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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F28D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28D
管理番号 1215358
審判番号 不服2008-3487  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-14 
確定日 2010-04-22 
事件の表示 特願2002-45311号「ヒートパイプ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年9月5日出願公開、特開2003-247791号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成14年2月21日の特許出願であって、平成20年1月10日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年1月15日)、これに対し、同年2月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年3月17日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成20年3月17日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年3月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前に
「気密状態に密閉されたヒートパイプコンテナの内部に、多数本の溝がパイプ長さ方向に平行あるいは螺旋状に形成され、かつそのヒートパイプコンテナの内部に凝縮性の作動流体を封入したヒートパイプにおいて、
前記ヒートパイプコンテナの内面に沿わせて複数の線条体が前記ヒートパイプコンテナの長手方向に沿って配置されていることを特徴とするヒートパイプ。」
とあったものを
「気密状態に密閉されたパイプの内部に、多数本の溝が前記パイプの長さ方向に平行に形成され、かつそのパイプの内部に凝縮性の作動流体を封入したヒートパイプにおいて、
多数の極細線が、前記パイプの内壁面の全体に、前記パイプの長手方向に向けて添わされ、かつそれらの極細線がスパイラル状の押し付け部材によって前記パイプの内面に押し付けられていることを特徴とするヒートパイプ。」(下線は当審にて付与。以下、同様。)と補正することを含むものである。

上記補正について検討する。
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1において、「ヒートパイプコンテナの内部」とあったものを「パイプの内部」とするとともに、「ヒートパイプコンテナの内面に沿わせて複数の線条体がヒートパイプコンテナの長手方向に沿って配置されていること」とあったものを「多数の極細線が、前記パイプの内壁面の全体に、前記パイプの長手方向に向けて添わされ、かつそれらの極細線がスパイラル状の押し付け部材によって前記パイプの内面に押し付けられていること」と限定することを含むものであり、かつ、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて検討する。

(2)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭61-36694号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
a)「2.特許請求の範囲
(1)ヒートパイプ容器の内面に容器と一体に軸方向に延びる溝が形成され、その内側に網、繊維束、焼結金属などの多孔性または細孔性のウイツクが配置された複合ウイツクヒートパイプにおいて、冷却部の内面の少なくとも一部をグルーブウイツクのみにしたことを特徴とする複合ウイツクヒートパイプ。」(第1頁左下欄第3行ないし同第10行)
b)「〔産業上の利用分野〕
本発明はヒートパイプ、特に複合ウイツクヒートパイプに関するものである。
〔従来の技術〕
パイプ状の容器内を脱気し、その内部に内容積の数?数十パーセントの量の蒸発性液体を作動液として封入し、さらに作動液の環流を促進するため、容器内壁には金網等の多孔性または細孔状の物質がウイツクとして配置されている、いわゆるヒートパイプは、各種技術分野で利用されている。中でも、グルーブと、網、繊維束、焼結金属などの多孔性のウイツク材を用いた、いわゆる複合ウイツクタイプのものは、グルーブウイツクの小さな圧力損失と、他のウイツク材の大きな手(「毛」の誤記と考えられる。)細管圧力とが組み合わさつたことにより、トツプヒートで傾き角、熱輸送量が共に大きいという長所がある。
しかしながら、網等のウイツク材が介在していることにより、特に冷却部(凝縮部)の熱抵抗が大きく、ヒートパイプ全体の熱抵抗は、グルーブウイツクヒートパイプの2?4倍程度にもなるという欠点がある。
〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明の目的は、前記した従来技術の欠点を解消し、トツプヒートで熱輸送量が大きく、しかも熱抵抗は小さい、改良された複合ウイツクヒートパイプを提供することにある。」(第1頁左下欄第14行ないし同右下欄第20行)
c)「〔実施例〕
第1図は本発明による複合ウイツクヒートパイプの一実施例を示す。
ヒートパイプ容器1の内面には、軸方向に延びるグルーブ2が容器1と一体に形成されている。しかしてこのグルーブ2の内面には冷却部(凝縮部)5を除いて金網3が巻き付けられている。
具体例として、容器1は銅製で、外径15.9mm、底肉厚1.2mm、長さ400mmであり、加熱部4、冷却部5の長さは夫々100mmとした。グルーブ2は溝幅0.4mm、溝深さ0.6mm、溝数36である。また金網3はメツシユNo.100の銅製スクリーンメツシユを二層巻きしたものである。
尚、図示はしないが、金網3の内側には、金網3とグルーブ2との密着を良くするために、銅製のコイルバネが挿入してある。
作動液は、純水を8ml封入した。これはウイツク全体を作動液が満たす量より僅かに多い量である。
以上のような構成において、その動作は次の通りである。
加熱部4を加熱すると、ウイツク内の作動液は沸騰して蒸気になり、高速で冷却部5へ移動する。冷却部5で蒸気はグルーブ2の壁面に凝縮し、液体に戻ると共に、熱を放出する。しかして凝縮した液は、グルーブ2の毛細管力により金網の端部3′に到達する。金網端部3′からは金網の強い毛細管力により作動液は加熱部へ戻り、再び沸騰して蒸気となつて同様の動作を繰り返す。このように作動液が沸騰、蒸気の移動、凝縮、液の環流を繰り返すことにより、加熱部4から冷却部5に熱が高速で移動し、ヒートパイプとして動作することになる。」(第2頁左上欄第5行ないし同右上欄第17行)
d)「前記実施例は、グルーブの内面に配置して大きい毛細管力を得るためのウイツク材として金網を用いたが、これは金属繊維束や多孔性の焼結金属などであつてもよい。
また、例えば金網のウイツクは、冷却部を除く全面にあることに限定する必要はなく、金属端部3′が冷却部内の途中まで延びていてもよく、逆に断熱部6の途中に金網端部3′がくるような配置でもよい。」(第2頁右下欄第6行ないし第3頁左上欄第1行)
e)「〔発明の効果〕
以上のように、本発明によれば、最大熱輸送量は従来の複合ウイツクヒートパイプ並みに大きく、また熱抵抗もグルーブウイツクヒートパイプ並みに小さいヒートパイプを得ることができる利点がある。」(第3頁左上欄第9行ないし第14行)
f)上記摘記事項cの記載によると、「金網3の内側には、金網3とグルーブ2との密着を良くするために、銅製のコイルバネが挿入して」あり、さらに、上記摘記事項dにより、ウイツク材として金網に換えて金属繊維束を用いたものは、金属繊維束の内側にコイルバネを挿入したものとなることは明らかである。

上記記載事項及び図面の記載内容を総合勘案すると、刊行物には、次の発明が記載されている。
「トップヒートでの熱輸送量を大きくすることを目的として、
ヒートパイプ容器1の内面には、溝数36のグルーブ2が軸方向に延びて容器1と一体に形成され、作動液を封入した複合ウイツクヒートパイプにおいて、
ウイツク材としての金属繊維束を冷却部を除くグルーブの内面に配置し、ウイツク材としての金属繊維束の内側にコイルバネを挿入した複合ウイツクヒートパイプ。」

(3)対比
本件補正発明と刊行物に記載された発明とを対比する。
刊行物に記載された発明の「ヒートパイプ容器1」は、その構成および機能からみて、本件補正発明の「気密状態に密閉されたパイプ」に相当し、以下、同様に、
「内面」は「内部」に、
「溝数36のグルーブ2」は「多数本の溝」に、
「軸方向に延びて容器1と一体に形成され」ることは「パイプの長さ方向に平行に形成され」ることに、
「作動液を封入」することは「凝縮性の作動流体を封入」することに、
「複合ウイツクヒートポイプ」は「ヒートパイプ」に、
「ウイツク材としての金属繊維束」は「多数の極細線」に、
「ウイツク材としての金属繊維束の内側にコイルバネを挿入」することは「極細線がスパイラル状の押し付け部材によってパイプの内面に押し付けられていること」に、
それぞれ相当する。
そして、刊行物に記載された発明の「冷却部を除くグルーブの内面に配置」することと本件補正発明の「パイプの内壁面の全体に、パイプの長手方向に向けて添わされ」ることとは、「パイプの内壁面に添わされ」る点で共通する。

したがって、上記両者の一致点および相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「気密状態に密閉されたパイプの内部に、多数本の溝が前記パイプの長さ方向に平行に形成され、かつそのパイプの内部に凝縮性の作動流体を封入したヒートパイプにおいて、
多数の極細線が、前記パイプの内壁面に添わされ、かつそれらの極細線がスパイラル状の押し付け部材によって前記パイプの内面に押し付けられているヒートパイプ。」

[相違点]
多数の極細線が、本件補正発明では、パイプの内壁面の全体に、パイプの長手方向に向けて添わされているのに対して、刊行物に記載された発明では、冷却部を除くグルーブの内面に配置されている点。

(4)当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
ヒートパイプの技術分野において、多数の極細線をパイプの内壁面の全体に、パイプの長手方向に向けて添わして配置し、かつ、多数の極細線をスパイラル条の押し付け部材によってパイプの内面に押し付けることにより、熱輸送能力を向上させることは、本願出願前周知の技術事項である(例えば、刊行物の摘記事項bや特開平9-273882号公報の段落【0013】、【0024】や特開2000-146472号公報の段落【0017】、【0025】や特開平4-9595号公報参照。)。
そして、刊行物に記載された発明も、トップヒートでの熱輸送量を大きくすることを目的とするものであり、熱輸送量を向上させる必要性の程度に応じて、同一の技術分野に属し、熱輸送能力を向上させるという効果を奏する上記周知の技術事項を適用して、上記相違点における本件補正発明が具備する発明特定事項に到達することは、当業者が容易になし得たものである。
また、本件補正発明の奏する効果についてみても、刊行物に記載された発明および周知の技術事項から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。
したがって、本件補正発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものである。
ゆえに、本件補正発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成20年3月17日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年8月27日付けで手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「気密状態に密閉されたヒートパイプコンテナの内部に、多数本の溝がパイプ長さ方向に平行あるいは螺旋状に形成され、かつそのヒートパイプコンテナの内部に凝縮性の作動流体を封入したヒートパイプにおいて、
前記ヒートパイプコンテナの内面に沿わせて複数の線条体が前記ヒートパイプコンテナの長手方向に沿って配置されていることを特徴とするヒートパイプ。」

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物、刊行物の記載事項、及び、刊行物に記載された発明は、前記「2[理由](2)刊行物に記載された発明」に記載したとおりである。

(3)対比および判断
本願発明は、前記「2[理由]」で検討した本件補正発明において、「多数の極細線が、前記パイプの内壁面の全体に、前記パイプの長手方向に向けて添わされ、かつそれらの極細線がスパイラル状の押し付け部材によって前記パイプの内面に押し付けられていること」とあったものを「ヒートパイプコンテナの内面に沿わせて複数の線条体がヒートパイプコンテナの長手方向に沿って配置されていること」とその限定を省くとともに、「パイプの内部」とあったものを「ヒートパイプの内部」とするものである。
そうすると、本願発明の構成要件の全てを含む本件補正発明が前記「2[理由](3)対比および(4)当審の判断」に示したとおり、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物に記載された発明および周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-19 
結審通知日 2010-02-23 
審決日 2010-03-08 
出願番号 特願2002-45311(P2002-45311)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F28D)
P 1 8・ 575- Z (F28D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川上 佳河野 俊二  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 清水 富夫
長崎 洋一
発明の名称 ヒートパイプ  
代理人 渡邉 丈夫  

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