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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E06B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E06B
管理番号 1215368
審判番号 不服2008-14995  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-13 
確定日 2010-04-22 
事件の表示 特願2003-290177「シャッター装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年3月10日出願公開,特開2005-60967〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成15年8月8日の出願であって,平成20年5月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年6月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,その後,当審において,平成21年8月10日付けで審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年10月15日付けで回答書が提出されたものである。



第2.平成20年6月13日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年6月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
【1】補正後の本願発明
平成20年6月13日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりに補正された。
「上下方向へ開閉移動可能となったシャッターカーテンと、このシャッターカーテンの開閉移動のため前記シャッターカーテンを巻き取り、繰り出す回転を行う巻取体と、前記シャッターカーテンの下方への繰り出し時における前記巻取体の回転によって戻し弾性力が蓄圧され、この蓄圧された戻し弾性力を前記シャッターカーテンの巻き取り時の前記巻取体に付与する戻し弾性部材と、を有しているシャッター装置において、
この戻し弾性部材の前記戻し弾性力による前記巻取体回りのトルクが、前記シャッターカーテンの開閉移動範囲の全部、又は全閉位置から全開位置よりも少し低い位置までの前記シャッターカーテンの開閉移動範囲の略全部について、前記シャッターカーテンの自重に基づく下方への閉鎖移動力による前記巻取体回りのトルクよりも小さくなっており、
前記シャッターカーテンは、カーテン本体と、このカーテン本体の閉じ側の先端に設けられたエンド部材とを含んで構成され、前記カーテン本体の全部又は主要部は可撓性を有しかつ軽い材料となっているスクリーンで形成され、
前記戻し弾性力による前記巻取体回りのトルクは、前記シャッターカーテンの自重から前記エンド部材の重量を差し引いたエンド部材除外シャッターカーテン自重に基づく下方への閉鎖移動力による前記巻取体回りのトルクよりも大きくなっており、
前記シャッターカーテンの前記開閉移動方向と直交するカーテン幅方向の両端部は左右一対のガイドレールにスライド自在に挿入されていて、このシャッターカーテンの前記上下方向への開閉移動はこれらのガイドレールで案内され、
前記シャッターカーテンの自重に基づく下方への閉鎖移動力による前記巻取体回りのトルクは、前記戻し弾性部材の前記戻し弾性力による前記巻取体回りのトルクに、前記シャッターカーテンが閉鎖移動するときに前記左右一対のガイドレールで生ずる抵抗力によるトルクを加えた値よりも大きくなっており、
前記シャッターカーテンは、このシャッターカーテンに設けられている把持部材を把持することによって全閉位置から持ち上げ可能となっているとともに、この持ち上げ後に前記把持部材から手を離すことにより前記シャッターカーテンはこのシャッターカーテンの前記自重で前記全閉位置に復帰可能となっており、
前記シャッターカーテンの下を通過するためにこのシャッターカーテンを持ち上げるために必要な力は50N以下であることを特徴とするシャッター装置。」

上記補正は,本件補正前(平成20年4月7日付けの手続補正書を参照。)の請求項1に係る発明において,「シャッターカーテン」について,カーテン本体の全部又は主要部を形成するスクリーンが「軽い材料となっている」と限定し,上下方向への開閉移動が「シャッターカーテンの開閉移動方向と直交するカーテン幅方向の両端部は左右一対のガイドレールにスライド自在に挿入されていて…これらのガイドレールで案内され」ると限定し,全閉位置からの持ち上げ或いは全閉位置への復帰が「シャッターカーテンに設けられている把持部材」を把持し或いはそれから手を離すことによって可能となる旨限定し,また,「シャッターカーテンの自重に基づく下方への閉鎖移動力による巻取体回りのトルク」について,「戻し弾性部材の戻し弾性力による巻取体回りのトルクに、シャッターカーテンが閉鎖移動するときに左右一対のガイドレールで生ずる抵抗力によるトルクを加えた値よりも大きくなっており」と限定し,さらに,「シャッターカーテンの下を通過するためにこのシャッターカーテンを持ち上げるために必要な力は50N以下である」と限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。


【2】刊行物及びその記載内容
刊行物1:特開2001-40966号公報
刊行物2:特開平11-47293号公報

(1)原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された上記刊行物1には,「巻取り装置」に関して,図面とともに,次のことが記載されている。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、いわゆるローラースクリーン、ローラーシャッター等の開口部等を開閉する装置に適用される巻取り装置に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、スクリーン、シャッター等の開閉部材を開閉する際に要する操作力の軽減を図った、特にローラーシャッターに有効な巻取り装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】窓枠や車庫出入り口等の開口部等に取り付けられる開閉装置として、ローラースクリーン、ローラーシャッター等と称される装置が知られている。これらの装置では、開口部等を開閉するスクリーン、シャッター等の開閉部材が筒体に巻き取られ、また、ここから引き出されるようになっている。このような開閉部材の巻取り及び引出しを実現するために、ローラースクリーン、ローラーシャッター等には巻取り装置が組み込まれている。

【0005】
開閉部材が比較的軽量のシャッターやスクリーン等の場合には、巻取り装置にはプーリー駆動方式がしばしば採用される。このプーリー駆動方式では、操作紐を手動により操作し、プーリーを回転させ、これに連動させて筒体を回転させる。しかしながら、プーリー駆動方式には、開閉部材を上げ下げする際の操作力に変動が激しいという欠点がある。これは、開閉部材が筒体に巻き取られる、又は引き出される際のモーメントが一定ではないことに起因し、開閉部材のモーメントに見合った操作力を加えなければならないことにも起因している。

【0007】
この出願の発明は、…従来の巻取り装置の欠点を解消し、スクリーン、シャッター等の開閉部材を開閉する際に要する操作力の軽減を図った巻取り装置を提供することを目的としている。」
(1b)「【0012】
【発明の実施の形態】図1、図2は、各々、この出願の発明の巻取り装置の一実施形態を示した断面図、要部分解斜視図である。
【0013】例えばこれらの図及び図2に示したように、この出願の発明の巻取り装置では、固定軸(1)の周りを回転可能とされ、スクリーン、シャッター等の開閉部材を巻き取る筒体(2)の内部に、回転不能とされた固定部材(3)と、筒体(2)に連結され、筒体(2)に回転力を伝達する回転力伝達手段(4)が配設される。
【0014】具体的には、図1及び図2に示したように、固定軸(1)は、筒体(2)の一端部に配置することができ、また、固定部材(3)は、筒体(2)よりも径の小さな筒体として筒体(2)の内部に組み込むことができる。この場合、固定軸(1)は支持部(5)に支持させ、この支持部(5)に固定部材(3)をネジ等の固定具(6)を用いて取り付け、回転不能とすることができる。」
(1c)「【0016】この出願の発明の巻取り装置では、また、例えば以上に例示される固定部材(3)と回転力伝達手段(4)が、ねじりコイルバネ(10)によって接続される。
【0017】このねじりコイルバネ(10)は、開閉部材を巻き取り、又は引き出すために筒体(2)を回転力伝達手段(4)を介して回転させる際に、回転力伝達手段(4)の一方向の回転に伴って巻き締められ、トルクを発生する。通常は、ねじりコイルバネ(10)は、開閉部材を引き出すに従って巻き締められ、トルクが上昇するように設定することができる。…」
(1d)「【0018】このように、この出願の発明の巻取り装置では、固定軸(1)の周りを回転可能とされ、スクリーン、シャッター等の開閉部材を巻き取る筒体(2)の内部において、固定軸(1)に固定され、回転不能とされた固定部材(3)と、筒体(2)に連結され、筒体(2)に回転力を伝達する回転力伝達手段(4)が配設され、これら固定部材(3)と回転力伝達手段(4)が、ねじりコイルバネ(10)によって接続されているため、開閉部材を巻き取る又は引き出す際に筒体(2)を回転力伝達手段(4)を介して回転させると、ねじりコイルバネ(10)が巻き締められ、ねじりコイルバネ(10)には図3に示したようなトルク(13)が発生する。このトルク(13)は、開閉部材が巻き取られ、又は引き出される時のモーメント(14)を補完し、バランスをとるように作用する。このため、この出願の発明の巻き取り装置では、回転力伝達手段(4)を介して筒体(2)を回転させるための操作力は、図3に示した開閉部材のモーメント(14)とねじりコイルバネ(10)に発生するトルク(13)の差分で済み、操作力の軽減が図られる。また、筒体(2)を、開閉部材の巻取り又は引出しのために逆方向に回転させると、この場合にも、巻き締められたねじりコイルバネ(10)が発生するトルクにより開閉部材のモーメント(14)が補完され、バランスがとられるため、操作力は軽減される。正逆いずれの回転、すなわち開閉部材の巻取り及び引出しのいずれの操作においても操作力の軽減が図られ、…」
(1e)そして,上記(1b)?(1d)に図1,2とともに記載された巻き取り装置が,窓枠や車庫出入り口等の開口部等に取り付けられる開閉装置としてのシャッター装置(上記(1a)に記載された従来の技術)に組み込まれるものであること,及び,当該シャッター装置が,スクリーン,シャッター等の開閉部材を上下方向に開閉移動させるものであることは,何れも明らかである。

上記(1a)?(1e)の記載及び図面の記載を含む刊行物1全体の記載並びに当業者の技術常識からみて,刊行物1には,次の発明(以下,「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「上下方向へ開閉移動可能となったスクリーン,シャッター等の開閉部材と,この開閉部材の開閉移動のため前記開閉部材を巻き取る又は引き出す筒体(2)と,前記開閉部材の下方へ引き出す際における前記筒体(2)の回転によって巻き締められ,この巻き締めにより発生するトルクにより前記開閉部材が引き出される時のモーメント(14)を補完するねじりコイルバネ(10)と,を有しているシャッター装置。」

(2)同じく,上記刊行物2には,「脱出口を有するシートシャッター」に関して,図面とともに,次のことが記載されている。
(2a)「【0011】
【発明の実施の形態】…図1は、本発明の一実施形態に係るシートシャッターの構成を示す正面断面図、図2は図1におけるA-A断面図、図3は横断面図をそれぞれ示しており、このシートシャッターは火災発生時には耐火シート1,2が開口部両端に配置されたガイドレール3a,3bに沿って下降し、該開口部を閉鎖して炎の延焼を阻止するものである。

【0014】また、前記した広幅耐火シート1が展張されない隙間部分(距離L1の部分)の天井部位にはこの距離L1よりも若干長い短尺シャフト9が設置されており、この短尺シャフト9には狭幅耐火シート2が捲着され、この狭幅耐火シート2の下端部には前記したマグネット11に吸着し得る金属製の短尺座板12が取り付けられている。短尺シャフト9は、後述するように、内部にスプリングが配置されており、該スプリングにより狭幅耐火シート2を常時巻き取り傾向に付勢している。」
(2b)「【0016】図5は短尺シャフト9の構成を示す斜視図、図6は該短尺シャフト9の断面図であり、同図に示されるように、短尺シャフト9の内部にはスプリング13が内臓されており、一定の方向に回転付勢されるようになっている。即ち、図6に示されるように、短尺シャフト9は外筒部16と、この外筒部16内部に配置される内側シャフト17とを有しており、外筒部16の一端は回転軸18に連結され、内側シャフト17の一端は固定軸19に連結されている。そして、この回転軸18は図5に示すように回転側ブラケット14に軸支され、固定軸19は固定側ブラケット15に軸支されている。
【0017】また、内側シャフト17の周囲には弦巻状のスプリング3が配置されており、該スプリング3の一端は固定ピン20により内側シャフト17に固定されている。更に、スプリング3の他端は固定ピン21により筒体22に固定されており、該筒体22は外筒部16に固定されている。そして、内側シャフト17の一端は筒体22内部の軸受部23に軸支されている。従って、狭幅耐火シート2の下降に伴って外筒部16が回転すると、スプリング3の付勢力により外筒部16は巻き取り傾向に付勢されることになる。」
(2c)「【0018】次に、上記の如く構成された本実施形態の作用について説明する。通常時には、狭幅耐火シート2の下端部に取り付けられた短尺座板12は長尺座板10のマグネット11に吸着して固定されているので(図4参照)、広幅耐火シート1と連動して昇降することになる。即ち、開閉機7を回転駆動させて広幅耐火シート1を上昇させると、これに連動して狭幅耐火シート2もまた上昇し、開閉機7を逆方向に回転させて広幅耐火シート1を下降させるとこれに伴って狭幅耐火シート2もまた下降することになる。従って、火災発生時に開閉機7を駆動させて長尺シャフト4を回転させ、広幅耐火シート1を下降させると、マグネット11と短尺座板12との吸着力がスプリング13の付勢力に抗して狭幅耐火シート2が下降することになり、これにより開口部全体を広幅耐火シート1及び狭幅耐火シート2により閉鎖することができ、炎の延焼を防止することができる。」
(2d)「【0019】ここで、人間が避難する際に、各耐火シート1,2により閉鎖された開口部を通過したい場合には、狭幅耐火シート2の下端部に取り付けられた短尺座板12をマグネット11から取り外し、該短尺座板12を持ち上げると、スプリング13の付勢力により狭幅耐火シート2は短尺シャフト9により巻き取られることになるので、この部分が開口されることになり、この開口された隙間を通過することができる。そして、通過した後には、短尺座板12から手を離すとこの重量により短尺座板12は下降し、再度マグネット11に吸着されるのでこの隙間部分を閉鎖することができ、炎の延焼を防止することができるようになる。」
(2e)「【0020】このようにして、本実施形態のシートシャッターにおいては、開口部全体を広幅耐火シート1及び狭幅耐火シート2により閉鎖しており、人間が通過する際には、マグネット11の磁力により吸着された狭幅耐火シート2を長尺座板10から外して上昇させ、この部分を利用して通ることができる。従って、シートシャッターが下降して開口部を閉鎖している状態でも狭幅耐火シート2を巻き上げてこの部分を脱出口とすることにより容易に人間が通過することができるので、たとえ火災発生現場に人間が取り残された場合においても安全且つ迅速に避難することができる。」

上記(2a)?(2e)の記載及び図面の記載を含む刊行物2全体の記載並びに当業者の技術常識からみて,刊行物2には,シートシャッターの脱出口を形成する狭幅耐火シートの開閉機構について,次の発明(以下,「刊行物2記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「シートシャッターの脱出口を形成する狭幅耐火シート2が捲着される短尺シャフト9には,その外筒部16内にスプリング13が内蔵されており,狭幅耐火シート2の下降に伴って外筒部16が回転することにより,スプリング13の付勢力により外筒部16を狭幅耐火シート2の巻き取り傾向に付勢するようになされており,
前記狭幅耐火シート2がガイドレール3bに沿って昇降可能とされており,
狭幅耐火シート2の下端部に取り付けられた短尺座板12を持ち上げると,スプリング13の付勢力により狭幅耐火シート2が短尺シャフト9により巻き取られて脱出口が開口され,前記短尺座板12から手を離すと,この重量により狭幅耐火シート2が当該短尺座板12とともに下降して脱出口が閉鎖されるようになされているシートシャッターの脱出口を形成する狭幅耐火シート2の開閉機構。」


【3】対比・判断
(1)補正発明と刊行物1記載の発明との対比
刊行物1記載の発明の「(スクリーン,シャッター等の)開閉部材」が補正発明の「シャッターカーテン」に相当し,以下同様に,「(巻き取る又は引き出す)筒体(2)」が「(巻き取り、繰り出す回転を行う)巻取体」に相当し,「下方へ引き出す際」が「下方への繰り出し時」に相当し,「(ねじりコイルバネ(10)が)巻き締められ」が「(戻し弾性部材に)戻し弾性力が蓄圧され」に相当し,「(巻き締めにより発生するトルクにより開閉部材が引き出される時のモーメント(14)を補完する)ねじりコイルバネ(10)」が「(蓄圧された戻し弾性力をシャッターカーテンの巻き取り時の巻取体に付与する)戻し弾性部材」に相当する。

してみると,補正発明と刊行物1記載の発明とは,
「上下方向へ開閉移動可能となったシャッターカーテンと,このシャッターカーテンの開閉移動のため前記シャッターカーテンを巻き取り,繰り出す回転を行う巻取体と,前記シャッターカーテンの下方への繰り出し時における前記巻取体の回転によって戻し弾性力が蓄圧され,この蓄圧された戻し弾性力を前記シャッターカーテンの巻き取り時の前記巻取体に付与する戻し弾性部材と,を有しているシャッター装置。」の点で一致し,次の点で相違する。

<相違点1>
シャッターカーテンについて,
補正発明は,「シャッターカーテンは、カーテン本体と、このカーテン本体の閉じ側の先端に設けられたエンド部材とを含んで構成され、カーテン本体の全部又は主要部は可撓性を有しかつ軽い材料となっているスクリーンで形成され」ており,また,「シャッターカーテンの開閉移動方向と直交するカーテン幅方向の両端部は左右一対のガイドレールにスライド自在に挿入されていて、このシャッターカーテンの上下方向への開閉移動はこれらのガイドレールで案内され」ており,さらに,シャッターカーテンには,「把持部材」が設けられているのに対して,
刊行物1記載の発明は,そのようなものであるのか定かでない点。

<相違点2>
巻取体回りのトルクについて,
補正発明は,「戻し弾性部材の戻し弾性力による巻取体回りのトルク」が,「シャッターカーテンの開閉移動範囲の全部、又は全閉位置から全開位置よりも少し低い位置までのシャッターカーテンの開閉移動範囲の略全部について、シャッターカーテンの自重に基づく下方への閉鎖移動力による巻取体回りのトルクよりも小さく」,かつ,「シャッターカーテンの自重からエンド部材の重量を差し引いたエンド部材除外シャッターカーテン自重に基づく下方への閉鎖移動力による巻取体回りのトルクよりも大きく」なっており,また,「シャッターカーテンの自重に基づく下方への閉鎖移動力による巻取体回りのトルク」が,「戻し弾性部材の戻し弾性力による巻取体回りのトルクに、シャッターカーテンが閉鎖移動するときに左右一対のガイドレールで生ずる抵抗力によるトルクを加えた値よりも大きく」なっているのに対して,
刊行物1記載の発明は,そのようなものであるのか定かでない点。

<相違点3>
上記相違点1,2に関連するシャッターカーテンの開閉移動について,
補正発明は,「シャッターカーテンは、このシャッターカーテンに設けられている把持部材を把持することによって全閉位置から持ち上げ可能となっているとともに、この持ち上げ後に把持部材から手を離すことによりシャッターカーテンはこのシャッターカーテンの自重で全閉位置に復帰可能となっており、シャッターカーテンの下を通過するためにこのシャッターカーテンを持ち上げるために必要な力は50N以下である」のに対して,
刊行物1記載の発明は,そのようなものであるのか定かでない点。

(2)相違点の検討
<相違点1について>
シャッターカーテンのスクリーンを軽い材料により形成することは,当業者が普通に行う程度の設計事項にすぎないし,さらに,シャッターカーテンの案内をその開閉移動方向と直交するカーテン幅方向の両端部において左右一対のガイドレールにスライド自在に挿入して行うことや,シャッターカーテンの昇降を把持部材により行うことは,シャッターの技術分野において従来から普通に採用されている技術にすぎない。

してみると,刊行物1記載の発明において,シャッターカーテン(スクリーン,シャッター等の開閉部材)の材料やその案内昇降機構を,補正発明の上記相違点1に係る構成にすることは,当業者が格別の技術的困難性を要することなしに容易に想到できたものと認められる。

<相違点2,3について>
刊行物2記載の発明の「狭幅耐火シート2」が補正発明の「シャッターカーテン」或いは「カーテン本体」に相当し,以下同様に,「短尺座板12」が「エンド部材」に相当し,「外筒部16」が「巻取体」に相当し,「スプリング13」が「戻し弾性部材」に相当し,「スプリング13の付勢力」が「戻し弾性部材の戻し弾性力」に相当し,「ガイドレール3b」が「ガイドレール」に相当する。
また,刊行物2記載の発明の「狭幅耐火シート2の下端部に取り付けられた短尺座板12を持ち上げると,スプリング13の付勢力により狭幅耐火シート2が短尺シャフト9により巻き取られて脱出口が開口され,短尺座板12から手を離すと,この重量により狭幅耐火シート2が当該短尺座板12とともに下降して脱出口が閉鎖される」が,上記「短尺座板12」が狭幅耐火シート2を開閉する際の把持部材として機能するのであるから,補正発明の「シャッターカーテンに設けられている把持部材を把持することによって全閉位置から持ち上げ可能となっているとともに,この持ち上げ後に把持部材から手を離すことによりシャッターカーテンの自重で全閉位置に復帰可能となっており」に相当する。
以上により,刊行物2記載の発明は,シャッターカーテン(狭幅耐火シート2)の下方への繰り出し時における巻取体(外筒部16)の回転によって戻し弾性部材(スプリング13)に戻し弾性力が蓄圧され,この蓄圧された戻し弾性力(付勢力)をシャッターカーテンの巻き取り時に巻取体回りのトルクとして付与するようになされているものであって,ガイドレール(ガイドレール3b)に沿って昇降可能とされている当該シャッターカーテンが,このシャッターカーテンに設けられている把持部材(把持部材として機能する短尺座板12)を把持することによって全閉位置から持ち上げ可能となっているとともに,この持ち上げ後に把持部材から手を離すことにより,このシャッターカーテンの自重で全閉位置に復帰可能となっているものであるから,上記戻し弾性力による巻取体回りのトルクが,シャッターカーテンの自重に基づく下方への閉鎖移動力による巻取体回りのトルクよりも小さく,かつ,シャッターカーテンの自重からエンド部材(短尺座板12)の重量を差し引いたエンド部材除外シャッターカーテン自重に基づく下方への閉鎖移動力による巻取体回りのトルクよりも大きくなっており,また,シャッターカーテンの自重に基づく下方への閉鎖移動力による巻取体回りのトルクが,上記戻し弾性力による巻取体回りのトルクにシャッターカーテンが閉鎖移動するときにガイドレールで生ずる抵抗力によるトルクを加えた値よりも大きくなっているものと認められる。
そうすると,刊行物1記載の発明において,戻し弾性部材(ねじりコイルバネ(10))の戻し弾性力による巻取体(筒体(2))回りのトルクを,シャッターカーテン(スクリーン,シャッター等の開閉部材)を容易に持ち上げることができ,かつ,シャッターカーテンをその全重で閉鎖できるように,補正発明の上記相違点2に係る構成のように設定することは,当業者が容易に想到できたものと認められる。

そして,シャッターカーテンの持ち上げ力を「50N以下」とすることは,防災設備関係の規定に定められている防火ドアについての開き操作力及びシャッターカーテンを構成するカーテン本体及びエンド部材の重量等を考慮することにより,当業者が適宜設定できるものであるし,さらに,避難者がシャッターカーテンの下を容易に通過できるように各巻取体回りのトルクの関係が維持される高さ範囲を「シャッターカーテンの開閉移動範囲の全部又は全閉位置から全開位置よりも少し低い位置までのシャッターカーテンの開閉移動範囲の略全部」とすることは,当業者が必要に応じて適宜設定できるものであり,また,シャッターカーテンの閉鎖移動の際におけるガイドレールで生ずる抵抗力によるトルクを左右一対のガイドレールにおけるものとすることは,シャッターカーテンの案内を左右一対のガイドレールよって行った場合に必然的に採用される事項にすぎない。

してみると,刊行物1記載の発明において,シャッターカーテン(スクリーン,シャッター等の開閉部材)を開閉移動する際の各巻取体(筒体(2))回りのトルク関係や持ち上げるために必要な力を,補正発明の上記相違点2,3に係る構成にすることは,刊行物2記載の発明に基づいて,当業者が格別の技術的困難性を要することなしに容易に想到できたものと認められる。

(3)作用効果・判断
そして,補正発明の全体の構成により奏する作用効果は,刊行物1,2記載の発明から当業者が予測できる範囲内のものである。

よって,補正発明は,刊行物1,2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


【4】むすび
以上のとおりであり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3.本願発明について
平成20年6月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?9に係る発明は,平成20年4月7日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
上下方向へ開閉移動可能となったシャッターカーテンと、このシャッターカーテンの開閉移動のため前記シャッターカーテンを巻き取り、繰り出す回転を行う巻取体と、前記シャッターカーテンの下方への繰り出し時における前記巻取体の回転によって戻し弾性力が蓄圧され、この蓄圧された戻し弾性力を前記シャッターカーテンの巻き取り時の前記巻取体に付与する戻し弾性部材と、を有しているシャッター装置において、
この戻し弾性部材の前記戻し弾性力による前記巻取体回りのトルクが、前記シャッターカーテンの開閉移動範囲の全部、又は全閉位置から全開位置よりも少し低い位置までの前記シャッターカーテンの開閉移動範囲の略全部について、前記シャッターカーテンの自重に基づく下方への閉鎖移動力による前記巻取体回りのトルクよりも小さくなっており、
前記シャッターカーテンは、カーテン本体と、このカーテン本体の閉じ側の先端に設けられたエンド部材とを含んで構成され、前記カーテン本体の全部又は主要部は可撓性を有するスクリーンで形成され、
前記戻し弾性力による前記巻取体回りのトルクは、前記シャッターカーテンの自重から前記エンド部材の重量を差し引いたエンド部材除外シャッターカーテン自重に基づく下方への閉鎖移動力による前記巻取体回りのトルクよりも大きくなっていることを特徴とするシャッター装置。
【請求項2】?【請求項9】(記載を省略する。)」


【1】刊行物及びその記載内容
原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された刊行物及びその記載内容は,上記「第2.【2】」のとおりである。


【2】対比・判断
上記請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記「第2.」で検討した補正発明において,「シャッターカーテン」についての,カーテン本体の全部又は主要部を形成するスクリーンが「軽い材料となっている」との限定,上下方向への開閉移動が「シャッターカーテンの開閉移動方向と直交するカーテン幅方向の両端部は左右一対のガイドレールにスライド自在に挿入されていて…これらのガイドレールで案内され」るとの限定,全閉位置からの持ち上げ或いは全閉位置への復帰が「シャッターカーテンに設けられている把持部材」を把持し或いはそれから手を離すことによって可能となる旨の限定をそれぞれ省略し,また,「シャッターカーテンの自重に基づく下方への閉鎖移動力による巻取体回りのトルク」についての,「戻し弾性部材の戻し弾性力による巻取体回りのトルクに、シャッターカーテンが閉鎖移動するときに左右一対のガイドレールで生ずる抵抗力によるトルクを加えた値よりも大きくなっており」との限定を省略し,さらに,「シャッターカーテンの下を通過するためにこのシャッターカーテンを持ち上げるために必要な力は50N以下である」との限定を省略したものである。

そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,上記「第2.【3】」で説示したとおり,刊行物1,2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1,2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


【3】むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1,2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-01 
結審通知日 2010-02-09 
審決日 2010-03-05 
出願番号 特願2003-290177(P2003-290177)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E06B)
P 1 8・ 121- Z (E06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神 悦彦  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 山口 由木
宮崎 恭
発明の名称 シャッター装置  
代理人 安藤 武  

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