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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1215353
審判番号 不服2008-105  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-04 
確定日 2010-04-22 
事件の表示 特願2003-8152「ヒーターの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年8月5日出願公開、特開2004-220966号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成15年1月16日に出願され、平成19年5月15日付けの拒絶理由に対し同年7月11日付けで手続補正がなされたが、同年12月3日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年12月5日)、これに対し、平成20年1月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年1月30日付けで手続補正がなされたものである。



第2 平成20年1月30日付け手続補正の却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕

平成20年1月30日付けの手続補正を却下する。

〔理 由〕

1.補正後の請求項1に記載された発明

平成20年1月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「加熱面、背面および側面を備える基体および発熱体を備えているヒーターを製造する方法であって、
前記基体の前記背面のエッジ部分から前記側面に向かって、前記加熱面の温度分布を制御するために前記基体の構成材料を除去して材料除去部を形成する材料除去工程を有しており、前記材料除去部が、前記背面からの段差面と、この段差面から前記側面へと向かって形成されている平坦面を備えており、前記平坦面が前記背面に対して平行であり、
前記基体の体積をVaとし、前記基体の表面積をSaとし、前記材料除去部を形成する前の前記基体の体積をVbとし、前記材料除去部を形成する前の前記基体の表面積をSbとしたとき、以下の関係を満足することを特徴とする、ヒーターの製造方法。
Va≦0.998Vb
Sa≦1.001Sb」
と補正された。(以下「本件補正発明」という。下線は当審にて付与(以下同様)。)

請求項1についての上記補正は、補正前の請求項7を引用する請求項10における「材料除去部」が、「前記背面からの段差面と、この段差面から前記側面へと向かって形成されている平坦面を備えており、前記平坦面が前記背面に対して平行」であると限定するものであって、かつ、補正前の請求項10に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。



2.引用例

(1)本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-162620号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。

a.「【発明の属する技術分野】本発明は、セラミック基体中にヒータ電極を埋設してなるセラミックヒーターとその均熱化方法に関するものであり、特に、CVD装置やPVD装置などの成膜装置やエッチング装置に用いられるセラミックヒーターとして好適なものである。」(段落【0001】)

b.「【発明の目的】本発明の目的は、550℃以上の高温に加熱したとしても優れた均熱性を有する信頼性の高いセラミックヒーターを提供するとともに、このようなセラミックヒーターを効率良く製造できるようにすることにある。」(段落【0015】)

c.「【発明が解決しようとする手段】そこで、本発明は上記課題に鑑み、セラミック基体中にヒータ電極を埋設してなるセラミックヒーターであって、上記セラミック基体に部分的に薄肉部を設けることで、加熱した時の発熱表面の温度分布が±1.5%以下となるようにしたものである。
また、本発明は、セラミックヒーターの発熱表面を均熱化する方法として、セラミック基体中にヒータ電極を埋設してなるセラミックヒーターを予め用意し、上記ヒータ電極に通電してセラミックヒーターを発熱させることにより、上記発熱表面の温度分布を温度検出手段によって測定したあと、この発熱表面の温度分布に基づいて温度の低い部分に対応する発熱表面以外の表面を切除してセラミック基体に部分的に薄肉部を形成…し、発熱表面を均熱化するようにしたものである。」(段落【0016】?【0017】)

d.「セラミックヒーター1は、半導体製造工程において半導体ウエハを保持するとともに所定温度に加熱するためのヒーターであって、円盤状をしたセラミック基体2の一主面をウエハの保持面3とし、セラミック基体2の内部に図2(a)に示すような膜状のヒータ電極4を埋設したものである。…。そして、セラミック基体2の保持面3と反対側の底面には給電端子5が接合してあり、ヒータ電極4の端部とそれぞれ電極的に接続されている。」(段落【0020】)

e.「本発明のセラミックヒーター1は、セラミック基体2に部分的な薄肉部Aを有することを特徴とする。
図1においては、セラミック基体2の保持面3と反対側の底面に切欠部6を部分的に形成することでセラミック基体2に薄肉部Aを形成したものであり、このような薄肉部Aを形成することで、セラミックヒーター1の保持面3を均一に発熱させることができる。
即ち、図1のセラミックヒーター1のように膜状のヒータ電極4をセラミック基体2に埋設する場合、従来技術の説明において述べた第1の製法により製造されるのであるが、この製法ではヒータ電極4をなす導電性ペーストを印刷する工程において、印刷機における精度の問題からヒータ電極4の抵抗値に部分的なバラツキができ、発熱表面である保持面3の温度ムラを抑えることができないのであるが、本発明は、このヒータ電極4の抵抗値のバラツキに伴ってセラミック基体2の温度が低くなる箇所に、その温度勾配に応じた深さの切欠部6を設け、セラミック基体2に薄肉部Aを形成するようにしてあることから、その箇所の熱容量を小さくして温度を高めることができる。
その為、セラミックヒーター1を発熱させた時の保持面3の温度分布を、要求されている±1.5%以下とすることが可能となる。
ところで、セラミックヒーター1を均熱化する方法としては、予め切欠部6を形成していない円盤状のセラミックヒーター1を発熱させ、保持面3の温度分布を熱電対やサーモビュアーなどの温度検出手段により測定したあと、その温度分布に基づいて温度の高い箇所のセラミック基体2の底面に樹脂やガムテープなどでマスキングを施し、温度の低い箇所のセラミック基体2の底面にトリミング加工を施して切欠部6を形成したあと、マスギングを取り除けば良い。この切欠部6の形成手段としては、ブラスト加工、マシニング加工、レーザー加工を用いることができ、この中もブラスト加工やマシニング加工は加工精度や仕上がり状態が良いため特に好ましい。」(段落【0023】?【0027】)

また、引用例1に記載された「円盤状をしたセラミック基体2」は、図1より、側面を備えたものであることは明らかであるとともに、底面に形成された「切欠部6」は、底面からの段差面を備えているものと言える。
さらに、引用例1に記載された「セラミック基体2」は、「表面を切除して切欠部6を形成」しており、図1(b),(c)の記載から、その体積をVa、表面積をSaとし、切欠部6を形成する前のセラミック基体2の体積をVb、表面積をSbとすると、Va<Vb、Sa>Sbであることは明らかである。

したがって、上記記載事項及び図1、2を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「発熱表面であるウエハ保持面3、底面および側面を備える円盤状をしたセラミック基体2およびヒータ電極4を備えているセラミックヒーターを製造する方法であって、
セラミック基体2の底面に、加熱した時の発熱表面の温度分布が±1.5%以下となるようにするために、セラミック基体2の表面を切除して切欠部6を形成する工程を有しており、切欠部6が、底面からの段差面を備えており、
セラミック基体2の体積をVaとし、セラミック基体2の表面積をSaとし、切欠部6を形成する前のセラミック基体2の体積をVbとし、切欠部6を形成する前のセラミック基体2の表面積をSbとしたとき、Va<VbおよびSa>Sbの関係を満足する、セラミックヒーターの製造方法。」
(以下「引用発明1」という。)


(2)本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-198302号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。

f.「【発明の属する技術分野】本発明は、半導体製品の製造時や検査時に用いられるホットプレートに関し、とくにセラミック基板の構造に特徴をもつものについての提案である。」(段落【0001】)

g.「本発明の目的は、セラミック基板の作業面、即ちウエハ加熱面の温度分布を均一にするのに有効で、しかも昇温・降温時の応答に優れる半導体製造・検査装置用ホットプレートを提供することにある。」(段落【0006】)

h.「本発明はまた、窒化物セラミック、炭化物セラミックまたは酸化物セラミックからなる円板状の絶縁性セラミック基板の表面もしくは内部に、抵抗発熱体を設けてなるホットプレートにおいて、前記基板の少なくともいずれか一方の表面における外周寄りに、熱調整溝を設けたことを特徴とする半導体製造・検査装置用ホットプレートである。
なお、本発明において、前記熱調整溝は、基板の厚さを外周縁に向けて漸次に薄くするか、1または複数の同心環状の溝にて構成することが好ましい。」(段落【0008】?【0009】)

i.「【発明の実施の形態】本発明にかかる半導体製造・検査装置用ホットプレートの特徴は、セラミック基板の構造を、中央部の熱容量よりもその外まわりの外周近傍の熱容量の方が、相対的に小さくなるようにして熱の応答性を良くしたことにある。基板の構造をこのような構成にした理由は、例えば、円板状のセラミック基板の表面または内部に同心円状の発熱体を形成した場合、本来なら板面全体に均一な温度分布が得られる筈であるが、実際には、外側の部分において低い不均一な温度分布になるので、これを防止するために有効と考えられるからである。
すなわち、従来のように、前記基板が全体に均等な厚さを有する場合では、該基板の外周部近傍の部分は、中心部に比べると放熱量が大きく、温度低下しやすい傾向がある。それ故にもし、板面全体に均一な給電加熱を施したとしたら、外周部近傍部分の放熱量が大きい分だけ、この部分の温度が中心部の温度よりも低下し、これが基板加熱面における不均一な温度分布となって現われるのである。その結果、ウエハの加熱乾燥が外側部分において不完全となって種々のトラブルを招くのである。
そこで、この発明では、セラミック基板の外周寄りの部分を、上述した放熱量に相当する分だけむしろ、予め熱容量が小さくなるような形状にしておくことで、放熱量の低下とともに発熱体からの加熱エネルギーが迅速に伝達するようにして、測温素子と発熱体とによる温度制御特性を上げるようにした。このことによって、基板はその全加熱面が均一にしかも、そのような温度分布を早期に確実に実現できるようになる。
そのための構成として、本発明では、前記セラミック基板の少なくともいずれか一方の面、即ち、加熱側の表面、もしくはその反対側の面に、基板外周近傍の熱容量の低下をもたらすような熱調整溝を設けるようにしたのである。こうした熱調整溝の具体的な形状としては、次のようなものが適用可能である。
1) 図1(a)に示すように、基板1の外周寄りを欠設して段差(熱調整溝1a)を設けて基板の厚みを漸次に薄くする。
2) 図1(b)、(c)に示すように、基板1の下面(b)もしくは上面(c)に、同心環状の1?複数個の熱調整溝1・・・を設ける。…。
上記熱調整溝1bは、セラミック焼成体から直接削り出して形成してもよい…。このような調整溝1bは、複数の環状溝を形成するときは、板厚が2.0?5.0mm程度のもので、幅2.0?3.0mm、深さ1.0mm?2.0mm程度とすることが好ましく、単に薄肉化するときだけは、削り出し深さ1.0?1.5mm程度の深さ(肉厚残4.0?1.5mm)を目標にして成形する。」(段落【0010】?【0014】)

また、図1(a)には、熱調整溝1aが、表面からの段差と、段差から外周縁に向けて平坦な面を備えることが記載されている。

すると、引用例2の上記記載事項及び図面を総合すると、引用例2には次の発明が記載されている。

「ウエハ加熱面、その反対側の面および外周縁を備えるセラミック基板および抵抗発熱体を備えているホットプレートを製造する方法であって、
セラミック基板のウエハ加熱面の反対側の面の外周寄りから外周縁に向けて、放熱量に相当する分だけ熱容量が小さくなるような形状にしてウエハ加熱面の温度分布を均一にするように、セラミック基板を欠設して熱調整溝1aを設ける工程を有しており、熱調整溝1aが、表面からの段差と、この段差から外周縁に向けて漸次に薄くされた平坦面を備えた、ホットプレートの製造方法。」
(以下「引用発明2」という。)



3.対比

本件補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「発熱表面であるウエハ保持面3」は、本件補正発明における「加熱面」に相当し、以下同様に、
「底面」は「背面」に、
「セラミック基体2」は「基体」に、
「ヒータ電極4」は「発熱体」に、
「セラミックヒーター」は「ヒーター」に、
「加熱した時の発熱表面の温度分布が±1.5%以下となるようにする」は「加熱面の温度分布を制御する」に、
「セラミック基体2の表面を切除して」は「基体の構成材料を除去して」に、
「切欠部6」は「材料除去部」に、
「セラミック基体2の表面を切除して切欠部6を形成する工程」は「基体の構成材料を除去して材料除去部を形成する材料除去工程」に、
それぞれ相当している。
また、引用発明1における「Va<Vb」と、本件補正発明における「Va≦0.998Vb」とは、両者が少なくとも「Va<Vb」の範囲にある点において一致している。

すると、本件補正発明と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有するものである。

<一致点>
加熱面、背面および側面を備える基体および発熱体を備えているヒーターを製造する方法であって、
前記基体の前記背面に、前記加熱面の温度分布を制御するために前記基体の構成材料を除去して材料除去部を形成する材料除去工程を有しており、前記材料除去部が、前記背面からの段差面を備えており、
前記基体の体積をVaとし、前記材料除去部を形成する前の前記基体の体積をVbとしたとき、少なくともVa<Vbの関係を満足する、ヒーターの製造方法。

<相違点>
1) 「材料除去部(切欠部6)」が、本件補正発明では、「基体の前記背面のエッジ部分から前記側面に向かって」形成されるとともに、「前記背面からの段差面と、この段差面から前記側面へと向かって形成されている平坦面を備えており、前記平坦面が前記背面に対して平行」であるのに対し、引用発明1では、「セラミック基体2の底面(背面)に」形成され「底面(背面)からの段差面を備えて」いるものの、「背面のエッジ部分から側面に向かって」形成されていないとともに、「段差面から前記側面へと向かって形成されている」、「背面に対して平行」な「平坦面」を備えていない点。

2) 基体の体積をVa、基体の表面積をSaとし、材料除去部(切欠部6)を形成する前の基体の体積をVb、材料除去部を形成する前の基体の表面積をSbとしたとき、本件補正発明が「Va≦0.998Vb」および「Sa≦1.001Sb」の関係を満足するのに対し、引用発明1は「Va<Vb」および「Sa>Sb」の関係となっている点。



4.当審の判断

まず、相違点 1) について判断する。

本件補正発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2における「ウエハ加熱面」は、本件補正発明における「加熱面」に相当し、以下同様に、
「(ウエハ加熱面の)反対側の面」は「背面」に、
「外周縁」は「側面」に、
「セラミック基板」は「基体」に、
「抵抗発熱体」は「発熱体」に、
「ホットプレート」は「ヒーター」に、
「ウエハ加熱面の反対側の面の外周寄り」は「背面のエッジ部分」に、
「ウエハ加熱面の温度分布を均一にするように」は「加熱面の温度分布を制御するために」に、
「セラミック基板を欠設して熱調整溝1aを設ける工程」は「基体の構成材料を除去して材料除去部を形成する材料除去工程」に、
「熱調整溝1a」は「材料除去部」に、
「段差」は「段差面」に、
「段差から外周縁に向けて漸次に薄くされた平坦面」は「段差面から前記側面へと向かって形成されている平坦面」に、
それぞれ相当している。

したがって、引用発明2を本件補正発明の用語を用いて記載すると、次のようになる。
「加熱面、背面および側面を備える基体および発熱体を備えているヒーターを製造する方法であって、
前記基体の前記背面のエッジ部分から前記側面に向かって、放熱量に相当する分だけ熱容量が小さくなるような形状にして、前記加熱面の温度分布を制御するために前記基体の構成材料を除去して材料除去部を形成する材料除去工程を有しており、前記材料除去部が、前記背面からの段差面と、この段差面から前記側面へと向かって形成されている、漸次に薄くされた平坦面を備えたヒーターの製造方法。」

ここで、引用発明2の「材料除去部(熱調整溝1a)」が備える「漸次に薄くされた平坦面」について、「漸次」とは一般に「次第に」の意味である(三省堂国語辞典第四版参照)ところ、引用例2の図1(a)には、該平坦面が、基体(セラミック基板)の背面(ウエハ加熱面の反対側の面)に対し略平行とされたものが図示されている。
また、引用例2の図1(b),(c)には、上記引用発明2の「材料除去部(熱調整溝1a)」とは別の実施例ではあるが、材料除去部としての「熱調整溝1b」の底面が、平坦に形成されるとともに、ウエハ加熱面の反対側の面(背面)に対し、略平行とされることが図示されている。

一方、円盤状セラミックスヒーターの技術分野において、ウエハー加熱面の均熱化を図るために、ヒーター周縁部の材料を研削等によって除去し、ヒーター周縁部の表面積すなわち熱放射面積を小さくしてヒーター側方への熱損失を抑えることは、従来より周知の技術である。(例えば、特開平4-87180号公報の公報第3頁右上欄第8?13行、第4頁左下欄第7?13行、第1?5図参照)。
したがって、「優れた均熱性を有する信頼性の高いセラミックヒーターを提供する」(摘記事項b参照)という課題を有する引用発明1に、上記周知技術を適用することに格別の困難性はなく、このとき、材料除去部の形状として、引用発明2の、「背面からの段差面と、この段差面から前記側面へと向かって形成されている平坦面を備えた」形状を採用することは、当業者であれば容易に想到し得るものであり、かつ、その際に、該「段差面から前記側面へと向かって形成されている平坦面」を、引用例2の図1(a)?(c)の図示内容に鑑み、「背面に対し略平行」とすることも、当業者が適宜為し得る設計的事項に過ぎない。


次に、相違点 2) について判断する。

まず、本件補正発明の相違点 2) に係る発明特定事項のうち、「基体の体積をVa」とし、「前記材料除去部を形成する前の前記基体の体積をVb」としたとき、「Va≦0.998Vb」の関係を満足する、との発明特定事項の技術的意義について検討する。
本願の発明の詳細な説明には、「Va≦0.998Vb」につき「このように材料除去部の容積を大きくすることで、基体の熱容量を材料除去部の周辺において低減できるので、加熱面の操作に好適である。この観点からは、VaはVbの0.990倍以下であることが特に好ましい。」(段落【0029】)と記載されていることから、本件補正発明における「Va≦0.998Vb」との発明特定事項は、「基体の熱容量を低減できる程度に材料除去部の容積を大きくする」との技術的思想を実現するためのものであると解される。
そして、「Va≦0.998Vb」との数値範囲における「0.998」との値の選択の根拠については、本願の発明の詳細な説明には何ら記載がない。

そうすると、引用発明1は、「セラミック基体2の温度が低くなる箇所に、その温度勾配に応じた深さの切欠部6(材料除去部)を設け、…その箇所の熱容量を小さくして温度を高めることができる」(摘記事項e参照)ものであり、引用発明2は、「セラミック基板の外周寄りの部分を、…放熱量に相当する分だけ…予め熱容量が小さくなるような形状にしておくことで、放熱量の低下とともに発熱体からの加熱エネルギーが迅速に伝達する」(摘記事項i参照)ようにしたものであるから、引用発明1及び引用発明2は、本件補正発明が「Va≦0.998Vb」との発明特定事項により実現しようとする、「基体の熱容量を低減できる程度に材料除去部の容積を大きくする」との技術的思想を、共に実現しているものであることは明らかである。
そして、熱容量を低減できる程度に、十分に「材料除去部の容積を大きく」する必要性から、材料除去部を、基体の体積の0.2%程度以上とすることは、技術常識に照らして当然であるとともに、その下限値として「基体の体積の0.2%」を選択することについても、格別の困難性は見出せず、当業者が適宜採用し得る設計的事項であると解されるから、本件補正発明において、「Va≦0.998Vb」の関係を満足するようにした点は、引用発明1及び引用発明2に基づき、当業者が容易に為し得たものである。

次に、同じく本件補正発明の相違点 2) に係る発明特定事項のうち、「基体の表面積をSa」とし、「前記材料除去部を形成する前の前記基体の表面積をSb」としたとき、「Sa≦1.001Sb」の関係を満足する、と発明特定事項の技術的意義について検討する。
本願の発明の詳細な説明には、「Sa≦1.001Sb」につき、「材料除去部形成後の基体の表面積が増大すると、材料除去部周辺からの熱輻射量が大きくなり、このために基体の熱容量の低減を相殺する傾向がある。このため、材料除去部形成後の基体の表面積の増大量は小さいことが好ましい。」(段落【0030】)と記載されていることから、本件補正発明における「Sa≦1.001Sb」との発明特定事項は、「基体の熱容量の低減を相殺するほど熱輻射量が大きくならないように、基体の表面積の増大量を小さくする」との技術的思想を実現するためのものであると解される。(なお、三省堂国語辞典第四版には、「輻射」について「(2)「放射」の古い呼び名。「輻射熱(→放射熱)」」と記載されている。)
そして、「Sa≦1.001Sb」との数値範囲における「1.001」との値の選択の根拠について、本願の発明の詳細な説明には何ら記載がない。

一方、円盤状セラミックスヒーターの技術分野において、ヒーター周縁部の表面積すなわち熱放射面積を小さくしてヒーター側方への熱損失を抑えることは、従来より周知の技術である(例えば、上記した特開平4-87180号公報の公報第4頁左下欄第7?13行参照)。
そして、引用発明2は、「セラミック基板の加熱側の反対側の面の外周寄りから外周縁に向けて、放熱量に相当する分だけ熱容量が小さくなる」ように「熱調整溝1a(材料除去部)」を設けたものであるから、熱調整溝1a(材料除去部)を形成するとき、上記周知技術に鑑みて、表面積が増大して放熱量が大きくならないように留意することは、当業者であれば当然に為し得る技術的事項であると言える。
したがって、引用発明1に引用発明2を組み合わせるに際して、上記周知技術を参照し、材料除去部の形成による基体の熱容量の低減を相殺するほど熱輻射量が大きくならないように、基体の表面積の増大量を小さくすることは、当業者であれば容易に想到し得るものであって、また、そのような「基体の熱容量の低減を相殺するほど熱輻射量が大きくならないように、基体の表面積の増大量を小さくする」ための上限値として、基体の表面積の0.1%を選択することについても、格別の困難性は見出せず、当業者が適宜採用し得る程度の設計的事項であると解される。
よって、本件補正発明において、「Sa≦1.001Sb」の関係を満足するようにした点は、引用発明1及び引用発明2、及び周知技術に基づき、当業者が容易に為し得たものである。


そして、本件補正発明が奏する作用効果についてみても、引用発明1、引用発明2、及び周知技術から、当業者が予測し得る程度のものである。

なお、請求人は、本件補正発明の相違点 1) に係る発明特定事項である、「材料除去部」を「背面からの段差面と、この段差面から前記側面へと向かって形成されている平坦面を備えており、前記平坦面が前記背面に対して平行」とすることの効果について、「材料除去部6Cを形成…した後に、(a)表面積が変化」せず、「材料除去部形成の効果は、(b)肉厚変化による熱容量の低下の寄与に絞られ」るため、「材料除去部を形成することによるコールドスポットの低減効果はゆるやか」かつ「リニアとなり」、「材料除去部を形成した後の加熱面の周方向の温度変化が予測容易であり、制御方法として実用的である」とともに、「コールドスポット以外の部分への熱伝導による予期せざる影響が少ない」旨を主張している(審判請求書の請求の理由に対する平成20年3月14日付け手続補正書の第3頁第3?8行参照)。
しかしながら、図9(a)、(b)を参照すれば明らかなように、材料除去部6Cの形成前後で表面積が変化しないのは、材料除去部6C形成後の段差面10の面積と、材料除去部6C形成前の側面2cにおける、材料除去部6Cとして除去される部分の面積とが等しいときに限られるから、本件補正発明における「(材料除去部の)平坦面が背面に対して平行」との限定のみでは、材料除去部6Cの形成後に、必ず「表面積が変化しない」と言うことはできない。
また、本件補正発明は、「Sa≦1.001Sb」の関係を満足すればよいのであるから、Sa=Sb以外のもの、すなわち表面積が変化するものを含むものである。
したがって、請求人の上記主張は、本件補正発明が必ず奏するとは限らない効果についての主張であるから、採用できない。

また、本件補正発明の相違点 2) に係る発明特定事項である、「Va≦0.998Vb」および「Sa≦1.001Sb」について、請求人は「本発明は、(Va≦0.998Vb)および(Sa≦1.001Sb)という関係式を満足するように、極めて微細な材料除去部を設けることで、加熱面の温度分布を上述のように微調整するもの」であると主張している(審判請求書の請求の理由に対する平成20年3月14日付け手続補正書の第2頁第30?32行参照)。
しかしながら、「Va≦0.998Vb」および「Sa≦1.001Sb」との数値限定は、どちらもその下限値が設定されておらず、大幅な表面積の減少を伴う大きな材料除去部を設けることを排除していないのであるから、「極めて微細な材料除去部を設けることで、加熱面の温度分布を微調整する」との上記主張も、採用できない。



5.結び

以上のとおり、本件補正発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定する要件を満たさないものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。




第3 本願発明について

1.本願発明

平成20年1月30日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成19年7月11日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「加熱面、背面および側面を備える基体および発熱体を備えているヒーターであって、
前記基体の前記背面のエッジ部分から前記側面に向かって、前記加熱面の温度分布を制御するために、前記基体の構成材料の除去により形成された材料除去部が設けられていることを特徴とする、ヒーター。」
(以下「本願発明」という。)



2.引用例

本願の出願前に頒布され、原査定における拒絶の理由に引用された引用例1(特開平11-162620号公報)に記載された事項は、前記「第2〔理由〕2.(1)」に記載したとおりであるから、引用例1には、次の発明が記載されている。

「発熱表面であるウエハ保持面3、底面および側面を備える円盤状をしたセラミック基体2およびヒータ電極4を備えているセラミックヒーターであって、
セラミック基体2の底面に、加熱した時の発熱表面の温度分布が±1.5%以下となるようにするために、セラミック基体2の表面を切除して切欠部6を形成した、セラミックヒーター。」
(以下「引用発明1’」という。)



3.対比

本願発明と引用発明1’とを対比すると、次の点でのみ相違し、それ以外の点では一致している。

<相違点>
「材料除去部(切欠部6)」が、本願発明では、「基体の前記背面のエッジ部分から前記側面に向かって」形成されているのに対し、引用発明1’では、「セラミック基体2の底面(背面)に」形成されているものの、「背面のエッジ部分から側面に向かって」形成されていない点。



4.判断

円盤状セラミックスヒーターの技術分野において、ウエハー加熱面の均熱化を図るために、基体背面のエッジ部分から側面に向かって材料を除去し、ヒーターエッジ部分の表面積すなわち熱輻射(熱放射)面積を小さくしてヒーター側方への熱損失を抑えることは、従来より周知の技術である。(例えば、前記「第2〔理由〕2.(2)」において挙げた引用例2(特開2002-198302号公報)の図1(a)、あるいは、前記「第2〔理由〕4.」において挙げた特開平4-87180号公報の第3?5図等参照。)

したがって、「優れた均熱性を有する信頼性の高いセラミックヒーターを提供する」(摘記事項b参照)という課題を有する引用発明1’に、上記周知技術を適用し、材料除去部を「背面のエッジ部分から側面に向かって」形成するものとして、本願発明の上記相違点に係る点を備えさせることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明が奏する作用効果についてみても、引用発明1’及び周知技術から、当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。

よって、本願発明は、引用発明1’及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



5.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明1’及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-22 
結審通知日 2010-02-23 
審決日 2010-03-09 
出願番号 特願2003-8152(P2003-8152)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 渋谷 知子
佐野 遵
発明の名称 ヒーターの製造方法  
代理人 細田 益稔  
代理人 青木 純雄  

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