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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1215959
審判番号 不服2009-7130  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-02 
確定日 2010-05-06 
事件の表示 特願2006-312160「自動変速機の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月 5日出願公開、特開2008-128312〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年11月17日の出願であって、平成21年2月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年4月2日に審判請求がなされるとともに、平成21年4月23日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年4月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年4月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
自動変速機の変速比を第1変速比に固定する変速比固定走行制御手段と、該第1変速比よりも小さい値に設定された第2変速比から低車速側への変速を禁止する特定モード走行制御手段とを有した車両用自動変速機の制御装置において、
前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記変速比固定走行制御を終了して前記特定モード走行制御を実行することを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記変速比固定走行制御手段は、実際の車速が予め設定された微低速目標車速となるように駆動輪の駆動力および制動力を制御するとともに、前記自動変速機の変速比を最大側に設定された変速比に固定する微低速走行制御手段であることを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記特定モード走行制御手段は、スノーモードスイッチの操作に基づいて選択され、前記自動変速機の前記第1変速比よりも小さい変速比とするスノーモード制御手段であることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
運転者によって設定されている走行モードがスノーモードであるか否かを判定するスノーモード判定手段と、
変速比固定走行制御が実行されているか否かを判定する変速比固定走行判定手段とを含み、
前記スノーモード判定手段によりスノーモードと判定されておらず、かつ、変速比固定走行判定手段において変速比固定走行が実行されていると判定された場合に、変速比固定走行制御手段による自動変速機の変速比の前記第1変速比への固定を開始することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記スノーモード判定手段によってスノーモードであると判定された場合には、前記変速比固定走行制御手段による前記自動変速機の変速比の前記第1変速比への固定を終了することを特徴とする請求項4に記載の車両用自動変速機の制御装置
【請求項6】
前記自動変速機は、複数の前進変速段を有する有段式自動変速機であって、
前記スノーモード判定手段によってスノーモードであると判定された場合には、前記スノーモード制御手段によって前記自動変速機の有する前進用複数の変速段のうち最も低車速側の変速段への変速を禁止することを特徴とする請求項4または5に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項7】
前記変速比固定走行制御手段は、前記自動変速機の変速段を、前記自動変速機の有する複数の前進変速段のうち最も低車速側の変速段に固定することを特徴とする請求項6に記載の車両用自動変速機の制御装置。」と補正された。
上記補正は、請求項1についてみると、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記特定モード走行制御を優先して排他的に実行する」という事項を「前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記変速比固定走行制御を終了して前記特定モード走行制御を実行する」という事項に減縮するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平10-103496号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0002】
【従来の技術】車両に採用される自動変速機の変速制御装置では、車速VSPとスロットル開度TVO(またはアクセル開度)等の運転条件に応じて変速段(変速比)を決定する自動変速モードに加えて、従来のマニュアル式変速機と同様に、予め設定された所定の変速比を、運転者の変速操作に応じて選択するマニュアルモードを備えたものがいくつか知られており、例えば、「季刊MOVE 1995 SPRING 01」(平成7年4月28日 三栄書房 発行)の第123頁及び第128頁のように、一つのシフトレバーで自動変速モードとマニュアルモードを選択的に切り換えるものも知られている。」
(い)「【0007】また、雪道などの低μ路において、発進時に駆動輪が空転するのを防止するため、自動変速機で設定可能な最LOW変速比(例えば、1速)よりもHI側の変速比から変速を行う、いわゆる「スノーパターン」を備えた自動変速機も知られており、例えば、「新型車解説書(Y32-1)」(1991年6月 日産自動車株式会社 発行)の第C-25頁のようなものがある。
【0008】これは、変速パターンを切り替える変速パターン切替スイッチを設け、「ノーマルパターン」と「スノーパターン」を選択して、自動変速モードでの変速パターンを変更するもので、例えば、5速の変速段を備えた自動変速機では、ノーマルパターンの自動変速モード(Dレンジ)では予め設定した変速マップに基づいて、第1速?第5速の間で、車速やスロットル開度などの運転条件に応じて変速を行うが、スノーパターンでは、予め設定した自動変速モード(Dsレンジ)の変速マップに基づいて第2速あるいは第3速?第5速との間で変速を行って、2速や3速等の所定のHI側の変速比から発進を行うことで、駆動輪への過大なトルクを抑制して低μ路での空転を抑制しようとするものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の自動変速機では、マニュアルモードでは単一の変速マップによって変速動作を行っていたため、変速パターンをスノーパターンに設定した状態でマニュアルモードへ移行すると、停車中には自動的に第1速へダウンシフトされてしまう。このため、運転者は再発進する度にシフトレバーをUP側へ操作して第2速ないし第3速に設定する必要があり、積雪路等の低μ路でのシフト操作が煩雑になり、また、このアップシフトの操作を行わなかった場合では、スノーパターンを選択していながら最LOW変速比である第1速から発進することになって、低μ路では駆動輪が空転する場合もあり、運転性を低下させる場合があった。
【0010】そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、停車時には自動的にLOW側へダウンシフトを行う自動変速機のマニュアルモードにおいて、スノーパターンを選択した場合には、スノーパターンに設定された最LOW変速比から発進可能な自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。」
(う)「【0028】次に、変速制御コントローラ1で行われる制御の一例を図2のフローチャートに示し、このフローチャートを参照しながら詳述する。なお、このフローチャートは所定時間毎、例えば10msec毎に実行されるものである。
【0029】まず、ステップS1では、セレクタスイッチ2の信号から運転者が選択した変速モードを読み込む。図1において、シフトレバー3が「D」の位置にあれば、自動変速モードとなり、「+」又は「-」側にあれば手動で変速を行うマニュアルモードとなる。
【0030】次に、ステップS2では、変速パターン切替スイッチ8の信号を読み込んで、通常走行用のノーマルパターンと低μ路走行用のスノーパターンのうちの一方の変速パターンを設定する。
【0031】ステップS3では、上記ステップS1で読み込んだ変速モードがマニュアルモードであるか否かを判定し、マニュアルモードであればステップS4へ進んでマニュアルモードの変速マップの選択処理を行う一方、自動変速モードであればステップS7以降の処理へ進む。
【0032】変速モードがマニュアルモードの場合では、ステップS4で、上記ステップ2で読み込んだ変速パターンがスノーパターンであるか否かを判定して、スノーパターンであればステップS5へ進み、図6に示すように、スノーパターンのマニュアルモード(M1s、M2s?M4レンジ)の変速マップを選択する。一方、変速パターンがノーマルパターンの場合には、ステップS6へ進み図5に示すように、ノーマルパターンのマニュアルモード(M1?M4レンジ)の変速マップを選択する。
【0033】上記ステップS3の判定で、変速モードが自動変速モードの場合では、ステップS7で、上記ステップ2で読み込んだ変速パターンがスノーパターンであるか否かを判定して、スノーパターンであればステップS8へ進み、図3に示すように、スノーパターンの自動変速モード(Dsレンジとする)の変速マップを選択する。
【0034】一方、ノーマルパターンの場合には、ステップS9へ進み、図4に示すように、ノーマルパターンのマニュアルモード(以下、Dレンジ)の変速マップを選択する。
【0035】こうして、シフトレバー3の位置に応じた変速モードと、変速パターン切替スイッチ8に応じた変速パターンから、予め設定された変速マップを選択した後、自動変速モードでは上記スロットル開度TVO、車速VSPに応じた変速段に設定する。」
(う)「【0048】なお、上記実施形態において、スノーパターンの最LOW変速比を2速としたが、3速に設定してもよく、また、変速パターンがノーマル、スノーに加えて、パーパターン等多数の変速パターンがある場合、各変速パターンごとにマニュアルモードの変速マップを設定することができる。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「自動変速モードとマニュアルモードを備え、両モードを選択的に切換える手段と、自動変速モードの変速パターンとして通常走行用のノーマル変速パターンと最LOW変速比(例えば、1速)よりもHI側の変速比から変速を行う低μ路走行用のスノー変速パターンを備え、両パターンを選択的に切換える手段とを有する自動変速機の変速制御装置。」
(2-2)引用例2
特開平07-301322号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【0002】
【従来の技術】自動変速機は、各種摩擦要素(クラッチやブレーキ等)の選択的締結により対応変速段を選択し、摩擦要素の締結/解放切り換えにより他の変速段(ギヤ位置)への変速(アップシフト変速、ダウンシフト変速)を行う。そのような変速制御を行う際には、車速、スロットル開度、変速機作動油温等の運転状態に関する各種パラメータに応じた変速パターンの中から当該運転状態に適した変速パターンを選択し、その変速パターンに基づいて変速制御を行うのが一般的である。
【0003】従来例としては、変速機作動油温に依存する常温用変速パターンと高温用パターンとを有する自動変速機がある。この自動変速機は、自動変速機コントローラが変速機作動油温を常時監視し、変速機作動油温が上昇して所定温度を上回ったとき常温用変速パターンから高温用変速パターンに切り換えることにより、高負荷走行が連続する場合の変速機作動油温の異常上昇を防止するようにしている。この場合、常温用変速パターン及び高温用変速パターン間の関係は、いわゆる経済性重視の「エコノミーパターン」及び加速性重視の「パワーパターン」間の関係とほぼ対応しており、車速及び変速機作動油温の同1条件下では高温用変速パターンの方が変速点が高速側へ設定されるようになっている(例えば、特開昭62-74726号公報参照)。」
(き)「【0029】このようにして、ステップ103で判定結果に応じ、変速機作動油温が高温領域であれば、常温用変速パターンから高温用変速パターンに変更する。上記に対し、運転者がスノーモードを希望してモード選択スイッチ15をON操作すれば、前記判別ステップ102の判断において、これに基づき、「SNOW」モードと判断される。そして、このように、SNOWモードを運転者が選択した場合は、変速機作動油温が常温領域か高温領域かにかかわらず、従って変速機作動油温が設定温度Cs以上の高温領域に該当する温度であっても、適用する変速パターンとして、更にその高温用変速パターンに優先してスノーパターンとする。
【0030】即ち、上記のような常温用変速パターンから高温用変速パターンへの変更(「温度の上昇に伴う変速制御の変更」)を禁止し、及びスノーパターンを優先して適用するよう、ステップ102はステップ106側を選択し、図5に例示するようなスノーパターンにより変速制御を実行させる(スノーパターン最優先)。かかるスノーモードでの変速制御も、スロットル開度センサ10よりの読込みスロットル開度THと、車速センサ11よりの読込み車速Vとを基に、運転状態に最適な変速段を、例えば図5に実線及び破線の2-3,3-4変速線で示すスノーパターンに対応したテーブルデータ等からルックアップ方式により求め、最適変速段が選択されるよう、シフトソレノイド6,7をON,OFFさせて所定の変速を行うように変速制御が実行される。従って、雪道等での発進走行に際に、Dレンジ1速発進ではなく、2速発進が行われ、また、2→3,3→4変速についても、その2速発進後も、運転状態に最適な変速段で2速以上のシフトアップ等も自動的に行われることなり、雪道でも発進性能の向上等が図れる。」
(2-3)引用例3
特開平6-74323号公報(以下、「引用例3」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(さ)「【0003】また、例えば特開平2-93157号公報に開示されているように、上記のように変速可能な最高変速段が異なる複数の走行レンジを有する自動変速機において、各レンジにおける走行モードとして、変速段を運転状態に応じて自動的に切り換える通常の自動変速モードと、変速段を自動変速モードでの最高変速段より1段低い変速段に固定するホールドモードとの選択を可能としたものがあり、上記例の場合、ホールドモードでは、変速段はDレンジで3速、Sレンジで2速、Lレンジで1速に固定されることになる。そして、このホールドモードを選択することにより、レンジを切り換えるシフトレバーの操作によって、手動変速機と同様にして変速段を切り換えることが可能となる。」
(3)対比
本願補正発明1と引用例1発明とを比較すると、後者の「最LOW変速比(例えば、1速)よりもHI側の変速比から変速を行う低μ路走行用のスノー変速パターン」は第2速から低車速側への変速を禁止するものであるから、これと前者の「該第1変速比よりも小さい値に設定された第2変速比から低車速側への変速を禁止する特定モード走行制御手段」とは、「所定変速比から低車速側への変速を禁止する特定モード走行制御手段」である限りにおいて一致する。したがって、本願補正発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「所定変速比から低車速側への変速を禁止する特定モード走行制御手段を有した車両用自動変速機の制御装置」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明1は、「自動変速機の変速比を第1変速比に固定する変速比固定走行制御手段」を有するのに対して、引用例1発明は、そのような手段を有するかどうか、不明確である点。
[相違点2]
本願補正発明1は、「所定変速比」が「該第1変速比よりも小さい値に設定された第2変速比」であって、「前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記変速比固定走行制御を終了して前記特定モード走行制御を実行する」ものであるのに対して、引用例1発明は、「所定変速比」が「第2速」であるにすぎない点。
(4)判断
[相違点1]について
上記に摘記したように、引用例1には、マニュアルモードで第1速に設定し得ることが示されているとともに、ノーマル、スノー等の多数の変速パターンを設ける場合があることが想定ないし示唆されている。このように複数の変速パターンないしモードを備えるもの、及び、変速パターンないしモードとして変速比を第1速に固定するものは引用例3(特に上記摘記事項)に示されているとともに、他に例えば、特開昭62-13848号公報(特に第1ページ右下欄第2?16行、第2ページ左上欄第7?13行)、特開平8-210487号公報(特に【請求項1】、【0002】)、特開2002-303366号公報(特に【0003】、【0017】、【0029】)、特開2005-113966号公報(特に【請求項1】、【請求項5】)に示されているように周知である。引用例1発明においても、変速比を第1速に固定する変速パターンないしモードを設けることが、変速制御の多様化・精緻化等の点から好適であることは明らかであり、そのようにすることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
[相違点2]について
引用例1発明に変速比を第1速に固定する変速パターンないしモードを付加することは当業者が容易に想到し得たものであることは、上記のとおりである。
そのようにしてスノー変速パターンと、変速比を第1速に固定する変速パターンないしモードとを設けた場合、両者の切換・選択時に相互干渉・影響が生じると車両の挙動や変速機の動作等に不都合が起こり得ることは、例えば引用例1(特に、上記に摘記した段落【0009】)にも示されているように当業者に明らかであり、それを回避するためにどのような調整を行うかは適宜の設計的事項にすぎない。そして、上記に摘記したように、引用例2には、スノーモードが選択されたときは他の変速パターンよりスノーパターンを優先することが示されており、引用例1発明において、第1速に固定する変速パターンないしモードの実行中にスノー変速パターンが選択された場合に、変速比を第1速に固定する変速パターンないしモードを終了してスノー変速パターンに切換えるようにする程度のことは、適宜の設計の一例として当業者が容易になし得たものと認められる。
そして、本願補正発明1の作用効果も、引用例1?3に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が予測し得た範囲のものである。
したがって、本願補正発明1は、引用例1?3に記載された発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求の理由において概ね、「しかしながら、上記刊行物1には、(i)変速比固定走行制御手段が開示されていない点、および(ii)前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記変速比固定走行制御を終了して前記特定モード走行制御を実行することが開示されていない点において大きく相違する。すなわち、上記刊行物1には、本願発明の特徴である、自動変速機の変速比を第1変速比に固定する変速比固定走行制御手段の実行中に該第1変速比よりも小さい値に設定された第2変速比から低車速側への変速を禁止する特定モード走行制御が選択された場合が想定されておらず、したがって、前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記変速比固定走行制御を終了して前記特定モード走行制御を実行する技術は一切開示されておらず、示唆もされていない。」、「このように、刊行物1に係る発明と、補正後の本願請求項1に係る発明とは、課題が異なり、かつ、前提が異なるので、刊行物1に記載の発明の「マニュアルモード」に代えて自動変速機の変速比を固定するようにすることは、適宜設計的になし得ることであるとはいえない。」、「しかしながら、前記刊行物1に記載された思想を、本願の変速比固定走行制御の実行中に特定モード走行制御が選択された場合に適用すると、「発進時は特定モード走行制御を優先し、その後は変速比固定走行制御を継続すること」となり、本願に想到できない。さらに、発進時は特定モード走行制御を優先し、その後は変速比固定制御を継続する場合においては、特定モード走行制御が終了する場合において変速比固定走行制御が実行され、具体的には例えば2速発進を行なった後に1速に戻ってしまうため、ドライバーに意図しない減速感を与えてしまう。」と主張し、
また、平成21年11月16日回答書において概ね、「しかし、審判請求人による上記の主張は、スノーパターンの選択中における2速発進後に1速に戻るということを意味しておらず、スノーパターンからノーマルパターンへ切換られたスノーパターン終了(特定モード走行制御の終了)時に2速発進を行った後に1速に戻ってしまうことを、意味しています。すなわち、前置審査官殿により御指摘の上記審判請求書の記載部分につきましては、「スノーパターンが選択されると、発進時は特定モード走行制御(自動変速では図4、マニアルでは図6に示すスノーモード2速発進)が優先されるが、その後は変速比固定制御を継続する場合において、特定モード走行制御(スノーパターンの選択)が終了すると、自動変速では図3、マニアル変速では図5に示す1速領域で変速比固定制御が実行され、具体的には例えば2速発進を行った後に(スノーパターンの選択が終了で)1速に戻ってしまうため、ドライバーに意図しない減速感を与えてしまう。」という点を示しており、その点は刊行物1に記載されております(段落0027等)。」と主張している。
確かに、「前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記変速比固定走行制御を終了して前記特定モード走行制御を実行すること」が、請求人が主張するような特定の意味内容で引用例1に明記されているとは必ずしもいえないことはそのとおりである。しかし、変速パターンないしモードとして変速比を第1速に固定するものがあることは引用例3(特に上記摘記事項)に示されているとともに周知であり、上記の引用例1発明にこのような変速パターンないしモードを設けることは当業者が容易に想到し得たものと認められること、第1速に固定する変速パターンないしモードに実行中にスノー変速パターンが選択された場合、変速比を第1速に固定する変速パターンないしモードを終了してスノー変速パターンに切換えるようにすることは当業者が容易になし得たものと認められることは、上記のとおりである。
また、上記回答書において補正案が提示されているので、これについての検討結果を以下に付記する。すなわち、第1速で走行し得ることは、例えば、特開昭62-13848号公報(特に第2ページ左上欄第7?13行)、特開昭62-49060号公報(特に第2ページ左上欄第1、2行)に記載ないし示唆されており、「第1変速比に固定し、予め設定された微低速で連続走行するように車速を制御する」という事項を減縮することによって上記の容易想到性の結論が左右されるものではない。

(5)むすび
本願補正発明1について以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定違反するものであり、本件補正における他の補正事項を検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明
平成21年4月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
自動変速機の変速比を第1変速比に固定する変速比固定走行制御手段と、該第1変速比よりも小さい値に設定された第2変速比から低車速側への変速を禁止する特定モード走行制御手段とを有した車両用自動変速機の制御装置において、
前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記特定モード走行制御を優先して排他的に実行することを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記変速比固定走行制御手段は、実際の車速が予め設定された微低速目標車速となるように駆動輪の駆動力および制動力を制御するとともに、前記自動変速機の変速比を最大側に設定された変速比に固定する微低速走行制御手段であることを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記特定モード走行制御手段は、スノーモードスイッチの操作に基づいて選択され、前記自動変速機の前記第1変速比よりも小さい変速比とするスノーモード制御手段であることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
運転者によって設定されている走行モードがスノーモードであるか否かを判定するスノーモード判定手段と、
変速比固定走行制御が実行されているか否かを判定する変速比固定走行判定手段とを含み、
前記スノーモード判定手段によりスノーモードと判定されておらず、かつ、変速比固定走行判定手段において変速比固定走行が実行されていると判定された場合に、変速比固定走行制御手段による自動変速機の変速比の前記第1変速比への固定を開始することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記スノーモード判定手段によってスノーモードであると判定された場合には、前記変速比固定走行制御手段による前記自動変速機の変速比の前記第1変速比への固定を終了することを特徴とする請求項4に記載の車両用自動変速機の制御装置
【請求項6】
前記自動変速機は、複数の前進変速段を有する有段式自動変速機であって、
前記スノーモード判定手段によってスノーモードであると判定された場合には、前記スノーモード制御手段によって前記自動変速機の有する前進用複数の変速段のうち最も低車速側の変速段への変速を禁止することを特徴とする請求項4または5に記載の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項7】
前記変速比固定走行制御手段は、前記自動変速機の変速段を、前記自動変速機の有する複数の前進変速段のうち最も低車速側の変速段に固定することを特徴とする請求項6に記載の車両用自動変速機の制御装置。」

3-1.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1?3、及びその記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明1は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明1の「前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記変速比固定走行制御を終了して前記特定モード走行制御を実行する」という事項を「前記変速比固定走行制御の実行中に前記特定モード走行制御が選択された場合には、前記特定モード走行制御を優先して排他的に実行する」という事項に拡張するものに相当する。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、上記2.に記載したとおり、引用例1?3に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、実質的に同様の理由により、引用例1?3に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明1は引用例1?3に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結論
以上のとおり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明2?7について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-08 
結審通知日 2010-03-09 
審決日 2010-03-23 
出願番号 特願2006-312160(P2006-312160)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16H)
P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 宏和  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 川本 真裕
大山 健
発明の名称 自動変速機の制御装置  
代理人 池田 治幸  

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