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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1216042
審判番号 不服2007-5350  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-20 
確定日 2010-05-06 
事件の表示 特願2003-84495「コンクリート用混和材及びコンクリート組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月21日出願公開,特開2004-292201〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年3月26日の出願であって,平成18年6月9日付けで拒絶理由の通知がなされ(発送日は同年同月13日),同年8月2日付けで意見書と手続補正書の提出がなされ,平成19年1月17日付けで拒絶査定がなされ(発送日は同年同月23日),これに対し,同年2月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正書の提出がなされ,平成21年6月1日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され(発送日は同年同月2日),同年同月25日付けで回答書の提出がなされたものである。

第2 平成19年2月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年2月20日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正は,平成18年8月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲,すなわち,
「【請求項1】 γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質であって,ブレーン比表面積が2,000cm^(2)/g未満であることを特徴とする,細骨材に置換してコンクリート中の単位量で100?1,000kg/m^(3)使用するコンクリート用混和材。
【請求項2】 フッ素の含有量が2%以下であり,かつ12CaO・7Al_(2)O_(3)及び/又は11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)の含有量が25%以下であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート用混和材。
【請求項3】 非水硬性化合物を含有する物質が製鋼スラグであることを特徴とする請求項1?2のうちの1項に記載のコンクリート用混和材。
【請求項4】 γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートの含有量の合計が65%以上である請求項1?3のうちの1項に記載のコンクリート用混和材。
【請求項5】 γ-2CaO・SiO_(2)の含有量が35%以上である請求項1?4のうちの1項に記載のコンクリート用混和材。
【請求項6】 セメントと,水と,細骨材と,粗骨材と,請求項1?5のうちの1項に記載のコンクリート用混和材を含有してなるコンクリート組成物。
【請求項7】 粗骨材が天然骨材,高炉徐冷スラグ骨材,再生骨材から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項6記載のコンクリート組成物。」(これらの請求項1?7を,以下,それぞれ「旧請求項1」?「旧請求項7」という。)

「【請求項1】 γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質であって,ブレーン比表面積が2,000cm^(2)/g未満であり,フッ素の含有量が1.5%以下であり,かつ12CaO・7Al_(2)O_(3)及び/又は11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)の含有量が25%以下であることを特徴とする,細骨材に置換してコンクリート中の単位量で200?1,000kg/m^(3)使用するコンクリート用混和材。
【請求項2】 非水硬性化合物を含有する物質が製鋼スラグであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート用混和材。
【請求項3】 γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートの含有量の合計が65%以上である請求項1?2のうちの1項に記載のコンクリート用混和材。
【請求項4】 γ-2CaO・SiO_(2)の含有量が35%以上である請求項1?3のうちの1項に記載のコンクリート用混和材。
【請求項5】 セメントと,水と,細骨材と,粗骨材と,請求項1?4のうちの1項に記載のコンクリート用混和材を含有してなるコンクリート組成物。
【請求項6】 粗骨材が天然骨材,高炉徐冷スラグ骨材,再生骨材から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項5記載のコンクリート組成物。」と補正することを含むものである。

2.この補正は,旧請求項1を削除するとともに,旧請求項1を引用する旧請求項2の「100?1,000kg/m^(3)」を,「200?1,000kg/m^(3)」と変更するものである。
そして,前記の補正事項は,それぞれ平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する「請求項の削除」及び同条同項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

3.特許法第29条第2項違反について
(1)引用例
本願出願前に頒布された刊行物である国際公開03/16234号公報(原査定における拒絶の理由に引用された引用文献3,以下,「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。
(ア)「1.γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有することを特徴とするセメント混和材。
2.フッ素の含有量が2.0%以下であり,かつ12CaO・7Al_(2)O_(3)及び/又は11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)の含有量が25%以下である請求項1記載のセメント混和材。」(21頁 請求の範囲)
(イ)「本発明者は,・・・γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケート等の特定の非水硬性化合物,並びに,これら特定の非水硬性化合物を含有する物質が,・・・中性化抑制効果を有することを知見した。
これらの特定の非水硬性化合物を含有してなるセメント混和材は,・・・硬化体のヒビ割れ発生を抑制することができる。」(4頁下から4行?5頁7行)
(ウ)「本混和材の総フッ素含有量は,その存在形態にかかわらず2.0%以下が好ましく,1.5%以下がより好ましい。」(9頁下から10?9行)
(エ)「本混和材のブレーン比表面積は特に限定されるものではないが,2,000cm^(2)/g以上が好ましく・・・。ブレーン比表面積が2,000cm^(2)/g未満では,材料分離抵抗性が得られなかったり,中性化の抑制効果が充分でない場合がある。」(10頁8?12行)
(オ)「本混和材の使用量は特に限定されるものではないが,通常,セメントと本混和材の合計100部中5?50部が好ましく・・・。」(10頁15?16行)
(カ)「本発明では,セメント,本混和材,砂や砂利などの骨材の他に,・・・通常のセメント材料に用いられる公知公用の添加剤,混和材,及び骨材を1種又は2種以上,本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。」(11頁12?19行)

(2)対比・判断
引用例3には,記載事項(ア)によれば,「γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有し,フッ素の含有量が2.0%以下であり,かつ12CaO・7Al_(2)O_(3)及び/又は11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)の含有量が25%以下であるセメント混和材。」が記載されているといえる。
ここで,前記「フッ素の含有量」は,記載事項(ウ)に「1.5%以下がより好ましい」と記載されている。
また,前記「セメント混和材」は,記載事項(エ)に「ブレーン比表面積は特に限定されるものではない」と記載され,記載事項(オ)に「使用量は特に限定されるものではない」と記載されている。
さらに,前記「セメント混和材」は,記載事項(カ)に「セメント」と「砂や砂利などの骨材」と使用することが記載されているといえる。

これらの記載事項を本願補正発明の記載に則って整理すると,引用例3には「γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有し,ブレーン比表面積は特に限定されるものではなく,フッ素の含有量が1.5%以下であり,かつ12CaO・7Al_(2)O_(3)及び/又は11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)の含有量が25%以下である,使用量は特に限定されない,セメントと砂や砂利などの骨材と使用するセメント混和材。」(以下,「引用例3発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで,本願補正発明と引用例3発明とを対比すると,後者の「γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有」する「セメント混和材」は,前者の「γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質」であることが明らかであり,後者の「セメントと砂や砂利などの骨材と使用するセメント混和材」は,セメントと砂や砂利などの骨材がコンクリートをなすことは自明であるから,前者の「コンクリート用混和材」に相当するといえる。
そうすると,両者は「γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質であって,フッ素の含有量が1.5%以下であり,かつ12CaO・7Al_(2)O_(3)及び/又は11CaO・7Al_(2)O_(3)・CaF_(2)の含有量が25%以下である,コンクリート用混和材。」である点で一致し,以下の点で相違している。

相違点a:コンクリート用混和材のブレーン比表面積につき,本願補正発明は「2,000cm^(2)/g未満」と特定がなされているのに対し,引用例3発明は「特に限定されるものではな」いとする点
相違点b:コンクリート用混和材の使用につき,本願補正発明は「細骨材に置換して」と特定がなされているのに対し,引用例3発明はそのような特定がない点
相違点c:コンクリート用混和材の使用量につき,本願補正発明は「コンクリート中の単位量で200?1,000kg/m^(3)」と特定がなされているのに対し,引用例3発明は「特に限定されない」とする点

これら相違点について,以下に検討する。

(相違点aについて)
引用例3の記載事項(エ)における「本混和材のブレーン比表面積は特に限定されるものではないが,2,000cm^(2)/g以上が好ましく」との記載は,ブレーン比表面積の範囲を特に限定しないことを前提としつつ,2,000cm^(2)/g以上を好ましい範囲として例示するものであって,前記前提となる「特に限定されるものではない」範囲には,2,000cm^(2)/g未満も含むと理解するのが通常である。そうすると,引用例3発明の「特に限定されるものではなく」とは,2000cm^(2)/g未満の範囲も包含するものということができ,本願補正発明の「2,000cm^(2)/g未満」と重複するものといえる。
以上のことから,本願補正発明と引用例3発明との相違点aに係る特定は,表現上の違いがあるとしても,実質的な相違を形成するものとはいえない。
そして,たとえ,この点で相違があるとしても,引用例3の記載事項(エ)の「ブレーン比表面積は・・・2,000cm^(2)/g以上が好ましく・・・2,000cm^(2)/g未満では,材料分離抵抗性が得られなかったり,中性化の抑制効果が充分でない場合がある。」との記載に接した当業者であれば,ブレーン比表面積として2,000cm^(2)/gに極めて近い2,000cm^(2)/g未満の範囲において,材料分離抵抗性や中性化の抑制効果がほとんど阻害されない範囲を実験的に求めるということができる。そうすると,前記相違点aに係る本願補正発明の特定は,当業者であれば実験的に決定しうることにすぎないものである。
そして,本願補正発明の中性化抑制効果についても,当業者が予測しうる範囲内のものであって,本願明細書の段落【0074】の【表4】に,コンクリート用混和材のブレーン比表面積が本願補正発明において特定する数値範囲外の2,000cm^(2)/gである実験No.4-1において,中性化抑制効果が優れていることが示されていることからも,格別顕著なものとはいえない。

(相違点bについて)
相違点bに係る本願補正発明の「細骨材に置換して」との特定に関し,その技術的意味をみると,本願明細書には「本混和材のブレーン比表面積は2,000cm^(2)/g未満のものを用いる。・・・。このような,粉粒状のものを用いることによって,細骨材の一部としてコンクリートに多量に配合することができる。」(段落【0054】)と記載されるのみである。そして,当該記載によれば,ブレーン比表面積が2,000cm^(2)/g未満のものは,粉粒状として捉えられ,細骨材の一部とみることができるといえる。
そうすると,相違点aについて述べたとおり,2,000cm^(2)/g未満のブレーン比表面積を含むと解される引用例3発明のセメント混和材は,細骨材に置換して用いられるものとみることができ,前記相違点bに係る本願補正発明の特定は,引用例3発明と表現上の差異を超える実質的な相違を形成するということはできない。そして,仮に,引用例3発明のセメント混和材が2,000cm^(2)/g未満のブレーン比表面積を含まないと解されるとしても,相違点aについて述べたとおり,当該ブレーン比表面積は当業者が実験的に決定しうるものにすぎないから,セメント混和材を細骨材に置換して用いることも設計的事項である。そして,その効果についても,相違点aについて述べたと同様,格別顕著なものとはいえない。

(相違点cについて)
引用例3の記載事項(オ)の「本混和材の使用量は特に限定されるものではないが,通常,セメントと本混和材の合計100部中5?50部が好ましく」との記載から,引用例3には,セメント混和材をセメントとの合計100部中50部用いることが記載されているといえる。そして,コンクリート分野における技術常識として,単位セメント量は通常400kg/m^(3)程度以下(要すれば,社団法人日本コンクリート工学協会編,「コンクリート便覧(第二版)」,技報堂出版株式会社,1996年7月10日,2版2刷発行,158頁,(8)単位セメント量の項参照。),すなわち,単位セメント量の最大値が400kg/m^(3)程度であることを踏まえると,前記セメント混和材はコンクリート中に最大200kg/m^(3)(400kg/m^(3)×50部/100部)程度用いることができるといえる。
そうすると,本願補正発明で特定されるコンクリート用混和材の使用量の数値範囲は,引用例3の記載及び技術常識から導き出される通常の最大使用量である200kg/m^(3)を含むものであって,格別なものではない。
そして,前記相違点cに係る特定により,本願補正発明が引用例3発明から想到しえない格別顕著な効果を奏するものとも認められない。

さらに,前記相違点a乃至cに関して,本願明細書で主張する発明の効果であるひび割れの自己治癒能力について検討する。
本願明細書の段落【0074】の【表4】には,コンクリート用混和材のブレーン比表面積が,本願補正発明において特定する数値範囲外の2,000cm^(2)/gであっても自己治癒能力があることが示されている。他方,同段落【0072】の【表3】には,コンクリート用混和材のブレーン比表面積及び使用量が,本願補正発明において特定する数値範囲に含まれる実験No.3-4において,自己治癒能力が劣ることが示されている。
そうすると,ひび割れの自己治癒能力は,本願補正発明において特定するブレーン比表面積及び使用量の数値範囲のすべての部分で優れるものとはいえず,本願補正発明が有する格別顕著な効果であると結論づけることはできない。
そして,たとえ,前記ひび割れの自己治癒能力の効果を勘案するとしても,引用例3の記載事項(イ)における「γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケート等の特定の非水硬性化合物・・・を含有してなるセメント混和材は,・・・硬化体のヒビ割れ発生を抑制することができる。」との記載から,引用例3発明のセメント混和材がひび割れに有効に作用するであろうことは,当業者が予測しうるものである。
したがって,本願補正発明は,本願出願前に頒布された刊行物である引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,平成19年2月20日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
平成19年2月20日付けの手続補正が前記のとおり却下されたので,本願の請求項1?7に係る発明は,平成18年8月2日付けで提出された手続補正書により補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。

「【請求項1】 γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質であって,ブレーン比表面積が2,000cm^(2)/g未満であることを特徴とする,細骨材に置換してコンクリート中の単位量で100?1,000kg/m^(3)使用するコンクリート用混和材。」

第4 引用例の記載事項
本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-47052号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2,以下,「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 セメント,水,粗骨材,細骨材及び混和材料からなり,上記粗骨材及び細骨材として製鋼スラグを用いることを特徴とするコンクリート。
【請求項2】 上記粗骨材及び細骨材として製鋼スラグの一種である酸化スラグを用いることを特徴とする請求項1記載のコンクリート。
【請求項3】 上記混和材料として製鋼スラグの一種である粉末状の還元スラグを用いることを特徴とする請求項2記載のコンクリート。」(特許請求の範囲 請求項1?3)
(イ)「本発明の実施の形態例のコンクリートは,表1の如く,セメント(C),水(W),製鋼スラグの一種である酸化スラグからなる粗骨材(G),製鋼スラグの一種である酸化スラグからなる細骨材(S)及び混和材料として,還元スラグ(Ss),フライアッシュ(FA),AE剤(AE)及びAE減水剤(AD)により構成されている。」(段落【0007】)として,【表1】には,「単位量(kg/m^(3))」として,「セメント(C) 230」,「水(W) 190」,「粗骨材(G) 1050」,「細骨材(S) 550」,「還元スラグ(Ss) 150」,「フライアッシュ(FA) 200」,「AE剤(AE) 30A」,「AE減水剤(AD) 2.30」が記載されている。(段落【0008】)
(ウ)「又,上記還元スラグ(Ss)は,・・・粉末度1,340cm^(2)/gとなっており・・・。」(段落【0013】)

第5 対比・判断
引用例2には,記載事項(ア)によれば,「コンクリート」の「混和材料として製鋼スラグの一種である粉末状の還元スラグを用いる」ことが記載されているといえる。
ここで,前記「還元スラグ」は,記載事項(イ)に「コンクリート」の「単位量(kg/m^(3))」として「150」用いることが記載され,記載事項(ウ)に「粉末度1,340cm^(2)/g」と記載されている。

これらの記載事項を本願発明の記載に則って整理すると,引用例2には「製鋼スラグの一種である粉末状の還元スラグであって,粉末度1,340cm^(2)/gであり,コンクリート中に単位量として150kg/m^(3)用いられる,コンクリートの混和材料。」(以下,「引用例2発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで,本願発明と引用例2発明とを対比すると,引用例2発明の「コンクリートの混和材料」は,本願発明の「コンクリート用混和材」に相当する。
そして,引用例2発明の「粉末度1,340cm^(2)/g」は,セメント・コンクリートの技術分野において粉末度はブレーン比表面積で表わされることが自明であるから(要すれば,前記「コンクリート便覧(第二版)」,43-44頁,(2)粉末度(fineness)の項参照),本願発明の「ブレーン比表面積が2,000cm^(2)/g未満」と,ブレーン比表面積が1,340cm^(2)/gである点で一致する。
また,引用例2発明の「コンクリート中に単位量として150kg/m^(3)用いられる」は,本願発明の「コンクリート中の単位量で100?1,000kg/m^(3)使用する」と,コンクリート中の単位量で150kg/m^(3)使用する点で一致することが明らかである。
以上の点を踏まえると,両者は「ブレーン比表面積で1,340cm^(2)/gであり,コンクリート中の単位量で150kg/m^(3)使用するコンクリート用混和材。」である点で一致し,以下の点で一応相違している。

相違点d:本願発明のコンクリート用混和材は,「γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質」であると特定がなされているのに対し,引用例2発明のコンクリート用混和材料は,「製鋼スラグの一種である粉末状の還元スラグ」であると特定する点
相違点e:コンクリート用混和材の使用につき,本願発明は「細骨材に置換して」と特定がなされているのに対し,引用例2発明はそのような特定がない点

これら相違点について,以下に検討する。

(相違点dについて)
製鋼スラグの一種である還元スラグが,γ-2CaO・SiO_(2)を含有すること,そして,前記γ-2CaO・SiO_(2)が非水硬性化合物であることは自明である(要すれば,引用例3の明細書2頁下から3行,特開昭51-147420号公報の2頁左下欄第2表「電気炉スラグ還元期」の欄参照)。
そうすると,引用例2発明の「製鋼スラグの一種である粉末状の還元スラグ」は,本願発明の「γ-2CaO・SiO_(2),α-CaO・SiO_(2),及びカルシウムマグネシウムシリケートからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の非水硬性化合物を含有する物質」と,γ-2CaO・SiO_(2)の非水硬性化合物を含有する物質である点で一致し,前記相違点dに係る本願発明の特定は,引用例2発明と実質的な相違点を形成するものであるということはできない。
そして,たとえ,この点で相違があるとしても,引用例2発明の還元スラグとして,本願出願前周知のγ-2CaO・SiO_(2)を含有する還元スラグ(引用例3,特開昭51-147420号公報)を用いることは,当業者であれば容易になし得ることであるといえ,それによる効果も前記「第2 3.(2)」の「相違点aについて」において述べたと同様,当業者が予測しうる範囲のものである。

(相違点eについて)
前記「第2 3.(2)」の「相違点bについて」において述べたと同様,粉末度が1,340cm^(2)/gである引用例2発明のコンクリートの混和材料は,細骨材に置換して用いられるものとみることができ,前記相違点eに係る本願発明の特定が,引用例2発明と,表現上の差異を超える実質的な相違を形成するということはできない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例2に記載された発明であるか,引用例2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,または,同条第2項の規定により,特許を受けることができない。
そして,本願は,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-05 
結審通知日 2010-02-09 
審決日 2010-03-24 
出願番号 特願2003-84495(P2003-84495)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 113- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 敏志末松 佳記  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小川 慶子
五十棲 毅
発明の名称 コンクリート用混和材及びコンクリート組成物  

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