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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1215278
審判番号 不服2009-9094  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-27 
確定日 2010-04-19 
事件の表示 特願2004- 25901「等速自在継手」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日出願公開、特開2005-214399〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成16年2月2日の出願であって、平成21年3月25日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年4月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年5月21日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成21年5月21日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年5月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成21年5月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内輪と、内輪の内径側にスプライン嵌合したシャフトと、前記外方部材のトラック溝と前記内輪のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、前記外方部材と前記内輪との間に配置してボールを保持する保持器とを備え、車両のステアリングホイールからステアリングギアへトルクを伝達するステアリング装置用の等速自在継手であって、シャフトの先端に設けた押圧部の弾性力によって内輪と保持器との間を軸方向に相対移動させることによりボールを介して外方部材と内輪の双方のトラック溝間の軸方向隙間を詰めるように構成してなるステアリング装置用の等速自在継手において、
前記内輪が前記シャフトの軸方向先端側及び基端側に端面を有し、前記内輪の先端面側及び/又は基端面側の球状外面の一部をトラック溝を残した状態で除去することにより前記内輪の先端面及び/又は基端面の軸孔端縁からシャフトの軸方向に環状の突出部を延設すると共に、前記環状の突出部を含めた内輪の内径側に形成した前記内輪のスプライン及び/又は前記シャフトのスプラインを軸方向に対して相対的に傾斜させて、前記内輪のスプライン及び/又は前記シャフトのスプラインに捩れ角をつけ、前記内輪のスプラインと前記シャフトのスプラインの各々の長手方向片端部の一側歯面同士及び他端部の反対側歯面同士を接触させるようにしたことを特徴とするステアリング装置用の等速自在継手。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である内輪のスプラインについて、「前記内輪が前記シャフトの軸方向先端側及び基端側に端面を有し、前記内輪の先端面側及び/又は基端面側の球状外面の一部をトラック溝を残した状態で除去することにより前記内輪の先端面及び/又は基端面の軸孔端縁からシャフトの軸方向に環状の突出部を延設すると共に、前記環状の突出部を含めた内輪の内径側に形成した」との限定を付加するものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に日本国内において頒布された刊行物は、次のとおりである。なお、刊行物2と刊行物3は、それぞれ、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物4と刊行物2に相当する。

刊行物1:特開2003-130082号公報
刊行物2:特表2004-502110号公報
刊行物3:特開2000-97244号公報

(1)刊行物1(特開2003-130082号公報)の記載事項

刊行物1には、「固定型等速自在継手」に関し、図1,13とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【0018】図1?図12は、本発明を固定型等速自在継手の一種であるアンダーカットフリー型(UJ)に適用した場合を例示するものである。
【0019】図1に示すように、このタイプの等速自在継手は、複数のトラック溝1aを形成した球状内面1bを備える外方部材としての外輪1と、複数のトラック溝2aを形成した球状外面2bを備える内輪2と、外輪1のトラック溝1aと内輪2のトラック溝2aとの協働で形成されるボールトラックに配された複数のボール3と、外輪1の球状内面1bと内輪2の球状外面2bとの間に配置され、ボール3を収容するためのポケット4aを円周方向等間隔に有する保持器4とを主要な構成要素とするものである。トラック溝1a,2aは軸方向に延びる曲線状をなし、通常は6本(または8本)がそれぞれ球状内面1bおよび球状外面2bに形成される。内輪2の内周にセレーションやスプライン等のトルク伝達手段を介してシャフト5を結合することにより、内方部材6が構成される。」

(イ) 「【0026】図1に示すように、内方部材6を構成するシャフト5の軸端(外輪奥部側)には、押圧部材10が取り付けられる。図示例の押圧部材10は、図2に示すように円筒状の胴部10aと、これよりも外径側に張り出した頭部10bとを具備しており、シャフト5と同軸に配置した状態で胴部10aがシャフト軸端に軸方向へスライド可能に挿入されている。頭部10bとシャフト軸端との間には弾性部材12としてコイルバネが介装され、この弾性部材12は押圧部材10を軸方向の外輪奥部側へ押圧する弾性力の発生源となる。頭部10bの端面は凸球面状に形成され、この凸球面部分が弾性的な押圧力を軸方向に作用させる押圧部11として機能する。
【0027】保持器4の外輪奥部側の端部には、受け部材14が取り付けられる。この受け部材14は、保持器4の外輪奥部側の端部開口を覆う蓋状をなし、部分球面状の球面部14aとその外周に環状に形成された取付け部14bとで構成される。球面部14aの内面(シャフト5と対向する面)は凹球面状で、この凹球面部は押圧部11からの押圧力を受ける受け部15として機能する。取付け部14bは、保持器4の端部に圧入、溶接等の適宜の手段で固定されている。」

(ウ) 「【0030】以上の構成において、シャフト5を内輪2の内周に嵌合し、止め輪16等で両者を位置決めすると、押圧部材10の押圧部11と受け部材14の受け部15とが互いに当接し、弾性部材12が圧縮される。これにより内方部材6(シャフト5および内輪2)と保持器4との間に軸方向の弾性力が作用し、両者間に軸方向の相対移動が生じる。この相対移動によりボール3が保持器4を介してボールトラックの縮小方向に押し込まれるため、トラック間のアキシャル隙間が詰められ、回転バックラッシュが防止されるようになる。このように回転バックラッシュが防止される結果、この固定型等速自在継手は、回転バックラッシュを嫌う用途、例えば図13に示す自動車のステアリング装置にも使用することが可能となる。」

(エ) 「【0031】ステアリング装置は、図13に示すように、ステアリングホイール21の回転運動を、一または複数のステアリングシャフト22を介してステアリングギヤに伝達することにより、タイロッド部の往復運動に変換するものである。車載スペース等との兼ね合いでステアリングシャフト22を一直線に配置できない場合は、ステアリングシャフト22間に一または複数の自在継手24を配置し、ステアリングシャフト22を屈曲させた状態でもステアリングギヤに正確な回転運動を伝達できるようにしている。この自在継手24に上記固定型等速自在継手を使用することができる。」

上記記載事項(ア)?(エ)及び図1,図13の記載を総合すると、刊行物1には、
「複数のトラック溝1aを形成した球状内面1bを備える外方部材としての外輪1と、複数のトラック溝2aを形成した球状外面2bを備える内輪2と、内輪2の内周にセレーションやスプライン等のトルク伝達手段を介して結合したシャフト5と、外輪1のトラック溝1aと内輪2のトラック溝2aとの協働で形成されるボールトラックに配された複数のボール3と、外輪1の球状内面1bと内輪2の球状外面2bとの間に配置され、ボール3を収容するためのポケット4aを円周方向等間隔に有する保持器4とを備え、ステアリングホイール21の回転運動をステアリングギヤに伝達する自動車のステアリング装置用の固定型等速自在継手であって、内方部材6を構成するシャフト5の軸端(外輪奥部側)に取り付けられた押圧部材10の弾性力によって内方部材6(シャフト5および内輪2)と保持器4との間に軸方向の相対移動が生じることによりボール3が保持器4を介してボールトラックの縮小方向に押し込まれてトラック間のアキシャル隙間が詰められるように構成してなる自動車のステアリング装置用の固定型等速自在継手。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(特表2004-502110号公報)の記載事項

刊行物2には、「対向軌道継ぎ手」に関し、図1とともに次の事項が記載されている。

(オ) 「【0013】
(発明を実施するための最良の形態)
図1は対向軌道継ぎ手の型の定速度固定ボール継ぎ手の長手方向断面図であり;この図は外方継ぎ手部分11、内方継ぎ手部分12、ボール13および異なる個々の構成要素の形のボールケージ17を示している。図の上方半分には、外方継ぎ手部分の第1の外方ボール軌道15_(1)および右方に向かって開口する開口角度を形成する内方継ぎ手部分の第1の内方ボール軌道16_(1)からなっている1対の軌道が示されている。図の下方半分において、外方継ぎ手部分の第2の外方ボール軌道15_(2)および左方に向かって開口する開口角度を形成する内方継ぎ手部分の第2の内方ボール軌道16_(2)からなっている1対の軌道を見ることができる。この種の軌道構成を有する継ぎ手は対向軌道継ぎ手と呼ばれている。2つの型の軌道対は-周部を横切って見られるならば-通常互いに交互になっている、すなわち、かかる継ぎ手は偶数のボールを備えている。ボール13は、それらの中心が共通平面内に置かれるような方法においてすべてのボールを保持するボールケージ17のボール窓18によって受容されている。内方ボール軌道16はボール案内機能を有することができない広い端部分19,20を含んでいる。さらに他の詳細は以下の図2および図3を参照して説明する。」

上記記載事項(オ)及び図1の記載を参酌すれば、内方継ぎ手部分12の内方ボール軌道16はボール案内機能を有することができない広い端部分19,20を含んでおり、上記広い端部分19,20を含めた内方継ぎ手部分12の内径側にはスプラインが形成されているものと認められるから、刊行物2には、
「内方継ぎ手部分12の内方ボール軌道16はボール案内機能を有することができない広い端部分19,20を含んでいるとともに、上記広い端部分19,20を含めた内方継ぎ手部分12の内径側にスプラインを形成すること」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

(3)刊行物3(特開2000-97244号公報)の記載事項

刊行物3には、「動力伝達機構」に関し、図22とともに次の事項が記載されている。

(カ) 「【0029】上述のように外周部材2は、入口側の内径端を止め輪14で係止することによって軸部材1に対して固定される。この場合、加工誤差等により、図18に示すように外周部材2の入口側内径端と止め輪14との間に隙間15が生じ、外周部材2が軸方向にがたつく場合がある。このようなガタツキがあると、図16および図17に示す構造においてX=0を保持することができず、軸強度にバラツキを生じる要因となる。
【0030】これを回避するには、図19?図22に示すように、軸部材1と外周部材2との間に、外周部材2の軸方向他端側(入口側)への移動を防止する拘束手段16a、16bを設けるのがよい。この拘束手段16a、16bは、外周部材2を軸方向一端側(終端側)に押圧する押圧手段16aや、軸部材1側の歯31と外周部材2側の歯32とを円周方向で相互に圧接させる圧接手段16bで構成することができる。……上記圧接手段16bとしては、図22に示すように、例えば、軸部材1あるいは外周部材2の歯31、32に捻れ角θを設け(捻れ角θは誇張して描いている。また、図面は外周部材2側の歯32の山部32bに捻れ角θを設けた場合を例示する)、X=0となるまで外周部材2に軸部材1を圧入する構造が考えられる。」

上記記載事項(カ)及び図22記載の記載を総合すると、刊行物3には、
「外周部材2側の歯32の山部32bに捻れ角θを設け、軸部材1側の歯31と外周部材2側の歯32とを円周方向で相互に圧接させる圧接手段16bとすること」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。

3.発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「複数のトラック溝1aを形成した球状内面1bを備える外方部材としての外輪1」は、実質的に、本願補正発明の「内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材」に相当し、以下同様に、「複数のトラック溝2aを形成した球状外面2bを備える内輪2」は「外径面に複数のトラック溝を形成した内輪」に、「内輪2の内周にセレーションやスプライン等のトルク伝達手段を介して結合したシャフト5」は「内輪の内径側にスプライン嵌合したシャフト」に、「外輪1のトラック溝1aと内輪2のトラック溝2aとの協働で形成されるボールトラックに配された複数のボール3」は「前記外方部材のトラック溝と前記内輪のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボール」に、「外輪1の球状内面1bと内輪2の球状外面2bとの間に配置され、ボール3を収容するためのポケット4aを円周方向等間隔に有する保持器4」は「前記外方部材と前記内輪との間に配置してボールを保持する保持器」に、「ステアリングホイール21の回転運動をステアリングギヤに伝達する自動車のステアリング装置用の固定型等速自在継手」は「車両のステアリングホイールからステアリングギアへトルクを伝達するステアリング装置用の等速自在継手」に、「内方部材6を構成するシャフト5の軸端(外輪奥部側)に取り付けられた押圧部材10」は「シャフトの先端に設けた押圧部」に、「内方部材6(シャフト5および内輪2)と保持器4との間に軸方向の相対移動が生じることによりボール3が保持器4を介してボールトラックの縮小方向に押し込まれてトラック間のアキシャル隙間が詰められるように構成してなる」は「内輪と保持器との間を軸方向に相対移動させることによりボールを介して外方部材と内輪の双方のトラック溝間の軸方向隙間を詰めるように構成してなる」に、それぞれ相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内輪と、内輪の内径側にスプライン嵌合したシャフトと、前記外方部材のトラック溝と前記内輪のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、前記外方部材と前記内輪との間に配置してボールを保持する保持器とを備え、車両のステアリングホイールからステアリングギアへトルクを伝達するステアリング装置用の等速自在継手であって、シャフトの先端に設けた押圧部の弾性力によって内輪と保持器との間を軸方向に相対移動させることによりボールを介して外方部材と内輪の双方のトラック溝間の軸方向隙間を詰めるように構成してなるステアリング装置用の等速自在継手。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「内輪」及び「内輪のスプライン」の構成に関し、本願補正発明では、「前記内輪が前記シャフトの軸方向先端側及び基端側に端面を有し、前記内輪の先端面側及び/又は基端面側の球状外面の一部をトラック溝を残した状態で除去することにより前記内輪の先端面及び/又は基端面の軸孔端縁からシャフトの軸方向に環状の突出部を延設すると共に、前記環状の突出部を含めた内輪の内径側に形成した前記内輪のスプライン」であるのに対して、引用発明では、「内輪2」及び「内輪2のスプライン」が、そのような構成ではない点。

[相違点2]
「内輪のスプライン」及び「シャフトのスプライン」の構成に関し、本願補正発明では、「前記内輪のスプライン及び/又は前記シャフトのスプラインを軸方向に対して相対的に傾斜させて、前記内輪のスプライン及び/又は前記シャフトのスプラインに捩れ角をつけ、前記内輪のスプラインと前記シャフトのスプラインの各々の長手方向片端部の一側歯面同士及び他端部の反対側歯面同士を接触させるようにした」のに対して、引用発明では、「内輪2のスプライン」及び「シャフト5のスプライン」が、そのような構成であるか明らかでない点。

4.当審の判断

(1)相違点1について
一般に、シャフトと内輪などの2つの部材をスプラインによって嵌合する場合、伝達する回転力や材料の強度などに応じて必要なスプラインの有効長さを確保することは、当業者が設計上考慮すべき技術常識である。また、機械部品において軽量化を図ることは、当業者が必要に応じて検討する普遍的な課題であって、そのために、強度上必要がない部分や機能上支障がない部分を除去することは慣用手段として実施されていることである。
そこで、上記相違点1に係る本願補正発明の構成について検討するに、本願の明細書の段落【0022】には次のような記載がある。
「【0022】
上記の如く内輪20のスプライン26を長く形成する場合は、図3に示すように、内輪20の先端面の軸孔端縁からシャフト30の軸方向に環状の突出部28を延設すると共に、環状の突出部28を含めた内輪20の内径側にスプライン26を形成し、環状の突出部28の延設長さLrによって内輪20のスプライン26の長さを変更する。この場合、図3の一点鎖線で示すように、内輪20の球状外面22を環状の突出部28の端面と同レベルまで延設したものと比較して、内輪20の小型軽量化を図りつつスプライン26,34の有効長さを延長できる。なお、環状の突出部28は、内輪20の基端面の軸孔端縁からシャフト30の軸方向に延設することもできる。また、内輪20の先端面及び基端面は、曲面状であってもよい。」
すなわち、本願補正発明の上記構成は、内輪20の小型軽量化を図りつつスプライン26,34の有効長さを延長したものであるが、上記技術常識及び慣用手段に照らせば、引用発明のスプラインの有効長さを必要に応じて延長し、強度上必要がない部分や機能上支障がない部分を除去するという動機付けは十分に存在したということができ、本願補正発明において上記技術常識や慣用手段から想定されないような構成が特定されていることもない。
ところで、上記のとおり刊行物2には、「内方継ぎ手部分12の内方ボール軌道16はボール案内機能を有することができない広い端部分19,20を含んでいるとともに、上記広い端部分19,20を含めた内方継ぎ手部分12の内径側にスプラインを形成すること」という技術事項を含む発明が記載されている。上記「内方継ぎ手部分12」は、内方ボール軌道16のボール案内機能を有する部分の軸方向両端部にボール案内機能を有することができない広い端部分19,20を有するものであり、その技術的意義については明らかではないものの、図1の半径方向(図1の上下方向)で「広い端部分19,20」が薄肉に形成されていることを参酌しつつ上記技術常識及び慣用手段に照らせば、スプラインの有効長さを確保しつつ「内方継ぎ手部分12」において強度上必要がない部分や機能上支障がない部分を除去して小型軽量化を図るという技術思想が開示されているものと捉えられる。そして、上記の強度上必要がない部分や機能上支障がない部分を除去するに際して、どの部分を除去するかは、等速自在継ぎ手の具体的構造に応じて当業者が適宜決定できる設計上の事項であって、内輪の球状外面の一部をトラック溝を残した状態で除去することを阻害するような特段の事情はない(例えば、特開2000-145805号公報の段落【0038】及び図7に記載の「段部30」は、軽量化を目的としたものではないが必要に応じて除去されている)。
そうすると、引用発明と刊行物2に記載された発明は、等速自在継ぎ手として共通の分野に属するものであるから、引用発明に刊行物2に記載された上記技術思想を適用して、引用発明の内輪のスプラインの有効長さを必要に応じて延長し、強度上必要がない部分や機能上支障がない部分を除去することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
上記のとおり刊行物3には、
「外周部材2側の歯32の山部32bに捻れ角θを設け、軸部材1側の歯31と外周部材2側の歯32とを円周方向で相互に圧接させる圧接手段16bとすること」
という技術事項を含む発明が記載されているものと認められる。
上記刊行物3に記載された発明の「外周部材2側の歯32」及び「軸部材1側の歯31」は、その機能からみて、それぞれ、上記相違点2に係る本願補正発明の「内輪のスプライン」及び「シャフトのスプライン」に相当するから、上記刊行物3に記載された技術事項は、実質的に、上記相違点2に係る本願補正発明の構成のうちの「前記内輪のスプラインを軸方向に対して相対的に傾斜させて、前記内輪のスプラインに捩れ角をつけ、前記内輪のスプラインと前記シャフトのスプラインの各々の長手方向片端部の一側歯面同士及び他端部の反対側歯面同士を接触させるようにした」ことに相当するものである。ただし、上記刊行物3に記載された技術事項は、外周部材2が軸方向にがたつくことを回避するための拘束手段の一例として記載されている(上記刊行物3の記載事項(カ)を参照)が、その構成からみて、外周部材2(内輪に相当する)及び軸部材1(シャフトに相当する)の嵌合部における周方向の遊びをなくして回転方向のがたつきも回避する機能を有するものであることは当業者であれば容易に理解できることである。このことは、等速自在継手の円周方向のガタを小さくするために、軸セレーション(シャフトのスプラインに相当する)に捻れ角を設けて、内輪と駆動軸(シャフトに相当する)との嵌合部のガタをなくすことが、従来から必要に応じて採用されている周知の技術である(例えば、実願昭61-135788号(実開昭63-45224号)のマイクロフィルムの明細書第2ページ第12行?第3ページ第6行を参照)ことからも裏付けられる。
そうすると、引用発明の「内輪2のスプライン」及び「シャフト5のスプライン」の構成に刊行物3に記載された発明を適用して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)作用効果について
本願補正発明が奏する作用効果は、いずれも刊行物1?3に記載された発明から当業者が予測できる程度のものである。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の請求の理由を補正した平成21年7月3日付けの手続補正書において、「引用文献4の『突出部』は、内輪外径面のトラック溝の左右両側に張り出す形で形成されており、本願発明のように、球状外面の一部をトラック溝を残した状態で除去することにより形成した『突出部』とは異なるものです。すなわち、引用文献4の『突出部』は内径側にスプラインを形成していますが、『突出部』がトラック溝の左右両側に張り出していますから、内輪の軽量コンパクト化は図れません。」(審決注:「引用文献4」は、本審決の「刊行物2」に対応する。また、「本願発明」は、本審決の「本願補正発明」に対応する。)と主張している。
しかしながら、小型軽量化を図るために、強度上必要がない部分や機能上支障がない部分を除去することは慣用手段として実施されていることであるから、引用発明に刊行物2に記載された上記技術思想を適用して本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことは、上記に説示したとおりであり、また、本願補正発明において特定されているように除去したことによって当業者が予測できないような効果を奏するものでもない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成21年5月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成21年1月5日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
内径面に複数のトラック溝を形成した外方部材と、外径面に複数のトラック溝を形成した内輪と、内輪の内径側にスプライン嵌合したシャフトと、前記外方部材のトラック溝と前記内輪のトラック溝とが協働して形成される複数のボールトラックの各々に配置したボールと、前記外方部材と前記内輪との間に配置してボールを保持する保持器とを備え、車両のステアリングホイールからステアリングギアへトルクを伝達するステアリング装置用の等速自在継手であって、シャフトの先端に設けた押圧部の弾性力によって内輪と保持器との間を軸方向に相対移動させることによりボールを介して外方部材と内輪の双方のトラック溝間の軸方向隙間を詰めるように構成してなるステアリング装置用の等速自在継手において、
前記内輪のスプライン及び/又は前記シャフトのスプラインを軸方向に対して相対的に傾斜させて、前記内輪のスプライン及び/又は前記シャフトのスプラインに捩れ角をつけ、前記内輪のスプラインと前記シャフトのスプラインの各々の長手方向片端部の一側歯面同士及び他端部の反対側歯面同士を接触させるようにしたことを特徴とするステアリング装置用の等速自在継手。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、内輪のスプラインについての限定事項である「前記内輪が前記シャフトの軸方向先端側及び基端側に端面を有し、前記内輪の先端面側及び/又は基端面側の球状外面の一部をトラック溝を残した状態で除去することにより前記内輪の先端面及び/又は基端面の軸孔端縁からシャフトの軸方向に環状の突出部を延設すると共に、前記環状の突出部を含めた内輪の内径側に形成した」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3.」及び「【2】4.」に示したとおり、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定を省いた本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2010-02-25 
結審通知日 2010-02-26 
審決日 2010-03-09 
出願番号 特願2004-25901(P2004-25901)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
P 1 8・ 575- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 宏和  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 常盤 務
大山 健
発明の名称 等速自在継手  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  
代理人 田中 秀佳  
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