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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16K
管理番号 1215690
審判番号 無効2009-800010  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-19 
確定日 2010-04-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第1966883号発明「ノ-マルクロ-ズ型流量制御バルブ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件特許発明
本件特許第1966883号の請求項1、及び2に係る発明(昭和62年8月26日に出願された実願昭62-129403号が昭和62年10月14日に特許出願に変更され、平成7年9月18日に設定登録され、さらに、平成19年7月24日に訂正2007-390070号の審決が確定した。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、及び2に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】
「流入口と流出口をつなぐ流路を有するバルブ本体と、該バルブ本体の流路の一部に設けられた弁座と、該弁座に対向して配置し、自己弾性復元力を有し、前記弁座に対し当接と離間をするダイヤフラムと、貫通穴空間を有するとともに、該ダイヤフラムに関して弁座とは反対側で上下動自在に設けた弁棒と、該弁棒を弁座方向に変位させ、前記ダイヤフラムを弁座に当接させる押圧力を生じる付勢手段と、電圧を印加することにより長さが伸長し、前記貫通穴空間に収容され、一端がブリッジを介して前記バルブ本体で支持されると共に、他端が前記弁棒に当接した積層型圧電素子とを有し、該積層型圧電素子の長さが伸長したとき、前記付勢手段の押圧力に抗して前記弁棒を押上げダイヤフラム自身が弁座から離間することを特徴とするノーマルクローズ型流量制御バルブ。」(以下,「本件特許発明1」という。)
【請求項2】
「特許請求の範囲第1項記載において、前記弁棒の上部に調整ねじ部材を設け、該ねじ部材の端部を前記積層型圧電素子の上部に係止させたことを特徴とするノーマルクローズ型流量制御バルブ。」(以下,「本件特許発明2」という。)

2.請求人の主張
これに対して,請求人は,本件特許の請求項1、及び2に係る発明は,本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許の請求項1、及び2に係る発明の特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたと主張し,証拠方法として,甲第1号証(米国特許第1656214号明細書)、甲第2号証(特開昭61-127983号公報)、甲第3号証(特開昭61-244976号公報)、甲第4号証(米国特許第4669660号明細書)、甲第5号証(特開昭58-152986号公報)、甲第6号証(特開昭59-80582号公報)、及び甲第7号証(特開昭60-78179号公報)を提出している。

3.甲各号証
(3-1)甲第1号証
甲第1号証(米国特許第1656214号明細書)には、以下の事項が記載されている。
・「図1を参照して、バルブは本体1を備えており、…(中略)…ダイヤフラム10は、円形のチャンバ-11内のフィルタ4に近い位置に配設されている。本体1には、チャンバ11からのガソリンの流出路として、軸方向の通路12が設けられている。通路12の入口周囲には、パッキンリング13が設けられている。スプリング15の弾性力により、ピストン状の部材14を介して、ダイヤフラム10が前記パッキンリングへ押しつけられる。チャンバ11は、ダイヤフラム10によって2つの部分に密封的に分割されており、コードで直接操作されるピストン状の部材14の周りには、パッキングランド、スタフィンボックス及びこれに類するものを必要としない。図2及び図3に於いては、14で示されているピストン部材は、その動きが異なっている。ピストン部材14´はねじ部材であり、この部材14´のダイヤフラム10へ向かう方向又はダイヤフラム10から離れる方向への移動は、部材14´の外端部にキー止めされ、スプリング17とコード又はロッドが作用するレバー16の回転により行われる。」(請求人の提出した翻訳書(以下、「翻訳文」という。)1頁21行ないし2頁17行)
・「自動車やこれに類するもののガソリン配管系統に用いるダイヤフラムバルブであって」(翻訳文2頁22ないし23行)
これらの記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「コードによって直接操作される、またはレバーによって回転操作されるピストン状の部材14を有するダイヤフラムバルブ。」

(3-2)甲第2号証
甲第2号証(特開昭61-127983号公報)には、以下の事項が記載されている。
・「弁口を開閉する弁体を、ピエゾスタックの歪力により押圧駆動するようにしたことを特徴とする流体制御用バルブ。」(1頁左欄5ないし7行)
・「8は筒状部材2内に設けられるピエゾスタックで、9はその下端に設けられる加圧部である。この加圧部9はピエゾスタック8の歪力を弁体6に伝えるためのもので、図示例においては弁体6と連結されているが、必らずしもそのようにする必要はなく、例えば加圧部9がダイヤフラム7を押圧して弁体6を変位させるようにしてあってもよく、ピエゾスタック8の歪変位が弁体6に伝達されるようにしてあればよい。」(2頁右上欄10ないし18行)
・「ダイヤフラム7の下面には弁体開閉部材16が設けられており、この開閉部材16にピエゾスタック8の歪力が加えられるように構成してあり、ピエゾスタック8の歪力によって弁体開閉部材16が下方へ変位することにより、弁口3aが開かれる。」(2頁右下欄17行ないし3頁左欄2行)
これらの記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ダイヤフラムと弁体とピエゾスタックとを有し、ピエゾスタックの歪力により押圧駆動するようにした流体制御用バルブ。」

(3-3)甲第3号証
甲第3号証(特開昭61-244976号公報)には、以下の事項が記載されている。
・「本考案は、ダイヤフラムシール型バルブの改良に係り」(1頁右欄3ないし4行)
・「17は栓座15の上方に配設したNi-Ti合金製のダイヤフラムであり、18はスピンドル、19はスピンドル駆動用ピストンである。」(2頁右下欄13ないし15行)
・「スピンドル18はダイヤフラム17の上方に、上下方向へ昇降自在に配設されており、その下端には合成樹脂やゴム等で形成した押圧体24が嵌着されている。また、スピンドル17の上方にはピストン25が固設されており、空気入口26より操作用空気を供給することにより、スプリング27の弾性力に抗してスピンドル18が下方へ押圧される。」(3頁右上欄4ないし10行)
・「ハンドル29の回動によりスピンドル18を押し下げることにより、ダイヤフラム17が擬弾性特性により第2図の如き状態に変形し、栓座15へ接当して閉鎖状態となる。」(3頁左下欄17ないし20行)
これらの記載事項を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「押圧体を嵌着したスピンドルを有し、操作用空気、またはハンドルの回動により押圧駆動するダイヤフラムシール型バルブ。」

(3-4)甲第4号証
甲第4号証(米国特許第4669660号明細書)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・「・本発明の目的は、パルス幅が可変であること、150パルス/秒までのパルス列、ノズルの加熱と冷却の両方がされること、及び最高50barまで設定できる作動圧力を特徴とする、原子ビームスペクトロメータ用のパルス弁のノズルを提供することにある。」(翻訳文2頁8ないし11行)
・「・パルス弁は、外すことのできるノズル本体2を有する弁本体1と、交換可能な、直径の異なるノズル開口を有するノズル部材3を備えることのできるポートとからなっている。
・弁本体1は、弁座5を収容できる保存空間4と、弁棒6と接続された閉止片7とを有し、接続管部8を通して気体、液体、或いは気体と液体の混合物の圧力媒体が供給される。
・弁棒6は、弁本体1に強固に取付けられた駆動体11の駆動空間10に差し込まれており、この駆動空間10は保存空間4に対して真空が保持されるように薄膜9により分離されており、排気が可能である。
・第1の熱的・電気的絶縁体12は、弁棒6を圧電結晶の積層体からなる圧電駆動体20に接続しており、また(圧電駆動体20は?)弁本体1に対して、第2の熱的・電気的絶縁体13によって支持されている。
・更に弁棒6は、駆動体11に弾性素子14と調整装置15により接続されている。」(翻訳文2頁16ないし28行)
・「保存空間4内の圧力は、薄膜9及びそれに接続されている弁棒6を介して、円板ばねよりなる弾性素子14のばね力に対抗して作用する。」(翻訳文3頁5ないし6行)
・「1.流体を受入れる保存空間を規定し、前記保存空間から弁本体を通って伸ばされた弁ポートを有し、弁座を形成している弁本体と、
一端が前記弁ポートに隣接して可動的に配置され、(同じ)一端に前記弁座に着座させられ、また弁座に対して付勢されて前記弁ポートを閉じるように構成された閉止片を有している弁棒を備えた弁駆動部と、
前記弁棒の周囲に同心円状に配置され、前記弁棒とその他端で係合する圧電性結晶の積層体であって、熱的及び電気的に絶縁された支持構造により支持され、前記結晶に電圧を供給して前記弁を作動させる手段と結合された圧電結晶の積層体と、
前記結晶の積層体を覆うと共に、前記弁本体と、前記弁本体の保存空間近傍の筺体を横断して広がり、前記筺体を前記保存空間から分離して前記駆動機構を前記弁本体に対して密封するように前記弁棒と係合している薄膜とでシールされており、その排気を可能とする手段を有している筺体と、
前記弁本体に取付けられ、前記弁ポート内に突き出しているノズル部を有し、ノズル部材を、前記ノズル部材の交換を容易にするために、前記ノズル部材が前記弁ポート内に配置されるように支持するノズル本体
とを備えた加圧極温(extreme temperature)流体用のパルス弁。
2.バネ素子が前記支持構造と前記弁棒との間に配置され、前記弁棒とそれに結合された薄膜に、前記保存空間内の流体によって加えられた圧力を補償するクレーム1記載のパルス弁。」(翻訳文4頁4ないし24行)
・また、図面には、以下のとおりの開示がある。
弁本体1は、接続管部8と接続された流入口が形成され、保存空間4と流入口とが連通されると共に、弁本体1に設けられた弁ポートは、流出口が形成され、保存空間4と流出口とが連通されて、弁本体1に形成された流入口と流出口とは、流路によりつながれている。
閉止片7は、弁座5に対向して配置されている。
薄膜9は、保存空間4に対向して配置されている。
弁棒6は、薄膜9に関して弁座5とは反対側に設けられている。
・そして、上記の記載事項及び上記の図面の記載から、以下の事項は、自明である。
閉止片7は、弁座5に対して開閉するから、当接と離間することは、自明である。
薄膜9は、閉止片7と接続されており、閉止片7は、当接と離間するという移動をするから、薄膜9は閉止片7と共に移動することは、自明である。
弁棒6は、閉止片7及び薄膜9と接続しており、閉止片7は、弁座5に対して開閉するから、薄膜9に接続された弁棒6が、上下動自在に設けられていることは、自明である。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲第4号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「流入口と流出口をつなぐ流路を有する弁本体1と、該弁本体1の保存空間4に収容された弁座5と、該弁座5に対向して配置し、前記弁座5に対し当接と離間をする薄膜9と閉止片7とからなるものと、該薄膜9と閉止片7とからなるものの薄膜9に関して弁座5とは反対側で上下動自在に設けた弁棒6と、該弁棒6を弁座5方向に変位させ、前記薄膜9と閉止片7とからなるものの閉止片7を弁座5に当接させる押圧力を生じる弾性素子14と、電圧を印加することにより長さが伸長し、一端が第2の熱的・電気的絶縁体13を介して前記弁本体1で支持されると共に、他端が前記弁棒6に接続した積層体からなる圧電駆動体20とを有し、該圧電駆動体20の長さが伸長したとき、前記弾性素子14の押圧力に抗して前記弁棒6を押上げ薄膜9と閉止片7とからなるものの閉止片7自身が弁座5から離間するパルス弁。」

(3-5)甲第5号証
甲第5号証(特開昭58-152986号公報)には、以下の事項が記載されている。
・「本発明はピエゾ式弁装置に関し」(1頁左欄12行)
・「シリンダ2内にはピストン・アッパ5とピストン・ロワ6の二つのピストンが摺動自在に収納されている。…(中略)…両ピストン間には、円柱状空間52が形成され、この空間52内には円盤状のピエゾ素子がその電極とともに積層され円柱状のピエゾ体7を形成している。」(2頁左上欄5ないし12行)
・「ピストン・ロワ6の下部には中心に棒状の突起63があって、この突起63は孔23を貫通して弁体8の上面と接触している。」(2頁左下欄2ないし4行)
・「ピエゾ体7に通電していない時に、弁体8はスプリング85によってシリンダ2の下端面に押圧されて密着している。この時の弁体8の開弁リフトは零である。スプリング53の力はピストンアッパ5、ピエゾ体7、ピストンロワ6、突起63を経て弁体8の上面に及ぶが、スプリング53はスプリング85よりも十分に弱いので弁体8を下方に押し下げるに至らない。…(中略)…ピエゾ体7に通電すると、その印加電圧の大きさに応じてピエゾ体7は軸方向に伸長する。この伸長する力は上下方向に及ぶが、上に伸長しようとする時、ピストン・アッパ5の上部に形成されている油圧室内の燃料油を外部に排出する必要があるが、この瞬間鋼球92は絞り93を塞ぎ、ピストン・アッパ5の上方向への移動を阻止する。したがってピストン・ロワ6が下向きに移動し、その突起63が弁体8を下方に押し下げる。」(3頁左上欄12行ないし右上欄11行)
これらの記載事項を総合すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲第5号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ピストン・アッパ、ピストン・ロワ、及びこれらの部材の円柱状空間内に配置されたピエゾ体を有し、ピエゾ体の伸長により弁体を押し下げるようにしたピエゾ式弁装置。」

(3-6)甲第6号証
甲第6号証(特開昭59-80582号公報)には、以下の事項が記載されている。
・「本発明は、上記問題を解決するために、給湯側の熱応動素子によって蛇口の開度に関係なく給水量(=出湯量)を給湯器の最大能力曲線以下に規制すると共に、水温変化時に給水側の熱応動素子によって給水量を補正して常に所望の出湯量を維持できるようにした比例制御式ガス給湯器用の流量制御装置を提供するものである。」(2頁左上欄17行ないし右上欄3行)
・「前記給水入口3,調整室2,貫通孔10,バネ受座11,接続筒14,流水感知室12および給水出口13からなる給水路が構成され、給水出口13は水管15によって給湯器の受熱部16に接続され、前記受熱部16は出湯管17を介して前記給湯入口5に接続され、かくして給水入口3より給湯出口6に至る流水系路が形成されている。18は有底の中空部19をもち、外径が前記調整室2の孔径よりも小さい可動筒で、螺刻された頭部20を除いた部位が両側を切除されている。21は前記調整室2に嵌合し、前記可動筒18の頭部20に螺着される摺動筒で、螺着によって後述の流量調整器25のハウジング26を可動筒18内に挟持している。…(中略)…32は案内具であって、前記中空部19内に納められ、その鍔部32aが調整室2の段部2aに嵌められて固定されている。この案内具32と調節杆30とによりコア部28はケーシング26およびOリング29に同心状に遊嵌されている。熱応動素子7は例えばワックス型のもので、その駆動子7aが前記調節杆30に当接している。33は給水量を補正させるための熱応動素子であって、前記可動筒18の底部と前記案内具32との間に支持されている。…(中略)…スプリング35は前記バネ受座11と可動筒18との間に圧縮状に介装され、可動筒18を左方に押すように付勢する。このスプリング35の付勢と前記熱応動素子33の駆動子の突出量によって可動筒18すなわちケーシング26が静止する。」(2頁左下欄4行ないし3頁左上欄2行)
・「給水温度が変化すると給湯能力が変化し、例えば給水温が下がれば最大能力曲線が第1図に鎖線で示すように給湯能力が下がる。本装置においては、給水温が低下すると、熱応動素子33が感知して駆動子の突出量が減り、それによって可動筒18がスプリング35の付勢を受けて左方に移動する。」(3頁右下欄17行ないし4頁左上欄3行)
・「本発明による流量制御装置は、これを装備した比例制御式ガス給湯器において、出湯の熱に応答して最大能力で作動するときの設定温度に対応する最大出湯量を自動的に規制し、かつ水温の変化で給水量を補正して常に能力の自己規制を確実にしているから、使用者による過度の給湯蛇口の開成に拘らず、出湯が設定温度に保たれ、また給水温の低下時にも所望温度の出湯が得られないという不都合が解消されて、使用者が極めて平易かつ満足して給湯器を使用することができる。」(4頁左上欄15行ないし右上欄5行)
これらの記載事項を総合すると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲第6号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「中空部19を有する可動筒18の内部に案内具32を配置し、案内具32に形成された鍔部32aは、中空部19から突出されて本体の調整室2に固定され、中空部19内へ収納した熱応動素子33の一端が前記案内具32を介して本体の調整室2で支持され、他端が可動筒18の底部で支持されており、そして、流体は、給水路を構成する給水入口3、調整室2,貫通孔10,バネ受座11,接続筒14等からなる給水路を流れ、調整室2を流れる流体の温度の変化により、調整室2の内部に配置された熱応動素子33が伸縮して可動筒18が移動し、流体の流量を制御する熱応答式流量制御装置。」

(3-7)甲第7号証
甲第7号証(特開昭60-78179号公報)には、以下の事項が記載されている。
・「本発明は、流体制御弁に関し」(2頁左上欄3行)
・「室14には弁本体26が配置される。この場合、弁本体26には第1乃至第6の突出する弁本体30、32、34、36、38および40が形成され、弁本体28の両端は前記室16の内部において摺動自在に配置しておく。
次に、前記弁本体28の中央部を水平方向に貫通する孔42を設け、この孔42に前記弁本体28を水平方向に移動する一対の弁体駆動機構44、46を嵌合する。すなわち、第1図から諒解されるように、ハウジング12に鍔受部を有する孔48、50を前記孔42に対応するように画成し、これらの孔48、50に夫々鍔部52、54を有するロッド56、58を嵌着する。ロッド56、58の先端部には各々第1の圧電素子群60、62を装着し、また前記圧電素子群60、62の先端にやや短めのロッド64、66を固着する。そして、ロッド64、66にはさらに一組の保持板68、70並びに保持板72、74により挟持された第2の圧電素子群76、78を夫々装着しておく。」(2頁右下欄3行ないし3頁左上欄1行)
これらの記載事項を総合すると、甲第7号証には、次の発明(以下、「甲第7号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「弁本体と、該弁本体を貫通する孔に装着された第1の圧電素子群及び第2の圧電素子群とを有する流体制御弁。」

4.対比
そこで、本件特許発明1と甲第4号証発明とを対比すると、
後者における「弁本体1」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「バルブ本体」に相当し、以下同様に、「弁本体1の保存空間4に収容された弁座5」が「バルブ本体の流路の一部に設けられた弁座」に、「弾性素子14」が「付勢手段」に、「弁棒6に接続した」との態様が「弁棒に当接した」との態様に、「積層体からなる圧電駆動体20」が「積層型圧電素子」に、「パルス弁」は、通常、弁は閉じられ、圧電駆動体20の長さが伸長したときに弁が開かれることから、ノーマルクローズ型であり、また、流量を制御していることは明らかであるから、「ノーマルクローズ型流量制御バルブ」に、それぞれ相当している。
また、後者の「閉止片7」と前者の「ダイヤフラム」とは、共に弁体として弁座に対して当接と離間をして弁の開閉を行い、さらに後者の「薄膜9」と前者の「ダイヤフラム」とは、共に膜状シールで2つの室を仕切ることから、後者の「薄膜9と閉止片7とからなるもの」と前者の「ダイヤフラム」とは、「仕切り機能を有する弁体」との概念で共通する。
したがって、両者は、
「流入口と流出口をつなぐ流路を有するバルブ本体と、該バルブ本体の流路の一部に設けられた弁座と、該弁座に対向して配置し、前記弁座に対し当接と離間をする仕切り機能を有する弁体と、該仕切り機能を有する弁体に関して弁座とは反対側で上下動自在に設けた弁棒と、該弁棒を弁座方向に変位させ、前記仕切り機能を有する弁体を弁座に当接させる押圧力を生じる付勢手段と、電圧を印加することにより長さが伸長し、一端が前記バルブ本体で支持されると共に、他端が前記弁棒に当接した積層型圧電素子とを有し、該積層型圧電素子の長さが伸長したとき、前記付勢手段の押圧力に抗して前記弁棒を押上げ仕切り機能を有する弁体自身が弁座から離間するノーマルクローズ型流量制御バルブ。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
仕切り機能を有する弁体に関して、本件特許発明1は、「自己弾性復元力を有」する「ダイヤフラム」であるのに対し、甲第4号証発明では、「薄膜9と閉止片7とからなるもの」である点。
[相違点2]
弁棒に関して、本件特許発明1は、「貫通穴空間を有する」のに対し、甲第4号証発明では、そのような特定がされていない点。
[相違点3]
弁棒の弁座に対する配置関係の基準となる部材に関して、本件特許発明1は、「ダイヤフラム」であるのに対し、甲第4号証発明では、「薄膜9と閉止片7とからなるものの薄膜9」である点。
[相違点4]
仕切り機能を有する弁体に関して、本件特許発明1は、「ダイヤフラム」を弁座に当接させるのに対し、甲第4号証発明では、「閉止片7」を弁座5に当接させる点。
[相違点5]
積層型圧電素子に関して、本件特許発明1は、弁棒の「貫通穴空間に収容され、」一端が「ブリッジを介して」支持されるのに対し、甲第4号証発明では、一端が「第2の熱的・電気的絶縁体13を介して」支持される点。
[相違点6]
仕切り機能を有する弁体に関して、本件特許発明1は、「ダイヤフラム」自身が弁座から離間するのに対し、甲第4号証発明では、「薄膜9と閉止片7とからなるものの閉止片7」自身が弁座5から離間する点。

5.判断
上記相違点について以下検討する。
・相違点1、3、4、及び6について
バルブにおいて、自己弾性復元力を有する膜状シールで、2つの室を仕切るダイヤフラムを弁座に対向して配置し、弁座に対し当接と離間をさせる流量制御バルブは、周知の技術事項(例えば、甲第1号証(米国特許第1656214号明細書)の翻訳文2頁2ないし7行及びFig.1を参照、甲第3号証(特開昭61-244976号公報)の2頁右下欄3ないし6行及び図1ないし3参照。)である。
したがって、甲第4号証発明において、流量制御バルブの仕切り機能を有する弁体として弁棒に接続されている薄膜9と閉止片7とからなるものに代えて同様の機能を有する上記周知の技術事項を適用することにより、相違点1に係る本件特許発明1、3、4、及び6の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

・相違点2、及び5について
上記(3-6)のとおり、甲第6号証には、給湯側の熱応動素子によって蛇口の開度に関係なく給水量(=出湯量)を給湯器の最大能力曲線以下に規制すると共に、水温変化時に給水側の熱応動素子によって給水量を補正して常に所望の出湯量を維持できるようにすることが課題として記載されている。
また、甲第6号証発明は、熱応動素子33が配置された可動筒18を納めた調整室2つまり給水路内に流体を流して、そこに配置された熱応動素子33が流体の温度を感知して伸縮することにより可動筒18が移動して、流量を制御するものである。
つまり、甲第6号証発明は、制御しようとする流体内に弁の駆動手段(熱応動素子33)を配置して、流体を制御しようとする技術思想を有するものと認められる。
一方、上記(3-4)のとおり、甲第4号証には、パルス幅が可変であり、150パルス/秒までのパルス列、ノズルの加熱と冷却の両方がされること、及び作動圧力を最高50barまで設定できるようにすることが課題として記載されている。
また、甲第4号証発明は、駆動部11と弁本体1との間にシールを形成する駆動空間10内を真空に保持するための薄膜9によって弁本体1、すなわち流体が供給される保存空間4から弁棒6や圧電駆動体20等を分離して、これらの部材が配置されている駆動空間10を真空に保持すると共に、弁棒6に接続された閉止片7が開閉することにより流体を制御するものである。
つまり、甲第4号証発明は、制御しようとする流体と弁の駆動手段(圧電駆動体20)を分離して、流体を制御しようとする技術的思想を有するものと認められる。
そうすると、両者の課題、及び技術思想は、異なるものである。
また、甲第4号証発明に甲第6号証発明を適用したとすると、甲第6号証発明の駆動手段(熱応動素子33)を甲第4号証発明の駆動空間10に配置することになるが、そのままでは、真空空間に配置された駆動手段(熱応動素子33)は、流体の温度を計測することはできず、駆動手段(熱応動素子33)を作動させるためには、制御しようとする流体を駆動空間10に流し込んで流体の温度を計測しなければならないが、そうすると、甲第4号証発明は、制御しようとする流体と駆動手段を分離することができなくなる。逆に、甲第4号証発明において、制御しようとする流体と駆動手段(熱応動素子33)を分離しようとすると、制御しようとする流体を駆動空間10に流し込むことはできないため、甲第6号証発明の駆動手段(熱応動素子33)を作動することはできない。
したがって、甲第4号証発明において、甲第6号証を適用することにより、相違点2、及び5に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
そして、甲第1号証発明ないし甲第3号証発明、甲第5号証発明、及び甲第7号証発明を検討しても、弁棒に「貫通穴空間」を形成し、積層型圧電素子を、該「貫通穴空間に収容」し、その一端を「ブリッジを介して」バルブ本体に支持させる構成は記載も示唆もされていないから、甲第4号証発明において、甲第1号証発明ないし甲第3号証発明、甲第5号証発明、及び甲第7号証発明を適用することにより、相違点2、及び5に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
しかも、相違点2、及び5に係る本件特許発明1の構成とすることにより、「流体室特に入口ポート側に押圧ばねや調整ねじ等の可動部材を設けなくとも済むので金属間接触による金属粉の発生がなく流体内への金属粉の混入がない。又流体と接触する金属面積を最小にできるのでバルブ本体は常に清浄に保たれ、又本体内から流体が漏れる問題が解消される。」という明細書に記載の効果を奏するものである。

本件特許発明2について検討すると、本件特許発明2は、本件特許発明1を引用するものであって、本件特許発明1が、甲第1号証発明ないし甲第7号証発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえないのであるから、同様に本件特許発明2は、甲第1号証発明ないし甲第7号証発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

6.請求人の主張について
請求人は、「甲第4号証に記載の薄膜9は自己弾性復元力を有している」旨主張(審判請求書10頁7行、口頭審理陳述要領書10頁2ないし18行、第1回口頭審理調書2頁36行ないし3頁1行)するが、甲第4号証には、薄膜9が自己弾性復元力を有しているとは記載されておらず、また、「閉鎖片を有している弁棒」(翻訳文4頁8行)、「弁棒と係合している薄膜とでシールされており」(翻訳文4頁15ないし16行)、及び図面の記載からみると、薄膜9は、閉止片7と弁棒6(閉止片7を除いた部位)とで挟持して取り付けられているものであって、単に弁棒6の動きに追従して移動するものであるから、薄膜9自身に自己弾性復元力を有するものとまで解することはできない。したがって、請求人の上記主張に理由はない。
また、請求人は、「甲第4号証に記載の第2の熱的・電気的絶縁体13は、本件特許発明1のブリッジに相当する」旨主張(口頭審理陳述要領書12頁9ないし15行、第1回口頭審理調書3頁8ないし9行)主張するが、甲第4号証には、「(圧電駆動体20は?)弁本体1に対して、第2の熱的・電気的絶縁体13によって支持されている。」(翻訳文2頁26ないし27行)、「熱的及び電気的に絶縁された支持構造により支持され、…(中略)…た圧電性結晶の積層体」(翻訳文4頁10ないし12行)、及び図面の記載からみると、弁本体1に形成された保存空間4に薄膜9を介して第2の熱的・電気的絶縁体13が張り出すように載置されているものであって、弁本体1の対向する部位を架け渡すようなものではないから、ブリッジに相当するものではない。したがって、請求人の上記主張に理由はない。
さらに、請求人は、「甲第4号証発明と甲第6号証発明とは、同一の技術分野、構成、及び機能を奏するものであり、また小型化が、一般的課題であり、筒状の弁棒の中に圧電素子を入れることは、甲第5号証、及び甲第7号証に記載されているから、甲第4号証発明に甲第6号証発明を適用することは、当業者にとって容易に想到できるものである」旨主張(口頭審理陳述要領書14頁30行ないし15頁7行、21頁21ないし23行、第1回口頭審理調書3頁29ないし30行)が、上記「5.判断」の「・相違点2、及び3について」の説示のとおりである。したがって、請求人の上記主張に理由はない。
加えて、請求人は、「甲第6号証に記載の熱応動型駆動素子33を用いた駆動部を周知の積層型圧電素子を用いた駆動部に替えることは、当業者が必要に応じて容易に選択することができる設計的事項である」旨主張(口頭審理陳述要領書14頁26ないし28行、第1回口頭審理調書4頁3ないし5行)するが、甲第6号証に記載の熱応動素子33は、給水側に配置され、給水路を流れる流体の水温変化により、伸縮して給水量を制御するものであるから、熱応動素子33を、周知の積層型圧電素子に置換すると、周知の積層型圧電素子は、給水路を流れる流体の水温変化により、伸縮して給水量を制御するという作用を奏することはできないから、当業者が容易に選択できる設計事項ではない。

7.むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許の請求項1、及び2に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2009-06-26 
出願番号 特願昭62-258714
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F16K)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 黒瀬 雅一
片岡 弘之
登録日 1995-09-18 
登録番号 特許第1966883号(P1966883)
発明の名称 ノ-マルクロ-ズ型流量制御バルブ  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 杉本 丈夫  
代理人 増井 和夫  
代理人 谷田 龍一  
代理人 齋藤 誠二郎  

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