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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03F |
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管理番号 | 1215749 |
審判番号 | 不服2007-22765 |
総通号数 | 126 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-08-17 |
確定日 | 2010-04-30 |
事件の表示 | 特願2002-241704「バッテリパック、および、電子回路」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月11日出願公開、特開2004- 80692〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本願は、平成14年8月22日の特許出願であって、平成19年7月12日付けで拒絶査定され、これに対して同年8月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされた。そして、当審において、平成21年11月11日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成22年1月4日付けで手続補正書が提出された。 2.本願発明 本願の請求項5に係る発明は、平成22年1月4日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。 「【請求項5】 オペアンプ、および、前記オペアンプに接続される、1つ以上のコンデンサを含む素子群から構成され、所定の電送路を流れる電流を検出し、検出した前記電流に対応するアナログの値を、第1の積分定数で積分して出力する積分回路と、 前記オペアンプ、および、前記素子群のうちの所定の一部の素子から構成され、前記第1の積分定数より小さい、0を含む第2の積分定数で、前記オペアンプのオフセットを検出し、検出した前記オフセットに対応するアナログの値を出力するオフセット検出回路と、 前記積分回路と、前記オフセット検出回路のうちのいずれか一方を選択する選択回路と、 前記積分回路と前記オフセット検出回路のうちの、前記選択回路により選択された回路から出力されたアナログの値を、A/D変換するA/D変換回路と、 前記A/D変換回路によりデジタル化されたデータが、前記積分回路の出力に対応するデータである場合、前記データの値を積算することで、前記電送路を流れる前記電流の積算値を演算し、前記デジタル化されたデータが、前記オフセット検出回路に対応するデータである場合、前記データの値に基づいて、前記オペアンプのオフセットの電圧値を演算するデジタル演算回路と を備え、 前記第1の積分定数と、前記第2の積分定数とは、それぞれ、相互に独立して設定され、 前記第1の積分定数は、前記所定の電送路を流れる電流の変動に対して、適応的に大きな値に変更される 電子回路。」 3.引用例 (1)引用例1について 当審で通知した拒絶理由に引用された特表2001-520386号公報(以下、「引用例1」という)には、下記の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 (技術分野) 本発明は、一般に、蓄電池(バッテリ)の残存する容量を測定するための装置および方法に関し、特に、時間にわたって蓄電池にかけられる負荷により引き出される電流を測定して、負荷によって消費される電力を決定するための装置および方法に関する。」 (イ)「【0015】 抵抗器114は、MOSFET106のソース端子と抵抗器110の端部との共通接続点に接続された一端部を有している。抵抗器114の他端部は、演算増幅器(opamp)120の反転入力端に結合されている。」 (ウ)「【0017】 演算増幅器120の反転入力端と出力端との間にはコンデンサ122が接続されている。したがって、演算増幅器は電子式積分器として機能する。所定の時間にわたってコンデンサ122に蓄積された電荷は、センス抵抗器110を横切る電圧降下に応じて、演算増幅器の入力端に印加される電流パルスの大きさの合計値に対応している。コンデンサ122が放電されるまで、コンデンサ122内に蓄積された電荷は、対応する電圧を演算増幅器の出力端で生じさせる。」 (エ)「【0019】 演算増幅器120の出力部とA/D変換器130の入力部との間には抵抗器124が接続されている。また、共通グランドとA/D変換器130の入力部との間にはコンデンサ126が接続されている。したがって、抵抗器124とコンデンサ126は、単極の低域通過フィルタを形成している。また、演算増幅器120によって与えられる電圧信号において予期されるよりも大きい周波数を有する過渡信号(ノイズ)が、低域通過フィルタによって抑制されるように、抵抗器124とコンデンサ126の値が選定される。フィルタリングされた出力信号(VINTA)は、A/D変換器130の入力部に与えられてデジタル化され、これによって、スケーリングされた値をもったデジタル(VINT)信号が与えられる。好ましい実施形態において、A/D変換器130は、フィルタリングされた0?+5ボルトのVINTA信号に対応する、リニアにスケーリングされた0?255の正値をもった1バイトのデジタル信号を提供する。A/D変換器130の出力部は、CPU132のIN2ポートに結合されており、これによって、VINT信号は、所定の時間間隔の最後にサンプリングされ、CPU132内に記憶されたプログラムによって処理される。プログラムは、バッテリ102の管理において使用される様々な機能、バッテリの再充電、回路較正、所定の時間にわたって負荷に流れる電流を測定してバッテリに残っている電力を決定することを含む機能を実行する。」 (オ)「【0023】 各時間期間の終りであって且つ電子式積分器によって蓄積された値がクリアされてINTRST信号によって無負荷基準値にリセットされる前に、CPU132は、VINTA信号の大きさのデジタル値(VINT)をサンプリングする。サンプリングされたVINT信号の各値は、所定の時間にわたってセンス抵抗器110を通じて引き出される全電流量、従って負荷によって消費される全電力量がプログラムによって測定され得るように、CPU132によって蓄算される。」 (カ)「【0025】 図2の最上部のグラフを再び参照すると、フィルタリングされたVINTA信号は、X軸140に沿って所定時間減少する負のランプ形状をもつ整定波形144を成している。図2の最下部のグラフの第3の時間期間の初めにおいて、CHG信号は、ロー波形168によって示されるように、理論レベル 1 ハイから理論レベル ゼロ ローへと変化する立下り端部166を有し減少する。CHG信号の理論レベルは、第7の時間期間の終りまでローを維持している。CHG信号が理論レベル ゼロ ロー状態になると、MOSFET106は導通を停止し、センス抵抗器110を通じた電流の流れが遮断される。しかしながら、MOSFET106は瞬時に導通を停止せず、MOSFET106のスルーレートによって、センス抵抗器を通じた電流の流れの遮断に遅れが生じる。好ましい実施形態において使用されるMOSFET装置は、所定の時間間隔(0.1秒)よりもかなり小さいスルーレートを有しており、これにより、VINTA信号は第3の時間期間の終りまで安定している。デジタル化されたVINTA信号(VINT)の値は、第3の時間期間の終りでCPU132によってサンプリングされるとともに、所定時間にわたって負荷によって引き出される電流の累算値に加えられる。しかし、サンプリングされた値は、回路100を較正するためには使用されない。 【0026】 第4の時間期間において、VINTA信号は、左から右に向かって僅かに増加して傾斜するランプ波形146を成している。この時のVINTA信号は安定しているため、CPU132は、第4の時間期間の終りでVINTA信号のデジタル化された大きさをサンプリングする。このサンプリングされたVINTA信号は、ゼロ電流オフセット値147に対応している。」このサンプリングシーケンスは、第5、第6、第7の各時間期間においても再び繰り返され、これによりCPU132は、これら各時間期間の終りで、ランプ波形148、150、152のさらに3つのゼロ電流オフセット値149、151、153を累算することができる。 【0027】 好ましい実施形態において、CPU132によって累算された4つのゼロ電流オフセット値は、コンデンサ122を放電するために、電気部品を通じて流れる漏れ電流を測定するのに使用される。各ゼロ電流オフセット値は、センス抵抗器110を横切る電圧降下が0ボルトに略等しくなった時に、漏れ電流に起因して回路100内に現れる電圧量に対応している。また、プログラムは、ゼロ電流オフセット値のデジタル化された値を平均化し、VINT信号の新しいゼロ電流オフセット値を較正する。この平均化は、1または複数のゼロ電流オフセット値に存在する可能性のある過渡の影響を最小限にするために行なわれる。これにより、回路100のゼロ電流オフセット値を決定する精度が改良される。」 (キ)上記(イ)には、演算増幅器120の反転入力端子が抵抗器114を介してセンス抵抗器110に接続されていることが記載され、上記(ウ)には、演算増幅器120の反転入力端子と出力端子の間にコンデンサ122を接続して積分器とし、センス抵抗器110を横切る電圧降下に応じて演算増幅器120に印加される電流パルスの大きさの合計値に対応した電荷をコンデンサ122に蓄積させることが記載され、上記(エ)には、演算増幅器120の出力がA/D変換器130によりデジタル化されたVINT信号になることが記載され、上記(オ)には、CPU132が各時間期間の終わりに前記VINT信号をサンプリングして、センス抵抗器110を通じて引き出される全電流量が測定され得るように蓄算することが記載されている。よって、これらの記載から、引用例1には、前記センス抵抗器に流れる電流に対応した値を積分出力として前記演算増幅器から出力する場合、CPUは前記AD変換器の出力値を蓄算して前記センス抵抗器を通じて引き出される全電流量を測定することが記載されているといえる。 (ク)上記(イ)には、演算増幅器120の反転入力端子が抵抗器114を介してセンス抵抗器110に接続されていることが記載されているので、上記(カ)には、MOSFET106が非導通になると、センス抵抗器110に流れる電流が遮断されてセンス抵抗器110を横切る電圧降下が0ボルトとなり、前記0ボルトの電圧が抵抗114を介して演算増幅器120へ入力され、演算増幅器120からは前記0ボルトに対応したゼロ電流オフセット値が出力され、CPU132はAD変換器でデジタル化されたゼロ電流オフセット値を累算してゼロ電流オフセット値を決定することが記載されている。よって、これらの記載から、引用例1には、前記センス抵抗器に流れる電流の遮断によりゼロ電流オフセット値を前記演算増幅器から出力する場合、CPUは前記AD変換器の出力値を累算してゼロ電流オフセット値を決定することが記載されているといえる。 上記(ア)乃至(ク)及び関連図面から、引用例1には実質的に、 「一端がセンス抵抗器に接続された抵抗の他端を反転入力端に接続し、前記反転入力端と出力端の間にコンデンサを接続した演算増幅器と、 導通により前記センス抵抗器に電流を流し、非導通により前記センス抵抗器に流れる電流を遮断するMOSFETと、 前記演算増幅器の出力信号をAD変換してCPUへ入力するAD変換器と、 前記センス抵抗器に流れる電流に対応した値を積分出力として前記演算増幅器から出力する場合は、前記AD変換器の出力値を蓄算して前記センス抵抗器を通じて引き出される全電流量を測定し、前記センス抵抗器に流れる電流の遮断によりゼロ電流オフセット値を前記演算増幅器から出力する場合は、前記AD変換器の出力値を累算してゼロ電流オフセット値を決定する前記CPUとを備えた回路。」 の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。 (2)引用例2について 当審で通知した拒絶理由に引用された特開平11-344546号公報(以下、「引用例2」という)には、下記の事項が記載されている。 (ケ)「【0058】上記した積分とリセットの繰り返しにより、積分器5の出力電圧がどんどん増大して破綻するという問題を回避し、かつ、積分を継続することが出来る。そして、リセット回数をカウントすることにより、全時間の積分値を求めることが可能になる。リセット回数のカウント値をKとするとき、前述の数6第6式を応用すると、次式が成り立つ。」 (コ)「【0060】上式でKが数十以上に大きければ、最終リセット後の積分器出力電圧は無視することが出来、電池電流(Is)の積分値はリセット回数カウント値(K)を使って次式で求まる。」 (サ)「【0062】なお、Kが数十以上に大きいことと言う必要条件は、本発明のそもそもの目的である電池の残量計測に照らし合わせると、ユーザーが電池残量を気にするのは積分値としては大きな値となったところであり、その時カウント値も当然のことに大きな値であるから、十二分に満足させられる。仮に、特殊な使い方で、小さな積分値領域を計測する場合は、それに見合って積分コンデンサの容量値その他の定数設定で対応可能である。」 上記(ケ)乃至(サ)及び図1から、引用例2には実質的に下記の電流を積分する積分器の設定が記載されている。 「電流検出抵抗に流れる電流に対応した信号を積分器により積分して電池の残量計測を行う構成において、前記積分器のリセット回数が数十以上に大きくなる条件を満たせば、電池電流の積分値はリセット回数のカウント値で決定でき、小さな積分値領域を計測する場合は、それに見合って積分コンデンサの容量値その他の定数設定を行うことで対応可能であること。」 (3)引用例3について 当審で通知した拒絶理由に引用された実願昭58-18259号(実開昭59-126342号)のマイクロフィルム(以下、「引用例3」という)には、下記の事項が記載されている。 (シ)「本考案は、増幅器を使用したアナログ動作の積分回路にに関するものである。 この種の積分回路において、長期間積分動作を高精度でおこなうには増幅器自体のオフセット電圧,入力バイアス電流,更にそれらのドリフトによるエラー或いは不安定性が一番問題となる。これらの解決策として・・・(中略)・・・積分動作の前に入力をゼロにして補正動作モードを設け、その補正動作モードに於ける測定結果を何んらかの方法で保持しておき、測定モードのデータからそのゼロエラー分だけ差し引いて結果を出す。」(明細書第1頁20行?第2頁13行) (ス)「入力を積分する測定モードに先立ち、増幅器Aのゼロエラーを補正する為に、切り換えスイッチSW1を接点s2に接続して積分器IGの入力端子を短絡させる。そして、それと共にスイッチSW2を接点s2に切り換え、抵抗素子R2を増幅器Aの入,出力端子間に接続する。この操作は補正に要する時間を可及的に短くさせる為に、増幅器Aを積分器としてではなく、ある一定の増幅度を持った増幅器として働かせる為である。このような状態で、増幅器A→コンパレータCOM→Up/DownカウンタCOU→D/A変換器→増幅器Aの閉ループを動作させる。この場合、増幅器Aの入力にゼロエラーがあると、このエラーは増幅器A自身のゲイン(R2/R1)で増幅されてコンパレータCOMに与えられる。」(明細書第4頁11行?第5頁5行) (セ)図面には、抵抗R1の一端に入力端子Inまたはコモンcomを接続するスイッチSW1が接続され、抵抗R1の他端に増幅器Aの入力端子が接続され、増幅器Aの入力端子にキャパシタCの一端または抵抗R2の一端を接続するスイッチSW2が接続され、キャパシタCの他端及び抵抗R2の他端は増幅器Aの出力端子に接続された構成が記載されている。 上記(シ)乃至(セ)から、引用例3には実質的に下記の増幅器のオフセット補正構成が記載されている。 「増幅器の入力端子に抵抗を接続し、前記増幅器の入出力端子の間にキャパシタを接続して構成した積分回路において、前記増幅器のオフセットを短時間で補正するために、オフセット補正時には、前記増幅器の前記入出力端子の間に接続する素子を前記キャパシタではなく抵抗に切り換えて、入力されたゼロ電圧を前記増幅器自身のゲインで増幅してオフセット値を出力する前記増幅器のオフセット補正構成。」 (4)引用例4について 当審で通知した拒絶理由に引用された特開2000-246456号公報(以下、「引用例4」という)には、下記の事項が記載されている。 (ソ)「【0005】従来の抵抗溶接用電流測定装置では、図8に示すように、積分回路を構成する演算増幅器100の前段に抵抗値の異なる複数たとえば2個の入力抵抗102,104を並列に設け、アナログスイッチ106,108で入力抵抗102,104のどちらかを選択することで、電流測定レンジを切り替えるようにしている。」 (タ)「【0009】溶接作業現場の作業員にとっては、どの程度の電流が流れるのかを常時適確に判断して、レンジ切り替えを適切に行うことが、非常に煩わしい仕事となっている。生産管理の面からみても、レンジ切り替えの間違いは、測定のやり直しや作業の中断を来したり、電流測定の信頼性を下げる原因にもなり、問題になっている。 【0010】本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、電流測定レンジを自動的にかつ適切に選択し、信頼性の高い電流測定値を得られるようにした抵抗溶接用電流測定装置を提供することを目的とする。」 (チ)「【0012】 【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明の第1の抵抗溶接用電流測定装置は、抵抗溶接機で流れる1次側または2次側の電流を検知し、前記電流の微分波形を表す出力信号を発生する電流センサと、前記電流センサの出力信号を複数の異なる積分定数で積分して、異なる電流測定レンジで前記電流を表す複数の電流検知信号を生成する積分回路と、前記複数の電流検知信号をそれぞれ所定のサンプリング速度でディジタル信号に変換するアナログ-ディジタル変換器と、前記アナログ-ディジタル変換器の出力信号に基づいて前記電流測定レンジの中の1つを選択する電流測定レンジ選択手段と、選択された前記電流測定レンジに該当する前記ディジタル信号から前記電流の測定値を求める電流測定値演算手段とを具備する構成とした。」 上記(チ)の「前記アナログ-ディジタル変換器の出力信号」は、検知した電流の大きさに対応した値であり、また、「前記電流測定レンジの中の1つを選択する」ことは、電流測定に利用する積分回路の積分定数を設定しているといえるので、上記(ソ)乃至(チ)から引用例4には実質的に、 「電流を検知した信号を積分回路で積分し、積分した信号をアナログ-ディジタル変換し、変換されたデジタル信号により電流の測定値を求める装置において、検知した電流の大きさに応じて、前記積分回路の積分定数を設定する構成。」 が記載されているといえる。 4.対比 (1)本願発明と引用発明との対応関係について A.引用発明の「演算増幅器」、「AD変換器」、「CPU」、「センス抵抗器」、「回路」は、本願発明の「オペアンプ」、「A/D変換回路」、「デジタル演算回路」、「所定の電送路」、「電子回路」に相当している。 B.引用発明において、演算増幅器、抵抗、コンデンサからなる回路は積分回路を構成し、かつ、特定の積分定数を有することは自明であり、また、引用発明は「前記センス抵抗器に流れる電流に対応した値を積分出力として前記演算増幅器から出力する」ものであるから、引用発明の「一端がセンス抵抗器に接続された抵抗の他端を反転入力端に接続し、前記反転入力端と出力端の間にコンデンサを接続した演算増幅器」からなる回路は、本願発明の「オペアンプ、および、前記オペアンプに接続される、1つ以上のコンデンサを含む素子群から構成され、所定の電送路を流れる電流を検出し、検出した前記電流に対応するアナログの値を、第1の積分定数で積分して出力する積分回路」に相当する。 C.引用発明では、「一端がセンス抵抗器に接続された抵抗の他端を反転入力端に接続し、前記反転入力端と出力端の間にコンデンサを接続した演算増幅器」からなる回路によりゼロ電流オフセット値が検出され、かつ、演算増幅器から出力されるゼロ電流オフセット値はアナログ値であることから、引用発明と本願発明は、「オフセットを検出し、検出した前記オフセットに対応するアナログの値を出力するオフセット検出回路」を備えている点で共通している。 D.引用発明では、MOSFETを導通させることでセンス抵抗に電流を流し、「一端がセンス抵抗器に接続された抵抗の他端を反転入力端に接続し、前記反転入力端と出力端の間にコンデンサを接続した演算増幅器」からなる回路を積分回路として動作させ、また、MOSFETを非導通にさせてることでセンス抵抗に電流を遮断し、「一端がセンス抵抗器に接続された抵抗の他端を反転入力端に接続し、前記反転入力端と出力端の間にコンデンサを接続した演算増幅器」からなる回路をオフセット検出回路として動作させているので、引用発明の「MOSFET」は、本願発明の「前記積分回路と、前記オフセット検出回路のうちのいずれか一方を選択する選択回路」に相当している。 E.引用発明では、演算増幅器から積分回路としてのアナログ値及びオフセット検出回路としてのアナログ値が出力され、かつ、AD変換器は演算増幅器の出力信号をAD変換するものであるから、引用発明の「AD変換器」も本願発明の「前記積分回路と前記オフセット検出回路のうちの、前記選択回路により選択された回路から出力されたアナログの値を、A/D変換」することを行っているといえる。 F.引用発明の「前記センス抵抗器に流れる電流に対応した値を積分出力として前記演算増幅器から出力する場合は、前記AD変換器の出力値を蓄算して前記センス抵抗器を通じて引き出される全電流量を測定」することは、本願発明の「前記A/D変換回路によりデジタル化されたデータが、前記積分回路の出力に対応するデータである場合、前記データの値を積算することで、前記電送路を流れる前記電流の積算値を演算」することに相当している。 G.引用発明では、演算増幅器から出力されたオフセット値はAD変換器によりデジタル値に変換されてからCPUにより累算されるので、引用発明と本願発明は、「前記デジタル化されたデータが、前記オフセット検出回路に対応するデータである場合、前記データの値に基づいて、オフセットの電圧値を演算する」点で共通している。 (2)本願発明と引用発明の一致点について 上記の対応関係から、本願発明と引用発明は、 「オペアンプ、および、前記オペアンプに接続される、1つ以上のコンデンサを含む素子群から構成され、所定の電送路を流れる電流を検出し、検出した前記電流に対応するアナログの値を、第1の積分定数で積分して出力する積分回路と、 オフセットを検出し、検出した前記オフセットに対応するアナログの値を出力するオフセット検出回路と、 前記積分回路と、前記オフセット検出回路のうちのいずれか一方を選択する選択回路と、 前記積分回路と前記オフセット検出回路のうちの、前記選択回路により選択された回路から出力されたアナログの値を、A/D変換するA/D変換回路と、 前記A/D変換回路によりデジタル化されたデータが、前記積分回路の出力に対応するデータである場合、前記データの値を積算することで、前記電送路を流れる前記電流の積算値を演算し、前記デジタル化されたデータが、前記オフセット検出回路に対応するデータである場合、前記データの値に基づいて、前記オフセットの電圧値を演算するデジタル演算回路と を備えた電子回路。」 の点で一致している。 (3)本願発明と引用発明の相違点について 本願発明と引用発明は、下記の点で相違する。 (相違点A) オフセット検出回路について、本願発明は「前記オペアンプ、および、前記素子群のうちの所定の一部の素子から構成され、前記第1の積分定数より小さい、0を含む第2の積分定数で、前記オペアンプのオフセットを検出」する構成であるのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点で相違する。 (相違点B) 積分定数の設定について、本願発明は「前記第1の積分定数と、前記第2の積分定数とは、それぞれ、相互に独立して設定」される構成であるのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点で相違する。 (相違点C) 積分定数の変更について、本願発明は「前記第1の積分定数は、前記所定の電送路を流れる電流の変動に対して、適応的に大きな値に変更される」構成としているのに対し、引用発明はそのような構成とはなっていない点で相違する。 5.当審の判断 (1)相違点A及びBについて 最初に、本願発明の「第1の積分定数より小さい、0を含む第2の積分定数」について検討すると、本願明細書の段落71には、 「【0071】 具体的には、第2のモードが選択されると、図2の電流積算アンプ回路12は、図4の等化回路12-2として形成され、伝達関数がゲインGのみとなる回路(以下、そのような回路をゲイン回路と称する)として動作する。即ち、図4の例では、第2の積分定数が0とされ、従って、電流積算アンプ回路12(等価回路12-2)よりオペアンプOPAMPの出力電圧Voが、オペアンプOPAMPのオフセットに対応する値として高速に出力される。」 と記載されているので、本願発明の「第2の積分定数」は、「伝達関数がゲインGのみとなる回路」により実現されているといえる。 次に、オペアンプのオフセットについて検討すると、オペアンプを含めた増幅器の分野では、入力がゼロの場合に出力される誤差電圧をオフセットとして補正することは周知である。 そして、引用例3には上記3.(3)に記載したように、 「増幅器の入力端子に抵抗を接続し、前記増幅器の入出力端子の間にキャパシタを接続して構成した積分回路において、前記増幅器のオフセットを短時間で補正するために、オフセット補正時には、前記増幅器の前記入出力端子の間に接続する素子を前記キャパシタではなく抵抗に切り換えて、入力されたゼロ電圧を前記増幅器自身のゲインで増幅してオフセット値を出力する前記増幅器のオフセット補正構成。」 が記載され、「入力されたゼロ電圧を前記増幅器自身のゲインで増幅」する点は、本願明細書に記載された「伝達関数がゲインGのみとなる回路」に相当するので、引用例3には増幅器のオフセット補正を行う場合、積分回路として機能する場合の積分定数より小さい、0を含む積分定数にする点が記載されているといえる。また、引用例3の構成では、積分回路として機能する場合の抵抗及びキャパシタと、オフセット補正を行う場合の抵抗はそれぞれ独立に適切な値に設定されていることは自明である。 してみると、引用発明において、積分回路を構成する演算増幅器のオフセットを短時間で補正させるために、積分器において積分を行う場合の積分定数と補正を行う場合の積分定数を、それぞれ、相互に独立して設定し、かつ、補正を行う場合の積分定数を0にすることで、相違点A及びBの構成とすることは、引用例3に記載された事項から当業者ならば容易に想到し得たものである。 (2)相違点Cについて 最初に引用例2に記載された事項について検討する。上記3.(2)に記載したように、引用例2には、 「電流検出抵抗に流れる電流に対応した信号を積分器により積分して電池の残量計測を行う構成において、前記積分器のリセット回数が数十以上に大きくなる条件を満たせば、電池電流の積分値はリセット回数のカウント値で決定でき、小さな積分値領域を計測する場合は、それに見合って積分コンデンサの容量値その他の定数設定を行うことで対応可能であること。」 の点が記載されていることから、測定する電流の積分値を積分器のリセット回数で決定するためには、測定する電流量により積分器が数十回以上リセットされる必要があり、また、上記「小さな積分値領域を計測する場合」の対応として、積分器を数十回以上もリセットするという条件を満たさないような少量の電流を計測する場合には、積分器が数十回以上リセットするように積分コンデンサの容量値を小さくするなどの設定を行えば良いことが開示されているといえる。即ち、引用例2には、電流検出抵抗に流れる電流が小さな値の場合には積分器のコンデンサの容量を小さく設定し、電流検出抵抗に流れる電流が大きな値の場合には積分器のコンデンサの容量を大きく設定することで、積分器のリセット回数により電池電流の積分値を決定できることが示唆されていると認められる。 さらに、積分回路を用いて電流測定を行う分野では、測定対象の電流の大きさに対して積分回路の積分定数を適応的に設定することは、例えば、上記3.(4)に記載された引用例4に、 「電流を検知した信号を積分回路で積分し、積分した信号をアナログ-ディジタル変換し、変換されたデジタル信号により電流の測定値を求める装置において、検知した電流の大きさに応じて、前記積分回路の積分定数を設定する構成。」 と記載されているように周知技術である。 してみると、引用発明と引用例2に記載された事項は、抵抗に流れる電流に対応した信号を積分器により積分して電流を計測する点で共通しており、電流測定分野では測定対象の電流の大きさに対して積分回路の積分定数を適応的に設定することは周知技術であることを考慮すると、引用発明に引用例2に記載された事項及び周知技術を適用し、センス抵抗器に流れる電流量の大きさに応じて演算増幅器に接続されるコンデンサの容量値を適応的に設定して積分定数を大きくすること、即ち、上記相違点Cの構成とすることは、当業者ならば容易に想到し得たものである。 (3)本願発明の作用効果について 本願発明の作用効果も、引用発明、引用例2乃至4に記載された事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明、引用例2乃至4に記載された事項及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について、検討するまでもなく拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-02-26 |
結審通知日 | 2010-03-02 |
審決日 | 2010-03-15 |
出願番号 | 特願2002-241704(P2002-241704) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H03F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 畑中 博幸 |
特許庁審判長 |
長島 孝志 |
特許庁審判官 |
小曳 満昭 飯田 清司 |
発明の名称 | バッテリパック、および、電子回路 |
代理人 | 稲本 義雄 |