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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B05D
管理番号 1215346
審判番号 不服2007-29685  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-01 
確定日 2010-04-22 
事件の表示 特願2001-388365「凹凸感を有するマット加工印刷物およびその加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 2日出願公開、特開2003-181370〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成13年12月20日の出願であって、平成18年10月27日付けで拒絶理由が通知されたのち同年12月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年9月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月1日に審判請求がされ、さらに平成20年1月16日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成21年11月9日付けで拒絶理由が通知されたのち平成22年1月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の発明は、平成22年1月12日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)からみて、その特許請求の範囲の以下のとおりのものである。
「【請求項1】 基材上に電子線又は紫外線硬化型インキを使用したオフセット印刷による印刷層が設けられ、該印刷層の表面上に部分的又は全面にポリマー、モノマー、光重合開始剤を混合した主剤に、ポリエチレンワックス、反応性シリコーンを助剤とし、該助剤を前記主剤に対して固形分比3?5重量%の電子線又は紫外線硬化型インキを使用したオフセット印刷による下刷り層が設けられ、前記印刷層および前記下刷り層の表面上にコーティングによりオーバーコート層が設けられ、前記印刷層および前記下刷り層が、電子線又は紫外線硬化型インキを電子線又は紫外線照射により硬化させた層であり、前記オーバーコート層が、電子線又は紫外線硬化型コーティング剤を電子線又は紫外線照射により硬化させた層であり、前記下刷り層が、前記オーバーコート層のコーティング剤を塗布した時に、前記コーティング剤をはじこうとする力を有する層であることによって、前記オーバーコート層の前記下刷り層と重なる部分が凹凸感のあるマット加工部分に形成され、他の部分が艶加工部分に形成されていることを特徴とする凹凸感を有するマット加工印刷物。」(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)

第3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審で通知した平成21年11月9日付けの拒絶理由の概要は、補正前の請求項1及び2に係る発明は、本願出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。


刊行物1:特開平6-278354号公報
刊行物2:特開平6-8392号公報
刊行物3:特開平7-246361号公報
刊行物4:特開昭59-150196号公報
刊行物5:特開平10-137678号公報

第4 当審の判断
1 刊行物
刊行物1:特開平6-278354号公報
刊行物2:特開平6-8392号公報
刊行物3:特開平7-246361号公報
刊行物4:特開昭59-150196号公報
刊行物5:特開平10-137678号公報
刊行物6:特開昭61-291075号公報(周知技術を示すための文献)

2 刊行物の記載事項
(1)刊行物1
本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項1-a:「素材上に部分的又は全面に塗設した下塗りインキ又は塗料、並びに該インキ又は塗料上に該インキ又は塗料が乾燥又は未乾燥状態で塗設した電子線又は紫外線硬化型上塗りクリアー塗料を、電子線又は紫外線照射により硬化せしめて該インキ又は塗料を塗設した部分に凹凸模様を形成した印刷塗工物において、該下塗りインキ又は塗料の表面張力が該電子線又は紫外線硬化型上塗りクリアー塗料の表面張力より小さいことを特徴とする凹凸模様を有する表面加工印刷塗工物。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
・摘示事項1-b:「本発明において使用される下塗りインキ又は、クリアー塗料(ワニス)2としては、アクリル酸及びそのエステル、メタアクリル酸及びそのエステル、スチレン、エチレン、酢酸ビニール、塩化ビニール等のモノマーを1?4種類を混合、重合した樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩化ゴム、飽和ポリエステル樹脂を単独又は2?4種類混合したものをトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸nプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、キシレン、酢酸メチル、イソプロピルアルコール、エタノール等の低沸点及び中沸点、溶剤に溶解したクリアー塗料(ワニス)。又は、水及びアルコールを単独又は混合した溶媒に溶解又は分散したクリアー塗料(ワニス)に表面張力が30ダイン以下で有機溶剤又は、水及びアルコールに可溶又は分散可能な炭化水素化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物等の撥油剤を1?20重量%、好ましくは2?15重量%添加した特殊クリアー塗料が挙げられる。撥油剤の重量%が1重量%未満であると均一な凹凸模様5が得難く、20重量%を超えると下塗りインキ又はクリアー塗料(ワニス)2と上塗りクリアー塗料3との密着性が悪くなる。上記下塗りインキ又は、クリアー塗料(ワニス)2の塗工後の表面張力が30ダイン以下であることが好ましく、更には上塗りクリアー塗料3との表面張力の差が3ダインあればよい。」(段落【0008】)
・摘示事項1-c:「本発明において使用される上塗りクリアー塗料3としての電子線又は紫外線硬化型クリアー塗料は、下塗りクリアー塗料2に対して「ハジキ」状態を起こさせる為に下塗りクリアー塗料2表面との表面張力の差が3ダイン以上あればよく、粘度が50?600CPSを有するものであればよい。上塗りクリアー塗料3は、この目的に合致したものを既存の電子線又は紫外線クリアー塗料より適宜選択すればよい。例えば、111S(大日本インキ化学工業(株)製)又はXVZ-2005(荒川塗料工業(株)製)等の商品名で市販されている紫外線硬化型クリアー塗料等が挙げられる。」(段落【0018】)
・適時事項1-d「本発明の下塗り用のインキ又はクリアー塗料2を素材1上に塗設する方法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、ロールコーター方式等が挙げられる。このうち、グラビア印刷は、グラビア印刷機でインキ又はクリアー塗料2を塗工する。この際、上塗りクリアー塗料3の粘度・膜圧・温度等が同一の条件とすると、塗工するメッシュの線数とメッシュの深さを適宜設定することにより、凹凸模様5が目の細かいものから目の大きいものまで任意に形成することが可能である。又、メッシュのない部分では下塗り用インキ又はクリアー塗料2が塗工されないため、上塗りクリアー塗料3は平滑な光沢表面を与える。」(段落【0019】)
・摘示事項1-e:「上記下塗りインキ又はクリアー塗料2は、素材1上に乾燥膜圧で約1?10g/m^(2)となるような量で塗設することが好ましい。本発明においては、下塗りインキ又はクリアー塗料2を塗設又は塗工した後、該下塗りインキ又はクリアー塗料2が乾燥しないうちに上塗りクリアー塗料3を塗設してもよく、又、充分乾燥した後、例えば、1?48時間経過後に塗設してもよい。この上塗りクリアー塗料3は、硬化後の膜厚で約3?20g/m^(2)となるような量で塗設することが好ましい。」(段落【0021】)
・摘示事項1-f:「本発明の凹凸模様5は、凸部分5aは上塗りクリアー塗料3により形成され艶がでているが、凹部分5bは、ハジキにより多少上塗りクリアー塗料3が残っているか、全く残っていない為に艶がでておらず現在使われている艶出し加工後の型押しによる凹凸模様とは違った美麗な凹凸模様5を形成することができる。又下塗りクリアー塗料2を部分的に施すことによりその部分的に施された下塗り部分上の上塗りクリアー塗料3は、凹凸模様5となり、下塗りクリアー塗料2の施されていない上塗りクリアー塗料3は平滑な光沢を有している為この凹凸面と平滑面との相違により平滑面が浮き出して見え、現在使われている紙等の部分的な浮き出しとは違った美麗な立体模様が形成される。」(段落【0023】)

(2)刊行物2
本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された上記刊行物2には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項2-a:「【請求項1】基材シートの表面側に、少なくとも電離放射線硬化性樹脂に撥液剤を添加してなる撥液性インキを用いて絵柄印刷を施し撥液部を設け、該撥液部の表面側全面に電離放射線硬化性塗料を塗工して撥液させた後、電離放射線を照射して硬化させ電離放射線硬化性樹脂層を設け、撥液部の上部の電離放射線硬化性樹脂層が凹部として形成されていることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】撥液剤が、撥液性を有し且つ電離放射線硬化性樹脂と反応性を有する請求項1記載の化粧シート。
【請求項3】基材シートの片面もしくは両面に装飾層を設けた請求項1又は2記載の化粧シート。
【請求項4】撥液性インキに電離放射線反応性のモノマーを添加した請求項1、2又は3記載の化粧シート。
【請求項5】電離放射線硬化性塗料に表面張力調整剤を添加した請求項1、2、3又は4記載の化粧シート。
【請求項6】下記の各工程を順次行うことを特徴とする化粧シートの製造方法。
(A)少なくとも電離放射線硬化性樹脂に撥液剤を添加してなる撥液性インキを用いて、基材シートの表面側に絵柄印刷を行い撥液部を形成し、前記撥液部を半硬化の状態とする第1工程
(B)撥液部の上から全面に電離放射線硬化性塗料を塗工して撥液させる第2工程
(C)電離放射線を照射して電離放射線硬化性樹脂塗料と撥液部を硬化させる第3工程」(【特許請求の範囲】)
・摘示事項2-b:「撥液部5を形成するインキ(撥液性インキ)は、少なくとも電離放射線硬化性樹脂をビヒクルとし該ビヒクルに撥液剤を添加してなるものであり、更に必要に応じその他の添加剤、例えば顔料、染料等の着色剤、体質顔料、艶消し剤(体質顔料を兼ねる場合もある)、溶剤、安定剤、可塑剤、開始剤、増感剤等を適宜混合する。」(段落【0020】)
・摘示事項2-c:「また、本発明化粧シートは前記の絵柄印刷層4やベタ印刷層3等のような装飾層を必要に応じ形成することができる。装飾層は印刷のみならず金属蒸着等で形成することもできる。」(段落【0018】)
・摘示事項2-d:「撥液性インキに用いる撥液剤はシリコーン、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、アマイドワックス、ろうワックス、フッ化ビニル化合物等の撥液性物質が用いられる。更に好ましい撥液剤は、上記の撥液性物質の側鎖、片末端、両末端等に、電離放射線硬化性樹脂と反応するアクリレート、メタクリレート等の官能基を導入したものである。
上記ての如き電離放射線硬化性樹脂と反応性を有する撥液剤は、例えば反応型シリコーンが挙げられる。これはシリコーンオイルを変成してアクリレート(メタクリレート)等の電離放射線反応性の官能基を側鎖、片末端、両末端等に導入したものである。反応型シリコーンの分子量は2000?10000程度、官能基数は1?8程度である。」(段落【0022】【0021】)
・摘示事項2-e:「撥液剤の撥液性インキへの添加量は、撥液性インキ組成物の乾燥重量にたいして1?10重量%添加するのが好ましい。」(段落【0023】)
・摘示事項2-f:「撥液性インキは、通常の印刷インキと同様に公知の印刷方法、例えばグラビア印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、凸版印刷、スクリーン印刷方式等や、または転写方法を用いて基材シート上に印刷して撥液部5を形成することができる。尚、撥液部5は電離放射線硬化性塗料を硬化させる前は、完全に硬化させずに半硬化の状態とする。この場合、半硬化の手段としては、溶剤乾燥型、ハーフキュア型、溶剤乾燥ハーフキュア併用型に分けられる。」(段落【0027】)
・摘示事項2-g:「本発明では、電離放射線硬化性塗料に表面張力を調整するための添加剤(表面張力調整剤)を添加するのが好ましい。表面張力調整剤を添加して電離放射線硬化性塗料の組成物の表面張力を任意に変化させると、撥液部5との間の界面張力が変化して、電離放射線硬化性樹脂層6のはじき具合が、例えば図1及び図2(a)に示すように電離放射線硬化性塗料が完全にはじかれずに薄く撥液部5の表面に残り、撥液部5を保護する表面樹脂層として形成される。
また、電離放射線硬化性塗料と撥液部の界面張力が大きくなるように、両者の組成物を調整すると(例えば、電離放射線硬化性塗料に表面張力調整剤を全く添加しない場合)、図2(b)に示すように撥液部の上部の電離放射線硬化性塗料が完全にはじいて形成される。但し、此処で界面張力の大小関係は、(撥液部の臨界表面張力)<(塗料の表面張力)となる。」(【0045】【0046】)
・摘示事項2-h:「実施例1
厚み0.15mmの塩化ビニルシート(20PHR)の表面に通常のグラビア印刷方式にてベタ印刷、絵柄印刷を施した後、下記導管インキ組成物を使用してグラビア印刷方式にて木目模様の導管模様を印刷して40℃×2分間乾燥させた。(尚この場合、該導管インキには紫外線を照射せず、溶剤のみを揮発させた状態である。)次いで電離放射線硬化性塗料を上記印刷物の表面に塗布量10g/m^(2) (dry)になるようにロールコート法で塗工し、紫外線(80W×10m/min ×4パス)を照射して導管インキと電離放射線硬化性塗料を硬化させて化粧シートを得た。得られた化粧シートは導管印刷と表面の紫外線硬化型樹脂層との間の密着性が良好なものであった。
〔導管インキ(撥液インキ)組成〕
・紫外線硬化型樹脂(三菱油化製:ユピマーH-2000) 100重量部
・撥液剤(シリコーン) 7 〃
・顔料 適宜 〃」(段落【0063】【0064】)
・摘示事項2-i:「【発明の効果】以上説明したように本発明化粧シートは、撥液用インキに電離放射線硬化性樹脂をビヒクルとして用いているために、電離放射線硬化性樹脂層と撥液部との間で良好な密着性が得られ、更に撥液部が表面に露出した場合であっても表面物性に優れた化粧シートが得られる。
撥液剤に電離放射線硬化性樹脂と反応性を有するものを用いた場合には、より良好な密着性が得られる。
また、撥液性インキに電離放射線反応性のモノマーを添加した場合には、撥液部と電離放射線硬化性樹脂層との密着性が更に向上する。
また、電離放射線硬化性塗料に表面張力調整剤を添加した場合には、凹部の形状を任意に制御することができ、特に凹部をシャープに形成することができる。
本発明化粧シートの製造方法は上記の如き意匠性、物性に優れた化粧シートを確実に製造することができ、特に撥液性インキを半硬化状態として電離放射線硬化性塗料を塗工後に電離放射線を照射して塗工させるために、撥液部と電離放射線硬化性樹脂層との間の密着性に優れた化粧シートが得られる効果を有する。」(段落【0070】?【0074】)

(3)刊行物3
本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された上記刊行物3には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項3-a:「【従来の技術】従来、前記のような目的に用いられる化粧シートは、基材に必要に応じてべたインキ層、絵柄インキ層を印刷し、更に立体感を得るためには撥液性インキを印刷し、熱硬化性樹脂組成物を塗布し、硬化させたものであった。」(段落【0002】)
・摘示事項3-b:「本発明における撥液性インキには、油性インキタイプ、水性インキタイプ、紫外線硬化型タイプ、電子線硬化型タイプ等が使用可能で、これらを印刷する方法としては、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等、任意である。」(段落【0011】)

(4)刊行物4
本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された上記刊行物4には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項4-a:「カルトン用紙基材の表面にオフセット印刷法により、紫外線硬化型インキを用いてベタ印刷層を少なくとも2層以上形成し、必要に応じてその上に紫外線硬化型インキを用いて模様印刷層を形成した後、その上にアンカーコート層とプレスコート層を順次形成するとともに加熱加圧して前記プレスコート層に鏡面状の光沢を与え、然る後に接着剤を介して熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートすることを特徴とする強光沢カルトン用紙の製造方法。」(特許請求の範囲)
・摘示事項4-b:「本発明は、紙器製造に使用する表面強光沢カルトン用紙に関し、安価で量産性があり、且つ多種少量生産に適し、紙器加工適性が良好な強光沢カルトン用紙に関する。」(第1ページ左下欄第17?20行)

(5)刊行物5
本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された上記刊行物5には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項5-a:「基体シート上に、撥液性絵柄層を設けた後、全面にトップコート剤を塗工し、前記撥液性絵柄層が設けられた部分のトップコート剤を弾かせて、前記撥液性絵柄層が設けられた部分を除く表面に選択的にトップコート層を設ける立体模様化粧シートの製造方法において、前記撥液性絵柄層には油性撥液性インキを使用し、前記トップコート剤としては水性トップコート剤を使用し、且つ、印刷・塗工にはアフター乾燥ゾーンを具備する多色印刷装置を使用し、前記撥液性絵柄層は最終印刷ユニット以外の印刷ユニットで印刷し、前記水性トップコート剤は最終印刷ユニットで塗工することにより、インラインで一貫生産することを特徴とする立体模様化粧シートの製造方法。」(【特許請求の範囲】【請求項6】)
・摘示事項5-b:「下地絵柄層2は、必要がなければ全く設けなくても良いが、平面的な絵柄に立体的な絵柄が加味された、優れた意匠効果を得る目的で、撥液性絵柄層3やトップコート層4に下地絵柄層2を併せて設けるのが一般的である。また、基体シート1が透明乃至半透明の材質からなる場合には、基体シート1の裏面側に設けることも可能であり、両面に併設しても良い。しかし、多色印刷装置を使用したインライン一貫生産のための便宜を考慮すると、下地絵柄層2は、撥液性絵柄層3やトップコート層4と基体シート1との間に設けることが好ましい。」(段落【0032】)
・摘示事項5-c:「撥液性絵柄層3としては、少なくとも撥液剤、すなわち具体的には例えばフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ワックス類等の、液体を弾く性質を有する物質が添加されてなる撥液性インキが使用される。前記撥液剤の添加量は、通例固形分比5?70重量%程度である。本発明においては特に、希釈溶剤として有機溶剤を使用した油性撥液性インキを使用する。その着色剤や結着剤樹脂、溶剤としては、前記した下地絵柄層2の場合と同様の材料を使用することができる。但し、この撥液性絵柄層3は、当該立体模様化粧シートの完成状態において、表面に露出した状態となることから、耐磨耗性や耐溶剤性等を考慮すると、結着剤樹脂としては硬化型樹脂を使用することが好ましい。
前記硬化型樹脂として具体的には、例えばウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂等の熱硬化性樹脂または常温硬化性樹脂や、アクリル系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、エステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、シリコーン系樹脂等の電離放射線硬化型樹脂等を好適に使用することができる。」(段落【0039】【0040】)
・摘示事項5-d:「トップコート層4は、化粧シートの表面に耐磨耗性、耐擦傷性、耐溶剤性、耐汚染性等の表面物性を付与する目的で設けられるものであって、少なくとも絵柄印刷層2を透視可能な透明性を有する透明、着色透明または半透明の樹脂層が設けられる。また、本発明においては、トップコート層4は撥液性絵柄層3が設けられた部分を除く表面に選択的に設けられているので、撥液性絵柄層3との膜厚の差により、表面に凹凸の立体感を与えている。」(段落【0050】)
・摘示事項5-e:「上記トップコート層4は、撥液性絵柄層3が設けられた部分を含む全面にトップコート剤を塗工した後、撥液性絵柄層3の撥液作用によってその上に塗工されたトップコート剤を弾かせることによって、撥液性絵柄層3が設けられた部分を除く表面に選択的に形成する。係るトップコート剤としては、有機溶剤を希釈溶剤とする油性トップコート剤も従来使用されているが、本発明においては特に、水を主たる希釈溶剤とする水性トップコート剤を使用する。」(段落【0053】)
・摘示事項5-f:「勿論、本発明の立体模様化粧シートの製造方法は上記に限定されるものではなく、例えば3色以下の印刷装置を使用して、下地絵柄層2を設けないか1色のみとすることも出来るし、逆に5色以上の印刷装置を使用して、下地絵柄層2を3色以上で印刷したり、撥液性絵柄層3を2色以上で印刷したりすることも可能である。また、印刷方式はグラビア方式には限定されず、例えばオフセット印刷方式、スクリーン印刷方式、凸版印刷方式、フレキソ印刷方式、ドライオフセット印刷方式等の任意の印刷方式が適用可能である。」(段落【0066】)
・摘示事項5-g:「【実施例】アフター乾燥ゾーンを備えた従来の化粧シート製造用グラビア5色印刷機を使用して、坪量30g/m^(2) の薄葉紙に、トルエン及び酢酸エチルを主溶剤とする硝化綿系油性印刷インキを使用して、下地着色と隠蔽性付与を兼ねた1色の下地ベタ層と、導管模様を除く2色の木目柄層とを、第1?第3印刷ユニットを使用して順次印刷して、乾燥後の合計塗布量約2g/m^(2) の下地絵柄層を設け、次いで第4印刷ユニットにて下記組成の油性撥液性インキを使用して、前記木目柄と同調した導管柄の撥液性絵柄層を設け、さらに第5印刷ユニットにて、下記組成の水性トップコート剤を使用して、乾燥後の塗布量約6g/m^(2) のトップコート層を設けて、本発明の立体模様化粧シートを製造した。
油性撥液性インキ組成
アクリル系樹脂 20重量部
シリカゲル粉末 20重量部
着色顔料 5重量部
イソシアネート系硬化剤 20重量部
シリコーン系撥液剤 3重量部
トルエン 30重量部
メチルエチルケトン 15重量部
酢酸エチル 15重量部」(段落【0077】【0078】)
・摘示事項5-h:「しかも、従来の全油性タイプの化粧シートの製造にも広く使用されていた印刷装置の内、アフター乾燥ゾーンを具備した多色印刷装置を使用して、インラインで一貫生産することにより、新たな設備増設や印刷速度の低下等の措置を必要とすることなく、従来とほぼ同一の条件で生産性良く製造することができる。」(段落【0084】)

(6)刊行物6
本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された上記刊行物6には、以下の事項が記載されている。
・摘示事項6-a:「(1)絵柄に同調したエンボスを有する化粧材を製造する方法であって、基材上に硬化抑制剤および撥液剤を添加したインキを用いて任意の絵柄を印刷し、その上に、硬化抑制剤により硬化反応が抑制される紫外線硬化型樹脂を含む表面樹脂層を設け、紫外線硬化することにより絵柄部分を凹部とすることを特徴とする方法。
(2)撥液剤として、シリコーン、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、アマイドワックス、ろうワックスおよびフッ化ビニル化合物から選んだものを用い、硬化抑制剤として、金属キレート化剤、有機酸、カルボキシル基をもつアクリレート、ベンズトリアゾ誘導体およびキノン類から選んだものを用い、ビヒクルとして、フェノール系、尿素系、メラミン系、エポキシ系、ポリエステル系およびポリウレタン系の熱硬化性樹脂から選んだものを用いたインキで絵柄を印刷して実施する特許請求の範囲第1項に記載の製造方法。」(特許請求の範囲)

3 刊行物に記載された発明
刊行物1には、「素材上に部分的又は全面に塗設した下塗りインキ又は塗料、並びに該インキ又は塗料上に該インキ又は塗料が乾燥又は未乾燥状態で塗設した電子線又は紫外線硬化型上塗りクリアー塗料を、電子線又は紫外線照射により硬化せしめて該インキ又は塗料を塗設した部分に凹凸模様を形成した印刷塗工物において、該下塗りインキ又は塗料の表面張力が該電子線又は紫外線硬化型上塗りクリアー塗料の表面張力より小さいことを特徴とする凹凸模様を有する表面加工印刷塗工物。」(摘示事項1-a)と記載され、また、下塗りインキ又は塗料と電子線又は紫外線硬化型上塗りクリアー塗料との関係について、「本発明において使用される上塗りクリアー塗料3としての電子線又は紫外線硬化型クリアー塗料は、下塗りクリアー塗料2に対して「ハジキ」状態を起こさせる・・・」(摘示事項1-c)と記載されている。そして、表面加工印刷塗工物の表面模様に関して、「下塗りクリアー塗料2を部分的に施すことによりその部分的に施された下塗り部分上の上塗りクリアー塗料3は、凹凸模様5となり、下塗りクリアー塗料2の施されていない上塗りクリアー塗料3は平滑な光沢を有している・・・」(摘示事項1-f)と記載され、さらに下塗りインキに関して、「本発明において使用される下塗りインキ又は、クリアー塗料(ワニス)2としては、アクリル酸及びそのエステル、メタアクリル酸及びそのエステル、スチレン、エチレン、酢酸ビニール、塩化ビニール等のモノマーを1?4種類を混合、重合した樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩化ゴム、飽和ポリエステル樹脂を単独又は2?4種類混合したものをトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸nプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、アセトン、キシレン、酢酸メチル、イソプロピルアルコール、エタノール等の低沸点及び中沸点、溶剤に溶解したクリアー塗料(ワニス)。又は、水及びアルコールを単独又は混合した溶媒に溶解又は分散したクリアー塗料(ワニス)に表面張力が30ダイン以下で有機溶剤又は、水及びアルコールに可溶又は分散可能な炭化水素化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物等の撥油剤を1?20重量%、好ましくは2?15重量%添加した特殊クリアー塗料が挙げられる。」(摘示事項1-b)と記載されている。 さらに、下塗り用のインキを塗設する方法に関して、「本発明の下塗り用のインキ又はクリアー塗料2を素材1上に塗設する方法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、ロールコーター方式等が挙げられる。」(摘示事項1-d)と記載されている。
そうすると、刊行物1には、
「素材上に、アクリル酸及びそのエステル、メタアクリル酸及びそのエステル、スチレン、エチレン、酢酸ビニール、塩化ビニール等のモノマーを1?4種類を混合、重合した樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩化ゴム、飽和ポリエステル樹脂を単独又は2?4種類混合したものを、低沸点及び中沸点、溶剤に溶解するか、水及びアルコールを単独又は混合した溶媒に溶解又は分散したクリアー塗料(ワニス)に、表面張力が30ダイン以下で有機溶剤又は、水及びアルコールに可溶又は分散可能な炭化水素化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物等の撥油剤を1?20重量%、好ましくは2?15重量%添加した下塗りインキ又は塗料をグラビア印刷、フレキソ印刷、ロールコーター方式等により部分的又は全面に塗設した層、並びに該インキ又は塗料上に該インキ又は塗料が乾燥又は未乾燥状態で塗設した、下塗りインキ又は塗料に対してハジキ状態を起こさせる電子線又は紫外線硬化型上塗りクリアー塗料を、電子線又は紫外線照射により硬化せしめた層とからなる印刷塗工物において、下塗りインキ又は塗料を部分的に施すことによりその部分的に施された下塗り部分上の上塗りクリアー塗料は凹凸模様となり、下塗りインキ又は塗料の施されていない上塗りクリアー塗料は平滑な光沢を有している表面加工印刷塗工物。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「素材」は、本願発明の「基材」に相当し、引用発明の「アクリル酸及びそのエステル、メタアクリル酸及びそのエステル、スチレン、エチレン、酢酸ビニール、塩化ビニール等のモノマーを1?4種類を混合、重合した樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩化ゴム、飽和ポリエステル樹脂を単独又は2?4種類混合したもの」は、本願発明の「主剤」に相当し、引用発明の「有機溶剤又は、水及びアルコールに可溶又は分散可能な炭化水素化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物等の撥油剤」は、本願発明の「助剤」に相当する。
また、引用発明の「下塗りインキ又は塗料を・・・塗設した層」は、本願発明の「下刷り層」に相当し、引用発明の「印刷塗工物」は、本願発明の「印刷物」に相当し、引用発明の「電子線又は紫外線硬化型上塗りクリアー塗料を、電子線又は紫外線照射により硬化せしめた層」は、本願発明の「オーバーコート層」に相当する。
さらに、引用発明の「下塗りインキ又は塗料に対してハジキ状態を起こさせる電子線又は紫外線硬化型上塗りクリアー塗料」であることは、換言すると、下塗りインキ又は塗料は、電子線又は紫外線硬化型上塗りクリアー塗料に対してハジキ状態を起こさせる、という意味となるから、本願発明の「下刷り層が、前記オーバーコート層のコーティング剤を塗布した時に、前記コーティング剤をはじこうとする力を有する層であること」に相当する。
そして、願書に最初に添付した明細書の段落【0004】に、「さらに、印刷物の上に下塗りを行い、その上にクリアーな電子線または紫外線硬化型のインキまたは塗料を塗布して下塗り部分に凹凸感のあるマット加工部分が形成される凹凸模様を有する表面加工印刷塗工物も開示されている。(特開平6-278354号公報)」と記載されているところ、この公報は、本審決において引用発明が記載されていると認定した刊行物1であるから、引用発明の「部分的に施された下塗り部分上の上塗りクリアー塗料は凹凸模様となり」は、本願発明の「オーバーコート層の前記下刷り層と重なる部分が凹凸感のあるマット加工部分に形成され」ることに相当し、また、引用発明の「下塗りインキ又は塗料の施されていない上塗りクリアー塗料は平滑な光沢を有している」ことは、本願発明の「他の部分が艶加工部分に形成されている」ことに相当するものと認められる。
そうすると、両者は、
「基材上に、部分的又は全面に、主剤に助剤を加えたインキを使用した下刷り層が設けられ、前記下刷り層の表面上にコーティングによりオーバーコート層が設けられ、前記オーバーコート層が、電子線又は紫外線硬化型コーティング剤を電子線又は紫外線照射により硬化させた層であり、前記下刷り層が、前記オーバーコート層のコーティング剤を塗布した時に、前記コーティング剤をはじこうとする力を有する層であることによって、前記オーバーコート層の前記下刷り層と重なる部分が凹凸感のあるマット加工部分に形成され、他の部分が艶加工部分に形成されている凹凸感を有するマット加工印刷物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
i)下刷り層の主剤について、本願発明は、ポリマー、モノマー、光重合開始剤を混合したものであるのに対し、引用発明は、アクリル酸及びそのエステル、メタアクリル酸及びそのエステル、スチレン、エチレン、酢酸ビニール、塩化ビニール等のモノマーを1?4種類を混合、重合した樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩化ゴム、飽和ポリエステル樹脂を単独又は2?4種類混合したものである点(以下、「相違点i)」という。)
ii)下刷り層の助剤について、本願発明は、ポリエチレンワックス、反応性シリコーンであるのに対し、引用発明は、水及びアルコールに可溶又は分散可能な炭化水素化合物、シリコーン化合物、フッ素化合物等である点(以下、「相違点ii)」という。)
iii)助剤の含有量について、本願発明は、主剤に対して固形分比3?5重量%であるのに対し、引用発明は、クリアー塗料中に1?20重量%である点(以下、「相違点iii)」という。)
iv)下刷り層が、本願発明は、オフセット印刷により設けられているのに対し、引用発明は、グラビア印刷、フレキソ印刷、ロールコーター方式等により設けられている点(以下、「相違点iv)」という。)
v)本願発明は、基材上に電子線又は紫外線硬化型インキを使用したオフセット印刷による印刷層が設けられているのに対し、引用発明は、そのような規定がされていない点(以下、「相違点v)」という。)

(2)相違点の検討
ア 相違点i)の検討
例えば、刊行物2(摘事事項2-a)、刊行物3(摘事事項3-b)、刊行物5(摘示事項5-c)に示されるように、化粧シートにおいて、凹凸を形成させるための撥液性インキとして、ポリマー、モノマー、光重合開始剤を主剤とするものは周知のものであるし、また、刊行物2(摘事事項2-i)には、「撥液用インキに電離放射線硬化性樹脂をビヒクルとして用いているために、電離放射線硬化性樹脂層と撥液部との間で良好な密着性が得られ」るという有利な効果について記載されている。
そうすると、引用発明における表面上に電子線又は紫外線硬化型コーティング剤から形成されるオーバーコート層が設けられる下刷り層のインキの主剤として、周知のものであって、しかも電子線又は紫外線硬化型コーティング剤から形成されるオーバーコート層との間で良好な密着性が得られるという有利な効果を奏するポリマー、モノマー、光重合開始剤からなるものを採用することは当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点ii)の検討
化粧シートにおいて、凹凸を形成させるための撥液性インキの助剤として、ポリエチレンワックスは、刊行物6(摘示事項6-a)や刊行物2(摘事事項2-d)等に示されるように周知のものである。
また、刊行物2(摘事事項2-d)には、好ましい助剤として、電離放射線硬化性樹脂と反応性を有する撥液剤、例えば反応型シリコーンが挙げられており、その撥液剤を用いた場合、電離放射線硬化樹脂層と撥液部の電離放射線硬化樹脂との間で、より良好な密着性が得られるという効果(摘示事項2-i)について記載されている。
そうすると、引用発明における撥液性のインキの主剤として、周知の電子線又は紫外線硬化型のものを採用するに際して、助剤である撥液剤として、周知慣用のポリエチレンワックスを採用すること、さらには、電離放射線硬化樹脂層と撥液部の電離放射線硬化樹脂との間でより良好な密着性が得られるという効果を有する反応型シリコーンを採用することも当業者にとって容易なことである。

ウ 相違点iii)の検討
刊行物1には、引用発明において、助剤がクリアー塗料中に1?20重量%添加することについて、「・・・撥油剤の重量%が1重量%未満であると均一な凹凸模様5が得難く、20重量%を超えると下塗りインキ又はクリアー塗料(ワニス)2と上塗りクリアー塗料3との密着性が悪くなる。・・・」(摘示事項1-b)と記載されている。
そうすると、刊行物1の記載から、下塗りインキ上でクリアー塗料が凹凸模様を形成するために、助剤としての撥油剤が一定量以上必要であることを読み取ることができる。
一方、刊行物2には、「また、電離放射線硬化性塗料と撥液部の界面張力が大きくなるように、両者の組成物を調整すると(例えば、電離放射線硬化性塗料に表面張力調整剤を全く添加しない場合)、図2(b)に示すように撥液部の上部の電離放射線硬化性塗料が完全にはじいて形成される。・・・」(摘示事項2-g)と、引用発明とは異なり、撥液部の上部の電離放射線硬化性塗料が完全にはじいて形成される場合にあって、その際の撥液剤の添加量について、「撥液剤の撥液性インキへの添加量は、撥液性インキ組成物の乾燥重量にたいして1?10重量%添加するのが好ましい。」(摘示事項2-e)と記載されており、さらに、その実施例(摘示事項2-h)においては、主剤である紫外線硬化型樹脂100重量部に対して、撥液剤(シリコーン)7重量部添加していることから、助剤を主剤に対して固形分比7重量%添加していることが記載されている。
また、刊行物5にも、「上記トップコート層4は、撥液性絵柄層3が設けられた部分を含む全面にトップコート剤を塗工した後、撥液性絵柄層3の撥液作用によってその上に塗工されたトップコート剤を弾かせることによって、撥液性絵柄層3が設けられた部分を除く表面に選択的に形成する。」(摘示事項5-e)と、引用発明とは異なり、撥液性絵柄層の上に塗工されたトップコート剤が完全にはじいて形成される場合にあって、その際の撥液剤の添加量について、「撥液性絵柄層3としては、少なくとも撥液剤、すなわち具体的には例えばフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ワックス類等の、液体を弾く性質を有する物質が添加されてなる撥液性インキが使用される。前記撥液剤の添加量は、通例固形分比5?70重量%程度である。」(摘示事項5-c) と記載されおり、さらに、その実施例(摘示事項5-g)においては、主剤であるアクリル系樹脂20重量部+イソシアネート系硬化剤20重量部に対して、シリコーン系撥液剤3重量部添加していることから、助剤を主剤に対して固形分比7.5重量%添加していることが記載されている。
すなわち、刊行物2や刊行物5の記載から、逆に、引用発明のような、オーバーコート層の下刷り層と重なる部分で凹凸模様を形成するためには、助剤を一定量以下、具体的には、固形分比5%以下とすることについて読み取ることができる。
してみると、引用発明において、撥液性インキとして、周知の電子線又は紫外線硬化型のものを採用し、さらには助剤である撥液剤として、周知慣用のポリエチレンワックス、さらには、より良好な密着性が得られるという効果を有する反応型シリコーンを採用するに際して、オーバーコート層の下刷り層と重なる部分で凹凸模様を形成するために、刊行物2や刊行物5等に記載されている数値を参考に、適宜実験を行うことで、助剤の含有量を主剤に対して固形分比3?5重量%とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

エ 相違点iv)の検討
例えば、刊行物2(摘事事項2-f)や刊行物5(摘示事項5-f)に、撥液性インキの印刷方法として、グラビア印刷とともにオフセット印刷が記載されているから、引用発明において、下刷り層をオフセット印刷により設けることは当業者にとって容易なことである。

オ 相違点v)の検討
例えば、刊行物2(摘示事項2-c)や、刊行物3(摘示事項3-a)、刊行物5(摘示事項5-b)に示されるように、化粧シートにおいて、基材の地模様等を隠すためや意匠効果を高めるために、基材にベタや絵柄等の印刷層を設けることは周知慣用事項であるところ、基材に紫外線硬化型インキを用いて模様層である下刷り層を形成する際に、印刷層も紫外線硬化型インキを用いてオフセット印刷法により形成することも、例えば刊行物4(摘示事項4-a)に示されるように特段珍しい手法でもないから、引用発明において、基材の地模様等を隠すために、基材上に印刷層を設ける際に、電子線又は紫外線硬化型インキを使用したオフセット印刷による印刷層を設けることも当業者にとって容易なことである。

5 効果の検討
本願明細書の段落【0030】に、「本発明の凹凸感のあるマット加工印刷物の加工方法によれば、絵柄の印刷層、下刷り印刷層、オーバーコート層をオフセット印刷機を用いて設けることができ、さらに、オフセット印刷機を用いて一工程で行うことによって、艶加工部分と精密な凹凸感のあるマット加工部分を有し、かつ、生産性が高くコストが低く加工できる凹凸感のあるマット加工印刷物を得ることができるものである。」とあるように、本願発明の効果は、マット加工印刷物の加工方法に寄与するものと認められる。
そして、上記「4(1)」でも示したように、本願明細書の段落【0004】に示される先行技術である特開平6-278354号公報は、本審決において引用発明が記載されていると認定した刊行物1そのものであり、引用発明も、艶加工部分と精密な凹凸感のあるマット加工部分を有するものと認められることから、引用発明に刊行物2に記載の技術及び周知技術を採用した発明も、艶加工部分と精密な凹凸感のあるマット加工部分を有するものであるから、本願発明の「物」としての効果は、格別なものとは認められない。
また、刊行物5(摘示事項5-h)には、下刷り層である撥液性絵柄層とオーバーコート層であるトップコート層を「インラインで一貫生産することにより、新たな設備増設や印刷速度の低下等の措置を必要とすることなく、従来とほぼ同一の条件で生産性良く製造することができる。」という効果について記載されているから、生産性が高くコストが低く加工できる凹凸感のあるマット加工印刷物を得ることができるという本願発明の効果は当業者が容易に予測し得るものである。

6 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 請求人の主張について
請求人は、平成22年1月12日付け意見書の「(2)本願発明が特許されるべき理由d)本願請求項1に係る発明と刊行物2?5との対比」において、「化粧シートにおいて、基材の地模様等を隠すためや意匠効果を高めるために、基材にベタや絵柄等の印刷層を設けることは、確かに周知慣用事項であり、また、化粧シートにおいて、凹凸を形成させるための撥液性のインキとして、ポリマー、モノマー、光重合開始剤を主剤とし、撥液剤を助剤とする電子線又は紫外線硬化型のものは周知のものであります。しかしながら、化粧シートの場合、刊行物2に・・・(摘示事項2-a)と記載され、また、刊行物5に・・・(摘示事項5-a)と記載されているように、撥液性インキを用いて印刷した絵柄層の上に設けたトップコート層をはじかせています。すなわち、撥液性インキを施した部分の上の電子線又は紫外線硬化性樹脂組成物をきれいにはじかせて、絵柄と同調した凹凸を設けることを目的としています。
これに対して、本願請求項1の「凹凸感を有するマット加工印刷物」では、・・・下刷り層の上のオーバーコート層を部分的にはじくことによって、凹凸感のあるマット加工部分としているものであります。・・・(中略)・・・従いまして、上記の本願請求項1の発明に関して、本願の構成は刊行物2?5とは異なるものであり、目的、効果も異なるものであり、刊行物2?5をもってしても、本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものとはいえないと思料いたします。」と主張している。
しかしながら、刊行物2、刊行物3及び刊行物5において形成される凹凸模様は、本願発明や引用発明の模様と異なるものの、下塗り層のインキとして、助剤である撥液剤を使用して、下塗り層と、その上に形成されるオーバーコート層との表面張力の差を利用して、凹凸模様を形成させる技術という点において、刊行物2、刊行物3及び刊行物5に記載の技術は、本願発明、引用発明と変わるものではない。
そして、上記「4(2)ア」で述べている容易想到性の論理は、オーバーコート層の下刷り層と重なる部分が凹凸感のあるマット加工部分に形成される引用発明において、下刷り層の主剤を代えることが容易であるというものであって、引用発明の下塗り層について、刊行物2、刊行物3及び刊行物5に記載される凹凸模様を形成するために、インキ全体を代えることが容易であるというものではない。
よって、刊行物2、刊行物3及び刊行物5の効果の表れである凹凸模様と本願発明や引用発明の凹凸模様の相違は、上記「4(2)ア」の判断を何ら左右しないものである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余のことを検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-16 
結審通知日 2010-02-23 
審決日 2010-03-10 
出願番号 特願2001-388365(P2001-388365)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 正紀大島 祥吾  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 細井 龍史
西川 和子
発明の名称 凹凸感を有するマット加工印刷物およびその加工方法  
代理人 金山 聡  

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