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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1215388 |
審判番号 | 不服2008-26185 |
総通号数 | 126 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-10-10 |
確定日 | 2010-04-22 |
事件の表示 | 特願2002-356116「金属黒鉛質ブラシ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月12日出願公開,特開2003-259606〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成14年12月9日(優先権主張平成13年12月26日)の出願であって,平成20年9月10日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 2.本願の発明 本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成20年7月10日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりものと認める。 「銅粉及び銀粉の少なくとも一員からなる金属粉と黒鉛粉とを混合成形した ブラシ本体を備えた金属黒鉛質ブラシにおいて, 前記ブラシ本体の少なくとも整流子との摺動部側に添加し,リン酸またはリン酸化合物を添加し,かつ前記リン酸またはリン酸化合物の合計添加量を,リン酸イオン(PO_(4)^(3-))換算で,整流子との摺動部側のブラシ本体材料1g当たり2?35mgとし, 前記ブラシ本体がさらに金属硫化物固体潤滑剤を含有することを特徴とする金属黒鉛質ブラシ。」 3.引用例 (1)引用例1 原査定の拒絶の理由で引用された特開昭63-143770号公報(以下,「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。 (ア)「2.特許請求の範囲 1. 0.5?3重量%の二硫化モリブデン粉,0.1?1.0重量%のシリカ粉,0.05?0.5重量%の燐に相当する燐化合物の粉末,残部が銅粉及び黒鉛粉からなる混合物を成形及び焼成してなる金属黒鉛質電刷子。」(公報1頁左下欄4行?9行。) (イ)「金属黒鉛質電刷子は,低電圧,大電流を必要とする電動機等の回転電機に使用される。」(公報1頁左下欄14行?15行。) (ウ)「本発明は上記した問題を解消し,大電流及び高温度下でも耐摩耗性を有し,低電気損失の金属黒鉛質電刷子を提供することを目的とする。」(公報1頁右下欄11行?13行。) (エ)「本発明は,0.5?3重量%の二硫化モリブデン(MoS_(2))粉,0.1?1.0重量%のシリカ粉,0.05?0.5重量%の燐に相当する燐化合物の粉末,残部が銅粉及び黒鉛粉からなる混合物を成形及び焼成してなる金属黒鉛質電刷子に関する。 MoS_(2)粉は高温における潤滑性を付与するために加えるもので,0.5重量%未満では効果なく,3重量%を超えると回転電機の電気損失が増大する。」(公報1頁右下欄15行?2頁左上欄2行。) (オ)「次にこの素材を6×7×10mmに加工してピグテールを付け試験用電刷子とし,160mmφの銅リングに取付け,DC4.2Aを通じつつ銅リングを1500r.p.m.で回転させ,電刷子温度を180℃に設定して摺動試験を実施した。」(公報2頁右上欄19行?左下欄3行。) これらの記載を総合すると引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「銅粉と黒鉛粉からなる混合物を成形した素材を備えた金属黒鉛質電刷子において, 前記素材が二硫化モリブデン粉を含む金属黒鉛質電刷子。」 (2)引用例2 同じく原査定の拒絶の理由で引用された特開昭52-61702号公報(以下,「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。 (ア)「本発明の目的は電気機械のブラシ用カーボン-グラファイト材料とその製法を提供することであつて,本発明による新材料は,温度,圧力,湿度の広範囲にわたり,ペアの摺動接触部分から成る整流子の耐摩耗性を格段に改善したものである。すなわち多孔質カーボン-グラファイト材料にリン酸塩なかんずく重金属元素のリン酸塩,特に亜鉛,マンガンその他の重金属の超リン酸塩を浸透せしめ,カーボン-グラファイト材料の接触特性を向上させるために皮膜生成作用を有するポリマー化合物をもつて上記リン酸塩をつつんで保護し,かつ上記超リン酸塩に加水分解に対する安定性を附与するものである。」(公報2頁右上欄20行?左下欄13行。) (イ)「上記超リン酸塩の含有量はカーボン-グラファイト材料の最初の重量の0.1?15%とする。」(公報2頁右下欄6行?8行。) 4.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「銅粉と黒鉛粉からなる混合物を成形した素材を備えた金属黒鉛質電刷子」は,本願発明の「銅粉及び銀粉の少なくとも一員からなる金属粉と黒鉛粉とを混合成形したブラシ本体を備えた金属黒鉛質ブラシ」に相当する。 (イ)引用発明の「二硫化モリブデン粉」は,高音における潤滑性を付与するために加えるものであるので,本願発明の「金属硫化物固体潤滑剤」に相当する。よって,引用発明の「素材が二硫化モリブデン粉を含む」態様は,本願発明の「ブラシ本体がさらに金属固体潤滑剤を含有する」態様に相当する。 したがって両者は, 「銅粉及び銀粉の少なくとも一員からなる金属粉と黒鉛粉とを混合成形したブラシ本体を備えた金属黒鉛質ブラシにおいて, 前記ブラシ本体がさらに金属固体潤滑剤を含有する金属黒鉛質ブラシ。」 の点で一致し,以下の点で相違している。 [相違点1] 本願発明は「ブラシ本体の少なくとも整流子との摺動部側に」リン酸またはリン酸化合物を添加しているのに対し,引用発明はかかる特定がない点。 [相違点2] 本願発明は「リン酸またはリン酸化合物を添加し,かつ前記リン酸またはリン酸化合物の合計添加量を,リン酸イオン(PO_(4)^(3-))換算で,整流子との摺動部側のブラシ本体材料1g当たり2?35mgと」しているのに対し,引用発明はかかる特定がない点。 5.上記相違点について,以下に検討する。 (1)相違点1について 電気機械のブラシ用カーボン-グラファイト材料の耐摩耗性を改善するために,リン酸またはリン酸化合物を添加することは,引用例2に示されているように周知技術である。さらに,ブラシは整流子との摺動によって摩耗することは明らかであるから,リン酸またはリン酸化合物の添加をブラシ全体にするか,あるいは整流子との摺動部側にするかによって,耐摩耗性が異なるとはいえない。また,本願発明において,ブラシ本体の全体にリン酸又はリン酸化合物を添加するものを排除していない。したがって,引用発明に前記周知技術を適用するにあたり,リン酸またはリン酸化合物の添加をブラシ本体の少なくとも整流子との摺動部側にするようにして,本願発明の相違点1に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たことである。 (2)相違点2について 本願発明におけるリン酸又はリン酸化合物の合計添加量に関する数値限定について検討する。 まず,下限値である2mgという数値について検討する。本願明細書の段落【0011】には「リン酸イオンの添加量を,ブラシ本体の摺動部側でブラシ本体材料1g当たり1mg以上とすると,例えば表2,表3に示すように,ブラシや整流子の摩耗の防止や,回転機器の出力低下の防止に優れた効果が得られ,この効果はリン酸イオンの添加量を摺動部側のブラシ本体材料1g当たり2mg/g以上とすると,特に著しくなる。」という記載があり,さらに明細書中には表とともに複数の試験例が記載されている。これらの試験例のうち,黒鉛粉,二硫化モリブデンの割合を等しくとり,リン酸イオンの添加量のみを2mgの近傍で変化させたものは,試験例1,試験例5のみである。そして,それぞれの試験例におけるリン酸イオンの添加量は1.3mg(試験例5),2mg(試験例1)であり,本願の明細書にはリン酸イオンの添加量が1.3mgと2mgの間の試験例については,記載されていない。そうすると,明細書に記載されている試験例のみからでは,リン酸イオンの添加量の下限値を2mgとしたことによる格別の効果があるとはいえず,臨界的意義を見出すことができない。よって,リン酸又はリン酸化合物の合計添加量の下限値を2mgとしたことに格別の技術的意義は認められない。したがって,引用発明に上記周知技術を適用するにあたり,リン酸またはリン酸化合物の合計添加量の下限値をブラシ本体材料1gあたりリン酸イオン換算で2mgとすることは,当業者が適宜なし得たことである。 次に,上限値である35mgという数値について検討する。この数値の前後の試験例は試験例6しかなく,しかもこの試験例6でのリン酸イオンの添加量は30.5mgである。本願明細書には,「ブラシや整流子の摩耗の防止効果や,回転機器の出力低下の防止効果は,リン酸イオン濃度を増すと増加するが,40mg/g超の添加ではブラシ本体の抵抗率が増加するので,リン酸イオンの添加量は40mg/g以下が好ましく,特に好ましくは35mg/g以下とする(請求項3)。」(段落【0011】),「リン酸イオンは,摺動部側のブラシ本体材料1gに対して,リン酸イオン換算で例えば1?40mg/g添加し,好ましくは2?35mg/g添加する。リン酸イオンの添加量が1.3mg/gでも小さな効果があり,2mg/g程度から効果が著しくなり,40mg/g超の添加ではブラシ本体の抵抗率が上昇する。このため添加量は40mg/g以下が好ましく,より好ましくは35mg/g以下,最も好ましくは25mg/g以下とする。」(段落【0015】),「リン酸イオンの含有量を増すと20mg/g程度からブラシ本体抵抗が増加した。」(段落【0025】)という記載があるものの,リン酸イオンの添加量が35mg前後でのブラシ本体抵抗についての試験例は記載がない。そうすると,リン酸イオンの添加量の上限値を35mgとすることに格別の技術的意義は認められない。したがって,引用発明に上記周知技術を適用するにあたり,リン酸またはリン酸化合物の合計添加量の上限値をブラシ本体材料1gあたりリン酸イオン換算で35mgとすることは,当業者が適宜なし得たことである。 よって,引用発明に上記周知技術を適用して,本願発明の相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項である。 そして,本願発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 6.むすび 以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用発明および上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-02-24 |
結審通知日 | 2010-02-25 |
審決日 | 2010-03-10 |
出願番号 | 特願2002-356116(P2002-356116) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 服部 俊樹 |
特許庁審判長 |
大河原 裕 |
特許庁審判官 |
片岡 弘之 槙原 進 |
発明の名称 | 金属黒鉛質ブラシ |
代理人 | 塩入 みか |
代理人 | 塩入 明 |
代理人 | 塩入 明 |
代理人 | 塩入 みか |