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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1215775
審判番号 不服2008-9024  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-10 
確定日 2010-04-30 
事件の表示 特願2004-144025「分析用容器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月24日出願公開、特開2005-326240〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年5月13日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成20年5月12日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「樹脂組成物を立体容器状に切削加工により成形する工程と、
得られた成形体を不活性ガス中で焼成する工程と、
得られた成形体の表面を研磨する工程と、
得られた成形体を硝酸溶液に浸漬する工程と、
硝酸処理した成形体を純水で洗浄する工程を備えたことを特徴とする分析用容器の製造方法。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物及びその記載事項
当審におけるの拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、刊行物1ないし4には以下の事項がそれぞれ記載されている。以下、下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:特開平10-300663号公報の記載事項
(1a)「【請求項1】ガラス状炭素からなることを特徴とする原子吸光分析用キュベット。
【請求項2】前記ガラス状炭素として、嵩密度が1.4(Mg/m^(3))以上、開気孔率が1.5容積%以下、固有抵抗が25μΩm以上の特性を有するものである請求項1記載の原子吸光分析用キュベット。」
(1b)「【0003】しかし、黒鉛は基本的に多孔質であるため、例えばカルシウム元素などがいったん気孔内に入り込むと、いわゆる空焼きといわれる十分な後加熱を行なっても気孔に入り込んだカルシウム元素をすべて追い出すことは困難となり、若干のカルシウム元素は残留してしまうことがある。この場合は不純物分析の精度の低下につながるため、問題となる。そこで、この問題の改善策として、黒鉛基材(黒鉛円筒)に熱分解炭素をコーティングし、つまり黒鉛基材の表面に緻密な熱分解炭素の膜を被覆したキュベットが使用されるようになってきた。」
(1c)「【0009】即ち、ガラス状炭素の場合、熱分解炭素と同じく緻密性を有しており、また全体として均質であり、さらに内部に存在する気孔はミクロ的に見て黒鉛や熱分解炭素の有する気孔よりはるかに小さく、表面は比較的平滑な状態を保持している(ミクロ的な基準での評価である)。従って、気孔内への不純物元素の入り込み、ひいては残留という問題はほとんど生じないため、分析精度の低下を来すことはない。」
(1d)「【0012】なお、本発明で使用するガラス状炭素としては特別の限定条件はなく、通常のプロセス、つまり熱硬化性樹脂を成型して重合・硬化させた後、機械加工し、加工品を炭素化し、さらに高温処理して得られるガラス状炭素はもちろん、高緻密性、耐酸化性、耐薬品性等の特性を有するものであるかぎり、すべて有効に適用することができる。また、熱硬化性樹脂に黒鉛粉や炭素繊維等を混入したガラス状炭素も適用可能である。」
(1e)「【0014】
【実施例】以下本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものでないことは勿論である。
(実施例1)熱硬化性粉末フェノール樹脂(平均粒子径20μm)〔鐘紡(株)製ベルパール〕を温度160℃、圧力100kgf/cm^(2) の条件で10分間型込成形した後、200℃で24時間硬化させた。この硬化物を1000℃まで平均2℃/時の昇温速度で3000℃まで昇温してガラス状炭素材料を得た。このガラス状炭素材料をダイヤモンド切削工具並びにダイヤモンド砥石を用いて加工し、外径8mm、内径6mm、長さ30mmの円筒形の原子吸光分析用のガラス状炭素質キュベットを得た。」

(2)刊行物2:特開2000-95566号公報の記載事項
(2a)「【0005】かかるガラス状カーボンからなるダミーウエハーの製造方法としては、まず熱硬化性樹脂粉末又は熱硬化性の液状樹脂を公知の成形方法、例えば圧縮、注型、押出等の方法にて樹脂成形体を作成し、これを焼成炉内に入れて不活性ガス雰囲気下で焼成炭化してガラス状カーボン基板を得る。そして、得られたガラス状カーボン基板を最終製品に必要な板厚、平坦度、表面粗さを得るために端面の研削加工を経て粗研磨、中間研磨、仕上げ研磨をしてガラス状カーボンのダミーウエハーを得る製造方法が知られている。」
(2b)「【0018】次に、上記のフェノール樹脂成形体を不活性ガス雰囲気中で800℃以上に加熱して焼成炭化することによりガラス状カーボン基板が得られる。」
(2c)「【0023】このガラス状カーボン基板の表面を日本エンギス(株)製EJ-380IN型片面研磨機を用いて、フジミダイヤモンドスラリーを砥剤として粗研磨・中間研磨・仕上げ研磨した。得られたガラス状カーボン基板の表面に存在する直径10μm以上の欠陥数を、(株)ニコン製オプチフォト-2型光学顕微鏡を用い、反射型微分干渉の光学条件、倍率100倍で1cm2当たりについて数えた。1試料につき4個所測定し、得られた結果を表1に示す。表1から本実施例で得られたガラス状カーボン基板の欠陥数が非常に少ないことが判る。」

(3)刊行物3:特開2000-214105号公報の記載事項
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、機器中性子放射化分析(INAA)による微量不純物の測定方法に関する。より詳しくは、中性子照射前後に一連の操作を行うことにより、高純度の石英中の不純物の測定において微量域の不純物濃度を難分解物まで含めて正確に分析することが可能な分析方法に関するものである。」
(3b)「【0021】(中性子照射容器の洗浄)以上説明した石英製中性子照射容器をフッ酸で洗浄する。洗浄は、クリーンルームに設置されたクリーンベンチ内で50%フッ酸に30分程浸漬し表面をエッチング洗浄するのが良い。フッ酸濃度は1重量%以上の濃度が使用される。洗浄に用いるのはフッ酸硝酸の混酸などのフッ酸を含む混酸でも良い。浸漬に用いる容器はテフロン(商標)樹脂(フッ素樹脂)、特にPFA(ポリフロラルアルキル樹脂)のものを使用するのが良いがこれに限定されない。この容器をあらかじめ硝酸に浸せき洗浄しておいたものを、直前に取り出し純水で洗浄後使用すれば良い。」

(4)刊行物4:特開平8-15244号公報の記載事項
(4a)「【0014】・・・検出感度が高く、ごく微量のアルミニウムを精度良く測定することができ、かつランニングコストが低いアルミニウムの測定方法である本発明を完成するに到った。」
(4b)「【0042】なお、本発明においては、測定対象物中のアルミニウムの測定に誤差を与える測定対象物外よりのアルミニウムの混入を防ぐように十分に注意して実施をすることが望ましい。これには、試薬等は不純物としてのアルミニウムが含まれていない高純度試薬を用いること、水は2回蒸留を行った純度の高いものを用いること、容器及び器具は酸で洗浄してアルミニウムを除いた合成樹脂製のものを用いること及び環境中からのアルミニウムの混入を防ぐように注意して実施すること等が考えられる。」
(4c)「【0049】・・・本実施例において使用した器具及び容器は、テフロン製等の合成樹脂製のものを用い、その使用前に0.1N硝酸にて十分洗浄した後、蒸留操作を2回行った蒸留水にて洗浄した後使用した。そして、水は蒸留操作を2回行った蒸留水を使用した。」

3 対比・判断
刊行物1の上記記載事項から、刊行物1には、
「熱硬化性粉末フェノール樹脂を型込成形した後加熱硬化させた硬化物を、3000℃まで昇温してガラス状炭素材料を得る工程、このガラス状炭素材料をダイヤモンド切削工具並びにダイヤモンド砥石を用いて加工する工程、を有するガラス状炭素質の原子吸光分析用キュベットの製造方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「熱硬化性粉末フェノール樹脂を型込成形した後加熱硬化させた硬化物」、「原子吸光分析用キュベット」は、本願発明の「樹脂組成物」、「分析容器」にそれぞれ相当する。
(イ)刊行物1発明の「3000℃まで昇温してガラス状炭素材料を得る工程」は、樹脂からガラス状炭素を得る場合、不活性ガス中で焼成することは、例えば、刊行物2(上記(2a)(2b))にも記載されるとおり、当然のことであるから、本願発明の「不活性ガス中で焼成する工程」に相当する。
(ウ)刊行物1発明の「ガラス状炭素材料をダイヤモンド切削工具並びにダイヤモンド砥石を用いて加工する工程」は、ガラス状炭素質キュベットを製造するのであるから、立体容器状に加工するといえ、本願発明の「樹脂組成物を立体容器状に切削加工により成形する工程」とは、立体容器状に切削加工により成形する工程である点で共通している。
(エ)刊行物1発明の「ダイヤモンド砥石を用いて加工する」は、刊行物1には、キュベットの表面に不純物の残留することを防止し分析精度を向上させることを目的とすることが記載され(上記(1c))、刊行物2(上記(2c))に、ダイヤモンド砥剤でガラス状カーボンを研磨することが記載されていることから、この加工により表面が研磨されることは明らかである。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
樹脂組成物の成形体を不活性ガス中で焼成する工程と、得られた成形体の表面を研磨する工程を備え、立体容器状に切削加工により成形する工程を有する分析用容器の製造方法である点。

(相違点1)
立体容器状に切削加工により成形する工程が、本願発明では、樹脂組成物を焼成する前に行われるのに対して、刊行物1発明では、樹脂を焼成してガラス状炭素材料とした後行われる点。

(相違点2)
本願発明は、研磨後に、成形体を硝酸溶液に浸漬する工程と、硝酸処理した成形体を純水で洗浄する工程を有するのに対して、刊行物1発明は、このような工程を有さない点。

そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物1(上記(1d))には、熱硬化性樹脂を成型して重合・硬化させた後、機械加工し、加工品を炭素化し、高温処理して得られるガラス状炭素を用いてキュベットを構成してもよいこと、つまり、ガラス状炭素とする前に、機械加工しても良いことが記載されている。さらに、例えば、特開2000-30895号公報(【0024】)にも記載されるように、ガラス状炭素の部材を作る際に、樹脂の段階で切削加工するか、或いはガラス状炭素としてから切削加工するかは、任意に選択できることといえる。
そして、刊行物1(上記(1b))には、従来技術として、黒鉛製の容器は、黒鉛が多孔質であるため、カルシウム元素などの不純物が気孔内に入り込み、精度の低下につながることが問題であること、これを解決するために、従来は、黒鉛に熱分解炭素膜を被覆した容器を使用していたことが記載され、容器の表面に不純物を含む気孔がないことが重要であることが認識されていたといえる。
そうすると、刊行物1発明において、容器の表面が気孔を有さないものとなるように、上記のとおり刊行物1等に記載される、ガラス状炭素とする前に機械加工することを採用し、立体容器状に切削加工する工程を、樹脂をガラス状炭素とする前に行うことに格別の困難性があるとはいえない。

(相違点2について)
微量の金属等の元素を分析する際に、不純物の混入を防止するために、分析の過程で使用する容器等を硝酸溶液に浸漬して洗浄した後、純粋で洗浄することは、例えば、刊行物3、4にも記載されるように、微量元素分析における常套手段である。
そして、刊行物1発明は、不純物元素の混入を防止することを目的とするものであるから、研磨工程等において表面に付着した不純物を除去することにより、より精度を上げるべく、刊行物1発明において、製造したガラス状炭素の原子吸光分析用キュベットを硝酸溶液に浸漬し、硝酸処理した成形体を純水で洗浄することに格別の困難性があるとはいえない。

(本願発明の効果について)
そして、本願発明の効果は、刊行物1ないし4の記載事項から予測しうるものであり、格別顕著なものとはいえない。

4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-26 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-03-16 
出願番号 特願2004-144025(P2004-144025)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 郡山 順森 竜介  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 後藤 時男
竹中 靖典
発明の名称 分析用容器の製造方法  
代理人 池上 徹真  
代理人 松山 允之  
代理人 須藤 章  

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