15が提供する2つの3レベルカラーの1つが割当てられる。画像69は黒、67はハイライトカラーとし、それらを併合して合成背景電子画像70を形成し、背景データベース27に格納する。併合画像70を(第2の色に対して黒を優先して)印刷した場合、潜像は容易に見ることはできない。しかし上述したように、複写機はコピー上で黒色画素をより拡大する傾向があり、潜像をはるかに優勢なコピー要素として際だたせるので、複製しようとするとはるかに見え易くなる。」

なお、図4?6は、次のとおり。



(1e)「【0006】更に安全用紙の背景パターンには、電子複写機などの機械で複製しようとすると見えるようになるないし読めるようになる潜在記号や「無効(VOID)」といった語を埋め込むことが出来る。潜在記号は例えば第2の密度のドットを使用する背景パターンに埋め込んだ第1の密度のドットを使用することで形成することが出来る。2つの密度はオリジナルでは十分異なって人間の目に潜在語は見えないが、複製の際は複写機では2つの密度の間の区別を十分できず、それらが強調ないし増大されて「無効」といった潜在語をコピーで見えるようになる。」

(1f)「【0046】情報マネージャ23は全てのテキストや図形を小切手40などの1つの文書に融合し、統合する責任を有している。・・・(中略)・・・
【0048】小切手40の要素の全てをそれらの各々のデータベースで作成した後、統合マネージャ11は単一の小切手の複数コピー間で変化しない小切手の固定情報を記載した非変動情報を、公知のページフォーマットないし文書記述言語でプリンタ15に送る。非変動(あるいはときどきしか変動しない)情報はここで安全背景42と小切手40上の流通情報を記述するのに使用するその他の背景情報からなり、非背景情報はカスタムないし公知のフォント、図形及び認証署名で形成する。データベース35に常駐する可変情報は、非変動情報がロードされた後にプリンタ15に流される。各々の可変情報を持つディジタル的に記述された小切手は次に非変動情報と併合する。結果的なディジタル的に統合された流通証券ないし小切手は次に、ハイライトカラー画像を印刷できるプリンタ15を用いて印刷する。」

(1g)「【0055】【発明の効果】本システムにより、全機密保護文書は安全背景とその特定の文書の全ての独自の英数字情報と共に人間との相互作用なくまた事前に印刷した安全用紙や事前に印刷した用紙を必要とせずに、1回で用紙ないしその他の下地の1つの印刷通路で自動的に印刷できる。
【0056】本システムにより、その利用者にとって、ソフトウエアで生成され現在使用中の特定の背景及び情報機密保護パターン並びにそれら及び併合した文書画像のテープないしディスクバックアップに対しパスワードを含めて厳重な制御と機密保護を維持する必要性がなくなることはない。しかし本システムにより全ての文書機密保護画像パターン及び情報を容易に迅速に変更することが出来る。従ってそれらの変更は新しい機密保護用紙の供給を必要としないので印刷を遅らせることなく頻繁に行うことが出来る。よく知られているように、頻繁な機密保護の変更は良好な機密保護システムの原則でもある。」

(1h)また、統合マネージャ11は、流通証券その他の機密保護文書の生成システム10を制御するものであるが、印刷の制御には、別の制御手段を含む可能性があることも考慮すると、統合マネージャ11を含む制御手段が、背景マネージャ21により形成された合成背景画像に、図形やテキスト等を追加させた上で、データをプリンタに送り、印刷させる、ということができる。

これら記載によると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「文書を電子的に印刷する印刷システムにおいて、
ハイライトカラーのハーフトーン背景パターンと黒色のハーフトーン背景パターンとからなる背景画像を生成し、この背景画像に「無効」などの潜在語を人間の目には見えないが複写機で複製すると見えるように埋め込み、合成背景画像を形成する、背景マネージャ21と、
背景マネージャ21により形成された合成背景画像に、図形やテキスト等を追加させた上で、データをプリンタに送り、印刷させる、統合マネージャ11を含む制御手段と
を有する印刷システム。」

(2)刊行物2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された特開平7-49645号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(2a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は複写機の複写管理方法に関し、特に、機密文書の複写を管理する複写管理方法に関する。」

(2b)「【請求項3】請求項1記載の複写管理方法において、複写機は、複写する文書の画像と共に、複写機の操作者と配布対象者の情報(複写管理情報)の双方を印刷することを特徴とする複写管理方法。」

(2c)「【0011】次に、より具体的な例について説明する。まず、機密文書の原稿として考えられる実例をあげると、図2のようなものがあげられる。この例では、文字を主体とする文書であるが、その一部に文字情報にオーバーラップする”文書ID”が印刷されている。この文書IDの例としては図3に示すようなバーコードを使う方法がある。この例ではかなり太い線が使われているが、この場合、文字部分と重なる部分については、白黒反転したパターンを与えることが適当であろう。勿論、このようなバーコードでなくても、2次元に分布する点状のパターンなどでもかまわない。また、記録する内容については、”日付、報告者、文書分類コード、識別(ID)番号”が考えられる。
【0012】さて、図2、図3に示すような機密文書を示す文書IDが印刷されている文書を複写したいときには、図1のフローチャートに示したように、まず複写機に、複写機を操作する人のパスワードまたはID番号を入力する。もしこれを入力しないで、いきなり機密文書を複写しようとすると、複写機は図3のパターンを識別し、操作者のパスワード(またはID番号)を要求する。続いてこの文書をだれに配布するか、配布する人のID番号(または名前等)を要求する。
【0013】そして、入力された操作者のパスワード(またはID番号)は、複写機内部に保存してある記憶装置(メモリー)上のパスワード(またはID番号)とそれに対応する文書ID番号及び配布者のID番号を比較する。そしてもし既に同一の配布者ID番号と文書ID番号の組が存在する場合には、これ以上の作動を拒否し、複写動作を停止し、表示装置に機密文書である等の表示を行なう。また、同一番号の組が無ければ作動を継続し、しかる後に操作者のパスワード(またはID番号)と文書ID番号及び配布者ID番号を記憶装置に記憶し、複写動作を実行する。この時、同時に必要に応じて記録紙の上にも同様の内容を複写管理情報として印刷する。この場合、複写管理情報として特に効果があるのは、操作者と配布者名の印刷である。
【0014】ここで実施例としては、この文書を複写する人と配布される人の双方が複写文書上に印刷される例である。これは図4に示すように、文書の上に画像が重なる形で名前が印刷される。この例では、複写する人は”Cunning”であり、配布される人は”Pons”である。その他、同時に印刷される情報としては、日付や所属組織名などが考えられる。また、上記の管理情報を複数回文書中に印刷することも有効であり、図4の例では2回印刷している。この実施例では、操作する人と配布される人を通常の文書とオーバーラップさせているので、これを消去することは容易ではない。従って、少なくとも安易に複写しようとする意図を弱めることが可能である。また、こうすることで複写文書が意図的に外部に漏らされる可能性を低く抑えることができる。」

(2d)図2,4は、以下のとおり。


これら記載によれば、刊行物2には、「機密文書の複写において、記録紙上に、複写する文書の画像とともに、複写機の操作者(複写する人)名、配布者(配布される人)名、日付、所属組織名などを、印刷し、これにより安易に複写しようとする意図を弱めることが可能となる、技術」が記載されているものと認められる。

3.対比・判断
そこで、本願補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、
刊行物1記載の発明の背景マネージャ21が形成する「無効」などの潜在語を埋め込んだ「合成背景画像」は、本願補正発明の「複写牽制地紋」ということができるから、
刊行物1記載の発明の「ハイライトカラーのハーフトーン背景パターンと黒色のハーフトーン背景パターンとからなる背景画像を生成し、この背景画像に「無効」などの潜在語を人間の目には見えないが複写機で複製すると見えるように埋め込み、合成背景画像を形成する、背景マネージャ21」と、
本願補正発明の「複写機による複写が困難な複写時消失紋様と、複写機により複写可能な複写時残存紋様とによってなる複写牽制地紋を生成する地紋生成手段」とは、
「複写牽制地紋を生成する地紋生成手段」の点で共通するということができる。

また、刊行物1記載の発明の「背景マネージャ21により形成された合成背景画像に、図形やテキスト等を追加させた上で、データをプリンタに送り、印刷させる、統合マネージャ11を含む制御手段」は、
本願補正発明の「この地紋生成手段により生成された複写牽制地紋を印刷データとともに印刷媒体上に印刷させることにより前記印刷物を作成させる制御手段」に相当するということができる。

そして、刊行物1記載の発明の「文書を電子的に印刷する印刷システム」「印刷システム」は、制御が含まれるから、それぞれ、本願補正発明の「印刷装置により印刷物を作成させる印刷制御装置」「印刷制御装置」に相当する概念ということができる。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「印刷装置により印刷物を作成させる印刷制御装置において、
複写牽制地紋を生成する地紋生成手段と、
この地紋生成手段により生成された複写牽制地紋を印刷データとともに印刷媒体上に印刷させることにより前記印刷物を作成させる制御手段と、
を有する印刷制御装置。」

[相違点]
本願補正発明では、
複写牽制地紋は、複写機による複写が困難な複写時消失紋様と、複写機により複写可能な複写時残存紋様とによってなるものであり、
地紋の生成に関して、
印刷時に応じた固有の情報として任意に設定された複写牽制地紋についての設定内容を記憶する地紋設定記憶手段を備え、
地紋生成手段は、複数の印刷物に共通する共通紋様と、地紋設定記憶手段内の設定内容として印刷時に応じた固有の情報が記憶されていればこの情報を示す可変紋様とからなる複写時残存紋様を含む複写牽制地紋を生成するものであるのに対し、
刊行物1記載の発明では、
複写牽制地紋は、ハイライトカラーのハーフトーン背景パターンと黒色のハーフトーン背景パターンとからなる背景画像に、「無効」などの潜在語を人間の目には見えないが複写機で複製すると見えるように埋め込んで形成された合成背景画像であり、
また、人間の目には見えないが複写機で複製すると見える「無効」などの潜在語を生成するが、それが複数の印刷物に共通する共通紋様であることは特定がなく、また、印刷時に応じた固有の情報を示す可変紋様を生成することの特定がない点。

次に、相違点について検討する。

(a)まず、一般に、複写牽制地紋として、複写機による複写が困難な複写時消失紋様と、複写機により複写可能な複写時残存紋様とによってなるものは、本願出願前に周知である(例えば、原査定の拒絶の理由で文献3として例示された、特開平11-151854号公報を参照)。
そして、刊行物1記載の発明において、複写牽制地紋として、そのような周知の地紋を採用することは、当業者にとって何ら困難性はないものである。

(b)また、刊行物1記載の発明において、人間の目には見えないが複写機で複製すると見える潜在語である「無効」は、複数の印刷物において、明らかに共通的に使用することができる表現であるから、この「無効」などの潜在語を、本願補正発明のごとく、複数の印刷物に共通する共通紋様として生成することは、当業者が適宜なし得ることである。

(c)さらに、複写時残存紋様として、印刷時に応じた固有の情報を示す可変紋様を含める点について検討する。
本願補正発明でいう「印刷時に応じた固有の情報を示す可変紋様」とは、具体的には「印刷物の印刷日時」の紋様を意味することは、本願明細書【0013】の記載から明らかである。

刊行物2には、上記のとおり「機密文書の複写において、記録紙上に、複写する文書の画像とともに、複写機の操作者(複写する人)名、配布者(配布される人)名、日付、所属組織名などを、印刷し、これにより安易に複写しようとする意図を弱めることが可能となる、技術」が記載されており、その目的は、本願補正発明の「不正なコピーを牽制する」という目的(本願明細書【0013】【0118】【0171】参照)とほぼ同じである。
そして、刊行物1記載の発明において、人間の目には見えないが複写機で複製すると見える潜在語である「無効」などの警告語を設けることは、明らかに不正なコピーを牽制することを狙ったものであるから、刊行物1記載の発明において、「無効」などの潜在語が複写により見えることに加えて、他の不正コピー牽制手法である、個別の複写物に固有の情報(複写機の操作者(複写する人)名、配布者(配布される人)名、日付、所属組織名など)を複写物に印刷するという刊行物2の技術を採用することが好ましいことは、当業者に明らかである。
ただ、刊行物2の技術における、複写物(複写文書)に印刷される日付は、刊行物2の記載全体からすると、「複写した日付」である蓋然性が高く、必ずしも「印刷物の印刷日時」に特定されるものではない。
しかし、一般に、印刷物又は記録物において、印刷(記録)データや画像データに加えて、人間の目では識別しにくいが特定の方法により認識可能な「付加情報」を印刷又は記録しておくことは、本願出願前に周知の技術である(例えば、特開平11-42770号公報の【0017】【0030】等、特開平9-251522号公報の【0008】等、特開平10-232450号公報の【0008】?【0010】等を参照)。この付加情報は、印刷物又は記録物を複写したときに、人間の目で識別できるものにはならないが、記録装置の製造番号、日付(日時)、決済者の名前など、個別の印刷物又は記録物に固有の情報である。
そうすると、刊行物2に接した当業者であれば、刊行物1記載の発明に刊行物2の技術を適用する際に、複写管理情報としての「複写した日付」に代えて、上記周知技術の付加情報(個別の印刷物又は記録物に固有の情報)として、機密文書の日付、つまり「印刷物の印刷日時」を、複写物に人間の目にみえるように現出(印刷等)させるように発想することは、何ら困難ではない。
(なお、刊行物2にも、「印刷物の印刷日時」データが登場する。すなわち、(2c)【0011】には、機密文書の原稿(図2)バーコード(又は2次元に分布する点状パターン)には、「日付、報告者、文書分類コード、識別(ID)番号」を記録してもよい旨の記載があり、ここでの「日付」とは通常、文書が印刷された日付、すなわち「印刷物の印刷日時」を意味することは明らかである。)
しかも、刊行物1記載の発明では、人間の目には見えないが複写機で複製すると見えるようになる「潜在語」を用いる技術を使用しているのであるから、「印刷物の印刷日時」についても、その技術を活用して潜在語で形成し、本願補正発明のごとく、複写時残存模様として、「印刷物の印刷日時」、すなわち「印刷時に応じた固有の情報」を示す可変紋様を印刷物に形成しておくことは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(d)また、上記(a)?(c)で検討した地紋に関して、地紋生成のための手段として、本願補正発明のような「地紋設定記憶手段」及び「地紋生成手段」を設けることは、当業者が適宜なし得ることである。

(e)以上のことから、刊行物1記載の発明において、刊行物2の技術や周知技術を応用して、相違点に係る本願補正発明のごとくなすことは、当業者が容易になし得ることである。

(効果について)
そして、全体として、本願補正発明によってもたらされる効果も、刊行物1,2に記載された事項及び周知技術から当業者であれば予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

(まとめ)
したがって、本願補正発明は、刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願の請求項1に係る発明
平成19年8月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成19年4月18日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
印刷装置により印刷物を作成させる印刷制御装置において、
複写機による複写が困難な複写時消失紋様と、複写機により複写可能な複写時残存紋様とによってなる複写牽制地紋を生成する地紋生成手段と、
この地紋生成手段により生成された複写牽制地紋を印刷データとともに印刷媒体上に印刷させることにより前記印刷物を作成させる制御手段と、
前記複写牽制地紋についての設定内容として、印刷時に応じた固有の情報を記憶する地紋設定記憶手段と、
を備え、
前記地紋生成手段は、
複数の前記印刷物に共通する共通紋様と、前記地紋設定記憶手段内の設定内容に基づく印刷時に応じた固有の情報を示す可変紋様とからなる複写時残存紋様を含む複写牽制地紋を生成することを特徴とする印刷制御装置。」

2.引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、下記の刊行物の記載事項は、上記「第2 2.」に記載したとおりである。
(1)刊行物1:特開平6-258982号公報
(2)刊行物2:特開平7-49645号公報

3.対比・判断
本願発明1は、本願補正発明の「印刷時に応じた固有の情報として任意に設定された」を、「印刷時に応じた固有の情報」とし、同じく本願補正発明の「前記地紋設定記憶手段内の設定内容として前記印刷時に応じた固有の情報が記憶されていればこの情報を示す可変紋様」を、「前記地紋設定記憶手段内の設定内容に基づく印刷時に応じた固有の情報を示す可変紋様」とするもので、本願補正発明での限定を外したものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3.」に記載したとおり、刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-12 
結審通知日 2010-02-02 
審決日 2010-02-16 
出願番号 特願2006-154600(P2006-154600)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島▲崎▼ 純一大仲 雅人蔵田 真彦  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 一宮 誠
柏崎 康司
発明の名称 印刷制御装置、および、記録媒体  

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