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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1215849
審判番号 不服2008-27655  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-30 
確定日 2010-04-30 
事件の表示 平成11年特許願第250700号「内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月21日出願公開、特開2001- 73867〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成11年9月3日の出願であって、平成19年11月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成20年1月28日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年5月7日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対して同年7月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月16日付けで上記平成20年7月9日付け手続補正書でした明細書又は図面についての補正の却下の決定がなされるとともに、同日の平成20年9月16日付けで拒絶査定がなされ、同年10月30日付けで同拒絶査定に対する不服審判が請求されるとともに、同年11月28日付けで審判請求書の請求の理由が補正されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされ、その後、当審における平成21年10月5日付けの書面による審尋に対して、同年12月10日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成20年11月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年11月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成20年11月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成20年1月28日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(1)に示す請求項1及び2の記載を、下記(2)に示す請求項1及び2の記載へと補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】 シリンダと、シリンダヘッドと、燃焼室と、この燃焼室に連なる吸気通路と、この吸気通路の上流側に配置して吸気通路の断面積を調節する絞り弁と、前記燃焼室と前記吸気通路との間に配置して両者の間を開閉する吸気弁とを備える内燃機関であって、前記絞り弁と前記吸気弁との間の吸気系に燃料噴射装置を配置し、前記燃焼室の冷却を行う冷却液通路を少なくとも前記シリンダヘッド内に設けた内燃機関において、
前記シリンダが前方略水平に延びた状態で前記内燃機関を無段変速機と組合せてパワーユニットとし、このパワーユニットを車体フレームにリンクを介して揺動自在に支持し、
前記シリンダの上方に前記吸気通路を配置し、且つ前記シリンダの下方に前記燃焼室に連なる排気通路を配置し、
前記吸気通路は、下流側から上流側へ向って、前記吸気弁の位置から前記シリンダの軸線に略平行に且つ前記燃焼室から遠ざかる方向に延出した後、シリンダの軸線にほぼ直角に外方へ屈曲し、再びシリンダの軸線に略平行に延出することで前記シリンダと前記シリンダヘッドとの接合面の延長線まで延びた略U字形状の通路を有し、この通路から後方に延び、前記エンジンの上面と離間して設けられた前記絞り弁に接続した通路を有するものであり、
前記燃料噴射装置は、略U字形状の吸気通路の屈曲した底部に配置したものであり、
前記冷却液通路は、前記吸気通路の底部の側面および下流側端部に渡り設けられ、シリンダブロックのシリンダヘッド側上部において、前記シリンダブロックの冷却液通路に連通されたものである
ことを特徴とした内燃機関。
【請求項2】 前記燃料噴射装置は、
前記吸気通路における略U字形状の外側に配置され、
平面視において前記吸気通路の軸線方向に配置されるとともに、側面視において前記エンジンの最上位部位より上方に配置され、
前記吸気通路に先端部が後下がりに接続されたことを特徴とする請求項1記載の内燃機関。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 シリンダと、シリンダヘッドと、燃焼室と、この燃焼室に連なる吸気通路と、この吸気通路の上流側に配置して吸気通路の断面積を調節する絞り弁と、前記燃焼室と前記吸気通路との間に配置して両者の間を開閉する吸気弁とを備える内燃機関であって、前記絞り弁と前記吸気弁との間の吸気系に燃料噴射装置を配置し、前記燃焼室の冷却を行う冷却液通路を少なくとも前記シリンダヘッド内に設けた内燃機関において、
前記シリンダが前方略水平に延びた状態で前記内燃機関を無段変速機と組合せてパワーユニットとし、このパワーユニットを車体フレームにリンクを介して揺動自在に支持し、
前記シリンダの上方に前記吸気通路を配置し、且つ前記シリンダの下方に前記燃焼室に連なる排気通路を配置し、
前記吸気通路は、下流側から上流側へ向って、前記吸気弁の位置から前記シリンダの軸線に略平行に且つ前記燃焼室から遠ざかる方向に延出した後、シリンダの軸線にほぼ直角に外方へ屈曲し、再びシリンダの軸線に略平行に延出することで前記シリンダと前記シリンダヘッドとの接合面の延長線まで延びた略U字形状の通路を有し、この通路から後方に延び、前記エンジンの上面と離間して設けられた前記絞り弁に接続した通路を有するものであり、
前記燃料噴射装置は、略U字形状の吸気通路の屈曲した底部に配置したものであり、
前記冷却液通路は、前記吸気通路のU字形状の底部の側面、および燃料噴射装置が取り付く周囲を含む該U字形状の底部の外側および下流側端部に渡り設けられ、シリンダブロックのシリンダヘッド側上部において、前記シリンダブロックの冷却液通路に連通されたものである
ことを特徴とした内燃機関。
【請求項2】 前記燃料噴射装置は、
前記吸気通路における略U字形状の外側に配置され、
車両の平面視において前記吸気通路の軸線方向に配置されるとともに、車両の側面視において前記エンジンの最上位部位より上方に配置され、
前記吸気通路に先端部が後下がりに接続されたことを特徴とする請求項1記載の内燃機関。」(下線は、補正箇所を明示するためのものである。)

2.新規事項について
請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明における「前記冷却液通路は、前記吸気通路の底部の側面および下流側端部に渡り設けられ、シリンダブロックのシリンダヘッド側上部において、前記シリンダブロックの冷却液通路に連通されたものである」という発明特定事項を、本件補正後の請求項1に係る発明における「前記冷却液通路は、前記吸気通路のU字形状の底部の側面、および燃料噴射装置が取り付く周囲を含む該U字形状の底部の外側および下流側端部に渡り設けられ、シリンダブロックのシリンダヘッド側上部において、前記シリンダブロックの冷却液通路に連通されたものである」という発明特定事項へと補正するものである。
ところで、当該本件補正後の請求項1に係る発明における発明特定事項に関して、本件出願の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の段落【0006】及び【0007】には、「エンジンEに供給する吸気及び燃料は、エンジンからの熱伝導による加熱ができるだけ抑制されることが好ましい。エンジンEを水冷エンジンとした場合に、燃焼室の冷却を行う冷却液通路を取り回して、吸気通路及び燃料供給系の加熱を抑制したい。吸気通路に燃料噴射装置を取付けた場合であっても、同様である。
そこで本発明の目的は、…(中略)…燃料噴射装置の周辺の冷却を可能とすることにある。」と記載されているものの、同じく当初明細書等の段落【0042】ないし【0044】には、図面とともに「シリンダブロック112は冷却液通路112cを設け、また、シリンダヘッド115も冷却液通路128を設けたものである。少なくともシリンダヘッド115内に設けた冷却液通路128は、主に燃焼室116の冷却を行うものであるが、吸気通路122のU字底部の周囲にも設けたことを特徴とする。具体的には、吸気通路122の屈曲した底部の周囲を冷却液通路128で囲うようにした。
本発明は、吸気系のうち、インレットパイプ134の上流側にある絞り弁(図7参照)と吸気弁121との間に燃料噴射装置140を配置したものである。
…(中略)…
具体的には、略U字形状の吸気通路122の屈曲した底部、すなわち、吸気通路122の前端部(この図の左側)に取付口129を形成し、この取付口129に燃料噴射装置140を、前上方から吸気通路122の下流側へ向けて取付けた。」と、また同じく当初明細書等の段落【0049】及び【0050】には、図面とともに「図9に示すように、略U字形状の吸気通路122の屈曲した底部に燃料噴射装置140を配置したので、燃料噴射装置140から吸気弁121に向って燃料Fuを噴射させることは容易である。
さらに、略U字形状の吸気通路122の上流端122aを、シリンダ113とシリンダヘッド115との接合面Bの延長線Cの近傍に配置したので、燃焼室116の冷却を行う冷却液通路128を取り回して、吸気通路122をも冷却することができる。この結果、吸気がエンジン110からの熱伝導によって加熱されることを、より抑制することができる。」などと記載されているのみであって、当初明細書等には、「冷却液通路」を、「吸気通路122のU字底部の周囲」または「吸気通路122の屈曲した底部の周囲」などの「燃料噴射装置の周辺」ではなく、「燃料噴射装置が取り付く周囲」に設けることは、何ら記載されておらず、かつ、このことは、当初明細書等の記載からみて自明な事項でもない。
なお、本件審判請求人は、上記回答書において、「冷却液通路」を、「燃料噴射装置が取り付く取付孔の周囲」に設けることとする補正を強く希望する旨回答しているが、このことも上記したと同様に、当初明細書等に何ら記載されていないとともに、当初明細書等の記載からみて自明な事項でもない。

3.本件補正の適否
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

次に、請求項1についての本件補正は、「冷却液通路」を、本件補正前の請求項1における「吸気通路の底部の側面」および「下流側端部」に渡り設けるものから、本件補正後の請求項1における「吸気通路のU字形状の底部の側面」、および「燃料噴射装置が取り付く周囲を含む該U字形状の底部の外側」および「下流側端部」に渡り設けるものへと補正することにより、本件補正前の請求項1における「冷却液通路」に関する発明特定事項を限定するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

3-1.引用文献1
(1)原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平9-144599号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
なお、下線は当審において付した。

ア.「【0012】
【発明の実施の形態】以下本発明に係る一実施の形態について図1ないし図4に図示し説明する。図1は、本発明に係るユニットスイング式内燃機関を備えたスクータ型自動二輪車1の側面図である。車体前部2と車体後部3とが、低いフロア部4を介して連結されており、車体の骨格をなす車体フレームは、概ねダウンチューブ6とメインパイプ7とからなる。」(段落【0012】)

イ.「【0015】メインパイプ7の立ち上がり部下端にはブラケット15が突設され、同ブラケット15にリンク部材16を介してスイングユニット17が揺動自在に連結支持されている。
【0016】スイングユニット17には、その前部に単気筒の4サイクル内燃機関30が、シリンダブロック32を略水平に近い状態にまで大きく前傾した姿勢で搭載され、そのユニットスイングケース31のクランクケースに相当する部分の下端から前方に突出したハンガーブラケット18の端部が前記リンク部材16にピボット軸19を介して連結されている。
【0017】該内燃機関30から後方にかけてベルト式無段変速機35が構成され、その後部に設けられた減速機構38に後輪21が軸支されている。この減速機構38の上端と前記メインパイプ7の上部屈曲部間にリヤクッション22が介装されている。
【0018】スイングユニット17の上部には、内燃機関30のシリンダヘッド33の上部から延出した吸気管23に接続された気化器24および同気化器24に連結されるエアクリーナ25が配設されている。他方ユニットスイングケース31の下部に突設されたハンガーブラケット18には、メインスタンド26が枢着されており、ベルト式無段変速機35の伝動ケースカバー36から突出したキック軸27にキックアーム28の基端が固着され、同キックアーム28の先端にキックペダル29が設けられている。」(段落【0015】ないし【0018】)

ウ.「【0020】図2は、スイングユニット17を図1の概ねII-II線に沿って截断し展開した断面図である。ユニットスイングケース31は、左右割りの左ユニットケース31Lと右ユニットケース31Rとを合体して構成されるもので、右ユニットケース31Rは、クランクケース部の半体をなし、左ユニットケース31Lは、前後に長尺で前部のクランクケース部31a,中央の伝動ケース部31b,後部の減速機ケース部31cからなる。」(段落【0020】)

エ.「【0023】内燃機関30は、シリンダブロック32のシリンダライナ44内を往復動するピストン42とクランク軸40のクランクピン40aとをコネクティングロッド43が連結している。本4サイクル内燃機関30は、OHC型式のバルブシステムを採用しており、シリンダヘッドカバー34内には動弁機構50が設けられ、同動弁機構50に駆動伝達を行うカムチェーン51がカムシャフト53とクランク軸40との間に架設されており、そのためのカムチェーン室52が、クランクケース部31a,シリンダブロック32,シリンダヘッド33に連通して設けられている。
【0024】すなわち左右水平方向に指向したカムシャフト53の左端に嵌着された被動スプロケット54と、クランク軸40に嵌着された前記駆動スプロケット55との間にカムチェーン51がカムチェーン室52内を通って架渡されている。シリンダヘッド33においてカムチェーン室52と反対側(右側)から燃焼室に向かって点火プラグ45が嵌入されている。
【0025】図3に示すようにシリンダヘッドカバー34内の動弁機構50は、シリンダが水平に近い状態にまで大きく前傾しているので、カムシャフト53の上下に吸気バルブ56と排気バルブ57が配設されており、上下のロッカーシャフト58,58にはそれぞれロッカーアーム59,59が揺動自在に枢着され、カムシャフト53のカムの回転によりロッカーアーム59,59は揺動して所定のタイミングで吸気バルブ56と排気バルブ57の開閉動作を行わせる。」(段落【0023】ないし【0025】)

(2)上記(1)のア.ないしエ.の記載事項及び図1ないし3からわかること。
オ.上記(1)のイ.及びエ.の記載事項並びに図3から、
図3における図面上、吸気バルブ56から上方の吸気管23へと向かうシリンダヘッド33内の通路(以下、「吸気バルブ56上方通路」という。)を備えるとともに、当該吸気バルブ56上方通路が燃焼室に連なることがわかる。
また、同様に、図3における図面上、排気バルブ57から下方へと向かうシリンダヘッド33内の通路(以下、「排気バルブ57下方通路」という。)を備えるとともに、当該排気バルブ57下方通路が燃焼室に連なることがわかる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)のア.ないしエ.の記載事項及び図1ないし3並びに上記(2)のオ.を総合すると、引用文献1には次の発明が記載されている。
「シリンダライナ44と、シリンダヘッド33と、燃焼室と、この燃焼室に連なる吸気バルブ56上方通路及び吸気管23と、この吸気バルブ56上方通路及び吸気管23の上流側に配置した気化器24と、前記燃焼室と前記吸気バルブ56上方通路及び吸気管23との間に配置して両者の間を開閉する吸気バルブ56とを備える内燃機関30であって、
前記シリンダライナ44が前方略水平に延びた状態で前記内燃機関30をベルト式無段変速機35と組合せてスイングユニット17とし、このスイングユニット17を車体フレームにリンク部材16を介して揺動自在に支持し、
前記シリンダライナ44の上方に前記吸気バルブ56上方通路及び吸気管23を配置し、且つ前記シリンダライナ44の下方に前記燃焼室に連なる排気バルブ57下方通路を配置し、
前記吸気バルブ56上方通路及び吸気管23は、吸気バルブ56上方通路を有し、この吸気バルブ56上方通路から後方に延び、前記内燃機関30の上面と離間して設けられた吸気管23を有するものである
内燃機関30。」(以下、「引用文献1記載の発明」という。)

3-2.引用文献2
(1)原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平6-33842号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。
なお、下線は当審において付した。

ア.「【請求項1】 シリンダブロックとシリンダヘッドとが合体されて構成されるエンジンにおいて、該シリンダブロックと一体に成形されるシリンダブロック側吸気路の入口が該シリンダブロックの側方部に開口されるとともに、該シリンダブロック側吸気路の出口が該シリンダヘッドとの合体面に向けて開口され、また、該シリンダヘッドと一体に成形されるシリンダヘッド側吸気路の入口が該シリンダブロックとの合体面に向けて開口され、該シリンダブロックと該シリンダヘッドとを合体することにより、該シリンダブロック側吸気路と該シリンダヘッド側吸気路とが連通して、エンジンと一体の吸気路が形成されることを特徴とする、吸気路一体型エンジン。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

イ.「【0002】
【従来の技術】図4は従来におけるエンジンの吸気路構成部分を示す部分断面図である。この図4において、1はシリンダブロック、2はシリンダヘッドで、両者を合体結合して、エンジンAの外殻が構成されると同時に燃焼室3が形成されている。シリンダヘッド2には、吸気路Bの一部を形成する吸気路4が一体に設けられており、その燃焼室3への開口部には吸気弁5が設けられるとともに、その一部にはインジェクタ20が設けられている。
【0003】ところで、燃焼室3へ空気を送る吸気路Bは、燃焼室3への充填効率の関係と空気の流通抵抗を少なくするために、ある程度の長さを持たせ湾曲形状とする必要があり、図示したように、例えばU字形などに湾曲させた長い吸気管4aを吸気路4の上流側に接続して構成させている。したがって、この湾曲吸気管4aをエンジンAの外殻に対して安定強固に支持するために、シリンダブロック1およびシリンダヘッド2の外壁部には丈夫な支持杆(スティ)22を数個所に設け、湾曲吸気管4aの数個所を支持して取り付けている。」(段落【0002】及び【0003】)

ウ.「【0006】本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、湾曲吸気管を含む吸気路部分をシリンダブロックおよびシリンダヘッドと一体に成形して、エンジンの外殻部に組み込み式に設けるようにすることにより、吸気路の設置を強固且つ安定にした、吸気路一体型エンジンを提供することを目的とする。」(段落【0006】)

エ.「【0013】
【実施例】以下、図面により、本発明の一実施例について説明すると、図1?図3は本発明による吸気路一体型エンジンを示すもので、図1は本吸気路一体型エンジンの一実施例を示す断面図、図2は他の実施例を示すエンジンの部分断面図、図3は図2を矢印III方向から見たエンジンの部分側視図であり、図1?図3中、図4と同じ符号はほぼ同様の部分を示している。
【0014】さて、図1において、1は鋳造成形により製作されるシリンダブロック、2は同じく鋳造成形により製作されるシリンダヘッドであって、両者を上下より接合合体することにより、エンジンAの外殻が構成されるとともに、この合体によって燃焼室3が形成される。シリンダヘッド2には、燃焼室3に通ずる湾曲したシリンダヘッド側吸気路4がシリンダヘッド2の成形と同時に形成され、その上流側入口はシリンダヘッド2を側方に延長させた延在部2aの下面において、シリンダブロック1の上面と対向するよう下方に向けて開口されている。また、下流側出口は燃焼室3に通じこの出口部に吸気弁5が設けられている。」(段落【0013】及び【0014】)

オ.「【0019】つぎに、図2,図3に示す他の実施例について説明すると、図中、2はシリンダヘッドで、その成形と同時にシリンダヘッド2の延在部2aに形成されるシリンダヘッド側吸気路が、エンジンAのシリンダ数に応じた数からなる数個の湾曲したシリンダヘッド側吸気マニホルド部16として形成されており、その上流側入口はいずれもシリンダブロック1との接合面へ向けて開口されている。
【0020】また、シリンダブロック1には、その成形と同時にシリンダブロック1の延在部1aに形成されるシリンダブロック側吸気路が、エンジンAのシリンダ数に応じた数からなる数個の湾曲したシリンダブロック側吸気マニホルド部17として形成されており、各シリンダブロック側吸気マニホルド部17の下流側出口は各シリンダヘッド側吸気マニホルド部16の上流側入口とそれぞれ対応するようシリンダヘッド2との対向面に向けて開口されている。
【0021】したがって、シリンダブロック1とシリンダヘッド2を合体させると、各シリンダブロック側マニホルド部17と各シリンダヘッド側マニホルド部16は一つに連通されて湾曲した所定長さの吸気マニホルドCが数個形成されることになる。さらに、シリンダブロック1の成形と同時に各シリンダブロック側吸気マニホルド部17の上流側にサージタンク部18を形成し、これを一側方に開口させてスロットルボデー19と接続させている。
【0022】なお、図2,図3中、5は吸気弁、20はインジェクタ、21はデリバリパイプ、14はウォータジャケットを示している。上述の構成により、この実施例では、各シリンダブロック側吸気マニホルド部17をシリンダブロック1と一体化させており、各シリンダヘッド側吸気マニホルド部16のシリンダヘッド2との一体化とともに、各吸気マニホルドCがエンジンA内に組み込まれて形成されるため、吸気マニホルドCの剛性が強化されるは勿論、部品の一体化を計り部品点数を削減できるもので、エンジンルーム内にスペースが確保でき近接部品設置のためのレイアウトの自由度を増大することができる効果がある。」(段落【0019】ないし【0022】)

(2)上記(1)のア.ないしオ.の記載事項及び図1ないし4からわかること。
カ.上記(1)のエ.及びオ.の記載事項並びに図1及び2から、
燃焼室3の周囲にウォータジャケット14を設けたことがわかる。

キ.上記(1)のア.ないしオ.の記載事項及び図1ないし4から、
吸気路は、図2における図面上、下流側から上流側へ向って、吸気弁5の位置からシリンダブロック1とシリンダヘッド2との接合面の延長線まで延びた湾曲したシリンダヘッド側吸気マニホルド部16並びにシリンダブロック側吸気マニホルド部17及びサージタンク部18を有することがわかる。
また、同様に、インジェクタ20は、図2における図面上、湾曲したシリンダヘッド側吸気マニホルド部16の湾曲した底部に配置したものであることがわかる。

(3)引用文献2記載の発明
上記(1)のア.ないしオ.の記載事項及び図1ないし4並びに上記(2)のカ.及びキ.を総合すると、引用文献2には次の発明が記載されている。
「吸気路の上流側に配置したスロットルボデー19を備え、前記スロットルボデー19と吸気弁5との間の吸気マニホルドCにインジェクタ20を配置し、燃焼室3の周囲にウォータジャケット14を設けたエンジンAであって、
前記吸気路は、下流側から上流側へ向って、前記吸気弁5の位置からシリンダブロック1とシリンダヘッド2との接合面の延長線まで延びた湾曲したシリンダヘッド側吸気マニホルド部16を有し、このシリンダヘッド側吸気マニホルド部16から延び、前記スロットルボデー19に接続したシリンダブロック側吸気マニホルド部17及びサージタンク部18を有するものであり、
前記インジェクタ20は、湾曲したシリンダヘッド側吸気マニホルド部16の湾曲した底部に配置したものであり、
前記ウォータジャケット14は、シリンダブロック1のウォータジャケット14である
エンジンA。」(以下、「引用文献2記載の発明」という。)

3-3.対比
本件補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「シリンダライナ44」は、その技術的意義からみて、本件補正発明における「シリンダ」に相当し、以下同様に、「シリンダヘッド33」は「シリンダヘッド」に、「吸気バルブ56上方通路及び吸気管23」は「吸気通路」に、「吸気バルブ56」は「吸気弁」に、「内燃機関30」は「内燃機関」または「エンジン」に、「ベルト式無段変速機35」は「無段変速機」に、「スイングユニット17」は「パワーユニット」に、「リンク部材16」は「リンク」に、「排気バルブ57下流側通路」は「排気通路」に、「吸気バルブ56上方通路」または「吸気管23」は「通路」に、それぞれ相当する。
よって、本件補正発明と引用文献1記載の発明とは、
「シリンダと、シリンダヘッドと、燃焼室と、この燃焼室に連なる吸気通路と、前記燃焼室と前記吸気通路との間に配置して両者の間を開閉する吸気弁とを備える内燃機関であって、
前記シリンダが前方略水平に延びた状態で前記内燃機関を無段変速機と組合せてパワーユニットとし、このパワーユニットを車体フレームにリンクを介して揺動自在に支持し、
前記シリンダの上方に前記吸気通路を配置し、且つ前記シリンダの下方に前記燃焼室に連なる排気通路を配置し、
前記吸気通路は、通路を有し、この通路から後方に延び、前記エンジンの上面と離間して設けられた通路を有するものである
内燃機関。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本件補正発明においては、
そもそも「吸気通路の上流側に配置して吸気通路の断面積を調節する絞り弁を備え、前記絞り弁と吸気弁との間の吸気系に燃料噴射装置を配置し、燃焼室の冷却を行う冷却液通路を少なくともシリンダヘッド内に設けた内燃機関」であって、
「前記吸気通路は、下流側から上流側へ向って、前記吸気弁の位置からシリンダの軸線に略平行に且つ前記燃焼室から遠ざかる方向に延出した後、シリンダの軸線にほぼ直角に外方へ屈曲し、再びシリンダの軸線に略平行に延出することで前記シリンダと前記シリンダヘッドとの接合面の延長線まで延びた略U字形状の通路を有し、この通路から後方に延び、エンジンの上面と離間して設けられた前記絞り弁に接続した通路を有するものであり、
前記燃料噴射装置は、略U字形状の吸気通路の屈曲した底部に配置したものであり、
前記冷却液通路は、前記吸気通路のU字形状の底部の側面、および燃料噴射装置が取り付く周囲を含む該U字形状の底部の外側および下流側端部に渡り設けられ、シリンダブロックのシリンダヘッド側上部において、前記シリンダブロックの冷却液通路に連通されたものである」のに対して、
引用文献1記載の発明においては、
そもそも「吸気バルブ56上方通路及び吸気管23(本件補正発明における「吸気通路」に相当する。以下同様に、引用文献1記載の発明における発明特定事項に対応する括弧内には、本件補正発明における相当する発明特定事項を記載する。)の上流側に配置した気化器24を備えた内燃機関30(内燃機関)」であって、
「前記吸気バルブ56上方通路及び吸気管23(吸気通路)は、吸気バルブ56上方通路(通路)を有し、この吸気バルブ56上方通路(通路)から後方に延び、エンジンの上面と離間して設けられた吸気管23(通路)を有するものである」とともに「吸気バルブ56上方通路(通路)」の形状が、「下流側から上流側へ向って、吸気弁の位置からシリンダの軸線に略平行に且つ燃焼室から遠ざかる方向に延出した後、シリンダの軸線にほぼ直角に外方へ屈曲し、再びシリンダの軸線に略平行に延出することで前記シリンダとシリンダヘッドとの接合面の延長線まで延びた略U字形状」ではなく、さらに、本件補正発明における「絞り弁」及び「燃料噴射装置」並びに「冷却液通路」に相当するものを備えていない点(以下、「相違点」という。)。

3-4.判断
上記相違点について検討する。
本件補正発明と引用文献2記載の発明とを対比すると、引用文献2記載の発明における「吸気路」は、その技術的意義からみて、本件補正発明における「吸気通路」に相当し、以下同様に、「吸気路の上流側に配置したスロットルボデー19」は「吸気通路の上流側に配置して吸気通路の断面積を調節する絞り弁」に、「吸気弁5」は「吸気弁」に、「吸気マニホルドC」は「吸気系」に、「インジェクタ20」は「燃料噴射装置」に、「燃焼室3」は「燃焼室」に、「燃焼室3の周囲にウォータジャケット14を設けた」は「燃焼室の冷却を行う冷却液通路を設けた」に、「エンジンA」は「内燃機関」または「エンジン」に、「下流側から上流側へ向って、吸気弁5の位置からシリンダブロック1とシリンダヘッド2との接合面の延長線まで延びた湾曲したシリンダヘッド側吸気マニホルド部16」は「下流側から上流側へ向って、吸気弁の位置からシリンダの軸線に略平行に且つ燃焼室から遠ざかる方向に延出した後、シリンダの軸線にほぼ直角に外方へ屈曲し、再びシリンダの軸線に略平行に延出することで前記シリンダとシリンダヘッドとの接合面の延長線まで延びた略U字形状の通路」に、「このシリンダヘッド側吸気マニホルド部16から延び、スロットルボデー19に接続したシリンダブロック側吸気マニホルド部17及びサージタンク部18」は「この通路から延び、絞り弁に接続した通路」に、「湾曲したシリンダヘッド側吸気マニホルド部16の湾曲した底部」は「略U字形状の吸気通路の屈曲した底部」に、「シリンダブロック1」は「シリンダブロック」に、それぞれ相当する。
よって、引用文献2記載の発明は、本件補正発明における用語を用いて表現すると、
「吸気通路の上流側に配置して吸気通路の断面積を調節する絞り弁を備え、前記絞り弁と吸気弁との間の吸気系に燃料噴射装置を配置し、燃焼室の冷却を行う冷却液通路を設けた内燃機関であって、
前記吸気通路は、下流側から上流側へ向って、前記吸気弁の位置からシリンダの軸線に略平行に且つ前記燃焼室から遠ざかる方向に延出した後、シリンダの軸線にほぼ直角に外方へ屈曲し、再びシリンダの軸線に略平行に延出することで前記シリンダとシリンダヘッドとの接合面の延長線まで延びた略U字形状の通路を有し、この通路から延び、前記絞り弁に接続した通路を有するものであり、
前記燃料噴射装置は、略U字形状の吸気通路の屈曲した底部に配置したものであり、
前記冷却液通路は、シリンダブロックの冷却液通路である」という技術思想(以下、「引用文献2記載の技術思想」という。)であるといえる。
そして、「吸気通路を冷却するために、冷却液通路を、吸気通路の屈曲した部分の側面、および屈曲した部分の外側及び下流側端部に渡り設け、シリンダブロックのシリンダヘッド側上部において、前記シリンダブロックの冷却液通路に連通すること。」は、本件出願前における周知の技術(以下、「周知技術1」という。必要であれば、原査定の拒絶理由において例示された実願平2-62184号(実開平4-21745号)のマイクロフィルムの明細書第3ページ第6ないし18行及び第4ページ第13ないし17行並びに第1図または特開平7-304339号公報の段落【0008】ないし【0011】並びに図1、2及び5ないし9等参照。)であり、また、「燃料噴射装置を冷却するために、冷却液通路を、燃料噴射装置が取り付く周囲に設けること。」も、本件出願前における周知の技術(以下、「周知技術2」という。必要であれば、特開平4-94450号公報の第3ページ右下欄第16行ないし第4ページ左上欄第4行及び第6図または特開平2-227518号公報の第4ページ右上欄第6行ないし左下欄第5行及び第1図等参照。)である。
そうすると、引用文献1記載の発明において、引用文献2記載の技術思想を採用する際に、引用文献2記載の技術思想における「吸気通路」及び「燃料噴射装置」を冷却するために、「シリンダブロックの冷却液通路」に加えて、「冷却液通路を、吸気通路のU字形状の底部の側面、および燃料噴射装置が取り付く周囲を含む該U字形状の底部の外側および下流側端部に渡り設ける」とともに、「シリンダブロックのシリンダヘッド側上部において、前記シリンダブロックの冷却液通路に連通させること」は、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
また、同様に、引用文献1記載の発明における「気化器24」に換えて、引用文献2記載の技術思想における「絞り弁」及び「燃料噴射装置」を採用する際に、「絞り弁」を、引用文献1記載の発明における「吸気バルブ56上方通路及び吸気管23(吸気通路)の上流側」である「エンジンの上面と離間して設けられた吸気管23(通路)」に接続することも、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
したがって、引用文献1記載の発明において、上記周知技術1及び2を考慮しながら、引用文献2記載の技術思想を採用して、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
また、本件補正発明を全体としてみても、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術思想並びに上記周知技術1及び2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。

3-5.まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術思想並びに上記周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
あるいは、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成20年11月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年1月28日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記第2.[理由]1.(1)【請求項1】に記載したとおりのものである。

2.引用文献1
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、上記第2.[理由]3-1.に記載したとおりの事項及び発明が記載されている。

3.引用文献2
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、上記第2.[理由]3-2.に記載したとおりの事項及び発明が記載されているとともに、上記第2.[理由]3-4.に記載したとおりの技術思想が記載されている。

4.対比・判断
本願発明の発明特定事項をすべて含む本件補正発明が、上記第2.[理由]3-3.及び3-4.で検討したとおり、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術思想並びに上記周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術思想並びに上記周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術思想並びに上記周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-18 
結審通知日 2010-02-24 
審決日 2010-03-09 
出願番号 特願平11-250700
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02F)
P 1 8・ 561- Z (F02F)
P 1 8・ 121- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 敏行八板 直人  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 志水 裕司
中川 隆司
発明の名称 内燃機関  
代理人 下田 容一郎  

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