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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1215817
審判番号 不服2007-25343  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-14 
確定日 2010-04-27 
事件の表示 特願2003-563400「組織の特性による組織検体の間接的な測定」拒絶査定不服審判事件〔平成15年8月7日国際公開、WO03/63699、平成18年4月20日国内公表、特表2006-512931〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年1月24日(パリ条約による優先権主張 平成14年1月25日 平成14年5月20日 平成14年12月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし67に係る発明は、平成19年10月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし67に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項40に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項40】
組織内の対象の検体を非侵襲的に測定するシステムであって、
コンピュータが、当該組織からの、組織の測定値を有する分析信号を収集する手段と、
当該コンピュータが、探知される組織に対する前記対象の検体の影響を示す前記分析信号から抽出された特徴に基づいて、当該検体の濃度を測定する手段と、
を有する、システム。」(以下、「本願発明」という。)

なお、請求項40は、本願出願当初明細書の請求項35に対応する請求項であることは、平成19年4月23付けの意見書にも記載されるとおりであり、同項に対しては、特許法第29条第1項第3号及び第2項の拒絶理由が通知され、拒絶査定がなされている。

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物1には以下の事項が記載されている。

(刊行物1:国際公開第2000/42907号の記載事項の日本語訳。なお、訳文は対応公表公報である特表2002-535023号公報によるものであり、段落番号もあわせて記載した。)
(1a)「【請求項7】インビボ皮膚組織の近赤外(NIR)吸収スペクトル上で動作することにより、血液アナライトを非侵襲的に測定するためのインテリジェントシステムであって:
機器から組織吸光度スペクトルを受取り、且つ基本的処理を実行する実施層と;
特徴抽出を実行する協調層と;
サンプルの状態および特徴を表す抽出された特徴に従って、患者を分類するために使用される分類システムとを具備し、
一以上の現存するキャリブレーションモデルからの予測を使用して、前記分類に基づくアナライト評価を形成するシステム。」第41頁18行?27行
(1b)「【請求項12】請求項7に記載のシステムであって、前記スペクトルにおける必要な波長の数は標的アナライトと干渉化学種との間の相互相関の関数であり、個人および個人間での顕著な変動を伴う非侵襲的適用のために、全体のスペクトルを使用するシステム。
【請求項13】 請求項7に記載のシステムであって:更に、
問題の信号に悪影響を生じることなく、ノイズおよび機器変動を減少させるスケーリング、正規化、スムージング、導関数、フィルタリングおよび他の変換のための前処理手段を具備するシステム。」第42頁11行?18行
(1c)「【0003】
各波長での光の吸光度は、当該組織の構造的性質および化学組成の関数である。それぞれが独特の不均一な粒子分布を含む組織層は、分散によって吸光度に影響する。水、タンパク質、脂肪および血液アナライトのような化学成分は、独特の吸収プロファイルまたは特性により、それらの濃度に比例して光を吸収する。血液アナライトの濃度の測定は、標的アナライトの吸光特性によって生じる光減衰の大きさを検出することに基づいている。キャリブレーションのプロセスは、測定された組織吸光度スペクトルから血液アナライト濃度を評価する数学的変換またはモデルの開発である。
【0004】
しかし、血液アナライトの正確な非侵襲的評価は、現在のところ、患者のサンプル、皮膚、および生きた組織の動的性質によって制限される。化学的、構造的および生理学的変動が起き、これによって組織サンプルの光学的性質の動的変化が生じる。」第1頁15行?第2頁4行
(1d)「【0006】
これらの変化には次の一般的カテゴリーが含まれる。
1.分光学的に干渉する化学種の同時変化: 血液アナライトのNIRスペクトル吸収プロファイルは、重畳し且つ短時間に亘って同時に変化する傾向がある。これは分光学的干渉を生じ、干渉する化学種の数よりも多くの独立に変化する波長において、吸光度を測定する必要性を生じる。
【0007】
2.サンプルの不均一性: 組織の測定部位は、組成および散乱が変化する複数の層および区画を有する。分光学的吸光度v. 波長は、これら組織成分の光学的性質および組成の複雑な組合せに関係している。従って、組織吸光度スペクトルの一般的表現またはモデルは非線型であり、第一原理を基礎として実現するのは困難である。
【0008】
3.状態変化: 患者の生理学的状態における変化は、比較的短時間に亘って組織層およびコンパートメントの光学的性質に影響する。このような変化は、例えば、水和レベル、組織中の血液の容積画分における変化、ホルモン刺激、温度変化および血液ヘモグロビンのレベルに関係する。
【0009】
4.構造的変化: 個人の組織特性は、遺伝的および環境的影響、老化プロセス、性別、および身体組成を含む因子の結果として異なっている。これらの相違は主として解剖学的であり、多様な組織形態を生じさせる穏やかに変化する構造的性質として分類することができる。結局、与えられた患者の組織は、皮膚の厚さ、タンパク質レベルおよび体脂肪率のような特異的な特性に直接関連し得る、明瞭な系統的スペクトル吸光度特性またはパターンを有する。この吸光度特性は、患者の集団に亘って患者により反復可能であるが、それらは困惑させる非線型のスペクトル変化を生じる。従って、患者間の相違は、NIRスペクトル吸光度による血液アナライトの非侵襲的測定に対する重要な障害である。
【0010】
非分散系において、上記(1)に類似した変化は、多重線形回帰および因子ベースのアルゴリズムのような多変量技術によって、容易にモデル化される。拡散反射率における組織の散乱特性をモデル化するためにかなりの努力が費やされてきたが、上記(2)で概説した問題は殆ど探究されていない。上記(3)および(4)に挙げたタイプの変化は重要な非線型スペクトル変動を生じ、これについては効果的な解決が報告されていない。例えば、非侵襲的グルコース測定の幾つかの報告された方法は、短時間に亘って、個体に特異的なキャリブレーションモデルを発展させる。」第2頁20行?第3頁最終行
(1e)「【0013】
上記で説明した変動を補償するための方法および装置を提供することが望ましいであろう。」第4頁13行目?14行
(1f)「【0015】
本発明は、血液アナライトを非侵襲的に測定するためのインテリジェントシステムを提供する。このシステムは、インビボでの皮膚組織の近赤外吸収スペクトル上において動作する。この階層的アーキテクチャーは、パターン分類エンジンを用いて、吸収スペクトルに現れた患者の構造的性質および生理学的状態に対して、該キャリブレーションを適合させる。」第4頁下から4行?第5頁1行
(1g)「【0028】
<特徴抽出>
特徴抽出は、解釈のためのサンプル測定の品質および特徴を向上する、何等かの数学的変換である(R. Duda, P. Hart,「パターン分類およびシーン解析」, John Wiley and Sons, New York (1973))。図1における特徴抽出の目的は、組織測定部位の構造的特性および生理学的状態を簡潔に表すことである。この一組の特徴は、患者を分類し、血液アナライト予測のために最も有用なキャリブレーションモデルを決定するために使用される。
・・・
【0029】
個々の特徴は二つのカテゴリーに分割される。即ち、
・アブストラクト的特徴
・単純な特徴
である。
【0030】
アブストラクト的特徴は、必ずしも物理系に関連した特定の解釈をもたない。即ち、主成分分析のスコアは、それらの物理的解釈が常に知られてはいないが、有用な特徴である。主成分分析の有用性は、組織吸収スペクトルの性質に関連している。組織スペクトル吸光度における最も重要な変動は、血液アナライトによっては生じないが、測定部位の状態、構造および組成に関連している。この変動は、該主成分によってモデル化される。従って、首位の主成分は、組織測定部位の構造的性質および生理学的状態に関連した変動を表す傾向がある。
【0031】
単純な特徴は、サンプルのアプリオリな理解から誘導され、物理的現象に直接関連し得る。NIRスペクトル吸収測定から計算できる有用な特徴には、下記のものが含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
1.脂肪組織の厚さ・・・
2.組織の水和・・・
3.タンパク質の吸光度の大きさ・・・
4.組織の散乱特性・・・
5.皮膚の厚さ・・・
【0033】
6.温度関連効果・・・
7.年齢関連効果・・・
8.性別に関する分光学的特徴。
9.経路長評価・・・
10.組織における血液の容積画分・・・
11.環境的影響に関する分光学的特徴・・・
12.ヘマトクリットのレベル・・・
スペクトル分解は、既知のスペクトル吸収パターンに関連した特徴を決定するために用いられる。例えば、タンパク質および脂肪は既知の吸光度特性を有しており、これらは組織スペクトル吸光度に対するその寄与を決定するために用いることができる。この測定された寄与は一つの特徴として用いられ、単一の値によって、その根底にある変数を表す。」第10頁1行?第13頁2行
(1h)「【0053】
<キャリブレーション>
血液アナライトの予測は、図1に示したように、前処理された測定値へのキャリブレーションモデルの適用によって生じる。提案された予測システムは、分類工程に基づいて適用または選択される、キャリブレーションまたは一組のキャリブレーションモデルを含んでいる。以下の議論は、二種類の分類子のためのキャリブレーションシステムを説明する。
【0054】
相互に排他的なクラス:
一般的なケースにおいて、指定された分類は、患者の分類およびスペクトル測定に基づいて血液アナライトの予測を与え、非線型モデルに通される。図5に示されたこのプロセスは、吸収スペクトルに現れた構造的な組織特性および生理学的な状態に従った、現在の患者の評価ストラテジーの変更を含んでいる。
【0055】
マッピングは高度に非線型であるから、この一般的なアーキテクチャーは非線型キャリブレーションモデル50、例えば、非線型の部分最小二乗法または人工ニューラルネットワークを必要とする。cによって特定された分類を伴う前処理された測定値xについての身体アナライト予測は、次式によって与えられる:

【0056】
非線型キャリブレーションモデルである。
【0057】
図6の好ましい実施例において、異なるキャリブレーション60が夫々のクラスについて実現される。この評価されたクラスは、現在の測定値を用いた血液アナライト予測に最も適したp個のキャリブレーションモデルの一つを選択するために使用される。kが測定についてのクラス評価であるとすれば、血液アナライトの予測は下記の通りである:

【0058】
このキャリブレーションは、参照血液アナライト値および予め割当てられた分類定義を伴った、一組の例示吸光スペクトルから作成される。「キャリブレーションセット」と称されるこの組は、患者集団、および患者母集団における生理学的状態の範囲を完全に表す充分なサンプルを有していなければならない。p個の異なるキャリブレーションモデルが、p個のクラスの夫々に割当てられた測定値から個別に作成される。これらのモデルは、主成分回帰(例えば、H. Martens, T. Naes,「多変量キャリブレーション」, New Yor, John Wiley and Sons (1989)を参照されたい)、部分最小二乗回帰(例えば、P. Geladi, B. Kowalski,「部分最小二乗回帰:チュートリアル」, Analytica Chemica Acta, 185, pp.1-17 (1986)を参照のこと)、および人工ニューラルネットワーク(例えば、S. Haykin,「ニューラルネットワーク:包括的基礎」, Upper Saddle River, NJ, Prentice-Hall (1994)を参照のこと)を含む公知の方法を使用して実現される。
【0059】
各クラスに関連した種々のモデルは、独立した試験セットまたは相互検証に基づいて評価され、最良のモデルセットがインテリジェント測定システムに組込まれる。こうして、患者の各クラスは、夫々に特異的なキャリブレーションモデルを有する。」第17頁下から6行?第19頁7行
(1i)「【0072】
<機器の説明>
インテリジェント測定システムは、拡散反射率測定を通して患者の前腕のNIR吸収スペクトルを決定する、走査型分光計において実現される。集積機器およびIMSのブロック図が図9に示されており、これには一般的な機器部品、IMS 90および表示システム(出力装置)91が含まれている。この機器は、水晶ハロゲンランプ92、モノクロメータ93、患者インターフェースモジュール97、検出光学系98、およびInGaAs検出器94を用いる。患者95から検出された強度は、アナログ電子機器94によって電圧に変換され、また16ビットのA/Dコンバータ96によってデジタル化される。このスペクトルは、処理のためにIMSに通されてグルコース予測を生じ、または無効な操作を示すメッセージを生じる。」第22頁13行?最終行
(1j)「【0077】
<詳細な説明>
NIRスペクトル管理:
測定されたNIRスペクトルmは、1100?2500nmの波長範囲に均一に分布した吸光度値を含むベクトルである。今回の適用においては、N=1400である。測定の一例が図1に示されている。」第24頁3行?7行
(1k)「【0083】
処理1および特徴抽出1:
第一の特徴は、男性および女性のカテゴリーへの患者の分類の結果であり、スペクトル前処理、主成分分析による分解、および線形判別分析による分類化を含んでいる。この特徴は患者の性別の決定ではなく、他の患者のものと比較したときの、サンプリングされた組織容積の尺度を与える。
図11に示したこのプロセスは、異常値検出システム111から吸収スペクトルmを受け取る。波長選択112を適用して、脂肪組織におけるスペクトル範囲を、脂肪組織にの脂肪による顕著な吸収を持った領域(1100?1400nm)まで切り取る、次に、このスペクトルをインテリジェントシステムに含まれており、且つ先の例示サンプルの組から決定された予想または参照スペクトルmにそれを適合させる回転によって、多変量散乱補正113・・・により処理する。まず、次式に従って、スペクトルは線形回帰を介して適合される:
・・・
【0084】
ここで、xは処理された吸収スペクトルである。この処理されたスペクトルは、(例示吸収スペクトルのキャリブレーションセット上の)主成分分析114によって先に形成された固有ベクトルpk上に投影され、IMS-CCに保存される。図11に示したこの計算は、スコアxpcの1×Nベクトルを生じる
最初のMスコア(この適用ではM=5)に基づいて患者を分類するために、判別関数が適用される。図11に示すように、このスコアは判別式wとの外積によって回転されて、
スカラーL(115)を生じる。この結果はL、即ち、二つのクラス間の中央値と比較される。もし、L>Lであれば、患者は女性118に分類され、特徴z_(1)=1である。そうでなければ、そのスペクトルは男性117に属するものとして分類され、z_(1)=0である。
【0085】
処理2および特徴抽出2:
第二の特徴抽出プロセス103(図10参照)は、図12に表されており、部分最小二乗回帰(PLS)により作成された線形モデルを使用した、患者の年齢予測を含んでいる。まず、波長領域が1100?1800nmの領域に切り取られる120.次に、IMS-CCの一部であるキャリブレーションモデルによって、患者の年齢が予測される。このモデルは、例示サンプルのキャリブレーションセット上でPLSにより作成されたものであり、ベクトルwに含まれる一組の係数からなっており、図12に示すように適用されて、年齢予測aを生じる121。この患者は、図12に詳述されているように、aを平均年齢 /a=49 と比較することにより、「若年」または「熟年」として分類される。この分類の結果は計算された特徴z_(2)であり、これは「熟年」123または「若年」124に夫々対応して、0または1の値を取る。
【0086】
メンバーシップ規則:
図13に示したメンバーシップ規則104は、測定された吸収スペクトルから血中グルコース濃度を予測するための、適切なキャリブレーションモデルを決定する。二つの特徴z1およびz2に基づいて、四つのクラスが可能である。その決定の結果は、PLS1-4と記した、血中グルコース濃度を予測するために使用する四つのキャリブレーションモデルのうちの一つを選択することである。
【0087】
患者の明かな観察ではなくスペクトルデータに基づくこの分類は、患者の組織の状態を示す故に必要なものである。例えば、「熟年」の分類は、患者のスペクトルが、先に老いた個体から集めたスペクトルに類似しているように見えることを示している。この結果は年齢と相関するが、必ずしも実際の暦年齢に基づいて推定されるものではない総体的なスペクトル特性を反映する。
【0088】
前処理3:
吸収スペクトルは、上記で述べたMSC、および最終衝撃反応フィルター125の形の31点Savisky-Golay一次導関数によるキャリブレーションのために、特別に処理される(A. Svitzky, M. Golay,「単純化された最小二乗法によるデータのスムージングおよび微分」, Anal. Chem., vol. 38, no. 8, pp. 1627-1639, 1964参照)。その結果は、減算による平均中央値x、即ち、IMS-CCに保存されている例示サンプルのキャリブレーションセットからの平均処理された吸収スペクトルである。次の波長を含むように波長選択が行われる:1100?1350nm、1550?1750nm、および2050?2375nm。
【0089】
予測モデル選択1-2:
図10の二つの選別器126,127に記載した応用のために、患者の分類に基づいて、四つのキャリブレーションモデルのうちの一つが選択される。
【0090】
キャリブレーションモデルPLS1,PLS2,PLS3,PLS4:
四つのキャリブレーションモデル107?110は、夫々、xをグルコースの予測値にマップする係数の1×Nベクトルからなっている。係数の夫々のセットは、その関連のクラスに属するものとして分類されたサンプル(キャリブレーションセットからの)を使用して作成されたものである。従って、これらのモデルは、それらの夫々のクラスに分類される患者について、グルコース濃度レベルを予測することに制限される。
【0091】
処理されたスペクトルx、分類c、およびcに付随するモデル係数w_(c)が与えられれば、血中グルコース予測値は次式により与えられる:
【0092】
【数4】

【0093】
ここで、w_(c,k)は、w_(c)の第k番目の要素である。」第24頁最終行?第27頁最終行
(1l)「【0127】
<実験結果>
概観:
二つの実施例(IMS-CCおよびIMS-FC)の実施可能性および特性を実証するために研究を行った。この研究の全体を通して糖尿病患者が走査され、参照血中グルコース濃度を決定するために血液が採取された。患者は、キャリブレーションセットおよび試験セットにランダムに分離されて、キャリブレーションモデルを構築され、試験された。比較の目的で、標準(PLS)キャリブレーションが行われた。最後に、二つの実施例の特性が試験され、標準キャリブレーションと比較された。
【0128】
実験:
地域の糖尿病ケア施設において、年齢、性別および民族性の多様な糖尿病患者(266)を採用し、各参加者に関する詳細な人口統計情報を記録した。各患者の前腕部で反復して4回の吸収スペクトルを測定し、参加者当りのサンプルの数は一つに制限された。同時に採取した静脈採血を、独立した血液研究所によって、ヘキサキナーゼ酵素法により化学的に分析し、参照グルコース濃度を測定した。母集団の平均グルコース濃度は120mg/dLであり、標準偏差は50mg/dLであった。
【0129】
データは、ランダム選択を使用して、キャリブレーションセットおよび試験セットに分割された。このキャリブレーションセットを使用して、図10および図14における分類、およびキャリブレーションに必要なモデルを構築した。この試験セットは、構築されたシステムに適用され、また評価のために使用された。
【0130】
結果:
標準キャリブレーション
比較の目的で標準PLSキャリブレーションを作成し、これを異常値分析および前処理後にデータについて評価した。この(PCA-q残部)異常値分析を上記のようにして行い、異常に高い残余成分のため36サンプルを除去した。吸収スペクトルを、MSCおよび31点Savisky-Golay一次微分によって処理した。この結果は、キャリブレーションおよび試験セットの両方からキャリブレーションセットの平均スペクトルを差し引くことによって、平均中央値化された。
【0131】
キャリブレーションセットにPLSを適用し、相互検証(leave-one-out)によって予測エラーを最適化することにより、因子の数(20)が選択された。全てのキャリブレーションサンプルおよび20因子を使用して、最終PLSキャリブレーションモデルが構築された。キャリブレーションおよび試験セットの両者にキャリブレーションモデルを適用した。その結果を表3に列記した。
【0132】
表3: インテリジェント測定システムを標準キャリブレーション法と
比較する予測結果。IMS-CCは明確な分類を伴うシステムに
対応する(図10)。IMS-FCはファジー分類を含む(図14)
・・・
【0133】
明確な分類:
先のセクションで説明した異常値を除去し、キャリブレーションセットを使用してパラメータ、固有ベクトル、および図10に示した構造のキャリブレーションモデルを決定した。これは、異常値分析のための固有ベクトル(o)、MSCのための平均スペクトル、図11に示した固有ベクトル(p)および判別関数(w)、図12に示した年齢キャリブレーション(W)、および図10の処理3におけるMSCのための平均スペクトルを含んでいる。
【0134】
次に、図13のメンバーシップ規則を使用してキャリブレーションを分類し、四つの個別サブセットに分離した。各サブセット、または図10のキャリブレーションモデルPLS1-4に対応するクラスについて、キャリブレーションモデルを作成した。各キャリブレーションモデルはPLSによって作成され、また、因子選択はキャリブレーションセット上での相互検証によって行われた。
【0135】
この構築されたIMS-CCをキャリブレーションおよび試験セットに適用し、結果を表3に列記した。試験セット特性は基礎キャリブレーションに対して顕著に改善し、予測システムに起因した特性改善を示していることが分かる。」第35頁下から9行?第38頁9行
(1k)図9には、インテリジェント測定システム機器のブロック概略図が示され、図10には、インテリジェント測定システムのブロック概略図が示されている。

3 対比・判断
上記の記載事項(特に、上記(1a)、(1h)?(1m))から刊行物1には、
「患者の前腕組織を測定した近赤外吸収スペクトルに基づいて、血液アナライトを非侵襲的に測定するためのシステムであって、
測定機器から吸光度スペクトルを受取る手段、
キャリブレーションセットの吸光度スペクトルにおいて、1100?1400nmの脂肪組織の波長領域等の特定の波長領域を選択して前処理を実行し、処理された吸収スペクトルを得る手段と、
前記処理された吸収スペクトルから特徴抽出を実行し、抽出された特徴から患者を分類する分類手段と、
分類ごとに、前記処理された吸収スペクトルデータを血中アナライト濃度と対応付けたキャリブレーションモデルを作成する手段と、
試験セットの吸収スペクトルにおいて、1100?1350nm、1550?1750nm、及び2050?2375nmの波長領域を含むように波長選択し前処理して得た、処理された吸収スペクトルから、前記キャリブレーションモデルを使用して、血液アナライト濃度を予測する手段とを有するシステム」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(1)刊行物1発明の「患者の前腕組織」、「血液アナライト」は、本願発明の「組織」、「対象の検体」にそれぞれ相当する。
(2)刊行物1発明の各手段は、明示されていないものの技術常識からみてコンピュータにより構成されることは明らかである。
(3)刊行物1発明の「測定機器から吸光度スペクトルを受取る手段」は、本願発明の「コンピュータが、当該組織からの、組織の測定値を有する分析信号を収集する手段」に相当する。
(4)刊行物1発明の「試験セットの吸収スペクトルにおいて、1100?1350nm、1550?1750nm、及び2050?2375nmの波長領域を含むように波長領域を選択して前処理を実行し、処理された吸収スペクトルから、前記キャリブレーションモデルを使用して、血液アナライト濃度を予測する手段」について、選択される波長領域は、使用するキャリブレーションモデルが、脂肪組織に着目し、脂肪組織の波長領域を選択して作成されたものである場合は、これと同じ波長領域でなければ、このキャリブレーションモデルを使用して、血中グルコース濃度を予測することができないから、試験セットの処理においても、1100?1350nmの脂肪組織の吸収領域を選択して前処理を行い、処理された吸収スペクトルデータから、血中グルコース濃度を予測することは明らかである。そして、刊行物1(上記(1b))の記載から、「前処理」は、正規化や導関数といった変換処理を含むものである。
一方、本願明細書段落【0134】?【0136】、【図14】には、本願発明の一実施例として、波長領域として脂肪帯が選択され、脂肪帯の吸収スペクトルの二次導関数から抽出された特徴と採血して求めたブドウ糖濃度の較正セットからブドウ糖濃度を間接的に測定できることが図14から実証できたとされている。
そうすると、刊行物1発明と本願発明はいずれも、脂肪組織の吸収スペクトルを変換処理した値と、血中のブドウ糖濃度の較正セット、つまり血中グルコース濃度のキャリブレーションモデルとを用いて、血中グルコース濃度を非侵襲的に測定する点で共通するものである。
したがって、刊行物1発明の「試験セットの吸収スペクトルにおいて、1100?1350nm、1550?1750nm、及び2050?2375nmの波長領域を含むように波長領域を選択し前処理して得た、処理された吸収スペクトルから、前記キャリブレーションモデルを使用して、血液アナライト濃度を予測する手段」と、本願発明の「探知される組織に対する前記対象の検体の影響を示す前記分析信号から抽出された特徴に基づいて、当該検体の濃度を測定する手段」とは、探知される組織の分析信号から抽出された値に基づいて、当該検体の濃度を測定する手段である点で共通している。
(5)刊行物1発明は、「処理された吸収スペクトルから特徴抽出を実行し、抽出された特徴から患者を分類する分類手段」を有するものであるが、これは、より適切なキャリブレーションモデルを適用するために行うものと考えられ、本願発明は、このような手段を有することを排除するものではなく、「探知される組織に対する前記対象の検体の影響を示す前記分析信号から抽出された特徴に基づいて、当該検体の濃度を測定する手段」は、このような分類システムを有することを包含するものである。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
組織内の対象の検体を非侵襲的に測定するシステムであって、
コンピュータが、当該組織からの、組織の測定値を有する分析信号を収集する手段と、
当該コンピュータが、探知される組織の分析信号から抽出された値に基づいて、当該検体の濃度を測定する手段と、
を有する、システムである点。

(相違点)
検体の濃度を測定するのに用いる、探知される組織の分析信号から抽出された値が、本願発明では、探知される組織対する対象の検体の影響を示すものであるのに対して、刊行物1発明では、探知される組織対する対象の検体の影響を示すものであることを規定していない点。

そこで、上記相違点について検討する。
本願発明及び刊行物1発明は、上記「(4)」に記載したとおり脂肪組織の吸収領域のスペクトルを処理したものをグルコース濃度の測定に利用する点で一致したものであり、両者のシステムで行うことに違いはなく、本願発明の脂肪組織の吸収領域のスペクトルが、対象の検体の影響を受けているという規定は、脂肪組織で生じているであろう現象を記載したものであり実質的な違いとはならない。
また、仮に、対象の検体の影響を受けているという規定が相違点であったとしても、刊行物1(上記(1c)?(1f))に、化学的、構造的および生理学的変動によって組織サンプルの光学的性質の動的変化が生じることが記載され、さらに、グルコース濃度と脂肪組織の処理されたスペクトルが、キャリブレーション可能な関係にある以上、刊行物1発明の脂肪組織の処理された吸収スペクトルが、対象の検体の影響を受けていると規定することに格別の困難性があるとはいえない。

4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるか、或いは刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-01 
結審通知日 2009-12-02 
審決日 2009-12-15 
出願番号 特願2003-563400(P2003-563400)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上田 正樹  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 宮澤 浩
岡田 孝博
発明の名称 組織の特性による組織検体の間接的な測定  
代理人 沢田 雅男  

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