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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1215651
審判番号 不服2006-27885  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-11 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 平成9年特許願第193212号「タンクおよびそのライナ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年5月6日出願公開、特開平10-114392〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年7月2日(優先権主張1996年7月2日 ドイツ)の出願であって、平成17年12月20日付け(発送日)拒絶理由通知に応答して、平成18年3月20日付けで明細書を対象とする手続補正がなされたが、平成18年9月12日付け(発送日)で拒絶査定され、平成18年12月11日にこれを不服として審判請求がなされるとともに平成19年1月10日に明細書を対象とする手続補正がなされたものである。

第2 平成19年1月10日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年1月10日付け手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、平成18年3月20日付けで補正された明細書をさらに補正するものであり、補正前の【特許請求の範囲】の請求項1に、
「液体または気体が収容されるタンクの内面または外面に接着される二枚重ねの布(4、5)を備え、この二枚重ねの布(4、5)は硬化性樹脂の含浸により補強され、この二枚重ねの布(4、5)の上側布(4)と下側布(5)とが互いに間隔を保って縫い合わされたタンクのライナにおいて、前記上側布(4)と前記下側布(5)とを縫い合わせる糸の列が前記硬化性樹脂により埋め込まれて前記上側布(4)と前記下側布(5)との間に互いに平行な直線状の隔壁(10)が形成され、この隔壁(10)は、高さが2.5ないし3.5mm、隣の隔壁との間隔が5ないし8mmであり、前記上側布(4)および前記下側布(5)との間に空洞ダクト(11)を形成することを特徴とするライナ。」とあるのを、
「液体または気体が収容されるタンクの内面または外面に接着される二枚重ねの布(4、5)を備え、この二枚重ねの布(4、5)は硬化性樹脂の含浸により補強され、この二枚重ねの布(4、5)の上側布(4)と下側布(5)とが互いに間隔を保って縫い合わされたタンクのライナにおいて、前記上側布(4)と前記下側布(5)とを縫い合わせる糸の列が前記上側布(4)と前記下側布(5)との間に互いに平行に直線状に形成され、この平行に直線状に形成された糸の列が前記硬化性樹脂で埋め込まれて隔壁(10)を形成し、この隔壁(10)は、高さが2.5ないし3.5mm、隣の隔壁との間隔が5ないし8mmであり、前記上側布(4)および前記下側布(5)との間に空洞ダクト(11)を形成することを特徴とするライナ。」
とする補正を含んでいる。
この補正は具体的には、補正前の請求項1において、「前記上側布(4)と前記下側布(5)とを縫い合わせる糸の列が前記硬化性樹脂により埋め込まれて前記上側布(4)と前記下側布(5)との間に互いに平行な直線状の隔壁(10)が形成され」と記載されていた糸の列の配置や方向について、「前記上側布(4)と前記下側布(5)とを縫い合わせる糸の列が前記上側布(4)と前記下側布(5)との間に互いに平行に直線状に形成され、この平行に直線状に形成された糸の列が前記硬化性樹脂で埋め込まれて隔壁(10)を形成し」とするものである。

2.新規事項追加の有無、補正の目的の適否
この補正は、本願の願書に最初に添付した明細書及び図面の実施例に関する記載を参照すれば、新規事項を追加するものではない。
また、この補正により、補正前において上側布と下側布とを縫い合わせる糸の列の配置や方向について特に限定がなかったものを「上側布(4)と前記下側布(5)との間に互いに平行に直線状に形成され」るとして限定するものであり、それにより、産業上の利用分野や解決しようとする課題が変更されるものでもない。
したがって、本件補正は、補正前の請求項1に記載された「上側布と下側布とを縫い合わせる糸の列」の構成を限定して特定する補正を含むものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明
補正後の本願の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、上記「本件補正」において、補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

4.引用文献
(1)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶理由に引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平6-39956号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【産業上の利用分野】本発明は、プラスチックの管材、その管材を用いて形成するタンク、プラスチックの球体などプラスチック中空体の殻構造に関する。本発明は、液体状あるいは気体状の燃料、油性物質、特殊な化学物質、高圧物質などの貯蔵容器、運搬容器、あるいはそれらを配管移動する管路として利用する。」(段落【0001】)
(b)「【目的】液体状あるいは気体状の特殊な化学物質その他を貯蔵したり輸送したりするために利用する。環境破壊を考慮して漏洩の可能性がきわめて小さいプラスチック中空体を提供する。」(【要約】から抜粋)
(c)「【構成】一つの典型はプラスチック管体であり、その殻構造は、内部の中空部分(2)を囲む二重壁により形成される。内側の壁はプラスチックが含侵された二重積層布の巻回層(4)であり、外側の壁はプラスチックが含侵された高抗張力の繊維による層(3)であり、その内側の壁には外側布および内側布(5)とその間に両者を隔離するとともに両者を結合する内挿繊維体(6)とを含み、この二重壁の間には内挿繊維体が列をなして介在する多数の空洞が形成される。」(【要約】から抜粋)
(d)「二重壁構造の間には、小さい空間を設けることがよい。しかも多数の小部屋形状の空間を設けることがよい。このような構造により殻体にわずかな変位を許容することになり、殻体の強度を実質的に大きくして、内部の圧力変化や外部からの不用意な力に対しても堅固な構造とすることができる。またこのような構造により殻体を軽量にすることができる。この小さい空間を設ける構造を本発明では発泡材料を使用せずに形成するから、寿命を長くすることができる。」(段落【0015】)
(e)「切れ目のない二重積層布による巻回層4は中空部分2すなわちこの中空部分2に入れられる液体と接してそれ自体で二重層を形成することになる。すなわち切れ目のない二重積層布による巻回層4は図に符号5で表示する外側布および内側布を含み、その間に両者を隔離するとともに両者を結合する内挿繊維6を含む。この外側布および内側布5の間にはさまれて内挿繊維6が列をなして介在する空洞が形成されることになり、その空洞はさらに多数のゆるく連接する小部屋7に区分された形となる。この二重積層布は樹脂で処理されてその内側布および外側布の部分5で密度が高くなり、空洞による多数の小部屋7には樹脂は全体に侵入せずにこの部分で硬度を得る。この小部屋7にはこの例では漏洩検出器8が設置される。この漏洩検出器8は中空部分2に貯蔵された液体の漏洩に曝されるように配置される。この漏洩検出器8にはさまざまなものが利用できる。」(段落【0019】)
(f)「外側布および内側布5は縦糸および横糸の標準織りまたは誘導織り(derived weave)による。好ましくはラップベルベット技術による織られることがよく、その結果、内挿繊維6が織り目の方向、特にV-またはW-結合方向に拡がることになる。外側布および内側布5の間にはさまれた内挿繊維6の繊維の長さは3ないし8mmである。この二重積層布5に用いられる繊維および内挿繊維6の材料は、例示すると、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維など、高抗張力繊維である。これらの繊維はステープル繊維をヤーンの中に紡ぐ方法やモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを形成させることもできる。もしガラス繊維を利用する場合には他の種類の繊維、例えばサーモプラスチック繊維などを25%程度まで混合することがよい。」(段落【0020】)
(g)「巻回層3および4の樹脂処理に用いられる樹脂はcurableかつreactiveであるれのがよく、例えば、非飽和ポリエステル、エポキシ、ビニルエステル、フエノル、PUR、シリコン(SI)、ポリアミドイミド(PAI)などである。紫外線強化されたものも利用できる。」(段落【0022】)
(h)「巻きつけには公知技術にしたがって円筒形状の回転ドラムまたは回転コアを用いる。そして巻回層4の仕上げ材は、例えば、樹脂処理されたロービング、不織布、マット、織布などである。巻回層4を製造してからその巻回層4を芯として巻回層3を巻付けることがよい。巻回層3および4の巻付けは先に樹脂を含侵させたテープを乾燥させあるいは中間的に乾燥させて用いることがよいが、利用する巻付け装置あるいは方法によっては樹脂により濡れた状態で巻付けを行う場合もある。」(段落【0023】)
(下線は当審において付与したものである。)

そして、上記各記載、及び図1から次の事項は明白である。
・液体状または気体状のタンクが、プラスチックが含侵された高抗張力の繊維による巻回層(3)とプラスチックが含侵された二重積層布の巻回層(4)とから構成され、記載(h)を踏まえると、二重積層布の巻回層(4)は、プラスチックが含侵された高抗張力の繊維による巻回層(3)の内面に接着され、結合されていること。
・二重積層布の巻回層(4)は、外側布、内側布及びそれらを結合する内挿繊維(6)からなり、記載(e)、(f)を踏まえると、長さが3?8mmの内挿繊維体(6)が列をなし、外側布及び内側布とが互いに間隔を保って結合されていること。
・特に記載(e)から、外側布、内側布及び内挿繊維体(6)からなる二重積層布の巻回層(4)は、樹脂に含侵され、樹脂が進入しない多数の小部屋が形成され、この部分で樹脂が硬化し、補強されること。

したがって、刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。
「液体状あるいは気体状の燃料が収容されるプラスチックが含侵された高抗張力の繊維による巻回層(3)の内面に接着される外側布及び内側布を備え、この外側布及び内側布は、硬化性樹脂の含侵により補強され、この外側布と内側布とが互いに間隔を保って内挿繊維により結合された二重積層布の巻回層(4)において、前記外側布及び内側布とを結合する内挿繊維の列が形成され、二重積層布の巻回層(4)には、硬化性樹脂の含侵により樹脂が進入しない多数の小部屋(7)が形成され、前記内挿繊維の長さは3ないし8mmである二重積層布の巻回層。」(以下、この発明を「引用発明」という。)

5.対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、その文言上の意義、構造及び機能等からみて、引用発明における「液体状あるいは気体状の燃料」は、本願発明の「液体または気体」に相当し、以下同様に、「プラスチックが含浸された高抗張力の繊維による巻回層(3)」は「タンク」に、「外側布及び内側布」は「二枚重ねの布(4、5)」に、「内側布」は「上側布(4)」に、「外側布」は「下側布(5)」に、「二重積層布の巻回層(4)」は「ライナ」に、「内挿繊維の列」は「糸の列」にそれぞれ相当する。
また、引用発明における内側布と外側布が織物であり、内挿繊維はその両者を間隔を保って結合していることから、両者は内挿繊維により縫い合わされていると解するべきである。
そして、本願補正発明における「上側布と下側布とを縫い合わせる糸の列が、上側布と下側布との間に互いに平行に直線状に形成され」ている状態とは、本願明細書の段落【0005】の「上側布と下側布とを縫い合わせる糸を「パイル糸」、このパイル糸が上側布と下側布とを連結している部分を「ウェブ」という。また、空洞ダクトを形成する隔壁はこのウェブにより形成されており、この隔壁を「ウェブ壁」という。」の記載及び、段落【0015】の「パイル糸6が上側布4と下側布とを連結するウェブ7、8の高さは2.5ないし3.5mmであり、このウェブ7、8が互いに平行な直線状のウェブ壁10を形成し、上側布4および下側布5とともに個々の空洞ダクト11を形成する。」(下線は当審において付与したものである。)という記載及び図1を参酌すると、上側布と下側布とを縫い合わせる糸の集合により形成される壁面と、当該壁面と一定間隔離れて形成される壁面とが互いに平行に直線状であるということができる。
さらに、本願補正発明の「空洞ダクト」と引用発明の「小部屋(7)」とは「空洞」の限りで一致するから、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「液体または気体が収容されるタンクの内面に接着される二枚重ねの布を備え、この二枚重ねの布は硬化性樹脂の含浸により補強され、この二枚重ねの布の上側布と下側布とがお互いに間隔を保って縫い合わされたタンクのライナにおいて、前記上側布と前記下側布とを縫い合わせる糸の列が形成され、この糸の列は所定の高さを有しており、上側布及び下側布との間に空洞を形成するライナ。」
〈相違点1〉
本願補正発明においては、上側布と下側布とを縫い合わせる糸の列が互いに平行に直線状に形成されており、硬化性樹脂で埋め込まれて隔壁を形成し空洞ダクトを構成しているのに対して、引用発明においては、上側布と下側布とを縫い合わせる糸の列が空洞を区分して小部屋を形成しているものの、当該糸の列が互いに平行に直線状に形成されているのか否か、そして、硬化性樹脂で埋め込まれて隔壁を形成しているか否か明確でない点。
〈相違点2〉
本願補正発明においては、隔壁は、「高さが2.5ないし3.5mm、隣の隔壁との間隔が5ないし8mmである」のに対して、引用発明においては、上側布と下側布とを結合する内挿繊維の長さが3ないし8mmであるものの、上側布と下側布とを縫い合わせる糸の列(ウェブ壁)の高さや、隣の糸の列(ウェブ壁)との間隔が明確でない点。

6.判断
(1)相違点1について
(1-1)本願補正発明の相違点1に係る構成の技術的意義について
本願の明細書の段落【0003】、【0004】、【0005】、【0006】、【0007】、【0016】、【0019】には、本願補正発明の技術的課題として次のように記載されている。

「【発明が解決しようとする課題】タンク用の二重壁構造のライナは、漏れがあった場合にタンク壁の内側または外側に生じるおそれのある圧力負荷に耐えることができ、十分な圧縮強度および剪断強度をもっていなければならない。一方、ライナの剪断強度が強すぎると、タンク壁に対する密着性が不完全となったり、タンク壁から離れたりすることがある。」(段落【0003】)
「本発明は、このような課題を解決し、内壁または外壁の少なくとも一方に二重壁ライナを設け、漏れに強く、単純かつ素早くタンク壁に取り付けることのできるライナを提供することを目的とする。」(段落【0004】)
「上側布と下側布とを縫い合わせる糸を「パイル糸」、このパイル糸が上側布と下側布とを連結している部分を「ウェブ」という。また、空洞ダクトを形成する隔壁はこのウェブにより形成されており、この隔壁を「ウェブ壁」という。」(段落【0005】)
「本発明によれば、漏れ防止に適した壁厚の薄い二重壁構造のライナを実現できる。したがって、二枚重ねの布を用いた従来のライナと比較すると、密度および二枚重ねの布の間隔を十分に小さくでき、剪断強度を低くできる。その一方で、パイル糸のウェブにより形成されるウェブ壁が直線的に延びているので、タンク壁用の最適なライナが得られる。」(段落【0006】)
「本発明で用いられる二枚重ねの布は平坦であり、低コストで製造できる。その一方で、平坦でありながら上側布と下側布との間に空洞が配置されているので、布に含浸させた硬化可能な樹脂のために漏れた液体または気体がその場所に溜まって漏れ検出ができなくなることを防止できる。樹脂をウェブに含浸させることで、上側布と下側布とを連結しているパイル糸の列に沿って実質的に閉じたウェブ壁が得られる。これらの樹脂処理したウェブ壁は、平坦な二枚重ねの布の剪断強度を十分なものとし、それらのウェブ壁が実質的に閉じていても、特に圧縮ガスに対しては、漏れの検出のために十分な透過性をもつ。」(段落【0007】)
「ウェブ7、8は硬化性の樹脂により埋め込まれることが望ましく、その場合にはウェブ壁10はほぼ閉じている。上側布4および下側布5は二つの補強された壁を形成し、これが互いに間隔をあけて配置され、その間の空間に補強されたフェブ壁10が配置される。上側布4と下側布5との間は、ウェブ壁10の部分を除いて、実質的に空洞である。」(段落【0016】)
「ウェブ壁10が注入された樹脂でも完全には閉じていない場合には、空洞ダクト11が互いにウェブ壁10を介して連絡する。」(段落【0019】)

これらの記載からみて、本願補正発明の相違点1に係る構成の技術的意義は、タンク用の二重壁構造のライナにおいて、樹脂をウェブに含浸させることで、上側布と下側布とを連結しているパイル糸の列に沿って硬化性樹脂で埋め込まれた隔壁を形成し、この隔壁は一定間隔で直線状に延びており、タンク壁へライナを取付ける際に確実に密着するための適度な剪断強度を付与するとともに、タンク漏れ時に生じる負荷に対しても十分な圧縮強度を付与することにあると解することができる。

(1-2)引用発明の内挿繊維について
これに対し、引用発明の上側布、下側布、これらを縫い合わせる糸の列(内層繊維)の材料は、「ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維」(刊行物1の摘示事項(f))などであり、一方、本願発明の上側布、下側布、これらを縫い合わせる糸の列の材料も同様に「ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維」(本願明細書の段落【0017】)などである。
また、引用発明の樹脂処理に用いられる樹脂は、「非飽和ポリエステル、エポキシ、ビニルエステル、フエノル、PUR、シリコン(SI)、ポリアミドイミド(PAI)」(刊行物1の摘示事項(g))などであり、一方、本願発明の樹脂も同様に「不飽和ポリエステル、エポキシド、ビニルエステル、フェノール、PUR、シリコーン、ポリイミドあいはポリアミドイミド」(本願明細書の段落【0020】)などである。
よって、本願補正発明と引用発明とは、上側布、下側布、これらを縫い合わせる糸、さらには樹脂処理に用いる樹脂として同様の素材を使用したものが含まれるのであるから、引用発明の上側布と下側布とを縫い合わせる糸の列(内挿繊維の列)も本願補正発明の糸の列と同様に樹脂による含浸が可能といえる。
そして、刊行物1の摘示事項(d)及び(e)の特に下線部によれば、外側布及び内側布、これらを結合する内挿繊維のそれぞれに硬化性樹脂が含侵され、内部に樹脂が進入しない多数の小部屋が形成され、樹脂の硬化により、内挿繊維が外側布及び内側布との間を接続し、軽量かつ堅固な構造が構成されるものと解するのが相当である。
けだし、刊行物1の摘示事項(f)に例示されたガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維が、外側布及び内側布と結合するのみで、これらがなんら硬化性樹脂により含浸されないものとすれば、外側布及び内側布とは単にこれらの繊維により結合されることとなり、内部の圧力変化や外部からの不用意な力に対し、容易に屈曲し、二重壁構造を維持し得ないからである。

(1-3)隔壁の形成について
上記「(1-2)引用発明の内挿繊維について」で検討したように、内挿繊維が硬化樹脂に含浸され、硬化することにより、上側布及び下側布が二重壁構造を構成するものとしても、引用発明において、内挿繊維の列が、平行に直線状に形成されたものであり、硬化性樹脂が埋め込まれた隔壁を形成しているのか否か必ずしも明確でない。
しかしながら、構造の軽量化及び強化の観点から、2つの平板を互いに平行で直線状に配列された隔壁で結合する構造は、軽量かつ強固な構造として機械設計上広く知られたものであるから、引用発明において、内挿繊維の列が、平行で直線状に配されていると解しても何ら矛盾はなく、そうでなくとも、上述した周知の構造を踏まえれば当業者が設計上適宜採用し得ることである。
一方、繊維に硬化性樹脂を含侵させ、繊維間に硬化性樹脂を埋め込み硬化させたものは、繊維強化プラステックとして知られており、その強度は、プラステック自体の強度と共に、含侵される繊維自体の強度及び密度に応じて決定されるものである。
そして、引用発明において、タンク用のライナとして要求される強度を付与するために、列をなす内挿繊維のそれぞれに硬化性樹脂が含浸される場合を想定すると、内挿繊維の密度、すなわち隣り合う内挿繊維の間隔及び硬化性樹脂の特性や量によっては、内挿繊維の列に含浸される硬化性樹脂が互いに接し、繊維間が硬化性樹脂により埋め込まれて隔壁を形成することも、当業者からみて、具体化に当たり十分に予測し得ることである。

(1-4)まとめ
以上の検討を踏まえれば、引用発明において、内挿繊維の配列、密度及び硬化性樹脂の特性や量を適宜選択することにより、内挿繊維の列を互いに平行に直線状に形成するとともに、これら隣り合う内挿繊維間をそれぞれ硬化性樹脂で埋め込むことにより、隔壁を形成し、空洞ダクトを構成することは、当業者が容易になし得ることというべきである。

(2)相違点2について
2つの平板を互いに平行で直線状に配列された隔壁で結合する軽量構造においては、隔壁の高さや隔壁同士の間隔が当該構造物の薄さや曲げ易さ、圧縮強度を決定する要因であることは構造上明らかであり、また、本願明細書の段落【0016】に記載された如く「ウェブ壁10の間隔はウェブ壁10の高さの二倍以上である」ように、隔壁の高さを2.5ないし3.5mm、隔壁同士の間隔を5ないし8mmとしたとしても、これにより規定される隔壁の高さと隔壁同士の間隔との比率は、当該構造物において構造力学上、一般的に使われている範囲を超えるものではない。
さらに、引用発明のウェブ壁を構成する内挿繊維について、「外側布および内側布5の間にはさまれた内挿繊維6の繊維の長さは3ないし8mmである」(刊行物1の摘示事項(f))という記載から、直ちにウェブ壁の「高さ」が3ないし8mmであるとはいえないものの、少なくともウェブ壁の高さは8mm以下であり、本願補正発明のウェブ壁の高さと近似した値であるといえる。
したがって、隔壁の高さを2.5ないし3.5mm、隔壁同士の間隔を5ないし8mmとしたことにより臨界的効果が奏されるとする技術的根拠も見いだせず、これら数値限定自体にも格別困難性を認めることはできないから、隔壁の高さと隔壁同士の間隔を上記値に設定することは、当業者がタンク用のライナとして必要とされる薄さや曲げ易さ、圧縮強度等を踏まえて適宜定め得る設計的な事項にすぎない。
また、隔壁の高さと隔壁同士の間隔を上記値に設定することによる効果も当業者の予測の範囲を超えるものではない。

(3)相違点についてのまとめ
本願補正発明を全体構成でみても、引用発明から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明は、上記刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

7.補正却下についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成18年3月20日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1は以下のとおりのものである。
「液体または気体が収容されるタンクの内面または外面に接着される二枚重ねの布(4、5)を備え、この二枚重ねの布(4、5)は硬化性樹脂の含浸により補強され、この二枚重ねの布(4、5)の上側布(4)と下側布(5)とが互いに間隔を保って縫い合わされたタンクのライナにおいて、前記上側布(4)と前記下側布(5)とを縫い合わせる糸の列が前記硬化性樹脂により埋め込まれて前記上側布(4)と前記下側布(5)との間に互いに平行な直線状の隔壁(10)が形成され、この隔壁(10)は、高さが2.5ないし3.5mm、隣の隔壁との間隔が5ないし8mmであり、前記上側布(4)および前記下側布(5)との間に空洞ダクト(11)を形成することを特徴とするライナ。」(以下、この発明を「本願発明」という)

第4 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、及びその記載事項は、前記第2、「4.引用文献」に記載したとおりである。

第5 対比・判断
上記第2、「1.本件補正の内容」での検討によれば、本願発明は、前記第2、「3.本願補正発明」から、上側布と下側布を縫い合わせる「糸の列」の限定事項である「平行に直線状に形成された」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2、「5.対比」及び「6.判断」で検討したように、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-11 
結審通知日 2008-06-17 
審決日 2008-06-30 
出願番号 特願平9-193212
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 熊倉 強
遠藤 秀明
発明の名称 タンクおよびそのライナ  
代理人 井出 直孝  
代理人 下平 俊直  

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